※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

私は自室でベッドに横たわり、天井を見つめている。
頭には鈍い痛みがありつつも何だかぼんやりとした妙な感じで、体全体はだるく、腕にはどうにも力が入らない。

――今の状態を簡単に説明すると、どうやら私は風邪を引いてしまったらしい。


「三十七度四分・・・やっぱり熱ありますね。幸いかなりの高熱ってわけじゃないのはまだよかったです」

測った体温計を見て少しほっとした表情をする梓。
ゆるゆると手を額に当てるとそれなりに熱いので、ある程度の熱があるのは覚悟していた所。

「それで熱以外はどうですか?頭が痛いとか、喉が痛いとかは・・・」
「ああ、ちょっと頭に鈍い痛みがあるけど我慢出来ない程じゃないし、喉が痛いとかは無いよ。体がだるくて力があまり入らないっていうのはあるけど横になってる分にはあまり関係ないしさ」

変に梓を心配させないように、私はあくまで症状は軽いものだということを説明する。

「あまり重い風邪で無いというならいいですけど・・・澪先輩は多少辛くても我慢しちゃいますから、そう聞くとかえって心配です」

そう言いつつ、がさがさと救急箱から風邪薬を探す梓。部屋の高い所に置いてたので取るのに苦労させてしまったな。

      • で、どうして梓が今こうして風邪を引いた私の前にいるかというと。




「本当にごめんな、梓。せっかく今日は朝から一緒にデートする約束してたのに風邪なんて引いて台無しにして・・・」

休日となる今日は数日前からデートの約束をしていた当日だったのだが、朝起きようとしたらこんな状態になってしまっていて電話でそれを梓に連絡した所、梓は飛ぶように私の家までやってきてくれたのだ。

こうして駆けつけてくれたのは嬉しいが私自身は勿論、特に梓は本当に今日のデートを楽しみにしていたのでこうして私が風邪を引いてしまい予定を台無しにしてしまったのは余りに申し訳が立たなかった。
しかし、

「もう、バカなこと言わないでくださいっ。デートする事と澪先輩自身の事、どっちが大切だと思ってるんですかっ。
 朝方に連絡してくれたからよかったですけど、こんな状態で無理して来てたらほんとに怒ったとこでしたからねっ」
「あ・・・ああ、ごめん」

充分に怒り心頭でそう話す梓。
      • そうだな、そんな事は口に出すまでも無かった。

「じゃあ、澪先輩。デートの代わり・・・ってわけじゃないですけど、今日は澪先輩の看病をさせてください。今日は夜まで家族が帰ってこないって聞きましたし」
「え・・・そんなわざわざいいのか?」
「はいっ」

確かに今は正直、動くだけでも手一杯な状態なので梓が薬など用意してくれるならこの上なく有り難い。
      • 何より、梓が傍にいてくれるだけで私としてはなんだかそれだけで安心する。

「や、やっぱり迷惑でしたら・・・」
「じゃあ、お言葉に甘えて頼むよ梓」
「ですよね、私がいても・・・って澪先輩?」
「うん、だから看病を頼むよ。情けないけど正直、体を動かすだけでも辛いから梓に薬とか色々と用意してもらえると助かるよ」

私がそう言うと、

「・・・はいっ!精一杯、看病しますね澪先輩っ!」

梓は満面の笑顔でそう応えてくれた。
――何だか梓の笑顔を見ているだけですぐに風邪なんて吹っ飛びそうな、そんな気がしてきた。




それからしばらく時間が経ち、現在の時刻は午後一時すぎ。
家の台所を借りて梓が作ってくれたお粥を食べて、薬を飲み、しばらく横になっていたおかげで体の方はすっかり元気になった。
朝方からあった体のだるさも今はもう無く、その気になればいつも通りに動けそうな感じだ。
で、今は梓が切ってくれたリンゴを頂きつつ、

「もう、少し元気になったからって無理しちゃだめですよ澪先輩」

起き上がろうとした所、梓に見られ叱られてしまいもう元気だっていうのに横になっている。
梓は一度決めたらテコでも動かない節があるので、ここは大人しく横になっていることにした。

「・・・うん、了解。けどもうホントに一人じゃ動けないってわけでも無いしそこまで気を遣うことないぞ、梓?」
「そんな事ないです、いつも澪先輩にはお世話になってますしそれに何より・・・」
「何より?」
「だから、その・・・何より、私は・・・澪先輩の恋人ですから・・・」

どこか遠慮がちに、ごにょごにょと呟くように言う梓。

「・・・ごめん、そうだったな。こんな私でもれっきとした梓の恋人なんだものな」
「えっ」
「遠慮して悪かったよ、梓。自分の恋人が風邪で倒れたなら看病するのは当然だ。
 私だって梓が風邪で倒れたならどんなに嫌がられても看病するだろうし、変に遠慮する方がバカだったよ」

改めて梓にごめん、と謝る。

「そんなっ、謝ることないですよ・・・」

梓はあたふたとして少しの間、会話が止まる。
そうして、

「・・・ありがとうございます、澪先輩。けど澪先輩はちょっと他の人のこと大切にしすぎですよ」

梓はそう言いながらも、どこか幸せそうに柔らかな笑みを浮かべながら布団をかけ直してくれた。

「(梓・・・)」

ぼんやりと梓を見上げる。まだ少し残っている熱のせいか、それとも幸せそうに看病してくれるのせいなのか。
梓の柔らかな笑みを見ていると何だか胸が暖かくなって眠くなってくる。

その表情が、まるで天使みたいだ――と何となく思ったりもした。

「うーん・・・」

梓にはちょっと悪いけどなんだか気持ちいいし、少し眠ろうかな・・・と思い目を閉じる。
そうして少ししたのち、

「・・・けど澪先輩?私は澪先輩のそういう優しい所、大好きです」

ささやくような声で、そう言われた。




「・・・うん、私も梓のこと大好きだよ」
「!?み澪先輩、起きてたんですかっ!?」
「・・・ぐー、ぐー」
「明らかにわざとらしい寝息を立てないでくださいっ!」
「こーらっ、病人に対して騒ぎ立てるなっ。ちょっと悪いけど眠くなってきたから少し眠るよ」

慌てふためく梓を尻目に、改めて私は布団を被り直す。

「も、もう・・・じゃあ何かあれば言って下さいね。傍にいますから」
「じゃあ、私が眠るまで手を握っててくれるか?」
「あ・・・はいっ」

梓はスッと布団の中に両手を入れ、私の手を優しく握ってくれた。
そうして梓が傍にいることを感じつつ、私はしばしの眠りに落ちていった――。

(FIN)