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誰よりも。世界一。
その自信はあるよ、俺だって。
だけど、


部屋には鍵が付いてない。
だから部屋中の物をドアの前に掻き集めてバリケードにした。

「信也…、学校、今日はお休みの電話を入れておいたから。
お母さん、怒ってるわけじゃ……そうね、怒ってるわ。
でもふたばちゃんから事情は聞いたし、話は出来るつもりよ。落ち着いたら降りてきなさい」

「信也、もうお昼よ。いつまでも引き篭もっていないで出てきなさい」

「信也、おにぎりとお茶、ドアの前に置いておくから」

「信也、もう夜よ。せめてお茶だけでも飲んで」

「信也。お父さんだ。
あ~、まぁ、正直驚いたよ。でもお前とふっちゃんの間の事だから、何か特別な事情もあるんだろう?
…なぁ、男同士なんだ。出てきて話してくれないか?」





「信也…。丸一日なにも食べずになんて、本当に身体壊しちゃうわよ?
お願い、出てきて」

「おにぎりとお茶、ドアの前に置いておくわね。
お母さん、お昼過ぎまで家を出てくるから。少しでいいから食べてちょうだいね」





「信也、ふたばちゃんが迎えに来てくれたわよ。
二日連続で学校を休んだんだし、明日からは創立記念日を入れて三連休でしょう?
今日くらいは学校に行きなさい。……信也!!」

「せっかくふたばちゃんが来てくれたのに、あなたは恥ずかしくないの!?
本当ならあなたが丸井さんの家に謝りに伺わなきゃいけないのに!
男の子でしょう!?家族だけじゃなく女の子にまで甘えて!いい加減になさい!!」





「しんちゃん……。めーわくばっかり掛けてごめんね。
あのね……その…、小生は気にしてないし、パパもみっちゃんも怒ってないから何にも気にしないで欲しいっス。
………。
小生の事、き…嫌いになっちゃったんなら、今日からのお休みは合宿で居なくなるから、安心してお外に出てきて欲しいっス…。
…そ、それじゃあ、またね…」

「ねぇ、信也。明日はお姉ちゃんが帰ってくるって。
久しぶりに家族みんなでどこかへ食べに行かない?何でも好きなもの言ってよ。
ね、昨日から水しか…」


気持ち悪い。
食べる気も、寝る気もほとんど起きない。

でも何より気持ち悪いのは、最低限のそれを取って落ち着くと、あの夜の快感を思い出して手を動かしてしまう自分。

動物だな。





チュン チュン

朝、か……。
今日は土曜だっけ?おかしな時間に寝起きを繰り返してたせいか、よく分かんないや。
まぁ、それもどうでもいい事か…。

ガタゴト

……?
窓のほうから物音…?俺の部屋にはベランダも無いのに…。
…ハシゴ……?

ガッシャーン!!

「な!?」

金槌で窓を割り、ロックを開けて入って来たのは…。
「姉さぐあぁ!」
いきなり金槌を投げつけてきやがった!!左肩に直撃し、骨まで響く鈍痛に思わず悲鳴を上げる!
「何すげっ!ぐあっ!」
そのまま無言で近づいて来たと思ったら、俺を滅茶苦茶に踏み潰す。
「ぐがっ!が、が!う痛ぅ!!」
し、死んじまう…!

何とか抵抗しようと試みるが、三日以上ろくに飲まず食わずで過ごした身体では、大学でも剣道を続けている姉ちゃんには適わない。
そのまましばらく、無抵抗で蹂躙を受け入れさせられる。

…!……っ!

「がっはぁっ!うづぅ…」
「はぁ、はぁっ、ぅ、はぁ…」

やっと姉ちゃんの気が晴れた頃には、俺は満足にものも言えないほどぼろぼろになっていた。
ぐっああぁ…!左肩、折れてんじゃねぇだろうな…?

