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その日から、私は毎日吉岡さんに電話をかけた。

何度も何度も、電話をかけつづけた。

一度試しに公衆電話からかけてみると、吉岡さんは電話に出てくれた。

しかし私が喋った瞬間、電話を切られてしまった。

留守電に吹き込めば……と思っても、

呼び出し中に切られてしまうからどうしようもない。

かけては切られ、かけては切られ……。

そんな静かな攻防を繰り返していた。


サキ: 今日もだめだったの?

チクビ☆: うん……

サキ: でも、諦めないんでしょ?

確かに私は、諦めないと言った。

でも……。

チクビ☆: 諦めようかな……

サキ: えっ?

チクビ☆: 吉岡さんと話ができても、私に何かできるわけじゃないし

チクビ☆: そもそも私が勝手に吉岡さんのことを知りたがってるだけだから

サキ: 私が何とかする!

松岡さんはそのままチャットを終わらせてしまった。



何とかするって、松岡さんはいったい何をするつもりなんだろう。

おかしなことをしなければいいけど……。

「ひとは、電気消すわよ」

私はみっちゃんを一瞥して頷いた。

みっちゃんは電気を消して、ベッドに入っていく。

私も布団をかぶって、眠りについた。



今日は久々にガチレンジャーを観よう。

早速プレーヤーにビデオをセットする。

ガチレンジャーの放送が終わってから2年。

長いようで短かった。

テレビからあのお馴染みのテーマソングが流れる。

やっぱりガチレンジャーは素晴らしい。

ガチピンクの握手会以降、先生ともガチレンの話をよくしたなあ。

先生、元気にしてるかな。

チクビも、元気にしてるといいな。

でも今の私に、それを確かめる術はない。


ガチレンジャーを見終わって、部屋に戻り、

パソコンを立ち上げてスカイプを起動した瞬間、

松岡さんがチャットをとばしてきた。

サキ: 三女さん!

チクビ☆: いきなり何?

サキ: ゆきちゃんに電話してみて!

チクビ☆: 吉岡さんに?

サキ: そう! きっと出てくれるから!

チクビ☆: どういうこと?

サキ: いいからかけてきて! いい結果、待ってる!

それだけ言うと、松岡さんはオフラインになってしまった。

きっと出てくれると言っていたけど、本当なのだろうか。

私は半信半疑のまま、吉岡さんに電話をかけてみた。



呼び出し音が鳴り出す。

3回ほど鳴っても、吉岡さんは終話ボタンを押す気配がない。

そして5コール目で、吉岡さんは電話に出た。

「もしもし、三女さん……?」

「吉岡さん……やっと出てくれた」

「あの……私は、何を話せばいいの……?」

「単刀直入に言うよ」

「うん……」

「吉岡さんは、どうして学校に行かなくなったの?」

「……三女さんは、それが聞きたくて私に電話したの?」

「うん」

「……わかった。話すね」

吉岡さんは、ゆっくりと話し始めた。



「三女さんが学校に来なくなって何日か経った頃から、さっちゃん、いじめられるようになったの」

驚いた。

松岡さんがいじめられていたなんて……。

「いじめの原因は……三女さん」

私がいじめの原因?

「三女さんが不登校になったのはさっちゃんのせいだって言いがかりをつけられて、
 毎日悪口を言われたり、目の前で物を壊されたり、暴力を振るわれたりしたの。
 先生にも三女さんのことで追及されたりして、さっちゃんは学校に来れなくなったんだ」

「ちょっと待って、どうして私が不登校になったのが松岡さんのせいになるの?」

「さっちゃん、三女さんによくくっついてたでしょ?
 それが三女さんの負担になって、不登校になったって……」

きっとオカルトが嫌いになったのは、それが私の不登校の原因だと思ったからだろう。


「そうだったんだ……。松岡さんが不登校になった理由はわかった。でも、吉岡さんはどうして?」

「さっちゃんを、助けられなかったから。
 さっちゃんがいじめられてること、わかってたのに、私はなにもできなかった。
 私が手を差しのべていたら、さっちゃんは不登校にならなかったかもしれないのに……。
 さっちゃんを見殺しにした私には、学校に行く権利なんて、ないよ……」

