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違うよ。
全然違うよ。

だから違うんだってば!!


「りんご飴って、皮にかかった農薬も食べることになるから」
「「……………」」
思ったとおりに、前を行くみっちゃんとふたばの動きが止まった。
むふぅ。
このふたりは本当に行動を読みやすい。

ガヤガヤ ワイワイ ガヤガヤ

「あ・ん・た・ね~っ!
せっかくの花火大会だってのに、台無しなことばっか言いくさって~!!」ムシャコラムシャコラ
「食べながら怒れるなんて、さすが雌豚だね。
とてもじゃないけどマネできないよ」
「なんですって!!」
「いや、三女さんの言うとおりだろ。
どんだけ意地汚いんだよ?」
「変態ブタゴリラは黙ってなさい!
あんたは存在自体が汚いんだから口出しすんじゃないわよ!」
「なんだとてめぇ!!」
そして始まるいつものやりとり。
むふー。
みっちゃんはちょっと焚きつけるだけですぐ大騒ぎになるから面白い。
それこそ、ねずみ花火みたいだ。

「…まいっか! ガリゴリ おいひいっフ~!」モゴモゴ
「盛大に飴ごとかじるなよ…。てか、飲み込んでからしゃべれ。
口の周りが…せっかくの浴衣が汚れちまうぞ?」ゴシゴシ
ちょっと目を離したスキに、こっちもいつも通りになってた。

ふたばが口の周りをべとべとにして、しんちゃんがすぐさまハンカチでぬぐう。文句を言いながら。
嬉しそうに。
まるでそこまでで1セットになってるみたいな、『いつも通り』の流れだ。

「まったく…もう6年生なんだから、周りの目とかいろいろ気にしろよな」ゴシゴシ

子供の頃はみんながはやし立てて、しんちゃんがむきになって、それを聞いたふたばが…ってやってたけど、
あんまりにも同じパターンを繰り返すから、数年前からはみんな飽きて(ていうか面倒くさいだけだって気付いて)何も言わなくなった。
少なくとも近所では。

こういうのも『我慢勝ち』って言うのかな…?

ガヤガヤ ワイワイ ガヤガヤ

「うん、美味しい!
りんご飴はお祭りでしか食べられないのがもったいないわね!」ムシャコラムシャコラ
「そうだね~!」ガリゴリ

……それにしても、相変わらずこの姉たちは能天気だな。
夜店の食べ物なんて非衛生的なものばっかりなのに。そもそもそのケバケバしい赤色が気にならないの?
それに割高だから…

「次はたこ焼きを食べよう…って、あぁ~!
もうおこづかいが無くなっちゃった~!」

ほらね。
もう6年生なんだから、もっとしっかり考えて、必要なものにだけ使いなよ。
そんなのだから2人とも貯金がゼロのままなんだよ。

…ま、ふたばの場合は必ず助け舟が出るんだけど。

「ったく…ちょうど俺もあそこのたこ焼きが食いたいと思ってたけど、1人じゃ多そうだから半分わけてやるよ」
「ありがとうしんちゃん!
じゃあ小生も、りんごあめあげるね!」
「く…食うところがほとんど残ってねえだろうが……」
とか言いながら、りんご飴よりもまっ赤になって受け取るしんちゃん。

一瞬で何種類ものつっ込みが頭をよぎったけど、今度も流しておこう。
私はいちいち口に出さなきゃ気が済まない、誰かさんみたいな子供じゃないよ。


面倒くさいし。


ガヤガヤ ワイワイ ガヤガヤ

さすがにすごい人だな……たくさんの視線と意識が行き交ってて、ちょっとくらくらする。

ガヤガヤ ワイワイ ガヤガヤ

友達、親子、恋人…みんな誰かと一緒に楽しそうにしてるな……。


……昔は。

昔は、お祭りなんて好きじゃなかった。
みんなが笑ってる、楽しそうな世界。
みんな何が楽しくて笑ってるのかわからなかった世界。
でも、何かが有る気がして、みっちゃんたちの誘いのままに出かけて。
でも、何も無いとしか思えなくて、みんなお金と時間を無駄にしてるんだなって、壁の外でひとり哂ってた。

だけど今は。

「あらあらみつばさん、帯の締め付けすぎで苦しそうね~?
三女もこんばんは。
今日は珍しく下ろしてるのね。浴衣によく似合ってるじゃない。
……私ももうちょっと伸ばそうかしら…?」
「おっ!?三女も来てたのか!
なんだよ~、こないだは興味ないとか言ってたくせにさ!もっと子供らしく素直になれよなっ!」
「み…宮ちゃん……。
三女さん、あんまり怒らないであげてね?宮ちゃんはちょっと…本当に不器用なだけなんだよ」

今は、お祭りが少しだけ好きになった。
まあ、ちょっとくらいは楽しい何かが有るんだって認めてあげよう。
……どうも、私もいつの間にかこの世界の内側に連れてこられたせいで、それを認めざるを得なくなっちゃったみたいだし。

「大丈夫だよ。私は心が広いから、宮尾さんの存在なんて最初から気にしてないよ」
「どういう意味だよ…。
だって本当にすっごく楽しそうにしてるじゃん!
それと宮下だよ!」

