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どようび!

待ち合わせは10時に○○駅前だった。
澪は先に到着した。
チェックの入ったグレーのズボンに袖の黒いジャンパー、頭にはキャップ、そしてポーチサイズのバッグというラフな格好だ。
「次の電車で着くから待っててね♪」
紬から来た携帯のメールにはそうあった。
まもなく電車が到着し、駅から出てくる人だかりの中から、紬を探す…
果たして探すまでもなく、彼女はすぐに見つかった。
彼女の格好があまりにも目を見張るものだったからだ。

澪「や、やぁ」

紬「ごきげんよう、澪ちゃん♪」

その膝下まである裾の長いスカートをひらり、と両手に掴み、丁重にお辞儀をする紬。



澪「ロリータファッションっていうんだよな、そういうの…凄いな」

紬「良かったわ、メイド服って言われなくて(笑)」

紬の格好は、俗にクラシカルロリータと呼ばれる格好だった。
真紅色の別珍であつらえられたワンピースに、白いフリルがいくつも付けられている。
ワンピースの下には白いハイソックスと黒い革靴を履いており、また茶色い革のポシェットを腰に携えていた。
派手さはなく、清楚に着こなしている。
制服姿ですら十分にお嬢様の空気を漂わせる紬は、すでにお嬢様を超えて貴族のオーラを放っていた。

紬「普段親族や来客のパーティに着て行く服なんだけどね。いいの、今日は特別な日だから」

行きましょう。
そういって紬は、澪の真横にくっつく。
どきどきした。



ムギ、凄く可愛いじゃん…
直視できない。

紬「どうしたの?」

澪「いや、あんまりムギが綺麗だから、さ…」

入場券を買い、テーマパークに入った。
天気は快晴とはいえないが、雲が適度に出ているおかげで柔らかな日光が差している。
絶好のデート日和だな…いやいや、私たちは女同士だぞ?
澪は頭の中に湧いた一言を脳の中の消しゴムで強引に消去した。

紬「まずはあれ乗りましょう!コーヒーカップ!」

澪「お、おい、あれは子供やカップルが乗るものじゃあ…」

紬「いいのいいの、楽しんだもの勝ちよ!」



コーヒーカップには、並ばずに乗ることができた。

紬「それそれそれ~~~っ!!」

澪「バカ、あんまり回すなっ…」

… …

澪「ふぅ…」

紬「大丈夫?」

澪「いや、私が慣れてなさすぎるのがいけないんだ…」

澪が目を回したようなので、近くのベンチに座ることにした。

澪「落ち着いてきた…ムギは楽しかったか?」

紬「もちろん!」

ぎゅ。
紬に思い切り抱きつかれる。



紬「ごめんなさいね。ちょっとやりすぎたかしら?」

そして、頭を撫でられた。
ムギの胸元から、ほのかに甘くてとてもいい匂いがする。
くらくらしそうな匂いに、意識が遠のくようだ。

紬「でも、参ったり困ったりしてる澪ちゃんって、可愛い」

澪「…」

紬「私ね、いっつも思ってたの。感情が素直に出ちゃう澪ちゃんって、すごくいい子だな、て」

澪「というか、ムギもずるい。私たち全員の気持ち、いつもことごとく見抜いちゃうじゃないか」

紬「うん、それは自然と身に付けた技術だから仕方ないかもしれないわね。
知り合う人が社長や政治家ばかりだと、どうしても人を見る目を養わないと、うまく渡っていけないから…」

澪「苦労してるんだな、お嬢様も」



紬「ちょっと自慢みたいでごめんね。でも、だからこそ澪ちゃんみたいに、いつも素直な子が可愛くて仕方ないの。
もちろん軽音部の子はみんな素直だから、みんな大好きよ?」

澪「はは…何だかんだいっていい奴らだもんな」

このとき、澪は悔しく感じた。
今は私のことだけ、可愛いと言ってくれたら一番嬉しいのに…
ちょっと待て。
何だ、この感覚?
ムギに対して、こんな特別な感情あったっけ?

紬「さ、次は何に乗る?バイキング船?メリーゴーランド?」

澪「いや、しばらくこのままでいてほしい」



え、どうしたんだろう。
今の澪ちゃん、凄くしおらしい。
私に全体重を預けたまま、動かずにいる。
私も、正直ずっとこうしていたい。
澪ちゃんが、私に気持ちを委ねてくれるなら…
自然と、澪を膝枕する姿勢に変わっていた。
まだ午前中なのに…
澪なら周りの視線を気にしそうなものだが、その様子は一向にない。
むしろ、紬の方が気恥ずかしいぐらいだった。
もっと、二人きりの世界に行きたい…
だから、提案した。

紬「ねぇ、観覧車行きましょう?」

澪「うん…」

目線も合わせずに、こくり、と澪はうなずく。



観覧車にも、ほとんど並ばずに乗ることができた。
ゴンドラは少しずつ高度を上げていき、次第にそのガラス窓に綺麗な街並みを映し出す。

紬「見て!私たちの高校が見えるわ」

澪「あぁ、本当だ」

澪の反応はいまいちだ。
というより、外の景色に目もくれず、ずっと紬の胸元ばかりを見つめている。
まるで、何か思いつめているようだった。

紬「澪ちゃん、何か考えごとでもあるの?」

澪「…やっぱりわかっちゃうんだな、ムギには」

紬「いいのよ、何でも好きに話して。私たち、お友達でしょう?」

澪「うん…ムギにはお礼を言いたいんだ。学校生活、たしかに楽しいけどさ。
なんていうか、私の気持ちはいっつも置いていかれてて、周りがどんどんめまぐるしく変化していって。」

