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あーもうっ!!


「ん~~っ!
こっちに来てるときはホント平和だな!」

ストレッチにも気合が入るぜ!

休日。サッカーチーム。校区から離れた河川敷コートでの練習。
ここには常識外れのトラブルメーカーがいないから、大好きなサッカーに集中できる。

「てゆーかこの春のクラス替えは、いくらなんでも無茶苦茶だよ……」

あの変態集団全員と同じクラスになるなんて、誰かの悪意を感じるぞ……。
しかもあの新任教師。
あんなに頼りないんじゃ、絶対あの三つ子を止められないだろうし…嫌な予感がするぜ……。
そうそう、結局今年も三つ子と…あいつと同じクラスになっちまったんだよなあ。

…………。

まぁ…別に嫌ってわけじゃないけどさ。

ピピー!

「集合ー!」
「「「「はいっ!」」」」

さあ今日も頑張るか!!


ピピー!

「試合終了!
いつも通り、講評は昼メシ食いながらしてやるから、クールダウンに走ってこーい!!」

「ぜっ…くそっ、3人がかりだったのに佐藤を止められなかった……!」
「へへっ…はぁっ……。
ま、実力だよ…って言いたいけど、今日のはマジでマグレだって。
ゴール前はヒヤッとしたぜ!」
「ちっ!イケメン様は口もうめえな」
「その呼び方はやめろよ……。
それに何度も言ってっけど、お前らが思ってるような良いもんじゃねえぞ。
…むしろ不幸なことばっか寄ってきてるよ……」
「ぐわー!『イケメン』を否定しろよ!むかつく!!
早く死ねばいいのに!!」
「あそこのショベルカーが轢いてくれねえかな~…」
「後で護岸工事のコンクリに沈めようぜ!」
「お前ら………」
やれやれ…できることなら1度体験させてやりてぇよ。

バカな事をのたまうチームメイト共にため息を引き出された俺は、ついでに肺の中の空気を一新してからコーチの指示に従う。
疲れの溜まった筋肉をいたわるために、スローペースでコートを一周だ。

タッタッタッタッ

……『イケメン』か。そりゃあ俺だって、嫌な気分ばっかじゃないさ。正直言えば。
今日みたいに思ったとおりのプレーができたとき、一緒に喜んでくれる相手がいたらすっげー嬉しい。

でもさ。

たいていの奴は、何を見てたんだろう?っていう的外れな事しか言わない。
しかも2月とかのイベントになれば、下心(以外にもイロイロ)満載の『プレゼント』を押し付けようとする。
よく知らない奴から受け取る理由なんてもちろん無いし、
もし下手に受け取ったりしたら後で何を要求されるかわかったもんじゃない(それ以前に絶対口に入れたくない)。
1番意味がわからないのが、わざわざ人前で渡そうとする奴ら。
俺がギャーギャー騒がれて困ってるのが見えねぇのかよ?
どいつもこいつもこっちの事なんてお構いなしだ。嫌になるに決まってる。
むしろ怖い。

いや、マジで。

「それに女って理不尽だしなぁ……」
「何だその勝ち組全開なつぶやきは!死ね!」

バシッ

「いってぇ!!!」
背中!モロに当たった!!

「んだよ、大げさだな。
ちょっとはたいただけじゃん」
「おまっ!左肩の事知ってっだろ!!」
「あぁ?
ツバ付けときゃ治るんじゃなかったっけ?」
振り返った先では、日に焼けた顔が歯をむき出してニヤニヤしてやがった。
とぼけやがって…つうか、その台詞を知ってるってことは、あれを見てたってことだろーがっ!!

「てめぇ~!」


「お前ら真面目に走れー!」


「「すんません!」」
コートをはさんで聞こえてきた怒鳴り声に、ふたりで肩をすくめて謝ってから、前を向いてクールダウンに専念しなおす。

タッタッタッタッ

ったく…俺まで高杉コーチに怒られちまったじゃねぇか。
せっかくさっきのミニゲームで、いいとこ見せられたってのにさ。
へへっ…メシのときの講評が楽しみだな。
さすが大学でプロともやってたってだけあって、指導も具体的で面白いし。

「ふぅ…ランニング終わり、っと」
同時に、
「信也さん、お疲れ様です。タオル使ってください」
いつものように、頭ひとつ低い位置から可愛い労いの声と一緒に、柔らかそうなタオルが差し出される。

「サンキュ、小夜ちゃん。
休みの日なのにお父さんの手伝い、偉いね」
お礼を伝えて早速タオルへ顔をつっ込み、汗を吸わせる。
おお、マジでフカフカ柔らかい。それにいい匂いすんな。
ドコの洗剤使ってんだろ?後で教えてもらって、家もこれにしてくれるよう母さんに頼もっと。

