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時計を確認する。待ち合わせの時間まで後5分。正直、これで本当に良かったのか分からない。いや、こんなのは多分間違いなんだろう
それでも私は、もうここに来てしまったし、いざ相手が来た時に断ったとしても、場合によっては無理やり、なんてことも有り得る

「援助交際……かぁ」

パパが知ったら怒るどころの騒ぎじゃないだろう。妹達も軽蔑するかもしれない

お小遣いが足りない、とパパとちょっと派手な喧嘩になった。パパへの当て付けとお金稼ぎを目的 に、いわゆる出会い系に 登録した
高校の友達でも、何人かやっているらしいし、と気楽に考えていたのがそもそもの間違いだった。相手から返信があった時はちょっとだけワクワクしたけれど、会う直前になった今は、恐怖や不安しか感じない

(あああどうしようどうしよう……!?)

待ち合わせはとある駅前で、指定のベンチに座っていて欲しい、とのことだった。座ってみたけれど、そうするといよいよ現実感がのしかかってきて、途方に暮れてずっと下を向いていた

(やば……吐きそ……)

頭の中がぐるぐるし過ぎて、お腹の中もぐるぐるしている。気持ち悪い。怖いし情けないしで、涙も出てきた

こういう時は悪い想像しか浮かんでこない

例えば間もなく相手がやって来て、断りきれずなぁなぁと状況に流されて、気付くとそこはもうホテルの一室なんだ
それなりの繁華街の駅前だし、そういう場所は腐る程ある。相手は手慣れた感じで手続きをして、私はそれを後ろでぼんやり見ることになるだろう
部屋に入ったらどうだろうか。いきなり抱き寄せられて、キスでもされてしまうんだろうか。そうなると多分、思いっ切り舌を入れられるんだろう
キス自体初めてだというのに、人柄もろくに知らないような男に無理やりされるなんて鳥肌ものだ
――

『ふぁ……んちゅ……ちょ……待っ……下さ……ん……』

唇越しに感じる相手の荒い息遣いが不快だ。拒否しようとしても、男の力にかなうわけもない。頭を抑えつけられ、服越しに体の至る所を撫で回される
相手は足を私に絡めるように立ち、ちょうど太股の辺りに、熱くて固い何かを押し付けてくる
その内壁まで追いやられて、相手は全身を私に擦り付けるように上下し始める。足の間にある相手の膝がしつこく私の股関を擦り、その内パンツの中、まだ誰にも触らせたことがない場所に、相手の手が伸びてくるのだ

――

或いは、さすがにベッドまでは我慢してくれるのかもしれない。シャワーとかも行かせてくれたりするかもしれない
しかし、そうなると今度はビデオとかをセットされたりしないだろうか。もしくはシャワー中に押し入ってきて、そのまま体をまさぐられる、なんてことになるのではないか

――

『?!いやっ!?まだ、シャワー中……!』

背後の扉が開き、遠慮無く相手が私ににじり寄ってくる。金を払ってやるんだから当然?何を言っているんだこの男は。援交とかに走る奴にはロクなのがいないようだ
露わになっている私の胸を鷲掴みにする男。まず下を隠そうとしたため、胸を隠す余裕なんて私には無くて、いいように揉みしだかれる

『んっ……い、やぁ……あぁ?!』

胸を弄んでいた男の腕がするりと背中に回った次の瞬間、閉じた太股を無理やり割るように、強引にお尻の方から秘部を触られる。思わず声が出る

『ひぁ……あふ……や、やめ……ん、んうぅぅ!』

指が小刻みに動いて、私の秘部をなぞったり、押し込んだり、中に入ろうとしたりしてくる
片腕は相変わらず胸を蹂躙していて、生まれて初めて受ける行為に私は成す術もなく、そのまま男に犯され……

――

経験済みの友達の話や、妹達が持っていたいやらしい本の写真が頭に浮かび、否応無く私にそういう場面を想像させる
不安と恐怖で一杯なのに、自分の想像がそれを一層重くしていくのだ。そして更に悪い方に向かって想像して、それらがループしていく

――

『ひぅ……うぇぇ……ひっく……』

無理やり押し倒され、服を剥ぎ取られて、好きなように体をいじり回された
初めてのことばかりなのに、相手は強引に行為を進めて、痛いと言っている私は無視して、何回も中に出して
最後には今の今まで私を犯していたアレを、私の喉に突っ込んで来た。口の中は血の味と精液の味しかしない
太股がぬるぬるして気持ち悪い。お尻の辺りのシーツは、私の血や相手の体液でべったりしていて不快感を一層煽り立てる
男は一度シャワーを浴びてから、また続きをやるという。もしかしなくても、私はとんでもない男を引いてしまったようだ
私の中にアレを出し入れしてる時、ビデオで撮っているとか、後何人か呼ぶとか言っていた
服や携帯は既に取られている。私には、逃げたり 助けを呼ぶことは出来そうにない。またモノのように犯されるのだろう。いつになったらこの悪夢は終わるのか……

