杉崎視点
9-1

一階に着くとママがふたばと遊んでた・・・とういうか、ふたばがママの胸をつかんでいるのはなぜ?

そして、ママそんな幸せそうな顔しないで。

みつば「ちょっとふたば、何してるのよ!・・・ドMもなにうれしそうな顔してるのよ!この痴女!」

杉ママ「ああ、抉るようなその罵倒いいわ、もっと言って頂戴!」みつば「断るわ!」

私もいやになってきたこのママ。みつば、お願いだからあまりドMに拍車をかけないで上げて。

ひとは「もう宿題も終わったから降りてきたんだけど」

杉ママ「あら、そうなの?もう少し皆と一緒に遊んで居たかったわ。残念」

これ以上ママがおかしくなるのは勘弁してほしいが、私としても少しだけ・・・

本当に少しだけだけど、もう少しみつばたちと話とかしたかった。

9-2

杉ママ「みくも、もう少しみつばちゃんとお話したいって思ってるわ」

杉崎「っ!な、何言ってるのよママ!そ、そんなこと思ってないわよ!」

今日何回目の赤面だろう。心を読むならもう少し前の”ママがおかしくなるのは勘弁してほしい”

ってところを読んでほしかった。

      • ここからだ。私が今日一番混乱をして、そして大きな間違いを犯してしまったのは。

みつば「なにぃ?杉崎ぃー、そんなに照れなくてもお願いすれば一緒に居てあげるわよぉ?」

杉崎「え?あ・・・え?」

本当にお願いすれば一緒に居てくれるのだろうか・・・一瞬でもこんなことが頭によぎったことが信じられない。

みつば「いや、挑発してるんだから本気で受け取らないでよ」

突っ込みが来なかったので冷静に言い放つみつば。

      • きっと私の顔は赤面なんてレベルを超えてるんじゃないだろうか。死にたい。

杉崎「み、みつば!騙したわね!この痴女!雌豚!」

とりあえず、いつもの調子で怒れば乗り切れるだろう。それにこのほうがみつばと自然に話せる気がした。

みつば「ふん、変態一家に言われても全然悔しくなんて無いわね!というか、からかっただけで、騙す気なんてないわよ!」

みつばもそれを知ってか、知らずか乗ってきた。ただ、

みつば「信じたあんたが悪いのよ!」

からかっただけで、騙す気はない。信じたあんたが悪い。

      • つまりさっきの言葉通りお願いしてもみつばはきっと傍に居てくれないだろう。

杉崎「べ、別に信じたわけじゃないわよ!ただ・・・」

そう、信じたわけではない。そうなれば良いと思った。・・・ならばそれは私の願望なのだろうか?

今日一日あったことがフラッシュバックとなって思い出された。

今日ふたばや三女に言われたとおり私は、みつばのことを仲が良い友達だと思っているのだろうか。嫌いではなく好きなのだろうか?

