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友達たくさんいるし!


「ふぁ~…。
ひとはちゃん、おはよう…」
「おはようございます」

…このやりとりにも慣れちゃったなぁ……。

日曜日の早朝。
寝ているボクの足元、ベッドの脇にちょこんと座ってる幼い教え子へ、朝1番の挨拶をする。
そしてその子が、視線を手の上の小さな同居人に固定したまま、興味なさそうに返事をする。
もう1年近く繰り返してきた、ボクの日常。

……ほんとは良くないことなんだよな…と思いつつ、注意できない弱いボク…。
早くあのカセットテープを返してもらわないと……!

……………………。

もうすでに、取り返しのつかないところまで来てるような気もするけど……。

よぎった不吉な考えを追い出すべく、かゆくもない頭をボリボリ掻きながら身体を起こす。と、

「寒っ…!」

途端に容赦なく襲い掛かってきた冬の空気から身を守るため、あわてて自分の両肩を抱く。
ひぃ~…エアコンのリモコン、昨日どこに片付けたっけ?
1月の第2週、3連休の初日を丸々使って綺麗にした部屋を見回すと、リモコンはすぐテーブルの上に見つかった。
いやぁ、頑張って掃除した甲斐がさっそくあったなぁ。

ピッ

スイッチを押すとすぐに、希望通りに温風が送り出されてきた。これで後ちょっとの辛抱だ。
…にしても、こんなに寒かったらさすがのひとはちゃんもつらいだろうに。

「ひとはちゃん、寒かったら遠慮なく暖房使ってね。風邪なんて引いたら大変なんだから」
「………やだチクビ(※ハムスター)、くすぐったいってば」

やっぱり無視か………。
ボクの心配なんてどこ吹く風で、変わらず手の上のチクビと遊び続ける教え子の姿を見ていたら、不意に目に熱いものがこみ上げてきた。
いつもの事とはいえ、傷つくなぁ……。
まぁ子供が遊びに集中してるときに声をかけても、反応が無いのは当たり前なんだろうけどさ。

「チー、チチチ」
「…………」

微笑みながら指でハムスターの鼻をくすぐってる少女の姿は、まるで1枚の絵画のようで、なんとなくそのまま見入ってしまう。
っていうかこの子はちょっと現実離れしてるから、余計に『画』っぽくなってる気がする。
今日だってそうだけど、ひとはちゃんは滅多な事じゃ寒がりも暑がりもしない(もちろん服装は季節に合わせてかわるけど)。
性格も基本的には静かだし、姿も小さくて……ちょっと恐いくらいだから、
なんだかひとり現実世界と壁を隔てたところに居るみたいだ……。
なんてぼぅっと考えてると、不意にひとはちゃんが顔を上げた。

「先生、今日はちょっとだけ部屋の散らかりがマシなってますね。
ほんのちょっとだけですけど。
あの汚さでは、ゴミで窒息死してしまうことにやっと危機感を覚えましたか?」

そしてボクに向けられる、無表情と冷たく響く声。
……百分の一でもいいから、チクビに向ける優しさをこっちにもくれないかなぁ……。

「…これでも頑張って掃除したんだけどね」
「空き箱を捨てただけで『掃除した』なんて、先生の常識を疑います。
まぁこれからガチレンを視聴するので、ほんのちょっとでもマシな方が私も助かりますけど」
「…今日も6時前には来て、チクビとは十分遊んだんだろうし、家に帰って見てくれないかな?」
「嫌です。
家ではみっちゃんとふたばがうるさいので。
ここは精神的苦痛を受けるほど汚いですが、
『ガチレンを落ち着いて見れる』という一点についてのみは評価していますよ」
「…それはどうも……。
………そこまで言うなら、たまには掃除を手伝って欲しいな~…とか思ってみたり……」
「部屋中の黒いアレがいなくなるくらい綺麗にした後なら、少しは手伝ってあげてもいいです」
「……ありがとう」


「やっぱり15体合体ジェネシックガチガイガーは最強だった…!」むふー
「うん!合体シーンもかっこいいしね!
初合体のときなんてスロー再生で10回以上見直しちゃった!」
「あれはもはや芸術です。
そうそう、芸術といえばスーパーレッドの……」

ふたりでベッドに腰かけ今日のガチレンについて熱く語り合う、週に1度の楽しい時間。
なんだかんだあるけど、こうやってリアルタイムで感動を分かち合える仲間がいるのは嬉しいな。
今の職場は…この町はもちろん良い所だけど、まだまだ馴染んでない身としちゃ、
こういう時間が持てるのはありがたい……っと、いかんいかん。これじゃ公私混同だぞ。しっかりしろ。

