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~ 同行(松岡視点) ~

ひとは「はぁ、それじゃ、私は家に帰るよ」

三女さんは余程疲れていたのか、小さく嘆息した後、私と杉ちゃんのお母さんに別れの言葉を発して帰路に付こうとする。

松岡「三女さん待って! 共犯者同士一緒にかえりましょう!」

するとこっちに顔だけで振り返り、私にわかるように大きく嘆息する。
正直ちょっとショック。でも――

ひとは「いいよ、どうせ途中まで一緒だしね」

――一緒に帰ってくれるようだった。



松岡「ねぇ? 三女さん」

しばらく沈黙が続いたので私から話を振ってみるため、声をかける。
三女さんは私の少し前を歩きながら、こっちを見ずに「なに?」っと無機質な声で答えた。

松岡「あ、えっと……三女さんは“あれ”でよかったの?」

私の言った“あれ”とは少し前にみっちゃんの背中を押してあげたこと。
元々、私から飛び出して声をかけたことなので少し蟠りがあった。
もちろん私の選択が間違っていたとは思わないけど。

ひとは「……言ってる意味がよくわからないんだけど?」

少し思案の間があり、少し強い口調で返された。
わかってるはずなのに……。

松岡「わかるように言ったら怒らない?」

ひとは「……怒ると思うから話しかけないで」

つまり三女さんは、“あれ”で良くなかったということなのだろうか?
それにしても、折角一緒に帰ってるのに「話しかけないで」と言われるなんて嘆息されるより遥かに辛い。
そして今更だが、三女さんの台詞は、「このことについては触れないで」という意味だったことに気が付き、私の言い方が悪かったと反省した。

松岡「ごめん……」

ひとは「……」

私の言葉に三女さんは反応してくれなかった。

松岡「はぁー」

私は重い嘆息を吐き、肩を落とす。これなら、さっきまでの沈黙の方がまだ良かった。

ひとは「別に……松岡さんの行動はよかったと思うけど……」

私の嘆息が聞こえて気を使ってくれたのだろうか……。
三女さんがポツリと台詞を零す。
私はその言葉に「でも――」とだけ言って、その後に言葉は続けられなかった。

ひとは「あのまま杉ちゃんとみっちゃんをすれ違わせたままにするなんて良いわけない」

私もそう思う。だから飛び出した。
でも、私が言いたいのは三女さんのことで……三女さんも私が言いよどんだ意味が伝わっているはずだと思う。

ひとは「私は飛び出せなかったんだから……むしろ感謝してるよ」

三女さんは自嘲気味な態度でそういったあとさらに続けた。

ひとは「私はみっちゃんに取って本当は嫌な妹だから」

松岡「そ、そんなことないわ!」

私は声を張り上げて三女さんに言った。でも――

ひとは「あるよ」

――三女さんは振り返りもせず、ただ、冷たく否定した。
その態度を見て、私はほのかな苛立ちを覚えた。
私が怒る理由なんてないはずなのに。
でも、私はなぜだか三女さんの背中に、睨むような視線を向けて口を開いた。

松岡「私が少し早かっただけ! 三女さんだって絶対飛び出してた! でなきゃ私が手を引いたときあんなすんなり一緒に出て行けるわけないわ!」

背を向けたままだった三女さんが振り返り、私の台詞――――それと視線もかな?――――にたじろいでいるようだった。
私がなぜこんなにも怒っているのかわからない……そんな表情。

