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ひと「誰か……助けて……」

たまたま忘れ物を取りに来ていた彼女には運が悪かった
突然立ち上る黒い煙と共に
一瞬にして校舎は真っ赤な炎を渦巻き、彼女の行き場を塞いでしまう
必死に逃げ、冷静な判断で幾つもの障害を乗り越えてきたが
とうとう気力を使い果たし、追い込まれてしまった

叫びは空しく炎に消え
炎に巻かれ、崩れゆく建物は彼女に向かって落ちていく
涙ながらに瞳を閉じ、覚悟を決めた彼女だったが
その最後の瞬間を待てども何も起こらない

?「大丈夫かい……?」
ひと「え……―――!?」

それは幻想だろうか、彼女が死ぬ間際に見せた夢なのか
落ちてきた瓦礫を支え、自分を守ってくれた相手
彼女の知る限り、最も愛し、最も会いたかった人物がそこにいた

ひと「ガチ……レッド……」
ガチ「危ない所だったね、ひとはちゃん」
ひと「ど、どうして……私の名前を……」
ガチ「知っているさ……」

受け損なった瓦礫の破片が彼の頭を掠めていたのか
ひび割れ落ちていくメットから覗かせたのは
彼女のよく知る、もう一人の人物……

ひと「……え……矢部……先生……?」
矢部「はは……バレちゃったね……」
ひと「そんな……」
矢部「ゴメン……キミの好きなガチレッドがボクみたいな男で……
    落胆させてしまったよね……」

支えていた瓦礫を押しのけ、安全を確保すると
驚愕しているひとはの元へ歩み寄る彼

ひと「そんな事……ありません」
矢部「いいんだよ……気を使わなくても」
ひと「違います……むしろ……嬉しいんです」
矢部「嬉しい……?」
ひと「…………だって」

立ち上がり、ふわりとスカートを翻すと
笑顔を向けて彼の胸元に抱きついた

ひと「私は……ガチレンジャーも……矢部先生も大好きなのです」
矢部「――――!」
ひと「…………」
矢部「……そ、それは……」
ひと「先生は……どう思っているのですか……」
矢部「……え?」
ひと「……いくら童貞でも、あまり女性に恥をかかせるのはどうかと思います……」
矢部「ご、ゴメン……!」
ひと「……ギヌロ」
矢部「あ、いや……そんなの……決まってるよ」

矢部「ボクも……ひとはちゃんの事―――――

チュンチュン



矢部「…………ぇ?」

気がつくと、ボクは見知らぬ場所にいた
……いや、よく見ればボクの部屋だった
何が起こったかわからないボクは辺りを見渡す
この汚さは、間違いなくボクの部屋だ

矢部「……え、夢……?」

思わず口に出してしまった後は、激しい後悔と
とんでもない恥ずかしさがこみ上げてきた
ぼ、ボクは……なんて夢を見てるんだ……っ!?
そう言えば随分前に避難訓練をリアルにした事もあったけど……
あの時は……

矢部「…………ひとはちゃんで口を……」

か、顔から火が出そうだ……!
夢で見た相手ってのはどうしてこうも変に気になるんだろう……
今日は幸い日曜日
学校に行く必要がないから、頭を冷やせるけど……

手元にあった時計を見てみると、まだ5:30だった
偉く中途半端な時間に起きてしまったモノだ
もう一度布団に入って寝ようと思ったが
どうにも先ほどの夢のインパクトが強すぎて寝る気になれない

その時、階下から足音が聞こえてきた
新聞の配達員かな、なんて気楽な事を考えていたボクは
足音が部屋の前まできた所でやっと気がつく

矢部「……日曜……」

そう、ひとはちゃんがボクの部屋に来る日だった
ボクは一体どんな顔をしてひとはちゃんに会えばいいのか
鍵が開く音が聞こえ、ドアノブが動く
高鳴る心音は、まるで王子様を待っていたお姫様の鼓動のようだ

ひと「…………」
矢部(……ドクン……ドクン)

しかし、何故かいつまで待ってもひとはちゃんは部屋に入ってこない
扉にはいつぞやのようにチェーンはかけていないはず……
もしかしてかけてしまっていたかと思い、確認しようと扉の方へ瞳をゆっくり開いてみた
……やはりかかっていない

ひと「……あのほぅ……起きてますよね」

バレていた
カンの鋭いひとはちゃん相手にこれ以上は無駄な抵抗だ
素直に起きて、ゆっくり扉の方に歩んでいく

矢部「う、うん……さっき目が覚めちゃって……
    どうしたの……?入らないの……?」
ひと「……いえ……入ります」

扉を押し開いてあげると特に何事もなかったかのように入ってきた
なんだったんだろう
何か、今日のひとはちゃんは変だ
元気が無い……と言うのとはまた違う気がする
部屋に入ってからは、極々普通にチクビと遊んでいるのだが
心ここにあらずと言った感じだ

矢部「……どうしたの、何か元気ないみたいだけど……」

ボクが声をかけると、ビクッと肩を跳ね上がらせ
ゆっくりこちらに視線を向ける
ただ、すぐに目線を逸らすのがまた不思議だけど

ひと「いえ……べ、別に……」
矢部「……そ、そう?」

何か、こうもひとはちゃんが変だと割とボクは冷静になれてしまう
単純に心配……だよね……

矢部「……ボクなんかじゃ頼りないかもしれないけど
    悩みがあるなら聞くよ?打ち明ければ少しは楽になるかもだし……」
ひと「…………」

これは無理そうかな……?
極力触れない方が逆にいいのかも知れない
そう思った矢先、意を決したようにひとはちゃんがこちらを向いた
……や、やっぱり直視は出来ないけど……

ひと「……先生は夢を見ますか……?」
矢部「……そ、そりゃ見るよ……」
ひと「夢判断と言う物があるのですが……
   今日の私の夢は……全く持って理解が出来ないのです」
矢部(それはボクも同じだけど……)
ひと「私は夢の中で……忘れ物をして……夜の学校に取りに行くんですが……」
矢部「…………火事になる……」
ひと「―――――!?」

ひとはちゃんは驚いたままボクと目線を合わせる
それはそうさ、ボクだって驚いてるんだから

ひと「……先生」
矢部「……ボクも……同じ夢を……」
ひと「……何て……言おうとしたんですか?」
矢部「……え」
ひと「最後に……私は起きてしまったので……」
矢部「し、知らないよ!キミの見た夢の中のボクなんて――――

そう言い掛けて、ひとはちゃんの目線がボクをハッキリと捕らえているのに気がついた
逃げるつもりはなく、真っ直ぐにボクを見据え、覚悟を決めている
そんな顔をされたら……ボクも……逃げれないじゃないか

矢部「……うん」
ひと「…………」
矢部「ボクが最後に言おうとした事…………」

これは夢の続きだ
今ここには炎と瓦礫にまみれた学校がある
舞台にはボクと彼女の二人だけ
だから言える、逃げずに言える

矢部「……そんなの……決まってるよ……」
矢部「ボクも……ひとはちゃんの事―――――



矢部っちの正義パワーが0になりました、ゴメンナサイ。   おしまい