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「温まりましたよ」
「ありがとう、ひとはちゃん」

お行儀良く正座している先生の前に、温めなおした晩御飯を並べていく。
今日のメニューはカレイの煮付け、菜の花と卵の炒め物、小松菜のおひたし。
先生は普段コンビニのお弁当やカップ麺ばっかりだから、たくさん緑のお野菜をとってもらわなくっちゃ。

「わぁ…今日も美味しそう!」
自分の作った料理に、好きな人が声を上げて喜んでくれる。
女の子に生まれて…料理が得意でよかったって、心の底からそう想う。
気持ちが浮かび上がろうとするのを押さえるのが大変だよ。

「はいはい。
たまにはもうちょっと気の利いたお世辞を言ってくれてもいいですよ。
そんなのでちゃんと子供たちに国語を教えられてるんですか?……はい、ご飯」
「う……。
え~っと……おお、これは……国産のカレイだね」
左手でお茶碗を受け取り、右手で頭を掻きながら、眉を寄せた先生がトンチンカンな賛辞を口にする。
むふう、可愛い。ていうか可愛いすぎて真っ直ぐ見れないよ。

「ああっ、そんな!顔を背けなくたっていいじゃない!」
「………せめてため息くらいは隠れてついてあげようって、気を使ってるんですけど」
「好きなだけそっちを向いててね……」
私の頭の後ろで、先生の声がしょぼんと縮こまる。まるでちっちゃな子供みたい。
むふ……いちいち可愛いんだから。
今すぐ振り返って、先生の姿を目に焼き付けたい欲望に駆られる……けど、ガマンガマン。
この熱さからして、きっと私の顔はすっごく赤くなっちゃってる。ちょっと冷まさなきゃダメだよ。
そう自分に言い聞かせて、後ろ髪引かれるのを振り払い、私はもう一度キッチンへと向かう。

「先生、お味噌汁はなんにします?豆腐とワカメとアサリがありますけど」
「ん~~…ワカメがいいな」
「わかりました」

シュンシュン鳴ってるヤカンの火を止めて、引き出しからインスタントのお味噌汁を取り出す。
ホントはこれも作ってあげたいけど、1杯分だけっていうのは無理だし、遅くなったときの温めなおす手間なんかを考えて、
木曜日は市販のもので我慢してもらってるのだ。
日曜みたいに一緒食べて、後片付けまでできる余裕があればな……。
やっぱりこう…『お味噌汁を作ってあげる』っていうのは、特別な関係を象徴する行為なわけだし。むふぅ。
などと、放っておくととめどなく湧き上がってくる想いにフタをして、努めて無表情に一式を運び、テーブルを挟んで先生の正面に座る。
……髪がカーペットに触れないよう、正座で。
めんどくさいなぁ。

「あっ、味噌汁くらい自分で作るよ!」
「ヤケドされて余計な手間を増やされると面倒ですから。
……ほらほら、せっかく温めなおしてあげたんです。冷めないうちに早く食べてください」
「……ありがとう。
いただきます!」
「召し上がれ」
女の子に生まれてよかった。

「むぐむぐ……美味しい!」
「ま、旬のものですし」
「そうだね、いつも季節のものを入れてくれてありがとう!
いやぁ~、ボクひとりだと年がら年中おんなじようなご飯になっちゃうから、こういうのが1番嬉しいよ」
「せっかく四つも季節があるんだから、1年中同じなんてもったいないですよ。
特に今の時期、菜の花なんかは安くて美味しくて栄養があって、いたせりつくせりなんですから。
今日のが少し余ってますから、土曜日にでも使ってください。油とお塩でちょと炒めるだけで十分ですよ」
「うん、わかった。
それにしても、最初に菜の花を食べてみようって思った人はすごいよね」
「よほど食い意地が張ってたんでしょうね。みっちゃん並に」
「あはははっ!そうかも!!
あんなに綺麗な花なのにね!」
「そうですね。でもさすがに食用と観賞用のものは、種類が違いそうですけど。
そういえば河川敷のところの花畑、菜の花が満開で今すごく綺麗ですよ」
「あっ、ボクも見た見た!毎年あれを見ると、春になったなぁって実感がわくんだよね。
なんていうか、桜よりも優しくて可愛い感じがいいよね~。学校の花壇にも植えてみようかな?」
「いいかも知れませんね。今はパンジーとかヒナギクとか背の低いのがほとんどですから。
色だけじゃなくて姿の違う花もあった方が、賑やかになって喜んでくれると思います」
「でしょ?
ちょっと育てるのが難しそうだけど、今年は園芸委員にとっても頼りになる子が入ってくれたから、一緒に頑張ってみようっと。
あっ、こないだその子と夏用の苗を色々植えたから、綺麗に咲いたらまた教えるね」
「楽しみにしてます」

