※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

私は駅のホームに立っていた。天気は最高に良く、出かけるには
絶好の日よりだ。気候だって、ちょうど良い。
けれど、めまいがするほど太陽がまぶしいのは何故だろう。

私は一体どこにいこうとしているのだろう。
何で今日、出かけようと考えたのだろう。よく分からない。
多分、歌詞を考えるためにちょっと遠出でもしようと思ったのだろう。

しばらく待つと、電車が来た。見たこともない形で一両だけしかないけれど、
そういう電車が来ることもあるのだろうと、それに乗り込んだ。



車両の中には自分と同じくらいの年代の
ショートカットで、前髪をピンで留めた女性が乗っていた。
どこかで会ったことがあるような気がするが、
向こうは私に無反応なところを見ると、多分知り合いではないのだろう。

私はその女性の後ろの席に座った。彼女の後姿を見ているうちに、
彼女が同級生であることに気がついたが、お互いに黙ったままだった。

それからしばらくの間、電車は走っていた。
次の駅まで、後どれくらい走るのだろうと、ぼんやり考え出した頃、
アナウンスが流れた。

「次は活け作り~、活け作りです」 

何のことだろう?駅名?それとも私の聞き間違い?
そう思った次の瞬間、何人もの小人が現れ、彼女の体を切り刻み始めた。



私は思わず悲鳴を上げた。

その声で、私は目を覚ました。あまりの異常な悲鳴に、母親が慌てて
私の部屋をのぞきに来るほどだった。高校生の娘が夜中に悲鳴を上げれば、
そうするのも当たり前の話だ。

寝言だとわかって、なぜか怒られてしまった。理不尽だ。
夢の内容に責任など持てるはずがないのに。

嫌な夢を見た。怪談の類は大嫌いなはずなのに、どうしてこんな夢を見たのだろう。



翌朝、律は私の顔色が悪いことを
心配していたが、私は夢のことなど触れたくもなかったため、少し体調が悪いとだけ答えた。

教室に到着すると、唯が声をかけてきた。

唯「ねえ、澪ちゃん、猿夢って話知ってる?」

澪「いや・・、なにそれ。聞いたことないよ」

唯「知らなきゃいいの」

そういうと、唯は私を複雑な表情で見つめた。
残念がるような、哀れむような、しかしどこか笑っているような。
同時にその表情は、私からのこれ以上の質問は拒んでいた。

へんな冗談を言ってからかっているのだろうか。
まあ、唯ならこういう意味不明な冗談を言っても不思議ではない。
相変わらず良く分からないセンスだ。



それにしても、唯、そんな表情を今まで私に見せたことはあるか?

朝に残っていた悪夢の余韻は、時間が経つにつれ薄くなっていった。
そして部活の時間の頃には、それはすっかり無くなった。

律「具合良くなったみたいじゃん。澪ってば、朝、真っ青な顔で歩いてたからな~」

澪「ああ、もう大丈夫だから。心配かけてごめん」

梓「先輩、変な夢でも見てたんじゃないんですか?」

律「ホラー映画みたいなやつとかね、そのショックだったりして。
  自分の夢で怯えてたら世話ないよな~って、
  あれ、澪どうした、またちょっと顔色悪くない?」

澪「・・・ああ、大丈夫」



あの夢を思い出して、気分が落ち込んでくる。けど、別に梓や律が悪いわけではない。
変に不機嫌になったりして、二人に当たったりしたら、それこそ理不尽な話だ。
結局、それから気持ちが晴れないままだった。

ベッドに入ってから、しばらく寝付けなかった。自分の見た夢で怖くなって、
夜寝付けないというのも、考えてみればおかしな話だ。
仕方がないので、部屋を明るくして、愉快な内容の漫画や本を
ベッドの中で読んでいた。
そうしているうちに、いつの間にか寝てしまい、気がついたときは朝だった。

それから2~3日は奇妙な夢-律が額から怪光線を出す夢や学園祭のステージで
下着姿で演奏する夢など-を時々見ることはあっても、あんな悪夢は見なくなったし、
記憶から消えかかっていた。

あるとき練習を終えて帰り支度をしていたとき、
梓は奇妙なことを私に聞いてきた。



梓「澪先輩、猿夢の話って聞いたことありますか」

澪「いや・・、それがどうしたの」

梓「知らなきゃいいんです」

そう言うと、梓は今まで見せたことのないような表情で私を見つめた。
私はそれ以上、彼女に猿夢について聞くことはしなかった。
彼女の表情は、私の質問に答えることを拒否していることは明らかだったからだ。

