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チー
「ん、おはよう、チクビ」

週末は先生のおうち。私は大好きなチクビに会いに行く。
私が到着しても先生は大抵寝ている。
以前跨ってみたときはさすがに起きたけど、実際、慣れてしまえばこの人は起きない気がする。
勝手におうちに入り込まれてゴソゴソされていても起きなかったんだから、眠りが深いのだろう。
話し相手にチクビはいるし、別に起きてこないのは構わないけれど、無用心ではあると思う。
これが私以外の人だったらどうするんだろう。私は特に何もしないからいいんだけど。
…無用な心配をしてしまった。
こんな心配をさせるぐらいなら、早く起きてくれればいいのに。
それにしても…しまらない顔で寝てるなぁ…。

「…ひとはちゃ…」

!?
び、びっくりした。起きては…ないみたいだから、寝言だね。
ていうか人を勝手に夢に出さないで欲しい。
肖像権を主張するしかないね。何か対価を求めないと。
それだったら何度出してくれても元は取れるしね。何度出してくれてもね。

「がんばったねー…」

私を褒めてる。…どんな夢を見ているんだろう。
先生って何だかんだで私をよく見てくれている。
できないことは手伝ってくれる。出来たらきちんと褒めてくれる。
今までは家族しか見れくれる人がいなかったんだけどな…。
私だって褒められたら嬉しい。無理だと思っていたことが出来たら嬉しい。
こうしてチクビを飼うことも、嬉しい。
先生は私に色んな嬉しいをくれる。私の知らなかった嬉しいをたくさん。
これからもずっと、知らない嬉しいをくれるんだろうか。

……ずっと?
……え、ずっと?

私は六年生だけど…ずっと、欲しいの?
そんなわけが無い。無いはずだ。
こんな締まらない顔で寝ている童貞なんて…。先生なんて。
無防備な寝顔。私は、信用してもらっているのかな。
この顔は、私だけが見ているんだよね。他の人が見ることの無い、私だけの顔。
否定したかったものが、否定できない。
もやもやと私の中で何かが膨らむ。結局先生の寝顔を見つめきれなくなって、私は顔を逸らすことにした。


――――――――――――


寝れない。何だか寝付けない。
明日は日曜で、だからチクビに会いに行くわけで。
そして、先生の寝顔にも…。
いまいち締まらない先生の顔を思い浮かべる。

今まで私の知らなかったものをくれた先生。
見てもらえたなかった私を見てくれた先生。
そして…私しか知らない先生。

なんだか頬が緩む自分を自覚する。とても悔しい。
あんなへらっとした顔の人に色んなもやもやを抱かされるのは初めてだ。

…あ。

これも、私の知らないものだ。

嬉しいとは違うけれど、なんだか不思議な気持ち。
私にくれたものは、もうみんな持ってたかもしれないけれど、私にくれたのは先生が初めてで。
だから私はこんなになっちゃっているのだ。
否定したい気持ち。なのに考えれば考えるほど否定ができない。
先生のおうちにはチクビが居るから通っていただけ。
そうだよね、チクビが居るからだ。
それなのに、平日は?
学校にチクビが居る。それなのに私が普段居るところは?

先生の傍だ。

自分のことは自分で分かると思ってた。
でも、知らないんだね。
先生の傍に居るのが当たり前なのに、もやもやした気持ちに気づいたのが、今日。
先生の寝顔なんて見慣れているのに、それが特別なことだと気づいたのが、今日。
人と関わることが、人を知ることが嬉しいだなんて知らなかった私。
色んなものを教えてもらって…。私は…これからもずっと、先生に教えてもらいたい。見てもらいたい。
それに、先生にお返しもしたい。先生に渡せる先生の知らないもの。
何かあるのかな…。

ん…。だんだん、眠くなってきた。
そうだ、明日も先生のおうちに行くのだ。自然と浮かぶ先生の寝顔。
また、私だけの特別を見に行くためにも、もう寝よう。
おやすみなさい、先生。また明日も会いに行きますね。