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~ 迷子(ひとは視点) ~

ひとは「まったく、みっちゃんのせいで私まで逸れちゃったよ」

八つ当たりでも何でもない事実を呟く。
今は元旦。初詣に家族揃って来た筈なのに、今やみっちゃんと二人っきり。

ひとは「美味しそうな香りがするとすぐに暴走するんだから……まったく救いようの無い雌豚だよ」

先ほどの台詞にあまり反応の示さなかったのが面白くなかったのでさらに続けてやった。

みつば「うっさいわね! しょうがないじゃない! 焼きそば食べたかったんだから!」

今度は反応した。言い訳にもならない主張で叫んでくる。実に滑稽な雌豚だ。

ひとは「だからって私まで巻き込まないで……っていうか何で私引っ張られてきたの?」

みつば「……え、だって……」

何で下向いて言い難そうに? ……まさか私と一緒に食べたかったとか――

みつば「お金が、もう無いから……」

――じゃ無いらしい。お金払えと? 実に鬱陶しい。方向性は違えど宮下さんに匹敵する鬱陶しさだよ。
って言うかお金が無い? 家出る前にお小遣いを均等に分けたはずだ。

ひとは「……なんで無いの?」

みつば「……えっと、たこ焼きと、イカ焼きと、たい――」

ひとは「まったく救いようの無い雌豚だよ!」

既にそんなに食べてたのに、まだ焼きそばを食べるつもりだったのかこの雌豚は!

みつば「そ、その台詞さっきも聞いたわよ!」

そうだっけ? どうでもいいけどね。

ひとは「……重要なことだから2回言ったんだよ」

みっちゃんは悔しそうな顔をした後、小さく深呼吸してから私に声を掛ける。

みつば「こんな言い争いしてても駄目ね……とりあえず人が少なそうなあっちの方に移動するわよ」

自分が蒔いた種の癖に、面倒くさそうにしながらそう言って、みっちゃんは右手を差し出してくる。

ひとは「……なにその手……お金なら上げないよ?」

みつば「ち、違うわよ! 手を繋ぐのよ! これ以上バラバラになるわけには行かないでしょ!」

そういうと私の右手首を強引に掴んで、焼きそばを売っていた出店とは反対側のちょっとした神木の根元まで移動する。

みつば「まったく、人多すぎよ」

私の手を掴んだまま愚痴をこぼす。

……えっと、いつまで手を繋いでるつもりだろう?
特に周りの視線が私たちに向いてるわけじゃないけど……ずっと掴まれてたままだと、なんだか恥ずかしい……。

ひとは「もういいでしょ、離して」

恥ずかしさを隠すため、冷たく言って手を自分の方へ引き戻しみっちゃんの手から逃れる。

みつば「……」

……なぜだか、ちょっと空気が悪くなった気がした。

みつば「……ふん」

~ 強奪(みつば視点) ~

何よひとはの奴……あんな手の解き方しなくてもいいじゃない!
そんなに私に掴まれてるのが嫌だったわけ?
……ま、まぁでも、人ごみ抜けたし手を繋いでる必要なんてもう無かったと言えば無かった気もするけど。
それでも、姉妹なんだし別に嫌がる必要なんてないじゃない!

私がイライラしていると、ひとはから声が掛かる。

ひとは「……見通しはよくなったけど、お父さんもふたばも見当たらないね」

みつば「……そうね」

そっけなく答える私。

ひとはの方を向いている訳では無いので憶測だけど、ひとはは困った顔をしているのだろう。
私のせいで迷子になってしまい、ひとはにしてみれば急に私の機嫌が悪くなったのだから困って当然。
急に、ひとはを巻き込んでしまったことへの罪悪感が押し寄せてきた。
……馬鹿みたい。私はどんだけ子供なのよ。
こんなことくらいでイライラして……。

深呼吸して心を入れ替えて、ひとはに話しかけようとしたとき――

松岡「あれ? 三女さんにみっちゃん?」

――妙なタイミングで妙な奴に発見されてしまった。

松岡「は! 流石は三女さん! 今日は神社の巫女の助っ人として来たのね!」

妙な奴が妙な発言をする。何とか止めないと面倒なことになりそう。
普段なら巻き添えにならないようにこの場を離れるのが最善だろうが、今回は状況が違う。
すぐさまひとはと松岡の間に入り止めに入る。

みつば「ちょっと待ちなさいよ! 巫女とかじゃな――」

松岡「退いて、みっちゃん! これは霊にとって大切なことなの!」

退いてと言いなが、既に横をすり抜けひとはの手を掴み人ごみの中を走っていった。

……だめだ、とてもじゃないけど追いつけない。

みつば「はぁ……」

とりあえず、無駄に動き回るよりこの辺で待機していた方が無難だろうか?
ふと、松岡の言葉が脳裏に蘇る。

“今日は神社の巫女の助っ人として来たのね!”