9-3

みつば「ただ、なによ!言ってみなさい!」

近いはずなのに、少し遠いところで声がした気がする。

私の言いかけた言葉を聞き逃さず聞き返してくるみつば。当然私は、

杉崎「・・・なんでもないわよ」

言えるはずも無く、そして怒れば乗り切れると思っていたけどそんなことも無く。

混乱したわたしは、より深い混乱に悩まされる。

そんな私は逃げることが今の唯一の打開策だと思った。

みつば「なによそれ、どうい・・・」杉崎「帰る!!」

そう、今は帰ることが出来る。逃げることが出来るのだ。この混乱した心も明日になれば落ち着き元通りになる。

みつば「・・・なによ。本気で怒ってるわけ?」

少し呆気に取られた表情で返してきた。

でも私は無視する。私は今すぐにでも逃げたかった。

杉崎「ママ、早く帰りましょう」

ふたばと三女が心配そうに見ている。みつばでさえ、さっきまでの怒っている顔とは違い、なんだか不安そうな顔をしていた。

今の私はそんなにも弱弱しく、潰れてしまいそうなものに見えるらしい。

そんな視線からも早く逃げたかった。

みつば「あんた!逃げるの!」



みつば視点
10

なんだか、杉崎が、私から逃げるように見えてそう叫んでしまった。

理由なんて知らない。ただ、逃げてほしくなかった。いつも真っ向からぶつかっている私の”大切な友達”だ。

いつも罵り合ってはいるけどそれは、本心からじゃない。私たちはそれを楽しんでいた。でも今は違った。杉崎は私の言葉を聞いて逃げようとしていた。

間違ったのは私かもしれない。なにか私の言葉に触れてはいけない何かがあったのかもしれない。でもそんなのわからないし関係ない。

逃げてほしくない。

みつば「いつも逃げないじゃない!ぶつかってきなさいよ!絶対このまま家になんて帰さないんだから!」

今のは本心で言った言葉。この言葉に杉崎も本心で、真っ向から答えてほしかった。

ひとは「ちょ、ちょっとみっちゃん?やめなよ、ふたばも手伝って!」

ふたば「そ、そうっす、だめっすよ!みっちゃん、落ち着くっす!」

興奮している私を、ひとはとふたばが止めようとする。

杉崎「ごめん・・・また明日」バタン

言い放たれた言葉は、短いもので、やはり、私から逃げるための言葉だった。

結局私の問いに答えることなく、出て行ってしまった。

まだ、追いかければ間に合う。でも、ふたばに抑えられ抜け出すなんて先ず出来ない。

離すように説得する?無理だ。この苛立ち焦った心のままだと私は二人を傷つけることしか出来ない。

二人とも私のために止めてくれているのだ。そんなこと出来ない。

”絶対このまま家になんて帰さない”って言葉は本心でありながら行動が伴わなかった。

悔しかった。私の本心を杉崎に信じてもらえなかった気がしたから。



杉崎視点
11-1

結局は逃げた。みつばの最後の台詞。本心からの言葉だったのはわかった。それでも私は逃げたのだ。

私は、みつばを裏切った。

杉ママ「みく?大丈夫?あんな言い争いいつものことじゃないの?」

ママは、わかっていない。きっと、三女だってふたばだって、わかっていない。私とみつばだけがわかっている。

杉崎「・・・もう、今までのように話せないかもしれない・・・」

杉ママ「え!?どうして?いつも喧嘩なんてしてるじゃない?大丈夫よ」

いつもの喧嘩とは違う。どの程度の悪戯をすれば、どんな反応をするか、どのくらい怒ってくるのか。ある程度予想を付けて

喧嘩を楽しんでいるのだ。確かに熱くなりすぎて周りの皆に止められたりもする。

今回は違う。

私は裏切った。本心でぶつかるべきだった。でも、私はその本心が理解できていない。私は裏切る選択肢しか持っていなかった。

そんなことを考えていると気持ちが外に漏れ出し始めた。

杉崎「私は自分がみつばのことをどう思ってるかわからない・・・だから・・・うぅ」

みつばの家を出てから必死で我慢していたものも目から溢れ出した。

11-2

杉崎「わ、私は、みつばが好きなの!?嫌いなの!?・・・友達だと思ってるの!?思ってないの!?どっちなのよ!どっちなの・・よ」

その場でしゃがみこんで泣いた。立っているのが辛いくらい心が重い。わからない。自分がわからない。

杉崎「やだよぉ・・・みつばぁ・・・、嫌われたくない・・・」

涙は止まらない。いくら泣いても、いくら気持ちを吐き出しても心は重いまま。もう永遠に重いままとさえ思えてしまう。

そんな私にママが優しく声をかけた。

杉ママ「大丈夫よ、みく・・・落ち着いて、ね?」

必死になって背中を擦ってくれる。ママは言葉を続けた。

杉ママ「そんなの簡単よ、みく。あなたはみつばちゃんに嫌われたくない。それって、みつばちゃんが好きってことじゃないの?」

嫌われたくない・・・私の心から無意識に漏れ出した言葉。

