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ピピピピピ!

「ん…朝か……」

目覚ましを手元に引き寄せて、針を確認する…ちゃんと6時だな。
……慣れているといったって、私だってやっぱり月曜はつらい。だけど我が家の朝は私が頑張らねば。
気合を入れて、私はいつもの順番通りに『今日』を組み立てていく。

「朝だよふたば。起きて」

小学生のときから使っている(使えてしまっている……)ベッド。
今は1段になってるそこから降りて、床で寝ているふたばに声を掛ける。

「んごぉ~…んむぅ……。
あと、5ふん……」
「はいはい」

ぐずるふたばはひとまず置いといて、セーラー服に着替え、髪を梳く。
化粧台に座り、ひと櫛ひと櫛、丁寧に。

シャー シャー

我ながら綺麗な髪だと思う。
学校でも、いろいろ冗談ばっかり言われるけど、髪のことだけは本当なんだって思える。
唯一の自慢。唯一、先生が触れてくれるところ。
……子供の頃はあんなに気楽に頭をなでて、抱き上げてくれてたのに……。
当たり前だよね。『先生』には立場があるもんね。例え相手がこんなに小さな私でも……。

シャー...

………いけない。最近、すぐにつまらないことを考え出してしまう。
違う。好きな人のことが『つまらないこと』なわけない。
ダメだダメだ。こんな顔みんなに見せられないよ。心配させちゃう。
しっかりしろ、ひとは。

「ふぐ…ぐぅ~…。ね…むい……」
…まだぐずってるし。

もうっ、シャツがずり上がって、いろいろ丸見えになっちゃってる。
私たちの中じゃダントツで大きくなったとはいえ、こういうところはいつまで経っても『ふたば』だなぁ。
まぁ『外』では結構しっかりしてるらしいからいいけど……でも、ボロボロのシューズを抱いて寝るのはもうやめて欲しいよ。
恥ずかしい。
合宿にまで持っていくし……。

「ほらほら。時間が来ちゃうよ」でも今日は来れないかも。
「おふ……おふぁよう、ひと」
「おはよう」

タンタンタン

一応ふたばが起きたのを確認したら、1階に下りて玄関のカギを開け、顔を洗う。

ジャー パシャパシャ

「ふぅ…さっぱりした。
私のリップは……」

……またお化粧道具が増えてる。これだけあっても、5分くらいでパパッとメイクできちゃうんだから不思議だ。
お料理のときはあんなに手元が危ういのに。

「おはよ…。小生が顔洗ってもいいっスかぁ~…?」
いつも通り、赤いジャージの上下に着替えたふたばが寝ぼけ眼…というかほとんど寝たまま洗面所に入って来た。

ぐしぐしと目を擦り、あっちこっちに髪を跳ねさせた姿を見ていると、自然と笑顔が浮かんでくる。

「いいよ。早く寝癖直さないとね」
「うん…」

鏡の中の私が小さくなり、今度はふたばの顔が大映しになる……やっぱり今日もほっぺにヨダレの跡がばっちり残ってる。
ほんと、ふたばは何年経ってもいつも通りだ。
………ちょんまげをやめちゃった事以外は……。

「……さて、次はふたばの朝ごはんっと」


ジュー...


「…ふたば。テーブル、一緒にこれ持っていって。パンももう焼けてるから」
「ふぁ~~い」
顔を洗ったのにまだまだ眠そう。の割りに、朝ごはんはちゃんと食べられるんだから不思議だ。
………ホントに外ではしっかりしてるんだろうか……?