その後は、いつもどおり、みんなで話しをしながら帰っていった。
もうすぐ、夏休みに入るので合宿のことが話題の中心だった。
梓の態度は特に変わったものではなく、今度こそ練習中心の合宿にしようと
意気込んで私に話していた。



私は駅のホームに立っていた。天気は最高に良く、出かけるには絶好の日よりだ。
太陽はやけにまぶしく夏の日差しであるにもかかわらず、寒いのは何故だろう。

しばらくすると、電車が来た。見たこともない形で、一両だけしかないが
私はそんなものだろうと思って、乗り込んだ。

私はどこに行こうとしているのか、よくは分かっていない。
多分、歌詞を作るために、どこかに出かけようとしているのだろう。

車両の中には、髪をツインテールにした背の低い女の子が乗っている。
どこかで会ったような気がするが、向こうが無反応であったため、
何かの勘違いだろう。私は、彼女の後ろの席に座った。

彼女の後姿を眺めているうちに、私は彼女が自分の後輩であることに気がついたが
お互いに黙ったままでいた。



視線を外すと、運転手の後姿が見えた。運転手の背は丸く、身長もあまりない。
どんな人なのかと思っていると、運転手は一瞬後ろを振り返り、私に笑いかけた。
運転手は人間ではなくて、猿だった。

電車はいつまで経っても、次の停車駅には着かない。
延々走り続けている。外の景色も、変わらない風景がずっと続いている。
本当にこの電車は走っているのだろうか。
そんなことを考えていると、アナウンスが流れた

「次はえぐり出し~、えぐり出しです」

アナウンスが終了すると、二人の小人が大きなスプーンのようなものを持ってきて
それを使って女の子の眼球をえぐり出し、私に笑いながら見せつけた。



私は悲鳴を上げ、その声で目を覚ました。自分だけではなくて家族まで
起こしてしまったようだ。高校生の娘が夜中に悲鳴をあげていたのだ、
それは何事が起ったのか心配にもなるだろう。
澪母「また悪い夢を見たの?」

そう、悪い夢をまた見たのだ。

次の日、やはり気分は優れなかった。律が心配そうに話しかけてきたが、
大丈夫とだけこたえて、後は適当な話題で誤魔化した。もちろん、話が弾むわけでもなく
何となく黙って歩く時間のほうが多くなってしまう。
しばらく黙って歩いていると、律が梓を見つけた。



律「おはよ、梓」

梓「おはようございます、律先輩、澪先輩」

澪「おは・・!」

振り向いた梓の顔を見て、意識が遠のきそうになり、思わず
その場にうずくまってしまった。
梓の顔に大きなくぼみが二つあるのを見てしまったからだ。
そこには本来、目が入っていなければおかしい場所だ。
そして、そのくぼみから、大量の血が流れていた。

律「おい、澪!救急車を呼ぼうか」

澪「だい・・じょうぶ・・だから。もう少し落ち着いたら、大丈夫だから」



しばらくすると、だいぶ頭もすっきりしてきた。これだったら、立てるだろう。
しかし、顔を上げるのが怖かった。そのとき、梓が覗き込みながら
声をかけてきた。

梓「澪先輩、大丈夫ですか」

梓の顔には何の変わりもなかった。泣きそうな表情はしていたが。

あれは、私の気のせいだったのだろう。
あの夢が恐ろしすぎたので、見間違えてしまっただけだ。
そうでなかったら、律が平然としていることの説明はつかない。



家に帰ることを律と梓は私に勧めたが、
何で具合が悪くなったかを私は理解していたので、学校に行くことにした。
一人で家で寝ているよりも、いつもどおりの生活を送った方が
気がまぎれることは分かっていたからだ。今は、一人になりたくなかった。

