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澪は三十分も前から待ち合わせ場所にいた。

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mioazu

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 澪は三十分も前から待ち合わせ場所にいた。
やや早過ぎる気もするが、元々待つ事は嫌いじゃない。
 目的地はすぐ目の前にあるアミューズメントパークである。今日は梓と二人きりでここで遊ぶ事となったのだ。
タダででチケットが2枚手に入ったからと勇気を振り絞り梓を誘ってみたら快くOKしてくれた。

「すいませーん、お待たせしました」
 梓の声に、それまで俯いていた澪は破顔する。

「そんなに慌てなくても。まだ約束の時間の十分前だぞ」

「ワクワクしちゃって、ちょっとでも早く来たかったんです」

 えへへ、と梓が笑うと、つられて澪も笑っている。

「早く行きましょう」

そう言って梓は澪の手を取り、ゲートへと走り出す。

「わわっ、も、もう強引なんだから……!」

 梓の行動に澪はやんわりと抗議するが、その表情から溢れてくる嬉しさは隠せなかった。
(梓とデート……。梓とデート……。夢みたい……)


 アミューズメントパークに入った二人は、何から手をつけようかと思案する。

「澪先輩は行きたい所あります?」

 梓の問いに、真っ先に観覧車が浮かんだ。けれど、どうせ二人で乗るのなら夕方か夜がいい。

「んと、私のお目当てはまだ良いよ。梓は何したい?」

 澪が尋ねると、何故か梓は苦笑している。

(あ、そうだった……)

梓は絶叫マシーンの類を好みそうだ。それは澪の苦手とするものであった。そんな澪に、
梓はわざわざ気を使ってくれたのだろう。それがちょっぴり嬉しかった。

(私がガマンすれば良いだけだ)

「うーん。折角だし、今日は私もトコトン付き合うよ」

 澪の返事が予想外だったのか、梓は目を白黒させている。

「……良いんですか?無理しなくても良いですよ?」

「うん……。今日は二人きりだから、律に笑われる事もないし」

 そう言って澪は笑って頷く。

「―――じゃあっ」

 梓は早速、定番中の定番であるジェットコースターに向かう。楽しそうに駆け出す梓に、
澪は目を細めながら後を追った。

 だが、澪の見通しは甘かったと言わざるを得ない。あまりの恐怖感に、澪はこれ以上ない程の醜態を晒して
しまったのだ。


(ううっ、怖かった…梓の前で恥ずかしい所見せてしまった……)

 半泣きでズーン、と落ち込む澪に、梓は優しく手を掛けてくる。

「まあ、気絶しなかっただけ澪先輩にしては上出来じゃないですか?」

「梓、全然慰めになってない…」

梓は笑顔を浮かべたまま弁明し、突然澪の背中に抱きついてくる。

(ひゃっ!)

 危うく声を上げそうになる。梓の不意打ちに、澪の顔はみるみる赤くなっていく。

(あ、梓……)

 梓の温もりが背中越しに伝わってくる。それは、梓の優しさであった。

 「―――落ち着きました?」

 梓が囁くと、澪はそっと振り返る。そこには太陽のような眩しい笑顔があった。

「もう、梓のいけず……」

 思わずドキリとしてしまう。真っ赤になった顔を見られたくなくて、澪は顔を背ける。

すると梓は返事の代わりに澪の身体をぎゅっ、と抱きしめた。

(ありがとう、梓……)

 結果的にオイシイ思いをした澪は、幸せな気分に浸っていた。

その後二人はゲーム系のアトラクションを中心に回ったが、
どれもこれも満足出来るレベルであった。梓はすっかり上機嫌ではしゃいでいる。そして、澪は
そんな梓の様子にすっかり目を奪われていた。


 太陽は傾き、地平線に沈もうとしていた。オレンジ色の世界で、二人は観覧車の行列に並んでいた。

「私、観覧車からまったり景色を眺めるのが好きなんだ。夜景も捨てがたいけど、今だったら良い感じに
夕焼けが楽しめそうだろ?」

 澪は胸元に手を合わせながら嬉しそうに語り出す。
(梓と二人っきりで観覧車か~)

「澪先輩、早く乗りましょうよ?」

 気が付くと、二人の順番が回ってきたようだ。
 二人はは観覧車に乗り込んだ。
 ちょっぴり頬が赤くなっているのが自分でも分かる。梓に気付かれないように澪は、外の景色に目を移す。

「わあ……!」

 赤く染まった地上が、ゆっくりと遠ざかっていく。思わず澪は声を上げてしまった。

「梓、綺麗だな~」

 澪が声を掛けると、梓はクスクスと笑っている。しばしの間、澪は観覧車からの風景に目を奪われていた。
梓も珍しく黙り込んだまま景色を見つめている。


 いつからだろう? この先輩を目で追うようになっていたのは。
 憧れ? 尊敬? 最初はそんな気持ちだった筈だ。
 けれど、今の自分にある感情は違う。先輩後輩という垣根を越えたモノであった。
 この気持ちは、ずっと心に閉まっておこうと決めていたのだ。
 それは、決して実ることのない思いだから―――


(あ……)

 澪の視線の先。そこには鮮やかな夕陽に照らされた海が見えた。

「なー、あれ海だよな?」

 澪は身を乗り出して梓の腕を取る。

「オレンジ色にキラキラしてて……。綺麗だな……」

 そのまま澪はうっとりとした表情で梓に寄り添う。

 ちらり、と澪は梓を見る。すると、何故か梓は視線を逸らしている。いつの間にか梓の表情からは
笑顔が消えていた。

「梓どうしたんだ? 具合悪いのか?」

 澪は心配そうに梓の顔を覗き込んだ。すると梓は一瞬ビクリと硬直してしまう。

「な、何でもないです……ちょっと目眩がして……。寝不足だったからですかね?」

「ふーん……?」



(私ばっか舞い上がってて……。ゴメンな、梓……)

