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――暗い。

私は右も左も分からず、上も下すら分からないような完全な闇の中にいる。
何も無い一点の光もない暗闇の中をあてもなく私は、冷たさと心細さに震えながらも出口を探していた。

と、前方に何か人影が見えた。
すらりと伸びた手足、腰まで届く長い黒髪。見間違えるハズがない、澪先輩だ。

「澪先輩、先輩っ!」

どうしてこんな所に、いやこんな暗闇に澪先輩一人いたらガクガクと震えてきっと怖がっているんじゃないか、という思いもよぎったけど何より自分一人だけこんな所にいたくなかった。
だから必死に先輩の元に駆け寄ろうとした。

しかし、いくら走っても走っても先輩との距離は一向に縮まらない。逆に少しずつ、その後ろ姿は遠くなっていく。

「どうして、きゃっ!?」

足がもつれ、勢いよく転んだ。
転んだというのに痛みらしい痛みが無いのが逆に不気味で怖くなる。

顔を挙げると先輩の姿は既にどこにも無く、自分だけが出口の無い暗闇の中に囚われている・・・。

「いやあぁぁぁぁっ・・・・・!!」




「う・・・あれ・・・」

気が付くとそこは暗闇でもなんでもない、いつもの軽音部の部室だった。

(どうして・・・あ)

授業が随分と早く終わって、部室にすぐ来たらまだ当然誰もいなかったのでソファに座ってたら日頃の疲れでも出たのかそのまま眠ってしまって・・・。

(なんて、嫌な夢を見たんだろう――)

先程まで見ていた夢の内容を思い出すとそれだけで体が震えてくる。

とその時、

「あ、もう来てたんだな梓」

部室のドアが開き、澪先輩が入ってきていた。

「澪せん、ぱい」
「他のみんな、教室の掃除で少し遅れてくるから折角だしそれまで二人で練習でも・・・って、梓?」

無意識に涙が出ていた。理由なんて分からない。
いや、今だけ理由なんて何もなかったのかもしれない。

「澪先輩、澪先輩っ!!」
「どっ、どうしたんだ梓!?急に泣き出し・・・!?」

私は泣きながら先輩の体に抱きついていた。
あの夢の中の暗闇の冷たさ、一人だけ取り残されていた心細さを振り払いたいがために。

無論、何も知らない先輩は最初は戸惑っていたが、少ししてから私の頭を優しく撫でながら抱きしめてくれた。

「よしよし、大丈夫・・・」
「う・・・うぅっ・・・」
「大丈夫・・・大丈夫だ・・・」

優しさが、暖かい。
夢の中の暗闇の冷たさと心細さを思い出すと先輩の優しさが何よりも暖かい。
その暖かさが私を何よりも安心させ、しばらくの間とめどなく涙が流れた。




「・・・落ち着いた、梓?」
「は、はい・・・いきなり泣きながら抱きついたりしてすいませんでした」
「ううん、いいよ」

どれだけ泣いたのか、まぶたが熱い上に重い。けどようやく落ち着く事が出来てきた。

「それで、何があったんだ?」
「・・・嫌な夢を見たんです」
「嫌な、夢?」

私はさっきまで見ていた夢の事を澪先輩に話した。
上下左右も分からない暗闇の中にいた事、その中で先輩の姿を見かけ必死に追いかけたが追い付けず、最後は一人だけで闇の中に取り残された事。

「・・・うう、聞いてるだけで体が震えてくるな」
「す、すいません」
「あ、いや・・・とにかく本当に嫌な夢を見てたんだな。でも」

私を優しく抱きしめてくれている先輩の腕に力がこもる。

「そんな一人で取り残されるような事なんて、現実には絶対に起こらないよ。だからもう気にするな」
「どうして、絶対にないなんて言い切れるんですか・・・?」

すると先輩は少しの間言葉に詰まった後、何か意を決したかのように口を開いた。

「決まってる。私は、梓の事が好きだから。梓の傍にずっと居たいって思ってるから」
「・・・!!」

先輩の突然の告白に言葉が出なかった。

「だから助けるよ。そりゃ怖い事はこれ以上なく苦手だし、嫌だ。
けどその中で梓が一人で助けを求めているのに助けられない方が、守れない方がずっと辛いから」

私は言葉が出ない代わりに、また涙が溢れてきて頬をつたっていく。

「ご、ごめん!やっぱり私なんかじゃ・・・」
「違いますよ・・・先輩」

また涙が流れているとはいえ、さっきまでの涙とは違う。
今流れている涙の元は怖さや心細さからではなく、心からの嬉しさと喜びからだったから。

「それに私も、先輩と同じ想いをずっと抱いてましたから」
「え・・・それって」

私もまた自分の想いが伝わるように、先輩を抱きしめる腕に力を込めつつ想いを口にする。

「先輩・・・私も澪先輩の事、大好きです」
「梓・・・」
「だから私も、先輩が一人で困っていたら絶対に助けますからね」
「・・・うん、わかった。頼りにしてる」

それからどちらからともなく、私と澪先輩はそっとキスをした。

涙のせいで先輩とのキスは少し、しょっぱい味もしたけれど。
何よりも、ありったけの優しさと心からの愛情を感じられた――

(FIN)




(おまけ)

{部室の外}

掃除を終え、途中からこっそりと覗いていた三人。魂が抜けたかのような二人の姿と、テンションが大きく上がっている一人の姿があった。

「(ああ・・・あずにゃん・・・)」
「(そんな・・・澪ぉ・・・)」
「(二人とも、想いが潰えてしまったのね。ああでも澪ちゃんと梓ちゃん、やっぱり本当にいいわぁ・・・REC」

{部室内}

「あの今日、澪先輩の家に泊まってもいいですか?」
「え?」
「今日はずっと離れたくないんです・・・だから」
「私は、今日だけでなくずっと一緒にいたいって思ってるけど?」
「もうっ、先輩ったら」
「ふふふっ」
「えへへっ」

(ホントにFIN)