……あぁ…でも、

「……で、やっぱり私としてはガチDDTが1番だと思うんです」むふー!
こうしてる時は本当に楽しそうに笑ってくれるから、ますます弱るんだよなぁ…。

いつもは気後れさせられるお人形みたいな顔も、陶器みたいな肌も、塗れたような黒髪も、
こうやって歳相応の笑顔に彩られると本当に可愛いくて、輝くほどに綺麗で、つい色々と後回しになっちゃう(理由は他にもあるけど)。
………まあここまで来たんだし、もう少しくらいはこのままで良いか。

「そうだね。
予告だとさらに新装備も出るみたいだったし、来週も楽しみだね~…」

……とは言え、せっかくの休日に早くから起こされ続けるのはちょっと……。
早起きが良い事なのはわかってるけど、たまにはゆっくり寝かせといて欲しいよ……。
ふあぁ~~…ひと段落したら…ねむ……。

「……さて、それじゃ…」
「ああ、うん。連休明けに学校でね」
やれやれ…今日はこれで帰ってくれるか……。
まだ時間あるし、二度寝しようかな。
などと考えるボク視線の先で、ひとはちゃんが腰を浮かせ、

「なぜ部屋をマシにしたのか、理由を聞いておきましょうか」

こちらに向き直って、声と目で詰問してきた。

「…いや、なんで……?」
「普段と違う行動をとるということは、何かしらの犯罪計画の可能性が考えられるので。
場合によってはあのテープを持って、通報しに行かなくてはなりません」

ナチュラルに脅してくるな…。

「……今日、大学時代の友達とこっちで新年会をすることになっててね。
駅前で飲むんだけど、二次会にボクの部屋に来ることになるかも知れない…っていうか、
多分なると思うから、片付けたんだ」
「そんなに親しい友達がいたんですね。驚きです」
「当たり前だよ!
ていうかキミに言われたくないよ!!」
「まあどうせ男の人ばっかりなんでしょうけど。
世の中は成人式の3連休で明るいというのに、本当に寂しい人生ですね。
しかもべろべろに酔わされた挙句、キャバクラの支払いを全部押し付けられ、
足りない分を身ぐるみ剥がされて泣いて帰ってくるなんて、まるで先生の今年の運勢を暗示しているかのようですね」
「ボクも怒るときは怒るからね?」
「でも、男の人ばっかりなんでしょう?」
「……まあ」
「やっぱりそんなところでしょうね」
そしていつものように『むふぅ』と、満足そうな顔で勝ち誇られてしまう。

はぁ~…今日もこっちの負けか。情けない。どうもボクはこの子に弱いなぁ。
相性が悪いというかなんというか……。

[ガッチガチに決めるぜ~]

「あっ、電話だ…っと、ちょうど友達からだ。
…やあ、やっさん。
…いや、起きてた起きてた。
…ああそうだよ、戦隊モノを見てたんだよ。いいだろ、ほっといて!」

「……………………」

「…うん。今日の店はこっちの駅前で予約してるから。ボク入れて3人でいいんだろ?
…へ?1人追加?いいけど…誰が来るの?
…ええっ!扇さんが!?
…いや…彼女、実家のある広島の方に赴任したんじゃなかったっけ?」

「……………………」ピクリ

「…へー、そりゃいいね。扇さんもホテルは駅前で取るの?
…あー…確かに、彼女ならボクの部屋を見に来そうだなぁ……。
…了解。真面目に片付けとくよ。じゃ」

ピッ

「奇跡的に女性も来るようですね」
「ん?そうだね……女性なんだけどね……」
「先生のテンションが低いということは、おっぱいの小さい人なんですね」
「いったいボクをどんな人間だと思ってるの!!?そんなことで言いよどんだんじゃ無いよ!!」
「じゃあ、どうしてなんですか?」
「……その…ちょっとエネルギーが有り過ぎる人というか…酒癖が悪いというか…。
昔、振り回された思い出が…」
「部屋に押しかけてきたり?」
「何度かね…。
戦隊モノ好きのこととか、結構言われたなぁ。
今日はガチレンフィギュアも片付けておくか」
「……部屋に泊まっていったり?」
「…1度だけ、ね。
あの時はベッドに吐かれてひどい目にあったよ……」
「……………ふーん、そうですか」

…なんだか答えるたびに、表情がどんどん消えていってる気が……。

「素敵なお友達が来てくれることになって、良かったですね。
……どうやら珍しく本当に忙しいみたいですから、帰ります」
言葉のとおり、今度こそベッドから降り立ち、出口へと向かう。無音で。