そうしてるのは、宮下さんと違ってちゃんと空気を読んでるからだよ。
私もこの世界に参加してるんだから、って。

「杉ちゃんたちはどの辺りで花火を見るつもりなの?」
「無視すんなよ!」
「河川敷はもう人がいっぱいだったぜ」
「パパが花火を3000発ほど出資しててね。
だから大口出資者として、橋の下近くに特別席を用意してもらってるのよ。
どの花火も間近で見れるし、特に最後のナイアガラなんてすぐ目の前なんだから。
みつばみたいにスペースを探して歩き回るなんてしないのよ~」
「何が特別席よ。
あんたみたいな雑魚は、事故ってまっ先に焼け死ぬのがオチよ」
「なっ…!」
「ケンカはやめようよ~。
杉ちゃん、席には余裕あるんでしょ?みんなで一緒に見ようよ!」
「ふんっ!しょーがないわね!」
「…ごめんね、いつも迷惑かけて」
「あっ、いいのよ!
しょうがないのはうるさい誰かのことだけだから!
それに三女には調理実習で助けてもらったし、先にママと行ってる龍太だって喜ぶし、それから……もうっ!
私がみんなで見たいの!!
…これでいいでしょ?」
「あ…うん。
ごめ…ありが……杉ちゃん」モニョモニョ

だってここには、私の知る誰かがいる。私を知る誰かがいる。
『みんな』の中に私がいるのがはっきりわかる。
みんなが私の……。
くすぐったいけど、まぁそんなに悪くな「三女は小さいから、はぐれないよう手を繋いでいってやるよっ!友達として!!」


やっぱり鬱陶しいだけだよ。


「ところで、ふたばちゃんは一緒じゃないの?」
「へっ?
何言ってんのよ、ふたばならここに……あら?
パンツ佐藤もいないし」
「あれっ、あいつらどこ行ったんだ?」
「少し前にたこ焼き買ってくるって、2人であっちの方に行ったよ。
結構経ってるから、どこかで迷ってるのかも」
「もうっ!6年生にもなって迷子なんて恥ずかしいやつらね!
まぁふたば1人じゃないから……あの変態、私の目の届かないところでおかしなことしてないでしょうね……。
ええい!
私見てくるから、あんたたちはここにいなさい!」ポテチテ...
「あっ、待ちなさい!
みつば1人だと夜店に寄り道して永遠に見つけられないだろうから、私も一緒に行ってあげるわ!」
「たびたび迷子になってるお子様に…クンスカクンスカ
……ま…まあ?今日は特別についてくるのを許してあげるわ。
ありがたく思いなさいよ!!」ジュルリ
「絶対なにもおごらないわよ」
「べっ…別にそんなみみっちいこと考えてないわよ!
ともかくっ、私が見つけてきてあげるから、ひとははここにいなさい!」
「うん、わかった」

……私が人ごみが苦手なの、気にしてくれたのかな…。

「しっかりついて…あんたが前を走りなさいよ!
私の可愛いうなじを写そうったって、そうはいかないんだからね!」
「そんなことしないわよ!走って浴衣の乱れた無様な姿を撮るだけよ!!」
「それはもっとダメだろ……。
ったく、しょうがないな!
お前らだけじゃ頼りないから、あたしも行ってや「あんたは目印にちょうどいいから、ここでつっ立ってなさい!」ポテチテト ……」
「み…宮ちゃん、元気出して……。
…そうだ!宮ちゃん射的が上手だったよね?私、教えて欲しいな~」

ふふっ…。
みんな、ほんとに仲いいな。

「あ~…三女さん最近よく笑う…じゃねえ、機嫌いいから……でもねえ…。
……晴れてよかったっスよね!」
ひと段落したところで、隣に立つ千葉くんから不自然さ混じりの明るい声が降ってきた。
…いつも斜に構えてるふうを装ってるけど、やっぱりお祭りのときは嬉しいのが抑えきれないみたいだな。

「そうだね。
昨日、ふたばがたくさんてるてる坊主を作ってくれたからかな」
いつも通り、本当に楽しそうに。

ふたばはイベントになると…ううん、始まる前から全力で楽しんでる姿を見せてくれる。
楽しまないと損なんだって、思いっきり楽しむのが1番正解なんだって全身で伝えてくれる。
だから私も……。

ふたばのそういうところ、本当に……。

「あれ、不思議なくらい良く効くんだよね」
そう言いながら千葉くんに振り向いたら、偶然目が合った。

「……そ…ぅ…」
そしたら、なぜか動きが止まってしまった。

最近たまに、こんなふうにふと目が合っちゃった男子が金縛りになるときがある。
なんでなんだろう?
………私って、そんなに恐いんだろうか……。
そういえば6年生になったばかりの頃、杉ちゃんたちに悲鳴を上げられたこともあったような……。

「…………」
「ちょっ…オーラが!?
ち…違うんですよ三女さん!今のはちょっとその……。
え~っと…あっ、ほら!向こうにガチレンのお面がありますよ!!」
「ほんと!?」
指差された方向…あった。
ちょっと離れたところにガチレンらしきお面が見える。