私は二人が羨ましいんだ。だから私はこんなにも……。

松岡「三女さんはすっごく姉思いだよ! みっちゃんだけじゃない、ふたばちゃんにも!」

私の口は、脳とは別の意思を持っているかのように、言葉を紡ぐ。

松岡「優しいよ! 私、三女さんと友達だから! ……だから、いつも見てるから知ってる! ……三女さんの言葉だったからこそ、みっちゃんは前に進めたんだよ!」

そう言い終わったとき、私は息が上がるほど勢いよく話していたことに気が付く。
そんな私見て三女さんは困惑しつつ口を開く。

ひとは「あ……え、その、松岡さん声大きい……」

だ、だよね……。

松岡「……ごめん」

我に返ってみると、色々失敗したと思う。
……励ましたかったのに、なんだか叱りつけるように言っちゃったし。
私はただ、納得いかない気持ちを三女さんぶつけただけだ。

そして「いつも見てるから知ってる」……これは――。
無意識とはいえ、こんな台詞を言ってしまったのは誤算もいいところ。
しかも大声だし。

しばらく視線を合わせずに向き合っていると、三女さんの方から沈黙を破る。

ひとは「……ねぇ…迷惑じゃなかったらでいいんだけど……家で夕飯食べてく?」

松岡「ふぇ?」

その意外な言葉に私は、間抜けな声を出して面を食らった。
すぐに言葉の意味を理解したが私は当惑するだけで言葉が続かない。

ひとは「その、色々、迷惑かけた……気がするから…お礼しないと」

迷惑? 三女さんが私にお礼?

松岡「えっと?」

ひとは「っ……いいからっ! 夕飯食べるの食べないの!?」

松岡「あ、えっと、うん……食べたい……かな?」

私は三女さんの勢いに飲まれてそう答えた。



<ガチャ>

そう音を立てて、三女さんが玄関を開く。

ふたば「おお、さっちゃんっス! こんばんはっス!」

松岡「こ、こんばんは、ふたばちゃん」

ひとは「ねぇ、ふたば、お父さんは?」

ふたば「今日は遅くなるってさっき電話あったっスよ」

ひとは「そう、だったら私たちだけで先に夕飯にするよ」

……。
どうして私、三女さんたちの家に呼ばれたんだろう?
家出してきた時と違って、明確な意思もなく、そして帰路の途中でのやり取りを踏まえると、話しかけやすい雰囲気とはお世辞にも言えなかった。

それを差し引いたとしても、普段だったらもっと普通にしていられるのに、今日はダメだ。
ふたばちゃんとも特に話せる話題もないので、若干手持ち無沙汰になってしまう。

ふたば「そういえば、みっちゃんも帰ってきてないっスよ?」

ひとは「……みっちゃんはちょっと遅くなるって言ってたよ」

ふたば「ふーん、珍しいっスね! ひとの料理おいしいから遅くなるなんてことほとんどないっスのに」

何気ない二人の会話からみっちゃんと三女さんの関係がわかる。
やっぱり、二人が羨ましい。

それにしても姉妹同士だけで話し出すとか、私、ベストオブ場違いね!
……そんな居心地の悪さを感じていた時だった。

ひとは「松岡さん」

松岡「はいっ! あ……なに三女さん?」

急に声をかけられて驚いた。
なにやってるんだろ私。

ひとは「そっち……座ってて。すぐ夕飯にするから」

松岡「あ、うん、手伝うこととか――」
ひとは「別にないから座ってて」

そう言われて私は一言「わ、わかったわ……」と答えて炬燵の中に足を入れるしかなかった。
するとふたばちゃんは、三女さんが料理を始めて相手にされないと知るや否やこっちに来た。……猫や犬みたい。

ふたば「さっちゃん! どうして家にきたっスか?」

どうしてだろう?
三女さんの意図が読めない。
いや、三女さん自身が言ってた言葉を信じるなら迷惑をかけたから、もしくはお礼がしたかったからなんだけど。

松岡「えっと、三女さんに誘われてきたんだけど……詳しい理由はよくわからないわ」

ひとは「お礼って言ったよ」

っ! ……聞こえてたんだ。

ふたば「何のお礼っスか?」

ひとは「それは……私が馬鹿なこと言ってるところを怒ってくれたから……だよ」

三女さんは台所の方を向いてそう答えた。
怒ってくれた……三女さんが「嫌な妹」と自分を責めていた時のことが思い出される。
あの時三女さんは確実に落ち込んでいた。それが私の言葉で立ちなおれた。そういうことだろうか?