「いえ…お父さん、きっとホントは自分の子供をコーチしたいって思ってるのに……。
私女の子だし……運動苦手だから、これくらいしかできなくって……」

『これくらい』。
耳に入ってきた大きな勘違いを正すため、俺は顔を上げ、すぐ隣の頑張り屋さんへ真っ直ぐに本音を伝える。

「もうっ!
小夜ちゃんがこんなにいろいろしてくれるの、俺らはすっげー感謝してるって!
それに高杉コーチだっていつも、
『娘の前でかっこつけられる幸せ、お前らにはわからんだろ~』とか嬉しそうに言ってるんだぜ。
だからもっと自信持ってよ!
……あ、さっきのバラした事は内緒にしててね」
「……あり…とう……います」モニョモニョ
返事。
控えめに…うつむいて目を逸らせながら、ギリギリ聞こえる声で。

…どうも遠慮がちなんだよなぁ。ホント、もっと自信持っていいのに。
こんなに頑張ってる4年生なんて他に知らないよ。

「……やさんが……ばってる子が好きだ、って言ってたから……」モニョモニョ
「え?」
「ああっ、いえ……その………」
もにょもにょの中身が気になって、ちょっと聞き返してみたら、
チームの妹分は顔色もわからないくらいに俯いて、余計にしどろもどろになっちまった。
いけね、声が強かったか。
急かしてしまわないよう、鼻で軽く深呼吸して間を空けてから、今度は優しい響きを意識して声を向ける。

「ゆっくりでいいよ」
「えっと……。
し…信也さん、来年は中学生になっちゃうから、残念だなっていうか…うちのチーム、6年生までだし……。
ああっ、そうじゃなくてそのっ……お父さんが、信也さんすごいからもっと指導を続けたいって言ってたから……。
もっ…もちろん、私も残念なんですけど……」
「そうなんだよなぁ…もう1年したら中学なんだよな」

中学生になれば、今のままじゃいられないかもしれない。
本格的な部活が始まるし、塾だってもっと忙しくなる。

そしたらあいつを1人にしちゃうかもしれない……。


  「お~~い、高杉~!佐藤狙ってるのはわかるけど、俺たちにもタオルくれよ~~!」
  「えっ!?ご…ごめんなさい!!…じゃなくって、そういうのじゃありません!!」
  「いや、狙ってんのは別に良いんだけどよ。
  ……でもやっぱ、そこまでマジなの見てるとさすがになぁ……」
  「違います!信也さんはかっこいいし、頭もいいし、優しいし……。
  地味な私なんかじゃ釣り合わないの、わかってるつもりです……」
  「……高杉は鴨小じゃねえから……」


中学じゃ他校の男子も沢山一緒になるから、みんながあいつをフォローしてくれるかどうか……。
かといって女子は……あいつ、女子のグループとかで上手くやって行けんのか?
女子って、普段どんなことしてんのか全然わかんねぇから、検討もつかないや。
せめて長女がもうちょい頼りになればいいんだが……基本自分勝手だし、やっぱ俺が何とかしなきゃな。


  「だからわかってます、信也さんが人気ある事くらい。先週も綺麗な人が来てましたし……。
  だけどあの人だって違うんなら……」
  「あのさ高杉。アイツは本気で違うっつーか、何の基準にもならん奴なんだって……」
  「あ~…確かにあの子、かなり可愛かったよなぁ」


「オイ!イケメンっ!」
「……なんだよ?」
いろいろ考え事で忙しいのに。

「先週、なんでキレてたんだよ?せっかくあんな可愛い子が見に来てくれてたのに」
「……先週…可愛い……?」
「そうそう!お嬢様~って感じの子!
なのになんかマジギレして追い返すしよ~!信じらんねぇよ!!」

……ああ、変態集団の。
そりゃ可愛いって言えば可愛いのかも知れないけどさ……。

「あのな…お前はあいつのヤバさを知らないから、んな事言えるんだよ」
「ヤバイって……?
なんだか知らねぇけど、あんなふうに怒鳴って追い返す事なかっただろ!
『迷惑だからさっさと帰れ!』とか、『二度と来んな!』とか大声だしてさ。
あの子、涙目になってたし」
「そうですね。あの日は信也さんらしくなかったです…。
たまたま散歩中に通りかかっただけだったのに……。
少し可哀相でした」
「そうそう!ひっでぇ男!
ちょっとイケメンだからって、調子乗ってんなよなー!」ケラケラ

これだ。
女が涙を見せたら、ウソ泣き(帰り際、口元が笑ってた)でも一方的にこっちが悪い事になっちまう。
理不尽だよ、ホント。

「てめぇは知ってんだろ。他人ごとだと思って気楽に笑いやがって。
それに小夜ちゃんまで……。
あのさ、冷静になって考えてみてくれよ。俺らの校区の奴が、この辺を『たまたま散歩』してたわけないだろ。
しかもみんなあいつが現れた事に驚いた…ならさ、誰にここを聞いたんだよ?」