……もしかして巫女装束着せられる?
想像してみて少しだけ見たいと思ったが、それより救出に向かわないと余りに不憫だ。
それに、迷子にさえなっていなければ……そう思うとこれも私の責任だと思う。
待機と言う選択肢を捨て、松岡が走っていった方に私も向かうことにした。

~ お御籤(ひとは視点) ~

あぁ、結局こうなるのか。

松岡さんに手を引かれながら人ごみの中を走る。
……このままでは面倒なことになるのは間違いない。
暴走した松岡さんを止めるのは難しいがどうにかしないと……。
――と言っても今は人ごみの中、走りながらの私の声では到底松岡さんの耳まで届かないだろう。
とりあえずは止まるまで待つしか無い。

止まるまで……。



ひとは「はぁ、はぁ、はぁ……」

や、やっと止まった……。
手を引かれていたとはいえ、1分以上の間、私の全速力以上の速度で走ればこうなる。
後数十秒走り続けていたら、きっと霊となり松岡さんを呪っていただろう。
……松岡さんにはご褒美か……。

松岡「さぁ、三女さん! 巫女服借りて来たからとりあえずこれに着替えるわよ!」

いつの間にか巫女服を借りてきていた松岡さん。
っていうか何で……ああ、考えるのも面倒くさい。
とりあえず、息を整えるため“ちょっと待って”と手を松岡さんの前で出しジェスチャーで伝える。
暴走していたようだが、さっきまでとは違い幾分落ち着いてるらしい。
ジェスチャーが何とか伝わったらしく、しばらく待ってもらえた。

最後に大きく深呼吸してから松岡さんに向き直り答える。

ひとは「っ! あんなところに霊が!」

松岡「! ホント! 霊は私のものよ!」

視線が逸れた間に逃げるつもりだったが、松岡さんの方から私が指差した方へ走って、人ごみの仲へ消えていった。

…………。

とりあえず、この場を離れよう。また松岡さんに見つかる訳には行かないし。
松岡さんが向かった方とは逆方向に歩みを進める。

……みっちゃんは一人で大丈夫だろうか?
とは言うものの私も一人だ。人の心配してる状況ではない。
松岡さんと分かれたのを早計だったかもしれないと後悔しながら適当に参道を歩く。

人ごみの流れに身を任せ、どうしてこんな事になったのか思い返す。
松岡さんがあの場に現れなければ……いや、結局はみっちゃんと一緒に迷子だったわけだけど。
それでも今の一人の状況よりは幾分マシだろう。

そういえば、どうしてみっちゃん機嫌が悪くなっていたのだろう?

松岡さんの出現により忘れていた疑問が今になって思い出される。

あの状況からして、きっと私のせいだとは思うけど……。

…………。

やっぱり……手を振り解いたのが気に食わなかったのかな?
でも、実際手を繋いだままって言うのもなんだか恥ずかしかったし、機嫌が悪くなるなんて思いもしなかった。

――ふと、お御籤売り場が目に留まる。
みっちゃんはとある事件以降ここでお御籤買わなくなったんだっけ?
まぁ、買おうにも今のみっちゃんにはお金が無いから無理だけど。

……占いなんて信じてないしお金の無駄。そう分かっていながら私の足はお御籤売り場に向いた。
それはたぶん、一人で居ることに少し不安になって何かを頼りにしたかったから起きた無意識の行動。

アルバイトで巫女装束を着ているであろう売り子に声をかける。

ひとは「すいません、お御籤をひとつ……」

売り子「お御籤ですね。はい300円になります」

勿体無いと思いながらもお金を差し出し、代わりにお御籤を受け取る。
そのまま、人ごみから外れ特に期待もせずにお御籤の内容を確認する。

……凶。

まぁ、現在のこの状況からして大吉とかだったら私も二度と買わないところだったよ。
視線を下げ細かな内容を流し読みする。
……流石は凶。良いことなんてひとつも書いてない。

“恋の話は友達に相談してはいけません”

これとか吉岡さんに相談するなってことだろう。そんなこと言われなくても誰もしないよ。

“行動ひとつひとつに注意すること、相手を傷つける可能性があります”

……相手を傷つける……か。
やっぱり私がみっちゃん傷つけたから機嫌を悪くしたのかな?
全然そんなつもり無かったし、傷つく意味が分からないけど……。

ひとは「はぁ……」

気分は一層落ちることとなったが、少しは気が紛れたと思う。
ただ、今の状況を打開する内容とか書いてあるとよかったんだけど。
お御籤をみくじ掛に結ぶために移動する。

~ 不安(みつば視点) ~

みつば「いったいどこに行ったのよ……」

ひとはと松岡が向かった方向に歩いていたのだが、未だ二人の姿を見つけることができないでいた。
最初はひとはを助けるつもりで探していたが、徐々に私が不安になってきた。

みつば「……初詣で迷子……か」

前にもこんなことがあった。ただ、あの時は杉崎がいたから気が紛れていたが今は一人。

……何やってるんだろう私……。

いろんな食べ物を買って食べて、そして、ひとはも巻き込んで迷子になって……。

“まったく救いようの無い雌豚だよ!”

