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「それでは今日の図書委員会はこれで閉会とします」

ザワザワザワ...

くっきりとした輪郭を持つアルト声が明確に『終わり』を告げたというのに、半分近くの委員は中々腰を上げようとしない。
黒板を向いてたって、私には『視線』でわかる。
せっかくの金曜日なのに、みんな予定とか無いんだろうか?
ていうかそろそろ背中に穴が空きそうだから、早く帰って欲しいんだけど。

「雑談なら外でやってくれ。
私はさっさと部屋を閉めて帰りたいんだ。
おっと、丸井書記は残ってよ。今日の議事録の確認があるんだから」
さすがさくらちゃん。
それこそもし私が男の子だったら、確実に惚れてたよ。

「俺も奥の書棚の整理を……いや、じゃあ戸締り頼むよ委員長。
また再来週もよろしくね、丸井さん」

ピシャン!

何故かよくわからない理由で残ろうとしていた副委員長の田島くんも、ほどなく氷の視線に追いやられ、
私はやっとひと息つけるようになった。

「ったく、アホ猿どもめ」
「助かったよ。ありがとう」
ドアに向かって呆れ声をあびせているさくらちゃんに、まずはお礼を告げる。

「礼を言ってもらうようなことじゃないって。事実、仕事なんだから。
それにしても…やれやれ、三女を書記に任命したのは失敗だったな。あいつらどれだけ話を聞いていたんだか。
気持ちはわからんでもないが、せめて時間の半分くらいは黒板を見ろ、黒板を」
長身が私へと振り返る。そこに乗せられた顔にはまだまだ呆れの色が濃い。
そして発される意見には私も同意だ。

「まったくだよ……。
私の背中のなにがそんなに面白いんだか」
「面白いっていうか、髪が踊るたびに光が……よそう。なんでもない」
「?」
「ええい、あどけない表情で小首をかしげるな。心臓に悪い」
「ちょっ…どういう意味!?」
「ま、色んな意味さ。悪い意味じゃないから気にしない気にしない」
「その言い方で気にするなっていうの、絶対無理なんだけど」
「気にしない気にしない」
「んもー」

明るい声。楽しい会話。少なくとも見た目には。
ううん、もちろん本当にじゅうぶん幸せなんだよ。このままでも。ここまででも。

此処が世界の果てだって決めてしまえば、此れが世界で1番の幸せにできるんだ。

「さて、これだけタイミングをずらせば男子共も散っただろうし、私たちも帰ろう。
途中までは送るよ」
「ねえ、さくらちゃん」

だけど、まずは1歩。

「なに?」
「みっちゃんがね、松原さんの気持ちを考えずにひどい事言ってごめんって。
そう伝えてって」
「……そうか。
やっぱりみつばさんには敵わないなあ。謝らなきゃいけないのは私の方なのに」

後悔なんてしないよ。
今だって、止まってしまったのは一瞬だけ。その後にはもっと綺麗な笑顔が広がったじゃない。

「三女、悪いけど帰ったらみつばさんに……ううん、私からメールしておくよ。
自分の言葉で伝えたいしね」
「ねえ、さくらちゃん」

だから、もう一歩。

「その言葉、明日うちに来て直接伝えない?
ちょうど明日はみっちゃんのバイトがお休みだから、家に引き止めとくよ。
それでたまには私たちがびっくりさせてあげよう。いつもいつも『敵わない』じゃあ悔しいよ」
「……そう、なんだけどさ。その方がいいんだろうけど……」
「ならそうしようよ。
それに私たち、友達になって結構経つのに、一回もお互いの家にお邪魔したことなかったよね。
たまには遊びに来てよ」
「うん…考えとくよ。ただ今週末はちょっと色々あってね。
それにC組は来週、物理のテストがあるからさ。勉強しなきゃ」
「ますますちょうどいいよ。
みんなで勉強会にしよ。みっちゃんたちもいっぱい宿題が出てるみたいだし。
苦手な教科なんて、ひとりでやったってはかどらないよ。
ついでに息抜きがてら、みっちゃんの英語とふたばの古文を見てあげてくれないかな。
さくらちゃん、得意でしょ?」
「……!
三女……っ!」