――

「嫌っ……!」

思わず小さく声を上げてしまった。慌てて辺りを見回す。幸い近くには誰もおらず、変な視線を浴びたりもしていないようだ

一度空を仰いで、すぐにがくりとうなだれる。いくらなんでも悪い方向に話が転がり過ぎだ

もしかしたら、人の良さそうなおじさんとかが相手で、一緒にカラオケだとか、軽いスキンシップくらいで済むかもしれないじゃないか

超絶イケメンがやってきて、夢のような初体験が出来るかもしれないじゃないか

「……アホらし」

……それこそ有り得ない妄想だと、自分で自分に呆れてしまった
悪く考え過ぎるのも、気楽に考え過ぎるのも良くない。前者は精神衛生的に、後者は心構え的に

もう私は所定の待ち合わせ場所にいて、待ち合わせ時間になっている、というのが一番重要なことだ。小遣い稼ぎと割り切って、何があろうと軽くあしらってしまえばいい

「っていってもね……うぅ……」

あしらってしまえばいい、と考えても、やっぱり不安や恐怖は拭えず

「……うぇ……」

下を向いたまま、体をぎゅっと抱きしめて、声を押し殺すように泣いた

と、その時

「長女?」
「え?」

不意に知っている声がして、私は思わず顔を上げた

「……ち、ば?」
「おう……久しぶりだな」
「……そうね」
「……とりあえずひどい顔だ、と言っておこう」
「なっ!?う、うるさいわよ!」

慌ててハンカチで顔を覆う。しかし、確かに涙とちょっと鼻水混じりの顔はひどいかもしれないけれど、デリカシーというものが無いんだろうか
私がさっきまでどれだけしんどかったのか知りもしないくせに、小学生の頃から相変わらず腹が立つ奴だ
皮肉なことに、千葉への憤りで一時的に気分は回復していた。そこは評価してやってもいい

「……何であんたみたいのがこんな場所にいんのよ」
「お前こそ何でこんな場所にいる」

お互い同じ疑問をぶつける。それもそのはず、今私達がいる場所は、少なくとも私達の生活圏からはかなり縁遠い所なのだ。だからこそ、待ち合わせを承諾したのだけど。それにしてもここで千葉が出現するとはおかしな話だ

「……彼氏待ちよ」
「お前に彼氏?物好きだなそりゃ」
「いちいち腹の立つゴリラね……」
「……まぁ俺も彼女待ちだがな」
「千葉に彼女?どこの動物園出身かしら」
「豚舎出身のお前が言うな」

割と苦しい言い訳だが、男の人を待っているという事実は変わりない。というか、こいつに彼女とは世も末だ
何となくだけど、千葉も私と同じで、人様には言えない理由でここにいるんじゃないだろうか
腐れ縁からか、はたまた実際人様に言えない理由でここにいる私なりに、同類を嗅ぎ分けたのか。どちらにせよ、そんな気がしてきた

「……ほんとに彼女なんているのか疑わしいわね」
「そりゃこっちの台詞だっつーの」
「あたしを誰だと思ってんのよ!今時のモテカワ愛されガールの」
「雌豚?」
「そうそう、ってちがぁーう?!」
「隙有り!ブラホック外し零式!!」
「いやーっ!?ふっざけんじゃ無いわよこのセクハラ童貞ブタゴリラ!」
「ははは、相変わらずだなお前」
「あんたもね。もちろん悪い意味だけど」

あぁ、こういうやりとり、悪くない。私は素直にそう思っていた。さっきまで嫌な想像をしていたからなおさらだ
6ー3の時は、こんな風に誰かとワイワイガヤガヤやるのが日常だったっけ
たった1年間のはずなのに、何年もあの教室で過ごしたかのように錯覚することがよくある
まだ杉崎や吉岡みたいに繋がりがある友達もいるけれど、クラスメイトはほとんどバラバラだ

その内同窓会なんかやってもいいんじゃないかと思う。もちろん杉崎家を使って、豪華な食事と素敵なスイーツてんこ盛りのパーティーをやるのだ

杉崎の馬鹿が色々突っかかってきて、吉岡や宮下がそれをたしなめる
ちょっと離れた場所では、ひとはが杉崎の小生意気な弟や松岡に絡まれていて、そこにその内宮下も混ざりに行くのだ
ふたばは相変わらず佐藤にべったりだろうな。変態集団はさすがにもう自重する年齢だろうか。何だか自重して欲しく無い気もするけれど
千葉は……まぁ自重なんてする奴じゃないか

