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――――――――――


キーンコーンカーンコーン

ふへぇ……。やっとガッコ終わったぁ~……。

「あー…今日も疲れた。クタクタだぜ」
「千葉くん、最後思いっきり寝てたよね」
「睡眠学習してたんだよ」
「じゃあ、次の宿題は手助け要らないね」
「え~っと、それはまた別問題であってだな……」
「おい千葉ぁ、ゲーセン行こうぜ。駅んとこの。
アベちゃんとうっちん呼んで2vs2のランダム戦やろっぜ」
シノケンは俺の答えの前に、すでにスマホの上で指を踊らせ召集をかけていた。
今日は三女さんたちから借りたノートをコピって勉強しなきゃならんのだが……いいか。
テストは来週なんだから、コピーだけしときゃあ時間はあるさ。

「あれ?
篠田くん、塾は?」
「休み」
パソコン部に向かおうと立ち上がった本庄が口にした素朴な疑問に、シノケンはしれっとした顔で答える。
よくもまあ。ある意味感心するぜ。

「サボりだろが」
「おっ、アベちゃ~んからメール返って来た。
おっけだって」
「…ま、好きにしろや」

俺も中学の後半(だけ)は塾へ行っていたから、アレのめんどくささはよくわかる。
……サボった場合、家に帰ってから余計に面倒な事になるんだが、
こいつの自己責任にまで踏み込むつもりはサラサラ無い。

「俺、一旦帰ってチャリンコ取ってくるから、先行っといてくれ。
一応言っとくが、メダル引き出しのパスワード変えといたぞ」
「え~~!
ケチケチすんなよ、2000枚もあるんだから」
「ざけんな。
貴重なタネ銭払って、コツコツ貯めた俺の財産だっつの。
んじゃ、後でな」
「ケチ学帽!お前には友情がないのか!そんな子に育てた覚えはありませんよ!」
シノケンはなおも意味不明の文句を唱え続けてるが、んなもん相手にしてられるか。
背中で受け流しながら、さっさと教室を出る。

「あっ、ちょうどよかった。
久しぶりだね、えっと…千葉、くん」
そしてすぐに、今度は別の野郎に呼び止められてしまった。

背は俺よりちょい下くらいに高く、物腰からも雰囲気からも真面目さがにじみ出ている、爽やか系のイケメンだ。
久しぶり、と言われても俺はこんな輩に覚えは……んん?

「夏の試合のときはお世話になったね。ありがとう」
夏の試合…ってことはやっぱそうか。

「弓矢部の奴だよな」
「うん、そう。
弓道部の野崎だよ……ごめん、考えてみたらあの日は自己紹介もしてなかったよね。
野崎智也。
よろしく、千葉君」
弓野郎はイケメンらしくはにかみながら、スッと握手を求めてきた。
無論、俺に野郎の手を握る趣味は無い。のでポケットに両手をつっこんだままスルーしておく。
この後の展開を考えると、余計に仲良くする気なんて起きねえし。

「んで、何か用かよ。
俺、帰るところなんだけど」
「……ああ、えっと、ちょっと話があるんだ。申し訳ないけど時間もらえないかな」
差し出した手を無視された弓野郎は、一瞬停まったがすぐに爽やか笑顔に戻って(その余裕もむかつくな)、
はきはした声でしっかり要求してきやがった。

さて、俺とは全く接点のなさそうなイケメンが、下手気味(?)に出向いてきた。
イケメンさえも思わず弟子入りを申し込みたくなるほど、俺から発されるオーラが漢気に満ちているからだ。

なわけはない。

「丸井の事か?」
「……まあ」

やっぱな。
ったく…またかよ。俺は三女さんのマネージャーじゃねえっての。
めんどくせえ。

けど、

「りょーかい。
おーいシノケン!悪ぃけどさっきのナシで!
今日は真面目に塾行っとけ!!」

その分、あの人の『面倒』を減らせられるんだ。
やるしかないだろ。





「うあ~あ、いつになったら涼しくなんのかね………」

弓野郎を引き連れてやってきたのは、こういうときにいつも使う場所。
ウチの1-Cから出てすぐ、隣の校舎と繋がる3階渡り廊下だ。
4階部が屋根になって日陰を作ってくれて、風通しもそこそこいいはずなんだが、それでもやっぱ暑いもんは暑い。
寄りかかったコンクリ壁も、日差しで熱されてやがる。
あーくそっ、パソコン部で話したいな。あそこクーラー効いてる…でも部外者立ち入り禁止なんだよなぁ。
静かで声も響いちまうから、込み入った話はしにくいし。
もちろんここだって、放課後とは言えチョコチョコ人が歩いてるが、外からの音でそこそこうるさい上、
野郎ふたりが話してる事なんか誰も彼も興味ないから、ただ通り過ぎていくだけだ。