スイー 「ああっ、待ってください!」

「ガチレッドにガチブルーに…ガチコマンドのお面まである」むふー!
「こんな奴いましたっけ?」
「先月から山嵐長官が変身して、6人目の戦士になったんだよ。
そんな事も知らないの…?」ギヌロ
「す…すんません、最近ちょっと日曜は寝坊してて……。
あ~っと…お詫びっつーかなんつーか…俺、おごりますよ」
「別にいいよ。十分お小遣いあるから。
おごってもらうなんて悪いし。
おじさん、そこのガチコマンドのお面ください。
…そっちの銀色のです」
「はいよ、お譲ちゃん!
兄ちゃんも諦めずに頑張れよ!」
「…うっせ」
「??
何を頑張「こんなとこにいた!!」

大声にびっくりして振り返ると、みっちゃんが肩で大きく息をしながら立っていた。

「ぜー…ぜー…。
まったく…あそこで待ってなさいって…ぜぇっ…言ったでしょうに…!
ちょっと千葉、来なさい!人手がいるの!!」
「あぁ?なんでだよ。
てか、佐藤たちや杉崎はどうしたんだよ?」
「いいからとにかく来なさい!
ひとはは向こうで宮下たちと待ってなさい!すぐ片付けて戻ってくるから!!」
「ちょっ!手ぇ引っぱんな!
だーくそっ!ついてってやるから離せ!
すんません三女さん、ちょっと行ってきます!」
「行ってらっしゃい」

ポテチテト

……ほんと、みんなと一緒だといつも大騒ぎだな。退屈する暇もないよ。

「さて、私も宮下さんのところに戻る…のは鬱陶しいなぁ……」
ま、適当に相手をしてあげるか。すぐムキになるところは面白いし。
お面は…頭の後ろにまわしておこうかな。

スイー

ガヤガヤ ワイワイ ガヤガヤ

……?

スイー

ガヤガヤ ワイワイ ガヤガヤ

あれ…?
さっきはこのわたあめ屋さんを曲がって……?
…一旦、お面屋さんに戻るか。

スイー

ガヤガヤ ワイワイ ガヤガヤ

「……まずい。私としたことが…」
迷子に……してしまった。ゆきちゃんと宮ちゃんを。
ど…どこいっちゃったのかな、ふたりとも……。

ガヤガヤ ワイワイ ガヤガヤ

どうしよう…?
迷子放送で……いやいや、もう6年生なんだし…。
そもそも運営テントがどこにあるかわからない…。

ガヤガヤ ワイワイ ガヤガヤ ワイワイ ガヤガヤ ワイワイ

人、多いな……。
熱気で…ちょっと苦しい…かな…。


ガヤガヤ ワイワイ ガヤガヤ ワイワイ ガヤガヤ ワイワイ ガヤガヤ ワイワイ ガヤガヤ


………へいき、だよ。べつに…わたしは、ひとり、で「ひとはちゃん?」


「せん、せい……」

ワイワイ

「やっぱり。こんばんは。
花火を見に来たんだろうけど、こんな時間まで女の子がひとりで出歩くなんて危ないよ?」
「………珍しいですね」
「え?」
「先生がビールなんて」
「ああ…たまには、ね。
今日はすごく暑いしさ。
それにボクだって、アルコールが嫌いってわけじゃないから。
…じゃなくって、ひとりじゃ危ないよ。
登校日のときも、遅くなるときは高校生以上の保護者と一緒にって言ったでしょう?」
「別に私はひとりでだって大丈夫です」
ていうか、そんなの誰も守ってませんよ。
そもそもこんな人の多いところで何か起きるわけないですし。
相変らず心配性で気の小さい人だ。情けない。

「大丈夫じゃないってば。
ほら、前も言ったけど、ひとはちゃんはとっても可愛いから心配だよ」ヘラヘラ

可愛いとか気持ち悪い顔で言わないでくださいロリコン寒気がするんであっち行ってくださいついでにそのまま川に身を投げてください。
「かっ…かわ……っ!」


むぅ。


言いたいことはたくさんあるのに、苦しくなって上手く言えなかった…。
私の邪魔するなんて、先生のくせに生意気だよ。
そうだ。
最近先生はずいぶん生意気だ。余計なお節介も増えたし。
出会った頃ならもっと単純で、ヘタレで、泣き虫で、かっこ悪いだけだったのに。
出会った頃よりずっと情けなくて、みっともなくて、だらしなくて、弱点がたくさんなのを知ったのに。

嫌いじゃないところなんて少ししか無いのに。

なのに最近たまに、こんなふうに先生と話してると苦しくなるときがある……。
いや、今のは花火大会のせいだ。人ごみのせいで息苦しかったんだ。
さっきまではそうだったじゃないか。

「ひとりで来たはずはないでしょう?
みつばちゃんやふたばちゃん、それに友達のみんなは?」
「みっちゃんは杉崎さんと千葉くんを、ふたばは佐藤くんを引きずってどこかへ行きました。
あと、宮藤さんと吉岡さんが迷子になってます」
「う~ん…やっぱり子供たちだけで来てるか…。
気持ちはわかるけどなぁ…。
……うん、よし。
ひとはちゃんと一緒にみんなを探して、そのまま花火を見てから家まで送ってあげるよ。
それならボクが保護者になるんだし」
「先生に保護される恥をさらすくらいなら死にます」
「そこまで言う!?
もうっ……。
それじゃ…っと、先にこれは飲んじゃうか。
アルコールを持って生徒と動くのは良くないしな」