……それは勘違いだ。私は私の都合で言葉を発していた。
あれは、三女さんのことを思って言った言葉じゃなく、私のための言葉だった。




ひとは「はい、夕飯できたよ」

松岡「す、すごい! おいしそう……」

調理が終わり、炬燵の上に料理が並べられた。
おいしそうなんだけど、毎日は食べたくないかな……。

理由? もちろん太るから。
みっちゃんが太るのも頷けるけど、あの程度で済んでるって言うのもすごい事な気もする。
それは、みっちゃんの努力? 不幸体質でいつも大変そうな場面に立たされているせいで消費エネルギーが多いから?
それもあるかもしれないけど、三女さんもこっそりみっちゃんが太らない様に手を貸してるのだと思う。

三女さんの合図で夕飯を口に運びだした直後で、みっちゃんのぽっちゃり体系で済んでいる理由を考えていた時――

<ガチャ>

みつば「……ただいま」

噂をすればなんとやら……噂と言っても、私が考えていただけで、食卓の話題になっていたわけではないけど。

ふたば「みっちゃんっス! おかえりなさいっス!」

ふたばちゃんがうれしそうにみっちゃんのところに駆け寄る。
本当、みっちゃんって凄く好かれてると思う。

でも、正直な態度のふたばちゃんと違って、三女さん言葉は厳しかった。

ひとは「雌豚が夕飯のにおいを嗅ぎ付けて――」
みつば「偶然よ! ……って言うかなんで松岡までいるのよ?」

三女さんの悪態を受け流しながら、私の存在に気が付いたようで声をかけてくる。

松岡「あ、お邪魔してるわ」

みつば「……ほんと、邪魔ね」

酷い……。
いや、本気じゃないことわかってるんだけどね。
私はみっちゃんや杉ちゃんと違って、弄られ耐性が付いていないので、早々に話を切り替える。

松岡「どう? 仲直りできた?」

口に出してから、もう少し言い方があったのでは?
っと思ったけど、それは、私が今一番心配していることで、きっと三女さんも一番聞きたかったこと。
でも、みっちゃんは私の問いを聞いていながら、三女さんに視線を向ける。

みつば「……ひとは、ちょっと電話使うからその二人静かにさせといてよ」

その答えは私の問いに対する答えではなかったけど、どういう意味か容易に想像がつくものだった。

ひとは「わかったけど、みっちゃんも冷静に電話しなよ」

三女さんも、すぐに察してみっちゃんに助言していた。

みっちゃんは三女さんに「わかってるわよ……」と自分を落ち着かせるように静かに答えて電話をかける。

ふたば「ほへ? なんっスか?」

状況がわからないふたばちゃんに、三女さんが説明する。
そして、その間にみっちゃんの電話がつながった。

みつば「ちょっと! あんた今どこに居るわけ!」

さっそく大声をあげる。せっかく三女さんが「冷静に」っていてあげてたのに。

それと、みっちゃんの「どこに居るわけ」って台詞から、私たちの予想は当たったと考えてよさそうだ。
つまり、杉ちゃんを追いかけて行ったみっちゃんだったが、肝心の杉ちゃんは道草をしていたので、杉ちゃんの家に付くまでに会えなかった。
そうして当人は家にも居なかったと。
当然ながら杉ちゃんの様子を伺っている杉ちゃんのお母さんも、まだ帰っていなかったのだろう。

それで途方に暮れることとなったみっちゃんは、仕方がなく一度家に帰ることにした。
もちろん杉ちゃんの携帯へ電話をかけるためにだ。
携帯があると便利なんだけど、まぁ、経済的な問題もあるし仕方がない。

みつば「よくないわよ! 家に行ってもドMもあんたも帰ってないって言うし、どこほっつき歩いてんのよ!」

あぁ、私の名推理がみっちゃんの台詞により、あっさり回答が出されるなんて……別にいいけど。

杉崎『――、――――、――!』

うーん、受話器の向こうから声はするが、何言ってるかまでは聞こえない。

みつば「っ! なんです――」

みっちゃんがまた大声を上げた時だった。

ひとは「ちょっとみっちゃん、冷静に話すって言ってたでしょ? って言うかさっきからうるさい」

みっちゃんの言葉に被せるように三女さんは言った。
その言葉を聞いたみっちゃんは、こっちを見て仕方がないと言った表情をし、視線を三女さんから外して電話の続きを始めた。

みつば「ど、怒鳴って悪かったわね……とりあえず、あんたと直接会って話がしたい訳よ。どこにいるか教えてくれない?」

おお……みっちゃんが杉ちゃん相手にあんなに下手に出るなんて……。
怒鳴ったところを三女さんに止められたのもあるだろうけど、相当杉ちゃんのこと気にかけてなきゃあり得ない態度だと思う。

