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「おはよう、梓」

眩しいくらいの陽射しと、澪先輩の声と、コーヒーの香り。
それに加えてわずかに知らない匂い。いや、昨日までは知らなった匂い。
ええと、なんだっけ、この匂いは。

「……おはようございます、先輩」

寝ぼけまなこをこすりながら挨拶を返す。あれ、どこだっけ、ここ。

「梓は意外にお寝坊さんなんだな。ひょっとして低血圧?」
「……それは……昨日、あんな夜遅くまで付き合わされたからじゃないですか」

しれっと笑顔で話しかけてくる澪先輩に、思わず口答えしてしまった。
少し遅れて、昨夜のいろんな記憶がよみがえってくる。

先輩の柔らかな感触とか。先輩の大きさとか。先輩の汗とか。先輩の……声とか。

それと……昨日初めて知った、匂い。

「コーヒーは飲める? やっぱミルクと砂糖は入れた方がいいかな」
「……それじゃ、ミルクだけ」
「かしこまりました、お嬢さま」
「もうっ、からかわないで下さいよっ」

くすくすと先輩が笑うので、つい私の顔も緩んでしまう。

重い身体を懸命に動かしながらベッドから抜け出す。
でも二、三歩ほどでよろけてしまう。
とっさに差し出された先輩の救いの手に救われる。

そして、そのまま手が私の背中に回され、ぎゅうっと抱きしめられてしまう。
再びあの匂いが漂ってくる。さっきよりも強く。

「大好き、梓」
「大好きです、先輩」

先輩と迎えた朝は、いつもと少しだけ違っていて。
とっくに秋風の香る季節のはずなのに、とってもポカポカしてて、とっても暖かかった。



ああ、ようやくわかった。正体が。

初めて知った匂い。

それはきっと、幸せという名のパフュームだ。

(おしまい)