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~ 約束(ひとは視点) ~

“ひとは! あんた私にバレンタインチョコ寄越しなさいよ!”

<トントントン>

2月13日。今はみんなが寝静まった夜。

<トントントン>

板チョコを細かく包丁で切り、湯煎で溶け易いようにする。

ひとは「はぁー」

大きく嘆息する私。

みっちゃんに言われてチョコレートを作るなんて馬鹿みたいだ。
どうして私が……それに私にチョコレートを作らせる理由が酷いのだ。
女が男にチョコレートを上げるイベントって言うことが気に食わないらしい。
用は自分が食べたいのにもらえないって言うのが嫌ってことだ。
そんなの知ったことじゃない。

…………。

ひとは「はぁー」

もう一度、大きく嘆息する。

知ったことじゃない……はずなのに、今作ってるのは紛れもないみっちゃん用のチョコレート……。
実際のところ、言われたときに断ったのだから作る必要なんて無いし、作らないつもりだった。
でも、断ったときに文句を言いながらも一瞬見せた悲しそうな表情が目に焼きついてしまって……。
私にチョコレートをもらえない事じゃなく、食べられないことに悲しんだ可能性もあるけど。
って言うか後者に決まってる! 何を期待……い、いや、期待なんて最初からしてない!
そんなことに期待するなんて無意味だし不必要だ!

頭を横に振り、意味不明な考えを否定している時、湯煎用のお湯が沸いた。
それと同時に思考が中断されチョコレートを作っている現実に戻る。

細かく刻んだチョコレートをボウルに入れ湯煎を始める。

ひとは「はぁー」

……さっきから何度目になるだろうか?
そんな自分に呆れて心の中でまた嘆息していた。

私は解けていくチョコレートを見ながら、また、なんとなしに考え事をする。
こんなことしてるからみっちゃんは太るんだ。……間食が多いのも原因だと思うけど。
甘やかしすぎなのだろう。いつも口では憎まれ口をたたいてはいるが、実際夕飯抜きとか滅多なことじゃしないし。
もっと厳しくしないといけないのかも知れない。このチョコレートだって――

――いや、そんなことよりも考えなければいけない事があるんだ。
明日、絶対悩む。確実に悩む。今考えたところで結局は悩むだろうけど。
作っているチョコレート菓子を見ながら呟く。

ひとは「コレ、どうやって渡せばいいんだろう……」

そう言ってまた嘆息する私だった。

~ 学校(みつば視点) ~

みつば「ふー…何とか…間に合った…わね! ふたばが…いなかったら…危なかったわ」

私は息を切らしながら、授業開始の5分前に昇降口にたどりついたことに安堵し呟く。

ひとは「ふたばがいると…事故率は…上がるけどね」

同じく息を切らしているひとは。文句を言いつつ、自分の腕に出来た擦り傷から出た血をポケットティッシュで拭き取っている。
さっきのひとはの意見には正直、同意できる。でも、今回は遅刻しそうになった原因がわかっている。
呼吸も整ってきたので、唾を飲み込んでから言葉を出す。
みつば「っていうか、あんたが寝坊したからこんな事になってるのよ! あんたもちょっとは反省しなさいよ!」

言ったとおり、珍しくひとはが寝坊して……結果、皆起きれずに急いで学校に走ってきたと言うわけ。
もちろん朝御飯も食べれずに出てきたから私の機嫌は最悪――――腹の虫の機嫌も悪いのは言うまでもないわね――――なのだ。
だからと言って、ひとはだって好きで寝坊したわけじゃないし、怪我している相手に言うことでもないのだけど……。

ひとははそんな私に一瞬怒ったような表情と悲しんだような表情が混ざったような微妙な顔を向けた。

その表情を見て、先ほど言った台詞が言い過ぎた様な気がして後悔していると、ひとはは呆れた表情に変えて嘆息した後言葉を続けた。

ひとは「……みっちゃんも足から血が出てるよ」

そう言われ足を見ると確かに少し膝から血が出ていた。
ふたば「二人ともごめんッス! 小生が近道のために生垣を突き抜けたからいけなかったんッス!」

そう、ふたばがいることで間に合った代償として、どこの家か分からないが生垣を貫通してきたのだ。
私とひとはは手を繋がれ引っ張られていたので共に擦り傷を負ったというわけだ。
漫画みたいな話だが事実。正直フィクションであってほしかったんだけど。

