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「…ん、今何時……五時半か…
ふぁああ…そろそろひとはちゃんがが来る時間だな…」

カチャカチャ…キィ・・・

(あ、来た来た…)

トタトタトタ…

「ひとはちゃん…おはよう…」

「わっ!せ、先生起きてたんですか!起きてたら起きてるって言ってくれないと!」
「びっくりさせてごめんよ…」
「チクビと遊んでますから先生はもう少し寝ていてください」
「うん…もちろんそうさせてもらうよ…おやすみ…」
「おやすみなさい」

ひとはちゃんは高校生になっても相変わらず週末の早朝に僕の部屋へやってくる。
このスケジュールはもう何年続いているのだろう。

ひとはちゃんがチクビに逢うためにこっそり始めたこの行動も
しかし今ではもうほとんどみんなの知ることとなっている。
彼女の友人や姉妹達はもちろんのことお父さんでさえもう知っていることだ。
あのことがあってから…。

「先生!先生!」

「ん…な、なに…?!」
「先生!チクビをどこに隠したんですか!」

「えっ!…ち、チクビならそこにいるじゃない…」

「この子チクビじゃない!チクビじゃない!先生!先生!」
「お、落ち着いてひとはちゃん、落ち着いて…ごめんその子違う子なんだごめんね…」

「……ご、ごめんなさい…先生…わたし…わたし…また…」
「大丈夫だよ…」

「…この子チクビじゃない…。でも仕方ないよね。
 私もいい加減踏ん切りつけなくちゃだめだね…。先生ごめんなさい。もう大丈夫ですから。
 また寝てください…。」

「うん…。」

「2号ごめんね。あそぼ。」
「チー」

あのこと…それはチクビの死。ひとはちゃんが中2の時。老衰だった。
この時のひとはちゃんのショックは尋常ではなかった。
お葬式をきちんと済ませた後もチクビのゲージをいつまでも抱き続け
想い出のあるだろう僕の部屋から一歩も出ようとしなかった。
お父さんやみつばちゃん、ふたばちゃんが説得して家に連れ戻そうとしたけれども
頑として僕の部屋からでることはなかった。

仕方ない、ということでほとぼりがさめるまでしばらくの間僕の部屋で暮らすようになった。
しかしそれからちょっとおかしなことが起きた。
ひとはちゃんの言動や行動が小さい子供のようになって僕にとことん甘えるようになったのだ。

「せんせー遊んで遊んでー」
「せんせい…一緒に寝ていい?いっしょに寝てくれなきゃやだーー」
「せんせい…おしっこ行って来るから起きててね。ぜったいだよ!寝ちゃだめだよ!?」
「ひとははクリームの乗ってるプリンが食べたかったのに!なんで普通のプリン買ってきたの?
 わあああん!せんせいのばかーー!買いなおしてきてーー!」

それ以前のひとはちゃんならこんなことは心の中で思っていても
絶対に口には出さない、そんな言動がポンポンとそれこそポップコーンがはじけるように
堰を切って出てきた。
そういう言動や行動も2ヶ月ぐらいで収まっていき、いつものひとはちゃんが戻ってきた。
本人は自覚があるらしく、ようやく自分の家へ帰ることができるようになったその日、
別れ際に恥ずかしそうに僕に侘びを何度も言った。

でも僕自身としてはひとはちゃんがこんなに甘えてくれたことはなんだかうれしいことだった。
恐らく家族でも見せなかったであろう姿を僕にさらけだし、僕は、そのような振る舞いが僕自身を信頼してくれていると感じた。
それはショックの後遺症だったからかもしれないけど。
そうだとしても内面のひとはちゃんを知ることが出来たのはうれしかった。

それからは幼い子供のような行いはなくなったけど
以前のひとはちゃんとはちょっと違うようになった。
逆に格段に女性になってきたのだ。体つきは歳の割には少女のそれであいかわらずだったが
なんというか性格が一回り大人になったというか、優しくなったというか…
以前から他の子と比べたら大人びてはいたけど
内から醸し出す雰囲気というか、うまく言葉に表せないけど
格段に大人になった。
口調はあいかわらず変わらないのだけど。

「先生、起きてる…?」


ん?何だろう?…ちょっと寝たふりをしておこう…


「先生…?」

「スー…スー…」

「先生寝てる…ね…?」

「え、えっと…。せ、先生。」


「い、いつもひとはのこと大事にしてくれてありがとうございます。
それからついいじわるなこと言っちゃったりしても怒らないで冗談で済ませてくれて…
そんなこんなで…迷惑もかけちゃって…ごめんなさい…。大好き///」


!!!///ひ、ひとはちゃん!


「う、ううーん…あ、ああれ?今なんか声がしたような…?」
「ひっ!(ビクゥッ) せ、先生!お、お目ざめでふか?!」
「でふかって…(カワイイ…)あ、ああ…うん…い、いまなんか声が…」
「先生!聞こえてしまいましたか!?そうなのですかあーー!?///」

目の焦点が合ってない…。明らかに動揺している…。


「い、いや…何いってるかはわからなかったけれども…」

「あ、あ、そ、それは、せ、先生はいつまで寝てるんだろう、いい加減に起きたらいいのに!
 先生は寝ぼすけだなーって今私言ったんです!ねっ?2号?」

「チー?」

「もう起きてください!脳みそ腐っちゃいますよ!」
「うん。そうするよ。あー良く寝た!」

「あ、あれ?いつもなら先生『そんなあ、ひどいよひとはちゃん寝ぼすけとか脳みそ腐るとかってー』
 とか言い返してくるのに…」

「え?ああ、だっていつまでも寝ていたら本当に脳みそ腐っちゃうもん。ひとはちゃんの言うとおりだよ」
「先生…」
「なに?」
「あの…調子狂っちゃうんでいつものようにやっていただけないでしょうか?」
「え、だってこれが僕なんだもん。しょうがないじゃない?新しい僕を感じて!」
「感じてって…いやらしい。だめです。」
「ええ?そ、そんなー!ひどい!ひどいよ!ひとはちゃん!」
「むふー。」