ごつんと、壁にぶつかる。
此処から先には進ませない、引き返せって通せんぼされる。
だけどそんなのどうってことない。
だって私は知ってるんだ。とっくの昔に教えてもらってるんだ。

「ね、さんくらちゃん。
もちろんふたばも来て欲しいって言ってたよ」

世界はとっても明るくて広いんだって。道なんていくらだってあるんだって。
こんな壁1枚、どうとでも通り抜けられるよ。

「三女、ごめん。
それならはっきり言わせてもらうけど、私らが会っても不毛なだけだよ」

冷たいのも尖ってるも怖くないよ。
怖がってるのはあなたの方だってわかってるから。それはあの頃の私と一緒だから。
弱くて小さい私だけど、1度通った道をたどるくらいはできるよ。

「なんで?
ふたばは会いたがってるのに」
「そりゃそう言うに決まってるさ。あいつは妙なところで律儀だから…キミに似てそうだからさ。
昔ちょっと手助けしただけなのに師匠、師匠って……だからこそ、いつまでもそんなつまらない義務感で次女を縛りたくないんだ。
いい加減、私のことは忘れて欲しいんだよ」

教えてもらった道を進むくらいはできるよ。

「全然違うよ、さくらちゃん。
ふたばはずっとさくらちゃんの事が大好きだよ。だから今も会いたいんだよ」
「気楽に言わないでくれ。
……三女は私があいつにどんなことをしたのか、知らないだろう?」
「うん、知らないよ。
でも、ふたばの事はわかってるから。
ふたばはそんな昔の事より、今さくらちゃんが会ってくれない事の方がずっと辛いって思ってる」
「ごめん、違うんだ三女。やめてくれ。
私、本当にひどいことしたんだ」
「じゃあなおさらちゃんと会って、謝ろうよ。
謝ってくれないとふたばも許してあげられない。お互いずっとモヤモヤしたままだよ」
「………いい加減にして。そんな簡単な事じゃないんだ。
なんにもわかってないだろ、キミ」
「わかってるよ、三つ子の姉のふたばのことだから。
さくらちゃんもさっき言ったよね?似てるって。
似たもの姉妹だから、ふたばも私と同じでさくらちゃんの事が大好きだよ」

『自分』の気持ちを言葉にするなんて、もっと簡単。なんせ昨日1回作ってるからね。

「……ッ!
な…んだよ、本の読みすぎじゃないのか?バカバカしい。そんな台詞、真顔で言われると引くんだけど。
かっこつけてるつもりか?ふざけないでくれ」
「いやいやいや、さくらちゃんには負けるから。
毎日毎日キザな台詞でキラキラかっこよくてさ。
中学のときからずっとそうだったよ。ふたばが陸上部に溶け込めるよう毎日声を掛けてくれた。一緒に練習してくれた。
すごくかっこよかったよ」
「……大したことじゃない。そもそもみつばさんの妹じゃなければ、あんなに気にかけたりしなかった」

ああ言えばこう言う。
そんな下手くそな嘘、子供にだって通じない。

「嘘。
あんなに浮いてたふたばに声を掛けるのが、大したことじゃないはずないよ。
違うクラスだったのに、毎日一緒にお弁当食べて、部活の迎えにまで来てくれたじゃない。
毎日だよ?ポーズとかついでなんかじゃ絶対できないよ。
ずっと覚えてる。一生覚えてるよ。絶対忘れない」
「次女にとっては大したことじゃないんだよ。
私とのことは頭の片隅に置いてる程度だ。今日だって、毎日元気に走り回ってるじゃないか。
ノロマなヤツの事なんて放っておいて、どんどん先に行ってる」
「さくらちゃんに元気になって欲しいから走ってるんだよ。
自分が楽しそうに走ってるのを見たら、またさくらちゃんも走りたくなってくれるかも知れないって思って。
また一緒に走ってもらえるようになったとき、師匠にサボってたって思われないように毎日練習してるんだよ。
さくらちゃんみたいにカッコいい女の子になりたくて、毎日頑張ってるんだよ」
「え……」
「ふたばはそれしかできないから。……言葉にするのが下手なんだよね。
だから中学のときもあんなふうに浮いちゃってた、でしょう?」
「………だとしても…なおの事、今さらどうしろって言うんだい?
インハイ王者で国体強化選手に、師匠師匠ってまとわりつかれても、私は………」