杉ママ「そして、良い友達よ。何度喧嘩しても一緒に居られるのだもの。ママは間違ってるかしら?」

私は、いつもみつばと喧嘩してる・・・喧嘩してるから仲が悪いと思い込んでいた。

でも、喧嘩している相手がいつも傍に居てくれる・・・。

杉ママ「こんな問題深く考えちゃダメよ!答えなんてすぐそこにあるんだから。みつばちゃんはSなお嬢様だけど、優しい子よ。謝ることできっと許してくれるわ」

そうだ、みつばはいつも優しい、今日だって、この前だって、何時だってそうだ。

周りに気を配り、人一倍周りとの関係を大事にして・・・悪口だって、友達に向けたて言ったものだとしても、本当に相手の心に傷を負わせることはない。

もし万が一失言があっても、絶対にもとの関係に戻れるよう全力で努力するような子だ。

何度もみつばと喧嘩してきた私は知っている。

11-3

そして、簡単なことだった。・・・私は何も見えていなかった。見ようとしていなかった。

ママの言葉で心にかかった靄が薄れていくみたいに感じられた。

私はついさっき、いつもの喧嘩は楽しんでいると考えていたのだ。

だったら、仲が悪いから喧嘩しているなんてことあるはずが無い。

みつばも何度私と喧嘩しても逃げるようなことはしなかった。共に居てくれた。

それは、きっと仲が良いといえる関係だと思えた。

他の皆とは違った方向での仲の良さかもしれないけど、たしかに私は、みつばに嫌われたくない・・・

そして、ずっと喧嘩しているような仲でいたい。これからもそうありたいと思っている。

自分の中の理解できなかった気持ちが減っていく。心の重みも同様に減っていき、軽くなる。

杉崎「・・・謝ってみる。・・・明日、本心から謝る」

本当に簡単な解決方法。でもそれを見つけたとき、私の心の重みは完全に消えていた。

もう立ち上がることが出来た。

ママがこちらを見て微笑んでくれる。

少し遅れるけど、私も明日本心でぶつかってみようと思えた。



ひとは視点
12-1

みっちゃんは、今一人にはなりたくないのだろう。

お風呂に入る前の台詞はそういうことだったのだと思う。

私はみっちゃんと一緒にお風呂に入った。励ましの言葉も何度も言った。

でも、結局お風呂では一言も話さなかった。

ただの喧嘩じゃない・・・それだけはわかった。でも理由がわからない。杉崎さんが本気で怒った理由が・・・

きっとみっちゃんもそれについて悩んでるんだと思う。みっちゃんが失言したのか、それとも別のところに理由があったのか。

風呂上り、居間にみっちゃんを無理やり連れてきた。

無理やりって言っても嫌がっていたわけじゃない。手を引いただけ。

少し驚いているみたいだったけど、みっちゃんは何も言わなかった。

お茶を二人分注いでテーブルに置いた。

ひとは「みっちゃん・・・大丈夫だよ、きっと杉崎さん明日はいつも通りだよ」

何度目になるかわからない励ましの言葉。ただ違ったのはみっちゃんの反応だった。

みつば「ねぇ・・・ひとは、私、何かいつもとは違うこと言った?」

みっちゃんが返事をしてくれた。私は記憶を頼りにあの時の言葉を思い出してみた。だけど、

ひとは「・・・わからない。いつもの喧嘩と同じだと私は思ったよ。だから、別のところに理由があるのだと思う」

台詞を思い出してみてもいつもと変わらないやり取りだったはずだ。

ひとは「たとえば、今日杉崎さんちょっと変だったから、それが何らかの理由になってるとか・・・」

我ながら要領を得ない回答だ。するといきなりみっちゃんが声を出した。

12-2

みつば「・・・いいわ!わかった。明日学校で会ったら一番で謝ってやるわ。そして何が悪かったのか直接聞くわ!」

みつば「今度は、今度こそは絶対に逃がさない。その場で本心からぶつかってもらうわ!」

私の助言なんて聞いていない。でもそれでこそみっちゃんだ。

ウジウジ悩むのは私の専売特許。みっちゃんには似合わない。行動してこそみっちゃんだ。

みつば「・・・一応言っておくわ。ありがとう、ひとは・・・」

その言葉に私は不意を付かれた。

ひとは「え?いきなりどうしたの?」

みつば「ずっと・・・ずっと励ましてくれたことよ!・・・言わせないでよバカ!」

残っていたお茶を全部飲み干して、二階の部屋へいってしまった。

あとはふたばに任せよう。こういう時はきっと私より力になれるだろう。

みっちゃんの台詞。ほんとは強がりなのかもしれない。私やふたばをこれ以上心配させないための。

でもみっちゃんは行動する。私にはわかる。姉妹なのだから。

ありがとう・・・か。

私はきっと周りから見たら少しニヤけているんだろう。

二人分のコップを洗い、私も部屋に向かった。



杉崎視点
13-1

翌日の朝。昨日は良く寝れた。帰ったらいつの間にか寝てしまっていたからだ。帰りに泣いて疲れてたのだろうか?

