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「はいみんな席に着いてー。授業始めるよー…ってあれ?」

教室に入ってきた矢部っちこと担任が不思議そうな顔をした。

「緒方さんに伊藤さん、それに加藤さんは?」

「三人とも給食のあと気分が悪いって保健室に行ったっスよー」

ふたばがこう答えると、教室がにわかにざわつき始めた。

「あの変態集団がそろって…」

「絶対に何か裏があるわね」

「そしてその原因というか目的はおそらく…」

クラス中の視線が俺に集まってくるのをひしひしと感じる。

「お前だな、佐藤」

千葉よ、なぜこういう事になるとお前はそんな恨めしげな目で俺を見るのか。

関係ないだろ、と反論しようと思ったが、自分でもさすがに全く関係なくはない気がする。

「あいつらだって、病気になることぐらいあるだろ?」と言ってみるが、

「佐藤以外の男子と接触した時とかね」

「まあ常日頃から病気みたいなもんだと思うけど…」

「恋の病だねっ><」

「三人と佐藤君の間には前世の恐ろしい因縁があるに違いないわ!」

だめだ、何を言っても説得力がない…

「じゃあ、しんちゃんがお見舞いに行けばきっと治るっスよ」

「それもどうかと思う…」ボツリ

「ねー、授業始めたいんだけど、いいかなー……」

結局三人が教室に戻ってこないまま、終業のチャイムが鳴った。
俺はふたばと千葉の誘いを断って、保健室へと足を運んだ。
別に責任を感じたわけじゃない。いやそもそも何の責任だよ。ただ少し気になっただけだ。
俺はこんな調子だから「良くも悪くも優等生」なんて言われるのかな、と思いつつ、保健室のドアを開けた。

「失礼しま…」眼鏡の保健医は居なかった。

保健室には三つのベッドがある。その内二つは空いていた。
残り一つはカーテンで覆われている。少なくとも今保健室で寝ているのは一人だ。
中を除いて誰が寝ているか確かめる、なんてことはするべきじゃない。女子だし。
もういいや、帰ろう、と思ったその時だった。カーテンの奥から声が聞こえてきた。

「ん…コホ、コホッ…。くる、し、助け、て、コホ、コホッ……」

心臓がギクリと高鳴った。苦しそうな女の子の声だ。誰の声かはわからなかった。
廊下を見渡したが先生が帰ってくる気配はない。それどころか誰もいない。
女の子の咳はだんだんゲホゲホと激しくなり、助けを求める声は苦しげになっていく。
ダメだ、照れてる場合じゃない。ベッドに駆け寄ってカーテンを開けた。

信じられないような光景がそこにはあって、俺の思考は数秒の間完全に停止してしまった。

「うふ…佐藤くんなら来てくれるって…信じてた…」

ベッドの上に横たわっていたのはクラスメイト、伊藤詩織だった。
それだけなら驚かない。伊藤はあろうことか一糸まとわぬ姿だった。
女の子の裸なんて見たのは何年ぶりだろうか。ふたばと最後に風呂に入ったのは…。
そこで俺は我に返った。あわてて目をそらす。

「いっ、伊藤!?だ、大丈夫なのか!?」

「大丈夫…佐藤君が来てくれたんだもん♪」

「ひょっとして、さっきまでの声は…」

「私の演技、なかなかのものでしょ?
栗山っちを騙すのは簡単だけど、佐藤くんは上手くいくか心配だったの…」
てことは、もしかして先生がいないのも計画通りだったのだろうか。

「緒方と加藤はどうしたんだよ?」

「あの二人は私と違って本当に体調が悪いの。だから早退したよ。
心配しないで。長引かないように加減はしたつもりだから」

「お前……。わかった、お前がすごいのはわかったから、頼むから何か着てくれ」

「…やっぱり佐藤くんはパンツはいてるほうが好きなんだね」

「否定しないからパンツ以外も頼む、お願いだ」

「…いいこと思いついちゃった♪
私が今ここで悲鳴挙げたら、佐藤くんはどーなるかなぁ?
寝ている間に佐藤くんに脱がされちゃいましたってみんなに言ったら、どーなるかなぁ?」

「おっ、おま…やめろよ、そんなこと…卑怯だぞ!」

「卑怯なんかじゃない」

伊藤の声が別人のように変わった。

「私はなんにも間違ってない。ただ佐藤くんが好きなの。
おがちんも、真由美も、佐藤くんのことがほんとうに好きなわけじゃないの。
おがちんは佐藤くんを追いかける事のほうが佐藤くんそのものよりも好きなの。
真由美もそういうおがちんに付き合ってあげてるだけよ。
もうあの二人には合わせてられない。私はほんとうに佐藤くんが好きだから。
二人とも最初は泣くだろうけど、きっとその内また別の男の子を好きになるわ」

「いや…でも、俺には、その…」

「ふたばがいる、でしょ?知ってるよ、佐藤くんがふたばを好きだってことくらい。
でもね、あの子はあの子のパパと佐藤くんを重ね合わせてるだけ。
あの子が恋愛感情ってものを知るまでにはだいぶ時間がかかると思うわ。
それまで佐藤くん、我慢できる?中学生になってもだよ?」
伊藤が俺の襟元に手を伸ばしてきた。

「私の顔見て、佐藤くん…
私じゃだめ?私、佐藤くんになら何されてもいいよ…今すぐでもいいの…」
首筋に伊藤の吐息がかかる。俺は伊藤が泣いていることに気付いた。

「好き…佐藤くん、好き…」

俺の頭はすでに相当混乱していたが、この涙は演技ではないと思った。
首から下を見ないように努めて、伊藤と向かい合った。
伊藤の泣き顔を見たら、なぜだろうか、抱きしめなければならない、と思った。
経験がないのでぎこちなかったが、伊藤の背中に腕を回した。暖かかった。

「…わかった。伊藤の気持ちはわかったよ。
でも、何されてもいいとか、そんなこと言っちゃ…だめだ。
伊藤はそんなこと言わなくてもいいから…俺も伊藤の事…好きになるから…」

「さとう、くん…」

伊藤の目からさらに大粒の涙がこぼれた。

「だから、その…服、着よう、な?」

「うん♪」


────────


伊藤はカーテンの向こうで服を着ている。

「ねえ…佐藤くん…」

「?」

「ずっとそばにいてくれる…?」

「うん」

今日は伊藤を家まで送ってあげたほうが良さそうだ、と思いながら答える。
明日以降クラスでどう生存していくかは、それから考えよう。



「…伊藤には、俺がついてるから」



ガラガラッ
「話は聞かせてもらったわ!!」

「ま、松岡っ!?」

「やっぱり伊藤さんには佐藤君が憑いてたのね?私は最初から今日の件は生き霊の仕業と踏んでたの。
さあ、生き霊!!…にしては実在感あるけど。覚悟っっっ!!」

「やっ、やめろーーーーーー!!!」

END