ゴクゴク

見上げる視線の先で、コップの中の液体が音を立てて飲み込まれていく。
アルコール。

「ぷはぁ」

…一応だけど。
全然そう見えないけど。情けなくてかっこ悪くてダメで子供みたいな人だけど。


先生は……。


「うぅ…一気に飲むとちょっと辛い……」
ほら、無理して背伸びするから。
やっぱり先生にお酒なんて似合いませんよ。もうやめたほうがいいですよ。

「さぁ行こうよ、ひとはちゃん」

なんですかこの差し出した左手はちょと身体が大きいだけの童貞の分際でさっそく保護者気取りですかイタいですよ身の程を知ってください。
「……………」

ギュッ

……でもまあしょうがない。私の右手を貸してあげよう。
悔しいけど先生のほうが背が高いから目印になる。誰よりも貧弱だから、雌豚のサド心が刺激されて寄ってくるかも知れない。
私は子供じゃないから、合理的にものを考えれるんだよ。





ガヤガヤ ワイワイ ガヤガヤ

ゆらゆらと歩く。

「みつばちゃーん!ふたばちゃーん!
見つからないな~…」

先生に手を引かれて、次々に違う景色へと連れて行かれる。

「千葉くーん!宮下さーん!」
そこそこ背のある先生。座高が高いけど、それでもまあ今の私よりは足が長い先生。
体育のときみたいに、本気になればそれなりに速い先生。

でも、ゆっくり歩いてる。

私にちょうどいいように。
ほんと、『子供』相手なら気をまわせるんですね。
なのに、『女性』相手だとオロオロするだけで。
まったく…典型的などうしようもない童貞だ。
本当にわかりやすい。

「ひとはちゃんは見つ……えっと…何か、怒ってる?」
「別に」

まあ、その分行動を読みやすいから色々楽しめるんだけど。
最近はほとんど全部がわかって、簡単にからかえるようになったし。
しかも仮病で休んでも本気で心配してくれる。特売のときなんかすごく便利だ。
おまけにあきれるくらい単純だから、叩かれたって、どんな目にあったってすぐに忘れて、私の傍に戻ってくる。
まるでヨーヨー風船みたい。

「…ふふふっ」
「???
今度はなんだか……」

ほんと、こんなになるなんて思ってもみなかったよ。
最初は偶然拾ったオモチャみたいなものだったのに。
チクビの部屋の置物みたいなものだったのに。
いつどこかへ行ってしまっても、苦しくも痛くもなかったはずなのに。

「う~ん…何かおかしなことしたかなぁ…?」

ドンッ

「おっとと、すいません!」 「きゃっ!いえ、あたしは大丈夫です」
ドジ。
よそ見してるから、女の人とぶつかるんです。

「お…大き…!
じゃなくて、いや~すみません。ボクの不注意で~」デヘラデヘラ
「いえ、こっちは本当に大丈夫でしたから。それに妹さんにぶつからずに済んで良かったですよ。
今日は人が多いし、お兄さんは大変ですね」
「いもうと……?
ああ、そう「あっちにふたばがいました!!」

グイッ

「えっ?
あっ、うん。ホントにすいませんでした!」


タッ タッ タッ タッ


「はぁ…はぁ…」
苦しい。まだ大した距離じゃないはずなのに。
もうっ、この身体は本当に走るのに向いてない!
……別に不便だなんて思ってないけど。
そもそも私はしっかり予定を立てて行動するから、必死になって走らなきゃならないことなんて無い。だから不必要だよ。

「どこにいたの?」
「え?
えっと…あそこの…はぁっ…。
金魚すくいを曲がっていきました!」
「ええっ!?あんなに遠いのによくわかったね!?」
「わかった…っ、んですっ」

タッ タタ...

「はぁっ…はぁっ……。
っ…はぁ……」
「う~ん…ふたばちゃんらしき子は見当たらないねえ…。
…ていうかひとはちゃん、大丈夫?」
「だい…っ、じょうぶ…はぁ…です」こ…これだけ離れれば……。

……………あのままだと先生が鼻血を噴き出して、浴衣を汚されちゃうかもしれなかったし……。

……い…いや、なにを自分に言い訳してるんだ。
先生に彼女…的な人ができる事態が…何というか、好ましくない。と、ちょっと思った。部分があったことを素直に認めよう。
ちょっとだけ。
絶対に間違いなく、奇跡が起きても有り得なかったけど。
ヨレヨレTシャツにセンスの悪いチェックシャツ、洗いすぎて色の変わったジーンズ姿の、ほとんど不審者な先生が、
あんなきっかけで上手くいくなんて思わなかったけど。
むしろ笑い顔が気持ち悪くて通報されるのがオチだったと思うけど。

けど世の中たまに、思ってもみなかったことが起こるからね。

こんなに先生のことがわかったんだ。今さら彼女なんか作って、変わられたら困るよ。
それにせっかくできた本気のガチレン仲間が減ってしまう。
今の先生は、自分がキモオタなのを気にしてないけど…そもそも筋金入りのダメオタクだけど、
つまらない人が彼女になったら、卒業させられてしまうかも知れない。それもやっぱり困る。
だって1番気楽に話せるのが先生なんだから。もちろん不満だらけだけど。
……何より、チクビにも会いに行きづらくなるし。
だからまあ、私の傍に居る間はこのままでいてもらおう。
でないと私の楽しみが減っちゃうよ。

