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朝日が昇れば、私は『今日』を組み立てるために立ち上がらなければならない。
……まあ、さすがに今日はいつもの順番通りとは行かなくても許してもらいたい。

「じゃ…じゃあいって…き、ます……」
「いってらっしゃい」

みっちゃんの憮然とした声に追い出されるようにして、私は玄関から足を踏み出…痛たたっ!一歩動くだけでも辛い!!
……とは言え無理してでも行かねば。家の前で立ち止まってたら、パパに変に思われちゃう。
日直の友達の手伝いをするからって理由で、お弁当も我慢してもらったんだし。
私は塀に手を着いて身体を支えながら、通学路を進む。
油の切れた人形のように……。

「うぐっ…流石に昨日は無理しすぎたか……」

股間だけじゃなく、身体中から異常を告げるアラートが鳴り響くせいで頭がグワングワンと揺れる。
ひと眠りした後も色々やったからなぁ……。
アソコが使えなかった分逆に、色んなところで――…

『それじゃあ『お掃除』してあげます』
『いいですよぉ……このまま髪にたっぷり掛けて下さい」
『お風呂まで抱っこで連れてって』
『先生が汚したんだから、先生が洗ってください』
『ん……また大きくして……』
『今度こそごっくんしてあげます』

「わー!わー!わー!!」
恥ずかしすぎる自分の台詞を、耳を塞ぎ大声を出して追い払う。
完全に、純度100%の恥女じゃないか。
わ…私としたことがなんであんな馬鹿な事を……


『あう…ごめん、ひとはちゃん……』


むふう。


だってしょうがないよね。先生が可愛すぎるのがいけないんだよ。
あくまでも恋人を喜ばせる目的でやったことなんだし、別に私が特別エッチな子ってわけじゃないって。
恋人のためだもん。だって私は先生の恋人なんだから。
むふふぅ~。
ああなんて幸せな響きだろう次はいつ会いに行こうかなもちろん先生にはお仕事があるけど恋人との時間を大切に「おはよう三女」

「うひょわああ!!?」
突然背後から声を掛けられたせいで、肺の酸素をまるごと絞りつくしての悲鳴を上げてしまう。
空気の振動を受けて、電線のスズメたちがぱたぱたと飛び立っていった。
こっちも口から心臓が飛び出るかと思ったよ……。

「び…びっくりした……。
なによいきなり。挨拶しただけでしょ」
「あ痛たた……す…杉ちゃん。
ごめんごめん。ちょっとその…まあ、あれがそれで……」
驚きの余韻と無理に動いた痛みのせいで、今は挙動不審もはなはだしい所作と台詞しか並べられない。
あれがそれって何なんだ。

「……………まあ、いいけどね。
はぁ~……。手伝わせてと言ったのは私だから、昨日は協力したけど……二度は無いから」
杉ちゃんは右手に金色の携帯を掲げ、盛大にため息をつく。
ただでさえ切れ長で、意思の強い真っ黒な瞳の杉ちゃんにジト目を寄越されると、
こちらとしては曖昧に笑いながら引き下がるしかないよ。
昨日のことを思い出すとなおさら。

昨日。

結局あの後、お昼を過ぎても…1日中先生と一緒に居たかった私は、一計を案じて、
みっちゃんと杉ちゃんに協力してもらう事にした。
携帯電話のグループ通話機能を使ってふたりと先生の携帯をつなぎ、私が杉ちゃんの家に居るかのように家へ連絡を取ったのだ。
先生がちゃんと挨拶しに行くからって言ってくれたのは嬉しかったけど……何か作戦を考えないと殴り殺されるのがオチだよ。
せっかく一緒になれたのに、いきなり独りになっちゃうなんて全然笑えない。
あっ…でもお胎の子が居ればふたりか。