不思議だな。
先生が一緒だと、こんなに自然に、こんなにふっくらな世界があっという間に膨らんでいく。
いつの間にか置き去りにしてしまっていた綺麗なものたちが、次々に芽吹いて花を咲かせていく。
色とりどりの想いに囲まれて、声と一緒に心が弾みだす。

好きな人がいるって、なんて素敵なんだろう。なんて幸せなんだろう。

「ひとはちゃんの方は今週、学校どうだった?
ほら、なんて言ったっけ…今年から新しくクラスに入ってきた、ハンドボール部の……」
「時枝さんです」
「そうそう、時枝さん。
その子、クラスに慣れたみたい?」
「もうずいぶんクラスに馴染んでますよ。やっぱり運動部の子って、そういうの得意ですよね」

むしろ私よりよっぽどクラスに溶け込んでるよ。
どうも私、杉ちゃんたち以外の女子からは距離を一歩置かれてるんだよね(別に悪意的なものは感じないけど)……。
男子にいたっては腫れ物扱いだし。
やっぱり暗い性格を直さなきゃだめかなぁ……。

「もちろんその子の努力もあったんだろうけど、ひとはちゃんが頑張ったのが大きいんだよ。
お弁当誘ってもらったの、きっとすごく感謝してるよ」
「……そういえば、こないだお礼だってケーキまでおごってくれました。
ちょっと大げさですよね」
「そんなことないって!
クラスが変わって心細い中、優しく声を掛けてもらえたこと、絶対その子は一生覚えてる。
ひとはちゃんはとってもすごいことをしたんだよ」
「やめてください。大したことなんてしてません」

嘘だ。大したことだった。怖い怖い冒険だった。
知らない背中に声を掛けるとき、不安で心臓が潰れそうだった。
振り返った顔が驚きで染まってるのを見たとき、後悔で泣きそうになった。
でも、先生にはそんなところは見せたくない。
私のいいところだけを見せたくて、薄っぺらな見栄を張ってしまう。

「昔の私と一緒にしないで下さい。
今はもう沢山友達が居て、一緒にお茶をして、毎日が楽しいんですから。
みんなが私を頼って、いつもありがとうって毎日お礼を言ってくれるんですから。
先生の送っていた灰色の高校生活とは違うんですよ」

嘘、嘘、嘘。
なんて浅ましい女の子なんだろう。

「そっか、良かった。
ひとはちゃんがみんなと仲良く、楽しい高校生活を送ってて」

なのに先生は、目を線にして嬉しそうに微笑んでくれる。
この心地いい胸の高鳴りを失いたくなくて、私はさらに嘘を積み重ねてしまう。

苦しい。

「先生に心配なんてされなくても、
今の私の周りには、私を気遣ってくれる男の子達がいくらでもいるんですけど。
ていうかちょっとモテ過ぎて困ってるくらいです。
……昨日も告白されちゃったんですよね」
「だろうね」

……見栄でついた嘘とは言え、そんな適当な即答で返されるとさすがにちょっとムッとしちゃうんですけど。
しかもなんですか、その表情は?菜の花はそんなに苦くないでしょう。右目なんて引きつってますよ。

「信じてませんね……?」
なのでまぁ、いくら大好きな先生とはいえ、ちょっと本気で睨んでしまったのはしょうがないことだよ。

「ひぃっ!
いやいやいや!逆だよ!信じきってるから!
むしろひとはちゃんがモテモテじゃなかったら、おかしいくらいだよ!
ていうかもしボクが同級生だったら……本当なら絶対話しかけることもできなかったはずなんだ。
だから余計にこうやってご飯まで作らせちゃってるのが………ごめんね、ひとはちゃん。ボクもわか「やめてください」

予想外にいきなりしぼみきってしまった声を、私は大慌てで通せんぼして部屋に入り込めないようにする。
けれど私の言葉は、先生の中にこそ嵐を呼び込んでしまったみたい。
唇を噛み締め、眉の下がりきったその表情は、
其処で後悔の念と良心の呵責が激しく吹き荒れている事を物語っている。

ええええ!?ちょっ…いまの嘘くささ丸出しな話のどこに、そこまで真に受ける要因があったんですか!?