そうだよ。

私は心が広いけど、自分のオモチャが勝手に持って行かれるのをボーッと見てるような能天気じゃない。
みっちゃんたちとは違うんだ。
ちゃんと必要なものに使ってるんだよ。

「ごめんね。
せっかくひとはちゃんが見つけて、そんなに走ってくれたのに、また見失っちゃったみたいだ…。
あっ、でもさっきのは違うんだよ!?
みんなは…特にふたばちゃんは目立つからさ、ちょと人にも聞いてみようかなって思ったんだ!
だからボクも真面目に探してたんだよ!!
と…とにかく、え~っと…何か…」

違うよ。

大した労力を使ってるわけじゃないよ。
だって先生の部屋でやってるアレとか、アノコトとか。
どれもチクビに会いに行くついでにできることばっかりだ。
ついでにちょっとやってる程度なんだよ。
……違う違う、アレは先生をからかうためにやってることだった。今は関係ない。ないはずだ。

「ふう…はー……。
先生が何してようが…私は、気にしま…はぁ…せん」

熱い…頭がグルグルする…。喉もかわ「ひとはちゃん、ソーダに入れるシロップは何がいい?」

「ぁ…え…?」


「ボク、喉渇いちゃってさ。
ひとりで飲むのは寂しいから、ひとはちゃんも一緒にお願い。
もちろんお代はボクが出すよ」
言葉のまま、先生が右手を顔の前で縦に置いて『お願い』のポーズをとる。
そんまま人差し指だけを残して、口元へ。

「ひとはちゃんにだけ特別だからね?
みんなには…特にみつばちゃんには絶対言っちゃダメだよ」

特別……。

「ふたりだけの秘密だからね?」パチリ
今度は右目でウインク…のつもりなんだろう。ぎこちない動きで、片目だけのんびりまばたきをした。
何がそんなに面白いのか、ヘラヘラ笑い続けながら。

「…っ。
不気味な動きはやめてください。夢に出ますから」

そうだ。
だから目を逸らしたのは自然な事なんだ。

「…イチゴ」
ま、ここはおごられておいてあげよう。
どうせ先生の給料なんて、ガチレングッズ以外には趣味の悪いエロ本に使われるだけなんだし。
こうやって使わせてあげたほうが、よっぽどいいよ。

「うん、わかった。
おばさん、イチゴとブルーハワイを1つずつ」
「は~い!600円だよ!」
「サイフは…ひとはちゃん、ちょっと手を……」
「なんです?」
「…ううん、いいよ。
よっと…1000円、サイフから抜いてください」ゴソゴソ
見上げる先で、先生の右手がお尻のポケットからおサイフを引っ張り出し、そのままおばさんの手へ届ける。

「ははっ、仲良いね。
おつりも入れておくから。
それでまずは、妹さんのイチゴから!」
……私は『妹さん』なんて名前じゃないから、差し出しされても困るんですけど。

「ありがとうございます。
ほら、ひとはちゃん」
「………」
まぁ『先生』の立場もありますし、この場は抑えておいてあげましょう。

「どうも」
左手で冷たいソーダを受け取って、そのままなんとなくかざして見る。
……キラキラして綺麗。
まっ赤なソーダに夜店の電灯が透けて、沢山のルビーが舞ってるみたい。
飲んじゃうのがもったいないな。

「ちょっと休憩に…あっちで座って飲もうか」ヘラヘラ
夜店の裏手側、河川敷の土手をジュースを持った右手で指差して、先生がまたヘラヘラと笑う。
私は今日も、それを見上げてる。


ワイ... ガヤ...


「こっちの方に来ると、一気に人がいなくなるね~」
「…それはいいですけど、こんなところに座ったら浴衣が汚れちゃいます」
「ああっ、ごめん!
どうしようかな…ハンカチは持ってないし……そうだ!
ひとはちゃん、ちょっと手を離してくれるかな?」
「え?
……あっ!!」

バッ

あわてて手を振り払う。
うぅ…自然に握り続けられてたから、完全に意識から外れちゃってたよ……。
汗をかいた手のひらが夜風にさらされ、熱を奪われていく。
気持ちいい、はずなんだけど、なんとなく寂しくなって手を閉じる。

「ありがと。
で…っと」
そんな私の目の前で、先生が空いた両手でチェックシャツを脱いで、階段に敷く。
場所を、作ってくれる。

「よし、この上に座ってよ。そしたら汚れないでしょ?」ヘラヘラ

いつも私のために。

「……童貞にしては上出来ですね」
「あはは、どういたしまして」
せっかくからかってあげたっていうのに、笑いながら右隣に腰を下ろされちゃった。
ふん…最近童貞を全く恥じなくなったな。
つまらない。

「それにしても、みんなどこ行っちゃったんだろうね~」
「そうですね」
これだけ人がいるんだから、無闇に歩き回っても見つかるわけ無いよ。
まったく…身体ばっかり大きくて、中身は子供と変わらないんだから。

