※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

==========


…しんちゃん………


次の日になれば、怖い夢は消えてると思ってた。
しんちゃんちに行けば、玄関で待ってくれてると思ってた。
しんちゃんと話せば、仲直り出来ると思ってた。
次の月曜になれば、きっと大丈夫って思ってた。

でも、はっきりと言われた。
もう一緒にいられないって。
もう隣に来ないでって。

ずっと自分勝手だった。ずっとめーわくを掛けてた。『明日』にはこうなっちゃう気がして怖かった。
だから、頑張ってきた。

でも、遂にしんちゃんに嫌われてしまった。

だけど、それでも小生は……。


…今日は独りで電車に乗り、学校へ行く。

本当はしんちゃんの教室まで会いに行きたい。
でも出来ない。来ないで、っていわれたから。
もっと嫌われるのが、怖いから。

まっすぐ自分の教室に入る
「おはよ…っス…」
「あ、おはよう、ふたばちゃん。
あ…あの…その、ね?だいじょ…じゃなくって、元気だ……。
………ううん、おはよう」
「ね、ふたばちゃん。調子悪いなら無理しないほうがいいよ…。本当に辛そうだし、先生には私から言っておくよ?」
「うん…。ありがと、っス…。
でも月曜も休んじゃったし、続けて休むのは…」
「……今日は木曜だよ?本当に無理しないほうがいいって…。
ね、駅まで一緒に行ってあげるから、今日は帰ろう?」
「うん…。でもだいじょうぶっス…。部活も出なきゃいけないし……」
「ふたばちゃん……。やっぱり、さと「峰ちゃん!!…何かあったら言ってね?今日もお昼は一緒に食べに行こ?」





キーン コーン カーン コーン

「きりーつ。れーい。さようならー」

あれ……?今日はもう終わり……?
何があったっけ…?お昼も、何、食べたか、な……。

…………。
わしゃわしゃ。
「部活、いかなくちゃ…。走らなきゃ…」

小生にはそれしか出来ない。

約束したんだ。
苦しいからって破るわけにはいかない。小生だけが楽をするわけにはいかない。
だって小生たちは……。

「ふたばちゃん!!!」

……?
教室に入ってきたのは『しんえーたい』の…。
しんちゃんと同じサッカー部の…。
「入間、くん…?」
「あ…!俺の名前……!いや、そうじゃなくって。
ふたばちゃん、ごめん!!」

バッ

「え、あ……?」

急に、床に頭を……?クラスのみんなも驚いて………。

「本当にごめん、ふたばちゃん!!
今日は代表して謝りに来たんだ!
俺たちのせいで佐藤とケンカさせてしまって、本当にごめん!!
二人がケンカするなんて本当に思ってなかったんだ!こんなつもりじゃ無かったんだ!!」

「それは、小生が……」

「違うんだ。俺たち、二人の仲を裂こうなんて全然思ってなかった。
そりゃ、嫉妬してないなんて言えないよ。少しは俺たちにも笑顔を分けて欲しいって邪魔もした。
でもみんな、あいつ一人だけじゃ出来ない事もあると思ったから、
少しでも、ふたばちゃんのために出来る事したいって想ったから、集まったメンバーなんだ」

「うん…。分かってるっス……。
だって小生、いつもみんなに助けてもらって、めーわく掛けて……」
それでも小生と一緒に笑ってくれる、ほんとに優しいみんな。
だからみんなの顔も名前も覚えてる。浦和監督や北本部長と同じくらいお世話になってるんだから。
当たり前だ。

「俺たち、誰も迷惑なんて思ってないよ。
……覚えてないと思うけどさ、俺、去年の夏にふたばちゃんに助けられたんだ。
ばあちゃんの形見の懐中時計、友達とふざけてて窓から落としちゃって…。
そのとき、ふたばちゃんがいきなり飛び出して捕ってくれたんだ…3階だったのに。
そのまま中庭の木に落ちちゃったから、すっげーびっくりして慌てて見に行ったら、
ふたばちゃん笑顔で、壊れなくて良かった、って。
……腕、怪我して血が出てたのに。
時計の事どころか、俺の事も全然知らないはずだったのに。
俺、人生で一番嬉しかった。
世の中ってこんなに『綺麗』な娘がいるんだって感動した。
頑張ればこんなふうに…ううん、俺もそんなふうに生きられるよう全力で頑張ろう、って想えた。
ふたばちゃんは、まるで………。
…だから少しでも君の助けになりたいって。君にお返しがしたいって。
ウチにいるのはみんな、そんな奴ばっかりなんだ」