「いえあの、少し見栄をはってみただけですよ。
ギャグの通じない人ですね。もっと空気を読んで下さい。
告白されたって言っても、全然真剣なのじゃなくてすっごく軽くですし。
しかも一方的にベラベラしゃべられただけで……あんなの、はっきりいって告白の範疇にありません」
だからお願い、そんな悲しい顔をしないで。
ふっくら笑って下さい。

「うん……」
でも、肝心なお願いはいつもスルー。
ダメだ、もっと違う話題だ。急げ急げ。

「そうそう、今週は他にも色々あったんですよ。
体育のテニスで大活躍したり、杉ちゃんと美味しい紅茶で盛り上がったり、友達と図書室で

―――『消えて、しまい…たいぃ……』――

……とも、だちが……」

嘘が、途切れる。
助けを求める悲鳴が、嘘で咲かせた花たちを散らしていく。
何もできない小さな私を容赦なく責め立てる。

痛い。

「ひとはちゃん?」
「あ…いえ、なん……でも………」

嘘だ。何でもないはずなんてない。わかりきってるよ。
こんな苦しそうに胸を押さえてうずくまってちゃ、こんな薄っぺらな嘘が通るはずないじゃないか。
でも嘘をつかなきゃ。先生を心配させちゃいけない。先生にはいいところだけを……!

「べつに…わた「ねえ、ボクは幸せだよ」 ……え?」

降り注いできた明るい声に向かって、顔を上げる。
見上げる先にはいつも笑顔が待ってくれてる。
いつも私の見上げてきた、世界で1番大好きな笑顔。
優しく日に焼けた肌。緩やかなU字に引かれた唇。くりっと小さな、だけどキラキラ輝く宝石みたいな瞳。
今はアゴヒゲがあるけれど、でも、先生はずっと変わってない。
ずっと、此処に居てくれてる。

「ボクは『先生』だから、こうやってひとはちゃんのお話を聞かせてもらえてすごく幸せだよ。
本当なら卒業していった子たちがどうしてるかなんて、すぐにわからなくなっちゃう。
あの子はケガしてないかな、泣いてないかなって、心配することしかできない。
でも今のボクはこうやって、ひとはちゃんからみんなのことを聞かせてもらえてる。
悲しんで、苦しんでる子に、今も手を差し出すことができる。こんなに幸せなことなんてないよ。
さっきみたいに、幸せ過ぎて恐くなっちゃう時があるくらいだよ~。
いやぁ~ごめんね、いつまでも情けない『先生』で」
「……めぃ…くじゃ、ないんですか……?」
「とんでもない!
学校生活って、楽しいことばっかりじゃないでしょう。
嫌なことも辛いことも沢山ある本当の『今』を教えてもらえるから嬉しいんだ。
みんなが頑張ってる『今』を知れるのが幸せなんだ。
それでね、ちょっとでも『今』より前に進む手助けができたら、もっともっと幸せ。
だって、ボクはそのために『先生』になったんだから」

ずるいです、先生。
そんなに幸せそうな笑顔を見せられたら、嘘をつき通せないじゃないですか。
そんなに誇らしそうに胸を張られたら、頼りたくなっちゃうじゃないですか。

ほら、今だって、

「………………」
エヘン、と胸を張ったまま、ふっくら笑い続けてる。

先生はいつもそうだ。
机の向こうで、私が話しかけるのをずっと待っててくれる。

いいんですよね、もうちょっとだけなら。

私は心を決めて背を伸ばし、先生の正面に向きなおる。
あわせて先生もおハシを置いて、聞く姿勢をとってくれる。

ゆっくりと、自分の言葉で自分の心を紡いで行ける。

「……友達の事なんですけど…あっ、私のじゃなくて友達の友達の事なんですけど。
走るのが大好きなのに、走れなくなっちゃった子がいるんです。
……と言っても、ケガとかじゃないんです。むしろ身体はすごく元気で、だから余計に走れないのを見てるのが辛くって……」

「うん」

「で、なんで走れないかって言うと……。
えっと……その子がすごくまっすぐだから、なんです。
昔、走ることで友達を……そう、友達を傷つけちゃったから自分にはもう走る資格が無いって、自分を縛り付けちゃってる」

