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その日も、ほどほどの空調の中、ゆるい練習は行われていた。

律「よし!じゃ今日は練習終わり!解散!」

唯「ふーっ…久しぶりにいい汗をかきましたぜ…」

梓「…またろくに練習できなかったです…」

梓が不平をこぼしている。まぁ…確かに今日は通しで弾いたのが一回だからな。
…無理もないか。
…適当にフォローでも入れておくか。



「でも最後の、結構いい演奏だったんじゃないか?」

梓「む、それでもお菓子食べてる時間が長すぎですー!」

梓も結構…喜んでのんびり食べていたような気もするが。



律「もーっ!ちゃんと練習するですぅー!」

梓「全然似てないですー!」

ごめんちょっと似てた。
というか無駄に似てた。
律のあの物まねスキルは…何で培ったものなんだろう。


唯「でもちょっと似てたですぅー!」

梓「唯先輩まで!?」



律「うーし帰るかー!」

紬「ん…でもまだ結構外明るいのねぇ」

ふと窓の外を見ると、確かに外は明るかった。最近は昼が長いな。
まぁ…夏だしな

梓「なんか…普段以上に早く練習終わった感じですね…」

唯「…じゃあさ!せっかくだし、夜っぽくなるまで何かしてようよ!」

律「え?」

何か妙なことを言い出した。というかそもそも…下校時刻過ぎて残ってて大丈夫なのか…?

唯「それは大丈夫だよ澪ちゃん!」

何が大丈夫なのだろうか。
あ、でも確か見回りが…さわちゃんなのかな?今日は。

梓「で、何かって…何をするんですか?練習は…どうせしないでしょうし…」

律「んー…」



律「あ、ひらめきましたー!」

パンパカパーンとか言いながら律がどや顔で言う。
これは…妙なもん閃いた顔だな。
私にはわかる。

唯「お!何が来ましたか!」

律「デコデコデコデコ…ジャーン!」

ゴクリ…

律「夏ということで…怪談会」

…え?え?
怪談…?
思わず、ひっ、と声が漏れる。
…割と普通に勘弁願いたい

「……冗談だよな?」

律「んもー怖がるなよー澪ー!…やりがいのある反応しちゃってぇ~…なぁ?」

唯「!」

紬「!」

梓「あー」



なんだかんだで…怪談話をすることになってしまった…
どう目を盗んで帰ったものか。

律「ふふふ…帰れないぜー!…んまぁルールは簡単、一番怖い話をしたひとが勝ち!はい!ムード隊!」

紬「!」パチン

うわっ!
びっくりした!

「…い、いきなり電気消すなぁ!!」

ってかムード隊って何だ!

唯「おお、いい声だね澪ちゃん」シャッ



完全なる闇が訪れた!
カーテン閉めるなああ!
暗い!暗い!怖い!
なにか、なんだ、みんなグルなのか?
私が怖いのダメなの知ってるくせに!

梓「…帰っていいですか」

「まってくれ梓!」
私も一緒に帰らせてくれ!

律「じゃー梓から!怪談どぞ!」

梓「えっ」



律「優勝したら…そうだな、負けた者共からのスイーツの貢ぎ物が」

梓「…まぁ…とりあえず皆さん席に座りましょうか……ふ」

律「食いついたか」

…グッバイ味方…!
し、しかし暗い…何も…み、見えない
怖い怖い帰りたい
暗闇の恐怖は昔からだめなんだ…
帰りたい!無理!

唯「む、ならむぎちゃん、ロウソクに火を!」

紬「はい!」

律「用意が良い!さすが!」



ふっと妙な光で部屋が照らされる
えええええ…
…ムード出まくりじゃないか!
駄目だって、絶対なんか出るって!

梓「そうですね、ムードとか出ますね」

律「澪、今帰ったら…後ろから」

ぎゃあああああ!!!
いやああああああ!!!



…とは言っても…
梓の話はどこか聞いたことのある話で、
次の唯の話はどこかメルヘンで
…むぎの話は支離滅裂で…
部屋が暗いこと以外は、思ったよりも怖いものではなかった。
…ところどころ私の悲鳴が交じったのは内緒だ。

で、私の順番に回ってきたけど、私はパス。
パス制度があるかは知らないけど…怖い話なんて、一つも知らないし、覚えていたくもないし…。

所詮は、女子高生の、軽音部の話す怪談話。
こんな風に、グダグダに終わるものと思っていた。



でも最後の、律の順番になった時。
ロウソクの光で照らされていた律の顔が、ふっと、真顔になった。
ふ、雰囲気出てるじゃん。怖いじゃん。

律「…こないだ、もう一人の自分を見てさ」

「鏡でか。そりゃ怖いな。」

律「違ぇよー茶化すなよー…見た場所は、そこの大通りの交差点。」


…茶化すというよりは…帰りたい。
終わらせたい。ただひたすらに。なんか怖そうだし…!せめて電気を点けたい。

うん…しかし…律が冗談めかした顔で怖い話をする時よりも、何倍も怖いな。真顔は。

唯「知ってる…それブリックヴィンケルでしょ」

唯が口を挟む。
…それは全然違う上にかなりのネタバレだ。
それをいうなら…

梓「…それをいうならドッペルゲンガーです」

そう、それ。
梓に先をこされてしまった。
…ちなみに私としては早々にインゼルヌルに出たい気分だ。なんてネタは通じないか。…ちょっと無理があるし。



律「そう、ドッペルゲンガー。最初は見間違いかと思ったんだけど…何日かに一編、同じ場所で見かけるんだ。…すぐ消えちゃうけど」

びくっ
なんか…怖い雰囲気が…怖い
怖い感じがする…
悔しいが怖い…気がする

紬「…確か…いつの間にか、自分がドッペルゲンガーとすり替わってるのよね」

律「まぁ…ドッペルゲンガーをほっとくと、自分がそいつに乗っ取られる…って良く言うじゃん?」

…!
聞こえない聞こえない聞こえない聞こえない
聞こえない!聞こえない…

梓「確か乗っ取られない為には、そのもう一人の自分を殺すしかない、とか」

ひいいいいいいいいいい
いやあ!いやああ!聞こえない!聞こえない!

