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私が不登校になってから、1年が過ぎた。

不登校になったのは、中学2年の春。

中学1年の頃は、杉ちゃんや宮なんとかさん達と同じクラスでなんとかやっていけていたけど、

中学2年のクラス替えで、親しかった友達と離れてしまい、新しい友達も作れず、

クラスに馴染めないまま、だんだん学校へ行かなくなっていった。

そして今では家にひきこもり、杉ちゃんからもらったノートパソコンで、

いろいろなアダルトサイトを巡回する日々が続いている。

……杉ちゃんは、今なにをしているんだろう。

私はGoogleにアクセスして、試しに『"杉崎みく"』と入力してみた。

僅かな可能性に賭けて、検索ボタンをクリックする。

検索結果、23件。

1件目には、『杉崎みくのプロフ』と表示されている。

早速リンクをクリックしてみた。



【HN】杉崎みく

【性別】女♪

…………

【住んでいるところ】上尾市

【職業】鴨中生



……間違いない、杉ちゃんだ。

でもネットで実名を出すなんて……まあいいか。

Myリンクの欄を見てみると、『私はセ・レ・ブ!』と書かれたリンクがあった。

きっと杉ちゃんのサイトだろう。

クリックすると、目がチカチカするような配色のサイトが表示された。

とりあえずリアルのリンクをクリックしてみる。

誰々と遊んだとか、先生がムカつくだとか、

どうでもいいようなことがたくさん書かれている。

次にアルバムのリンクをクリックしてみる。

プリクラで撮ったのであろう画像がたくさん表示された。

杉ちゃんは友達と楽しそうにプリクラに写っている。

久々に杉ちゃんの顔を見て、なんだか懐かしくなったけど、

杉ちゃんは私のことを覚えているのだろうか。

忘れられているかもしれないと思うと、少し寂しくなった。


最後にリンク集を見てみよう。

見覚えのある名前がちらほらとある。

ん? これは……。

『宮下のホムペ』。

宮なんとかさんもサイト作ってたんだ……。

ちょっと覗いてみよう。

杉ちゃんのサイトよりは見やすい配色だ。

トップページにバスケットボールの画像が使われている。

そういえば宮なんとかさんはバスケやってたんだっけ。

……宮なんとかさんのことはどうでもいいか。

さて、そろそろ夕食作らないと。

私はノートパソコンを閉じて、台所へ向かった。



出来上がった料理を、無言でテーブルの上に並べる。

不登校になり始めてから、私は家族の前で口を開いていない。

家族との会話も、私の一方的な筆談でしている。

はじめのうちはみんなで私をしゃべらせようとしていたけれど、今では諦めているようだ。

いつかの明るい雰囲気は、もうなくなっていた。

一家団欒とは言いがたい食事が終わり、食器を洗って部屋に戻る。

いつものようにアダルトサイトを見ていると、パパが部屋にやってきた。

「ひとは、松岡さんから電話だ」

松岡さんから……?

「話が終わるまでパパは2階で待ってるから、ゆっくり話しておいで」

私は1階に降りて、電話のある居間へと向かった。



ゆっくりと受話器に手を伸ばし、耳に当てる。

「もし……もし……」

久々に出した声は、かすれていた。

少し間を置いて、受話器から懐かしい声が聞こえてきた。

「三女さん……久しぶり!」

「あの……」

「ちゃんと出てくれてよかったぁ! 突然ごめんね?」

「どうして今頃……」

「なんとなく三女さんと話したいなって思ったの」

絶対嘘だ。でも一応信じたふりをする。



「そう……なんだ」

「元気にしてた?」

「ま、まあまあ……かな」

「そっかぁ。ねえ、三女さん」

「なに?」

「パソコン、持ってるんだよね?」

「持ってるけど……」

「スカイプ、インストールしてる?」

スカイプ……数カ月前になんとなくインストールしたままずっと使っていない。

ネットとはいえ、人とコミュニケーションをとるのは苦手だからだ。



「一応……相手はいないけど」

「私とボイスチャットしない?」

「あ……無理」

「どうして?」

「マイク、持ってないから」

「なら、ただのチャットしましょう?」

「いいけど……」

「じゃあ、ID教えるわね」

松岡さんにIDを聞いて、早速コンタクトをとってみることにした。


チクビ☆: こんばんは

サキ: こんばんは! 三女さん♪

松岡さんのハンドルネーム、もっとおどろおどろしいものだと思ってた……。

サキ: 三女さんは、最近なにしてるの?