「うん」

「でもそれはもう昔の話なんです。……ううん、違うな。
今もずっと続いてるけど、その傷つけられた子の方はもう気にしてなくて……その子と仲直りしたいってずっと願ってる。
……願ってるだけじゃなくて、一生懸命頑張ってもう一度手を握ろうってしてる。
ずっとその子のことを好きでいるんです」

「うん」

「………わかってるんです、どうすればいいか。
だけど……」

わかってるから、難しい。
それは強くなろうと汗を流して練習してきた毎日を、否定してしまうことだから。
一生懸命頑張って積み上げた『自分』を、自分自身で叩き壊してしまうことだから。
進みたい道を塞ぐ壁になってしまっていると、わかっているんだけど。

「だけど…………」

喉が引きつる。
紡ぐ言葉が止ってしまう。
『できない』と、1度形にしてしまったら、もうそれが永遠になってしまいそうで、怖い。

「………どうすればいいの、ひとはちゃん?」
「……謝ればいいんです。ひどい事してごめんって。
ふた…ふたばにはそれだけで十分なんです。
その子もふたばもまっすぐだから、ちゃんと謝って、ちゃんと許してもらえばそれでまた並んで一緒に走れるんです」
「じゃあ簡単だね!
ひとはちゃんがその子にそれを教えてあげればいいんだもん!」

がく。
流れに全く沿わない、明るく軽い声が響いたせいで、せっかく正した背筋が崩れてしまった。もうっ!

「先生、ちゃんと私の話を聞いてましたか……?」
「ひっ、睨まないで!聞いてたよ!すっごい真面目に聞いてたから!!」
私が目に力を込めた途端、先生はまたグイッと方向転換。
腰を引いて両手を突き出し、青い顔で言い訳のバーゲンセールを開催しているその姿は、情け無いことこの上ない。

締まらないなぁ。
まぁ先生は小学生の『先生』なわけだし、さくらちゃんのことも知らないんだし、
そもそも女の子の気持ちなんて全く理解できないんだから、しょうがないか。

「……私、言いましたよね?わかってるって。
そんなの当然その子もわかってるんです」
「そ…そうかな?」
睨みを緩めてあげると、先生は恐る恐るかつ神妙に正座に直った。
とはいえやっぱり、何もわかってないのは直ってないよ。

「そうです。こんな簡単なこと、誰だってわかってるに決まってるじゃないですか」
「う~ん……ひとはちゃんには簡単でも、その子とっては難しいかも知れないじゃない?
本当にその子はわかってるのかな?ちゃんと訊いてみた?」
「だから、そんなの訊かなくてもわかりますって。ふたばの事なんですよ?
それにその子は、昔からずっと沢山の友達がいる子なんです。
私なんかに言われなくたってわかってるに決まってます」

やれやれ……。

「はぁ~~~」
気を張っていた分、落差の激しさが余計に身にしみて、ついため息が深くなってしまう。
先生には悪いけど。

「でもでも、ふたばちゃんの事だからこそ、ひとはちゃんが教えてあげなくちゃって思うんだけど。
だって、世界中探したってひとはちゃんより…ひとはちゃんとみつばちゃんよりふたばちゃんの事をわかってる子はいないんだから」
「そんなわけないでしょう。
もちろん家族なんだから、全然わかってないとは言いませんけど」
私たちは『日本一似てない三つ子』ですよ。みんな全然違うんです。

「うん。
家族で、三つ子の姉妹だもん。とってもよく似てる姉妹だよ」
「似てる……私たちが?
……言い訳するにしても、もうちょっとマシなのを考えてくれませんか。
ひょっとしてウケを狙ったんですか?今そういうのは求めてませんから。さっきも言いましたが、もっと空気読んでください。
ていうかいい加減読めるようにならないと、いつまで経っても独りのままですよ」
「えぇ~~、本気で似てると思ってるよ!」
「そんな事言うの、先生だけです」

友達はみんな言う。全然似てないって。
……そうだ、時枝さんの言ったとおりだ。
違い過ぎていざというときまで助けられないんじゃ、三つ子の意味が無いよ……。

「う~~ん、おかしいなぁ。
こんなにそっくりなのに」
「どこがですか?」
「絵を描いたらいつも同じ構図。写生会のときは同じものを描いてた。
夏休みの感想文だって同じ登場人物について書いてたし、楽しいと感じたところも悲しいと感じたところも全部同じだったよ。
そうそう、好きな給食のおかずもおんなじだったよね。三人ともクリームシチューを真っ先に空にしてたもん。
友達も…好きになる人もおんなじだ。だって三人共通のお友達ばっかり。
いろんな兄弟の子たちを見てきたけど、こんなにおんなじなのはひとはちゃんたちだけだよ」
「え……?
あれ?えっと……そうでした、っけ?」