「な、にすん、だ…、てめぇ…」
「外出ろ」
「何言ってごふぅっ!」
文句を言おうと口を開いたら思いっきり腹を蹴り上げられ、のた打ち回る事になった…。

「いいから外出ろ」
「…ドアの前、見ろよ。簡単には出らねーよ」
「死なない程度にご飯食べて、トイレも行ってたんでしょ。
何個か小さな物を動かせば簡単に開けられるようになってんでしょうが。あんたそういう小賢しいの得意だもんね」
「…っ」

図星を突かれ、渋々と動き出す。
……左足も痺れて動かないや…。くそっ。

「まったく。
土下座までしたからお情けで持たせてやった携帯も切りっぱなしにしやがって。
誰が代金立て替えてやってると思ってんのよ。
しかも約束、全然守れてないじゃない」

姉ちゃんの好き勝手な言葉を背に、辞書とカラーボックスを動かす。とにかく左肩が痛い。

「これで、出れるよ…」
「『外出ろ』つったでしょ!」ドガァ
「うぎゃ!」

文字通り廊下に…階段、玄関、そして外へと蹴り出される。
「おい!俺寝巻きのままだぞ!」

バシィ

痛っ。投げつけられたシューズが顔面に直撃した。

「三日休んだんだから、とりあえず駅までの道を三往復してきな。ちゃんと丸井さんちに寄って」
「意味分かんねーよ!大体、こんな格好で駅まで行けるか!」
「ウチには自分の仕事をしないタダ飯喰らいを居させる余裕はないの。
あんた、誰のおかげで高い私立に行かせてもらってると思ってんの?
とりあえず距離だけでも取り返してきなさい。
その後の事はあんたが帰ってくるまでに考えとくわ」

ちっ!適当に時間つぶして戻るか。

「言っとくけど、あんた嘘がモロに顔に出るからね。ちゃんとやらなかったらすぐに分かるんだから。
次くだんない事やったら、弟とは言えマジで殺すわよ」
「わーったよ!!」
くそっ!面倒くさい女だな!

そのままズルズルと左足を引きずりながら歩き出す。
毎日の光景を辿る。



『しんちゃん、おふぁよ~…』
‘ああ、おはよう。ほれ、靴紐結んでやるからさっさと足出せよ’


『うう~。眠いっス~』
‘お前なぁ、もうちょっと速く歩かないとマジで電車間に合わねーぞ’


『友達に聞いたんスけど、市街に美味しいクレープ屋さんが出来たらしいっスよ~』
‘またそんなアバウトな情報を…。まぁ、土曜までに調べとくよ’


『やっと駅に着いた~。これで寝ら…れ、る…。ぐー』
‘もうちょっとだから我慢しろって。ていうか立ったまま寝るな!’



………。
「帰ろう、ぜ」

動物なうえ未練がましい。女々しい。笑えるぜ。

涙も出ない。





ずるずると左足を引きずり、今度は駅から家への道を辿る。

あと二往復半か…。その前に腹へって野垂れ死にそうだな。肩痛ぇし。
久しぶりに交番でカツ丼でも「おいっ!」 …何だ?

「おい!佐藤!!」

……後ろから追いかけてきたのは…。
「何だよ、千葉か…。何か用か?」
「…ああ、用だよ。ちょっと顔貸せよ」
「………分かったよ…」
面倒くさい奴だな…。

まぁいいか…。
別にもう、しなくちゃならない事もねーし。



~~~~~~~~~~



「まったく。血相変えて店から飛び出していったと思ったら…」



~~~~~~~~~~



駅近くの公園。
そういえば、ここでもよくふたばと遊んだな。あの時は確か……。
「……いっ!おいっ、佐藤!聞いてんのかよ!?」
「うん?ああ、聞いてるよ…。
何だっけ…?」
「っつ!!」

ガッ!

千葉が俺の襟元を掴む。
何だよ?鬱陶しいな…。

「お前!ふたばに何言ったんだ!!?
あいつ、泣きながら!死にそうな顔で!!俺「お前には関係ないだろ…?」
「~~っ!?」
首もとの手に力がこもる。身長差があるから、吊り上げられて首が締まる。