何にせよ、どこか懐かしくて、やっぱり楽しい光景が繰り広げられるに違いない

でも、私は――

「……」
「?おい、なんだいきなり黙って」


私は、今、何をしようとしている?ちょっとお小遣いが欲しいなんて理由で、体を売るなんて
そういう職業の人もいるだろうけれど、それは生活のために必要なことだからやるのだ
不自由ない暮らしが出来るくらいには、パパがちゃんと稼いでいるんだ。それなのに、こんな――

「……汚い」
「は?」

こんな、汚い、自分の体や心を廃れさせるような行為に走るなんて。そんなんじゃ、みんなに、友達に合わせる顔が無いじゃないか

「……私、ばかだ……」
「お、おい……」

千葉が目の前にいるけど、私はもう耐えきれなくなって、顔をぐしゃぐしゃにして泣いてしまった。さっきまでの、嫌な想像に耐えきれなくて泣いていたのとはレベルが違う。大泣きだ
こいつと昔みたいに話をして、小学生の頃を思い出して、それがすごく綺麗で、大切なものだっていうことに改めて気付いた
もし、さっきまで想像していたようなことになっていたら、私は本当に大切なものに、二度と触れられなくなっていたんじゃないか。そんなの最悪だ。背中がぞわりとする

その次の瞬間、あったかいものが私の背中を撫でていた

「……っひく……ぐず……なに、よ……」
「……事情は知らんが、まぁこういう時はこうするもんだろ」
「……ばか」
「……落ち着くまでは、こうしといてやるよ」
「…………ぅん…………」

そっと背中を撫でてくれる、千葉の無骨な手。意外に大きいんだな、とか考えてる内に、何かだんだん恥ずかしくなってきた。通行人は多く無いけれど、ある程度の視線は感じられる
でも、泣いている今の私にとって、これほど心を落ち着かせるものも無く、結局完全に泣き止むまで、千葉の手の感触に甘えてしまったのだった

「わ、私の背中を触り放題だったなんて、感謝して欲しいもんだわっ!」
「あーはいはい……で?」
「うっ……いや、ぇーと…………ぁりがと…………」
「うむ、よろしい。まぁやっぱこうだよな」
「な、何よ」
「様式美、ってやつ?」
「何それ……?ま、あんたのことだから、いやらしいことなんでしょうけど。この変態」

私が泣き止んだ後、千葉はジュースまで奢ってくれた。別にジュースによって印象が更に良くなった、なんてことは決して無いのだけど

(意外に、かっこいいかも?)

こいつ、セクハラさえ無ければかなり良い男なんじゃないだろうか
変態佐藤なんかは、悔しいが昔も今もかっこいい。そこは認めている。あの優男はふたば一筋だし、実際そこまで嫌いじゃない
それと比べて千葉は、男らしくなったという感じだ。背も高くなって、体付きもがっちりして、いかにも頼れる感じに見える

(あれ、何考えてんのかしら私……あれ、あれ?)

本当に私はどうしてしまったのか。千葉を見てドキドキするなんて。これは……認めたくないけど……そういう感情のようだ

「それはそうと」
「ひゅい?!……ぐぇ、げほげほ!」
「汚っ!!」
「あんたのせいだろうが!?

さすが千葉、こっちの気持ちも知らないで遠慮なく話かけてきやがる。まぁ、そこがこいつらしい気もするけど
それに今叫んだせいか、認めがたいあの感情がちょっと引っ込んだ。こっちの方が色々やりやすい

「それはそうと、何よ?」
「おっと、そうだった……何でいきなりあんな大泣きしたんだお前?」
「……それを聞くとは、ほんとあんた良い度胸してるわね……」

つくづく遠慮の無い野郎だ。呆れを通り越して最早尊敬してしまう

しかし、盛大に泣いた後だったからか、目の前のこいつを信頼に足る奴と判断したからか。単純に、誰かに話を聞いてもらいたかっただけかもしれない。とにかく私は、千葉にちょっとだけ話をしようと思ったのだ