そんな事あったかな…?
ううん、それくらい当たり前の事っス…。
だって、しんちゃんはいつも……。

「最近ふたばちゃんに元気が無いの分かってたからさ、先週からは佐藤の邪魔はやめようって言ってたんだ。
でもあいつ、ほとんど全部休んじまって……。
それで今週はすっげー顔腫らして学校来たし、次の日からはふたばちゃん、毎日泣きそうで、朝も返事してくれなくなって…。
他に何か原因があったっていうのは分かる。あいつがふたばちゃんを独りにするなんて、よっぽどの事だと思う。
でもきっと、俺たちが余計な邪魔をしてなければこんな事にならなかった!
本当にごめん!!」

ゴン!

「あ…」頭、痛そう……。
……小生のせいで…。

「……正直に言うと、ふたばちゃんに嫌われるのが怖くて、先に佐藤に謝りに行ったんだ。
部活でも、ふたばちゃんと仲直りして欲しいって頼んだんだ。
けどあいつ、昨日は部活まで辞……いや、お願いだよ。もう少し待ってて。
必ずあいつを連れてくる…違う、あいつを来させてみせるよ!
だから泣かないで……!」

ダッ!

「入間くん……」泣いてた…。


――――――――――


~~~…。ダメだ…。

「――秒2!」
カントクの声が響く。

あぁ、くそっ。

「どうした丸井!?こんなんじゃ予選も危ういぞ!!」
「……っス…」

ほんとにダメだ…。
小生、走るしか出来ないのに…。
走るのをやめちゃいけないのに……。

わしゃわしゃ。

左だけ結った髪が、揺れる。
あぁもうっ!

「……いや、先週から根をつめすぎてる、な。
まだ少し日は有る。ちょっと休め。
………ちょうど先週話していたTVの件のカードとチケットが来た。
ご家族の分もあるし、週末は東京で気分転…………」



……カントク…?急に黙って……。

「すまん!!」

バッ!

カントクが小生に頭を…。
あのカントクが、謝って……?

「すまん、丸井。
今の言葉は大人として最低のものだ。
いや、それだけじゃない。今の俺はお前を守れていない。
最近、上の連中のやり方はおかしい。
お前を、お前の意思を無視して、こうまでしてアピールする必要は無いんだ。
大体、お前は国体強化選手である以前に高校生だ。インターハイ前の選手を競技に集中させないなんて本末転倒だ。
なのに俺は、そう思っていても止められなかった!
こんな事じゃお前の親父さんにも顔向け出来ない!!
そして何より、佐藤との事だ。
俺は無粋な男だが、お前たちに何かあった事くらいは分かる。
そして、原因はあの写真…俺の監督不行き届きだって事も。
あの日、不審者の件を注意しておけば…いや、そもそもTV局に保護者として同伴した意味がない!」

「カントク…」泣いて…?

「選手を守れなかっただけでなく、不注意で生徒の…男の努力と誇りを地に落とした。
俺は最低の指導者だ…!
だが頼む、丸井!もう少し俺に時間をくれ!
必ずこの状況を何とかしてみせる。
これは俺たち大人の責任なんだ!だからお前が気に病む必要はない!!」

みんなみんな、小生の事を心配してくれる。慰めてくれる。助けてくれる。
みんなみんな、とっても優しい。

でも、違うんス。

「カントク…、謝らないで欲しいっス…。
悪いのは小生なんス。
小生は自分のせいでしんちゃんに……。だから、もう一緒に居られないって…。
小生、分かってたんス。しんちゃんにはずっとずっとめーわくを掛けてきた。
ずっと支えてもらってきた。好きなだけ寄り掛かってた」
あぁ、そっか…。

だから今、立ってられないんだ。

「……ずっとずっと痛い思いをさせてきた。
小生が一緒だと、これからも痛い思いをさせちゃうんス。
小生、もうしんちゃんに泣いて欲しくないんス。
だから…」

嫌だ。

「だから、こ、こう…なって…」

絶対に嫌だ。良いわけない。

「こう、なって……ひっく。よ、かっ…」

嫌だ嫌だ嫌だ!


………でも小生も、いつまでも、自由に遊び回る、小さな女の子ではいられない。
誰にもめーわくを掛けちゃいけない。
我慢しなくちゃいけない。
『やっちゃいけない事』が沢山ある。
それが当たり前なんだ。
だから、


「うぐっ…よかっ「やめなさい!!」


厳しい、声。聞いた事のない声色。
でも、この声は……。
