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澪「やっぱり私のせい、だよな・・・」B1

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moemoequn

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ちくしょう、油断した。

まさか唯にアレをとられるなんて。

梓「また練習もせずにじゃれあって・・・」

紬「まぁまぁ、いいじゃない」

向こうでムギと梓がそんなことを言っている。

梓よ、これはじゃれあってる訳じゃない。

唯はどういうつもりか知らないが、私にとっては大切な問題だ。



唯「そんなことないよー!りっちゃん可愛いよー!」

そんな私の気持ちを知ってか知らずか、唯が人のカチューシャを掲げて騒いでいる。

律「辞めろってマジで!こんなの私の柄じゃないから!恥ずかしいっての!」

アレとはカチューシャのことだ。カチューシャを唯にとられた私はかなり狼狽している。

律「頼むからカチューシャ返せって!」

唯「だって前髪下ろしてるりっちゃん可愛いよー?」



そんな訳ないだろう!前髪を下ろした自分が似合わないなんてことはとっくの昔にわかってるんだよこっちは!

律「んな訳ないだろ!私にはこんなの似合ってない!」

その気持ちを言葉に出して、私は私の大切な幼馴染――秋山澪――の方に視線を向ける。

その刹那、澪と目が合う。

律「!」

目が合った瞬間に、私は澪に目を逸らされてしまった。

だから言ったのに・・・!私はこんなの似合ってなくて、こんな姿を澪に見られたくないのに・・・!

あ、やばい。これはひょっとしなくても無理だ、我慢しきれない。



思わず私は動きを止めてしまった。

唯「りっちゃん、どうしたの?」

そんな私を心配した唯に話しかけられると、

律「わ、私は前髪下ろすのなんて柄じゃなくて・・・」

律「こんなの本当に似合わなくて嫌なんだよ・・・」

やっぱり駄目だった、我慢しきれず私の目から涙が零れ始める。



唯「り、りっちゃん!?」

紬「りっちゃん!?」

梓「律先輩!?」

澪「・・・・・」

澪は先ほどと変わらず、こっちを見てくれようともしない。

だから私はカチューシャを外したくなくて、前髪を下ろしたくなんてなかったんだ。

昔、髪型を変えてみるのもいいかななんて思って一度だけ挑戦したこともあった。

でも、その結果私は自分にそういうのが似合わないなんてことを痛感させられてしまった。

そう、昔一度だけ、大好きな澪に前髪を下ろした自分を見せたあの時以来――



―――――――――中学生時代

澪「・・・」

律「・・・」

澪「ふぅ」

お?澪宿題終わったかな?



律「あ、宿題終わった?見せて見せて」

澪「駄目」

律「別にいいじゃんよケチー」

澪「自分のためにならないだろ」

律「ぶーぶー」

澪「わからないところは教えるからちゃんと自分でやりなさい」

律「ちぇー」



律「澪、早速わからん」

澪「早っ!」

いつも通り、本当にいつもと変わらない会話を澪と交わす。




律「終わったー」

澪「お疲れ様」

律「喉渇いたー、ご褒美に何か飲ませてー」

澪「結局私が殆ど教えただろうが・・・」

そうは言いながらも、澪は飲み物をとりに行こうと部屋を出る。



律「・・・」

澪は見かけは綺麗で近寄り難い感じもするんだけど、本当はすごく優しい奴だ。

さっきみたいに勉強だって何だかんだ言いながら教えてくれるし、

私がこうやって甘えると文句を言いつつもやってくれることが多い。

素直じゃないからいつも一言多いんだけど、それがまた澪の可愛いところだったりもする。



律「・・・さて」

澪が飲み物を取りに行ってる間に私はしておきたいことがあった。

さっきも言ったように、澪は本当に可愛い。

すごく女の子らしいし、顔もそこら辺のアイドルなんかよりよっぽど可愛いと思う。

けどその幼馴染の私と言えば、まず女の子らしくなかった。

正直、澪とこんなに仲良いのが不自然だと思うくらい。



そんな時、お風呂上りに気付いてしまったのだ。私って髪下ろしたら結構女の子らしいんじゃないかってことに!

これだったら澪と一緒に居てもおかしくないだろうし、私だってきっとアイドル顔負けじゃん!?

      • なーんて言ってみたけど、正直そんなことはどうでも良かった。

澪はいつもの私が良いって言ってくれるし、アイドルがどーのなんてことも全く興味は無い。



カチューシャを外して前髪を整え始める。


ただ、私は髪を下ろしていつもより女の子らしくなった自分を見て思っただけなんだ。

これなら、澪が私のこと可愛いって言ってくれるんじゃないかなーって・・・。

ああ、こんなの私の柄じゃないかもしれない。

髪下ろして考え方までちょっと変わっちゃったか私?



