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うちの男どもは……。


「ふぅ~…やっぱり露天は気持ちいいわね……」

家族旅行で来た温泉宿。
大浴場もよかったけど、部屋ごとに用意されているこの露天風呂も、小さいとはいえ落ち着けていいわね。
ちょっとぬるめだから、じっくり楽しめるし。

「料理も美味しかったなぁ……。
…まぁ今日くらいはお酒についてとやかく言うまい」

ただでさえ鬱陶しい我が父。
お酒が入るとそのくだらないジョークや無駄に芝居がかったセリフはさらに加速がかかり、
ほろ酔いの時点で早くも親子の縁を切ってやろうかという域に達する。
だから家では少量のビール以上は禁止してるけど…今日は運転も頑張ってくれたしね。

でもお風呂あがったら、iPud聴いて無視を決め込もう。

「お母さんもよくあれと長年仲良くやってるわ……。
……よくやると言えば、あいつも飽きないもんねぇ……」

食事が終わるや否や、『あっ、テレビの録画予約忘れちまった』などと棒読みのセリフを残し、
お母さんの携帯と一緒に寝室に引っ込んでいった我が愚弟。
……あいつ、3日くらい完全隔離してやったら、禁断症状で発狂するんじゃなかろうか?

………………………………………………………………………………………………なんてね。

「と、若干言い切れないところがあるのが怖いわ……」

ガラッ

「おっ、結構広いな」
噂をすれば。

「信也、今日はもういいけど、電話代もバカにならないんだから明日はほどほどにしなさいよ」
「げっ!姉ちゃん!
脱衣所には浴衣、なかったのに!!部屋で脱いできたのかよ!?」
「アホ。ちゃんと上の段にあるって。
あんたがチビだから見つけられなかっただけよ」
「チビじゃねえ!
くそっ、後で入りなおすか……」
「何いっちょまえに恥ずかしがってんの。
毛も生えてないガキのくせに」
「キモイ事言うな!
てめぇと居ると理不尽な扱いされるからだっての!!」
「あんた最近、姉に対する言葉遣いがなってないわよ。
……まぁ今日は許してやるから一緒に入んなさい。
部屋に戻ったとき、押し付けるオトリが居た方がいいから」
「そういうのが嫌なんだよ!!」
声変わり前のキィキィ声で弟が騒ぐ。
ちっ…露天風呂の情緒をぶちこわしくさって。ガキが。

「明日、フロントでキーホルダー買ってやるから。
ああいう赤色の、好きだもんね?」
「………くそっ…」
しぶしぶと洗い場に入ってくる。お手軽なヤツだ。

ジャー ゴシゴシ

「………………」
無言のまま、ふてくされた表情で身体を洗い始める弟。やれやれ、難しいお年頃だこと。
ちょっとつついただけでムキになり、薄っぺらいプライドのために意味不明な嘘をつき、問いただせば言い訳ばかり。
これで同級生にはモテモテだってんだから……小学生の頃はそんなものだったかもなあ……。

弟は母に似た細面だ。学校では(1人を除いて)右に出るものがいないくらいサッカーが上手い。
成績も塾で高順位をマークする程…と、表面的な部分を並べるとびっくりする(というか笑える)くらい好条件が揃ってる。
恋に恋する小学生女子なら、コロッとだまされてもおかしくないだろう。

「実態はこんなに致命的なバカなのにねぇ……」
「いきなりなんだよ!?いててっ、シャンプーが目に……!」
「バカ」
「姉ちゃんが急に変なこと言うからだろ!
大体なぁ、塾の成績見ろよ!俺の方がはるかに頭いいだろうが!」
「そういうところが、バカガキだって言ってんのよ。
ほんと、テストに答え書くことばっかり上手くなっちゃって」

…塾で高順位をマークする程だが、別にこいつは勉強が好きなわけじゃない。
むしろ本来なら、サッカーとテレビゲームで一日を終わらせるサルのはずだ。
じゃあ勉強しなくてもテストで高得点を取れる天才肌なのかというと、そうでもない。
ただの努力の積み重ね。嫌いだけど、ただひたすらに頑張ってる。
自分のため?親のため?違う。