「ブチョー…?」

「泣くな。
嘘をつくな。
立ちなさい!!」

ブチョーが言う。
小生から離れて。小生には触れずに。

「貴女は思うまま全てに届く強い娘。
貴女は全てに笑顔を届ける優しい娘。
貴女が為すなら誰もが譲るでしょう。貴女が照らすなら誰もが伏すでしょう。
今日の『ふたば』はそれほどに偉大な華です。
けれど、だからこそ識りなさい。
今、貴女は彼といる事を怖れてはいけない。彼から離れる事を望んではいけない。
それは『ふたば』には絶対に許されない。
そうやって成さねばならないことから目を逸らすなら、そんな華は醜悪なだけです。
そのまま枯れてしまいなさい」

「でも、しんちゃんが小生の事をきっ…嫌いって……。一緒にいるのが痛くて、泣いて……」

「彼が言ったの?」

「え……?」

「彼がそんな事を言ったの?本当に?貴女の事が嫌いになったって?」

『そんなの、ぜったぃ…ないっ…』
「そんなのぜったいない、って…。でも…」

「彼の言葉が信じられないの?彼が一度でも貴女に嘘をついた事があった?彼はそんな卑怯な男の子だったの?」

「そんなの絶対無い!」

「そう、彼はいつだって貴女の幸せを想ってる。
それはきっと大きな理由の無い想い。いつ諦めてもいい小さな想い。ただ最初に隣にいただけだから。
けれど、ずっと変わらず想い続けている。
どこにでもいる男の子は血を流したでしょう。涙も流したでしょう。ただ最初に隣にいただけなのに。
けれど、ずっと変わらず走り続けている。
小さいからこそ強いの。土にまみれているからこそ貴いの。
ずっとそれを示し続けているの。
だから今日、『ふたば』は誰よりも大きく、まっすぐな華に育っているの。
なのに大きな貴女が簡単に諦めてしまうなら、それは何よりも恥ずべき心根です」

「でも、小生は想いを伝えた…。ずっと一緒に居てくれてありがとう、って…」

「……ごめんなさい。
アタシはひとときの答えを言うべきでなかった。貴女が自分で辿り着かなければいけなかった。
きっと、そのときの彼はもう別の答えを求めていた。
…アタシが浅はかなせいで、彼と貴女を傷つけてしまったのね……。
本当にごめんなさい。
けれど今も、彼は間違いなく貴女の幸せを想ってる。
それは絶対に変わらない。
貴女を識る誰もが、世の中には絶対に変わらないものが有るのだと、彼に教わったのだから。
今も、貴女が怖れるなら、彼は身を削っても祓うでしょう。
今も、貴女が望むのなら、彼は心を削っても成すでしょう。
だから今、『ふたば』は泣いてはいけない。嘘をついてはいけない。
それは何よりも忌むべき在り様です」

「でも小生は想いを伝えた…。これからもずっと一緒に居たい、って…。
アイシテル、って……。
すごく、すごく特別な伝え方だったのに……っ!」

「…それもきっとアタシのせい。
ごめんなさい。
貴女に大切な事を言っていなかった。
想いは、必ず『自分』で伝えなければいけない。
ずっと一緒に居たいという想いは、貴女の声で伝えた?貴女の手で伝えた?
貴女らしく伝えていた?
…いいえ、絶対に違う。
本当の『ふたば』が伝えていたら、きっと彼に届いたはず。
本当に自分が選んだ道が正しかったか、よく考えて」

「小生、らしく……」
『おまえじゃ…ないのに、つかった…。わかってたのに!!』
「違う…。
小生、『自分』で伝えてなかった。とっても大切な事だったのに!!
小生が間違ってたんだ…!嘘をついてたんだ!
どうしよう…?どうすれば……!?」

「貴女が考えて。貴女の答えでなければ意味が無い。
よく思い出して。彼はなんて言っていた?」

『もう、おまえとは、いっしょにいられない』
『隣に来ないでください』
『丸井』
「あ…あぁ、嫌だ…。痛いよぉ…。思い出したくない…よぉ…」

「思い出しなさい。
そんな痛み、彼が肩代わりしてきたものに比べれば微塵にもならない。
貴女の想いはそんなものなの?
彼の頑張りは、そんな程度で枯れてしまうつまらないものだったの?」

!!!
「しんちゃんは『特別』で『一番』の男の子!世界中に胸を張って言えるっス!!」

「なら考えなさい。わかろうとしなさい。
彼のために、成しなさい。
それこそが、貴女の成さねばならない事です」

