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「智、来たわよー!」

ここは先生の部屋。私が先生に寄り添ってチクビと遊んでいると、闖入者が入ってきた。

「「…えっと…」」

私の目の前で私と同時に絶句しているこの中年の女性は…ひょっとして。

「母さん!来るなら先に連絡してよ!」

やっぱり…。ここは先手を打つべきだ。

「息子の部屋に来るんだから、それぐらいいいじゃないの。ところで…このお嬢さんは?」
「初めまして、矢部先生の生徒で、丸井ひとはといいます、お義母様」
「あら、丁寧な子ね」
「ちょ、ひとはちゃん!?」
「何ですか?」
「いや、おかあさまって…」
「先生のお母様だからそう呼んだだけですよ?」

無論別の意味を込めているが、先生には言わない。多分、伝わる人には伝わるし。

「智…あんた、犯罪よ?」
「母さん!だからこの子は生徒だってば!」
「でも普通、一人暮らしの男の部屋に女の子なんて来ないわよ?」

最もだ。私も先生以外の男の人の部屋なんて行かない。
そしてだからこそ、この人は感づいているだろう。ならば確信にしておこう。

「あ、それはクラスで飼っているハムスターと、私が遊びたいからです。
休日は先生の家で預かってもらっていますので、こうやって『毎週』通っています」
「…あら。あなたのほうはそうなのね」

やっぱり伝わった。これで堀は埋まったかな?

「でもやっぱりこのご時勢じゃない?だから心配でねぇ」

あぁ、報道されたりクビが飛んだり…。でもそれは。

「ちょっと!僕が何かするとでも!?」
「安心してください。先生は絶対にそんな人じゃないですから。…悲しいことに」
「…そうね」
「えぇ!?何なの今の会話!?ていうかどこにそんな悲しむ要素があったの!?」

がっくり肩を落とすお義母様。あぁ、先生はやっぱりずっとこうだったんだ…。
そして先生はやっぱり意味が分かっていない。相変わらずダメな人だ。
そんな甲斐性が無いというのはどうやらお義母様もとっくにご存知のようで。

「ふぅ…それにしても…コレ、どうしようかしら」

お母様はバックから大きな封筒を取り出す。あれはひょっとすると…。

「え、何?」
「んー、アンタの見合い話」

あ、やっぱり。どうしようってことは、結構認めてくれてるんだ。

「いらないよ!ていうかまだ社会人一年目だよ!?」
「そうは言っても今の時代、公務員なんて引く手あまたなのよ?仕方ないじゃない。
それにアンタの周りにもいるでしょ、結婚相手を懸命に探している人」

先生がげんなりしている。私にも思い当たった。まぁ公務員同士だから先生に矛先は向かってないし、問題はない。
それでもはっきり言って顔立ちは悪くないし、スタイルも悪くない、あの必死さが無くなると少し危険だとは思うが。

「でも、どうしようって、どういうこと?」
「だってもう、要らないじゃないの」
「そりゃ要らないけど、持ってきたのに急にそんなこと言い出したからなんでかな、と」
「…ねぇ、ひとはちゃん、でいいのかしら?この子ずっとこうなのよ。それでもいいの?」
「その辺はもう…」

とっくに諦めている。そうじゃなきゃ今頃、この部屋に来る理由が変化していたはずだ。
未だにチクビに会いに来るそれだけの理由。
私はそれに、先生に会いに来る、も追加したい。
が、希望は直ぐには叶わないし、先生はとんでもない常識人のため期待もできないだろう。
その辺はじっくり攻めていくつもりだが。

「なんとかやっていきます。そういう話はちょっと先になっちゃいますが、いいですか?」
「うーん、ちょっと不安もあるけど…本当にそういうつもりなら構わないわ。
それに、こういう話って案外転がってたりするものね」

あぁ、先生と生徒の恋愛話…。私もネットで見てみたけれど、やっぱりそこかしこに転がっていた。
自分だけじゃないって思うと、心強いしね。それにうまくいった話を見ると、自分のことを思い描くことができるし。
その、少し、恥ずかしいけれど。

「ねぇ、僕蚊帳の外なんだけど…」
「「分からないほうが悪い」」

思わずハモる。それが可笑しくて、先生のお母様と私はつい笑ってしまった。

「ふふっ、もう随分理解しちゃってるみたいね」
「えぇ、だってそうじゃなければここに居ませんから」
「そう、じゃあよろしくね。年頃になったら、私も協力するわ」
「…はいっ」
「なんで二人で分かり合ってるのー…」

伝えたい人には伝わって。一番伝えたい人には伝わらない。
けれどゆっくりやっていこう。
だって私は毎週、好きな人の部屋に、好きな人と二人だけで居るのだから。

強力な味方もできたことだし、ね。