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ほうかご!

ガチャ

澪「お疲れ~みんn」

やいのやいの。
軽音部の皆に向けた澪の挨拶は、喧騒に押しつぶされた。

唯「ダメだよ~、この子は私に食べられたがってるよ。ケーキの声が聞こえるよ~」

律「適当なコト抜かすな!私が一番先に見つけたんだからな。そのケーキは私の!」

唯「りっちゃん隊員!君には聞こえないのかね。私に食べてほしがってるというこの純粋なケーキの声が(キリッ)」

律「上官、お言葉ですがケーキは喋らないし、何より第一発見者を最優先するべきであると思います(キリッ)って乗せられてる場合じゃね~。とにかく、そのケーキは私のだ!」

紬「まぁまぁ、ここは公平にじゃんけんで決めるってことでどう?唯ちゃん、律ちゃん」

唯&律「(ギロッ)じゃ、じゃんけんが公平…?それは本心で言ってるのか(な)、ムギ(ちゃん)?」

紬「い、いや、取り合いになったときはじゃんけんで決めるのが普通なんじゃないかなぁ、て…」

澪「やれやれ、なんの騒ぎだ?」



梓「澪先輩!お疲れ様です。ムギ先輩が持ってきたケーキに苺が一個多く乗ってるのがあって、それを唯先輩と律先輩が取り合ってるんです」

澪「なんだ、ムギの言うとおりじゃんけんで決めればいいじゃないか」

律「おぉロミオ!最初にこのケーキを見つけたのは私なのよ。あなたまでそのような世迷言を…」

澪「うわ、抱きついてくるな、しかもロミオネタは封印だと言ったはずだぞ!」

唯「澪ちゃ~ん、私が大のケーキ好きなの知ってるよね?一個苺が多いケーキ、もらっていいよね?(ぐす)」

澪「唯は泣きついてくるな」

紬「(むぅっ)じゃあこうしましょう。苺の一個多いこのケーキは後輩の梓ちゃんにあげる!喧嘩してる子たちに食べる権利はありません!」

梓「え、別にいいですよ私…」

澪「それでいいだろ、大人げない…」



律「梓、ここはいっつもとってもお世話になってる田井中部長に譲ってくれるよな?な?」

唯「あずにゃん~せめて苺だけでもぉぉぉ」

梓「えぇい、私は関係ありませんから、いりません!二人で決めて下さいよ!そして早く練習です!」

澪「… …(はぁ)」

れんしゅうご!

唯「いちご~いちご~(ぐったり)」

梓「まだ根に持ってるんですか?唯先輩。気持ちを早く切り替えないとダメですよ」

律「そうだ、次は譲ってやるから、な?」

唯「えぇ本当?やった~りっちゃん優しい♪」

片付けを終える部員たち。

そして、

唯「じゃ、お先に~。お疲れ~♪」

梓「私も帰ります!お疲れ様でした!」



澪「で、ケーキは結局、最初に発見した律が食べたんだな」

紬「一番初めに見つけた子にあげるのが公平かな、て思って。私が強引に決めちゃったんだけどね」

澪「いいんじゃないか?毎回ケーキを持ってくるのはムギなんだし」

律「いけね!現代文の宿題あるのに教科書持ち出すの忘れてた…教室まで取りに行ってくる。待っててな、澪」

澪「あぁ、慌てるんじゃないぞ」

音楽準備室は、とたんに静かになった。

澪「ふぅ、騒がしいメンツが多くて落ち着かないな、相変わらず」

紬「あら、でもそれが軽音部の良さじゃないかしら?私はとっても楽しいわよ」

澪「もっと腰を据えて活動したいって気持ちが強いよ、私個人としてはね」

澪は、彼女にしては珍しいはにかみ笑顔を紬に向けた。

澪「ムギと二人きり…い、いや、そうだな、梓も含めて三人でなら、落ち着いて練習できそうだな」

紬「ふふっ、それもいいわね」

紬はいつもの彼女らしく、にっこりと笑った。

とても包容力のある笑顔だった。



律「はぁ持ってきた~、澪~、帰るぞ」

澪「はいはい」

みおのへや!

耳元に当てたヘッドフォンに、意識を集中している。
お気に入りのロックナンバーを聞きながら、澪はさっさと現代文の宿題を終えた。
小テストと銘打ってはいるが、なんて事はない難易度と分量だった。
特にすることもなく、眠気が徐々に彼女の脳裏を覆い始める。

自然に、今日一日のことがフラッシュバックされ始める。
紬と二人だけになって話していたときのこと。
思えば、二人きりになって話したのは初めてかもしれない。
あいつとだと、話していてもノイズが入らなくて落ち着くな。
がちゃがちゃした感じがないというか。
ただ、「二人きり」というのがどこか照れ臭くて、あのときの会話では梓も入れてしまったが…
思えば、いつも騒動を起こす律、唯に比べて、紬はいつも客観的で、仲介役に回ったりしていることが多い。
私はいつも静観している(または振り回されている)が…
ムギと一緒なら静かに活動できるかもしれないな。
とにかく、あいつは落ち着いていていい奴だよな。



つぎのひ!