あぁもう、本当に面倒くさい…。

「もう一緒にいられない、って伝えたんだ。
俺じゃあいつに相応しくないって、やっと気づいたんだよ。
いや、本当はもっと前から気づいてた。
単に俺がヘタレで、先延ばしにしてただけだった。
やっと、俺のしなくちゃならない事が出来たんだよ…。
だからさ、怒るなんて筋違いだよ。むしろ褒めてくれよ?」
「てめぇ!本気で言ってんのか!?」
「本気だよ。
俺じゃあいつの一番で居続けられない。その資格が無い。もう出来る事も残ってないんだよ」
「んなわけねぇだろ!ふたばにとってお前は、そんなんじゃねぇだろ!?
だからお前だって頑張って来たじゃねぇか!?みんな知ってる!!お前が誰よりもふたばのために頑張って来た事を!!
なのに何で今更そんなくだんねぇ事言ってんだよ!!?」

何だよ?今日はずいぶん熱血だな?…だけどさ。
「ははっ」笑っちまうよ。

「…?何がおかしいんだよ!?」
「いや?他人事はどうとでも言えるんだなって、さ?」
「あぁ!?俺は真剣に「じゃあ」

そうだ、言っちまえ。
これで面倒くさいのがいなくなるなら、願ったりかなったりだ。

「じゃあ、何でお前は三女に想いを伝えない?
好きなんだろ?誰よりも。
だけど出来ない。
三女の一番になれないから。絶対に勝てない相手がいる事を知っているから。
努力とかそんなのじゃ埋まらないものがある事を分かってるから、出来ない。
だから、影から見守るとかさ?自分が傷つかない、適当にやれる役目を作って、それで適当に満足してる。
本当に頑張る事自体に意味が有るって、それで一番にもなれるって思ってんなら、今すぐ告白してこいよ?
自分こそが一番三女を好きでいる、って思ってんだろ?
ほら、とっとと行けよ。
出来ないだろ?
俺も一緒なんだよ。
『明日』あいつの前に、俺じゃ勝てない相手が現れる。
だから早めに適当な役に引っ込んで、適当にやってきたいんだよ」
「~~~~っ!!」
千葉の顔が怒りに染まる。

やれやれ。
まぁどうせもうぼろぼろなんだ。今更どれだけ殴られても変わんないや。
あぁでも、歯を食いしばるのも面倒くさい。

俺は、力を抜いて軽く目を閉じる。



?来ないな。どうした?



ゆらゆら、目を開けると、千葉が、泣いていた。

ぽろぽろ、ぽろぽろと、涙を流していた。
こいつがこんなに涙を流すところ、初めて見た。

…。

そっか。そうだよな。
本当に、本気で、俺たちの事を心配してくれたんだよな…。
だからそんなに苦しいんだよな。痛いんだよな。

「分かったよ。もういい。絶交だ、負け犬」

千葉が手を離す。
支えを失った俺は、だらん、と、力無くうなだれる。

千葉の背中は見ない。見る資格は俺にない。

大切な人も、親友も、自分で手放した。
本当に、
「最悪だ…」

涙も出ない。





どのくらいうなだれていたんだろう?
ふと気づくと、地面に誰かの足が見えた。

のろのろと、目線を上げてみる。

「ほんっと、あんたら雄ガキどもってどうしようもないバカばっかね。
あいつは多少マシな方かと思ってたけど、気のせいだったわ。
何が『分かった』のよ?何が『もういい』のよ?
意味不明もいいとこだわ」

「……長女、か。
何だよ…?バイトの制服でさ…」
「べぇつにぃ?
変態ブタゴリラが面白い顔もっと面白くして出て行ったから、さぞ見事な負け犬が見られるんだろうと思って、ね。
ま、期待してた程度には面白い見世物だったわよ?」
「……」

「しっかし、あんたらって本当に救い難いバカねー。
『オンナのためを思って身を引いたオレ、カッコイイ』?
『トモダチと本音でぶつかりあったオレ、カッコイイ』?
勘違いもここまで来ると、イタいを通り越して憐れよ?
雄ガキって、どうしてこうバカなのかしら。
ったく、あの童貞の方がよっぽどマシよ」
「……」

「特に今のあんた、マジで格好悪いしウザイから。浸りたいなら人目につかない草むらとかでやってよ。
ああ…でもそれじゃ、カッコイイところをみんなに見てもらえないもんね?」
「……」