「しんちゃんの、ため……!!」

そうだ…そうだよ!!

立つんだ!しんちゃんを助けるために!
小生が今まで頑張ってきたのは、全部そのためなんだ!!!

「………。
さあ教えて、佐藤君の心を。
大丈夫、ふたばちゃんならわかるよ。
だって、あなたはずっと彼の隣にいたんだから」

「はいっス!!」

「佐藤君はどうして泣いたの?」

『ごめんなさい。俺、丸井さんをずっとだましてました。俺の隣にいてもらうために』
「小生をだましてごめん、って。
……小生をだましたと思って、それがすごく痛かったんだ。
でもそれは、小生がしんちゃんの前で嘘をついたから。
ううん、それだけじゃない。『ずっと』って言ってた。
小生はずっと嘘をついてた?
そうだ、小生はいつの間にか自分に嘘をついてた!
この髪形は好きじゃないっス!小生が走るのは、走るのが大好きだからっス!!」

「そっか、すごいね。
ふたばちゃんが気づいてない事まで識ってたんだ。
…でも、『痛い』だけかな?
だって佐藤君は、今までどんなに痛くても頑張ってきた。
こけても、泣いてもふたばちゃんのために立ち上がってきた。
なのにどうして今、一緒にいられないの?」

『もう俺が一緒だと、丸井さんに迷惑を掛けるだけなんです。俺は足手まといになるだけなんです』
「小生にめーわく掛けるから一緒にいられない、って。
なんでそんな事思うの?『足手まとい』?…小生が走るのが速いから『追いつけない』…。
そんなの違う!

大好き!!

それはしんちゃんが強いから!優しいから!一番大切な事を教えてくれたから!!
だから小生もしんちゃんみたいになりたいって頑張れるんだよ!
速くなくちゃいけないなら小生が走るよ!高くなくちゃいけないなら小生が跳ぶよ!
ううん、走るのも跳ぶのも教えさせて!
しんちゃんを幸せにしたい!
それは一緒なんだよ!そのために一緒なんだよ!
一緒だから幸せなんだよ!!

一緒に幸せになろう!!!

だから!!!


『明日』が『怖い』なんて想わないで!!!!!」


「そっか、佐藤君は怖かったんだね。
そうだよ、誰にだって怖くて立ってられなくなっちゃう日もある。
じゃあどうしよう?どうすればいい?
ふたばちゃんはどうしてた?」

「小生が『怖い』とき……しんちゃんの頑張る姿を思い出したっス。
明日は失敗しちゃうかも知れない。一番になんてなれないかも知れない。それはとっても怖いっス。
でもしんちゃんはいつも頑張ってた。こけてもすぐに立ち上がった。
だからあんなに格好よかった!
頑張る事が一番大切なんだって見せてくれたから、勇気を出せた!!
だから……!!
………っ。
…けど、小生はしんちゃんみたいになれない…。
しんちゃんみたいに強くない…」

「ううん、そんな事ないよ。
ふたばちゃんは佐藤君の腕の中を離れて、自分の足で踏み出し、乗り越えてきた。
辛い練習、頑張ってきたね。嫌いな勉強、頑張ってきたね。怖いTVの世界で、頑張ってきたね。
それはあなたがすごい勇気を持ってるから出来たこと。
私も、カントクも、部のみんなも、ふたばちゃんのお友達も、みんなみんなその強い心が大好きになったの。
そしてそれは今、彼に必要なものなの。
辛い事、嫌な事、怖い事に立ち向かう勇気を、今度はあなたが見せてあげて」

「小生の勇気を、見せる…。
みんなが、大好きになってくれた……!」

「人が生きていくってことは、怖いことの連続なの。
だから人は、それに負けないように勇気を出して進むの。
そうすれば、最後は必ず笑顔にたどり着ける。
だってね、前にも言ったでしょう?
世の中は…」

「世の中は、最後は必ず上手くいくようになってる…。ぜったいに、ぜったい……!」


しんちゃん…っ!


――――――――――


風で髪が揺れる。頭の上で結った髪が。
今はまだ、ただのゴムの髪留めでだけど。しんちゃんのじゃないけど。
でも、これが小生だ。
小生だった。

うん。
わしゃわしゃが無いから、遠くの音まではっきりと聞こえる。

タッタッタッ ハァハァハァ

足音。息遣い。
遠くても分かる。大好きな人のだから。

……まだ、遠い。まだ逃げられる。
このまま此処にいたら、きっとすごく痛い思いをする。それは怖い。

でも。

