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ホントノキモチ

夏の終り。

夕暮れ、学校の帰り道。

今日は、みつばと二人きり。

「あんたのせいで、貴重な放課後がぱあよ! ばか杉崎!」

「人のせいにしないでくれるかしら、この痴女!」

理由は、昼間、教室で二人喧嘩した罰に、校長室の掃除をさせられていたから。

喧嘩の理由は、いつも通りたいしたことじゃなかった。

だけど、お互い、引っ込みがつかないのも、いつも通りのことで。

いつもと違ったのは、吉岡が風邪で休んでいて、とめる人間がいなかったこと。

結果、ヒートアップしすぎて、さすがの矢部っちも見過ごせないレベルにまで発展してしまった。

ひぐらしさへ鳴くのをやめてしまったから、運悪く誰も通らないこの道には、二人分の怒声だけ。

毎日歩いている帰路が、とんでもなく長く感じる。

怒鳴れば怒鳴るだけ。

怒鳴られれば怒鳴られるだけ。

心が重くなっていく。

「あんたなんか大嫌い!」
「……っ!」

みつばから、投げつけられた言葉。

もっと酷いことを言われたこともあるし、言ったこともあるけど。

限界だった。

耐えられなかった。

気付くと、頬を涙が伝っていた。

「っ……う」

途端、大きな目をさらに大きく見開くみつば。

「ちょ、なんで泣くのよ!? 杉崎!?」

……いつからだろう。

気になって、仕方なくて。

気持の正体がわからないで生まれた戸惑いが、余計に心を惑わせた。

理解出来ないものが自分の中にあることが、不安で仕方なかったから。

簡単な答えを探した。

その結果。

一番わかりやすくて当てはめやすいのは、嫌悪だった。

自分は、みつばが嫌いなんだ。

そう思うと、やっと気持の整理を出来た気がして、ほっとした。

だけど。

嫌いなんだ、と思っていても、自然とみつばの姿を目で追っていた。

嫌いなら、無視すればいい。

関わらなければいいのに。

何故だろう。

考えて、きっと、無視することも出来ないほど、大嫌いだからなんだ、と。

だから、やっつけてやる、と。

芽生えたのは、歪んだ対抗意識。

意地を張って、いがみあって。

だから、弱味を握ろうと写真を撮ることにしたのは、自然な流れだった。

だけど。

弱味を握る、それを目的に撮った写真は、いったい何枚だっただろうか。

携帯のカメラ、その小さな長方形に閉じ込めた、たくさんのみつば。

何枚撮っても足りなくて、何気無い、弱味なんて関係ない、ボーッとした横顔だとか、意地悪そうな笑みだとか、たまに見せる、本当に無邪気な……可愛い、笑顔だとか。

携帯とパソコンの画像フォルダいっぱいの写真を、飽きることなく眺めるうちに。

本当の気持ちをコーティングしていた偽りの答えに、ぴしっとヒビが入った。

本当に、私はみつばが嫌いなの?

表面にヒビの入った気持の上に降り積もる、言葉。

彼女の言葉。

私を嫌う、彼女の言葉。

それは、どんどんヒビを深くして、砕いて。

破片は、本当の気持ちに刺さっていく。

最初は、チクリ、とするだけだったのに。

痛みは、どんどん増していった。

痛みの中、気付いてしまった。

気付いてしまったら、耐えられなかった。

限界だった。

涙と一緒に、コーティングを失った、本当の気持が。

「……私は、嫌いなんかじゃ、ない……っ」

溢れた。

「みつばが好き、大好きっ!」

私の叫びに、みつばの顔が、かあっ、と赤く染まる。

「な、なに? いきなり、なに言ってんのよ!」

「も、いや……もぉ、いや……っ! 違うのに、こんなふうに、なりたかったわけじゃ、ないのに……っ」

涙で前が見えない。

ぼやけた視界は不安で、頼りない。

それが嫌で、瞼をぎゅっと閉じると暗闇がやってきて、飲み込まれそうになった。

足下がフラついて、こけそうになる。

「杉崎っ!?」

受け身をとる余裕なんてない。

日中強い陽射しに照らされ、熱の抜けきっていない熱いアスファルトの堅さと、遅れてやってくるであろう痛みを覚悟した。

「……?」

おかしい。
痛くない。
甘い匂いで、やわらかい……?

「……危ないじゃないのよ」
「ッ!」

抱きとめられた、体。
接近した顔。
唇さへ触れそうな至近距離。
みつばの透明な瞳の中に、弱りきって消えてしまいそうな自分の姿を見つけた。

「あ……っ」

急いで離れようとした。
けれど、みつばは私の腰に腕を回して、離してくれなかった。
ギュゥッと抱き寄せられる。
どうして?

「や……離してっ」
「うるさいっ!」

怒鳴られて、ビクッと肩がこわばった。

「ばか杉崎……」

みつばはそう小さく呟きながら、薄手のワンピース越しに爪を立ててきた。
少し痛くて、でもみつばをすごく近くに感じて、胸の鼓動が早鐘を打つ。

「……で? いきなりすぎていまいち伝わらなかったわ。もう一回言ってくれるかしら。私が、なんだって?」

私の涙を指で拭った後、みつばは、とても意地悪な口調で問掛けてきた。
だけど、瞳はとても優しくて……顔は、耳まで真っ赤だった。


ああ、でもきっと。
私の顔は、それよりずっと真っ赤だろう。

だってこんなに熱いんだから。

ああ、もう。

「……っ好きなの、あんたが!」

愛おしすぎて、死んじゃいそう!

私の本当の気持ちを聞いて、みつばは一瞬、とても嬉しそうに微笑んで、

「私も、本当はあんたのこと、嫌いじゃないわ」

なんて、彼女らしく言った。

「なによ、それ! 好きなのか嫌いなのか、はっきりしなさいよっ」

好きと言われたわけでもないのに、頬が緩むのをとめられない私。

「嫌いって言ったら、泣くくせに」

からかい口調でそう言いながら、楽しげに笑うみつば。

二人とも、離れようとも離そうともしないから、くっついたままで。
一つになった影が、妙に優しげに地面へと伸びていた。


おわり