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特撮が好きだった。

子供の頃は多くの人が好きだったそれも、年を重ねるにつれて幼稚になったように見える。
それでもやっぱり、一部のヤツは好きなままなのだ。
中学高校だと中々語ることのないその趣味も、大学となると違ってくる。
同好の士と語るというのはとても楽しいものだ。
だから俺はこの大学で特撮研に入った。
単に仲間が欲しかっただけのソコには


場違いなほど綺麗な人が居た。


最初は冷やかしかと思った。
けれど、その人がガチレンジャーが好きらしい。
あれはいいものだ。俺も毎週欠かさず見ていた。
ガチレンジャーを語るその口は熱っぽく、ただ語りたいのだということが伝わってきた。

ただそれでも、みんな聞いちゃいなかった。

―――――――――――――

苦痛だったと思う。
新歓が酷かった。如何にしてその子とお近づきになるか、そんなことしか考えてなかったんじゃないか。
そりゃアレだけ綺麗な子がいたら誰だって話したい。同じ趣味なら尚更だ。
俺だって声をかけてみたかった。話してみたかった。でも既に俺が入れるような空気でなく。
その子も伊達に綺麗をやってない。先輩たちからも声をかけられるが、軽く流しているようだった。
それでも…苦痛だったと思う。

―――――――――――――

翌週。
なんだか居づらそうだった彼女は、新歓で声をかけてこなかった人を覚えていたらしい。
俺はその声をかけなかった一人だった。
「あの…」
「おっあ?」
「ガチレン…好き?」
「えっ、あぁ、あっ、うん」
声をかけられるとも思ってなかった俺はしどろもどろになる。というか完全に混乱している。
「ん…私、何か変?」
全然変じゃない。俺が悪いのは分かってるんだ。どうにもこういう綺麗な人と話のは苦手だ。

「あ、あー、いや、うん、変じゃない。ガチレンは好きだ」
「そう」

初日に分かっていたことだが、この人のガチレントークは熱すぎる。
一体何がここまで突き動かしているのか分からないが、本気で楽しそうだ。
本来話すのが苦手な俺だが、目の前で繰り広げられる余りのテンションに、こちらも自然と口が滑らかになる。
気づいたら周りの視線が痛かった。

「また話そうね」
「あ、分かった」

相手は相手で引き際をある程度心得てくれているのだが、それでも俺としばらく話していたことには変わりない。
やはり、うまくやりやがってと思うんだろう。俺は何もしていないんだけどな…。ていうか、明日から顔出して大丈夫か俺…。

と思ったが、どうやらあの人は一応声をかけなかった人限定でガチレンが好きか確認しているみたいだ。
いい目をみたのが俺だけじゃなかったので助かったが、正直申し訳ない。
俺だって下心がなかったわけじゃない。ただ話せなかっただけだ。行為に移せなかっただけ。
それなのに、嫌な目に合わなかったから声をかけてきたんだろう。流れる黒髪を眺めながら、そっと心の中で謝った。


――――――――――――――
5月の半ば。
趣味のことを語り合っていると他に話も膨らむもので、彼女の大学での話を聞いたことがあった。
どうやら手芸も嗜んでいるようで、そちらのサークルに入っていることも分かった。
なんというか、非常にぴったりである。家庭的な姿を想像してしまう。非常に、いい。
自分の服を縫ってくれる彼女を妄想しつつ、乾いた溜息が漏れる。
あぁそうだ、俺は彼女と話すのが楽しい。相手もそう思ってくれているといいな。

そんな期待を膨らませながら、それでも俺たちはただのサークル仲間だった。

――――――――――――――

6月。
早いもので大学のサボり方も覚えてしまった。それでもサークルに出るのは忘れない。
彼女は相変わらずヒロイン扱いだが、袖にする相手とそうでない相手がもうはっきりしている。
分かっててもソレがいい、という輩も居るので世の中業が深い。輩っていうか先輩なんだけどな…。

そんなことを考えながら大学への道を歩いていると、雨が降り出した。あぁ、梅雨だしな…。雨ばかりだ。
傘を差しつつため息をついていると、雨宿りをしているのか、とある店の軒先に彼女が立っていた。
が、どうやら今は女同士で話しているようだ。もう一人は…随分気の強そうな美人だな。

「ったくもー、どーして傘もってないのよー」
「そんなこと言われても自分の家の傘ぐらい自分で管理して」
「分かってるわよ、でもアンタが傘持ってたっていいでしょ!」
「私だって忘れることはあるよ…ってあれ?」