なんてね。

………………いや、大丈夫大丈夫。大丈夫だって。計算上は安全圏だったし。うん。きっと。たぶん。

「ちょっと三女?」
「はっ!?
あ…あははっ、今日は天気がいいし、春風も気持ちいいね。ついウトウトしちゃうよ」
「あえて突っ込まないであげるわ」
「アリガトウ…………。
……ところで何でこんなに早く?」
「みつばに」
ひと言いって、杉ちゃんは人差し指で携帯を叩いた。
なるほど、みっちゃんがフォローを頼んでくれたのか。
昨日から何度も悪いなぁ。今度黄昏屋のシュークリームを買って帰ってお礼にしようっと。
最近またカロリー気にしだしてるみたいだけど、その分ローカロリーのおかずを勉強して普段を抑えてあげればいいんだし。
お互いの足りないところをフォローし合うのが、私たち三つ子の自然なカタチなんだから。
……胸を張って言える。大好きな恋人が、そう言ってくれたから。

「三女……。
………正直、昨日の件はあんまり……いいわ。余計な事は言わない。
今のあなたの顔を見てたら、何も言えなくなっちゃった。っていうかそのうち丸ごと矢部っちに言ってやる事にするわ。
まったく…美少女って逐一卑怯よねぇ」
「え~っと……ありがとう」
最後に妙な皮肉が聞こえたけれど、せっかくスルーすると言ってくれてるのだ。こちらも流しておこう。

「……ほんっきで嬉しかったのね。キラキラが溢れて眩しいくらいよ。
こりゃ男共がほっとかないだろうし、今日から一段と厄介な事になりそうねぇ。
はあ………」
最後にもうひとつ嘆息を残し、杉ちゃんは携帯をポケットに仕舞った。
よくわからないけど面目ない……っと、そうだ。

「ねえ杉ちゃん。携帯ってネットで調べ物もできるんだよね?」
「うん」
「お願いがあるんだけど……」
「いいわよ。何を調べればいいの?」
「…………女の子のあそ………やっぱりいいや。忘れて」
「『あそ』?」
「忘れて」
言えない。
言える訳が無い。
アソコが腫れてふくらんでしまっているなんて……っ!

治療法を調べてもらおうかと思ったけど、いくら相手が親友でも流石に聞けないよ。
うぅ…でも一生このままだったらどうしよう。先生に嫌われちゃうかな……ってまあ犯人は先生なわけだから、どうとでもできるか。

「……まあ深くは聞かないわ。
言っとくけど全部貸しだからね」
「へへぇ~。ありがとうございまする。
このご恩は必ずお返ししますので」
いつものように懐の深さを披露してくれた幼馴染に向かって、ひとまずは精一杯のお礼を告げる。
直立不動ではあるけれど、誠意はしっかり込めた。

……お胎が痛くて、今はお辞儀なんて無理だよ。

「……いちいち……。
行きましょう。なるべく人目につかないよう、早めに出たんでしょう」
「う…うん」
返事と共に、また一歩踏み出し…あいたたっ!やっぱり身体中が痛い!
な…何か楽しいことを考えて気を紛らわせなきゃ。
楽しいこと、楽しいこと……

『大好きだよ、ひとはちゃん』

むふう!

「なんかもう、眩しすぎて目が痛いわ……」





教室に一番乗りしたといったところで、始業時間が近づけば当然人は増えてくる。あわせて『視線』も倍の速度で上昇してしまう。
恋人どころか好きな人もいないという設定の私だし、大人しく座ってればまさか気付かれまいとは思うけれど、
クラスには先輩『経験者』も何人か居るわけで。
小さなきっかけから、大切な先生との関係が崩れてしまわないかと、どうしても脈拍が上がってしまう……。
今日はなんだかいつも以上に『視線』が強いし。

「おっはよーさん!姫!」
「ひぎっ!?」
神戸さんに背中へ圧し掛かるように抱きつかれた瞬間、目もくらむほどの激痛が襲ってきた。
いつも通りのスキンシップとは言え、今日これをやられちゃたまらない。
…だってふたり分の体重でアソコが椅子に押し付けられたんだよ!?
本気でぶん殴ってやろうかと思ったよ(痛みで身体が動かないけど)!!