彼女のため。

弟は世界中探しても2人といないだろうほど、お手軽なコドモだ。
彼女を引き合いにだせば、何でもやる。本当に何でもやる。
『もう3秒考えてから行動に移したら?』と言ってやりたくなるほど何でもやる。

「あー、痛かった……」
「洗い終わったんならとっとと入りなさい。
私がのぼせちゃうでしょ」
「へいへい…」
「…あんたほんと、あの子のいないところじゃ適当ねぇ……。
真の姿はこんなだって知ったら……」
「はいわかりました!」

『彼女が知ればどう思うだろう』と言えば、すぐに行いを正す。
『彼女の欲しい物と引き換えにする』と言えば、無理でも成し遂げる。
あまりにも単純。見ていて涙を誘うくらい。
だから母さんも、ずっと一緒にいて欲しいと思ってる。そりゃそうだ。楽だもん。

「くっそー…」ザブン
弟が私から少し離れて、肩を並べる。

「ふぅ……。
………………………………………」
「……………………………………」
姉弟でボーッとする。家族旅行らしくて悪くない。

「……………………………どうしてるかなぁ…」ボソボソ
……ボーッとあの子のことを考えてるし。ったく……気持ちはわからなくもないけどね。

あの子。弟の幼馴染の女の子。
彼女はとびっきり可愛い。
もちろん容姿もあるけれど、誰よりも真っ直ぐにあるその姿。見ているだけで力付けられるその元気。
そして輝く笑顔には誰もが心を奪われる。私も、例外ではなく。
愛想のいい性格じゃない私だが、それでも彼女には『甘い』という自覚がある。
そんなふうに、自然と善意を向けたくなってしまう、不思議な程に魅力をもった女の子。

だけど、最初からそうだったわけじゃない。

今は3人とも全く違う。もちろん姉妹の2人もとても可愛い女の子だけど、『単純に』可愛い、の域を出ない。
やっぱり彼女は『特別』。
だけど最初は3人とも良く似ていた(そもそも『違い』なんて生まれないはずの歳だった)。
そのほとんど差が無かった最初から、弟は彼女を選び、彼女が思うまま伸びられる土壌をせっせと耕し続けてきた。
………………最初からだったと思う。ちょっと自信が無い。
いつが『最初』になるのかわからないくらい自然に、いつの間にかあの子と一緒にいたから。

そう。

いつの間にか綺麗な石を手にしていた小さな弟。
キラキラした目で1人、『宝石を見つけた』と大はしゃぎして。呆れるくらい大事に磨き続けて。
結局のところ、その審美眼は見事なものだった。バカな弟だが、そこだけは認めざるを得ない。

「……何で俺、姉ちゃんと一緒に風呂入ってるんだろう……。
はぁ~~……」
「いい加減怒るわよ」

グイッ ザブッ

「がぼがぼっ!!」バシャバシャ
「そこで反省しときなさい」

そんなわけで、何で頑張るのかも、何でそこまで頑張るのかも、バカみたいにわかりやすいこの弟。
ただ1つわからないところがあるとすれば、どこまで頑張るのか、って事だ。

「がぼ…がぼぼ……」バシャ...

彼女に好きになってもらいたいから?そんなのとっくの昔にカンストしてる。
彼女をまだまだ綺麗に磨きたいから?そりゃ相手は底なしだけど、あんたはそろそろ息切れしてるじゃない。
背伸びしてまでやる事じゃないでしょうに。

「……ごぼ……」

……いや、違うか。背伸びしてでもやる事なのか。
とっくに彼女は誰が見たって綺麗だけど、それくらいはっきり幸せなのだけど、あんたはまだまだ幸せにし足りないってわけだ。
やれやれ、わがままなヤツねぇ……。

「ま、薄っぺらとは言え、プライドがあるってんなら、納得いくまで頑張ってみなさいな。
……だけどそんなくだんない理由であの子を泣かせたら、容赦しないからね」
「…………………………」

ヤバ。



<おわり>