「…気になってたんだけど、それ、ガチコマンドだよね?
もうお面になってるなんて早いな~!」
「伏線は6話の時点で出てましたからね。かなり前から準備されてたんでしょう。
さすがの練り込みです」
「そうそう!
まさかあのときの新メニューが答えになってるなんて、全く思わなかったよ~!」
「13話でブラックのスーツがすぐに元どおりになったのも、伏線だったんでしょうね」
「む…なるほど…。
確かにあのとき、山嵐長官と一緒に調理場に入っていってたもんね。
そうだよ!その前にちゃんと奥さんの写真に触ってたし!
だからゴンゴンの掃除をしてたゲスラゴンが間違って入ったのも、ネオガチベースだったんだよ!」
「そうですね。ひょっとしたら次は………」むふぅむふぅ

まとわりつくように重くて熱かった風は、今は冷たいソーダをもっと美味しくしてくれていて。
見下ろす先の人と光はとっても賑やかで、その中に『私』も居るんだってことが、ちょっとだけ……誇らしい。
……こういうのも悪くない…かな。
今日はこのまま花火も……。


ワイ... ガヤ...


「さて!
よく休んだし、もうひと頑張りしようか!」
勢いよく立ち上がり、夜空に向かって宣言する…のはいいけど、
「『もうひと頑張り』って、あてでもあるんですか?」
「ちょっと戻った道をまっすぐ行ったら、運営のテントがあったはずだから、放送で呼んでもらおうよ」
「え?」
「『え?』って、最初からそのつもりだったんだけど…あっ、ううん。
ひとはちゃんが迷子だって言うつもりはなくって……ふたばちゃんを!
『ふたばちゃん、みんなが運営テントで待ってます』って放送してもらおうよ。
そしたらみんなも気づいて集まってくれるだろうし。ね?」
「あっ…それ、は……」
「そりゃ途中で見つけられたほうが、もちろん良かったんだけどさ。
でもきっとみんなもひとはちゃんを探してると思うし、そろそろ花火も始まるし……。
ちょっと恥ずかしいかも知れないけど、放送で呼んでもらったほうがいいよ」
「べ…別にそんなの恥ずかしがるような子供じゃありません!
ただその…集まる、のが……そう!
バラバラになっちゃったときのために、集合場所を決めてあるんです!
花火が始まったら橋の下あたりで集まろうって!
だから下手に呼び出したりすると、どっちに行ったらいいかわからなくなって、結局みんなで集まれません!」
「そうだったんだ?
う~ん…じゃあそこに行ってみようか」
言葉と共に差し出される、手。

先生が傍にいるときは、いつだってこの手が目の前にある。
あるのが当たり前だ。だからいつだって選択肢は私にある。
別にどうしてあげたっていいけれど、今は……そうだ、今は足が疲れて立ち上がるのも面倒くさい。

ギュッ

「足元に気をつけてね」

そしてまた、ふたりでゆらゆらと歩き出す。今は足が疲れてるから、さっきよりもっとゆっくりと。、


……みんなからだって、呼び出しが無いわけだし。
本当に予定はしてたんだから、1度行ってみてからまた考えればいいよ。杉ちゃんのママもいるはずだし。
きっとみんなもそう考えてる。私以外はもう集まってるかも。
だから、少しだけ花火を見たら合流しよう。



ゴメン、みんな。





ざわざわ がやがや わいわい

   ざわざわ がやがや わいわい

 ざわざわ がやがや わいわい

「うひゃあ!すごい人だ!
ひとはちゃん、集合場所はどのへんなの?」
「えっと……」キョロキョロ

杉ちゃんは特別席があるって言ってたけど……ダメだ。人の壁のせいで周りが全然見え「ちょっとごめんね」
「え?
わ…キャッ!?」
先生の腕が背中とひざ下に触れたと思ったら、そのまま抱き上げられた!!

「これなら少しは見えるでしょ?
ほんとは肩車してあげたいんだけど…浴衣だしね」

いきなり何するんですか変態ロリコン教師暑苦しいです汗臭いです顔が近い近い近い大声を上げますよ!!!
「まっ…まあ多少は見えますね!みんなを探すのにはこのほうが良いですし!しょうがないですね!!」

そうだ!しょうがないしょうがないしょうがない!!

うぅ…だけど顔が熱い……。
確かにこれまで見えなかったものが見えるようになったけど、こんな姿知り合いに見られたら、なんて言われるかわからないよ。
何か…そうだ、お面!