「な…なんなん姫?どしたん?」
「べ…べふに。おふゃよう」
ダメだ、痛みのせいで思いっきり呂律がおかしくなった。しかも周りの柳さんと時枝さんにも聞かれちゃったよ。

「ねえ姫、やっぱり体調悪いの?
朝からずっと座りっぱなしだし、いつも以上に無口だし……」
「だよなぁ。輝きが凄いから心配すべきなのかどうか迷ってたけど、やっぱ変だ。
なあ姫、なんかあったなら言ってくれよ。あたしじゃ協力できるかどうかわかんないけど、話すだけでも軽くなることってあるぜ?」
ああ~っ、みんなの善意が余計に痛い!

「ほんま何千ルクス出とんねんってくらい明るいなぁ~。
よっぽどええ事あったんやろけど、身体悪いんか。
保健室行く?」
授業始まったらタイミング見計らっていくつもりだから、ほっといてぇ~っ!
っていうか今は立ち上がれないんだって!

「調子悪いんは足?お腹?
そんな膝ぎゅっと合わせて……あれ?ひょっとして姫……」
ぎっくぅ!
流石先輩、鋭い!

「三女はそのっ…ちょと今朝ひさ「やあ三女!おはよう!」
杉ちゃんのフォローを明るいアルトが遮る。
黒板側の入り口から入ってきたのは、

「さくらちゃん」 「松原!」 「松原さくら!」 「どしたのさくら?」

私、杉ちゃん、神戸さん、柳さんの呼びけが同時に向けられる。
受け取ったさくらちゃんは軽く肩をすくめてから、他クラスだってことを意にも介さず颯爽と私の席へと歩いてきた。
やっぱりさくらちゃんの凛々しさには憧れちゃうなぁ。黒の深い瞳も…あれ?メガネが無い。

「やあ三女、おはよう。
昨日は本当にありがとう。これ、私がよく使ってる湿布だ。良かったら使って」
意味不明な台詞と共に湿布薬のだろう、緑色の箱が私の前に置かれた。
日曜日?さくらちゃんと勉強会したのは土曜日だよ?

「え?え?え?」
「昨日は本当にありがとう。キミが一緒に走ってくれたおかげで、色々吹っ切れたよ。
今日からまた陸上部でやって行くことにした。
でも運動の苦手なキミがあれだけ走ったんだ、きっと今日は筋肉痛で立つのも辛いだろうと思って湿布を持ってきたよ。
使ってくれ」
今度の台詞はわざとらしいくらいに説明的だったおかげで、あわせて右手に掲げられた携帯の意味がパパッとわかってしまった。
みっちゃん……微妙にありがた迷惑というか恥を拡散してくれたというかでも悪いのは私だしなぁ……。

「んだよ姫。
めったに運動しないヤツが長距離走ったんなら、ちゃんと風呂でマッサージしとかないと」
一応、助かったか……。

「ありがとうさくらちゃん。
っていうか陸上部って…っ!」
「ま、そういうことだ。残念ながら私は文学少女にはなれない星の下に生まれてきたようだ。
…中学の友達も歓迎してくれた。
嬉しい限りだけど…やれやれ、2年近く独り芝居をやっていた現実を突きつけられるのは、辛いねどうも」
う~ん、爽やかな笑顔だなぁ。わかり易い友人だよ。

「ふふふっ、それは残念続きでご愁傷様だね」
「まったくだ。
ま、回り道をした分、今日からしっかり頑張るよ。
せっかく髪長姫に好きだって言ってもらえたんだ、それにふさわしい女の子にならなきゃね」
笑顔と一緒に、パチリと星が飛び散りそうなくらい魅力的なウインクをプレゼントされて、私は不覚にもまともに赤面してしまう。
むぐぐ……こないだは私の圧勝だったけど、やっぱりやるねさくらちゃん。