吉岡さんは泣き出していた。

おそらく松岡さんからの電話に出られなかったのも、今のと同じような理由だろう。

では私の電話に出てくれなかった理由と、今日電話に出てくれた理由はなんだろう。

吉岡さんに聞いてみる。


「今まで、私からの電話に出てくれなかったのは? どうして今日は出てくれたの?」

「それは……さっちゃんが不登校になったのは、三女さんのせいだって思っちゃって。
 本当は三女さんは悪くないってわかってるんだけど、なかなか割り切れなくて……。
 でもね、さっちゃんが留守電にメッセージを吹きこんでくれて」

「なんてメッセージ?」

「ごめんなさい、さっちゃんに言っちゃダメって言われてるの」

いったい松岡さんは吉岡さんにどんなメッセージを送ったのだろう。

私がそれを知ることは、おそらく永遠にない。


チクビ☆: 吉岡さんから全部聞いたよ

サキ: そっか

チクビ☆: 私のせいで学校行けなくなったんだよね。ごめん

サキ: そんな謝らないでよー! 三女さんは悪くないんだから!

サキ: 私をいじめた人も、三女さんのことだけが理由じゃないだろうし

チクビ☆: でも、ひとつわからないことがあるんだけど

サキ: なに?

チクビ☆: 松岡さんが私に電話してきたのはどうして? なんとなくなんて嘘だよね?

サキ: うん

松岡さんはあっさり嘘を認めた。


サキ: 実はあの日、私のお母さんと三女さんのお父様が偶然会ったんだって

サキ: それでお母さんがお父様から三女さんのこと聞いたみたいで

サキ: 私に三女さんがひきこもってるって教えてくれたの

サキ: でも、三女さんがひきこもるなんて信じられなくて……

チクビ☆: なるほどね

サキ: あの時は本気で三女さんは私のせいで不登校になったと思ってたから、出てくれるか心配だったわ

チクビ☆: 私が出なかったらどうするつもりだったの?

サキ: わからない。でも、今こうして三女さんと普通に話が出来てるんだから、それでいいじゃない

チクビ☆: まあね


サキ: 三女さんがどう思ってるかはわからないけど、私は友達だと思ってるの

サキ: 私に友達だって思われるのは、嫌?

チクビ☆: 嫌じゃないよ

サキ: ありがとう。じゃあ、私のことさっちゃんって呼んでくれない?

チクビ☆: えっ、どうして?

サキ: 心霊スポットのトンネルで、さっちゃんって呼んでたの、三女さんよね?

チクビ☆: それは……

サキ: 部屋を片付けてる時に、あの時のテープを見つけたの

サキ: あの声、よく聞いたら三女さんの声だった

サキ: 私、気づいたときすっごく嬉しかったの

サキ: だから、これからはさっちゃんって呼んでほしいな



私は今、すごく恥ずかしい。でもバレてしまったらしょうがない。

チクビ☆: わかった

サキ: これからもよろしくね、三女さん!

チクビ☆: 私のことは名前で呼ばないの?

サキ: だって、三女さんは三女さんだもん

もしかしたら、松岡さん……さっちゃんは私の名前を覚えてないんじゃないだろうか。

サキ: そうだ! 次はチャットにゆきちゃんを誘わない?

チクビ☆: 吉岡さんを?

サキ: うん! 3人で楽しく話しましょう!