いや、もちろんいろいろあると思うよ?
特撮に出てくる悪の秘密組織とかじゃないんだ。簡単に調べられるさ。
保護者会とかで親が聞いたのかも知れない。
でもあいつ、『うふふ……』とか言ってちゃんと答えねぇでやんの。
まともな手段で調べたんじゃないのか、なんか企んでたかの可能性が高いだろ(多分、今みたいな噂を立てたかったんだな)。
大体、あんなふうに笑いながら隠し事するような奴とつるみたくないっての。

何より、あの変態集団の一員だし。

「とにかくあいつはマジでヤバイ。生理的に無理。ホントに。大マジで」
「なんか目が死んで……そんなにヤバイのか……。
いやでも、あんだけ可愛かったら許せね?
イヤリングとかして大人っぽかったし……。うちの学校にゃ、あんな子いねぇよ」
「可愛いければ何でも許せるほど単純じゃねぇんだよ、俺は」
バカ過ぎることを言うチームメイトに、すぐさま俺は心底呆れた声をプレゼントしてやる。
すると途端、

「「「「……………………」」」」
周りにいた数人…鴨小の奴らがいっせいに黙りこんで、半目を向けてきやがった。

「何だよ?」

「「「「別に」」」」

「…嫌な感じだな……。
……まぁいい。
とにかくここは俺にとって唯一のオアシスなんだ。
うちの女子なんて、誰が来てもぜっっっったいスグに追い返すからな!!」

「さぁ飯にすっか」 「昨日レアカード出たぜ!」 「お前そろそろソフト返せよ」 「スパイク新しいの買ったんだ!!」

なんか引っかかるな……。
関係ない女子なんて誰が来ても、何度来てもスグ追い返すっての。

………しかしイヤリング…アクセサリーか……。
あいつも着飾る事を覚えれば、ちょっとは落ち着くのかな?
でもあいつがアクセ…髪留め……もうちょい飾り気があってもいいよな。
毎日使うものだし、俺から渡せば大事にしてくれるだろうから……って、そんなキザな真似できるか!
そもそもただの幼なじみなんだぞ!!
…けど今のままってわけにもいかないしなぁ……。

「へっくし!!
うぅ…止まってると寒ぃな……」

……まぁまだ4月なんだし、保留にしとくか。
とりあえずジャージ着て弁当食おっと。今日はいつもより走った分、すっげー腹減ったし。

「バッグバッグ…あれ?弁当が無い……。しまった、入れ忘れたか!
くそっ、まいったな……」
無いとなると、ますます腹減ってきたぞ……。

「え?あ……。
そっ…そうなんですか?
……ええっと…それなら、た…たまたまなんですけど、わた…私……」

家に電話して、母さんに届けてもらうか?でもバス停から距離あるとこだし……。
この時間なら親父が起きてる…100パーめんどくさがって来ねぇな。くそ親父め。

「たまたま、お弁当を作りすぎ「しんちゃ~ん!」

トテチテトテチテ

…………待て。聞こえるはずは無いけど、聞き間違えようの無い声が背中から……。
いやいや、まさかぁ。

「誰だあれ?……なんか格好が…裸足じゃね?」
「うわっ、すっげー速ぇ!!」
「女の子……結構可愛いな」

……なんか周りの感想が、嫌な予感をガンガン補強してくれるんだが……。
いや、人間希望を捨てちゃダメだよな!
それより『可愛い』って言ったの誰だ!!?

「しんちゃ~~ん!!」

ダンッ!

「なっ!?あの子土手から飛んだ!!?」

スタッ

「しんちゃん!
……おっとと、着地失敗…めんご」

ムギュウ

「いってーーーー!!!」背中!肩っ!!

突然背後から突き出された腕が、そのまま俺の身体を力いっぱい抱き締める。
おかげで背中全体にいろいろ当たって……!

「え?しんちゃんどっか痛いの?」
「い…いや、別に。それよりさっさと離れろ!!」
あんまりにもはっきりと伝わってくる感触に、大慌てで命令する。と、「ほーい」 今日は素直に従ってくれた。
……なんでこんなときばっか…いつもこうだといいのになっ!!

