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澪「本物の律はどこ…?」2

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moemoequn

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次の日。
私は、昨日のドッペルゲンガーの話などすっかり忘れていた。
ドッペルゲンガーのことを忘れながら朝食を食べ、ドッペルゲンガーのことを忘れながら通学路を歩いている。

うぅ、やっぱり怖い。
…昨日あの後…律は平気だっただろうか。ドッペルゲンガーに襲われたりとかしてないだろうか。

いやいや!いやいやないない!
律の演出にまんまとハマってるぞ!
こんな心配してたら…また律にバカにされる。
ドッペルゲンガーのことは忘れよう。
だって、あんなのどう考えたって嘘じゃないか!迷信だよ迷信!

…でも私は、とりあえず、早く律の顔が見たかった。
だから、ちょっと向こうの方に、見慣れた律の頭が見えた時は…本当に安心した。

あいつ、今日は私よりも登校早いのか。



近くまで小走りする。

「律ー!」

…う、叫びながらの小走りはちょっと恥ずかしい…。
でも…はやく律と話したい。律に会いたい。いやいや、別にドッペルゲンガーとかの心配はしてないぞ。なんとなくだ。なんとなく。

「…律ー!」

律「…」

…律は、ただ学校に向かって歩いている。…あれ、聞こえなかったのかな?もう少し近づいてみるか。

「律!」

ポンと肩に手を置く。

律「…」

…律は黙って歩いている。なんだ?シカトか?律?律?
人違い、なわけない。まさかドッペルゲンガー?
そんなことが一瞬で頭をよぎるが、すぐに否定する。これは律だ。律だ。

「律!…おーい」

肩の手を少し揺らす。顔を覗き込む。…律は、私の手を肩に乗せながら歩く。
…だんだん血の気が引いていくのが、自分でもわかる。ま、まさかな…?
…と、律がやっとこっちを向いた。



律「へんじがない」
律「ただのドッペルゲンガーのようだ」

へっ!?
え?え?

律「…なーんちゃって♪」

あ………!…!

律「あれれ、突っ込みがないぞ!どうしたー!」

……この!おま、お前!この野郎!
若干本気で心配したんだぞ!
バカ律!

律「うぇ!?」

よ、良かったああああ…律~~~!

律「ば、ばか抱きつくなよ!大げさだな!」

恥ずかしがれ!罰として恥ずかしがれ!

律「わ、私がドッペルゲンガーに負けるわけないだろー!」

…うん…まぁ、そうだよな。考えてみたら、バカな話だ
そもそも、ドッペルゲンガーなんてものを…
信じた私がバカだ。でも、騙した律はもっとバカだ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

きっかけは、むぎの一言だった。

紬「…ドッキリってのをやってみたいわぁ」

唯「ドッキリ?」

梓「いきなりどうしたんですか?」

ナニナニするのが夢だったの~!
とか良く言ってるような雰囲気のむぎだが、今回は、なんつーか、随分微妙な憧れだな。


紬「大成功!とかいう看板に憧れるわぁ!」


うん。感性はわからん。
しかし…ドッキリ、か。まぁ誰しもやってみたい!という気持ちはある…と思う。
ちなみに澪は今掃除当番で、部室に来るのが遅れている。


紬「どう?りっちゃん!」



いや、どうと言われても…。
…部長としてその願いは叶えてやらにゃならんな。

「もちろん、ドッキリさせられる側は澪だよな」

紬「うんうん」

ふ、
…ならやりがいがあるってもんよ!

「よし!作戦会議だ!」

紬「はい!」

梓「え、本気ですか」

唯「やるやる!やりたーい!」



…会議において私たちが重視…というより、約束したのは、
①澪が傷つかないようにすること
②ネタばらしをしたときに、お互いが嫌な思いにならないこと
③どうせやるなら手の込んだものにすること

この3つ。

今まで澪のことはちょくちょくからかってきたけど、…これは史上最高のドッキリになる予感!


唯「澪ちゃんといえば…幽霊系のドッキリが反応良さそうだよね~」

そして…唯のそんな言葉から、会議は始まった



そして、ものの10分ほどで、私たち4人の知恵の結晶、ドッペルゲンガードッキリ案が完成したのだ。
…もしかして私たち天才?
誰にも言われないけど。

…意外にも梓が率先して会議に参加していたな。
それとむぎ、澪の紅茶だけコーラとか、ベースの弦が全部無くなってるとかいうのは、ドッキリじゃなくてイジメだ。

梓「じゃあ…最終確認です」

いつの間にか仕切ってるのは梓。…澪に何か恨みでもあるのだろうか。
梓だけでなく、唯も、紬も。なんというか…
すごくやる気に満ちている…?