吉岡さんも一緒に。まあ、それも……。

チクビ☆: 悪くないかもね


それから、私とさっちゃんと吉岡さんの3人でチャットをするようになった。

吉岡さんはタイピングに慣れていないようで、ゆっくりと発言するが、

それでも楽しそうに私達と会話してくれる。

そして時は流れて3月半ば、パパが私に卒業式出ないかと話しかけてきた。

当然私は断った。

2年も行っていない学校に、どんな顔をして行けばいいのか、私にはわからない。

「じゃあ、不登校の子だけが出る卒業式はどうだ?」

そんな卒業式があるんだ。

でも私は、あまり行く気にはなれない。

「決めるのは今じゃなくていい。ゆっくり考えなさい」

そう言ってパパは部屋を出て行った。



私はとりあえずスカイプを起動する。

幸い、さっちゃんも吉岡さんもオンラインだった。

早速チャットをとばしてみる。

チクビ☆: あの……

サキ: なに? 三女さん

ゆき: ??

チクビ☆: 卒業式の話、聞いた?

サキ: 聞いてないわ

ゆき: 私は聞いたよ


サキ: どんな話?

チクビ☆: 不登校の生徒だけが出る卒業式があるんだって

サキ: へえ

チクビ☆: 二人は出る?

サキ: 三女さんは出るの?

チクビ☆: 私は……二人が出るなら

サキ: じゃあ、私は出るわ!

ゆき: 私も……

二人はあっさりと出席を決定した。

ああ言った手前、やっぱりやめるというわけにもいかず、私も出席することにした。



卒業式当日。

式は午後からなので、朝からパソコンをいじっていた。

すると式の20分ほど前に、さっちゃんがチャットをとばしてきた。

サキ: 三女さん、準備してる?

チクビ☆: まだだけど……

サキ: 私も。ねえ、三女さん

チクビ☆: なに?

サキ: 卒業式が終わったら、すぐ帰っちゃうの?

チクビ☆: 多分、そうだと思う

サキ: 私の家に来ない?

チクビ☆: 何のために?



サキ: 久しぶりに、会って話したいなって

チクビ☆: うーん

サキ: ダメかな? ゆきちゃんも誘おうと思ってるんだけど

チクビ☆: ちょっと考えさせて

サキ: わかった。じゃあそろそろ時間だから準備するわね。三女さんもちゃんと準備してね?

