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~ 風邪(みつば視点) ~

家を飛び出してから30分くらいだろうか?

結局今もひとはは見つからない。一度帰るべきかと思ったけど……杉崎にどう謝れば良いかわからず、ひとは探し続けていた。

風邪もどうやら再発したらしく、外の寒さではなく、体の奥から震えのようなものも感じていた。

流石に帰ろうと思ったとき、墓地の前にテントが在るのが見えた。

……墓地にテント……十中八九松岡だろう。……まさかひとは、ここにいるんじゃ?

テントの前まで行き、松岡以外であることを考えずにテントの入り口を無造作に開ける。

松岡「ひゃ!!」

松岡の悲鳴が聞こえた。

みつば「……」

松岡「……な、なんだ、みっちゃんか~」

幽霊を待ってるはずなのにこの子今思いっきり驚いてたよね? 以前も人体模型に驚いてたし……

とりあえずそれは置いといて。

みつば「ひとは……来てない?」

松岡「え? 15分前くらいに杉ちゃんたちが三女さんを家に連れて行ったよ?」

……もう見つかってたんだ……でも入れ違い……か

松岡「まだ、三女さん探してたんだね……ごめん、三女さんを責めないで、責めるなら無理やりつれてきた私を……みっちゃん?」

……あれ? なんだか安心したからかな、急に風邪が酷くなってきた気がする。

ボーっとしてると松岡に手を頭に当てられた。

松岡「ちょ、ちょっとみっちゃん! 凄い熱よ! っ! まさか幽霊の仕業!」

……しまった。これ帰れないパターンじゃない?