「あっ、野崎くんバイバイ」
「ああ、うん。さようなら」

前言撤回。
イケメン様ってのはどいつもこいつも目をひくみたいだ。
何人かの女子が、弓野郎に『だけ』挨拶して帰っていった。
しかもさっきの女なんて、こいつが返した途端嬉しそうに顔を赤らめながら『キャー』とか走っていくし。
へーへー、人気があって結構なことですね。ケッ。

「さっきの子は同じクラスの子でさ。
…で、あー……まずは、夏の事。千葉君も弓を届けてくれてありがとう。お礼、遅くなってごめん」
「『千葉』でいいよ。でもって礼もいらねえ。
俺はただ持って行っただけだ」
「でも、その分の時間を割いてくれたじゃないか。だからありがとう」
態度悪くかったるそうに話す俺に対しても、イケメン様はあくまで爽やかだ。
丁寧な言葉遣いには嫌味とかそんなのは1%も見当たらないし、
丁寧に頭まで下げて、気持ちが表面のモノだけじゃないって証明してくださる。

あー…そういや、家がちょい遠い町の地主かなんかやってる奴が弓矢部に居るって噂を聞いたような。こいつなのか。
つまり、お家がよろしいんで、根元から礼儀ができてるわけだ。
佐藤んちも親父さんの稼ぎがいいし、イケメンはデフォルトで金持ち設定が付いてくるのか?
ううわ、なんだよそれ。
この不条理に対する怒り、また佐藤にちょっかい出して晴らしとこう。

「あの日の試合に勝てたのは、丸井さんと千葉が俺の弓を届けてくれたおかげだよ。
いや、それ以上にあの弓は祖父からもらった大事なものだったから……。
……こっそり返してくれたのも助かった。
弓を隠したのは俺の小学校からのとも「その辺の細かいストーリーはマジ興味ねーから。悪いけど」

8月の登校日、弓道場がうるせえなぁって思いながら帰る途中だった。
三女さんが『妙なところから『視線』を感じて気になったから』と、弓を持って(音も無く)現れた。
落ちてた場所からして誰かが嫌がらせかなんかで隠したんだろうと踏んで、持って行こう……としたけど、
人が集まりすぎてて近寄れない(実際は三女さんが行けば人が割れるから、ある意味簡単に行けるが)、
って困ってたから、俺が代わりに持ち込んだんだよな。

こういう事になるのは読めたんだから、俺が見つけたって言って渡せばよかったかなぁ……。

「こっちだって忙しいんだ。さっさと要件頼むぜ」
「……そうだね」
弓野郎は俺のぶった切りに軽く鼻白んだが、一拍後には体勢を直して……だけじゃなく、
硬そうな覚悟まで用意してから言葉を続ける。

「話っていうのは、丸井さんにもお礼を言いたくてさ。
それで彼女の携帯番号を「丸井は携帯持ってねえ」

やっぱコレか。
なぜだか知らんが、俺が三女さんの携帯番号を知ってるって噂が学校に広まってんだよな。
おかげで1学期は地獄だったぜ。噂を広めた張本人は絶対見つけて、御礼してやる。
俺はみつばの番号すら知らねっての。

……知らないと言うか、教えてもらえなかったんだが。
あの雌豚、この4月から携帯持ち出したから軽く番号聞いてみたら、
『なんであんた如きに教えてあげなくちゃなんないのよ。思い上がらないで』とかほざきやがった。
そのくせ、あいつは好きなときに非通知でかけてきやがるし(番号の流出元は松原か杉崎だろう)…くそっ。
世の中むかつく事ばっかだぜ。
…って、とりあえずみつばの事は置いとこう。今は三女さんについてだ。