ゴンドラはすでに最上階に来ている。
だけど、景色なんて気にならない。



澪「そんな時、ムギと話す機会があって、何ていうかさ…凄く癒されたんだ。私の底にある恐怖心とか不安感とか、ムギと話してると全部忘れられるんだ」

紬「繊細さゆえの悩み、よね…でもよかった。澪ちゃんが私に癒しを求めてくれるなら、ちゃんと私にも役割があった、てことだよね」

そう言って、紬はやや自嘲ぎみに、はにかんだ。

澪「役割なんて、そんな些細なものじゃないよ!うまく言えないけど、ムギは今の私にとって…ムギは…」

それぎり、黙り込んでしまう澪。

紬は、再び澪の手を取り、強く握った。

紬「言葉に頼っちゃだめ、自分を追い込んじゃうわ」

澪「なぁムギ…どうしてここまで私のことを…わかってくれるんだよ…」

澪の目に、うっすらと涙が浮かんだ。
紬はポーチからハンカチを取り出し、手渡す。
涙を拭く澪。



ゴンドラは間もなく乗り場に戻る。
澪の涙を隠すように、そ、と肩を抱きながら観覧車を降りた。
それから、近くにあった傘付きのテーブルに座った。

紬「落ち着いたかしら?」

澪「うん。ごめんな、取り乱してしまって」

紬「いいのよ。楽しいことを進めるよりも、苦しいことを取り除くことのほうが、よっぽど大切だから」

澪「やめろよ、また涙が出ちまう…」

紬「くす、本当に素直ね」

楽しい一日にするつもりが、ムギに迷惑を掛けてしまった…
でも、目の前にムギがいて、優しい言葉を掛けてくれる。
このシチュエーションだけでときめいてしまう。
この気持ちは止められない。
もっとムギに近づきたい、もっとムギと触れ合いたい。
だから…

澪「なぁ、うちに来てくれないか?」



みおのいえ!

澪「今日は父さんも母さんも出かけてるからな。まぁ、のんびりしていってくれよ」

コーヒーしか出せないけどな。
苦笑いして、澪はコーヒーを持ってきた。
砂糖を多めに入れて、ほろ苦い液体を口に含む。

澪「何だか振り回しちゃってばかりで、本当に悪いな」

紬「ぜんぜんかまわないわ。澪ちゃんが心地よくなってくれるなら」

澪「どこまでも気を遣うんだなぁ…せめて自分のことも気遣ってやれよ」

紬「そんなのいいの。私は今の私のままで、十分幸せだから」

コーヒーカップの残りが半分ほどになり、ぬるま湯に変わりかけたときだった。

澪「ムギ…」



今度は、澪ちゃんの方から抱きついてきた。

紬「うん…」

紬は何も言わず、そ、と澪の肩を抱いた。

澪「あのな…さっきから変なんだ。ムギと一緒にいると、ずっとドキドキして止まらない」

紬「私のこと…好きなの?」

澪「バ、バカ。そんなにストレートに聞くなよ…」

先日と同じように、澪が再び頬を赤らめる。

紬「本当のところはどうなの?」



澪「す、好き…だ…凄く好きだ。先週のお茶のときからずっと…ずっとムギの優しさに惹かれてた。
だから…今日は思い切って誘ったんだ…そしたらさ、嬉しかったんだ…
ムギが思いのほか喜んでくれて…だから…」

どぎまぎしながら、淡々と想いを告白する澪。

紬「やっぱりそうなんだ。嬉しい!」

もっと強く、澪を抱き締める。
澪の黒髪が頬にかかる。
柔らかくてシャンプーのいい匂いがした。

紬「私も澪ちゃんのこと大好き。正直に言っちゃう。これはもう、お友達以上の感情よ」

澪「あぁ、私もだ…」

もうここまで来たら止められないわ。
私は澪ちゃんを…手に入れる。
そして絶対に、離さない。

紬「キス…していいかしら?」



澪「うん、いいよ…」

紬「目をつぶって…」

澪は、上目遣いでゆっくりと目をつむった。
おそらく、これがお互いの人生のファーストキスだろう。

唇をそ、と押し当てた。
澪ちゃんがびっくりしないように、そ、と。
ちゅ。粘膜の触れ合う高い音が鳴る。
や、柔らかい…



澪「むぅ、ちゅっ…ふぅ…」

紬「ちゅ、ちゅ…れる…はぁ」

1分ほど、口付けを交し合った。

紬「えへへ、澪ちゃんの初キス、もらっちゃった」

澪「私だって、ムギの初キスもらったぜ」

紬「このことは、二人だけの内緒にしよう。ね?」

澪「もちろんだ。私だって、ムギを独り占めしたいんだからな」

紬「嬉しい。ねぇ、もう一回キスしよう?」

二人だけの甘い時間が、この日、産声を上げた。
彼女たちはしばらくの間密会を重ね、ささやかな愛を育んでいくのだった…

【完】