チクビ☆: インターネット、見たりとか……

サキ: どんなサイトを見てるの?

チクビ☆: 教えられない

サキ: そっか……わかった

あれ? 以前はなにかと霊にこじつけてもっと食い下がってきたのに……。


チクビ☆: 松岡さんは、最近どう?

サキ: 最近? 元気にしてるよ!

チクビ☆: 夜な夜なお経とか唱えてるの?

……妙な間があった。

サキ: 今は心霊とか興味ないの

チクビ☆: あんなに好きだったのに、どうして?

サキ: ちょっと……ね

何故かその話題には触れてほしくないようだった。

サキ: あと三女さんのこと、天才美少女霊媒師って勝手に決めつけちゃったりして、ごめんね?

チクビ☆: 今は気にしてないから

サキ: そう……


それからしばらく無駄話をして、私はスカイプを閉じた。

松岡さんの様子は、明らかに変だ。

なんとなく私と話したくなったという嘘をついたこと。

オカルトを嫌いになってしまったこと。

いったい松岡さんに何があったのだろう。

そんなことを考えていると、みっちゃんが話しかけてきた。

「さっきチャットしてた相手って、松岡?」

私は無言で頷いた。

「そう。で、松岡は何か言ってた?」

『何かって?』とパソコンに打ち込む。

「その様子じゃ聞いてないみたいね」

みっちゃんは一呼吸おいて、ゆっくりと口を開いた。

「松岡ね……学校、来てないのよ」


どうして松岡さんが不登校になったのか聞いてみたけれど、

みっちゃんも詳しいことはよく知らないと言った。

ただ、私が不登校になって1ヶ月ほど経った頃から、学校に来なくなったらしい。

オカルトを嫌いになったことと、なにか関係があるのだろうか。

今度チャットをするときに聞いてみよう。



翌日、早速松岡さんからコンタクトがあった。

サキ: 三女さん! こんばんは!

チクビ☆: こんばんは

サキ: 今日もいい天気だったわね!

チクビ☆: 外出てないから知らない

サキ: じゃあ今日はずっと家の中にいたのね

チクビ☆: うん

そこで私は思い切って、例の話題を持ち出してみた。

チクビ☆: 松岡さん、学校行ってないんだって?

……返事がない。


チクビ☆: 松岡さん?

サキ: 誰に聞いたの? お父様?

今度は返事があった。

チクビ☆: みっちゃんから聞いた

サキ: そう……

チクビ☆: どうして学校に行かなくなったの?

サキ: ごめんなさい、今は言いたくない

チクビ☆: わかった


サキ: 三女さんは?

チクビ☆: え?

サキ: 三女さんは、どうして学校行かなくなったの?

まさか私が聞かれるとは、思ってもみなかった。

サキ: もしかして、私のせいだったりする?

チクビ☆: 松岡さんは関係ないよ

サキ: そうなんだ……よかった

どうして松岡さんは自分のせいだと思ったんだろう。

でもなんとなく聞きづらい気がして、そのまま流してしまった。


朝、目を覚ますと、時計の針は10時7分を指していた。

どうやら私は寝坊したようだ。

この時間だともうパパは仕事に行っているし、みっちゃんとふたばも学校だ。

朝ご飯はどうしたんだろう。

1階へ降りて居間を覗くと、謎の物体が乗ったお皿にラップがかけられていた。

ふたばが朝ご飯を作ったらしい。

でもこの料理はいったいなんなのだろう。

少し視線をずらすと、お皿の横にメモがあった。


『ひとはへ 朝ごはんのハンバーグ、食べてね! ふたば』

ハンバーグ……だったんだ。

それにしても朝からハンバーグとは、みっちゃんが喜びそうだ。

でも味はハンバーグとは別物なんだろうなあ。

とりあえず私は、それをレンジで温めることにした。

温まったハンバーグを、早速口に運ぶ。

うん、ハンバーグじゃないけど美味しい。

これは早めの昼食ということにしておこう。


後片付けをして、2階へ上がる。

パソコンを立ち上げて、スカイプを起動させると、松岡さんはすでにオンラインになっていた。

松岡さんは私もオンラインになったことに気づいたようで、チャットをとばしてきた。

サキ: おはよう! 三女さん!