 この時、澪は大きな勘違いをしていた。自分の趣味に付き合わせたせいで、梓は体調を崩す程に
気を使っていたのだ、と。

 澪は知らない。梓の心境に劇的な変化があった事を―――

 観覧車を降りた後も梓の態度は変わらない。

 一番心配していた梓の具合はすぐに回復した様子だが、どこか澪に遠慮しているような仕草が

目に付いてしまう。これには澪もズーン、と落ち込んでしまう。だが、これ以上梓に迷惑を掛けたくない

一心で、澪はずっと笑顔を絶やさなかった。今にも泣き出しそうなくらい、心は痛むのに。

(私……、知らない間に梓を傷付けてしまったのか……?)

 内向的な性格の澪はついついネガティブな方向に感情を膨らませてしまう。梓の異変は自分のせいだ、と
すっかり思い込んでしまっていた。

(ごめんな、梓……)

 澪は心の中で何度も梓に謝っていた。

 梓はそんな澪の痛みに気付かない。何故ならば、梓は自分の理性を取り戻すのに必死だったのだから。

 澪は悲痛な気持ちを抱いたままで。

 梓は自分の中に芽生えてしまった感情を抑えながら。

 二人は本心を隠したまま、アミューズメントパークを後にした。



 帰り道。二人はポツリポツリと他愛のない会話を交わしながら帰路につく。ここでようやく梓にいつもの調子が
戻ってきた。謝るタイミングを窺っていた澪は、意を決して話を切り出した。

「―――梓」

「はい?」

 梓が問い返すと、澪は俯いてしまう。申し訳なくて、澪は梓の顔を見れなかった。

「今日はごめんな。私のわがままに付き合ってくれて。」

「え?何で謝るんですか?私は凄く楽しかったですけど、澪先輩はあんまり楽しくなかったんですか?」

(えっ……?)

「そ、そんな事ない 私だって今日は楽しかった」

 梓は笑った。

「そうですよね、しょっぱなから大騒ぎしてましたから」

「も、もう……、忘れてくれ……」

 澪はジェットコースターでの忌まわしき記憶を蘇らせて、恥ずかしそうに赤面する。けれど、心の中では
笑っていた。梓が見せる、少年のような笑顔。それが嬉しかったのだ。

(良かった……。いつもの梓だ……)

 澪の心にずっと残っていた痛み。それがみるみる内に消えていく。

 ふと、澪の中で一つの疑問が浮かぶ。先程までの梓の異変。あれは何だったのだろう?

 と、その時。

 梓はそっと顔を近付け、澪の耳元で囁いた。ちょっぴり頬を染めながら。

「大好きです、澪先輩」




(ウソだよな…?)

 瞬間、澪の頭の中は真っ白になる。

(今、梓は何て言ったんだ……?)

 聞き間違い?

(大好き……?)

 信じられない。だって、それは夢だったから。

「…………!」

 指先が、口元が震えている。うまく言葉が出ない。ただ澪は真っ赤になって立ち竦む。

梓の顔が笑っている。赤い顔。澪と同じ、恥ずかしそうに笑っている。それは、偽らざる梓の本心。

「ほ、本当に? 私は、私はずっと―――」

 じわり、と澪の目に涙が滲む。

澪はやや顔を伏せたまま縋るように見つめる。すると梓はまっすぐに澪を見据え、口を開いた。

「本当です。私は、ずっと澪先輩と一緒に居たいから。澪先輩の事が大好きだから……」

「私なんかで、良いのか……?」

「ハイ……。澪先輩じゃなきゃイヤです」

 最早、涙は止めどなく零れ落ちる。梓の顔が滲んで見えないくらいに。

「梓っ!!」

 堪え切れずに澪は梓を抱きしめた。そして、ずっと伝えたかった言葉を紡ぎ出した。

「私も……! 私も梓が好きっ!! ずっとずっと前から大好きだった……!!」

 梓は泣きじゃくる澪の頭を優しく撫でた―――




 どれだけ時間が過ぎたのだろうか。やがて澪は涙を拭い、えへへ、と笑いながら顔を上げた。

 クスクスと梓が笑う。

「……してもいいですか?」

 ポツリ、と梓が呟く。肝心なところが聞き取れない程の、か細い声で。

「え? ご、ごめん私、ボーッとしてたから聞こえなかった。もう一回」

 予想外の澪の返事に、梓は真っ赤になってしまう。

「み、澪先輩の意地悪~。そんな恥ずかしい事二回も言えなんて……」

「恥ずかしい?」

 澪がキョトンとしていると、しびれを切らした梓は強引に澪の顔に手を掛けた。

「こーゆーコトです……!」

「…………!」

 そして素早く澪の唇を奪う。ゆっくりと互いの舌が絡み合い、甘い吐息が漏れる。永遠に続くような、
濃密な口付けであった。たっぶりと堪能した後、梓はそっと顔を離し、えへへ、と照れくさそうに笑った。

 対して澪の方はというと……、

「梓とキス、梓とキス……」

 と、うわ言のように呟き、ぷつんと緊張の糸が切れたように崩れ落ちた。

「わああっ!? 澪先輩っ!!」

 慌てて梓が抱き止めると、澪は真っ赤になりながらも笑っていた。

どうやらパンクしてしまったらしい。

「さすがにディープキスはやり過ぎでしたか……」

 前途多難な恋である。梓は気弱な恋人を抱きしめたまま苦笑するしかなかった―――




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