ずっと気になってるんだけど、この『スイー』って感じで滑るように歩くのって、どうやってるんだろう?
音がまったく立ってなくて挙動もすごく小さいのに、結構速いから不思議でしょうがない……おや、玄関前で止まった。

「……ちなみに、駅前には何時集合なんですか?」
銀鈴を鳴らすような声は、けれど小さく、あんまりにも透き通り過ぎていて、持ち主の気持ちを推し量るのにはいつも苦労させられる。
今は表情を読み取る事もできないから余計に。
だって背中を向けられたままだもんなぁ。

……お話しするときは相手を見ようよ。

「…6時だよ。
まあ、それまでにもうちょっと部屋を掃除しておくよ。
確かに言われたとおり、まだまだ汚いわけだし」
「………頑張ってください」

バタム

……?
ひとはちゃんが応援してくれるなんて珍しいな。それに…なんていうか、怒ってる…って感じでもないし……?
…学校で聞けばいいか。今は頑張って掃除だ!

まずはフィギュアを箱に仕舞って……。


「よし、そこそこ綺麗になったな。
そろそろ行くか!」

バタム ガチャガチャ タンタンタン




スイー ガチャガチャ バタム


「うぃ~…もうダメぇ~~」

10時を回ったところで一次会はお開きとなり、予定通りに二次会会場へ移動と相成った。
ボクは男友達2人に両脇を支えられ、『運搬』してもらってる状態だけど……。

「ったく、さとやんは相変らず酒弱ぇなぁ。
オラっ、部屋に着いたぞ!鍵出せ鍵!」
「…うい。
え~~っと、どこだっけ…?
…あ、汚い部屋だけどびっくりしないでね」ゴソゴソ
「別に期待してねぇって」
「おうおう、遂に新・矢部君邸のベールが解かれますなぁ!
やっぱり昔みたいに、特撮のビデオとか人形が飾ってあるのかな~?」
「ははっ!そうそう!」
「いやいや、大穴で彼女が掃除とかして待っててくれてたりして!
『智さんお帰りなさい。お夜食もできてますよ』みたいな!」
「ないない!」 「それは絶対ないな~!」

「「「わははははは」」」

うう…みんなひどいや……。
……でも懐かしいな、この感じ…。
おっと、鍵、あったあった。

ガチャガチャ

「開いたよ~」
「お、サンキュ」 「お邪魔しまっす」 「お邪魔するね~」

電気電気…。

パチッ

………!!?

「うわっ、すっげー綺麗にしてんじゃん!
ちっとは片付けてると思ってたけど、予想のはるか上を行く綺麗さ!!」
「ふえ~……こりゃすごいねぇ~。
なんか、磨き上げられてまぶしいくらいだよ」
「なんだなんだ~。
扇が来るから気合入れたのか~?」
「えっ!?いや、その…あはは……。
いや~、普段からこんなもんだって~」
ええええ??なんでこんなに綺麗になってるの????

「嘘つけって!お前が普段からこんなに掃除してるわけねぇだろ!!
…なにお前、本当に彼女が…?」
「いやいやいやいや!何言ってるんだよ!ボクにそんな甲斐甲斐しい彼女がつくれるわけ無いでしょ!!」
…自分で言ってて悲しいや……。

「お?
でもさとやんらしく、なんとかレンジャーの人形も飾ってるじゃん」
「ええ!?」
確かに片付けたのに!?

「あら?このお皿、フタ…わっ!美味しそう!!
ひょっとして…これも!こっちもだ!!
すっごい豪華!!」
「はあ!?」
ちょっ、何それ!!?

「マジで!?うおっ、すげぇ!
どれどれ……おお、すっげーうめぇ!
こりゃほんと、ツマミにするには豪華過ぎだな~」
「おいおいさとやん~、白状しろよ~。
これ、明らかに手作りだよな~~?」
「へえ!?
そっ…それは……あれだよ、料理が…料理に…っ!
そう!こっちに来てから、料理に目覚めちゃって!!いまどき自炊くらいできないとね~!
あははは……」
「ん…床に……?
髪の毛…長さからして矢部君のじゃないよね」

ぶぅ!!

「むむ…この細さ、この艶!明らかに女の子のだね~!
……にしても、恐いくらいに綺麗な髪だな…」
「おっ、ベッドにもおんなじような髪が落ちてたぜ?
……ベッド…ってことは!」
「さぁ証拠は全てあがってるんだ!白状せい!」
「観念しなよ、矢部くん!!」
滴りそうなほどの艶を湛えた黒髪と一緒に弾劾の言葉を突きつけられて、あれよあれよという間にボクは壁際まで追い詰められてしまう。

ていうか、なんでみんなそんなに楽しそうなの!?目がめちゃくちゃキラキラしてるし!!酔ってるでしょ!?
当たり前だけど!!