玄関のところで、梓と別れた。別れ際、梓は一言、小さな声で
私に言った。

梓「えぐり出しの次は何でしょうね・・・」



体中の血の気が引いていくのを感じた。そのまま倒れなかったのは、
律が私の肩をつかんで、声をかけてくれたからだった。

その日は、わざとらしいくらいに明るく振舞った。
部室でお茶を飲んでいるときも、率先して合宿でどんなことをして
遊ぶかという話をしていた。

律「澪、今日は変じゃないか?真っ青な顔をしたと思ったら、
一日中テンション高いし」

梓「澪先輩が、率先して遊ぶ話をするなんて、らしくないですよ。何かあったんですか」

本当は知っているくせに、という言葉が出掛かったが、
すんでのところで飲み込んだ。その表情が、少しムッとしたように見えたんだろう。
梓がすこし怯えた表情をした。



梓「あ・・ごめんなさい。生意気言ってすみませんでした」

澪「いや、こっちこそごめん。そんなに怖い顔してたかな?」

いや、梓、私が怒るとしたら別の理由だよ。何で知ってることを教えてくれないんだ。
本当は何か知ってるんだろ?それを言ってくれないことだよ。

律「澪、やっぱ今日は変だよ。よーし、気分転換に合宿の買い物にでもいこうぜ」
澪「そうしよう、賛成だ」


律の提案にあっさりと賛成したことにみんな、意外な顔をしていた。
ムギはみんなのティーカップを下げだした。



私のティーカップをムギに渡したとき、ムギは受け取りながら、こう言った。

紬「次は叩き割り~、叩き割り~」

ムギ、口元は笑ってる感じがするけど、目つきは悪いぞ。
そんなに顔に翳りがあったか。
それに、叩き割りって何だ?
そんな高価なティーカップを叩き割る気か。

だが、ムギがそういう顔をしたのは、受け取った一瞬だけだった。
すぐに顔の翳りは消えて、いつもの雰囲気に戻った。
カップを叩き割ることも無かった。

一体、ムギは何が言いたかったのだろうか。



買い物に行くとは言っても、突然の提案だったので、
持ち合わせがあるのは、誰もいなかった。
だから、部費で落ちそうなものだけを買って、後は水着や服を見てまわるだけだった。
それでも私には十分に気晴らしになった。

帰宅すると、一気に疲れが出た。梓の件があったことで、相当消耗したし、
その後も変なテンションで振舞っていたためだろう。
夕食も食べることなく、ベッドにもぐりこんだ。
本当は眠ることに恐怖はあったが、睡魔はそれ以上のものであった。
ベッドに入るのと眠りに入るのは同じタイミングだった。



私は駅のホームに立っていた。既に陽は落ちかかっているのに
妙に暑苦しい。息苦しいくらいに暑いけど、汗一つかいていない。

今から私はどこに出かけるのだろう。
いや、もしかしたら出かけた帰りかもしれない。
多分、歌詞を考えるためにちょっと遠出でもした、その帰りかもしれない。

しばらく待つと、電車が来た。珍しい車両だけど、どこかで見覚えが
あるような気がする。それにしても、どうしてこんな電車が走っているのだろう。

車両に乗り込むと、色白で特徴的な眉をした女性が座っていた。
どこかで会ったことがあるような気がしたが、全くの無反応であったため、
勘違いだろうと思い、彼女の後ろの席に座った。



しばらくして、彼女は同級生であることに気がついたが
お互いに黙ったままだった。

かなり長い時間電車は走っているにもかかわらず、
まだ陽は落ちていない。夕暮れのままだ。

「次は叩き割り~、叩き割り~」
変なアナウンスが流れる。叩き割り?聞き間違いか。

そう思っていると、鉄の棒を持った小人が現れ、
前の席の女性の頭を殴り始めた。
鈍い音と悲鳴が車両に響く・・・



私は悲鳴を上げて目を覚ました。両親があわてて部屋に来た。
母親はあきれたような目で私を見て、部屋から出て行った。

アナウンス、女性の悲鳴が耳に残っている。
頭を叩き割られる光景は、まだ鮮明に残っている。

「叩き割り~、叩き割り~」

      • そういえば、ムギもそんなことを言っていた。
どうしてムギが私の見る夢の内容を、前もって知っているのだろう。
梓もどうして私の夢の内容を知っているのか。



そういえば、初めてこの夢を見た次の日、唯も私に変なことを聞いてきた。
だしか猿夢って言ってたな。すると、唯も何か知ってるんだろう。

ムギも梓も唯も私の夢について知っている、
少なくとも私がこの夢を見たことを知っているのか?
私の心の中でも読む能力に目覚めたとでも言うのか。

しかしそれは、あまりに非現実的すぎる・・・現実的な可能性は
全てが夢であるということか。
それもまたあまりに非現実的すぎる。夢落ちが、現実的とは恐れ入る。
ほおをつねってみても目は覚めない。