  「……マジで誰?てかあの高さから…何者?佐藤ファンなんだろけど……」
  「うちじゃ有名なんだけど、佐藤の…まぁなんつーか……。
  あとで説明すっから、とりあえず絶対つっ込み入れんな…っていうより黙ってろ。絶対に」


ええい、くそっ。いい加減自分を無理やりごまかすのも空しくなってきたし、諦めるか……。
そう観念して振り返った俺の目の前にいたのは、
「やっぱりお前か」
「押忍!!」
嬉しそうに真っ直ぐ手を上げて返事をする、幼なじみだった。
目の前にいるんだから、そんな大きなアクションはいらないっての。
…ま、見てて楽しいからいいけどさ。

「どったの?なんかいいことあったっスか?」
幼なじみ…ふたばがカクッと首をかしげる。のと一緒に、ちょんまげがぴょこんと横にお辞儀をする。

『ちょんまげ』って言っていいのかな?ふたばは頭の1番上で短く髪を留めるのがお気に入りだ(どころか無茶苦茶こだわってる)。
あんまり見ない髪形だけど、身体の動きにあわせてぴょこぴょこ踊るのがすごく『ふたば』らしくて、実のところ俺も大好きだったりする。

………いやいやいや!幼なじみとしてな!友達として好きってことっスよ!!?

「しんちゃん?」
「あぅ…あっ、べっ…別になんでも!
お前こそなんでここに?」
「お弁当をお届けに来たっス!!」
言葉のとおり、その右手には見慣れた包みが。
あちゃ、やっぱ今朝忘れてきてたんだ。

「そうだったのか。ありがとう…ってはしょりすぎだよ。
なんでお前が届けに来る事になったんだ?」
「えっとね~……今日は久しぶりに早起きしたんスけど、パパもみっちゃんも寝てるし、
ひとも居なかったから、とりあえずしんちゃんちに遊びに行ったんス」

三女が?
……休みの朝早くからどこ行ってんだ、あいつ?

「んで、しんちゃんも居なかったけど、おばちゃんに朝ごはんを食べさせてもらって、お弁当忘れたの聞いて、
それからそれから……」
「大体わかったよ。
……にしても母さん、お前1人で行けって言ったのか?」
無用心だな。ふたばに何かあったらどうするつもりだ。

「ううん。
パパかひとはと一緒にって言われたんだけど…パパはまだ寝てたし、ひとはも帰ってなくて……」
「へえ?」

マジでどこ行ってんだ…?
特売か?だけど時間的に開店前だったろうし……まったく思いつかん。今度聞いてみ…ても答えないだろうな。

「でも『川沿いのサッカーコート』って聞いてたから、とりあえず川に沿って走ってきたんス!」
「そりゃお疲れ…って何キロあると思ってんだよ!!
おまっ…ずっと走って来たのか!?」
「うん!
しんちゃんがお腹すかしてたらいけないと思って、頑張ったよ!!」ニコッ
「うぐ……っ。
そ…そっか、あり…とう」ボソボソ
不意にまっすぐ向けられたせいで、胸が詰まってお礼すらまともに言えなくなってしまう。
だーくそっ!かっこ悪ぃ!

「わーい!お役に立てたっスー!!」
それでもふたばは、ピョンピョン跳びまわって全身で喜んでくれる。
お礼を言ったこっちの方が嬉しくなってくるくらいに。

……本当は迷子の事とか色々注意してやんなきゃなんだけど、これじゃ何も言えねえよ。ずりぃヤツ。
だけどまぁ、今日は俺のために頑張ってくれたんだし、もっとちゃんと伝えないとな。

「ありがとうな、ふたば」
「おす!」
………喜ぶのはいいが、そんな簡単にニコニコを振り撒くなよ……。
このバカ、こないだからは道着もなくなってすっげー薄着で……薄着、だよな?

まだ春先の肌寒い時期だってのに、ふたばはシャツ1枚とスパッツだけで元気をアピールしまくってる。
こないだまではもう1枚道着(あれって何の…ってか誰のだったんだろう?)を羽織ってたけど、
ついこないだこいつ自身の手で全く違う姿に生まれかわっちまった。
どうせマンガみたいに次の日には全く同じ格好で学校に来るだろう…と思ってたら、その後はずっと今ので通してやがる。
誰もなんにも言わねーし、俺だけ騒ぐと意識してるみたいで恥ずいから、放っといてるけど………。
……………………。
とっ…とにかくおじさんも心配してるだろうし、とっとと誰かに迎えに来てもらおう。

「おーい!誰か携帯貸してくれよ!
……サンキュ」

さて、今度こそうちの親父を呼ぶか。
ふたばの事を実の息子の100倍可愛がってるヤツのことだ。大喜びで車をかっ飛ばしてくるだろう。
ったく…親父だけじゃなくて、母さんも姉ちゃんもふたばびいき…ってか、基本俺の扱いが悪いんだよなぁ。
おまけに三女は完全に俺をなめてるし、長女にいたってはこないだから変態扱い……待て。
よく考えたら『身内』全般から俺の扱いが悪くね?
どころか底辺になってね?

