静かな夜に

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mioazu

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最近そろそろテストが近いという事もあり、私は今日は澪先輩の家に来て勉強を教えていただいていました。
最初は受験生である澪先輩の手を借りるのは迷惑では、と思っていたけれど澪先輩は「私としても基礎の見直しになるよ」と言ってくれて付き合ってくれたのは何だか申し訳なく思いつつも嬉しかった。

「澪先輩、この部分はどう・・・」
「それはこうだよ」
「なるほど・・・ありがとうございます」

澪先輩はすぐ隣で親身になって、分からない所も丁寧に教えてくれるので一人でやる時より苦にならず勉強に集中する事が出来ました。

「ふう、大体の範囲はこれで終わったかな?」
「そうですね、大体ここまでです」
「そっか・・・じゃあ一通り終わったな。お疲れさま、梓」
「こちらこそ今日はありがとうございました、澪先輩っ」

私はぺこりと頭を下げて感謝を表す。

「ううん、私としてもいい見直しになったし、梓はのみこみが早いから教えるのも全然辛くなかったよ。何より勉強する事に対してのやる気と集中力が凄くあるしさ」

澪先輩は「梓はやっぱり偉いなあ」とそっと私の頭を撫でながら褒めてくれて、ちょっと照れてしまう。

「そ、そんな事ないですよ・・・えへへっ」
「それに教えようとしてもやる気と集中力が足りない人達をよく見てるからさ・・・」
「?」


{同時刻・平沢家}

「はくしゅんっ」
「お姉ちゃん、風邪?」

{同じく田井中家}

「へっくしょいっ」
「ねーちゃん、風邪か?」




お互い勉強に集中していて、気付いたら夜の九時を回っていたこともあり「明日は休日だし、今日は泊まっていかないか?」との澪先輩の申し出に私はありがたく甘える事にしました。

「お風呂、いいお湯加減でしたー・・・って澪先輩?」

私がお風呂を頂き、部屋に戻ってくると澪先輩は窓を開けて外を見ていた。

「澪先輩、何を見ているんですか?」
「ああ、梓。夜空が綺麗だったからちょっとそれを見ていてさ」

湯上がりの肌を夜の寒気が冷ますのを感じつつ、私も窓から空を見上げる。

「わあ・・・」

今日は雲が出ていないようで、夜空にはまばゆい星の海がはっきりと広がっていた。

「綺麗ですね・・・」
「ああ・・・」

そうしてしばらく澪先輩と一緒に夜空を眺める。吐く息は白く、ゆっくりと夜空に消えていく。
けど澪先輩が傍にいるおかげか寒さは感じなかった。

「あっ、流れ星だ!」
「え、ホントですか!?」

澪先輩が指差す方向を見ると、そこには斜めに流れる一条の光が見えた。

「願い事しよう!」
「は、はいっ!」

私は慌てながらもとっさに思い浮かんだ願いを念じる。

「・・・」
「澪先輩と一緒にいられますように、澪先輩と一緒にいられますように、澪先輩と一緒にいられますようにっ・・・」
「・・・え?」

間に合ったか微妙かな・・・と私が考えていた隣で、澪先輩はぼふっと顔を赤くしていた。

「あー・・・梓」
「え?」
「いやさ、心の中で三回願えばいいだけで、わざわざ口に三回出す事は無いんじゃないかな・・・」
「あ・・・」

とっさだったとはいえ、ばか正直に口に三回出して言ってしまった事を自覚して私も同じように顔を赤くする。




「ふふっ、けど・・・私も同じ事を考えて願ってたんだな、やっぱり」
「えっ?」

そう言うと澪先輩はふわりと私を抱きしめて耳元で囁く。

「私も心の中で、梓とずっと一緒にいられますようにって願ってたからさ」
「澪先輩・・・」

そうしてどちらからともなく唇と唇を重ねる。そっと、優しく触れるように。
少しの間、澪先輩の優しさだけを感じ続ける。

「ふふっ、またキスしちゃったな」
「えへへっ、またキスしちゃいましたね」

唇を離すと私と澪先輩はお互いに顔を見合わせて、くすくすと笑い合った。

「さてと・・・私もお風呂に入ってくるかな。梓はまだ空を見てる?」
「そうですね、もう少し眺めてます」
「了解。湯冷めしない程度にな」
「はいっ」




しばらくして澪先輩がお風呂から上がった後、湯冷めしても困るだろうと私達は早めに床につく事に。

「梓、ベッド狭くないか?」
「だ、大丈夫ですっ」

一つの部屋で一つのベッドの中で、澪先輩と一緒にいる。
変な考えはない・・・はずだけど顔からは火が出そうな感じで先輩の顔を何だかまともに見れない。
だというのに、

「梓、もう少し傍にきなよ」
「あ・・・」

澪先輩はそっと私を抱き寄せる。

「暖かいな、梓の体・・・」
「澪先輩も暖かいです・・・」

腕の中に私を抱きしめて、とても穏やかで優しい声で澪先輩が囁く。
その言葉、体の温もり、ほのかに漂ういい香りに心が安らいでいく。

「梓・・・」

澪先輩はもう片方の手を私の手に差し伸べる。

「澪先輩・・・」

差し出す澪先輩の手をそっと取り、布団の中で互いの手を握り合わせる。

「大好きだよ・・・梓」
「大好きです・・・澪先輩」

すぐ近く、瞳を閉じる前に見た澪先輩の顔は何だかんだで赤くしつつも温かく微笑んでいた。

握り合わせた指先、手のひらの感触、肌越しに感じる先輩の鼓動。
それらを感じつつ今までにない満ち足りた気分で、私は静かに眠りに落ちていった――

(FIN)
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