チクビ☆: おはよう

サキ: 今起きたとこ?

チクビ☆: さっき目が覚めて、ちょっと早めのお昼を食べたところ

サキ: 何を食べたの?

チクビ☆: ハンバーグ?

サキ: どうして疑問形なの?

チクビ☆: タイプミスだよ

説明するのが面倒なので、適当にごまかしておいた。


サキ: そっか。そうそう! 今日ね、小学生の頃の夢を見たの!

チクビ☆: そうなんだ

サキ: 懐かしかったなあ……杉ちゃん達、元気かなあ

杉ちゃん……そういえばこの前サイトを見つけたっけ。

せっかくだから松岡さんにも教えてあげよう。

チクビ☆: 杉ちゃんならサイトを作ってるから、よかったらアドレス教える

サキ: ほんとに!? 教えて教えて!

私は杉ちゃんのサイトのアドレスを松岡さんに教えた。

サイトを見ているのか、松岡さんの発言がとまる。


しばらくすると、再びチャットがとんできた。

サキ: 杉ちゃん、元気そうね!

チクビ☆: そうだね

サキ: 宮ちゃんもサイトやってるなんて、びっくり!

チクビ☆: 宮方さんはどうでもいいけどね

サキ: 杉ちゃんにサイト教えてもらったの?

チクビ☆: いや、自分で見つけた

サキ: へえー、よく見つけたわね

チクビ☆: たまたまだよ

サキ: でも、ゆきちゃんはサイトやってないのかしら?


そういえば、吉岡さんのサイトは杉ちゃんのリンク集になかった。

携帯を持っていたから、作ろうと思えば作れるはずだけど……。

親に禁止されているのだろうか?

……思い出してみると、杉ちゃんのサイトでは、吉岡さんの話題がなかった気がする。

私はチャットを切り上げて、もう一度杉ちゃんのサイトを見なおしてみることにした。

まず、リアルを遡ってみる。

しかし、半年ほど前にリセットしたのか、それ以前の書き込みは見ることができなかった。


次に日記を覗いてみたが、今年の3月に一度更新されているだけで、

吉岡さんについてはなにも書かれていなかった。

今度はアルバムを覗いてみる。

1ページずつ画像を見ていく。

10数ページ見たところで、吉岡さんの写っている画像を見つけた。

それ以前の画像には、普通に吉岡さんが写っている。

もう一度、最後に吉岡さんが写っていた画像を見る。

日付は11ヶ月前――ちょうど松岡さんが不登校になり始めた頃だった。



私はみっちゃんとふたばの去年の連絡網を引っ張り出した。

その中から吉岡さんの名前を探す。

みっちゃんの連絡網には……ない。

じゃあ、ふたばの連絡網に……あった!

