「じゃあね~しんちゃん!また明日ね~!」

「おぅ、じゃあな」

家の前で幼なじみと別れ、信也はその後ろ姿を寂しそうに見送った。
もう何年も続く、当たり前の光景。今までは何とも思わなかった、今までは…。

玄関を開けると、「ただいま…」と独り言のように呟き、
家の中を見回して、「誰もいないのかよ…」と本当に独り言を呟く。
でも、それは好都合だった。この鬱々とした気分を晴らすのには。

自分の部屋に入り、万が一に備えて鍵をかけると、鞄を放り投げ、上着とズボンを脱いでベッドに横たわる。
急がなければならない、今日の新鮮な思い出が、色褪せてしまう前に。
何年も前から続いている。明日も明後日もこれからも、飽きるほど毎日会う。
でも今はその全てが、一瞬一瞬が、惜しみない、物足りない、もっともっと欲しい。

目をつむって、静かに息を整える。
今日は何を見たっけかな?最後に見たのは後ろ姿だ。
もう少し記憶の時間を戻し、一日の始まりから追ってみる。
鮮明な映像が浮かび、右手がゆっくり下へ伸びる。僅かな罪悪感を感じつつ。
朝におはよう!と声をかけられた。
振り向くと満面の笑顔と、、、上半身に目が行った。

「はぁ・・・はぁ・・・」

談笑しながら並んで歩く。
彼女が少し追い抜いたとき、下半身に目が行った。

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

授業中に振り向いた。
彼女が教えを乞う間、自分はその谷間に釘付けだった。

「はっ・・・はっ・・・はっ・・・はっ・・・」

休み時間にサッカーをした。
ドリブルする彼女の尻に気をとられ、相手に点を奪われた。

「はぁ…はぁ…はっ…はっ…はぁ…はぁ…はっ…はっ…」

そして一日が終わり、彼女はじゃあねと言った。
誰にも見せてくれるけど、自分にだけ特別な意味を持つ、太陽のような笑顔。

「ハァッ…ハァッ…ハッ…ハッ…うっ、ふ…ふたばっ…~~ッ!」
熱い飛沫がティッシュを貫き、下半身に溢れかえったが、
信也はただ押し寄せる快楽を惜しみなく貪り、それをこぼれるに任せた。

恍惚とした意識が徐々に冷め、彼女の顔が消えると、いつもの現実に戻る。
そうすると虚しさが胸に去来し、それを無視して淡々と処理をする。
でも、大量にあふれたそれを見ると、全部彼女のために出したのだと、
それが自分の彼女への思いの強さなのだと、妙な満足感すら…

「…いや、くそっ…何考えてんだ俺は、変態かよ…」

純粋な彼女を穢したようで、少しだけ心が痛む。

しかし、この邪な行為の裏にある、その衝動に駆り立てる自分の気持ち。
誰にも振り向かないで欲しい、自分だけを見ていて欲しい。
そして、自分にとって彼女がそうであるように、彼女にとっても自分が特別であって欲しい。
彼女のためなら全てに応えてあげられる。彼女のためなら全てを捧げてあげられる。
自分のその気持ちだけは、純粋なものなのだ。

「…こうやって気付く恋心もあるのかな…?」と信也が折り合いをつけるのは、もう少し後の話。



完。

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最終更新:2011年06月13日 23:46