「まだあの噂を信じてる奴が居たって事実にびっくりだよ。
あの人はマジで携帯持ってねえから、当然番号なんて知らない。ついでにマル秘情報的なものも知らない。
知ってるのは鴨橋町に住んでて、3人姉妹の三女で、姉が『丸井ふたば』で、
家事が趣味で、特撮ヒーローマニアってことだけ。
そんくらいはどうせお前も知ってんだろ。
一応丸井んちの電話番号は知ってるけど、教える必要性も意味もないから教えないし、
友達でもないのにいきなり家に電話かけるとか真性の変態だから諦めろ。
なんかで調べてもいいけど、あの人の家族からイタ電と判断されたら、
『丸井ふたば』の取り巻きに即殺されるから覚悟しとけよ。
以上」
もはやテンプレとなった『三女さん情報』を機械的に並べ立てていく。
よどみなくスラスラ言えてしまう自分が果てしなく悲しい。

……しかしあのふたば親衛隊(正式名称は忘れた)の連中、何をどうやって情報集めとかしてるんだろうか?
あいつらにつっこんだら敗けだと思って、ある程度スルーしてるが、やっぱ気になるぜ。

「えー、あー……」
ガーッと連射された言葉に圧されて、弓野郎が目を泳がせる。
相手がジタバタしてる隙にさっさと消えるのは簡単だけど、そしたら今度は下駄箱に手紙コースなのは目に見えてる。
だから俺は、ちゃんと釘を打っておく。

「あの日の礼は俺から伝えとくよ。
お前があの日助かったって事だけで、丸井は充分喜ぶよ」
「いや…やっぱりお礼はちゃんと自分で言いたいから………」
さっきまでの歯切れのいいしゃべり方から一転、弓野郎はモジモジもにょもにょしだした。
キメえ。そういうのをやっていいのは可愛い女子だけだ。

「じゃあ普通にAクラ行って言えや」
「そりゃそう、なんだけど………。
丸井さんいつも誰かと居るし、ひとりになるとすぐ消えちゃうっていうかさ………。
ああっ、変な事いうけど彼女本当に『消える』んだよ。ずっと見てたはずなのに、パッと居なくなるんだ。
それでさ、まあ、落ち着いて話せる機会を持ちたいっていうか……」
「落ち着いて、個人的に伝えたいって事は、礼以外の意図が有るってことだろ。
そういうの、丸井には迷惑なだけだぜ。
家と家族の事が忙しいから、今は誰かと付き合うとか考えられないって、
そう言われて学校中…どころか他校も含めてイケメン野郎がこぞって振られたの、知ってんだろ。
『髪長姫』は、真剣に忙しい人なんだよ。俺らと違ってな。
だからやめとけ」
「あー……知ってる、んだけど……」
「自分は違うってか?
自分がイケメンだからか?金持ちだからか?学校の人気者だからか?
少なくともこの高校では、自分と付き合えばメリットがでかいってか?」

そうだろう。その通りだ。損得で言えば丸ごと得だ。
ぐうの音もでねえ。

目の醒めるような美少女が、三十路前のパッとしないおっさんを想って悩んでるなんて、おかしいさ。

だけどさ、

「勘違いするなよ」


三女さんは自分の『幸せ』を目指して、自分の力で一生懸命前に進んでるんだ。
横から他人がどうこう押し付けんな。


「丸井はただ、拾ったものを持ち主に返しただけだ。そんなの当たり前だろ。
お前と仲良くしたいってんなら、あの日自分で直接渡したよ。
勝手に運命感じちゃって暴走すんなよな」

ただでさえ歳の差があるってのに、相手は元担任だ。しかも小学生のときの。
常識以前の問題だらけだ。ロクな事にならねえに決まってる。
一生懸命頑張るだけ頑張って、傷ついて終わるかも知れねえ。
何も知らないガキが、勝手に夢見てバカやってるだけなのかも知れないさ。

「知ってるだろ、あの人は誰にでも優しくて、親切なんだ。そういう人なんだ。
ちょっとくらいお前が特別だとしても、お前だから特別なストーリーに発展したりなんて無いっての」

んな事は本人が1番わかってんだよ。
わかってて、わかってるから頑張ってるんだ。
恥ずかしがり屋で怖がりで、頭が良い分先の事が気になって、頭の中ぐちゃぐちゃになって、
それでも『外』に出ようって、勇気を出して頑張ってるんだよ。