小生は言わなくちゃいけない。
これが小生の『やらなくちゃいけない事』なんだから!

「お帰り!!」
「はぁ、はぁ…っ。
……ふた…丸井さん」

痛い。
でも。

「はぁ…、はー……。
来ないでくださいって言った、のに…。
それに、こんな遅くまで……何、やってるんですか」
しんちゃんが言う。小生を見ないまま。

痛い!痛い!!痛い!!!
でも!

だからどうした!しんちゃんはもっともっと痛かった!!

「これを渡しに来たんス!」
「…カードと、チケット…?」
「うん。
カードは土曜日に東京のホテルに泊まるためのキーだよ。それでチケットはTV局に入るためのもの」
「東京…。それにTVって…?」
「日曜日、またTVの収録があるんだ。
今度は初めての生放送…カンペンも使えないし、小生、すっごく大きな役になってる。
小生は明日の夕方、カントクと先に行っちゃうけど、
TVの人が、緊張しないよう前の日からは家の人も一緒に、ってホテルも席も用意してくれたっス。
……これ、ほんとはひとはの分なんスけど、小生の好きに使っていいって言ってくれたから…」
「……俺はもう丸井さんを支えられ「違うっス!!」

「……まる、い…?」
でも、しんちゃんは小生を見てくれない。

「怖いからしんちゃんに見ててもらいたいんじゃないんス。
頑張るところをしんちゃんに見せたいんス。
小生が、怖くてもちゃんと立てるって事を、
しんちゃんが『怖い』とき、しっかり支えられるって事を見せたいんス!」
「……なぁ、違うんだ。分かってくれよ。
お前は俺なんかの事、気にする必要は無いんだよ」
「『なんか』なんて言わないで!!
小生はしんちゃんが大好き。
大好きな人がいるから、大好きな人のためだから小生は頑張れる。
大好きだから頑張る。
それはずっとずっとしんちゃんが見せてくれた、世界で一番大切な事だよ!!」

「…でも、もう俺はこんなのもらえないよ……」
でも、しんちゃんは小生を見てくれない。

……そうだよね。
だって、今までめーわくかけるしかしてこなかったもんね。
ずっと寄りかかってたから、自分がこけたら小生までって思うよね。
小生を想ってくれてるから、一緒にいると怖がらせちゃうんだよね。

だけど、それでも小生は……。

「…しんちゃん、すごい汗だね。
今日もいっぱい頑張ったんだね」

しんちゃんと一緒にいたい。
しんちゃんにしてあげたい。

だから今は、ハンカチで汗をぬぐってあげる。

スッ・・・

今は、折り方が下手で、端も全然揃ってない、格好悪いハンカチでだけど。
「…これ……?」
だってこれは。
「うん。
ひとはじゃなくて、小生がアイロンをかけたんだ。
ひとはの分をもらった代わりに、お洗濯ものをたたんで、アイロンかけをしたんだよ。
……むずかしくってシャツとかは出来なかったけど、これから頑張ってできるようになってみせるっス」

「…ふた……?」
やっとしんちゃんが見てくれた。

だからしんちゃんの目を見る。小生の目で。絶対に逸らさない。

ブチョーに…みんなに言われてやっと気づいた。
必要なのは声でも手でもなかった。
しんちゃんがいつもしてくれていることだった。

『成して示す』ことだった!

「このカードとチケットは小生の『決意』っス。
小生、もうひとはにめーわくをかけないって決めたっス。
もらったものを…ううん、それより沢山お返しするって決めたっス。
もうお手伝いができないなんて絶対に思わない。
お掃除も、お洗濯も、お料理も、できるようになるまで頑張るっス!」

ひとはに一番大切なものを…大好きな人との時間をお返しするために!!

「それはしんちゃんにも一緒。
もうできないのが怖くて、我慢するのはやめるっス。
怖いのを我慢して、できるようになってみせるっス。
小生、これまでで…ううん、人生最大の決意をこれに込めたっス!
だからしんちゃん、小生の決意を受け取って!!」

もう一度、チケットとカードを両手で差し出す。

「ふたば…俺、は…」

しんちゃんが、ゆっくりと……受け取ってくれた!

「ありがとうしんちゃん!」
「あ、いや…俺は「またね!!ぜったい来てねー!!」

トテチテトテチテ

さあ!頑張るぞ!!


――――――――――
~~~~~~~~~~