「…監督さんもいるんだし、大丈夫だよね。
それよりお弁当お弁当」

お弁当箱を3つ並べ、ご飯をつめていく…いつもならこのあたりで……「おはよー」 おお。

パタパタ

いつも通り、玄関に来ていたのは青いブレザーに身を包んだ「しんちゃん」

「おはよ~、しんちゃん……。むにゃ…」
「おはようふたば。
………それと三女、お前は俺に言う事があるだろ」
「出所おめでとう。まだ釈放されてないと思ってたから、正直驚いたよ」
「うるせぇ!今回はすぐ開放されたよ!」
「『今回は』とか、自分で言ってて悲しくならない?」
「ああ悲しいよ!!
てゆーか、おとといはほとんどお前が元凶だったろ!!なのにさっさと消えやがって!!
あ・や・ま・れ・よ!!」
「しんちゃ~ん、くつひも結んでぇ~」
「今は取り込み中!……わかったよ…」
「悲しくならない?」
「もういいよ!ならねえよちくしょう!!」
「朝から大声出さないで。ご近所にも迷惑だし。
私、お弁当の準備で忙しいから、じゃあね」
「くつひもぉ~」
「…………………」

むふぅ…。今日も面白かった。


カチャカチャ グツグツ


昨日買った鮭の味噌漬けは…あった。
魚屋のお兄さん、いつも安くしてくれるから助かるなぁ。やっぱり商店街は長年通ってた分だけサービスがいいよね。
チンしたシューマイはキャベツの上に乗せて、っと。

「む……」
それでも微妙なスペースが余ってしまった……。

あんまり時間もないし…卵焼きにしようかな?だけど朝がベーコンエッグだから、卵が続く…まぁいいか。
雌豚はそんな事気にしないよ。どうせ昨日の残りが入ってることにばっかり気が向くだろうから。
まったく。煮物はひと晩おいたほうが、いい味になるっていうのに。

ドタドタ

「おはよう、ひとは」
「おはよ…ふぁ~あ。
ちょっとパパ、さっさと顔洗ってよ!」

さあ、本格的に騒がしい朝の始まりだ。


――――――――――


「…――belief that tha world flat was common at that time.」
「はい、いいですよ丸井さん。
綺麗な発音でしたね」

キーンコーンカーンコーン

「それじゃ今日はここまで。
宿題は…ここの長文の訳と、文法の仕分けだけにしときましょう。お疲れさま」
「きりーつ、れーい」

ふぅ……。

「三女、お弁当にしましょ」
「うん、杉ちゃん。
さっきので緊張したから、すごくお腹すいちゃったよ。
……あんなに注目しないで欲しいなぁ」
特に男子。視線が痛いくらいだったよ……。

「ふふふっ。
クラス中、『姫』の歌声に聞きほれてたのよ。
もちろん私もね」
言って、杉ちゃんが胸元まであるボリュームたっぷりのカールをかき上げる。
その仕草は、大人びた顔立ちと相まって『艶やか』と言えるほどの雰囲気を発散していて、
余計に投げかけられる言葉の中身にげんなりしてしまう。

「やめて」その呼び方は。

『姫』…『髪長姫』。高校での私のあだ名。
自分でもあんまりにもあんまりだと思うけど、コレが1番マシなんだから泣けるよ……。

「ゴメンゴメン。機嫌直してください、姫様」
「もうっ。みんなからもなんとか言って」
切れ長の目から笑みを消そうとしない杉ちゃんをやりこめるため、机を寄せているみんなへと援護射撃を求める。

『みんな』…高校での私の友達に。

「ん~…私は実際聞きほれとったよ。姫は声まで綺麗やなって」
ふわふわしたくせっ毛と小さな背丈(でも私より高いけどね)が子犬を思わせる、神戸さん。

「ほんとほんと。声優目指せるんじゃない?」
色味が薄い髪と左目の泣きボクロが可愛い柳さん。

「姫のビジュアルで声優なんて、もったいなさすぎだろ。
普通にアイドルとか女優でいいじゃん」
そして今年から同じクラスになった、時枝さん。
……去年まではこの位置に別の友達がいたんだけど……ううん、新しい出会いがあったんだから。