松岡「急いで帰ったほうが良いよ! ここは私は私に任せて!」

……ああ、基本良い奴だったわね。本当に辛い時のことはちゃんと理解できてる。

いつも迷惑ばかりで変な奴だけど、ひとはも何だかんだ言って突き放そうとしないわけだ。

みつば「……じゃあ……お言葉に甘えて帰らせて、貰うわね」

松岡「……送って行かなくて大丈夫?」

こんなに松岡に心配されるとはね……

みつば「はぁ、心配いらないわ……すぐそこだしね」

松岡「――わかった! 信じるよ」

……大丈夫って言ったけど、結構フラフラしてる。

家まであと少しなのに……早くベットで横になりたい。

???「みつば……やっと見つけたわよ」

下を向いていたので誰が声を掛けたのかわからなかった。

顔を上げて前を見ると杉崎がいた。

みつば「杉崎?」

杉崎は近づき松岡と同じように額に手を当てる。

杉崎「はぁ、やっぱり。三女に聞いたわよ。風邪、今朝治ったばかりなのに無理しすぎよ」

みつば「うっさいわね! 手退けなさいよ!」

額に当てた手を腕で振り払い、同時に距離を取るために一歩下がる……はずだった。

こんな状態で少し無理な体制になろうとしてしまった為か、バランスを崩して後ろに倒れそうになる。

杉崎「っバカ!」

みつば「……?」

倒れて、背中や腰辺りに痛み受けることを覚悟していたのだが、その痛みはなかった。

杉崎「さっきも言ったでしょ! 無理しすぎよ!」

さっきよりも近いところで声がした。

みつば「……杉崎?」

……状況が飲み込めた。どうやら杉崎が支えてくれたらしい。

突き放すべきだろう。いつもの私ならそうする。でも――

みつば「……ありがと……それと、ごめん」

――私は謝りたかった。私を落ち着かせようと声を掛けた杉崎に酷いことを言ったのだから。

杉崎「……な、なによ急に……お礼は判るけど、謝罪される覚えなんてないわよ?」

どうやら何に対する謝罪だったのか伝わらなかったらしい。

みつば「玄関先で別れたとき、あんたに酷いこと言ったじゃない、あれよ」

面と向かって言うのが恥ずかしいので支えて貰っている方の反対側に顔を向けながら言った。

杉崎「……あれは……私も悪かったのよ。私だって龍太に同じようなことが起きれば落ち着いてなんていられないわよ」

そういうと、杉崎が私を支え直して歩き出す。そのまま歩きながら話を進めた。

杉崎「無神経なことを言ったのよ、私は――だから謝るのは私のほうよ。……悪かったわね」

杉崎も謝ってきた。私は杉崎が悪いだなんて思っていなかったけど、それはきっとお互い様な気がした。

私はなにも言わないことにした。

~ 看病(ひとは視点) ~

探し始めてから30分程度経った。一度家に戻ることにする。

探している間に、ふたばに状況を説明した。私同様ふたばも本気でみっちゃんのことを心配しているようだった。

なんだかんだ言っても、みっちゃんは私たちの大切なお姉ちゃんだから。

家の前まで来ると宮下さんが玄関前で待っていた。

宮下「あ、三女! 長女見つかったぞ! やっぱり熱出してて、今ベットで寝てるんだ!」

ひとは「!」

宮下さんの言葉を聞いて私は急いで玄関を上がり、2階の部屋まで行く。

杉崎「あ、三女。今薬飲んで眠ったところよ」

どうやら昨日の夜使った風邪薬が机の上にまだ置いてあったようでそれを使ったらしい。

ひとは「みっちゃん、大丈夫そう?」

吉岡「うん、大丈夫だと思うよ。薬も飲んだし、帰ってきてすぐより落ち着いてきてるみたいだし」

宮下「あーあ、でも今日の鍋パーティーは流石に中止かな? これから杉崎の家まで行って鍋するのも時間的に難しいよな」

宮下さんも2階に上がってきた。どうやら、杉ちゃんたちは鍋パーティーを予定していたらしい。

確かに今から杉ちゃんの家に言って食べていては、自分の家に着く頃には9時を過ぎる。小学生が出歩くような時間ではない。

ひとは「家には4人用くらいの鍋しかないから無理だよ」

宮下さんの言いたいことがなんとなくわかったので釘を打っておいた。

杉崎「そもそも一部の材料が私の家に在るしね。鍋パーティーは来週にしましょ。その時はあんたたちも誘うわね」

宮下「まぁ、仕方ないか。それじゃ、私たちはそろそろ帰るか」

ひとは「今日は……その、色々ありがと」

杉崎「はいはい、みつばにも起きたら感謝するように言っておいてね」

杉ちゃんたちは、鍋パーティーを中止して各自家に戻った。

ふたばに看病を任せ、私は少し遅い夕飯を作る。

作っているとお父さんも帰ってきた。土曜日なのにお勤めご苦労である。

草次郎「ただいま。ん、今日は夕飯遅いな? ふたばとみつばはどうした?」

ひとは「おかえり。2人とも私たちの部屋だよ。みっちゃんは風邪が再発して寝込んでる」

草次郎「そうか。みつばの奴ちゃんと安静にしておけって言っておいたんだがな」

どうやら、遊んだり、騒いだりして再発したのだと思っているようだ。

その後ちゃんと今日のことを説明してやった。



みっちゃん抜きの夕飯も終わり、ふたばはお父さんとお風呂。その間にみっちゃんのために作った卵粥を部屋に運ぶ。

みっちゃんはまだ寝ているようだ。額に載せてある濡れタオルを取り、顔の汗を拭いてあげた後、洗面器の中の水で洗い額の上に戻す。

タオルを絞る手が冷たいが仕方がない。この前のみっちゃんの風邪で額につける冷却シートは全部使ってしまったから。

今日は迷惑を沢山掛けた。まさか、帰りが遅いせいでみっちゃんにこんなに心配させるとは思っていなかった。

雪が降っていなかったら、ここまで心配されなかっただろうし、松岡さんに会わなければ普通に帰って来れたのに。



今日のことを振り返ってる内にみっちゃんのベットに寄りかかりいつの間にか私は眠りに落ちていた。

~ 夜中(みつば視点) ~

私が今いるのは自分のベット。

杉崎に部屋まで運ばれて、吉岡に薬を飲まされてベットに寝かされた。

ひとはは家に帰ってるはずだがその時見かけなかったところを見ると、杉崎と別行動で私を探していたのだろう。

今、そのひとはは私のベットに寄りかかり眠っている。

額には温くなったタオル、頭には水枕……看病されていたのだろう。おかげで風邪も殆んど治っているみたいだ。

……結局ひとはは、トラブルに巻き込まれていることもなく、私の心配しすぎだった。

ひとはにしては、本当に迷惑話だっただろう。私にプリンを買いに行かされ、私を看病して……

みつば「……ひとは……悪かったわね……」

寝ているひとはに起こさないように小さな声で言う。

……それにしてもお腹がすいた。当たり前だ。夕飯食べてないし、結構外歩いてきたし。

上半身を起こしてなんとなく部屋を見るとテーブルの上にラップされた小さな土鍋を見つけた。

あれ、どう考えても私のお粥か何かよね?

