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周りの誰にも聞こえないよう、私―秋山澪―はそう呟いた。

梓「また練習もせずにじゃれあって・・・」

紬「まぁまぁ、いいじゃない」

私の後ろで大切な軽音部の仲間である、ムギと梓が話す。

そして私の前では、別の二人がじゃれあっている。



唯「そんなことないよー!りっちゃん可愛いよー!」

同じく軽音部の仲間である、唯と、

律「辞めろってマジで!こんなの私の柄じゃないから!恥ずかしいっての!」

私にとって誰よりも大切な人―田井中律―が。



律「頼むからカチューシャ返せって!」

唯「だって前髪下ろしてるりっちゃん可愛いよー?」

前髪を下ろして涙目で頬を染めた、律。

澪(本当だよ律、唯の言う通り可愛いよ・・・)

そんなことを思っていたら、

律「んな訳ないだろ!私にはこんなの似合ってない!」

そう言いながら律がこちらを見た。



澪(!)

律と目が合う。

その瞬間、自分でも頬が紅潮していくのがわかる。

その気恥ずかしさから私はすぐに目を逸らしてしまった。

律「!」

その瞬間に律の動きが止まった。

律は俯き加減で立ち尽くしたまま微かに震えている。



これはまずい。

唯「りっちゃん、どうしたの?」

唯がそう話しかけると、

律「わ、私は前髪下ろすのなんて柄じゃなくて・・・」

律「こんなの本当に似合わなくて嫌なんだよ・・・」

律の目から大粒の涙が零れ始める。



唯「り、りっちゃん!?」

紬「りっちゃん!?」

梓「律先輩!?」

澪「・・・・・」

律の涙を見ていると、罪悪感で押し潰されそうだ。



予め言っておくと、律が前髪を下ろした姿は全くおかしいことなどない。

いつものカチューシャをつけている律も元気一杯で可愛いが、

前髪を下ろした姿はそれはもう絵に描いたような美少女で、きっと誰もが放っておかない。

だからこそ私はあの時、とっさに嘘をついてしまった。

そしてきっと、律は未だにその嘘に囚われてしまっている。



―――――――――中学生時代

澪「・・・」

律「・・・」

澪「ふぅ」

律「あ、宿題終わった?見せて見せて」

澪「駄目」

律「別にいいじゃんよケチー」

澪「自分のためにならないだろ」



律「ぶーぶー」

澪「わからないところは教えるからちゃんと自分でやりなさい」

律「ちぇー」




律「澪、早速わからん」

澪「早っ!」




律「終わったー」

澪「お疲れ様」

律「喉渇いたー、ご褒美に何か飲ませてー」

澪「結局私が殆ど教えただろうが・・・」

そうは言いながらも、すぐに飲み物をとりに行こうと部屋を出る私は甘いんだろうな・・・。

律「・・・」



澪「律、飲み物持って来たぞー」

律「う、うん。ありがとう」

澪「?」

何か変だな、律。

こっちに背中向けてるけど本を読んでるって訳でも無さそうだし・・・。



律「実は澪にもご褒美があります!」

唐突に律が言った。

澪「ど、どうした急に」

律「という訳で!じゃーん!」

そう言うと、律が振り返った。



澪「―――」

思わず、息を呑む。

初めて逢った時から、いつもカチューシャをつけて前髪を上げていた律。

その律が初めて私の前で髪を下ろしていた。

律「どうだ?美少女りっちゃんのイメチェンは?」



返す言葉が出てこない。

その程度の驚愕を私に与える程、前髪を下ろした律は可愛かった。

いつもの活発な感じとは違って、とても女の子らしい清楚で可憐な可愛さ。

できることなら今すぐにでも抱きしめたくなるような。

とりあえず律、私が飲み物を置いてから振り返ったのは正解だ。

いきなりそんなに可愛いお前を見せられていたら私の部屋のカーペットは今頃紅茶まみれだ。



律「な、何で何も言わないんだよ・・・」

律の一言で我に返る。あまりに可愛いから見とれてしまっていたようだ。

澪「わ、悪い」

律「自分でも結構似合ってると思うんだよなー、どう?」

なんて言いながらその場でくるっと回ってみせたりする。

何て可愛いんだ律。今すぐ抱きしめてキスしたい。

      • まぁ臆病な私にそんなことできる筈も無いんだけど。



律「澪に感想聞いて良い感じだったら今後はこの髪型にしようかなと思っててさー」

      • え?

いや、待て律。それはまずい。それは非常にまずい。

今まででもかなりモテていたのに、その髪型に変えてしまったら・・・。

律「なぁーどうなんだよ澪ー」

余計に悪い虫(男女共に)共が寄って来てしまうじゃないか・・・!

それは困る、非常に困る、すごく困る。

私はいつだって律と一緒に居たい、律の一番で居たいんだ・・・!



律「なぁ澪ってば

澪「そ、そんなの駄目だ!」

律「え・・・」

澪「や、やっぱりいつもの髪型の方が律らしくて断然いいと私は思う!」

今の髪型、すごく似合ってて可愛いけど

澪「そういう髪型って律の柄じゃないしさ」

本当に誰より可愛いと思うけど

澪「正直あんまり似合ってないと思う!」

私以外の人間に律の可愛い姿を見られたくない!



律「・・・」

思ってることを素直に伝えられるなら、それはどんなに素敵なことなんだろう。

律「だ、だよなー・・・、やっぱりいつもの髪型の方が私らしいもんな!」

澪「う、うん!」

な、何とか阻止できたか。



律「ごめんなー、急に変なこと聴いちゃって」

澪「ぜ、全然構わないよ。むしろ先にその髪型見せてくれて嬉しかったよ」

いきなりそれで学校なんて行かれたら私にはどうしようもなかったからな・・・。

律「澪に感想言ってもらえて助かったよ、じゃ私はそろそろ帰るわ」

澪「え?律?」

口を開くなり律はすぐに部屋を出て行ってしまった。




やっぱりあんな言い方は不味かったよな・・・。

自分でも結構似合ってると思うなんて言ってたのに、柄じゃないとか似合わないとか言っちゃったもんな・・・。

澪「律のこと、傷つけちゃったかな・・・」

明日の朝、律が気にしてるみたいだったら謝ろう。




律「おう澪、おはよー」

澪「お、おはよう」

呆気にとられてしまった。

会ってみればそこにはいつもと全く変わらない、笑顔の律が居た。




律「でさー、昨日のあの番組でさー・・・」

昨日の話題については全く触れようともしない。

私の思い過ごしだったのか・・・。

我ながら自意識過剰だったのかもしれないな。



律「澪?聞いてるか?」

澪「あ、悪い。ボーっとしてた」

律「ちゃんと聞けよー、全くー」

澪「ごめんごめん」

それに正直、こっちから昨日の話題を掘り返したくはない。



前髪を下ろした状態で色んな人の前に出て欲しくはないし、

かと言って私にはその理由を素直に言うことなど到底出来はしないだろう。

我ながら辟易するが、これが秋山澪という人間だ。

律も気にしていないようだし、この話題はもう終わりだ。

いつも通り律と一緒に居る時間を精一杯楽しもう。

――――――――――――――――――


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