「さあ、どうしたもんかしらねぇ?もうすぐ金曜も終わるってのに、あの負け犬、結局連絡よこさなかったし…」
「……」
「あの変態パンツ負け犬、今までで一番面倒なすね方してるから、何かこう…余計な事を考えないように蹴っ飛ばしてやらなきゃ」
「……」
「ダメだったときのために、フォローも考えておかなきゃなんないし…」
「……」
「もう!せっかくTV局が豪華なホテルとディナーを用意してくれたっていうのに、これじゃゆっくり楽しめないじゃない!」
「……」
「ちょっと、ひとは!あんたも何か考えなさいよ!」
「…そうだね。いい加減何とかしないとね」
「そうよ!」
「もう一ヶ月近く会ってないよ。
とりあえずこの土日は、ふたばたちが揃って東京に行くから記者もいなくなるだろうけど、根本的な手を打たないとね」

「……?
ひとは、あんた…?」

「ああ、いいんだよ、みっちゃん?
私が人ごみが嫌いなのは本当だから。大きな街はナンパが鬱陶しいし。
本当に、あんなチケットの事なんて気にしてないよ。
だから明日はパパたちと一緒にホテルでゆっくりして来て?
日曜日、帰りの電車に乗る前に先生にメールしてね」 「電話はやめてね。先生デリケートだから、イロイロ困っちゃう」
「そうじゃないでしょ!?ふたばの事どう考えてるのよ!!」
「………?
ああ…もちろんふたばの事も心配してるよ。早く元気になればいいね」
「いや、あんた「もう寝るね。私も明日は早いから」

「おやすみ」スイー

「……ったく!あーもう、どいつもこいつも!童貞まで何やってんのよ!?
もー知らない!全員勝手になさい!私はゆ~っくりディナーを楽しむわ!!」






「もうっ!
とりあえずふたばの事か!ほんっとに手の掛かる妹どもね!!」


――――――――――


[送信BOX                                       ]

[送信日  SATURDAY  22:45                        ]
[TO   変態パンツ男                                 ]
[タイトル パーンと飛び散って死ね                            ]

[バカアホマヌケグズ弱虫ヘタレ変態パンツ負け犬へ                     ]
[                                            ]
[この私からメールをもらえた事を泣いて喜びなさい。                    ]
[                                            ]
[今、手の中にカードがあるんでしょ。来なさい。                      ]
[せっっっかく呼ばれたんだから、今スグ、終電でも何でも使って来なさい。          ]
[                                            ]
[                                            ]
[あと、私のありがたいメールのお返しに、抹茶金時氷山盛りスペシャルを奢りなさい。     ]


「さて、寝よ寝よ。
ほら、ふたばもとっとと寝なさい!心配しなくてもあいつ、明日は絶対来るわよ!


あんたが呼んだんだから!!」



~~~~~~~~~~