全然気付いてなかったよ。

「うん。
優しいところも、家族想いなところも、友達を大切にするところも、みんなを元気にしてくれるところも。
意地っ張りなところも、怖がりなところも、ちょっとズルしちゃうところも、でも最後まで嘘をつき通せないところもみんな良く似てる。
違うのは表現の仕方だけ。1番大事なところはみんなとってもそっくりで、見分けがつかないくらいだよ」
「1番、大事なところ……」
「そう、1番大事なところ。
だからひとはちゃんは、ふたばちゃんがずっとその子のことが好きでいるって、はっきり言えるんだ。
ボクだったら、ケンカし始めたのが『昔』になっちゃった相手は、もう絶対仲直りできないって諦めちゃうよ。
例え相手がどんなに良い子だったとしても、時間が経つと色んな糸がこんがらがっちゃって、どうしようもなくなってるって」
「そう、なんですか?
……だけどそうだとしても、ふたばが仲直りできなかったのに……ううん、みっちゃんだって何度も……」
「ふたばちゃんとみつばちゃんが上手くできなかったんなら、なお更ひとはちゃんが助けてあげようよ。
言ったでしょう、表現の仕方が違うって。
真っ直ぐぶつけられたら痛かったのかも知れない。誰かに引っ張られるのは嫌いだったのかも知れない。
じゃあ、言葉で応援してあげたらどうかな?
頑張って立ち上がってって」
「でも……でもっ!
私なんかが何を言ったって……!」

先生は何もわかってない。私が頼りになる女の子だって、騙されてるから。
だからそんな自信たっぷりに胸を張れるんです。
本当の私は、弱くて小さい髪長姫。どっちを向いても壁に阻まれて、箱の中に閉じこもってるのとおんなじ。
強くて優しいさくらちゃんの力になんて、なれやしないんです。

どうだったって、どうやったって、私はみっちゃんみたいにはなれないよ。

「大丈夫だよ、ひとはちゃん」
今日も先生は、なんにもわかってないお気楽な声。

先生はいつもそうだ。
ずっとずっと変わらない。
私達は…誰もかれもみんな、出会った頃とはまるで変わってしまったのに。

「だってひとはちゃんがこんなにその子の事を好きなんだから」
「………?
私が、さくらちゃんを?」
「そう。
友達って、一方通行じゃないんだ。ひとはちゃんがその子の事が好きなのと同じくらい、その子もひとはちゃんの事が大好きだよ。
ふたばちゃんと同じくらい仲直りしたいって願ってるよ
だって好きだから友達なんだ。自分もこの子みたいになりたいって憧れてるから、ずっと一緒に居るんだ。居たいんだよ。
ひとはちゃんも、そうでしょう?」
「……でも……さくらちゃんは、泣いちゃうくらいに……」
「優しくてまっすぐな子なんだね。
ふたばちゃんを傷つけちゃったからって、大好きな走ることをやめちゃうくらいに。
自分が走ることよりも、ふたばちゃんが笑ってくれることの方がずっと大事な子なんだね」

「…………」

「大丈夫だよ、ひとはちゃん。
好きな人に応援してもらえたら、好きな人が傍に居てくれたら、勇気100倍でどんなことだってできるようになっちゃうよ!!」

ふぅ……ああ言えばこう言う。
せっかく私が一生懸命壁を築いてるのに、ふわふわ笑って通り抜けちゃう。
出会った頃から全然変わってないよ。

ずっとずっと、



「先生は単純ですね」
 私達は幸せですよ。



「そう?」
「はい。断言できます」
「相変わらず厳しいなぁ……。
でもまぁ前に、こうやってたらいつの間にか可愛く笑ってくれるようになった子がいたからね。
だからボクは、ずっとこうやっていたいなって思ってるよ。
いいじゃない、こういう『先生』がいたって。
ね?」
「そういうセリフを、教え子じゃなくてちゃんとした女性に言える日が来ればいいですね。
先生もそろそろ魔法使いが見えてきてますし、本格的に焦った方がいいですよ。
さて、時間ですから今日はこれで帰ります」
「……………またね」

バタン ガチャガチャ

願わくば、そんな日が来ませんように。
優しい先生、私だけに優しくして下さい。


自然にそんな事を考えてしまえる私こそが、1番嫌な女の子だ………。