あんなに小さな、すぐに壊れてしまいそうなくらい華奢な子が、歯を食いしばって頑張ってるんだよ。

「………わかってる、つもりさ。
あんな事がきっかけで上手くいくなんて、本気で思ってるわけじゃない。
だけどせめて、自分の気持ちだけでも伝えたいんだ」

だから押し付けないでくれ。
あの子が自分の足で立って頑張ってる間は、あの子の思うとおりにさせてくれ。
させてあげたいんだ。

俺らは子供だけど、だから頑張る権利は誰にも否定させない。
させるもんか、絶対に。

「お前さ、弓を拾ってきたのが普通の女子でもこんなに突っ走ったのかよ?
さっきの女子みたいに、軽く流して終わりだったろ。
ただ相手が『髪長姫』だから、過剰反応で勘違いしちゃってるんだよ。はっきり言って痛いぜ」
「いっ…いや、そんなつもりじゃないって。
俺は真剣に……」
「俺のダチにもイケメン野郎がいるからわかるんだが、お前ら基本、
女が自分を気にしてるって自惚れがあんだよ。ズバっと言って悪ぃけど。
実際、自分の告白が相手に迷惑になるかもって、真剣には思ってねーだろ。
って言われても理解できないのが変だって、わかれ」
「………………………」
ここまで言われてやっと、勘違い男は静かになる。
悔しい気持ちをぐっと噛み殺し、苦い顔で飲み込む。

「じゃあ、キミみたいに」
わけがないよな。
いいさ、ここまで言われて黙ってたら男じゃねえって、それはわかってやる。

「じゃあキミみたいに、適当な距離でナイト役をやり続けて、
彼女から気付いてもらうのを待つのが正しいっていうのか。
そういうのこそ、一方的だって思うけどな」
「はあ~~……。
その手の勘違い、本気で迷惑なんだが。
俺は別に丸井とどうこうなりたいなんざ、思ってねえっての」

どいつもこいつも勝手に勘違いするな。

「お前らさ、噂ででもいいよ、俺が丸井の彼氏だ的な妄言吐いたって聞いた事あるか?
丸井と付き合いたいみたいな不相応な夢を語っちゃってたって、聞いた事あるか?
お調子者のバカな男なんだから、そういうの思ってたらダチにポロっと漏らすだろ。
俺はお前らよりよっぽど現実見て生きてんだよ。
丸井とはちょっと関わりがあるだけだって、自分の立場を知ってるんだ」

俺は勘違いした事なんて1度も無い。
知ってるんだ。直接聞いたから。

あの日、あの夕日で金色に染まった河川敷で――…



―――そうだね。私らしくないよね。…でも、だから変わらなきゃって思ったんだ。
―――先生のパソコン。今の…ううん、これまでの生徒達の事がすごく細かく書かれてた。
―――先生にとって、誰かを助けるっていうのは、誰かの幸せのために頑張るっていうのは当たり前の事なんだよ。
―――先生と一緒に居るには、『私』のままじゃふさわしくないんだって、そう思ったの。
―――先生みたいになりたい。いきなりは無理だけど、できる事からやってみようって、そう決めたんだ。
―――先生へ――
―――先生を――

―――私は、先生が――



……俺は『登場人物A』の端役を、端役らしくこなしてるんだ。これまでも、これからも。

ただ、思っただけだ。

「ま、あいつの苦労もちったあ理解してるから、
お前らみたいなのに聴かれれば、正直に答えてるんだよ」

想いを語る横顔がすごく綺麗だって。
頑張って誰かに手を差し伸べて、なのにこの娘が傷つくなんて、すごく悲しいって。

それだけなんだ。

「………………………」
やれやれ、黙ってくれたか。今度こそ話は終わりだな。

俺はそう判断して壁から背を離し、黙りこくった野郎を置いて下駄箱へと「関わりって、小学校の時のかい?」


!!?


心臓が凍る。ギョッとしてモロに背中が震えたのが自分でもはっきりわかる。
一瞬後には、動揺しちゃまずいだろって脳が命令するけどもう遅い。今のキョドりは見られちまった。
何だコイツ何で知ってんだ偶然か偶然だろ落ち着け探りを入れろあくまでサラッと背中向きのまま!

「な…ナにいってんダお前?」
アホか俺!声が上ずってんぞ!

「噂で聞いたんだ。
丸井さんが小学生の時の担任と……その…デキてるって。
千葉は…何年生のときか知らないけど、その担任のとき丸井さんと一緒のクラスだった……んだろ?」
ちょっ…マジでか!?んな噂が流れてんの!?
8割方正解に辿り着いてんじゃねーか!!