「いつもいつもそんな冗談ばっかり…」
「マジでそう思ってるって。さすが噂の髪長姫は違う!って。
最初声かけられたときなんか、『やべぇ!あたしこの美少女にいじめられるような事しちゃってた!?』とか思ったもん」
「なんでそうなるの……」

運動部所属の時枝さんは、私より頭ひとつ以上背が高い。
健康的にやけた肌からも、爽やかにそろえられたショートボブからも、清々しい活発さが伝わってくる。
これだけ差があるのに、私が何をどういじめるっていうの。
むしろ目の前で揺れるそのCに、こっちが進行形でいじめられてるよ……。

「ああっ、これは冗談だよ、ジョーダン!感謝してます!
もうひとりと違って、あたしこのクラスに中学の友達もいないから、こうやって弁当誘ってもらえて助かったよ。
ありがとうございました!」
「いやまあ、そこまではいいんだけど……」
そんな机に手をついて深々と頭を下げられまですると、こっちが恐縮しちゃうって。

2年生のクラス替え…と言っても、Aクラスは成績上位の子が集められるから、女子は2人しか替わってない。
そのせいだろうと思って、初日、手持ち無沙汰にしてた時枝さんに勇気を出して声を掛けたんだけど……良かった。

「しっかしさすがAクラは授業がめんどいなー。
しかも知ってるか?進路調査、この時期はうちしか取ってないらしいぜ。
ったく、公立高のくせに思い切った事するよなぁ」
と、私がちょっとこないだを思い出してる間に、相手はパッと切り替えて、パンを片手に口でストローをプラプラさせていた。
……行儀悪いよ。

「そうやね。
けど、せっかく仲良くなった子とバラバラにならんで済むから、私的には嬉しいシステムやなー。
あっ、トッキーが来てくれたのも嬉しいねんで。トッキー大好き」
「さすが常時トップは言う事が違うわね……」
「杉崎さんも上位の常連でしょうに。
ま、入試上位が、1年間ある程度特別な授業を受けてきてるんだから、そんなに入れ替えが無かったのは当然よね。
……男子以外は」
「あはははっ!ホント大爆笑だよな!
逆に2人以外総とっかえになってやがんの!」
「『髪長姫と同じクラスになりたい』って執念で、恐ろしい争いが繰り広げられてたからねぇ。
…これで姫が違うクラスになってたら、さらに笑えたよね。もちろん変な意味じゃなくて」
「単に男子が頑張ってるんだよ。
まったく…よくまぁ次々とそんな妙なストーリーを作れるもんだね」
「あたしらは本当のことを言ってるだけなんだけど……姫のセリフも本気なんだよなぁ。
その謙虚さも人気の秘訣、か。
ていうか同じクラスになって、呆れるくらい好要素ばっか詰まってるのがよくわかったよ。
…やっぱ今日のも、姫の手作りなわけ?」
「昨日の残り物をつめてるだけだってば」
「そっかー。じゃあ卵焼きいただきます」
私の返事を待たずに、どころか自分の言葉の中ほどにはすでに、時枝さんの指は獲物を摘み上げていて。

「……いいけどね」
「心して味わいなさい。
『三女の手作り弁当』なんて、男子が取り合ってケガ人が出たくらいなんだから」

あれには驚いたよ……。まさかあんな事になるなんて。
千葉くんには悪い事しちゃったなぁ……。

「ホントに出てたのか……。どんだけバカなんだ、この学校の男子」
呆れた顔で判決を下してから、ぱくん。
もぐもぐもぐ…と数度口を動かしたら、今度はパッと明るい表情になった。
「おおっ、美味い!なんかすげー卵のコクがある!」