梓「まず今日、自然な流れで、怖い話をする機会を作ります。で、その中で律先輩がドッペルゲンガーの話をします」

梓「で、翌日から、だんだんドッペルゲンガーに侵蝕される演技を律先輩がします」

梓「澪先輩が、律先輩が偽物で、ドッペルゲンガーに乗っ取られた!と信じこんだら私たちの勝ちです。ドッキリ成功、ネタばらし、と」

唯「じわじわ追い詰めるんだね!」

紬「まぁそもそもドッペルゲンガーって…微妙に違うけど」

「そこらへんの矛盾は無視!」
澪なら雰囲気で怖がってくれるさ!

梓「矛盾なんか気にならないくらい、脅かしてやりまっしょう!」

唯「おー!」

皆の一致団結…涙ぐましいね。
下手すりゃバンドの時よりも…
いやそれは問題だが。
…よし、部長の一言で会議を締めよう。

「このドッキリが成功するか否かは、ひとえにみんなの演技力にかかっている!頼むぞみんな!」

紬「おー!」

「早速今日の部活後、ドッキリ開始だ!」

梓「やってやるです…!」



そして…わりと自然に怪談の流れにし、自然にドッペルゲンガーの話ができた。
…もちろんすべてアドリブである。緊張した…。
…むぎが「3日間」とか適当なことを言ったおかげで、少なくともこのドッキリは、3日以上の長期戦になった。

後は昨日、むぎ達が適当に作ったドッペルゲンガー像に則って…
だんだん私が、ドッペルゲンガーになればいい。
ここからは主に私の演技にかかっている。

…ドッペルゲンガーを信じたとして…
…澪は、私を助けてくれるかな。
それとも怖がって、私から遠ざかるかな。
助けてくれたら、そりゃまー嬉しいですけどー。



そんなこんなで、その会議、その怪談の翌日。
通学路を歩いてたら…
…早速良い反応が見れそうな予感。
後ろから、澪が私の名前を呼びながら走ってくる。
恥ずかしくねーのかな。少なくとも…呼ばれてる私は恥ずかしい。

…ちょっと無視してみるか。
今の私は…ドッペルゲンガー度30%くらい?
いや、最初から100%でもいいのか?
まぁ、とにかく「いつもの律先輩と微妙に違う!っていうのを意識してください!」と梓に言われたので、それを忠実に実行しよう。



澪「律!」

ポン、と手が私の肩に置かれる。
まだ、まだ無視する。
でも完全に無視してはいけない。程々のところで、適当に反応しなければただのイジメだ。
微妙に違う、田井中律。これを演じなければならない。
…これは結構難しいぞ。

澪「律!…おーい」

肩を揺さぶってきた。さらに少し顔を覗き込んでくる。
…五秒。五秒だけ無視して…反応しよう。
無視してごめんよ、という罪悪感が、微妙に生まれた。



「へんじがない。ただのドッペルゲンガーのようだ」

澪「へっ!?え?え?」

おお、びびってるびびってる。
びびってる澪ちゅわんも可愛いですわよ。

「…なーんちゃって♪」

…うん。驚きの表情も絵になりますな。
んー…でも、ねぇ?


澪「あ………!」

「あれれ、突っ込みがないぞ!どうしたー!」

澪「……この!おま、お前!この野郎!若干本気で心配したんだぞ!バカ律!」

「うぇ!?」

私、罵倒の言葉の直後の抱擁フェチなんだよね。嘘でもない。
これはこれは。…これはこれは。

澪「よ、良かったああああ…律~~~!」

まさか泣いてんじゃないだろな。
見えないけど!
泣き顔も様になってるに違いないぞ!



「ば、ばか抱きつくなよ!大げさだな!」

澪「恥ずかしがれ!罰として恥ずかしがれ!」

ちなみに恥ずかしくはないよん。
…さて。

「わ、私がドッペルゲンガーに負けるわけないだろー!」

ドッペルゲンガーは迷信じゃないよ…っていう、軽いアピール。軽いミスリード。
ってか…結構ドッペルゲンガー信じてるじゃん!
なんだーいけるじゃんか!

…んーちょっと普通の私を出しすぎたかな。
さて、…上げて、落とす。
今の私はドッペルゲンガーだから。
別れ際に、澪に微妙な疑問違和感を残しましょう!



律「わ、私がドッペルゲンガーに負けるわけないだろー!」

…うん…まぁ、そうだよな
考えてみたら、バカな話だ
そもそも、ドッペルゲンガーなんてものを…
信じた私がバカだ

でも、騙した律はもっとバカだ


…うんでも、吹っ切れたかな!
律が無事で良かった…なんて、口にも顔にも出したくないけど。

この、バカ律!