「どうしたのかしら~?あんまりにも図星すぎて、何も言い返せないのかしら~?」
「……」

「ま、そうよね。
おとといも昨日も、せっかくふたばが勇気を出して迎えに行ったのに、『演出』のために踏みにじっちゃうくらいだもんね」
「……っ」

「今だって、『もう涙も枯れた…』とか思っちゃってるんでしょ?
んなわけないじゃない。
あんたが泣かないのは、自分の全部を出してないからよ。口先ばっかりなの。何もかも『演出』なの」
「…がう」

「そのくせ本当はあのおっぱいがもったいないから、中途半端な回答にしといて、いつでもヤれるようにしてる」
「ちがう」

「結局あんたは自分の事しか考えてないのよ。ふたばの事も本当は二の次なの。
うわぁ、マジで寒いわー!」
「違う!」

「自分が1番可愛いつまんない男のくせに、何言ってんの?」
「違う違う違う!
俺はふたばのことを1番に想ってる!世界一大事にしてるんだ!!あいつのためなら何だってやる!!してやりたいと想ってる!!
だけどダメなんだ!だけどそれだけじゃ意味がないんだ!!
凡人で!足手まといなんだよ!!
あいつの『特別』に見合うものが俺に無いんだ!
あいつの『一番』にふさわしいものが俺には無いんだよ!!
もっと速くて高い奴がいくらでもいるんだよ!!!」

「最初から諦めてる負け犬のくせに、何言ってんの?」
「違うっ!!!
ふたばのためならどんな努力でもするさ!頑張るよ!頑張ってきたんだ!!誰よりも!!
だけどダメだった!!
もう届かない!!もう手を放しちゃったんだ!!
たったひとつだったのに!あいつの笑顔を自分で壊したんだよ!!
もう泣かせるしか出来ないんだ!!!」

「1回こけただけで泣き出しちゃう弱虫のくせに、何言ってんの?」
「違うんだよ!!
俺はどうしようもなく間違えた!傷つけたんだ!泣かせたんだ!
最悪だ!!
あの夜居たのはふたばだったのに!ふたばじゃなかった!
俺がふたばを曲げたんだ!ずっと曲げさせてたんだよ!!
絶対に許されないんだ!!」

「誰が決めるのよ?」
「決まってる!ダメなんだよ俺が!俺は!!
なのにずっとあいつを騙して!隣に置いて!!好き勝手に使って!!
ふぅっ、くぅぅ…!
もう、ダメなんだよぉ……!分かんないんだよぉ……何すれば…ふたばに、ふたばと…。
っく、う、うぅぅうぅ。
ふた、ば…ふっ、くうぅ…」

だけど本当は一緒に居たい、痛い、イタイ。

涙を止められない。
独りでは立つ事すら出来なくて、膝から崩れ落ち、手を付く。

ふたば…。

「……今のあんたはミジンコ以下で、踏んであげるのも面倒くさいわ…。
仕方ないわねぇ。世界一優しくて賢くて美しいこの私が、今のあんたが何をすればいいのか教えてあげるわ」

!!!!?!!?

「んなっ!?ほっ、本当か!?」
「その代わり今度、ミラクルジャンボパフェを奢りなさいよ!!」
「する!そんなもんいくらでも奢ってやるから!!」
「ゲンキンな犬ねぇ…。
いい?一回しか言わないから、よ~っく聞きなさい!」
「ああ!」



「走りなさい」



???
「な、何…?」意味が分からない。
「だから、走りなさい。ぶっ倒れるまで全力で町中を走ってきなさい。
いい?町中を、よ」
な…
「何だよそりゃ…?それが何になるんだよ?」
「んなこと知んないわよ。でも、あんたがどれだけダメダメ負け犬でも、走るくらいは出来るでしょ?
だから走ってきなさい」
「滅茶苦茶だ…。
意味、分かんねーよ…」
「ごちゃごちゃうっさいわねぇ…。
あんた言ったでしょ?ふたばのためなら何でもやるって。
だからとりあえず走っときなさいよ。何の役に立つかは知らないけど、何かの役に立つかも知れないでしょ?
少なくとも、何にもしないよりは遥かにマシよ。
とりあえず、負け犬でも出来る事から頑張りなさい。
それとも何?あんたはヤれないって分かったら、初めてを食べ損なったら、頑張るのをやめちゃうサルなの?変態パンツなの?
サクっと簡単に死ねば?」
「ち、違「じゃあ走りなさい!!」ビシィ!
痛っ!
長女が足元の小石を投げつけてきやがった!