そんなことを考えながら髪を整えていると、階段を登る澪の足音が聞こえた。

急いで前髪を整えた後、私は慌ててドアの方に背を向けてしまった。

あんなこと考えてたから顔が赤いぞ私。早く治まってくれ。

そして足音がドアの前までやって来た。

澪「律、飲み物持って来たぞー」



律「う、うん。ありがとう」

まだ顔が赤い。早く、早く治まれ。

澪「?」

背を向けている私を不思議に思ったのか、澪は少しの間立ち尽くしていた。

その後、澪が飲み物をテーブルの上に置いた。そして私もそのタイミングで平静を取り戻した。

よし!頑張れ田井中律!



律「実は澪にもご褒美があります!」

澪「ど、どうした急に」

私が言うと、澪は驚いたようだった。

律「という訳で!じゃーん!」

そう言いながら、私は振り返った。



澪「―」

澪は振り向いた私を見て、動きを止めた。

というか、そんな止まらないでくれ。やってる私も恥ずかしいんだからさ。

律「どうだ?美少女りっちゃんのイメチェンは?」

反応を促すように言葉を続けてみる。

相変わらず澪からは反応が無い。



律「な、何で何も言わないんだよ・・・」

流石にかなり辛くなってきた。澪、お願いだから何とか言ってくれって・・・。

澪「わ、悪い」

よ、ようやく反応してくれたか!

しかも澪さん、ちょっと顔が赤いですよ?これはやっぱり似合ってるってことかな?

律「自分でも結構似合ってると思うんだよなー、どう?」

澪の反応を見て、調子に乗ってくるっと回ってみせたりする。



律「澪に感想聞いて良い感じだったら今後はこの髪型で行こうかなと思っててさー」

澪がそんな反応してくれるんだったらもうこの髪型の私こそがりっちゃんってことでいいな!

ありがとうカチューシャ!今まで頑張ってくれた君のことは忘れない!

律「なぁーどうなんだよ澪ー」

更に調子に乗って畳み掛けてみる。



律「なぁ澪ってば

澪「そ、そんなの駄目だ!」

澪が叫んだ。

律「・・・え」



澪「や、やっぱりいつもの髪型の方が律らしくて断然いいと私は思う!」

た、確かに私は澪と逢った頃からあの髪型だけど・・・

澪「そういう髪型って律の柄じゃないしさ」

確かにあんまり普段は女の子らしくないかもしれないけど、偶にはこんな髪型だって・・・

澪「正直そこまで似合ってるとは言えないと思う!」

      • ただ私は澪に、そういう髪型も似合うとか、言って欲しかっただけなのに・・・。



律「・・・」

やばい、駄目だ。泣きそうだ。

律「だ、だよなー・・・、やっぱりいつもの髪型の方が私らしいもんな!」

精一杯の空元気を振り絞って私は言う。

澪「う、うん!」

律「ごめんなー、急に変なこと聴いちゃって」

澪「ぜ、全然構わないよ。むしろ先にその髪型見せてくれて嬉しかったよ」



澪は優しい奴だからそんな風に言ってくれたけど、その優しさが却って今の私には辛かった。

律「澪に感想言ってもらえて助かったよ、じゃ私はそろそろ帰るわ」

無理だ、これ以上この場に居たら私は泣き出してしまう。

澪「え?律?」

澪の言葉をこれ以上聞いてしまう前にそそくさと澪の部屋を出た。




部屋に戻るなり私はベッドに飛び込んだ。

律「酷いよ澪・・・」

その瞬間、今まで何とか抑えていたものが溢れ出た。

律「私は澪に可愛いって言ってもらいたかっただけなのに・・・!」

そのまま暫く私は泣いていた。





律「・・・」

泣いて冷静になった後、私は考えた。澪は普段、あんなことを言う奴じゃない。

その澪があんなに言うくらいなんだ。本当に私にあの髪型は似合ってなかったってことなんだろう。

律「なのに一人で舞い上がっちゃって・・・馬鹿みたいだな私・・・」

もう一度私はベッドに突っ伏して泣いた。




律「おう澪、おはよー」

澪「お、おはよう」

いつも通り、本当にいつも通り、私は澪に話しかける。




律「でさー、昨日のあの番組でさー・・・」

いつも通りの他愛無い話題を澪に振る。

しかし、当の澪からは返答が無い。



律「澪?聞いてるか?」

澪「あ、悪い。ボーっとしてた」

律「ちゃんと聞けよー、全くー」

澪「ごめんごめん」

澪はいつも通りの澪だった。

昨日の私の帰り際の態度について問いただされるかとも思ったが、そんなことも特に無く普段通りの会話が交わされた。



      • 私としては、正直昨日の話題を掘り返したくはない。

あんな風に言われたのはかなりショックだったけど、掘り返して気まずくなるのも嫌だったし、

何より私は泣いてるところや落ち込んでるところを人に見せるのなんて柄じゃない。

澪のことを素直じゃないなんて言ったけど、私も相当素直じゃないな。

我ながら辟易するけど、これが田井中律という人間なのだから仕方が無い。

澪もこの話題に触れて来ないし、こんな話はもう終わりだ。

いつも通り澪と一緒に居る時間を精一杯楽しもう。

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