ひとはを起こさないように器用に布団から足を抜きベットから降りる。

テーブルまで行き土鍋の中を見た。

中身は卵粥。食べたいが冷たくなってるので暖めるために、それを持って1階に行くことにする。

コンロに置いて火をつける。

???「……みっちゃん? 起きたの?」

階段の方から眠そうな声が聞こえてきた。

みつば「ひ、ひとは? あんた寝てなかったの!?」

眠そうな声出しているのだから、寝てたはずなのだが、もし起きていたら、部屋での言葉や、気を使って起こさないようにしていたのも見られていたことになる。

それは、私らしくない行動だし、恥ずかしい。

ひとは「ん、部屋のドア閉まる音? たぶん、それで起きたんだよ」

みつば「そ、そう」

どうやら、恥ずかしい思いはしなくて済んだようだ。

ひとは「……まったく雌豚だね」

少しの沈黙の後、階段を下りつつ、こちらを見ながらそんなことを言ってきた。

みつば「し、仕方ないじゃない! 私は夕飯まだなんだから!」

言い訳を試みる。――と言うか事実だし!

ひとは「わかったから、騒がないで。風邪だって完全に治ったわけじゃないでしょ?」

みつば「まぁ、だいぶ楽にはなったけど……」

ひとは「これ、後は私がやって置くから、炬燵の電源入れて座ってて」

そういうとコンロの前に居る私を押しのけて、火の強さを強火から弱火に変える。

みつば「わ、悪いわね……」

私はこれからひとはに謝って、お礼をしなくちゃいけないし、ここで争っていてはやり難くなる。

大人しく引き下がり炬燵に入る。

コンロの火の音と炬燵の音だけがしばらく聞こえてくる。

このタイミングで謝ってお礼を言うべきなのだろうか?

卵粥が暖め終わってから言うべきなのだろうか?

そんなことを考えていると、あちらから声を掛けてくる。

ひとは「ね、ねぇ、みっちゃん?」

みつば「え! な、なによ?」

突然だったのでなんだか普通に反応できなかった。

その私の態度に、特に反応せずにコンロのほうに向いたままひとはは続ける。

ひとは「えっと…………私のこと心配して探してたって杉ちゃんに聞いたんだけど……本当?」

……杉崎の奴何余計なこと喋ってるのよ! ……どうしよう、どう答えよう。

答えに詰まり迷っていると、またひとはが先に口を開いた。

ひとは「も、もし本当に心配してくれてたなら、その……ありがとう」

……ひとはのお礼の言葉。いつもの余裕のある声ではなく何か切羽詰ったような言い方だった。

私は嬉しかった反面……複雑な心境だった。

ひとはが私にお礼をすることなんてない。

みつば「……心配なんてしてないから、私にお礼なんてしないで!」

ひとはがこっちを向いて何か言いたそうに口を開いたが私はそれを遮って続ける。

ひとは「でも――」みつば「わ、私は! あんたに迷惑掛けてばっかりよ!」

私はひとはの方を見ずにさらに続ける。

みつば「プリンなんて自分で買いに行けば良かったのに……結局迷惑掛けたのは私のほうで――」

私の声は少しずつ小さくなっていく。

みつば「――お礼を言わなくちゃダメなのは私のほうなのに……」

ひとは「みっちゃん……」

みつば「だから……ごめん、ひとは。…………ありがとう」

また、しばらく沈黙が続いた。当たり前だろう私の意味不明な発言があって引いてるんだろう。

すると、コンロの火の止める音がしてひとはがこっちに歩いてくる気配がした。

ひとは「出来たよ。みっちゃん」

ひとはは卵粥をコンロから炬燵のテーブルに持ってきた。そしてひとはは正面に座る。

ひとは「わ、私は迷惑だなんて思ってないから……」

みつば「え?」

私が状況を整理する暇を与えずにひとはは続けて言った。

ひとは「みっちゃんは、周りの皆を振り回してもいるけど……けど、ちゃんと気を使ってるの私は知ってるから。――だから、迷惑じゃない」

……。

私は未だに意味がわからず何も言えずにいると、ひとはは何を思ったのか目を逸らし、少し焦ったように言った。

ひとは「……は、早く食べて。冷めるよ」

みつば「え、あ、うん。ありがと……」

ひとはが、目の前に置かれた卵粥を食べるよう促したので、とりあえず一口食べることにする。――――おいしい。

……………………。

……………………?