ふと、三女さんの方に視線を向けると、少し不機嫌そうな顔をしながらご飯を口に運んでいた。
複雑な心境なんだと思う。仲直りして欲しくはあるけど、必要以上に仲良くされるのも妹として――――だよね?――――寂しいというか。

そんな顔をずっと見ているのもなんだか悪い気がして、料理を口に運びながら、みっちゃんの方に耳を傾けた。

杉崎『――――?』
みつば「そ、それはそうだけど……」
杉崎『……――――』
みつば「あんた、なんでまだそんな所にいるわけ?」
杉崎『―――。――――』
みつば『何によそれ……とりあえずそこで待ってなさい今から行くから!』

んー、杉ちゃんが何言ってるかよくわからないけど、杉ちゃんの所在はわかったのかな?

杉崎『――。―――――』
みつば「っ! い、いいわよ! あんたの家の方からそっちに向かうから! 絶対回り道とかするんじゃないわよ!」<ガチャ!>

結局最後は冷静さを失い、受話器を叩きつけるようにして電話を切る。
そんなことしたら、三女さんが――

ひとは「はぁー、受話器壊れたらどうするの?」

――……静かな物言いだけど、案の定怒ってる。

みつば「壊れなかったからいいじゃない! それよりちょっと出かけてくるから……夕飯置いときなさいよね!」

ひとは「っ……わかったから、さっさと行って」

……それにしても、本当、三女さん不機嫌だな。


~ 帰宅(ひとは視点) ~

みつば「壊れなかったからいいじゃない! それよりちょっと出かけてくるから……夕飯置いときなさいよね!」

ひとは「っ……わかったから、さっさと行って」

そういうとみっちゃんは玄関の方に歩みを進めた。

無性にイライラする。
私の料理なんてどうせ後回しだよ。

……冷静に考えれば、私の夕飯を後回しにするのは当たり前だし、気にするようなことでもない。
むしろ、私の料理を優先すると言っても、私が追い出すと思う。
頭ではそう思っていても、なぜか負けたような、悔しいような、そんな思いがこみ上げてくる。

そんなことを考えているとき、ふと、視線を感じる。
私はそちらに視線を向けずに意識だけ集中させた。

みつば「……」

それは、みっちゃんの視線。一度玄関の方に歩みを進めたはずのみっちゃんの――だ。

ひとは「なに? 先に夕飯食べてくなんて言わないよね?」

みつば「……なんでもないわ、行ってくる」

そう一言だけ残して玄関を開け、外へ出ていく。

<ガチャンッ>

……不可解な行動。
一体どういうつもりだったのか。少し思考を巡らしたが、考えても判る事とは到底思えないのですぐにやめた。

私はみっちゃんが玄関から出て行ったのを脇目で確認してから、味噌汁を啜って軽く嘆息した。

松岡「三女さん、これおいしいわ!」

松岡さんはなぜだかワザとらしく大きな声で料理の感想を言う。

ひとは「それ、今日一番手抜きだよ」

松岡「へ……あ、そうなんだ」

……。
八つ当たりもいいところだ。
折角、家に呼んでおいてこの態度は酷い。

ふと、時計に目を向けると……7時か

松岡「あ、もうこんな時間なんだ……」

私の視線の先を自然と追ったのか、松岡さんも私と同じように時計を見ていた。

ふたば「ほへ? もう帰っちゃうっスか?」

ふたばがそう言うと「そうね……」と答える松岡さん。
実際みっちゃんが電話している間に、私たちの食事は殆ど片付いてしまっていたので、そう答えるとは思っていた。
結局お礼らしいお礼――――それとお詫びもかな?――――もできていない気がするけど……いや、料理はご馳走してあげたし
その前にもちゃんとお礼のつもりで呼んだとも言った。
……相手が理解してるかどうかは知らないけど、私はお礼をした――はず。

