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――ん。

――ここはどこだろう?

僕はゆっくり目を開ける。

華やかな場所だった。

純白の空間に化粧台。化粧用具。花束。

……うわっ、浮いてる。

僕は空中からそれを見ていた。

何だろう?僕はとうとう死んでしまったのだろうか?

そう思うと初めはショックだったが、早々に諦めがついた。

まぁ、いいか……。生きていても何も良い事なんて無いし……。

最後にこんな天国のような場所にも来れたんだから……。

ガチャッ。

ん?誰だろう?

スーツを着た数名の女性と、それに続いて、純白のドレスを纏った人が入ってきた。

きれいな人だなぁ……とその後ろ姿に思わず見惚れる。

花嫁……だろうか?

スーツを着た女性達は、ドレスを纏った人の化粧を直したり、ドレスをチェックしたりしている。

その人は、とても嬉しそうな顔をしていた。

あんな人と結婚できる人は、きっと世界一の幸せ者なんだろう。

……そう。そしてそれはきっと僕なんかじゃなく、もっと素敵な人で……。

「おい、用意はでき……」

太った、中年の男性が入ってきた。

「あ、パパっ」

その中年風の男性も見惚れていた。しばらく固まっていた後、その人に対して言う。

「綺麗になったなぁ……ひ――」


そこで目を覚ました。

お洒落な居間。ソファーに男性と女性が座っている。

男性がガラステーブルに置いてあるグラスを煽る。

カラン、と氷の音がしてグラスを口から外すと、酒気を帯びた息を吐いた。

隣の女性も静かにグラスに口付け、息をつく。

その仕草は、どこか優雅さを感じさせた。

「今日は全校集会があったんだよ」

男性が話すと「はい?」と女性が耳を傾けた。

「教頭に促されて、僕が教壇の上に上がるんだ。全校生徒の視線を一身に浴びながら。そして、ありきたりな言葉で生徒を励ましてから席に戻る。……生徒達の暇そうな顔と言ったら無いよ。僕だって、そんな話をするより外にでて、みんなとドッチボール大会でもやりたいんだよ」

男性が悲しい顔をして言った。

「元気出して、先生――」

女性が男性の肩を優しく叩く。


そこで目を覚ました。

夕暮れの帰り道。

制服を来た高校生くらいの男子が腕を組んで歩いていた。

「はぁ、進路かぁ……」

と溜め息を吐く。

ポケットから紙を出して見つめていた。

「やりたいことなんて……今の時点であるわけないよ……」

男子高校生はまたそれをポケットに直した。

その時、紙がポケットに上手く入らず、風に乗って宙を舞う。

「あっ……待って」

その紙は、小さな人影に入った。

「はい、落とし物だよ、お兄ちゃん」

ランドセルを背負った女の子だ。

足元に落ちた紙を拾って、男子高校生に差し出す。

「あ、ありがとう……」

男子高校生がそう言うと、女の子は笑った。

どこかで見たことのある笑顔。

女の子は手を振りながら去っていく。

男子高校生は渡された紙を見た。

「そうだ……」

男子高校生は慌てて鞄からペンを取り出し、紙の第一希望から第三希望まで全部“小学校教諭”と書いた。

そこで目を覚ました。

教室は騒がしいほど賑わっている。

その中につまらなそうな顔で女の子が一人、本を読んでいた。

知り合いはいないのだろうか?

大きな本で顔を隠すように読んでいる。

周りのクラスメイトはまるで少女が存在していないかのように話していた。

その空間だけ、見えていないような、変な感覚だった。

……あぁ、きっと、この女の子は……。

僕は心の中で願いを込める。

大丈夫だ、と。

ただひたすらに――。


そこで目を覚ました。

スィー。

女の子は音もなく教室を歩いていく。

「あぁ、待ってよ!」

「近寄らないでください、変態」

謝る男性教諭から逃げるように歩いていく。

「さっきのはワザとじゃないんだよ!本当に!」

「それで通用すると思ってるんですか?この現代社会に」

「うっ……。確かにガチレンジャーごっこ中の事故とはいえ、その……胸に当たった事は悪かったと思うけど……あいたっ!?」

わざわざ口に出して言った男性教諭に対し、恥ずかしくなったのか、女の子は男性教諭の足のスネを少し蹴る。

痛がってうずくまる男性教諭をほったらかしにして、女の子はまたスィーと歩き、距離を置いた。

「あいたたっ……あっ、ちょっと待ってよーっ!」

「来ないでください、近寄らないでください、息しないでください」

「ちょっ、最後のヒドくない!?」

男性教諭はショックを受けたらしく、情けない顔をする。

「お、とうとう小学生に手を出そうとしてるぞ」

「やっぱり節操なさすぎるよっ!」

「ちょっと私を差し置いてあいつに手を出すなんてどういうつもりよっ!!」

「ちょっと黙ってような……」

「そうっス!ズルいっス!!」

「……お前もちょっと黙ってようか」

「もぉー!なんでそうなるの!?だから違うんだってば!」

男性教諭はからかっている生徒達に必死に弁解し始めた。教育委員会に訴えられないのだろうか?

女の子は静かに男性教諭の机の下に潜っていった。

そこで僕は目を覚ました。

「あれ?」

気づけば朝だった。

「いたたっ……」

布団からゆっくり起き上がる。

あれ?空中……?じゃない?

手足を見た。現実味を帯びた感覚に戸惑いながら、状況を分析する。

「家?」

そう呟いた時、声がした。

「やっと起きたんですか?」

呆れたように僕に言った。その声の先には……。

「どんだけ寝るつもりなんですか?」

大きくなった少女の姿があった。

「酔ってふて寝なんて……小学生ですか?」

「あ……」

僕の頭は壊れた様に考える事が出来ず、ただ呆けていた。

「はぁ。とりあえず、あっちにみそ汁作っておきましたから、飲んでください。二日酔いにいいみたいですよ?」

制服の上にエプロン。頭の上にはお団子を結わえている。


「ひ、ひとはちゃんっ!!」

僕は思わず抱きつく。

「……っ!?」

夢でもいい。

ただ、この夢を離さないように、強く……。

「ちょっ……先生?……暑苦しいです」

けれどひとはちゃんは嫌がるそぶりなく、僕に抱きしめられていた。

「少しだけ……ですよ?」

ひとはちゃんが耳元で呟く。

「ひとはちゃんっ……!」

僕は、必死に言葉を紡いだ。

「僕は、ひとはちゃんの事が――」

途切れないよう、全ての思いが届くように。

「好きだっ!!!!」

ひとはちゃんが数年前、僕に言った言葉。

「大好きだっ!!!!」

その意味を、僕なりに理解した上で、僕なりの言葉で、届けた。


「……」

一瞬、間を置いて、ひとはちゃんはため息をついた。

「先生……アホですか?」

「えぇっ!?」

僕は驚いてひとはちゃんの顔を見る。

「……あ」

ひとはちゃんの顔は真っ赤だった。

「そんなの……私の方がもっと好きです」

その言葉に、僕はうれしくて、ただ涙を流す。

春の近づいたうららかな昼下がり――。

僕とひとはちゃんはその日、晴れて恋人同士になった。