「大げさだよ……」
うう…ほんとに大したものじゃないのにこんなに喜ばれると、嬉しいよりも恥ずかしいよ……。

「『趣味』なんかとはレベルが違うの。家でずっとやってきてるんだもん。
だから料理だけじゃなくて家事全般大得意よ、この子。頭が良いからすごく細かいところまで気が付くし」
「そんでご覧の通りのぬばたまの黒髪、虹を閉じ込めた瞳、新雪のような肌、抱き締めたくなる華奢な身体!
機嫌のいいときなんかキラキラ発光までしとるんやから!
『白銀の妖精』は伊達やないで!!」
「死角がねぇな…。
やれやれ、野郎どもの気持ちがわかっちまった」
「無茶苦茶言わないで……。特にその呼び名は絶対やめて」

からかいにしたって、ちょっと行き過ぎじゃないかなぁ……でも、
みんなから悪気は全然感じないから、友達とのおしゃべりってやっぱりこうなんだろう。

……壁を作って自分を見せず、相手をからかうときだけ姿を見せる。
本当に、嫌な女の子だった。

「だからマジだって、妖精。大人気ですぜ」
「殴るよ?
…大体、人気って言っても大したことないでしょ。
私立に行ってる私の姉なんて、『親衛隊』がいるんだよ。
10人とか20人じゃきかない規模の」
「……いやいや、いくらなんでもそんな嘘にはだまされねぇって」
「これがホントなんだな。
なんせ姫のお姉さんは、あの『丸井ふたば』なんだから!」
「へ…『丸井ふたば』って、陸上の?」
「そうそう、陸上のやでー」
「たまにテレビに出てる?」
「そうそう、テレビに出てるでー」
「頭に行くはずの栄養が全部おっぱいに行きました、って感じの?」
「そうそう、全部おっぱいに行ってるでー」
「ちょっと…実の姉なんですけど」
しょうがないと思えてしまう所があるとは言え、ステレオで身内を貶されるとさすがに黙っているわけにはいかない。
キッと時枝さんを睨みつける…が、相手はどこ吹く風で言葉を続けていく。
うぬぬ……。

「あっ、丸井……。
待て待て、確かあたしらと同い年だったよな?」
「三つ子なのよ」
「へぇ~~っ!すげぇ!!
…でも似てないね」
ちらり。時枝さんが視線を私の顔の下に…首のさらに下に向けて、感想を口にする。
どうやら私の本気が見たくてしょうがないようだね。

「どこを見たのかな?」ギヌロ

「ああああ!いえいえいえいえ!
あれです!姫様の麗しいご尊顔とか、気品あふれる仕草とかであって!!
決して胸部的なものとかではありませぬ!!
ひらに!ひらに~~!!」
「姫、こやつこう申しておりますが、どういたしましょう?」
ゴンゴン机におでこをぶつける罪人へとおハシを向けながら、柳さんが神妙な顔で判決を促してくる。
はてさて、どうしてくれようか。

「うむ…こやつが犯した罪は許しがたい……が、わらわは心が広いのじゃ。
購買の苺オレで許してやろう」
「うぅ…仕方ないか。了解いたしました……」
「あははっ!トッキーびびりやな!」
「いや、今のは本気で恐かったって!別人かと思ったぞ!?」
「大げさねぇ」
「えぇ~、そうかなぁ……?」
「そうそう。
それじゃ私は抹茶オレね」
「私もそれでいいや」
「私はコーヒー牛乳がええな」
「お前らには奢らねえよ!
ったく…けどやっと『三女』の謎が解けた。三つ子だったんだ。
…って事はもう1人いるんだろ?」
「うん。1番上のみつば姉さん。東高に行ってるんだ。
毎朝自転車で大変そうだよ」
「あと、駅前のファミレスでバイトしてるよ。この前神戸と見に行ったんだ」
「わざわざ見に行ったの……」
「ちょっとキツめの美人さんやった~。姫とも『丸井ふたば』とも全然似てへん感じの。
でもこけてパンツ丸出しになっとったから、ドジっ娘属性があるな」
……みっちゃん…。