「………………とりあえずそれは置いとこう。深く考えると泣きたくなりそうだし……。
待ってろよ、ふたば。おじさんにも電話すっから」
「なんだよイケメン。女子は迷惑だからスグ追い返すんじゃなかったのかよ?」

「へっ!?」 「えっ…?」


  「わー!バカッ!!黙ってろって言っただろ!」
  「なんでだよ?
  あの子も可愛いし…でかいし……せっかくなんだから邪魔しとくべきだろ!」
  「おまっ…素人が下手につっ込むと……!」


「ご…ごめんね、しんちゃん。迷惑だったんスね……。
ぐすっ……。
ごめんっス。すぐ帰るからね……」

トテチ...

「ちょお!?
待って待って待って!!違う違う!!
ホントちょっとマジで待って!違うって!そうじゃないって!!そんな事思ってないから!ほんとに!!
マジで待って頼む!!お願い!!!」
あっという間に小さくなっていく背中に向かって、とにかく大急ぎで声を張り上げる。
こいつは走るのが速すぎるから、迷ったりなんかしてるとすぐ届かないところに行っちまうんだ。

...ピタッ

おし、間に合った!

「ふぐっ……。
……でも女の子は迷惑だって言ってたって……」
だけど振り返った顔は鼻が赤く染まってて、大きな目からは今にも涙が零れそう。
うわわっ、やばい!!

「違う違う!ふたばは別だよ!!ふたばは特別!!
友達なんだから!!
むしろすっげえ嬉しい!弁当持ってきてくれたし!ありがとうって言ったじゃん!」
「でもパパに電話して…連れて帰ってって言おうとしたんでしょ……?」
「違うって!
おじさんには、今日は1日中一緒に遊ぶ予定だからって電話するつもりだったんだよ!心配いらないからって!!」
「じゃあ一緒にサッカーしていい?」
「もちろん!!
ふたばサッカー上手いから、みんなも喜ぶよ!!」
「夕方、ゲームしに行ってもいい?」
「当ったり前だよ!!
そうだ!帰りにコンビニでお菓子買っていこうぜ!お前の好きなの買うよ!なっ!?」
「久しぶりに一緒にお風呂入ってくれる?」

ぐっぶぅ!!!

「ちょっ、バッ…!そんな事……っ!
てか『久しぶり』って、最後に入ったのは1年以上前だろ!!もう『昔』だろ!!」
「……やっぱり迷惑なんスね……」

トテチ...

「ああっ!いやいや!待て待て!
まぁそれは………考えとく…方向でいくから!!」
「…いいの?ダメなの?」
「ダメじゃないから!とりあえず!!それでいいだろ!?」
「わーい!!久しぶりにずっと一緒っス!!
ありがとう、しんちゃん!!」


  「………え?なに、今の……?」
  「あ~あ!せっっかく珍しく、すぐ帰らせそうだったのに!
  あいつら下手なつっ込み入れるとどんどんめんどくさくなる上に、ムカツクもん見せられるんだよ!!」

  「……信也さん………」


ふぅ…何とかなったか。とりあえず。
……冷静になると色々まずい気もするけど……こうなったらやけくそだ!!


………夜、こいつが寝こけるまでゲームしときゃ、ウヤムヤになるだろ。


ゴール脇に、みんなが弁当を手に輪になって集まる。

「丸井ふたば、11歳うお座!!
ヨロシクッス!」
そしていつも通り、輪の中心から元気いっぱいの声が上がる。

ふたばの周りには、いつも人が集まる。

「なんだ佐藤、飛び入りってお前の彼女だったのか?」
そしてさっそく、高杉コーチがニヤニヤ顔でとんでもない事を言い出した!

「コォォォーーーーーチ!!!
違うっスから!そんなんじゃないっスから!近所の友達だって言ったでしょ!!
お前らも近寄んな!握手すんのはコーチと小夜ちゃんだけだ!!」
「しんちゃんのただのおさななななじみス。
あと『ふたば』って呼んでね、小夜ちゃん!」
「『な』が多いよ!」
「あっ…間違っちゃった。せっかくしんちゃんが考えてくれた自己紹介だったのに」
「それは絶対言うなって言っただろ!」

ぜぇ…はぁ……。
も…もうすでに疲れ切った……。

「くくくっ!
そんなムキになんなっ ピロロロ... はい、高杉です。
…ああ、その件ですか。少々お待ちください。
お前ら悪いな、先にメシ食っといてくれ。講評は後にするわ。
…すみません、今手元には無いんですが……」