「う…うん。
それは立派な心がけだよ、うん。心がけだけどね」
「……本当にありがとう、三女」
口をへの字に曲げている私に軽く微笑んでから、さくらちゃんが頬を寄せるようにふんわり抱きついてきた。
一瞬身体の痛みを心配したけど、そこはさくらちゃん。上手く体重を掛けないように、けれど温もりの伝わる絶妙な抱擁だ。
そして更に、右耳にはこしょこしょ声が吹きかけられる。

「一応王子様とのゴールインおめでとうとは言っておくけど、あんまり褒められた事じゃあないよ」
「う……ごめん。
みっちゃんから無茶振りされたんでしょ?それも合わせてゴメン」
「なあに、そっちは気にしてもらう必要は無い。
それだけみつばさんから信頼されてるって証拠なんだから。
ま、今後は私もキミの物語の登場人物に加えてくれ。
情報かく乱にせよなんにせよ、今日同様、松よりも良い手際を披露できると思うよ」
「……ありがとう」
もうそれしか言えないよ。

「うん。
……じゃあね!また遊びに行くから!!」
秘密の打ち合わせが終了したさくらちゃんは、ばっと身を翻して来たときと同じく颯爽と教室を出て行った。
戻ってきたんだな。春風みたいに爽やかな、私たちの友達が。

……先生、ありがとうございます。

「輝きが更に……。
姫、そういう事だったんだ……」
茫然とした柳さんの声にはっとした私は、補足説明のため慌てて隣へ顔を向ける。

「そっ…そうなんだ!
ちょっと恥ずかしかったから黙ってたんだけど…んも~、しょうがないなあさくらちゃん」
急いでストーリーを組み上げなくちゃ!
青春ごっこしてたみたいで恥ずかしくてって事にして、走ったルートはどうしようかな?
時間も決めとかなきゃだし…ああ~、ゆきちゃんの霊よ私に宿れ(ゆきちゃん生きてるけど)!!

「姫、ソッチの人やったんや……」
「そうそう、私ってソッチの……は?」
え…ちょっと待って。不穏な響きが混じってたよ?
それに何でみんなじりじりと離れていくの?

「そうか…それでどんな男子が言い寄ってきても袖にしてたのか……。
う~ん……なんかあたしがAクラに来たせいで、ふたりを引き裂いちまったみたいで悪いなぁ……。
ってなわけで今日からあたし、別のグループで昼食べるから。
じゃ」
「『じゃ』じゃないよ時枝さん!絶対おかしな誤解してるから!!
柳さんからもなんとか言って!」
「私、文化としては認めてるけど、自分に害が降りかかるのはちょっと」
「『害』って!?
机を引き離さないで!!」
「……ま、そいういうカモフラージュもアリか」モニョモニョ
「杉ちゃん!?」
無いよそんな選択肢!!

はっきりと感じる。
ガラガラと音を立てて、築き上げてきたものが崩れていく。

 「え…丸井さんって……」
 「でも杉崎さんも中学の時の噂だとね……。で、ずっと一緒にいるってことは……」
 「知ってる知ってる丸井…みつ…?とにかく『丸井さん』を取り合って、杉崎さんと松原さんが毎日……」
 「うっわ大スクープ!東校の友達にも……」
 「そんなっ!丸井さんがレズだったなんて!」
 「う、ええ?いやでも確かに『好き』って言ったって…しかも否定しなかった……」


うああっ、今日からの学校が……生活全てが怖い!!


「あ、姫が髪まで真っ白になって崩れ落ちた」



うわ~~ん!!!



<おわり>



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…………………。
………。

ふ…ふふふ……。
わかったよ。
そっちがその気なら、こっちにだって考えがあるよ。
私だって知ってるんだから。みんなのあの事とか、あの話とか。
実はアレの事だって見てたんだよね!
ここまでのお返しに、ぜぇ~~んぶ話してあげるから!

さあ、覚悟して!!



「次はあなたの番だよ!!」



<ここから始まるプロローグ>