「みつばって昔から無様なのよ。
しかも高校2年生にもなったっていうのに、まだうさぎさんパンツなんて穿いてたし。ヒヒヒっ」
「そういえばなんであの日、杉崎さんもいたの?すごいカメラ持ってさ」
「野鳥観察の途中で休憩してたの」
「ふ~ん、そんな趣味あったんだ。
さすがお嬢様だね」
……杉ちゃん…。

「へー、3人とも似てないのか。
……三つ子の意味ないじゃん!!!」
「もとから意味とかそういうの無いから…。
…確かに小中と、『日本一似てない三つ子』って言われてたことはあったけど」
「ははっ!上手い事いうな!
あたしもその『長女』を見たくなった!」
「みつばの通常シフトは月・金の17時から20時と、土曜日の11時から17時よ。
あと、今週は臨時で水曜も出てるわ」
「「「「……………」」」」

…………杉ちゃん………。

「…ま…まぁいいや。
て事は『美人三姉妹』か。むかつくな!」
「そんな爽やかに……」
「誰が1番美人?」
「私の趣味やったら、姫やな。唯一負けとるのはおっぱ…何でもないっス」
神戸さんもAでしょ。

……私はそれすら無いけどね……。

「三女には悪いけど、私はふたばね。テレビじゃわからないけど、実際のあの子はオーラがすごいんだから!
何ていうか…周りの全部を元気にしてくれる、っていうか」
杉ちゃんの本心では違うんだろうけど。

「私も姫かな…。
う~ん…けど『丸井ふたば』が相手だし……迷うなぁ~…。
…でもやっぱり姫!」
「なんだなんだ、『長女』派はいないのかよ?」
「そうねぇ…長女さんも美人だとは思うけど、レベル的には手の届く範囲なんだよね。
あっ、お姉さんを悪く言ってるわけじゃないよ?」
「かまわないよ。
というかそっちの2人こそ、さっきの『頭の栄養』どうこうを謝って欲しいんだけど」
「ふむふむ。
んで、姫ご本人としては誰が1番上だと思ってるんだ?」
「そんなの考えたことも無いよ」
 そんなの考えるまでも無いよ。

…きっと、ふたばもそう思ってる。私たちには足りないモノが多過ぎる。

「なんだよ、つまんねー!
せっかく美人姉妹なんだから、美しさを競って、1人の男を取り合ってドロドロの愛憎劇とかやってくれよ~~」
「いいねそれ。私も見たい!!」
「無茶言わないでってば……。
だいたい、ふたばには相思相愛の彼氏がいるし」
「そうなんや?」
「そうだよ。はっきり言って、鬱陶しいよ。
毎朝一緒に登校。月曜はその子の部屋で勉強会。土曜日は欠かさずデート」
「そりゃ本格的にウザいな。銃殺刑レベルで」
「その彼氏、テレビには出てないよね?」
「うん…普通の男の子だから」
全然『普通』じゃないけど。

「でもそっかぁ……だとしたら『長女』と姫でドロドロか…」
「あくまでドロドロにこだわるんだ……」
「……………」
「杉ちゃんも変なところで沈黙はやめて」
何を想像してるの…。

「だってその方が面白いじゃん。
姉妹で噂の彼氏を取り合ってくれよ」
「「…………」」ピクリ

まずい。私と杉ちゃんの挙動が重なっちゃった。

「そんな人いないよ。架空の人物をつくって遊ばないで欲しいな……」
「そうそう。
私、小学校からずっと三女と一緒だけど、特定の相手なんて想像もつかないわ」
「なんだ、やっぱ作り話なのか。うそくさいとは思ってたんだよな。
教えてくれたヤツも、『誰も見たことは無いけど』って言ってたし」
「そうだよ、まったく……。
……どんな『彼』なの?」
「ん~?
帰国子女で、元俳優で、小説を書いたらいきなり賞を取って、しかも賞金を恵まれない子供たちに寄付した超イケメン」
「………実在したらむしろ怖いよ…」

杞憂だった……。

「でもさー、マジな話として、姫のタイプってどんなの?」
「ええっ、ちょっ…そんなのどうだっていいでしょ」
「私も聞きたーい!」
「いいじゃない、姫。たまにはベタな女子トークもさ」
「いや…だって私、タイプとか特に無いし……」

うわわわわっ!視線がすごいすごい!!
教室中の男子からビシビシ感じる!!