ゴソゴソ

「あれ?
お面で顔を隠しちゃったら、みんなにひとはちゃんがわからなくなっちゃわない?」
「い…いいんです!銀色だから光って目立ちます!このほうが周りと区別がつくんです!!
もちろんみんな、私がこのお面を持ってること知ってますし!!
だからこれでいいんです!」
「ああ、なるほど!」ヘラヘラ
もうっ!気楽に笑って!少しは私の苦労も考えてください!!
大体、なんで先生はいつもこのおひめ…抱っこなんですか!!!避難訓練のときとか!
恥ずかしく………っ。


……あぁ、そっか。


「あった。もっと橋ゲタの方です」

そうですよね。恥ずかしがる理由なんて無いですよね。
私はただの口うるさい生徒、ギャーギャー騒ぐ子供たちの中のひとりですもんね。
先生は気になりませんよね。
少しくらい内側にいれてしまっても、せいぜい歳の離れた妹にしかなり得ませんし。
今日だって、みんなそう言ってました。

「うん、わかったよ」ヘラヘラ

いえいえ、言いすぎましたよ。妹なんてとんでもない。
ま、ちょっと大きなお人形ってところですか。今日の私は特に大人しいから、ますますそうですよね。
そりゃあ先生なら気楽にヒョイヒョイ運べちゃいますよ。
まったく、これだからキモオタは。
いい歳して、こんなお人形を抱えたままウロウロするなんて、普通の人から見たらドン引きなんですよ。
情けない。みっともない。
恥ですよ、恥。
「本当にわかってるん[ただいまより、花火大会を開始します。最初は鴨橋商店街提供のスターマイン――…]

「あちゃ…始まっちゃったか。
ん…せっかくだから、ひとはちゃんはこのまま花火を見てていいよ。地面よりは見やすいでしょ?
それにこれだけ人が多いと、ちょっと危ないしさ。
ひとはちゃんは軽いし、そんなに距離もないからボクは気にならないよ」
「そうですね。私は楽ですし。
せいぜいキモオタらしく ドーン!! でください」
「キモオ……。
ひどいなあ……」
どっちが。


ドドーン!!


ドーン パラパラ... 「わわっ、ますます人が多くなってきた。ぶつからないように気をつけなきゃ。ボクはともかく」

ボーッと見る。

ヒュルル... パパパパパ 「今のは凝ってたな~~!バババッて綺麗だった!」

キラキラして綺麗。

ドーン パラパラ... 「おっと、すいません。わっ!ごめんなさい!ふぅ…いたた!踏んづけてます!!」

こんなにゆっくり、こんなに近くで見るのは初めて。

ヒュルル... ドドーン!! 「おおっ!!10尺玉ってやつかな!!!」

先生の瞳。

ドーン ドーン ドドーン 「うわわっ、人の波が! ギュウゥ …大丈夫だった、ひとはちゃん?」


苦しい。


ヒュルル... パッ サァァァ 「あと少しで着くから、もうちょっと我慢してね」



涙が止まらない。



「ここは…関係者席?
ひとはちゃん、この辺りは普通の人は入れないようになってるよ?」

「…………」

「ひとはちゃん……寝ちゃったのかな。
お面があるから…あれ、首元が濡れて……?」

「…………」

「ヨダレを垂らすほどぐっすり眠るなんて、よっぽど疲れてたんだなぁ。
ちょっと歩かせすぎちゃったか…。
まぁそもそも子供には遅い時間だもんな。
起こすのは可哀相だし、このまま寝かせておいてあげよう」


「……………………………………………………………………………………」


「とは言え、どうし「あっ!矢部っち!!」 ふたばちゃん?」

「それに…ひとっ!良かった~~!」トテチテトテチテ
「三女がみつかったのか!?
ほら見ろ佐藤!あたしの言ったとおり、こっちに来たほうが良かっただろ!!」
「わかったわかった。全部お前が正しいよ…」
「まあまあ、三女さんが見つかってよかったじゃない。
矢部っちと一緒だったなんて思わなかったけど…ああっ!!!
そっか、三女さんは矢部っちとアバンチュールするためにわざと……!!
キャー!キャーー!
キャ~~~~~~~!!!」
「「落ち着けよ吉岡……」」

「…とりあえずよかった。これであとは「はっくしょい!」 千葉くん?」

「うぅ~…さすがにびしょ濡れだと寒ぃ……。
ぐずっ…。
しかも金魚臭くて気持ち悪ぃぜ……ぶえっくしょん!!」
「うっさいわね!
そもそもあんたが私たちのブラ…バカなことするからでしょうが!変態!!
だまってちゃんとひとは達を探しなさい!!」
「そうよ!
警察に突き出されなかっただけでも感謝なさい!!
今回はおかげでイイ表情が撮れたから許してあげるけど、次は容赦しないわよ!」ピッピッ ジュルリ
「私はあんたを今すぐ突き出したいわ……」

「これで全員か」
「…………」

ガヤガヤ ワイワイ ガヤガヤ

「ひとっ!…あれ?」
「しーっ。
ぐっすり寝てるから、起こさないよう静かにね。
…あっ、ダメだよ。お面、下手に取ったら髪の毛を引っぱっちゃう」
「なんだ、三女はもう寝てるのか?
いつも強がってるけど、やっぱまだまだ子供だな!」
「宮ちゃん、もうちょと静かに……。
…でもそうだね。三女さんはぬいぐるみや絵本が大好きだったり、意外に子供っぽいところあるよね」
「いや、絵本は吉岡の……なんでもないわ。
ま、確かに三女は身体が小さい分だけあんまり体力無いわね」
「コイツは昔からずっとインドア派だしな」
「ギャーギャーうるさいだけの誰かと違ってかわ…静かでいいじゃん」