松岡さんが席を立つ気配を感じたので、私も同じタイミングで立つ。

ひとは「ふたば、玄関まで見送りに行くよ」

まぁ、せめて見送りぐらいはキチンとして置こう。
でなきゃ、やっぱり少し申し訳ないと思う。

ふたば「わかったっス!」

私たち二人は、玄関を開けて松岡さんを見送る。

ひとは「それじゃ、また明日学校で……」
ふたば「おやすみーっス!」

私たちがそう言ったのだが、松岡さんはしばらく無言でその場に立っていた。

ひとは「えっと、どうかしたの?」

私はその様子を不審に思って尋ねる。
すると松岡さんは真剣な顔つきを私の足元あたりに落し、そして口を開いた。

松岡「その……私、何かあるなら相談に乗るわ」

私は急にそんなことを言われたものだから、良くわからずに沈黙を作ってしまった。
そんな一瞬の間が松岡さんには長く感じたのか、すぐに言葉を発するために口を開く。

松岡「私でいいなら、いつでも相談してきていいから!」

それでも、私はすぐに反応できなかった。

松岡「……なんてっ! 私なんかじゃ力になれないかもしれないけどね、……それじゃ、また明日!」

松岡さんはそう言って踵を返し、駆け足で帰路に付いた。

ふたば「相談……なんのことっスかね?」

そうふたばが私に投げかける。

ひとは「……さぁ、なんのことだろうね」<ガチャンッ>

私はふたばの問いに答えながら玄関を閉める。

……最後の台詞よく聞くありきたいな台詞だった。
でも、あんなこと言われて相談しないわけにはいかない。
もしかしたら、私がそういう発想になるって判って言ったのかもしれないけど、万が一でも、狙って言った訳じゃないのだとしたら、無視するわけにはいかない。

それにしても相談か。
みっちゃんのことだよね……。
態度に出ないようにして、気が付かれないようにしていたつもりたけど、仕方がない。
松岡さんとの帰り道、あんなことを口走ったわけだから、気に掛けられていたのかもしれない。

でも、ふたばの前で言うのはやめてほしかった。一応誤魔化しの言葉を掛けたが、若干不審に思っているみたいだし。

その時電話が鳴った。
なんとなく予想はつく。こんな予想はちょっと酷いかもしれないけど、きっと当たっている。お父さんが職質で捕まったのだろう。
ふたばの意識がそっちの方に向いてくれるのは助かるけど、迎えに行くのは面倒だな……。


~ 謝罪(松岡視点) ~

私の目の前には携帯電話がある。
私はジッとそれを見つめる。
何時着信があっても取れるように。

……最後の台詞は三女さんに相談してもらうために言った言葉だった。
三女さんが私の台詞に違和感を持っていたとしても、絶対に相談してくるはず。
少し卑怯だと思ったけど、許してほしい。