……行っちまった。休みの日まで仕事がついてくるなんて、大人って大変なんだな……。
まぁ今日はおかげで助かったけど。

グー

隣から聞こえてきたなんともノンキな腹の音に振り向くと、思ったとおりそこにはちょんまげごとしおれてるふたばがいた。
「お腹すいたっス……」
「ん、そうだな。弁当…しまった、今度はふたばの分が……。
俺はあんま減ってないから、おにぎり1個でいいや。後はお前にやるよ」
「いいの?」
「ああ」
「わーい!おばちゃんの卵焼き、大好きなんス!」
「良かっ グー っ!!」
しまった!
綺麗に解決しようとしたところを今度は自分の腹の音に邪魔されてしまって、瞬間俺は体中からザッと血の気が引く。

「あっ……やっぱりしんちゃんもお腹すいてたんスね……。
だったら小生はいいよ!大丈夫!」
「いや違うって!俺は減ってないって!」

うあぁ…マジでしまった。
こうなるとふたばは頑固なんだよなぁ……。

「あ…あの、信也さん……」
「気にすんなって…っと、なにかな小夜ちゃん?」
「あっ…あの、きょ…今日、たまたまお弁当を1つ多く作りすぎちゃって……。
つ…作ったって言っても、お母さんのお手伝いした…だけ、なんですけど……。
よかったら…信也さんが迷惑じゃなかったらなんですけど……っ!」
「え……あっ!」

小さな手には、男子用なんだろう、少し大きいサイズの包みが乗せられている。
たまたま……だけどこれなら、ふたばも俺も昼メシにありつける。

でも。

「いや、すごくありがたいし嬉しいけど…やっぱり悪いよ。
もらえないよ」
「い…いいんです。本当に作りすぎちゃっただけで、お父さんの分も私の分もありますし……っ」
「う~ん…本当にありがたいんだけど……」
「しんちゃんが食べないんなら、小生がいただいて「バカ野郎!!」

ええい、しょうがないな!

「小夜ちゃん、ごめんだけどそのお弁当いただくよ。
そんでふたばは俺の弁当食えよ。それでいいだろ」

「オス!」 「あ…ありがとうございます……っ!」
俺の提案に、左からはふたばの、右からは小夜ちゃんの『はい』が返ってくる。
ふぅ…やれやれ。


  「なあ…俺は今、佐藤を殺しても罪にならないと思うんだが……?」
  「言っとくけど、半分はお前がつっ込んだせいだからな。
  だから黙ってろって……。
  つうか佐藤も結構バカなんだよなぁ。前から何度も『たまたま』作りすぎてたのに」
  「あ~…やっと渡せたのがこの状況なんて、やっぱ可哀相だよなぁ……」


俺の分も無いとふたばが食べてくれないし、今回だけはこうしとくか。
「ゴメン、小夜ちゃん。
今度ぜったい何かお返しするから」
「い…いえ、そんな…お返しなんていいですから……。
本当にたまたま作りすぎちゃっただけですし……」
「そうはいかないよ!ホントゴメンね!」

「いっただきま~~す!!」

「お前…もうちょっと周りの空気をだな……」
「ふお?」モグモグ
「………とりあえずいいよ。
ほれ、チクビ(※ハムスター)じゃねぇんだから口いっぱいにほお張るな」

まったく………。


「ごちそうさま!」
「早っ!」
俺まだ全然食えてねぇのに!


  「いちいち口周り拭いたり、お茶ついだりしてたら遅くなるって」
  「黙ってろ、黙ってろ………」


ちょっといくらなんでもがっつき過ぎ「れろん」
「うひゃ!!
ななな…っ!?」
頬にあったかくてヌルッとしたのが…!?

「ほっぺにゴハン粒ついてたよ」
「だからって舐め……っ!!
手を使え!手を!!」
「おハシとお弁当箱持ってるので……」
「~~~っ!置けばいいだろ!」
「くぁ~~っ…。
お腹いっぱいになったら、眠たくなってきたっス……」
「俺と会話してくれ!」
こっちは泣きたくなってきたよ!

「ん…むにゃ……」
もちろんこんなときのふたばが俺の言葉に耳を貸すはずなんてなく。
ちょっと目を擦って眠そうにしたと思ったら、頭を俺の左肩に預けてさっさと寝る体勢に入りやがった。
ほんっと、こいつの行動はいつも突然だぜ。

「だぁー!こんなとこで寝るな!」
「うに……疲れたからちょっとだけ………。
ぐー……」

……そうだった。早起きした上、俺のためにここまで走って来てくれたんだった。

「……しょうがないな。
小夜ちゃんごめん。ちょっと行儀悪いけど、お弁当いったんフタするね。
こいつ、こんな地面の固いとこで寝させるの可哀相だからさ」
「…………へっ?
あ…いえ……。今更そんな事気にされてもっていうか……」
あ~あ、ふたばの突飛な行動のせいで、小夜ちゃんまで呆然としちゃってるよ。
さすがに後でちょっとフォローしとくか。

「よっ…っと……ととっ」

ゴソ...ゴソ...