朝起きた時から緊張していた。夢の中でも何度もみつばに謝っていた気がする。

それでも、私はみつばに謝る時の自分のイメージがうまく出来なかった。

でも、絶対に何とかなる。謝った後のイメージは出来た。

だって相手はいつも喧嘩をしている相手のみつばなのだから。

学校に着いた。誰よりも早く、誰も居ない教室に。

私はみつばの席の横に立った。

みつばがここに居て、私がここに立ち、私がみつばに謝り、みつばが私に・・・どういう答えを返すのだろう?

「杉崎!」

突然教室の入り口のほうから声が聞こえた。

そう紛れも無い、みつばの声だ。

振り向いた私。

謝らなければ・・・口を開きかけた私にみつばは言った。

みつば「私が悪かったわ!」

みつばが私に頭を下げて謝っている。どうして、謝るのは私だ。

杉崎「なんであんたが謝るのよ!謝るのは私よ!・・・逃げて・・みつばを裏切ってごめんなさい!」

わたしも頭を下げ謝った。そう、みつばは何も悪くない。全て私の責任だ。

13-2

私は頭をそのままにしながら続けた。

杉崎「本心でぶつかってきたのわかってたのに・・・私は自分の都合だけで逃げたの・・・」

みつば「そうかもしれないけど、その都合を作ってしまったのは私なんでしょ?」

確かにそうかもしれない。でもいつもの私ならあんなことにはならなかった。

私があの時、冷静に判断できていればこんなことにならなかったのだ。みつばのせいじゃない。

杉崎「みつばはいつものように言っただけよ・・・」

みつば「杉崎・・・」

謝った、本心からだ。みつばにはしっかり伝わったはずだ。

そして、もう一つ確かめなければいけないことがある。

私は頭を上げてみつばを真っ直ぐ見ながら言った。

杉崎「・・・みつば。こ、これからもずっと友達で居てくれる?」

みつば「っ!」

しばらく沈黙が続く。

きっと数秒程度の沈黙だったけど、私には長く感じた。

みつば「・・・ど、どうしてもって言うなら、いつまでも傍で・・・友達で居てあげるわ」

みつばは顔を横に向けながら言った。

本当にみつばらしい答え方だ。

涙が出そうになった。でもここで泣くわけにはいけない。

13-3

この質問をした理由は、残念ながら永遠を誓い合うものではない。仲直りの確認だ。

私は仲直りできたことの確認が取れたので、ここからはこの恥ずかしい台詞を無かったことにしなければならない。

私のプライドのために、そしてこれからもみつばと共に喧嘩をするためにだ。

私は、大きく息を吸い込んで、今までよりも大きな声で言ってやった。

杉崎「ば、バーカ!”どうしても”なんて言うわけ無いじゃない!御めでたい雌豚ね!」

みつば「え?・・・あっ!あんた、だ、騙したわね!」

みつばは一瞬状況が理解できなかったのか、呆気に取られていたが、すぐ状況を把握したようだ。

真っ赤な顔をしながら怒るみつばに、私はさらに続ける。

杉崎「騙されるほうが悪いんじゃなかったっけ?」

みつば「な・・・なんですって!」

杉崎「もう一度言ってあげましょうか?騙されるほうが悪いのよ!」

昨日のみつばと同じような台詞・・・でもみつばなら、私と同じ過ちをしないだろう。

私だから、あんな過ちをしたのだ。みつばは逃げない。絶対に。

それにもし、万が一、同じ過ちが起きたとしても、すぐに私が救って上げられる。

みつば「そ、その憎たらしいバネ型髪の毛抜いてやるわ!待ちなさい!」

みつばが追いかけてくる。逃げながら窓の外を見ると、生徒たちが少しずつ登校し始めているのが見えた。

~終わり?~



ひとは視点
EX

みっちゃんが心配で後を付けていた。

やたら早く一人で学校に向かったみっちゃん。

今杉崎さんと喧嘩して追い掛け回している。

謝って仲直りしたのにすぐ喧嘩だ。まったく心配して損した。

でも、今のみっちゃんの顔は朝や昨日の夜とは全然違う、ほんとに楽しそうな顔をしながら追いかけている。

ほんとに良かった。私は心からそう思ったが、反面モヤモヤする気持ちもあることに気がついている。

さて、もうそろそろ他の生徒が来てもおかしくない時間だ。さっさとこんな喧嘩仲裁に入ろう。

見ているとイライラして堪らない。

私は何食わぬ顔でみっちゃんと杉崎さんの前へ出て行く。

他の誰でもない私のために。

~改めて終わり~

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最終更新:2011年03月11日 22:48