チクビ☆: うん

さて、それじゃあ私も準備しよう。

久しぶりに制服を着る。

2年も経っているのにサイズがぴったりで、なんだかイラッとする。

そんなことはどうでもいいか。

準備が整った私は、パパと一緒に学校へと向かった。



久しぶりに来た学校は、2年前となにも変わっていなかった。

校長室に入ると、少し来るのが早かったのか、まだ他の生徒は来ていなかった。

しかし、しばらくすると他の生徒がやってきた。

さっちゃんと吉岡さんもちゃんといる。

集まったのは全部で5人。

きっとここにはいない不登校の生徒もいるんだろう。

そんなことを考えていると、卒業証書の授与が始まった。

一人が卒業証書を受け取り、さっちゃんの順番が来た。

「松岡咲子」

「はい」

「卒業おめでとう」

そう言って校長はさっちゃんに卒業証書を渡す。


次に呼ばれるのは、私だ。

「丸井ひとは」

名前を呼ばれたが、私は無言で立ち上がる。

「卒業おめでとう」

校長は、私に卒業証書を差し出した。

私はそれを受け取り、素早く席に戻った。

「吉岡ゆき」

「はい」

小さな声で、吉岡さんは応える。

「卒業おめでとう」

吉岡さんは小さくお辞儀をして、卒業証書を受け取った。



そうして、最後の一人も終わり、これでおしまいかと思ったが……。

「校歌斉唱」

校歌斉唱が始まった。

先生達がアカペラで校歌を歌い始める。

殆どの生徒が校歌を歌っていない。

私も校歌なんて忘れてしまったので、歌わずにただ時間が過ぎるのを待った。

校歌斉唱が終わり、最後に担任の先生から一言もらって、卒業式は終わった。


校舎を出ると、親達でなにか話をし始めた。

私はパパの横でその話を聞き流す。

するとさっちゃんが話しかけてきた。

「ねえ、三女さん。さっきの話なんだけど……」

さっきの話……か。

「私の家、来ない? ゆきちゃんは来るって言ってるんだけど」

どうしようか悩んでいると、パパは私に言った。

「行ってきたらどうだ? 久しぶりに友達と遊んでおいで」

パパに背中を押してもらって、私はさっちゃんの家に行くことにした。


初めて来るさっちゃんの部屋は、意外と綺麗だった。

「どうぞ、座って!」

さっちゃんが座布団を敷く。

「ありがとう」

「ありがとう、さっちゃん」

私と吉岡さんは、さっちゃんにお礼を言って座布団に座る。

「ジュースとお菓子、持ってくるわね!」

そう言ってさっちゃんは部屋を出ていった。

黙っているのもなんなので、吉岡さんに話しかける。


「あの、吉岡さん」

「なに?」

「吉岡さんってさっちゃんの部屋、何度か来てるよね?」

「ちょっと待って!」

吉岡さんは私を見つめる。

「今、さっちゃんって言ったよね?」

「言ったけど……」

「三女さん、前は松岡さんって呼んでたはず! どうして呼び方が変わったの!? ま、まさか……」

吉岡さんはとんでもない勘違いをしているようだ。


「違うよ……」

「またまたー! ほんとは付き合ってるんでしょ? どっちから告白したの!?」

「私、そういうの興味ないから……」

「私は三女さんが女の子好きでも気にしないよ! 愛の形は人それぞれだもん!」

「あの、吉岡さん……」

「お待たせ、二人とも!」

さっちゃんが戻ってきた。

「あっ! さっちゃん! 三女さんと付き合ってるんだよね! いつから付き合ってるの!?」

吉岡さんはしばらく、その話題から離れてくれなかった。



気づけば外は夕焼けで赤く染まっていた。

「私、そろそろ帰る。夕飯、作らないと」

私は立ち上がった。

「じゃあ、私も帰ろうかな」

吉岡さんも立ち上がる。

「気をつけて帰ってね」

私達はさっちゃんに見送られ、家を後にした。


しばらく吉岡さんと一緒に歩く。

すると吉岡さんが突然謝ってきた。

「ごめんなさい、三女さん」

「え? 何が?」

「三女さんのこと、悪く思ったりして」

「いいよ、気にしてないから」

「……三女さんは優しいね」

「そうかな?」


「優しいよ。私のこと心配して、電話かけてくれるんだもん」

なんだか照れくさくなってきた。

「じゃあ、私こっちだから」

交差点に差し掛かったところで、私は言った。

「よかったら、また遊ぼうね」

吉岡さんは笑顔で言う。

「うん」

私も、笑顔で返した。


家に帰り、玄関のドアを開けると、チブサが座って待っていた。

チブサの頭を軽く撫でて、台所へ行く。

手を洗って冷蔵庫の中身を確認する。

うん、特に買い足す必要はなさそうだ。

「お、ひとは。帰ってたのか」

パパが話しかけてきた。

「楽しく遊んできたか?」

私は頷く。

「そうか。よかったな」

パパはそう言うと、嬉しそうに笑った。



一旦2階に上がり、部屋に入る。

……もう、殻にこもるのはやめよう。

「みっちゃん」

「なに?」

「夕飯、何が食べたい?」

「そうねぇ……って、ひとは今……」

みっちゃんはぽかんと口を開けて驚いている。

「みっちゃん、ひとはが、ひとはが……!」

ふたばも目を丸くして私を見つめている。

次の瞬間、二人はすごい勢いで1階へ駆け下りていった。

部屋に残された私が息をつくと、下からパパの歓声が聞こえてきた。


丸井家に再び、明るさが戻ってきたような気がした。