「………………………………」


「あんた達、いい加減にしなさい」


「みつばちゃん?」
「な…なんだよ。お前がうるせぇのはホントのことだろ」
「ひとはのことよ。
この子は毎日お昼までグースカ寝てるあんた達と違って、お洗濯にお掃除にって朝が早いんだから。
勝手なことばっか言ってんじゃないわよ」

「…………」

「夏休みは朝晩だけじゃなくて、お昼ご飯も作ってくれてるし。
特に、今日はみんなで花火を見に行くために、いつもより早起きして頑張ってたのよ。
この浴衣だって、ひとはが準備してくれたんだから。
……もっ…もちろん私もお洗濯とかかなり手伝って…明日からはもっと手伝ってあげる予定だけど……。
とにかくっ、ひとははあんたらなんて比べものになんないくらいしっかりしてるんだから。
…私には負けるけどね」

「…………」

「……そうだね。みつばちゃんの言うとおりだよ。
ひとはちゃんは、いつも部屋を汚くしてるボクなんかよりよっぽどしっかりしてる。
今日だってボクがボーッとしてる間にふたばちゃんを見つけてくれたし、ここに来たほうが良いってちゃんと考えて教えてくれた。
毎日すごく頑張ってて…頑張りすぎてるから、本当に疲れちゃったんだね。
今はゆっくり休んでね、ひとはちゃん」
「ひと…いつも迷惑かけてごめんなさい。美味しいご飯をありがとう。
大好き。
……矢部っち、お願いっス。ひとはをこのまま連れてって欲しいっス。
花火はまだたくさんあるし、途中で起きてくれたら一緒に見れるかも…ううん、小生このままみんなで一緒に見たいっス。
だから本当にお願いっス」
「ふたば……先生、俺もお願いします」
「俺も頼む、矢部っち」
「お願い、矢部っち。席、良いところ用意するから」
「あたしもお願いします」
「私も三女さんと一緒に見たいです。お願いします」


「ま、童貞なんかにはもったいないけど。私が言ってあげるほどのことじゃないんだけど。
私はお姉様だからね。しょーがないわね。
ホント、手のかかる妹ね。
…お願い……してあげるわ。光栄に思いなさい」


「……………………………………………………………………………………」


「うん、もちろんいいよ。
せっかくの花火だもん、みんなで見るのが1番だよね。
みんなの楽しい思い出作りが手伝えるなら、本当に嬉しいよ。
それにボクも、保護者としてみんなと一緒に見るつもりだったから、気にしないで」
「童貞の分際でこの私を保護しようなんて、100万年早いわよ」
「………キミらはほんと、姉妹だよね……」


――――――――――


「やっとひとはちゃん達の家に着いたか。
…けど、結局ずっとぐっすりだったな。本当に疲れてたんだ……。
なのにずいぶん歩かせちゃってごめんね、ひとはちゃん」

単に先生がずっと抱えてるから、タイミングを逃しただけです。
どうせ大したものじゃないんですから、パイプ椅子にでも何にでも降ろせばよかったんですよ。

「さて、もう遅いし、ひとはちゃんを手渡したらスグ帰るか。
………長居をするのは嫌な予感がするしな……。
みつばちゃん、玄関を開けてくれる?」
「今回だけは特別よ。
よっと…ただいまー。
あらチブサ。ちゃあんとご主人様を待ってるなんて、あんたは偉いわね~」
「ニャア?」
「夜分にすみませ「パパー!ただいまー!」ドンッ うわっ!」

ドタッ

キャッ!
痛…くはなかったけど、びっくりした…。
それにこの、おっぱいの上に感じる重みは…!

「もがむぐぅ」
ひゃっ…先生の唇が浴衣越しに…んぅっ!
~~~~ッ!いくらなんでも「痛ぅ~~…腕…ひじが……」 ………。

「バカっ!気をつけなさいよ、ふたば!声も!」モニョモニョ
「申し訳ないっス、矢部っち!大丈夫っスか!?」モニョモニョ
「あ、うん。大丈夫、ひとはちゃんは起きてないよ。もちろんボクもぜ~んぜん大丈夫だよ」モニョモニョ
嘘つき。
私の体重が全部かかったんだから、大丈夫なわけないよ。そんな下手くそな嘘、子供にしか通じない。
先生はいつもそうだ。
何をやってもダメなくせに、誰かのためにばっかり無駄に頑張って。
誰もそんなこと頼んでないっていうのに。

……でも。
守ってもらったのはほんとのことだし、それ以外も今日は…いつも色々…余計だけど……。
一応、ありがと「けど顔を床にぶつけちゃったよ。鼻血が出てないかな?」

「きゃーせんせいわたしをおしたおしてどうするつもりなんですかー」

「えええっ!?そんなつもりは全然なかったよっ!!
っていうかひとはちゃん、起きてたの!?」
「キサマ…この夜更けに、娘に何をしていた……?」ビキビキビキ
「ちょっ!!?
違うんです!!誤解です!!ひとはちゃん達からも……いない!!?
き…聞いてください!!ボクはひとはちゃんがぐっすり寝てると思って!!
……いえ…そうじゃなくてですね…」


「くたばれ変態教師!!!!」






「鼻血、出てますよ。
ティッシュ取ってきましたから使ってください」
「……ありが…とう…」ガクリ
思ったとおりに、ごみ収集所で先生の動きが止まった。



<おわり>