「まぁ話してもいいけど。そうね……ま、一時の気の迷い、っていうのかしらね」
「ほう」

援助交際とか言うのは控えて、単に出会い系に興味を持ったということにした。私が色々と想像したことは、何となく伝わるように曖昧にしておいた

「……でね、私思ったのよ。こんなことしてたらさ、みんなに……その、例えば、小学校以来の友達とか?そういう人達に顔向け出来ないじゃない、って」

ちょっと恥ずかしいけれど、これはちゃんと言っておきたかった。理由は自分でもよく分からない。でも、千葉なら何となく分かってくれる気がして……おっと、私ったら、また千葉に心が傾いているじゃない

「……で、色々昔のこと思い出してさ、何か自分が惨めになって、泣いちゃったの……あはは、らしくないわね、今の私」

おいおい本当に私らしさのかけらもないじゃないか。自分でもそう思いつつ、紛れもない本心を千葉に話していた

「って感じで私の話は終わり。どう、満足かしら?」
「……」

千葉は黙っている。嫌われてしまった?引かれたのかな?どうしよう、だったら、いやだな

もう、隠しようがない。私は、こいつのこと……

「……最初に謝っておく」
「え?」
「すまん長女!!許してくれ、この通りっ……!!」

何をしているんだ千葉は?土下座でもしかねない勢いで突然謝りだした。私、何かした?全く分からないのだけど

「ちょ、ちょっとちょっと!?話が見えないわよ!」
「とりあえず謝らせろ!」
「いや、アンタ、周りの目ってものをね!?」
「じゃあ絶対怒らないと言ってくれ!」
「何に対してよ?!」
「いいから!」
「あぁもう……分かったわよ!絶対怒らない!怒りません!!もし怒ったら、何でも言うこと聞いてあげるから!」
「本当か?」
「本当よ!」
「本当に本当?」
「しつこい!」
「……わかった」

よく分からないけれど、明らかに人が集まってきているので頷く以外ない。ようやく千葉も落ち着いてくれた。お互い息が上がっている

「……で、当然話してくれるわよね?『最初に』とか言ってたわけだし」
「……うむ。絶対怒んなよ」
「はぁ……そればっかりねあんた」
「まずこれを見てもらおう」
「携帯?あ!これ私が登録したサイトに似て……あれ?」

最初は機種の違いから来るレイアウトの見た目の差異で勘違いしたけれど、間違いない、これは同じだ。全く同じサイトだった

「何であんた出会い系なんかに手出してんのよ」
「……男子高だからな、俺。出会いが欲しいのさ」
「……くっだらな」

そうか、こいつ男子高だっけ。これは良い報せだ。出会いが無いとか言ってるし。実際私も、最初に付き合うなら気兼ねない男が良いと薄々考……え……え?

「え?」
「いや、年齢偽ってもさ、後ろめたいのってお互い様だろ?だから、その……な?」
「……」
「仮にばれても」
「パスワード」
「……えーと、4545」
「携帯寄越しなさい」
「……はい」

私は千葉から携帯をぶん取ると、パスワードを入れて個人ページを開いた
こういうのには色々なパターンがあるけれど、ここはパスワード式の個人ページからプロフィールを変更したり、設定をいじることが出来るタイプのサイトだった
当然、相手とのやり取りなんかの履歴も残っているわけで

「……『よつばちゃん』……これ私とのやり取りね」
「……」

よつばちゃんとは、サイト内で使っていたハンドルネームみたいなものだ。我ながら安易だと思う

「何か言い残したいことは?」
「……あえて言わせてもらおう。女を困らせるのは、男の義務なのです……と」
「死ねっ!!今死ねっ!!すぐ死ねっ!!骨まで砕けてお手軽に死ねっ!!」
「怒らないって言っただろうがてめぇ!!」
「知らんわああああああああああああ!?」

つまりそういうこと。何の巡り合わせか知らないが、出会い系で私がやり取りをしていた男は千葉だったということ
25歳のリーマンとかいうありきたりな嘘設定で、17歳として年齢は偽りなく登録していた私にメッセージを送っていたのは、さっきから逃げ回っている変態野郎だったのである
しかし、実際会ったら社会人じゃないことはモロバレだろうに。やはり小学校の時から進歩の無いバカ野郎だ

いわば今日の私は、こいつによって踊らされていたということになる。挙げ句の果てに、普段人に見せないような態度で、心の内もさらけ出してしまったのだ

そして一番大事、というか致命的なことは、私が、千葉を……

「私のときめきをどうしてくれんのよぉぉぉおおおお?!」
「はぁ?意味分からんわ!!痛った!痛ぇよ!」
「今更消えないのよこんの馬鹿変態がああああああああ!?」
「ぎゃあああああああ!!」

この怒りはしばらく収まりそうにない。一応お金は提示していた分を用意しているだろう。千葉との追い掛けっこを続けつつ、何を奢らせてやろうか、私は考えていた