「ええええっと、それはどういうことかと言いますとだね…!」

………マズイ。
犯人はわかりすぎるくらいわかってるけど、バレたら全部終わっちゃう!!
あぁでも、適当な言い訳が思いつかないよ~!!

「あ~そのぅ…彼女、的な人がボクにもやっとできて…っていう感じもあったりとか…」
「おお!?あのさとやんに彼女が!!
……いや、そりゃマジでめでたいよ。ほんと、おめでとう。
今度ちゃんと紹介してくれよ」
「むしろオレに譲って。これマジで美味いわ。
こんな料理上手な彼女なんて、うらやましすぎ!」
「しかもこの髪。
あたしのプロファイリングからすると、かなりの美人と見たね!
手入れに気を使ってるんだろうけど、この艶はやっぱり本人の髪質が良いんだよ。
経験的に、髪の綺麗な娘って美人が多いんだよね~」
「そ…そうだね。真っ黒な髪が…それに笑顔が綺麗な子、だよ…。
アハハハ」
「なんで声が上ずってんだ?
…まぁいいや。
とにかくさぁ、ほんとにちゃんと紹介してくれって。
友達としてさとやんのこと、お願いしときたいしよ!」
「あ…ああ、そのうち…ね。
もちろんボクも紹介したいんだけど、ちょっと人見知りする子でさ。
だからもう少し待っててもらえると嬉しいんだよな~…。
他のみんなにも、まだ内緒にしといて欲しいというか……。
時期が来るまで、頼む!!」
パァン!と両手を合わせて拝みこむ。こんな話、下手に拡散されたら収集つかなくなっちゃう。
お願いします、神様仏様同級生様~~!!

「……いいけどさ。
さとやんがそう言うなら、事情あんだろし。
…しっかし美人で、家事万能で、趣味に理解がある上、『ボクにだけ心を開いてる』ってか~?
どんだけだよ!
いったいどこでそんなスペック高い娘と出会ったんだ?
言い方からすると年下みたいだけど」

どっきぃ!

「い…いやぁ~、なんていうか…職場での出会いがあったような無かったような…。
あは…あはは…」
「職場って…鴨橋小学校だろ?
でも年下……ははぁ~ん、さてはお前、ついに独りに耐え切れなくなって、教え子を連れ込んだな~?」

どっっっっきぃぃぃぃ!!

「アハハハハハ、ナニイッテルンダヨ。ソンナコトアルワケナイダロ」
「……………」
「アハ…ハハハ……」


ごくり………。


「ぷっ…はははっ!悪ぃ悪ぃ!ネタだネタ!
用務とか教材業者の娘だろ?わぁ~ってるって!!」
「お前そりゃさすがにキツいぜ~!
だって小学生だぜ?即通報レベルじゃん!
いくら何でもさとやんに失礼っしょ!」
「あはは、そうだよ!
真面目で、それ以上に巨乳フェチな矢部君に、そんなスキャンダルはありえないから!」

「「「あははははっ!!」」」

「アハハハハハ~~……はあぁ~~~…」


……なんとかごまかせたか……。


ワイワイ


「でも、矢部君に彼女か…」
「そっ…そうなんだよ~」
その話題にはもう触れて欲しくないんだけどなぁ…。

ベッドに座る扇さんをどぎまぎしながら床から見上げる。と、心臓が別の意味で鼓動を早めた。
アルコールのせいだろう、ほんのり紅潮した頬に浮かぶ微笑みは昔よりずっと艶やかで…だけどその目は寂しそうに伏せられていて、
まるで………おいおい、自意識過剰だぞボク。

「やっぱり寂しいな………」

「え…?」
ひょ…ひょっとして扇さん、ほんとに実はボクのことを……!?

「もうあんまり矢部君で遊べないや」
がくっ。

「ちょっと…遊ぶって……」
「ん?ああ、すねるなすねるな!悪い意味じゃないんだから!
でもほんと、彼女さんが恐いから今後は付き合い方に気を付けよっと!」
「恐い、か……」
確かにあのオーラとかは……。

「うん。
矢部君も気をつけなよ~。こうやって自分の痕跡をはっきり残して行くタイプは、か~な~り嫉妬深いからね。
冗談じゃなくて、対応間違えるとサクッと刺されて終わるよ?」
「刺っ……!
もっ…もぉ~、変な脅し方しないでよ~。
痕跡って…髪の毛はたまたま落ちちゃってたんだってば」

……でも。

確かにひとはちゃんには、嫉妬深いところがあるよなぁ…。
前にチクビのことでふたばちゃんとケンカにしそうになってたし…。
矛先がボクに向くことは絶対ないけど、あの子の将来のためにちょっと注意しといてあげたほうがいいかな。

「さあ、今日はさとやんに彼女ができた記念だ!
朝まで飲もうぜー!!」
「「お~~!」」
「うへぇ、お手柔らかに…」


――――――――――

キーンコーンカーンコーン

朝の予鈴が鳴り終わる…前に、急いで職員室へと身体を滑り込ませる。あわわっ!