「何すん「とっとと行けー!!!」ビシ! ビシィ! ドガッ!

くそっ!





ドタッ トタ タ ドタ

あぁ左足が痛ぇ。肩はもっと痛ぇ。
つうか、こんな身体でまともに走れるか。どいつもこいつも好き勝手言いやがって!
『しんちゃん!あそこにでっかいセミが!!』
……そういや、そんな事もあったな…。

タッ ドタ トタタ

『しんちゃーん!川原は凧がよく上がるっスよー!』
…ちょっとでも広い場所があれば、とにかく何かして遊んだな…。

タッタッタッ タタッ トタ

『見て見てしんちゃーん!こんなところに抜け道があったよ~!!』
ったく、こんな狭いとこまで一緒に潜り込んでたのか。我ながら呆れるよ。

タッタッタッ   タタ タタ

『しんちゃん!あっちに何か飛んでいったよ!?見に行こう!!』
ほんと、お前は一緒にいて飽きない奴だよ。あのときもこの先に行って……。

タッタッタッ タタ タッタッタッ

『あ~、もう夕方かぁ~。でも、今日もすっごく楽しかったね、しんちゃん!!』
そうだな、今日まで本当に楽しかった。
そうだよ、俺なんかにはもったいないくらい幸せだった。

それで十分だ。





ズルッ ズル ズズズ・・・

あぁ…本当にもうこれ以上は走れないか。身体中がミシミシいってら。
なっさけねぇの。

だけど、ちょっと気分が晴れた。
だから、しっかり見れる。

『あっ!流れ星!!しんちゃんとずっと一緒にいられますように……。…しんちゃんは何をお願いした?』
そりゃ決まってるよ。
俺の願いは。想いは……。

…うん。そうか、そうだよ。
分かったよ、みつば。本当に俺は口ばっかりだった。
千葉、ごめん。お前の想い、分かってなかったよ。

やっと本当に、俺がしなくちゃならない事が分かった。

ズズ ズズズ・・・

「…ただいま、姉さん。母さんも。遅くなってごめん」
「……ばか…。ほんっ…おそ……遅い、わよ…」
「信也………!」
「うん。待ってて、くれてありが……とう」ドサ
「ちょっ!信也!?」
「大丈夫だって、母さん。それよりお腹空いた。
…すっげー、空いた。晩御飯食べたいよ」
「……うん。いっぱいあるから、好きなだけ食べなさい」


そして俺は、信じられないくらい食って、寝た。
すっげー、寝た。





身体はミシミシいってる。左肩も痛い。
だけど、昨日よりは痛くない。左足も動く。
昨日よりは、気分が良い。

うん。やっぱりそうだよ。

「姉さん、ごめん。ありがとう。
おかげで俺、何をしなくちゃならないか分かったよ。
そのために今日、また走りに行くよ。
昨日だけじゃ行けなかった…行きたいところ、あるから。
それで明日の朝、ちゃんとふたばんちに行くよ。
それで全部終わらせてくる。
約束するよ」
「……その目は嘘じゃない、わね。でも……。
まぁいいわ。
あんたの約束には何度もだまされてるけど、今回もだまされてあげる。
夕方には大学に帰るけど、お盆のときにはもうちょっとマシな気分で会えるよう努力しときなさいよ」 「ほれ、携帯」

コレはもういいんだけどな…。
いや、全部が終わってから返すか。

「ん。ありがと」

さぁ、行こう。

タッタッタッ タタ タ タッタッ

……やれやれ、本当に遅ぇな。ろくに走れてないじゃん。
町中を、思い出を全部まわろうってのに、この分じゃまた夜中までかかっちまうぜ。
情けねぇ。

『しんちゃん!はやくはやく~!!焼き芋屋さんが行っちゃうよ~~!』

だけどまぁ、昨日よりは速い、か。
昨日よりはマシ、か。


――――――――――


月曜の朝。
特別な朝。
特別にすると覚悟した朝。

「…………っ」

でも、インターフォンを押そうとする指は、震える。

……やれやれ、本当に情けねぇ。この期に及んでまだ覚悟が出来ないのかよ。
昨日あれだけ走り回ったろう?
あれだけあいつにもらった幸せを確認したろう?