“今度”こそはちゃんとした気持ちで、三女さんを助けたい。
あの時の私の言葉は気持ちだけの空回りで、助けたいという気持ちがかけていたと思う。

でも、こんな姑息な作戦で三女さんから相談の電話を待つこと自体、私の自己満足なのかもしれない。
だから、相談に乗った後はその卑怯な方法を使ったことを詫びるつもりだ。
三女さんに後ろめたい気持ちなんて残したくないから。

~~~♪

っ!

私は慌てて携帯を取り、待ち受けを見ると相手は「丸井家」。

正直電話が来る確証なんてなかった。
今日相談しなくても明日学校で会えるわけだし……。

私は一度深呼吸をしてから応答した。

松岡「も、もしもし?」

ひとは『あ、松岡さん、えっと――』

松岡「ごめんなさい!」

ひとは『え?』

松岡「……あ」

――やってしまった。初めは相談に乗る予定だったのに……なに最初から謝ってるの私!

ひとは『えっと、松岡さん?』

私の言葉を待つ三女さんの声。
こうなってしまえば洗いざらい言ってしまうほかない。

松岡「あ、うん、その……ごめん三女さん」

ひとは『いや、何に対して謝ってるのかよくわからないんだけど……』

だよね……。
ちゃんと説明しないと判るはずもない。

松岡「それは…デパートからの帰り道のこと、なんだけど」

ひとは『あ……え?』

三女さんは、どの事を言っているのかは理解できたけど、なぜそれについて謝るのか――それが理解できない、そういった反応をした。

松岡「三女さんは、“怒ってくれた”って言ってくれたけど、あれは私が暴走した結果の言葉であって、三女さんを励ますための言葉じゃなかったの」

ひとは『……』

反応はない。電話でのやり取りだと表情が見えないので、三点リーダーはただの記号。
それでも私は不安を紛らわすように続ける。

松岡「私が個人的に納得いかない事があって、それで少しきつい言い方になっちゃって……だから――ごめん。お礼してもらう事なんて本当はなか――」
ひとは『そ、そんなことない』

私の言葉に被せるように三女さんの声が携帯電話から聞こえた。
私は、三女さんの言葉に少し面を食らい、その隙に言葉を続けてくる。

ひとは『例え暴走した結果で出た言葉であっても、私は救われたから』

松岡「三女さん――」

救われた……私の言葉に。
三女さんはそう言ってくれた。

そっか……救われていたなら“あれ”でもよかったのかな。

それはきっと、自分を正当化したいから出た発想だと思う。
“結果論”それは臆病者と卑怯者の逃げ道だから……。

どうせ私は、その二つのどちらにも当てはまると思う。
だから、卑怯者な私は“終わりよければ全てよし”……その言葉に逃げることにした。

ひとは『そ、それに……』

松岡「?」

若干言い難そうに言葉に詰まる三女さん。
私は不審に思いつつも黙って続きの言葉を待った。

ひとは『と、友達って……見ててくれてるって言ってくれたし……』

前言撤回。“あれ”じゃ良くなかった。
全然終わりよくない!

松岡「っ! あ、いや、あれは……つい勢いでっ! わ、忘れて!」

ひとは『やだよ、忘れない』

三女さんがみっちゃんを弄る時の様な、少し余裕のある、それでいて意地悪な声で言う。

松岡「ど、どうして!?」

でも、次の台詞は短い沈黙の後、少し恥ずかしそうに答えた。

ひとは『……嬉しかったから』

松岡「っ! ぁ……ぇっと」

私は言葉にならない声を発した後黙ってしまう。
三女さんも言ってから、恥ずかしい発言に気が付いたのか、私同様に黙ったまま。

とはいえ、このまま黙ったままなのもあっちからの電話なわけだし、悪い気がする。
もとはといえば私が電話するように誘導したわけだし。

そう思い至り、私は意を決して口を開く。

松岡「ねぇ!」ひとは『あの……』

……思いっきり被った。
さらに、私の口からと、携帯電話の向こう側から同じタイミングで「あ……」と言う声が漏れた。

ひとは『そ、そっちからでいいよ』

譲ってくれる三女さん。でも――

松岡「私からっていうか……三女さんが電話かけてきたのって相談の件……だよね?」

ひとは『あ、それなんだけど……――相談はしない。そう断るつもりで電話したんだよ』

松岡「え?」

ひとは『別に、松岡さんと相談したくないとかじゃなくて……保留にしておくのも悪くないと思ったから』

松岡「保留?」

ひとは『うん……詳しくは言わないけど、信じてみようかなって』

そっか、みっちゃんなら誰かを悲しませるような選択、絶対にしない。
だったらその選択は悪くないかもしれない。

結局、私なんかが相談相手になるまでもなく、三女さんは答えを見つけた。
みっちゃんを誰よりも知ってるから、当たり前といえば当たり前。
私がしてやれることなんて、本当に少しのことなんだと思う。