む…上手く背負えない……。
左肩のことがあるとはいえ、そもそもあんま身長差無いからなぁ(昔からずっと)、くそう。
やっぱ並んだときの見栄えとかあるし、もう5センチは欲しいぜ。
それにふたばは最近どこ触っても柔らかいから何でもない!!

「悪ぃけど誰か背負うの手伝って…小夜ちゃんゴメン、手伝って!
てめぇらは触んな!!」
依頼の途中で相手を唯一の良心に限定し、残りの連中には蹴りのけん制をくれてやる。
小夜ちゃんにばっかり頼るのは気が引けるけど、こんな手をワキワキさせながら近づいてくる奴らになんて指一本触れさせてたまるか。
ていうか、どいつもこいつも(鴨小の奴ら除いて)さっきから目つきが怪しいぞ!
目線も明らかに『そこ』に行ってるし!死ね!!

「……はい」
「ぐがー」

ゴソゴソ

ん…今度こそ上手く背負えそうだ。
やれやれ…情けねぇ。牛乳、毎日飲んでるんだけどなぁ……。
サッカーや勉強は頑張った分伸びるのに、これだけは上手くいかないんだよな。
けど中学になれば成長期とかあるらしいし、そしたら10セン「うっ」 背中に……っ!

「……小夜ちゃん、本当にゴメン。これで最後だから。
こいつが俺に寄りかからないよう、後ろから支えてくれないかな?
あっちの芝生まで、お願い!」
「え…?
寄りかか……あっ!ふたばさん、大きいから……」

ぐわぁ…真っ赤になって言わないで欲しかった……。
背中の感触がますます気になっちゃうよ……。

「佐藤!人には散々言っといて、自分だけ美味しい思いする作戦かよ!!!」
「ちげぇよ!!だから小夜ちゃんに頼んでんだろうが!!お前と一緒にすんな!!」
「すぴー…うぅん……」
「あ…くそっ、後で覚えとけよ。行こ、小夜ちゃん」モニョモニョ


ザッザッザッ


「この辺でいいかな。
ゆっくりかがむから、お願い……うん。ごめんね」

小夜ちゃんに手伝ってもらいながら、できる限りゆっくりとふたばを木陰へ降ろす。

「ぐお~~!」

…起きる気配は無しか。いつまで経ってもノンキな奴だね。
でも、やっぱり寝顔もかわ…オホンっ!

まったく…いちいちズルイんだよな、ふたばは。


  「すごいイビキとヨダレ……。それに鼻ちょうちん出して寝る人って、現実に居るんだ……」


とりあえず俺のジャージを掛けといてやるか。
「よっと…はっくしょん!」

うぅ…寒ぃ……。
これだとジャージだけじゃ心配だな。荷物からタオルも取ってこようっと。

「……信也さん」
「うん?なに、小夜ちゃん?
後は俺だけでできるから、みんなのとこに帰ってくれていいよ。いろいろごめんね」
「………ハナミズ、出てます。ティッシュ使ってください」
「あ…あちゃ……。
俺も持ってるから大丈夫」
慌ててズボンのポケットからティッシュを取り出して、鼻をかむ。
子供の頃から隣に居る奴があんまりにも汚れ放題なおかげで、ハンカチとティッシュを持つのが癖づいてんだよな、俺って。

あんまりありがたくねぇ。

「あはは…かっこ悪いとこ見せちゃったね」
「……はい。今日の信也さんかっこ悪い…ううん、変です」
「げっ!小夜ちゃんに『変』て言われると、マジでショックなんだけど。
なんか変なことしてた?」
「変です。こんなに「ちょいごめん。タオル取りに行きながらでいい?こいつよく風邪引くからさ」 ……はい」

ザッザッザッ

「……こんなに何でもかんでもしてあげること無いと思います」
荷物置き場になってるベンチに向かって歩き出すとすぐ、だけどうつむきがちに小夜ちゃんが『変』な理由を俺に告げる。

「『何でも』って……大げさだなぁ!そんな大した事してないって!」
「……大した事じゃないんなら、放っておいてあげたらいいじゃないですか。
そもそもうちのチームの人じゃないんですし、すぐ帰ってもらったって……」
「いやぁ…普通ならそうなんだけど……あいつ、自分の住所も言えないから危なっかしくて」
「へ?
……あの人、6年生なんですよね?」
「ん…なんだけど、ちょい変わってるトコあるからさ。だから誰かがフォローしてやんなきゃいけないんだ。
……だけど良いところも沢山あるんだぜ?
今日だって、俺に弁当届けに来てくれたし。すごく優しいんだよ」