ひとまず、吉岡さんの電話番号をメモしておいた。

ふたばが帰ってきたら、吉岡さんについてちょっと聞いてみよう。


「ゆきちゃんスか?」

私は頷く。

「さっちゃんのすぐ後に、学校来なくなったっスよ」


なんとなくそんな気はしていたけれど、吉岡さんまで不登校だったなんて……。

しかし、私の知り合いが二人も立て続けに不登校になったのは、ただの偶然なのだろうか。

もしかすると、二人が不登校になった原因は、私にあるのかもしれない。



次の日、真相を知るため、私は勇気を振り絞って吉岡さんに電話をかけてみることにした。

呼び出し音が2コール鳴ったところで、吉岡さんのお母さんが電話に出た。

「はい、吉岡です」

「あの……丸井ひとはです。小学生の頃、ゆきさんと同じクラスだった……」

「ああ……ゆきに用事?」

「はい」

「ちょっと待っててね」

吉岡さんを呼びに行ったのだろう。

電話の保留音が流れだした。


2分ほど経ったところで、保留音が途切れる。

再び電話に出たのは吉岡さんではなく、吉岡さんのお母さんだった。

「ごめんなさい。ゆき、今は話したくないみたい」

「そうですか……。失礼しました」

そう言って、私は電話を切ろうとした。しかし……。

「でも、せっかく電話をくれたんだから、ゆきの携帯番号教えるわね」

「いいんですか……?」

「ええ。出てくれるかはわからないけど……」

こうして私は、吉岡さんの携帯番号を手に入れた。



その日も私は、松岡さんとチャットをした。

サキ: えっ? ゆきちゃんも不登校だったの?

チクビ☆: そうみたい。それで今日電話してみたんだけど……

サキ: 出てくれなかったの?

チクビ☆: うん

サキ: そっか……

チクビ☆: 松岡さんも電話かけてみてくれない?

サキ: 私が?

チクビ☆: 吉岡さんと、付き合い長いんでしょ?

サキ: まあね

チクビ☆: お願い


サキ: わかったわ。じゃあ、今からかけてみる!

すると緑色のアイコンが、黄色に変わった。

今まさに電話をかけているのだろう。

しかし、2分も経たないうちに、アイコンの色が元に戻った。

チクビ☆: だめだった?

サキ: うん……留守電に切り替わっちゃった

チクビ☆: じゃあ私、明日また電話かけてみる

サキ: 出てくれるかしら?

チクビ☆: わからない。一応松岡さんも定期的に電話してみて

サキ: オッケー


翌日、吉岡さんの携帯に電話をかけてみた。

呼び出し音が鳴る。

1回……2回……3回……。

4回鳴ったところで、吉岡さんは電話に出てくれた。

「もしもし……? 誰……?」

「吉岡さん? 私、ひとはだけど……」

「っ!」

私が名乗った瞬間、電話を切られてしまった。

何故吉岡さんは私からの電話を拒絶するのだろう。

私は、吉岡さんに何かしてしまったのだろうか。


サキ: そっか、切られちゃったんだ

チクビ☆: うん……私、吉岡さんに嫌われてるのかな

サキ: そんなことないわよ、きっと

チクビ☆: 松岡さんは、吉岡さんに電話してみた?

サキ: うん、一応ね

チクビ☆: どうだった?

サキ: 出てくれなかった

チクビ☆: 切られたの?

サキ: えっ?

チクビ☆: 電話、呼び出し中に切られたの?



サキ: 切られてはいないわ。留守電に切り替わっただけで

チクビ☆: つまり、吉岡さんは松岡さんからの電話は拒否してないってことだよね?

サキ: どういうこと?

チクビ☆: 最初から出る気のない電話なら、終話ボタンを押すはず。でも吉岡さんはそうしなかった

チクビ☆: きっと吉岡さんは悩んでいるんだよ。松岡さんからの電話に出るか、出ないか

サキ: じゃあもしかしたら、ゆきちゃんは電話に出てくれるかもしれないってこと?

チクビ☆: 松岡さんからの電話にはね

サキ: 三女さんからの電話はだめなの?

チクビ☆: 多分ね。だから松岡さん、なんとか吉岡さんと連絡を取れるように頑張ってみて

サキ: わかった! 三女さんのために、私頑張る!



それから数日間、松岡さんは吉岡さんに電話をかけつづけた。

しかし吉岡さんが電話にでる気配は、一向になかった。

サキ: ねえ、三女さん。もう諦めない?

チクビ☆: えっ?

サキ: きっとゆきちゃん、何度電話しても出てくれないよ

松岡さんは、もう諦めているようだ。

でも私は諦められない。

私のせいで不登校になったかもしれないんだ。

放っておけるわけがない。


チクビ☆: 私は諦めない

サキ: 三女さん……

チクビ☆: 松岡さんは、もう電話しなくてもいいよ

サキ: でも……

チクビ☆: あとは私一人で何とかする

サキ: 手伝えることがあったら、なんでも言ってね?

チクビ☆: ありがとう、松岡さん