どうやら傘を忘れたらしい。やっぱ人間、そういうことってあるよな。まぁ…俺に傘はあるし…。

「…や」

雨の音だけが聞こえる。あー、やっぱ女同士のところになんて入っていくんじゃなかった。

「だーれよ、ナンパならお断りよ!」
「私のサークル仲間だよ。みっちゃんなんてナンパしないから安心して」
「ちょっと!どういう意味よ!」
「あ、ごめんね。どうしたの?」
「なんで私を無視するのよ!」
「えっと…この人は?」
「私の姉。不本意ながら」
「不本意ってどういうことよ!ほんとーに失礼ね!
まぁ、ひとはの知り合いってことならいいわ。私は丸井みつば、覚えておきなさい!」
「あ、あぁ…。俺は…って、え?」
「何よ?人の名前に何か文句でもあるの」
「いや…」
「なんなのよ!ハッキリしないわね!」

あー、だめだ。やっぱこの手の人は苦手だ。すごい勢いで気圧される。
ただ、彼女の姉なのに苗字が違うから、違和感を隠せなかっただけだ。
いや、確かに名乗ったのに訝しげにしたら不快になるのは分かる。申し訳ないことをした。

それにしても苗字が違うということは…おそらくこの人は結婚してるんだろう。
見た目も随分派手だし。
まぁそれはいい。とりあえずここに来た以上は目的を果たすべきだ。

「これ…はい」

そういって俺は傘を渡す。折りたたみだから二人分には狭すぎるが、ここで立ち往生していても仕方ないだろう。
俺は濡れて行けばいいだけだ。そう思っていたのだが…。

「なにこれ」
「いや、濡れると大変だからって」
「アンタの分は?」
「…走ればいいし」
「そう、ならいらないわ」
「うん、ちょっと今は久しぶりに姉妹で話したいかな」

なんというか、捻くれた人たちだなぁ…。
あぁ、それにまぁ。結婚していて家に居ないとなると、久しぶりに会ったのかもしれない。
だとすると、姉妹水入らずというのも本音なんだろう。

「久しぶりってアンタが家に帰ってこないからでしょ!パパ寂しそうよ」
「そんなこと言われても私はもう苗字も変わったし…」

…は?

「そもそもアンタ早すぎよ!なんで入学と同時に籍入れてんのよ!!」
「だってずっと一緒に居たんだよ?それに先生はいい年になってたし…」
「そりゃそうかもしれないけど、せめて大学終わるまでは待ちなさいよ!」
「三食ともご飯とか作ってあげたかったし。それにやっぱり、お帰りなさいって言ってあげたいの」
「――っ!ごちそうさま!」

えーと、落ち着け俺。なんか物凄い話が聞こえてきたぞ。
なんでも彼女は姓が変わっていて、もう実家には居ないだって?
こっちの派手目の美人じゃなく?
サークルアイドルは人妻でしたって?
なんだこのエロゲ。いやエロゲならむしろ奥様は大学生か!ははっ。
大体さっき先生とか言ってたよな、ということは高校とか中学の先生か。すげぇ先物買いだな。大当たりだけど。

「ていうかアンタも…小学の時からだから…8年?も一緒に居てよく飽きないわね」
「飽きるとかありえない」

小学の先生でしたー!
エロゲじゃねーよ!アグネス呼べ!!
いやでも今大学生だからセーフなのか!?アグネス無力じゃねーか!
しかも飽きないんだって!どんだけこの美人から想われてんだよ!

「…ねぇ、さっきからそいつ、動きがおかしいんだけど」
「…大丈夫?」

はっ!?

「あ、いや、なんでも、な、くない」
「なんなの?」
「…矢部さん、結婚してたの?」
「?そうだよ?」

さも当然のように話してくる。いや大学生で結婚って普通ないから…。

「いや普通はあんまり居ないから…」
「あ、そういえば言わなかったっけ…。でもたいした問題じゃないよね?」

大有りです。俺の妄想が物凄い勢いでひび割れました。新しい属性に目覚めてしまいそうです。

「ひとは…アンタ、大学生って言ったら、男女の付き合いを始める人だっているのよ。それ最初に言っておかないと…」
「…っ!あ、だから私…」

うぉぉぉぉーい!ぉーぃ!誰か!誰か、先輩その他の非常に無駄な努力を返してあげて!
矢部さんと何とかお近づきになりかった連中ばかりだったのに…。
なんか今日はみんなとスゲー仲良くなりながら飲み会が出来る気がする。
ぎこちなかった人たちもスゲー仲良くなれそう。今ならなんだって話せる。絶対。多分。と思う。

「うぅん…今日行った時に伝えておこう」

死屍累々か…。俺、仲良くしよう、先輩たちと…。

おしまい


蛇足としてこの人の名前はおのまえひとし。