もう十分だろう?

だから、やれ。
これが俺の『しなくちゃならない事』なんだ。

ピンポーン

・・・ダダダッ ガラッ!

「おはよう」
「―――――!」

あぁ、そんなに嬉しそうに笑って……。
それに髪形…ちょんまげ。あの日から毎日、そうやってくれてたのか?
…髪留めも。

………俺なんかのために。


ごめんな。


「丸井さん」
「!!!」

「ごめんなさい、こないだは中途半端にしてしまって。
今日ははっきり言います。俺はもう丸井さんとは一緒にいられません」
「~~~~―――!!?」

「ごめんなさい。俺、丸井さんをずっとだましてました。俺の隣にいてもらうために。
本当にごめんなさい。
俺はとっくの昔に丸井さんに追いつけなくなってました。
なのに俺の速さにあわさせて、たくさんの時間を無駄にさせて、ごめんなさい」
「~~~!~―――~!!―~―――!?」

「こないだの夜だって本当は分かってました、俺をアイシテルって言ってくれたのが、丸井さんじゃない事。
なのに自分が気持ちよかったから、無理やり最後まで続けさせました。本当にごめんなさい」
「―――!!―――――!!!」

「もう俺が一緒だと、丸井さんに迷惑を掛けるだけなんです。俺は足手まといになるだけなんです。
もう、丸井さんを支えられないんです。俺の高さじゃ丸井さんの舞台に届かないんです。
だから、俺はもう丸井さんとは一緒にいられません。ごめんなさい」

「~~~~~~~!!!!」

ふたばが駆け寄ってくる、のを両腕で阻む。
すごい力だ。左肩が痛い。
でも、阻む。
今日が終われば、肩なんて取れてもいいんだから。

「ごめんなさい。
もう俺のところには来ないでください。家に来ないでください。隣に来ないでください。
そんな事で丸井さんの時間を無駄にしないでください。
……この髪留めも、返してください」
「――――~……」
力が、消えた。

……きっと、泣いてるんだろうな。

けど俺は見れない。見る資格は俺にない。
だって、俺は泣かせるために来たんだから。

なぁ、ふたば。
俺、分かったんだ。
人は生活の中で、どんな痛みもすり減らしていけるんだよ。
『今日』、どんなに痛くても、それはいつか癒されるんだ。思い出になるんだよ。
大丈夫だよ、ふたば。
これで一番痛いのは終わったから。もう会わなければ痛みは増えないから。
そして、『明日』にはお前に相応しい人が現れるんだ。
その人に、支えてもらえるんだ。

だからこれが。
はっきりと別れる事が。
お前の幸せのために、今の俺がしなくちゃならない事なんだ。


だから今だけ、お前を泣かせる事を許してくれ。


「ごめんなさい、丸井さん。
俺なんかと、ずっとずっと一緒にいさせて」

あぁ、やっと全部謝れた。
うん。これであとひとつだ。


「すみません、おじさん。俺は、丸井さんを傷つけました」


………。


痛い。
だけど、無抵抗に、ひたすらに殴られる。

痛い。
だけど、ふたばはこの万倍も痛い思いをしている。

「――――!!――~~―!―――――――!!」

いいんだよ、ふたば。
おじさんを止める必要は無いんだよ。
これで、何もかも上手くいったんだよ。



なぁ、ふたば。
俺の役目は終わったけど。
『俺たち』はこれで終わったけど、『ふたば』はこれからも続いていくんだ。
だからお前は、お前の世界で頑張ってくれ。
俺も、俺の世界で頑張って、お前が俺を忘れた頃に、踏み台くらいにはなってみせるから。

何にも出来ない、何の一番にもなれない中途半端な俺だけど、毎日走れば、ちょっとぐらいは速くなれるから。


なぁ、みつば。
俺、全部出したよ。だから泣いてる。
すっげー、泣いてる。



~~~~~~~~~~



「頭イタ…。
本当の本当に、救いようの無い究極のバカだったとは……」



~~~~~~~~~~