私は安心ともう一つ複雑な気持ちを抱きながら、携帯電話の向こう側に聞こえないように小さく嘆息する。

結局三女さんに電話をさせるために言ったあの言葉の通り――あ……そうだった。

松岡「三女さん! 最後にもう一つ謝らせて」

ひとは『?』

松岡「三女さんに電話を掛けさせるように誘導してごめんね」

ひとは『あ、うん……やっぱりワザとだったんだ』

やっぱり気が付かれていた。
三女さんは『はぁ』っとワザとこっちにも聞こえるように呆れたように嘆息して見せた。

ひとは『それについては、きっとどこかで埋め合わせしてもらおうかな』

松岡「お、お手柔らかに――」
ひとは『善処しないよ』

酷っ!

そうして、私たちは、別れの言葉を交わして電話を切った。


~ 予感(ひとは視点) ~

――――

ひとは「――ん?」

目を開くと私たちの部屋の天井が見えた。
夢を見ていた――違うあれは先週の木曜日の出来事だ。
そして今は週初め、日曜日の夜明け前。

眠い目を擦りながら視線を窓の外に向けると、外はまだ薄暗かった。
私はベットで座った体制のまま、状況を整理する。

あの後、みっちゃんが帰ってきて聞いた話だけど、杉ちゃんには本心を伝えたと聞いた。
てっきり「私も楽しかった」とでも言ったのかと思ったら「わからない」と言ってやったそうだ。
それから「明日勝負で買ったら日曜に杉崎と出かけるから!」とかなんとかとも言っていた。

勝負に関しては妙な展開――――そのうち語れるかもしれないね――――になってしまったけど
一応勝利を収めて、日曜日――つまり今日、二人で出かけることになったらしい。
えっと、本格的なデート……なのだろうか?

みっちゃん曰く、「わからないことを確かめるために行く」とか言ってたけど、よくわからない。
話を聞いてるとみっちゃん自身はデートって感じで出かけるわけじゃなく、ただ遊びに行く……みたいな感じだけど。
というかデートと遊びに行くのって何が違うのかよくわからない。
恋人同士で遊びに行くのがデート? だったら違うのか? いや――、……やっぱりよくわからない。
こんなこと考えるだけ無意味だし不必要だ。

私は眠っているふたりを起こさないように静かにベットから降りて、部屋を後にする。
そのまま、朝食を作る準備をするため階段を下りた。

たしか……「8時に起こしてよね!」とか言ってたっけ?
だったら起こした時に朝食を食べれるように今の内から準備をしておけばいいだろう。
元々こんなに早く起きるつもりはなかったが、折角だし少しは手の込んだ朝食でも作って上げてもいいだろう。
ついでにみっちゃんと杉ちゃんのお弁当も作って置こうかな。

私は片手鍋に水を注ぎ入れて、コンロに火をつけた。

……。

あの日の夜、私は松岡さんに電話をかけた。
ふたばとお父さんがお風呂に入っているときで且つ、みっちゃんが部屋にいるときに。
松岡さんはすぐに電話に出た。
電話の内容は相談――ではなく、謝罪だった。しかも松岡さんからのだ。
謝る必要なんてない、感謝してもし足りないくらい今回ばかりは助けられた気がするし迷惑もかけた。
だから、本当は謝るべきは私だったのかもしれない。

結局私の悩みは保留という形で胸にしまってある。
多少の整理はしたけど。
私はみっちゃんに依存している……気がする。
そのみっちゃんが別の誰かと必要以上に仲良くされるのが嫌……なんだと思う。
でも、みっちゃんを信じることで、悩みの解決はみっちゃんに委ねることにした。

自分勝手で無責任だと私は思う。でも、私たち姉妹はそれで良いんだとも思う。
自分たちの身勝手さをお互いにぶつけ合って、それで姉妹で解決していく。
例えそれで良くない方向に転んだとしても、私はみっちゃんを恨んだりしない。

――っと、お湯が沸いた。私はだし入り味噌をお玉の上で溶かしていく。

……。

それでも先週のことを夢で見ているのだから、完全に吹っ切れたわけじゃないのだとも思う。
きっと、また悩むこともある。
その時は「いつでも相談してきていい」といった松岡さんに相談してみよう。
あの時のことを思い出すと、松岡さんは優しくて……ただのオカルトマニアじゃないのだと見直した。
意外に頼りになるのかもしれない。

味噌が解けた片手鍋の中に、豆腐、ワカメを入れる。
とりあえず具も少なく、簡単な味噌汁だけど完成。
あとは何を作ってあげようか……。そう考えていると――

<~~♪>

――電話? ……こんな時間にいったい誰だろう?
不審に思いながらも電話に出る。

ひとは「もしも――」松岡『三女さん! やっぱり起きてたわね!』

私は突然の大声に受話器耳から離して、受話器を睨みつける。
睨みつけたからって相手には伝わるわけないけど。

松岡『今日、杉ちゃんとみっちゃんが二人で出かける日でしょ?』

……嫌な予感がする。
そんな私を余所に松岡さんが言った。

松岡『一緒にあと付けてみない?』

おわり