ふぅ~…間に合った……。
けど…いたた……。学校のチャイムでさえ、まだちょっと頭に響くや……。

「結局おとといは完徹で飲まされたもんなぁ……」
おかげで昨日は一日中寝込んで、何もできなかったよ…。
今朝も起きるのがかなり辛かったし。
ひとはちゃんがタンスの中まで整頓してくれてたから、朝の準備に時間をかけずに済んで助かったよ。

「ふぅ……」
なんとか職員室の机に辿り着き、ふらふらの我が身を預ける。
うぅ~…まだちょっと気持ち悪い……。

「二日酔いのまま学校に来るなんて、大した生活態度ですね」

情けなく机に突っ伏していると、スチール天板を通して金管楽器を思わせる物悲しい声音がボクの耳朶を震わせた。
鳴っている場所はもちろんボクの足元、机の下だ(え?そりゃそうでしょ?ボク何か変なこと言ってる?)。

「面目ない……。
教室に行くまでにはしゃんとするよ。
…というかひとはちゃん。休み明けの朝はボクも色々準備とかあるから、教室で待ってて欲しいんだけど……」
「先生に指図される筋合いはありません」
「あるよ!
……それと、こないだボクの部屋の掃除とかしたでしょ?」
「しましたよ」
「…なんで?」
「せっかく部屋を綺麗にしてもらったんですから、まず言うべきことがあるんじゃ無いですか?」
「あっと、そうだった。ありがとうございます。
…だけど何で急に?」
「たまには手伝って欲しいって言ったのは、先生じゃないですか。
あの日の夕方はたまたま時間が空いたので、ちょっと気分転換も兼ねてしてあげたんですよ」
「…確かに言ったし、ありがたかったけど……。
来客がある事も言ってたんだから、電話とかで教えておいてくれたらもっと嬉しかったなぁ」
「そんなの私の知ったことじゃありません」
「……料理は?」
「最近いろいろ手の込んだものに挑戦してまして。
さすがにちょっと自信が無かったので、実験台になってもらおうかと」
「実験台って!ひどい!!
あっ…ううん。でもとっても美味しかったよ。来たみんなもすごく喜んでくれたし。
ありがとう」
「そこまで感謝されるということは、力を入れ過ぎましたね。
無駄な労力を使いました」

………やっぱりいたずらとか気まぐれか。
とは言え、掃除して美味しい料理を用意してくれたのはほんとのことなんだし、もっとちゃんとお礼を言わなきゃな。

「よいしょ」
いつものように膝を抱えて丸くなってる生徒と目をあわせるため、椅子を引いてかがみこむ。

ネコみたいだ。

薄暗い中に浮かんだ煌く瞳に誘われて、その頭へと思わず手を伸ばし…かけて、やめる。
この子は子ども扱いされるのが嫌いだもんな。
だから今日も、言葉ではっきりと伝えよう。

「本当にありがとう、ひとはちゃん」

「…………別に」
ありゃりゃ、今日も目を逸らされちゃった。残念。
もっとあの綺麗な輝きを見ていたかったのに。

「…まあ、あの部屋は私も使ってますから。
せっかくあれだけ綺麗にしてあげたんです。せめて今月くらいは掃除に気を使ってください」
だけど聞こえた音色はちょっと嬉しそうで、花びらみたいな唇にはうっすら笑みが浮かんでて。

「うん!!
ひとはちゃんが今度来たときに、気持ちよくガチレンを見てもらえるよう頑張るよ!」

…ボクはバカだ。
ひとはちゃんがボクのために頑張ってくれたっていうのに、いたずらだなんて……。
そうだよ!この子は姉妹想いで友達想いの、優しい良い子なんだから!

「あぁ、それと」
「なにかな?」

にゅ~っと机の下から伸びてきた白い手には…紙切れ?

「コレ、食材のレシートです。調理費は2割増しでいいですよ。
あと…いえ。趣味の悪いエロ本とDVDを全て処分してあげた分は、サービスにしておいてあげましょう。
泣いて喜んでください」
「やっぱり恐ろしい子だよ!!」



<おわり>