「…………はあ?
お前頭ダイジョーブか?エロ漫画かなんかの読みすぎじゃねーの?
俺、小学生のとき丸井とは2、3回同じクラスだったけど、
んなエキセントリックなロリコン教師なんて出会ったことねーって」
必死で心臓を押さえつけ、乾いた喉を湿らせてから、なんとかばかばかしそうな声音を引き出す。
……背中向きのままってのが不自然なのはわかってるが、しょうがないだろ。
汗だくの顔を見せるわけにはいかねえっての。

「………そりゃ、まあ、確かにありえない話だけど……」
「だろっ!?」
相手が迷いを見せてくれた分、こっちに余裕が戻ってきた。
勢いのままバッと振り返り、ガンガン畳み掛けてやる。

「教師と生徒がなんて漫画だぜ?しかも出会ったのは小学生の頃だぜ?常識で考えてありえねーだろ。
いるんだよな~。他にも『幼なじみフラグ』とか真顔で言う奴もいたし。痛ぇっての。膿んでんじゃねえか。
何であの超絶美少女があんなおっさんを好きになるんだっつーの。
アレだろ、どうせ三女さんに振られたヤツが腹いせに広めたデタラメだろ?
お前、嫌がらせの片棒担いでんのと一緒だぜそれ。最低だよ。もう忘れろってんなネタ。
………なんかしょっ…証拠、みたいなのでもあんのかよ?」
「……………………」

無いだろまさか?黙ってんじゃねーよくそっ、さっさと答えろ!心臓がめちゃ痛いんだよコッチは!!

「無い、さ。噂だけだ」

よっしゃあ!! 「でも」 なんだよ!?

「じゃあ何で千葉はそんなに髪長姫に近いんだい?」
「…そりゃどーいう意味だよ。俺みたいなバカゴリラが髪長姫と仲いいのは納得いかねーってか」
「……悪いけど、そういうの、有る」
だよなー。俺もすげーそう思うわ。
超マズイ。俺のせいで三女さんに迷惑かけるなんざ、最悪だ。

「お前、素でむかつくな。
……あのなぁ、俺は丸井と近所で小中一緒なんだ。ちっとぐらいは親しくなるっての。
あいつだって人間なんだから、誰とも関わらずに生きてくなんて、それこそありえねえだろ」
「その条件で括るなら、該当する男子はこの学校にも沢山居るじゃないか」
「そ…そりゃそう、なんだけどよ……」
だぁ~、やっぱこれは答えになんねえか!
わかっちゃいたが厳しいぜ。

「それにさっき千葉は言ったよな、『関わりがある』って。
やっぱり何かあるって事だろ?」
「うっ……」
俺のウルトラスーパーバカ野郎!!
なに調子乗って余計な事くっちゃべってんだ!!
ええいちくしょう、どうするどうする!?早く反論しろ黙ってちゃ余計怪しいぞほらもう5秒は経った早く!!

「……ちっ、しゃーねえ」
「?」
「まあホントの事言うと、丸井がかなり親しくしてる野郎が居てさ。
付き合ってるとか、そういうわけじゃねえけど」
「……やっぱりそうなのか」
「ああ、佐藤って言ってな」
困ったときのイケメン頼りだ。
許せ佐藤、巻き込ませてもらうぜ。お詫びに今度うまい棒奢るからな(それ以上奢るつもりはない)。

「そいつこそ丸井と超近所でさ、もちろん小中と一緒だった…っていうか、
幼稚園から11年間ずっと同じクラスだったんだ。
今はそいつ私立行ってるけど、やっぱそんだけいつも一緒に居たらそりゃあな。
しかもそいつ、イケメンで頭良くてサッカー上手くて結構金持ちなんだよ」
やべー。佐藤を殴りたくなってきた。

「何よりすげえのが、そいつの丸井への尽くしっぷりでさ。
ガキの頃からずっと、丸井が願ったら何でもやった。
ちょっと見てて引くレベルで何でも。
丸井が『空を飛んで来て』って願ったら、飛ぶレベル」