律「うひゃ!二回目~!」

…二回も言ったっけ。覚えてないや
まぁ…私が勘違いしたのもあるし、もう責めまい。許した!
じゃあ律、また放課後、部室でな。

律「うーっし!…じゃあなー秋山ー!」

そう言って、律は走っていってしまった。
また放課後、部室でな。
…願わくば、律と。
元の、普通の律と。また放課後に。




秋山、秋山、秋山。
律は私のことをそう呼んだ。
ただ一点の違和感。それ以外は律。

初めは、何かの冗談だと思った。
もしかしたら嫌われたのかとも思った。
まだからかってるのかとも思った。
でも違った。
澪と呼ばない。秋山と呼ぶ。
それ以外は、いつもの律。
話し方も、話す内容も、歩き方も口癖も、笑顔も。私の律。
でもその律は完璧でない。
私の好きな私の律は、澪って呼んでくれる律だから。

梓は言っていた。ドッペルゲンガーかどうかの見分け方は、言動だと。

…本当にドッペルゲンガーの疑いが出てきた。冗談じゃなく。
想像が、悪い方に悪い方に膨れる。
でも…幽霊は怖いけど、見かけが律の幽霊は怖くないぞ。



私は…かけひきが得意ではない。でもなんとかして、律がドッペルゲンガーかどうかを確かめたい。

もしただ律がふざけてるだけなら、私がドッペルゲンガーを本気で疑ってたことを知られたくない。絶対にバカにされる。

もし今の律が本当にドッペルゲンガーなら、私に悟られたことを知られたくない。絶対に…なんだろう、何かされる。

そういえば、むぎ、言ってたな…
もし3日間、律がドッペルゲンガーだってことに気づかなかったら、本物の律が殺されるんだ。



律とドッペルゲンガーがすり替わったのは、まだ昨日か今日だ。まだ丸2日以上ある。
ドッペルゲンガーかどうか、見極めなきゃな。

……なに本気で考えてんだろ

まぁ…ドッペルゲンガーなんて…最悪のケースだし。
…どうせ、律のいたずらだろうけどな!

さて、頭脳戦だ。
どうすれば、律が本物かどうか、演技なのかどうか、見分けられるだろうか。



正直村と、嘘つき村の話を思い出した。
個人的にはかなり簡単な問題だ。

2手に分かれた道がある。一つの道は正直村に、もう一つの道は嘘つき村に通じている。

あなたは正直村に行きたい。だが、どちらの道が正直村に通じているのかわからない。
そこで、分かれ道に一人だけいる番人に、あなたは一つだけ質問をすることができる。

しかし、その番人が正直村の住人か、嘘つき村の住人かはわからない。
正直村の住人は、必ず本当のことを言う。嘘つき村の住人は、必ず嘘をつく。

どちらが正直村に通じる道か知るためには、どのように質問したらよいだろうか?

そうだ。所詮はこの問題の亜種だ。

これは、からかっている律との勝負。
騙してるドッペルゲンガーとの戦争だ。



律がドッペルゲンガーであろうとなかろうと、私が疑ってることを知られたくない。
律の演技だったら恥ずかしいし、ドッペルゲンガーなら…多分危険だ。
どんな感じで…カマをかければ良いだろうか…?

とりあえず、今普段の律と違うのが、私の呼び方。
それから、昨日分かれた場所だ。

…幽霊は怖いはずなのに…やっぱりどこかでドッペルゲンガーなんて信じてないからだろうか
律との勝負と決めた時点で、少し楽しくなってきた。

…今に律の拙い演技を見破ってやるさ!



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

秋山、秋山、秋山。
私は澪のことをそう呼んだ。
んー!なんか新鮮!ちょっと興奮しなくもない。なんでだろ。
一度廊下ですれ違った時も、よっす秋山!
…ちょっとわざとらしかったかな…?

しかしあれだねー
澪の表情の固いこと固いこと。
…私にいつも向けられてた笑顔が無い。
つまらん!つまらん!

いや、でもこのドッキリはサウナ的要素があるんです。
澪を不安にさせて、不安にさせて、させまくって、ネタバラシ!最高の笑顔!
その笑顔が見たくてドッキリやってるんですわ。すわすわ。

律ー心配したんだぞーとか言ってのハグも有り。アリアリ!
…まぁどちらにしろ、今の私がつまらんのも、後の楽しみの為なのさ。



そんなこんなで昼。
…たった一言、「秋山」と言っただけで、こうも不安な顔するもんかね。
おどおどしながら、澪が弁当に誘ってきた。
もしかしてイジメとかハブリとかと勘違いしてないだろな。

確かに今、今日は違う子と食べる予定なんだーとか言ったらそっちのラインで不安になりそうだな。
でも目的はドッペルゲンガーなのよー


「お!じゃー唯達も誘うか?」

澪「い、いや!あの、…今日は律と二人で…」

…これで頬でも赤くしてりゃタマランのだがなぁ。今の澪は何かこう…怯えてらっしゃる?

「…んまぁ、いいか。私の机でいいな?…いやー秋山と二人きりで弁当って、久しぶりじゃないか?」

澪「…そ、そうだな」

しかし、二人きりってことは、アレだな。
何か内緒の話がございまして?
これは、俗にいう、…カマをかけにいらした、とかいうやつですの?
…ならば言動には気をつけよう。ドッペルゲンガーファィッ!


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