そんなことを悶々と考えながら、結局、私は朝まで起きていた。
学校は休むことにした。
母親に具合が悪いと言ったら、そのまま信用してくれた。
立て続けに夜中に悲鳴をあげた上に青い顔をしていれば、それもそうだろう。
もっとも、学校や軽音部で人間関係がうまくいっていないのではと
変に気をまわしていたことは、うっとおしかったが。

唯、梓、ムギに会いたくなかった。これが学校に行かなかった理由だ。
外に出ることで悪夢の余韻を拭い去ることが出来る、昨日はそう思った。
だがあの三人は私を夢から醒めきらせてくれない。
あの三人は悪夢の世界を思い起こさせる。
今は、あの三人が恐ろしくてたまらない。



律にだけは、メールを入れておいた。
しかし返信がくるのが怖かった。
もし律があの夢のことを言ってきたらどうしようかと。
ものの数分もしないうちに返信が来た。

なんてことの無い文面だ。
だが、今はそのなんでもない文面に救われる。
律だけになら、話しをする事ができるかもしれない。
帰りに寄ってくれるようにメールをしたら、
すぐにOKの返事が来た。



律が来るまでには、まだかなり時間がある。
ヘッドホンをしてひたすら音楽を聴いていた。
あの悲鳴そしてあのアナウンスを消し去るために。

今日は天気が良い。抜けるような青空だ。
だが、その青空があの悪夢を思い起こさせる。
カーテンを閉じて、外が見えないようにした。
だからといって、目をつぶればあの光景が浮かんでくる。
瞬きの間すら恐ろしい。律・・早く来てよ。



携帯に目をやると、メールの着信を知らせるランプがついていた。
唯、ムギ、梓からだ。私は内容を確認せずに消去した。
確認する勇気は今は無い。

メールを消去した次の瞬間、今度は電話の着信が来た。
ムギからだ。私は、電話を取らなかった。
ムギからのコールが終わると、次は唯からだ。

唯の電話も取らずにいると、次は梓からかかってくる。
梓の電話を取らずにいると、次はムギから・・・次は唯、次は梓。

間違いない、この三人は示し合わせている。



ムギと唯は同じクラスだからともかく、学年が違う梓まで
タイミングを計ったように電話をかけてくるなんて。
大体今は授業の時間だろ。お前ら、授業はどうしたんだよ。

携帯の電源は切って部屋の隅に放り投げた。
律にあの三人を連れてこないように言っておかなかったことが悔やまれる。
おねがいだから、律一人で来てくれ。体の震えが止まらなくなってきた。

部屋の扉が少し開いていることに気がつく。
確かに閉めたはずなのに。見たくも無いのに、扉に目が吸い寄せられていく。
扉は徐々に開いていく。明らかに誰かが空けているような開き方・・誰かいる。



家族は出かけていて誰もいない。だとすれば、空き巣か?
いや、それにしては身長が低すぎはしないか。
あれは・・そう・・、その姿を認識した瞬間、私は恐怖で気を失った。

扉を開けていたのは人間ではなく、電車の運転手の猿だった。

気がついたとき、律がベッドの脇に座っていた。
思わず律に抱きついて泣き出してしまった。
そして、ここ数日起こった出来事について、ひたすら話し続けた。
律は黙って聞いていた。
私が全て話し終わった後も、律は真剣な顔で黙っていた。

どうしたんだよ、律。笑ってくれよ、笑い飛ばしてくれよ。
こんな話、真に受けるなんて律らしくないよ。
なに真顔になっちゃってるんだよ。



律「あのさ・・、黙ってたけど、私全部知ってたんだよ」

何言ってんだ?何を知ってるんだ、律もあの三人と一緒なのか。

律「いや、これ全部澪の見てる夢だから。これは夢の出来事」

ここに来て、まさかの夢オチですか。それだったらありがたい。

律「そう、今から目を覚ますから安心してよ。これは澪が合宿前に見てる夢だから」

そうか、じゃあ目を覚ませば楽しい合宿か。早く覚まさせてくれよ。

律「じゃあ、目をつぶって・・もうすぐ澪は目を覚ますよ・・」

        • 目をつぶる瞬間、律の後ろに何かが立って笑っていたような気がした。
まあいい、これで悪夢とはおさらばだ。ありがとう、律。




私は駅のホームに立っていた。
今日は合宿の日。今からムギの別荘に行くために電車に乗るためだ。
なのに誰もいないのは何故だろう?

電車が来た。今まで見たことの無い車両だ。

おわり