唯「…じゃあ…そのもう一人の律ちゃんを殺さずにほうっとくと…」



律「本物の私が、そいつに殺されるんだな」

律「っていう話を聞いたような!」


嫌ああああああ!
嫌嫌嫌ああああああ!
ないないないって!
ないって!絶対ないって!


紬「3日間、ドッペルゲンガーが本人になりすまして行動して…誰にも見破られなかったら」

紬「ドッペルゲンガーが本人に取って代わる、つまり」

紬「ドッペルゲンガーに殺されて、そのドッペルゲンガーそのまま本人になりすまして生活する…」

紬「って話も聞いたことあるような!」



唯「あ!私もその話聞いたことあるような!」

梓「あ、なら私もあるような気がしますね」

律「…じゃ事実か」

いやいやいやその理論はおかしい
ってか何で皆さんノリノリなんですか?
…みんなさっきまでとレベルが違いすぎないか…?段違いに怖いぞ…
頼む。早く終わってくれ…
…しばらく夜にトイレに行けそうにないな…

紬「…じゃあ」

紬「…今の律ちゃんは…ドッペルゲンガーかも知れないのね!」

…へ?

唯「…じゃあ」

唯「本物の律ちゃんは…殺されてるかも知れないんだね!」

ガタッ
う、思わず立ち上がってしまった
梓の冷ややかな視線が、私に送られている。
それから、空気が一変した。



律「…なぁ、」

律「澪は人殺ししたことある?」

…ひっ!?
「い、いきなり何だ?」


律「ねぇ、」

律「澪はドッペルゲンガーって知ってる?」


え?
はっ!?
「…い、いや、今聞いたし!」


律「ねぇ、」

律「澪は…」

「ちょちょちょちょちょっと!ちょっと待って!」



律「…?」

「なんで私にばっかり聞くんだよぉ!律!おい!やめろ!」
不気味すぎるからやめてくれ…


唯「…」

梓「…」

律「ねぇ、」

紬「…」

律「私、なんか変なこと言った?」

律「澪」

い、いやいや…はい?



唯「…」

紬「…」

「な、なんだよ、みんな、見るなよ」
どうしたんだよ…

律「…?」

唯「…ぷっ」

梓「…すみません」ガタッ

紬「…ふふふ」

パッ

ぎゃっ!
わ!わ!わ!
…え!?
…あ…電気、点いた…


梓「…そろそろ帰りましょう」

律「…だな」



いつのまにか梓はドアの前に立っていた。ロウソクの火は消えて、蛍光灯の光が部室を照らしている。

窓から外を見ると、日はとっくに沈んでいた。こんなに長い間…私たちは話してたのか?

律「よーし!じゃあ今度こそ帰るかぁ!」

唯「あー!もうこんな時間!憂が心配してるよぅ」

み、皆、いつものテンションに戻った…
…こ、ここの皆はドッペルゲンガーなんかじゃないよな?
な?

律「…んー?澪~、まさか、今の律はドッペルゲンガーかもー、とか思った~?」

いつのまにか梓はドアの前に立っていた。ロウソクの火は消えて、蛍光灯の光が部室を照らしている。

窓から外を見ると、日はとっくに沈んでいた。こんなに長い間…私たちは話してたのか?

律「よーし!じゃあ今度こそ帰るかぁ!」

唯「あー!もうこんな時間!憂が心配してるよぅ」

み、皆、いつものテンションに戻った…
…こ、ここの皆はドッペルゲンガーなんかじゃないよな?
な?

律「…んー?澪~、まさか、今の律はドッペルゲンガーかもー、とか思った~?」



あんな話されたら仕方ないだろ!
「ち、違う!…思ってない思ってない!」
律「またまた~顔に出やすいわねぇ~澪ちゅわん!」

「ち、違うったら!」

紬「大丈夫よ澪ちゃん」

…何が大丈夫なんだよぉ…
とりあえず怖いことに変わりはないだろぉ…

梓「ドッペルゲンガーってのは、似てるのは姿形だけです」

梓「だからちょっと話せば、明らかにいつもと反応が違うんで、それでドッペルゲンガーだってわかるんです」

梓「…っていうか、殺される乗っ取られる云々のくだりは…普通に迷信レベルですから」

…最後、ずいぶんぶっちゃけたな…
怪談話にその締めくくりはタブーじゃないのか
…しかし、梓の言葉で私が落ち着いたのも事実だった。
「あ…だ、だよなぁ、迷信だよな!ははは!」

梓「…はい。ですから、精々自分のドッペルゲンガーに気をつけてください」

…梓まで…悪乗りするなよぉ…



その日、律とはいつもと違う場所で別れた。
何故かはわからないが、誰もそのことに疑問を持たなかった。
普通に、本当に普通に、また明日なーと言って別れたのだ。
私は夜になってそのことに気が付いた。なんで律は、あんな場所で別れたのだろう。
…何か用事でもあったのだろうか。

…あ。
…あの野郎、何かの演出のつもりか?

…律と別れた場所は、律が自分のドッペルゲンガーを見た、と言った、あの交差点だった。


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