どうやってかって?知らねーよ。でも飛ぶんだよ。
ふたばが願えば、あいつは何だってできるようになるんだから。

「…じゃあ、なんで別々の高校に進んだんだい?」
「さっきも言ったが、別に付き合ってるってわけじゃないからな。
傍から見てるとなんだそりゃ、って感じだが……ま、そういう関係。
それに丸井も最近は、あいつの負担になってるって気付き始めたみたいで、
ちょっと距離おいて自分で何でもやろうってしてるんだ」
松原との事も含めて、さ。
それがわかってないのは佐藤だけだ。本当にバカな男だぜ。

「んで、俺はその佐藤とガキの時からつるんでるんだよ。
むしろコンビ組んでた。漫才でようぜってくらい。
さっきイケメンのダチが居るって言ったろ?そいつ。
だからそいつを挟んで、俺は丸井とちょい関わりがあるんだよ」

『上手い嘘は真実を何パーセントか混ぜること』。
昔そう本で読んだ気がするが、本当の事だったんだな。
スラスラと『間』を埋めるネタが出てくるぜ。

「あんま見せたくねーけど、そいつと俺と丸井が一緒に映った写メあるぜ。
髪長姫の写メだぜ?
知ってるだろ、写真に撮られるの嫌ってて、しかも勘が良いから盗撮もできないって話。
その写メがあるって意味、わかるよな」
ここは、賭けだ。
本当は三女さんが映ってる写メなんてねえ。
見せたくない理由は用意してるし、佐藤と俺の(ふたば撮影)はあるから、リスクは小さくできてるが、
それでもかなり踏み込んでる。
口調はさっきまでと同じでダルそうな演技を続けてるけど、心臓はバクバク鳴って痛いくらいだ。
頼む、上手くいってくれよ……!

「……見せたくないって、どういう事さ?」
「見せたら、こいつなら勝てるかもとかお前が思うだろ。
ぶっちゃけお前なら、佐藤とイケメン度は互角だと思うし、あいつ背ぇあんま無いからなー。
それがめんどくさい。
別に見せたくないのはお前だけってわけじゃないぜ?
変に現実見せて基準を作ったら、学校中色々めんどくせーことになるだろ。だから佐藤の存在自体隠してる。
つか、当然丸井だってこんな完全プライベートな事に踏み込まれたくないだろうし、
正直勝手にこんだけ話した上、写真まで見せるのは俺もすげえ気まずいんだよ。お前にんな義理もねーし。
ケチくせえだろうが、でかい『貸し』にさせてもらう。
それでもどーしてもって言うなら、見せてもいい」

さあどうだ!?

「……わかった。ごめん、いいよ写真は。
それに俺のわがままで、もうかなりキミたちのプライベートに踏み込んだよね。本当にごめん」

よっしゃあ!!パート2!!

「そういうこった。
あ~あ、貴重な放課後を30分も使っちまった。つか、お前も部活いいのかよ?」
「ああ…ごめん、そうだね。部活には遅れるって言ったけど、確かにもういかなきゃ」
「おう、お勤めごくろーさん。
んじゃあな」
長居は無用だ。
俺は右手をひらひら振って、この場からさっさと離れることにする。

あー疲れた。

「ごめん!もうひとつだけ!!」
パアン、と手のひらを合わせる音と共に、弓野郎が声を張り上げる。
こいつの声質は良く通るから、結構遠くまで響いたみたいだ。
校舎の方を通っていた女子が、びっくりしてコッチを向いたのが見えた。

まだあんのかよ……。

「あんだよ?」
「……その佐藤くんとは、付き合ってるわけじゃないんだよね?」
「ちっ…『まだ』な。そういうレベル。
未練がましいぜ、お前。
さっきも言ったが髪長姫にちょっと優しくされて勘違いして、俺にこんだけ時間使わせといてよぉ。
おまけに突っ走って丸井に迷惑までかけるようなら、流石に普通にキレるぜ。あんま関係ない俺でも。
そういうの、全部考えて行動しろよな。すでに普通人の俺から見て痛いぞ」
「………ああ、わかったよ。度々ごめん」
再三俺が釘を打ち込んでやっと弓野郎は話を打ち切り、神妙な顔で再び頭を下げてから校舎へと消えていった。

……あれだけやっておけば大丈夫、だろう。と思いたい。
にしても、反省点ばっかだったなぁ。特に最初のがまずかった。
かなりあやふやな噂だったし、キョドらなけりゃどうとでも誤魔化せたはずだ。
あらかじめの心構えもだが、なんか作戦考えるかぁ……。

「はぁ~あ……めんどくせ」