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朝の教室での一幕

1時間目の宿題を見せて欲しい、とふたばが俺の席にやって来た。たしなめつつも見せてやる俺は甘いんだろう

「そういえば、しんちゃんはどうして頭いいの?」
「……お前よりちゃんと勉強しているからだよ」
「おぉ、さすがしんちゃん!!」
「今のが皮肉だってことに気付いてくれ……」
「はぇ?」
「あーもういいよ……ほら、そこ漢字違うぞ。へんとつくりが逆。何だこの新しい漢字は……しかも矢部っちがお前に当てるとこだし」
「ほんとだー、危ない危ない……ありがとね、しんちゃん!」
「お、ぉう……」

無邪気な笑顔を向けてくるふたば。いつもながら無防備過ぎてこっちが困る。ちょっとどぎまぎしつつ、俺は最近思い出した昔の出来事を頭に浮かべていた

1年生の頃の話だ。入学してから初めてのテスト。あの頃はみんな学力にたいした差はなくて、先生の採点自体も大味だったと思う。まぁ当然だけども

「100点だぁ」
「わたしもー」
「おれは90点ー」

まぁ小学校の最初のテストがそんなに難しいわけはなくて、悪くても90点くらいは取れるものだ。俺はその時90点だったはず。ところが

「ふーだけ80点……」

クラスで多分唯一人、ふたばだけが80点だった。別に誰かが馬鹿にするわけでも無かったけれど、姉と妹が確か100点で、あいつだけ点数が違っていた、というのが問題だった

「ふーちゃんどうしたの?」
「……ふーだけなかまはずれなの……」
「てすとのこと?」
「……うん……ふぇ……」

詳しく覚えているのはここまで。後は、今にも泣き出しそうなふたばを見て、当時の俺は相当慌てたこと、元はそんなに勉強するたちでも無かったのに

『ぼくがふーちゃんに教えてあげる!』

とか言ってしまったこと、引き下がれなくなって姉さんに頼んで勉強を教えてもらったこと……こんなところか

ただ、次のテストで三つ子揃って100点を取った時に

『しんちゃん!100点取れたよ!ありがとう!』

と俺に笑顔でタックルをかましてきたふたばのことは、ビデオを再生するみたいにはっきり思い出せる
俺がしっかり勉強するようになったのは間違いなくその時からだった。勉強を教えてあげることが出来れば、ふたばの笑顔をもっと見られるし、一緒にいられる。我ながら現金ながきんちょだ

(ふたばは覚えてるわけ無い、か)

自分だって、この前久しぶりに勉強を教えて思い出したのだ。小さい頃のふたばの笑顔だけが記憶にあって、その経緯はすっかり忘れていた

まぁ思い出したところで、どうしようもなく目の前の幼なじみが好きなんだ、ということの再認識にしかならなかったが。知らず知らずの内に顔が熱くなってくる。だめだだめだ、冷静になれ、自分

「……ってふたば、書き順も当てられるんだからきっちり書け」
「めんどくさい☆」
「『めんどくさい☆』じゃありません!」
「ぶぅー」
「はぁ……さすがにお前の将来が心配だよ、俺は」
「なら将来はしんちゃんに全部書き物やってもらおうかな」
「……」
「だめ?」

天然で反則過ぎるだろこれは。上目遣いか、そうか。正直幸せだ

さすがに今の発言で周りも騒然とし始める

何かこそこそ様子を伺ってた変態集団が凍りついていて、その後ろではぶっ倒れた吉岡を宮下が支えていた
三女はこっちをじっと見つめている。あれは絶対面白がっているな、ちくしょう
長女は顔を赤くしている。あぁ、そういや意外に純情だったなあいつ。ってか杉崎もかよ
千葉は、『この機に乗じて吉岡のスカートを覗くべきか、油断している長女と杉崎のホックを外しにかかるべきか多いに悩んでいる』という顔だ。どんな顔だ

「おぉ?何か騒がしいっスね?」

ふたばは自分が言ったことがどんな意味を持っているのか分かっていないらしい。周りがドタバタしているのに気づいて何やら構え始めた

「しんちゃんは小生がお守りするっス!」

とか言ってやがる。お前のせいだというのに。全く、相変わらずというか何というか……

「考えとく」


「ふぇ?」

「……ほら、矢部っち来たぞ。早いとこ漢字写しとけ」
「おぉ!忘れるとこだった!しんちゃんナイス!」
「はいはい」

苦笑しつつ、やっぱり俺はこういうふたばが好きなんだなぁ、と恥ずかしいことを考えていた