言われたときはいつもの口喧嘩と同じで、怒りはしたけど気になど留めていなかった。
でも、今になってひとはの言葉が私の心に深く突き刺さってるような、そんな痛みを感じた。

本当、ひとはが言ったと通りだ。

結局は私の自分勝手な行動が、松岡を止めることが出来なかった私が、二人に追いつけない運動神経の悪さが……
今の私の不安を作っているんだ。

――違う。それだけじゃない。
ひとはの不幸を作ってしまったのも私だ。

…………。

私だけの問題なら落ち込んでいられる。けど……そうじゃない。
両手で軽く自分の頬を2、3回叩いて気持ちを切り替える。

ひとはは私よりしっかりした出来た妹だけど……妹なのだ。

いつの間にか歩みを止めていた足を、再び前に運ぶ。
私がひとはを見つけなきゃいけない。そうじゃなきゃ、私は……。

ネガティブな思考になる前に考えるのをやめる。

――ふと視線を横に向ける。そこはお御籤売り場。

…………。

“超エロ”

“やせるよ!”

“スリムになるよ!”

“やせるよ!”

こ、ここのお御籤なんて絶対買わない!

足早にお御籤売り場を通り過ぎると、みくじ掛がある場所に辿り着く。
そこは前に杉崎がいた場所。

???「え、三女あんた一人なの?」

聞き覚えのある声。みくじ掛に近づくとどうやら裏側から声が聞こえるようだ。
さっきの声は……杉崎? じゃあ、三女ってひとはのことよね?

私も声が聞こえた裏側に――

ひとは「そう、みっちゃんに迷子にされたんだよ。まったく迷惑な雌豚だよ」

……足を止める。なんで? 後数歩で合流できるのに。
合流しちゃえばいいじゃない……いつものように突っかかってやればいいじゃない……。

宮下「ん? 迷子にされたってどういうことだよ?」

やめて……聞きたくない……。

ひとは「実はね……」

私はひとはの言葉を聞く前に踵を返し――

松岡「あれ? みっちゃん! こんなところでどうしたの?」

――っ!

後ろのみくじ掛の裏から声が聞こえ、こちらに出てくる気配がした。
それを感じとった私は松岡の脇をすり抜け逃げた。

どうして? そんなの分からない。

走った。ずっと、走った。家までずっと……。





とりあえず、ひとはは無事だった。なにも問題ない。

…………。

よくよく考えれば家に私が帰っていることを誰も知らない。

とりあえずパパに連絡するため電話を掛ける。

草次郎『ん、もしもし?』

どうやら誰も居ないはずの家からの電話だったため不振に思ったようだ。
パパには気分が悪くなったから家にいるって事情を説明した。

ただ、ひとはとはまだ合流していないらしい。
恐らく杉崎たちと居ると思うから、こちらから杉崎に聞いてみることになった。

仕方なく、家から杉崎の携帯へ電話を掛ける。

杉崎『もしもし?』

平静を装い声を出す。

みつば「あ、す、杉崎?」

杉崎『み、みつば!? あんた家にいるの?』

私の家からの番号だったためか家に居ることに気が付いたようだ。

みつば「気分悪くてね……悪いけど、ひとはと一緒にいるなら帰ってるって伝えておいてくれる?」

杉崎『え、気分悪いの? 今ここに居るし代わるわよ?』

みつば「っ! いいわよ別に! 切るわよ!」

杉崎『あ――』

杉崎が何か言う前に電話を切る。

その後、ひとはのことをパパに連絡しようと思ったが通話中。
まぁ、杉崎たちと一緒に居なかったら連絡するって言ってあったし掛けなおさなくてもいいだろう。

……寝よう。

2階の自分の部屋に移動してベットに潜り込む。

…………。

最悪だ。本当。
ひとはが帰ってきたら何て言おう……。
……何も言わずに寝込んでればいいか。

今日一日のひとはの行動が蘇り私を苦しめる。

“まったく救いようの無い雌豚だよ!”

“もういいでしょ、離して”

“みっちゃんに迷子にされたんだよ。まったく迷惑な雌豚だよ”

……なによ……ひとはの奴、今日はずっと怒ってばかりじゃない。
ベットにうつ伏せになり枕を抱きながら考える。考えたけど考えるまでも無い。
全部、私が怒らしてるんじゃない……馬鹿じゃないの私?

とりあえず寝よう。
現実から逃げてるのは分かってるのに、今はそうせずにはいられなかった。