そうふたばを紹介してるうちに、俺たちは荷物の山に辿り着く。
あ~あ、みんなが弁当取り出すときにぐちゃぐちゃになったのか。いつもの事とは言え、改めて見ると俺らって適当だなぁ。
こりゃ自分のやつ探すのひと苦労だぞ。

「優しいって…さっさと自分だけで食べようとしてたじゃないですか。
それこそ何でも全部真に受けて……。普通なら半分…あの人の方がおにぎり1個で済ますでしょう?」
屈んで発掘作業を始めた俺の背に、新しい質問が投げかけられる。
もっと知ってもらいたい俺は、両手を動かしながらそれに答えていく。

「ああ…そうなんだよなぁ。
素直なのも良いところなんだけど、ちょっと行き過ぎだから心配してるんだよ。
それにあいつ、むちゃくちゃ動き回るから、おにぎり1個なんかじゃ足りないんだ。
今日はちゃんと食べてくれて良かったよ。
あっ、お弁当は本当にごめんね。すごく美味しかったよ。今度絶対お返しするからね」ゴソゴソ

っと…タオル、あったあった。枕になるから、バッグごと持ってくか。

「よっと」
健在な右肩にバッグを掛け、それを挟んでまた小夜ちゃんと並んで、さっきと逆のルートを辿る。
小夜ちゃんの方は、さっきからずっと俯きがちなままだけど……。

ザッザッザッ

「………いくら恋人さんだからって、そこまで無理にかばわなくても……」

こっ…!!

「違う違う!!
もうっ!ホントやめてよそういう勘違い!!ふたばはただの幼なじみ!!
家が近くて、ちょっと遊ぶ機会が多いだけの友達だよ!!それに無理なんてしてないって!!」
「…………」
けれど返事はなくて、それどころかふわふわした眉毛を寄せられてしまう。

むむ…この顔、なんか納得してないっぽいな。
別に普通だと思うけどなぁ。今のところなにも壊してないし、大騒ぎにもなってないし。
俺だってそんなにひどい目にあってるわけじゃないんだし。
千葉とかならこのくらいじゃ何にも言わない……やっぱ男子と女子じゃ見方が違うのか?
そりゃ『1番仲の良い女の子』とも見れるけど……女子ってそういう言葉使いたがるよなぁ。
お兄さんは悲しいぜ。

「う~ん………。
でもまぁ今日は……ちょっと甘やかしてる…ほう……なのかな?」
「『ちょっと』!?これで『ちょっと』!!
しかも疑問形!!
本気で言ってるんですか!?」

あれれ?珍しく大声になったぞ?

「え……も…もちろんちゃんと本気で言ってるよ!
6年生になったんだからもっとしっかりしろ、って!!
…………………………。
確かにもう少し本気度が足りない……ところがあるかも知れないけど……。
でも今月はクラス替えとかあったし、まだまだ肌寒いしさ。あんまりガミガミ言ったら可哀相だろ?
いや、そもそも言うべき事はしっかり言ってるんだって。
こないだだって『そろそろ給食着くらい1人で着ろよ』って言ってから着せてやったし」
「意味がわから……っ!
ていうか『そろそろ』って、いつも着せてあげてるんですか!?」
「ああ、あいつボタンが苦手なんだよ。バカ力ですぐ割っちゃうから。
給食着は背中にあるし。
いや~、1年生からずっと同じクラスで助かったよ」
「~~~~~~~~ッ!!!」パクパク

……?急に静かに…そっか、寝てるふたばの傍まで来たからか。やっぱり気の利く子だな。
こいつももう少し周りを見るようになってくれたらいいんだけど……ま、ゆっくりいくとしますか。
さて、ジャージからずらしてタオル掛けて、枕入れてやって……よし。これで大丈夫だろ。

「信也さん、自分で言っててメチャクチ「おーい佐藤!午前のゲーム、講評してやるから来ーい!」

「お、コーチ戻ってきたのか。
行こ、小夜ちゃん」
「……………先、行っててください。すぐ追いかけますから」
「……?
うん…わかったよ。じゃ、後でね」

小夜ちゃんの元気なさげな様子に後ろ髪を引かれたけど、やっぱり午前の大活躍の講評が気になった俺は、
みんなに向かって駆け出す事にする。
すぐ来るって言ってるんだから、後で聞いてあげればいいよな。

タッタッタッタッ

へへへっ、ラストの位置取りは自分でもすっげー上手かったと思うし、ほとんど俺の活躍説明会だったりして!!


  「この人は特別………だからって……」
  「ぐごー」


「ところで佐藤、なんで俺の愛娘の手作り弁当食ってんだ?
しかも父親の前で二股とは、良い度胸じゃないか」
「ちょっ、二股とか……アイアンクローは!ぎゃああああ!!
ギブ!ギブッス、コーチ!!」