ご満足された様子。
以前ならこんなやりとりもかなり胸にグサグサきたのだけれど
今彼女から発する言葉にはそのいじわるなオーラの発光具合が減り
僕に対しての甘えがどことなく感じられる。
そのやりとりが僕も心地いい。
今日はいつにも増して更に心地よく感じる…。
もしかしてさっきの…僕が寝ている振りをしていたあの時のひとはちゃんの言葉が
いじわるなそれをより一層打ち消してくれているのかもしれない。
僕自身のひとはちゃんに対しての感情も変わってきている……。

「先生、朝ごはん出来てますよ。食べましょう。」
「うん。いつも悪いね。ありがとう。」
「今日は……覚悟して食べてください…」
「ええっ?ど、どういうこと?それ…」
「毒ですよ」
「毒!!?」
「はい。食べ過ぎるとなんでも毒と化しますから。十分気をつけて食べてください。」
「つまりめちゃくちゃ美味しく出来たってわけね?」
「そういうことです。」

一体なぜあの食材からこのようなものが生み出せるんだろう。
料理の天才なのか、それとも魔法使い?

「ふー。あー美味しかった。ごちそうさまー!」
危うく毒に侵されるところだった…。

「どういたしまして。でも食材は先生が買ってくれたものですから
こちらこそごちそうさまです。」

「いやー僕にはそれぐらいのことしか出来ないし。
僕だけだったらどうせ同じお金かけてもカップめんやスーパーのお惣菜が関の山だよ。
でもなんであれだけの材料でこんなに美味しく作れるの?なんで?なんで?」ナンデ?

「もちろん才能ですよ。才能。」
「もしかして愛情が入っている?とかじゃないのー?ははは」

「!!///ち、違います!!あ、愛情なんてこれっぽっちも入ってません!!///」

「…そっか。でも美味しかったよ。ごちそうさま。」

「えっ///あ…え、えっと…あ、チ、チクビも美味しそうにご飯食べてるね。せ、先生。」
「あ、…チクビじゃなかった…チクビ2号…」
「ひとはちゃん…。」


「先生…」
「ん?」
「あの、ギュッて…ちょっとだけギュッて抱いてくれませんか…なんだかまた寂しい感じがしてきちゃって」
「うん。いいよ。」
「ごめんなさい…」

やっぱりまだチクビのこと思い出すと平常心でいることは難しいんだな。
それはそれだけ彼女があのハムスターを大事にしていた証拠…。
ちょっとだけチクビを羨ましく感じた。
でも僕がこうやって抱いてあげることによってひとはちゃんに安らぎを与えることが出来るのであれば
僕はいつまでもこうしていてあげるよ…。


「先生…」
「なに?」
「…ううん。なんでもない…」


ひとはちゃんの身体は、小学生の時よりもちょっとだけ肉付きが良くなったけれども
高校生にしてはかなり幼くまだまだ子供らしさが色濃く残っている。
そうであっても、もう結婚も出来、子供も生めるこの肉体からは女性特有の香りを発し
僕はおもわずひとはちゃんに気付かれないようゆっくりと深呼吸をしてそれを自分の中に取り入れ
彼女との一体感を楽しんでいる………

って、自分の教え子に何をしているんだ!僕は!
しかも相手は心身共に変調をきたして僕に助けを求めて今の状態、この抱いて慰めてあげている、
そんな時に僕は何を…。

「ひとはちゃん…?」

「スー…スー…」

「ひとはちゃん。寝ちゃった?」

ひとはちゃん。こんな頼りない僕をいつも気に掛けてくれて、そして甘えてくれてありがとう…。
君を好きになっちゃったのかな…?僕は…?。
ひとはちゃん、早く元気になってほしいなあ…。




ひとはさん ひとはさん

…ん…誰?

ぼくですよ。チクビです。

えっ?チクビ!あ、ほんとうにチクビだ!チクビ!どこいってたの?心配したんだよ!

残念ながらもうぼくはひとはさんと同じ世界にはいません。

えっ…で、でも今ここにこうして…。

だって、ほら、僕、言葉を話しているでしょう?夢の中なのですよ。ここはね。

えっ夢?…たしかにちょっとふわふわして、もやもやしてる…夢かもしれない。

でもそれでもチクビに逢えてうれしい…。うれしいよお…。

ぼくもひとはさんに逢えて本当にうれしいです。

チクビ…。

ぼくはひとことお礼を言いたくてひとはさんの夢に来させていただきました。

こちらの世界へは急に来なければいけないこととなりましたので、それが心残りで…。

チクビ…わたしもチクビが急に…朝…死んじゃってたから…最後のお別れも出来なくて…

それで寂しくって寂しくって…。もしかしたらチクビが死んじゃったのは私のせいなんじゃないかって…。

ひとはさんのせいなんかじゃありませんよ。ぼくの、そちらの世界の寿命だったのです。

ぼくは精一杯生きました。大好きなひとはさんと一生懸命遊んでとっても楽しかったです。

そしてひとはさんは寂しいぼくを慰めてくれました。ご飯もくれました。

部屋のそうじもしてくれました。とても感謝してます。

そ、そんな…。私こそチクビに慰めてもらった…。

そういっていただけるとぼくもうれしいです。でも、もうひとつだけ心残りがあります。

な、何?