「やめなさいってば。三女が困ってるわ」
「そう言うなって、杉崎。
熾烈な生存競争を勝ち抜いてきたAクラの男子どもに、たまにはお恵みを与えてやろうぜ」
「いい加減になさい時枝!冗談にしていいことと、悪いことがあるでしょ!」
う…杉ちゃん、本気で怒り出してる。
嬉しいけど、こんなことでみんなの空気が悪くなっちゃうのは嫌だな……。
しょうがない。

「大丈夫だよ、そんなに困ってないって。ありがとう杉ちゃん。
ええっと…私のタイプはね……


―――『ひとはちゃん』――


……優しい人、だよ」

それ以外に考えられない。

「おいおいおい、出ましたよ!美少女のみが使う事を許されるという、伝説の『優しい人』発言が!」
「そうだね。私たちみたいな平均点が使ったら『適当ぶっこいてんじゃねーぞゴラァ!』って怒られるのに、
美少女が使うとむしろ納得してしまうという、伝説の技をいきなり出してくるとはね」
「ちょっと待って。せめてつっ込みどころは1回に1つにして」
「これは今日から、空き缶を捨てたり、子猫をダンボールに詰めて川に流したりするのが流行りそうやなぁ」
「……それ、逆じゃないの?」
「『仕込み』やん!それを姫の前で拾うんやん!!
川に飛び込んで、『やぁ、格好悪いところをみられちゃったな。ハハハ』とか言うんやん!!」
「意味がわからない……」
「確かにそれは流行るね…!」
「流行らないよ」

さすがにそろそろ……。

「ねぇ姫。猫ちゃんたちに被害が出る前に、もっと具体的な情報を開示すべきだよ。
『春物のカーディガンを友達にプレゼントしてくれる人』とか!」
「柳さん。冬に編んであげたマフラーだけど、アレどうしたの?
お願いされた通り、わざと手を抜いたやつ」
「さぁみんな!いくらなんでももうお終いにしなさい!親しき仲にも礼儀あり、だよ!!」
「……あ~…岸崎くんのしてたマフラー、やっぱり三女が編んだんだ。
彼『彼女からのクリスマスプレゼントだから』ってすごく喜んで使ってたのに……」
「どこにそんな証拠があるの?」
「そういうセリフを言った時点で、もうアカンやろ」
「彼に少しでも良いものを使ってもらいたいっていう、いたいけな乙女心じゃない」
「男を騙すのがお前の乙女心なのか……?
つうか『わざと手を抜いて』って依頼と矛盾してるぞ」
「ちょっと先取りしてもらったの!
もうほとんど同じものが作れるんだから!!」
「真ん中あたりの飾り編みの説明してみて。あそこ、ちょっとだけ凝ってみたんだけど」
「……………さて、そろそろお昼休みも終わりね。みんな机を戻しましょ?」
4人から波状攻撃を受け、柳さんが机ごと後退していく。済ました顔で…だけど、頬を伝う汗を見ると限界は近いな。

「ダメ過ぎるなこいつ……」
「ま、ええやん。彼氏も姫作の方が喜ぶって。
『姫の手編みマフラー』なんか、本来男子が手に入れようと思ったら、死を覚悟せなアカンねんし」
「私、そんなに不吉な存在なの……?」

「ちくしょー!自分でも思ったけど人に言われると大ダメージ!!」ダダダッ

「……どっか行ったぜ…?」
「ほっときなさい。どうせ次の授業までには帰って来るわ」

むふぅ。
私に勝とうなんて、10年早いよ。

なんてね。