ひとは「うん、擦り傷で済んで奇跡だよ」

私とひとはは擦り傷だが、ふたばが無傷なのは納得いかない。まったく不公平な世の中よ!
とりあえず教室に行かないと遅刻になってしまう。それだと“生垣を貫通”損なので、私は血を拭かず校舎に足を踏み入れたのだが――

栗山「っ! 怪我人! 『ヒーリング・ローリング』!」

――その選択は間違いであること知らせる、後ろからの栗山っちの声。
時既に遅し……授業間に合わないだろう。
そう諦めていたのだけど――

宮下「お、三女じゃな、っ!」

――突然の鬱陶しい介入により救われた。

私めがけて飛んできていた包帯は宮下の顔、腕、足――全身に巻きつき一瞬にして身動きを封じた。

宮下「むぅ! ううぅ~~!」

包帯で身動きを取れなくなった宮下が芋虫の如く暴れている。
口にも巻きついているため、うまく声も出せないようだ。
それが、少し前の私の未来だった状況だ……鳥肌ものだ。
栗山「外した!?」

っ!

安心してたけどよく考えたら、まだ私は怪我人だった。
追撃が私に来るかと思ったが、いつの間にかひとはが音も無く栗山先生に近づいていた。
そして廊下に放置されていた箒の柄を使いメガネを頭の上にずらした。

ひとは「大丈夫ですよ先生。命中してます。早く保健室へ」

栗山「え? あ、そうね急いで保健室で治療しないと!」

そういうと、宮下を引きずり保健室があるほうに走っていった。

流石はひとは……。
助けて貰えたことへの感謝と同時に、さっきひとはに酷い言葉を掛けてしまったことに罪悪感を感じる。

ひとは「……宮ローリングさん。たまには鬱陶しさが役に立つね」

みつば「せめて人間らしい苗字で呼んであげなさいよ」

前言撤回。
一応感謝はしておくが罪悪感を感じるほどこいつはいい奴じゃない!
教室に入ると微かだが美味しそうな香りがすることに気が付いた。

嗅覚に全身系を集中させる。……これは、甘い……香り……!
チョコレートの香りだ!

でもなんでチョコレート?

ひとは「みっちゃん、どうかした?」

教室を入ったところで立ち止まっている私を気にしたのかひとはが話しかけてくる。

みつば「何だかチョコレートの香りがするのよ」

私の感じた事実を言ってやると、ひとははスンスンと鼻で空気を吸い込む。

ひとは「……全然そんな香りしないんだけど……」

みつば「するわよ! 私をなめないでね!」

胸を張って言ってやる。

ひとは「舐めると塩キャラメルの味がするらしいね」

そういうと“すぃ~”と音も無く自分の席へ向かっていく。
悔しいが、否定できないので反論できない。とりあえず、適当な悪態をつくことにした。
みつば「ぱっとお手軽に死ね!」<キーンコーンカーン……>

私の台詞とチャイムが重なり、同時に背後の教室の扉が開く。

矢部っち「はい、皆席についてー。今日はバレンタインだけどチョコ貰った男子は廊下に立たせるからそのつもりでね」

あ!

なるほど、今日は2月14日。バレンタインデーだった。通りでチョコレートの香りがするわけだ。

…………。

結局ひとはは私にチョコを作ってくれなかった見たいね。
ま、まぁ別にいいんだけど。

もともと期待薄で頼んだことだし、断られたし作ってくれるわけ無いんだけど。

朝御飯が食べれなかったことに加え、この香りでお腹が空いて仕方が無い。
次の休み時間にでも杉崎が持ってきているであろう高級チョコでも奪おう。
ホワイトデー何か返さないといけないのは少し面倒だが背に腹はかえれない。