んもー、そんなの気にしてるのはさくらちゃんだけだよ。

「人に『髪長姫』なんてつけて笑っといて、自分だけあだ名に変な拗ね方しないでよ。
まーどうしてもって言うなら、勉強教えてあげて。
好きな人が教えてくれたら、ふたばも勉強はかどるから。
代わりにさくらちゃんも物理や化学を教えてもらったら?」
「……次女に?」

そのきょとんとした顔、傷つくなぁ。

「うん。私立高でかなり難しいのに、理系科目は結構成績良いよ。
それに教え方がすごく面白くてわかりやすいんだ。教科書や参考書なんかよりずっと勉強が進むよ」
「次女が………」
「あたりまえでしょ。
高校生なんだから普通に赤点が怖くて、普通に勉強頑張ってるんだよ。
得意な事もあれば苦手な事もあるよ。
まだまだ出来ない事が沢山あるから、勇気を出して頑張ってる。
こないださくらちゃんも、知ってるって言ってたじゃない。
走ってるだけが『ふたば』じゃないよ。
ふたばと仲良くする事と走るのが好きな事は、全然別の事だよ」

「…………」


「大丈夫だよ、さくらちゃん。
私もみっちゃんも、一緒に家で待ってるから」
ずっと傍にいるから。
どこかに行ったりなんてしないよ。さくらちゃんが大好きだもん。

「……………………」


だから、ねえ?
ゆっくりと、さくらちゃんが決めて。


「………なんだよ、お気楽に言いやがって」

あぁ…良かった。

「これで断ったら、私ひとりが嫌な女ってことになるんだろう?」
声も表情も、中身はもうじゅうぶんふっくらだ。

「はっきり言って欲しい?」
「ちっ……。
あ~くそっ、わかったよ!わかりました!
行けばいいんだろ行けば!お邪魔させてもらいますよ!」
「うん。
お菓子とお茶用意して、待ってるよ」
ふふふっ、口をへの字に曲げちゃって。
小さな女の子みたいだよ。

「あ……ぅ……。
ぅん……。
やっぱり卑怯だな、美少女ってのは……」モニョモニョ
「なに?」
「なんでも!
ただまぁアレだよ、その…っ、あり……ぅって言うか、うう~~!」
「顔、真っ赤だよ」
まるでみっちゃんみたいだよ。

「うっさい!
ったく、おとといの今日でなんでいきなりこんなに引き離されるかな。
たった1日……ふぅん、なるほど。そういうことか」
と、ばつの悪そうな顔で頬に掛かる髪をいじっていたさくらちゃんはいきなり終わって、
瞬きひとつで今度は意地の悪そうな顔へと変わる。

おや?

「これがキミの王子様の力ってことかい?」
「うん!!」
「ちくしょー!死ねっ!ほっぺに埋もれて死ね!!」

ギュムム

「むぐぅ……」
だからなんでみんなほっぺを狙うの!
それにそんなところはみっちゃんの真似しなくてもいいよ!
しかもさくらちゃんは摘むところないし!ズル「っていうかキミらズルいぞ!」

「三人でよってたかって、あの手この手で来やがって!!
いつも三人がかりなんて、絶対勝てるわけないだろ!!」
「……ひょうらね」

……うん、やっぱりそうだ。
想い出とか、卒業したとか、そうじゃないんだよ。
いつだってそう。

「くそう、ニコニコ勝ち誇りやがって。
まったくもってそっくりだよ、キミたちは。
ちょっと弱みを見せた途端、ずけずけ入り込んできやがる」

先生を目指していれば、


「わかったよ!今回は私の負け!完全敗北!だから言ってやる!
よく聞いとけ虹色!!」


きっとみんな、



「ありがとう、三女」



幸せになるよ。