……っ! 落ち着いてきて理解できた。ひとはの言った言葉の意味が。

な、なんでそんな優しい言葉掛けてくれるのよ――っ!

理解できるのが遅すぎて、今更照れ隠ししようにも何も言えないじゃないの!

とりあえず、真っ赤な顔を見られたくないし下を向きながら食べ続けることにする。

卵粥にも限りがある。それまでに落ち着いて置かないと……落ち着いて……。

……。

そして目の前には空の土鍋。もちろん落ち着けてないっ!

ひとは「……えっと、足らなかった?」

……お腹は一杯だけど――気持ちを整理するだけの時間は稼げなかったわよ!

みつば「だ、大丈夫よ。もともと量が多かったのに足りないなんてことないわよ!」

とりあえずは、適当に回答を返しておくしかない。

ひとは「そ、そうだよね。流石にそこまで雌豚じゃないよね」

みつば「……」

ひとは「……」

き、気不味い。さっきの悪態に反応すべきだったわ……。

……。

ひとはの言った台詞――――もちろん悪態のことじゃない――――はすごく嬉しかった。

ひとはは私にいつも文句を言ってくるし、バカにもする。

私よりしっかりしてるし、スポーツ以外では私が勝てることなんてない。

……そのスポーツでさえ、ふたばのができる。――相撲とスケートだけなら私のが強いけど。

ひとはにとって私なんて必要のないもののはずだ。ひとはに足りないものはふたばがほぼ全て持っているから。

……いつもはこんなこと考えないけど、失敗して、落ち込んで、迷惑掛けた時、たまに考える。ついさっきもそうだった。

でも、私が必要とまでは言ってはくれないけど……それでもひとはは、こんな私でも迷惑じゃないって、私を知ってるって、言ってくれた。

……混乱しててすぐに理解できなかったけど、――本当に嬉しかった。

ひとは「み、みっちゃん。そろそろ部屋に戻る?」

ひとはから口を開いた。当たり障りのない言葉。この場に適した言葉。

気不味いのは向こうも同じだった様だ。

……当たり前だ。あんなに動揺する言葉を私に掛けておいて、ひとはだって普通でいるのは無理だろうから。

…………。

だったら私が何とかいつもの空気にしてあげないと。

しばらく黙っていたため、一層ここに居辛い空気になったためか、ひとはから席を立った。

そんなひとはに慌てて声をかける。

みつば「ちょ、ちょっと待ちなさい!」

ひとは「……」

ひとははこちらには振り向かなかったが足を止めてくれた。

みつば「あ、えっと、……! プ、プリン持ってきなさいよ! やっぱデザートがないとね!」

ひとはは、後ろを向いていても判るくらいの大きな嘆息をついた後、冷蔵庫を開けてプリンを取り出した。

それをこちらに持ってきて炬燵のテーブルにスプーンと一緒に置いた。

ひとは「はい。言われてたデザートだよ」

みつば「わ、悪いわね、ひとは」

そのままプリンに手をつけようとして気がついた。

そして、いつもと同じ調子でひとはの方を向き、無駄に高圧的な態度を作って言ってやった。

みつば「ちょっと、これクリーム乗ってないじゃない!」

こんな言葉でも、険悪なムードにはならない。これが私たちの普通だから。

ひとはも何かを思い出したような顔を一瞬してから 表情をすこし緩ませ、私の質問に答えた。

ひとは「ワザとだよ」

いつものひとは。……というかワザとなんだっ!



この後、いつもの口げんかのような争いをしばらくした。

いつもと違うところは、私もひとはも笑顔だった。



翌朝。

みつば「……」

ひとは「……風邪、うつされた」

おわり