その日の昼休み、いつも通り四人で昼食を食べていた。

唯「りっちゃん~その卵焼き美味しそう~一個ちょうだ~い」

律「何を突然、私の貴重な蛋白源だぞ」

唯「だってぇ昨日のケーキのことがあるじゃん?これでおあいこにしてあげるから~。ダイエットにもなるよ?」

律「だめだめ、ケーキと弁当は別物!」

紬「そうよ唯ちゃん、昨日と約束が変わってるじゃない?」

澪「… …(はぁ)」

唯&律「おっと、ちょっとお手洗い行ってきま~す」

また紬と二人きりになる。

澪「なぁムギ…あの二人、いくらなんでも騒がしすぎると思わないか」

紬「くすくす、活気があっていいじゃない」



紬は、食べ終えた弁当を畳んでいる。
丁寧で、ゆっくりとした動作。
お嬢様だな…
澪は、何となくその動きを見つめていた。
ムギは包容力があるよな。
騒がしさも静けさも一緒に受け入れられるような。
逆に私は刺激に弱く、周囲がうるさいとすぐ参ってしまう。
彼女には騒ぎやトラブルを楽しむ度量がある。
羨ましい気がした。

澪「ムギ、今度教えてくれないか?」

紬「?何かしら?」

澪「その…周りが騒がしくても平気でいられるにはどうすればいいか、てさ…」

紬「澪ちゃん、そんなことで悩んでたのね。
いいわ、今度の休日にお茶でもしましょう?二人きりで、ね?」



にちようび!

澪が招待されたのは、紬の家系が経営する喫茶店だった。
文化祭の前にあがり性を直すため、かつてはアルバイトもしたことがある店だ。

紬「今日は全部おごりだから、気にしないで好きなものを頼んでね」

澪「いいのか?悪いな…」

紬「いいのよ、一度クラスメートの相談に乗ってみるの、夢だったの」

そういって紬は、また以前のように柔らかな微笑みを浮かべた。
アンティーク調の店内は、午後の日差しが入り込んで暖かい。

紬「本題に入るわよ。たしか、騒がしいときでも平気でいるにはどうすればいいか?ってことだったわよね」

澪「そうなんだ。特に律と唯の奴が騒ぐと、いっつもついていけなくって…」

紬「簡単だわ。一緒に輪に入って楽しんじゃえばいいのよ」

澪「それ、私にはとても無理…」



紬「大事なのは慣れよ。少しずつノリに入り込んでいくようにすればいいのよ」

人差し指を立て、真顔でそう言った。
しかし。
澪は思った。
天性の性分の問題なのかもしれないと。
あの輪に入って一緒になる自分の姿なんて、とうてい想像できない。
紬は人間としてのキャパシティが広いから、騒がしい中でも平静を保っていられるのだろう。

澪「ダメだ。騒いでるあいつらの輪に入る自分なんてとても想像できないよ。
苦手だ苦手だ苦手だ…」

澪の顔色がどんどん蒼ざめていく。

紬「(この子、こんなに思い悩んでるんだ…)」

紬は考えた。
私にできることは…



ぎゅ。

澪「!」

紬は、テーブルの上の、澪の手をとっさに取った。
そして両手で優しく握った。

紬「怖がることはないのよ。取って食われるわけじゃない、て言葉があるでしょう?それと同じことよ。
それに、無理して入り込む必要もないと思うの。常にクールでいるのも澪ちゃんの持ち味だと思うわ。」

澪「そうかな…」

紬「うん。私、羨ましいもの。何も喋らなくても、その姿が凛としてて、いつも格好良くて綺麗な澪ちゃんが。それで、自然とファンクラブができちゃうくらいだものね」

澪「ム、ムギだって十分魅力的だと思うぞ。髪綺麗だし、お嬢様だし…」

青くなっていた澪の顔が急激に紅潮を帯びる。
褒められて照れ臭くなったようだ。

紬「ふふ、澪ちゃん可愛い」

澪「そ、そんな真顔で言うなよ」

黒髪を揺らし、顔を真横に振って否定する澪。
素直なしぐさが、とても魅力的だった。



紬「私、もっと澪ちゃんと仲良くなりたいな。また今度、一緒に遊びましょう?」

澪「あぁ、また時間が取れれば、な」

みおのへや!

また、机に座ってお気に入りのロックナンバーを聞いている。
今日あったことを回想する。
ムギがお茶に誘ってくれて、相談をして、ムギが手を握ってくれて…
あのときの手、暖かかったな…
何も握っていない手のひらを見つめ、ぽわぽわとした感覚に包まれていた一時を思い返していた。
また時間が取れれば、じゃない。
すぐにでも、ムギと二人きりで会いたい。
会って、いつも感情の底に抱えてる思いをもっと吐き出したい。
きっとムギなら、受け止めてくれそうな気がするから。
でも、あまりやりすぎると引かれるか?
いや、それだってわからないじゃないか。
打ち明けてみなければ、世界は答えてくれない。
そうだ、今度は私がムギを誘おう。
澪の心に、わずかだが勇気が芽生えていた。
紬が与えたぬくもりを栄養に生まれた、勇気が。



じゅぎょうちゅう!

生徒「(ちょんちょん)琴吹さん!」

紬は、横のクラスメートに小声で呼ばれた。
そして、無言で紙を渡された。
筆談だ。
澪ちゃんからだった。

「ムギへ。どこか遊びにいきたいところはあるか」

紬「?」

えぇっと…(サラサラ)

「○○駅にあるテーマパークなんてどうかしら?
行ったことがないけどメルヘンチックで楽しそうなの♪」

はい。
そういって隣の女生徒に渡す。

筆談の返事はすぐに来た。



「いいぞいいぞ。今週の土曜は空いてるか?」

紬もすぐ返す。

「空いてるわよ」

これだけじゃそっけないわね。
よし。

「空いてるわよ。連れていってくれるの?」

返事が来る。

「うん。この前のお茶のお礼だ」

紬は再度、返信した。

「ありがとう!あそこのテーマパーク、お友達と行くのが夢だったの♪
目いっぱいお洒落していきます!」


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