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…しかし、その気合いは空振った。
てっきり頭脳戦的な言葉の駆け引きでも始まるのかと思って身構えていたら、なんだー?

澪は、黙々と弁当を食べ続けている。
…無言で弁当を食べ続ける二人。
つまらんなぁ。澪じゃないみたいだ。

…こっちから攻めてみるか。

「…なぁ、秋山ー?」

ピタッと澪の箸が止まる。地味にビビるなこれは。
一時の間があって、

澪「なぁ、律。なんで私のこと、秋山って呼ぶんだ?」

うおっ、いきなり来たか。
これは…演技の見せどころだな。



「え?え?…秋山?」

澪「…普段は秋山なんて呼ばない」

普段は澪って呼んでる!って言ってこない辺り、出方をうかがってますね。はい。

「え、えーと…いつも何て呼んでたっけ…?なーんて…」

私ドッペルゲンガーだからワカリマセーン

澪「…秋山さん」

あ?あれ?
「え?」
あ、やべ声に出た。
…えーと…はい?

澪「私のことは、普段から秋山さんって呼んでた」


澪「…そんな、馴れ馴れしくなかった」

澪「…私以外の人は、下の名前で呼び捨てだった。」



…ありゃ、嫌われたか?
あ、それとも…カマカケか。
だとしたら、大勝負に出たな。

さて…ドッペルゲンガーなら、どんな反応すっかなー

「…あ、ああ、そうだった!そうだったな!ごめんな!秋山さん!」

うえーあと3日間も秋山さんとか呼ばなきゃいかんのか。つらい。

澪「………じゃ、また放課後な、律」

「お、おう…」

弁当を片付けて席を立つ澪、真顔版。
…澪は律って呼んで、私は秋山さんって呼ぶのって…どんな関係やねん。

いやーしかし緊張した。
もし「…下手な演技はやめろ律」とか言われたら、絶対白状してたと思うわ。

…さて…澪以外の人は、下の名前で呼び捨て、ね。
これも澪なりに考えた、トラップなんだろーなー。



「わり!今日ちょっと用事あっから先帰るわ!」

唯「えー!そうなの~?今日はモンブランだよモンブラン!」

放課後。私は先に帰ることにした。
…唯は意外と演技派だな。

澪「…まぁ色々あるんだろ。律にも…」

ほぉ、ちょっと珍しい反応ざんす。
ちなみにモンブランは惜しいざんす。
でも…ドッキリ成功の為にゃ仕方あるまい。

紬「じゃあ、また明日ね」

「あぁ、んじゃ!」
…よろしくーとは言わないが。

紬達にはメールで作戦を伝達済みだ。
うまくやってくれたまえ。

私もわざわざあの交差点で別れて遠回りして帰るのは面倒だし。
私抜きの部室という、澪が色々相談できる場所が必要だろう。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「…どうする、律いないけど、練習するのか?」

唯「まぁまぁ、ゆっくりケーキ食べながら考えよー!」

紬「じゃあ、今お茶入れるね」

唯「ど、どうしようねぇ、モンブラン一つ余っちゃうねぇ?」

「…じゃんけんでもするか」

梓「えー私じゃんけん弱いから嫌ですー」

…こいつらは、律が変だってこと、気づいてるんだろうか。



「な、なあ、みんな」

少し大きめの声を出してみる。
むぎは…なんとかティーを淹れつづけているが、唯と梓はこちらを向いてくれた。
…いきなり本題に入ろう。

「…今日の律、何か変じゃなかったか」

………
しばらくの間がある。
え?という顔。キョトンとした顔。

唯「えぇー?何がー?何か変だったー?」

梓「…私は今日は会ってませんから…。」

唯「…そういえば何で先帰っちゃったのかなー?珍しいよねぇ?」

…そうじゃない。もっとこう、振る舞いとか、喋り方とか、微妙な嗜好の差とか…。

梓「…何か変だったんですか?」

気づかないのか…?
あんなに変だったのに。
あんなに普段の律と違うのに。
具体的に…は、言えないけど。秋山って呼んだり。秋山さんって呼んだり。
…でもまぁ、それだけか。それだけなんだけど…



まぁ、いいんだ。唯と梓は良いんだ。
…問題はむぎだ。
午前中、律とどのように皆が接していたかは知らない。
知らないが…もし、もし午後にむぎと律が会話してたら。
…単なる演技でふざけた律なのか、本物のドッペルゲンガーなのかが…わかるんだ。

「…なぁ、むぎはどうだ?何か…律に変なとこ、なかったか?」

聞くのが、怖い。ある意味答え合わせだ。

紬「あ…そういえば…今日の律ちゃん、ちょっとおかしかったかも。」

ドキドキする。不思議だ。怖いはずなのに、ニヤニヤしそうだ。全然嬉しくないのに。すごく怖いのに。

紬「…さっき私、教室で律ちゃんに」


紬「ツムギ、って呼ばれたの。」



…そうなんだ。
もし、「秋山さん」の時みたいに、私の言ったことを鵜呑みにするなら、
むぎのこと、「つむぎ」って呼び捨てにしたはずなんだ。


私をからかって私の前だけで演技するならわかる。
私の前でこれ見よがしにむぎのことをツムギって呼ぶのもまだ理解できる。
でも…私の見てないところで、ドッペルゲンガーの演技をする理由は、無い。


紬「何かの遊びかな?って思って…特に何も言わなかったけど…」

「…な、なぁ、むぎ、お前、律とグルか?」

もうこれしか可能性が残ってない。
頼むよ、もう私をからかうのはやめてくれ。

紬「え?」

「みんなで私を騙してるんだ。そうだろ?」

律は、たった一人でイタズラを仕掛けるような奴じゃないんだ。



紬「澪ちゃん」

紬「…ごめんなさい。澪ちゃんが何を言っているのか、…わからないわ」

そんな。
じゃあ律がむぎに向かって、ツムギなんて言った理由は何だ。
律は、一人でみんなにドッペルゲンガーの演技をしてるっていうのか。
たった一人でみんなを理由もなく騙してるっていうのか。
そんなわけないだろ。

「…そんなわけないだろ!!」

部室が、凍り付いたのがわかる。
私は…一気にまくしたてた。

「…むぎ!何でそんな変な律を見ておいて、そんな平然とお茶なんて淹れてられるんだよ!?」

そのままの勢いで、唯を見つめる。
唯がビクッとするのがわかる。

「…お前もお前だ!律があんなに変なのに全然気づかないなんて…それでも同じ部活の仲間か?それでも友達なのかよ!?」



三人が、怯えながらも困った顔でこっちを見てる。
若干の間の後、唯が口を開いた。

唯「み、澪ちゃん、実は」

梓「ゆ、唯先輩」

お前らの言い訳なんて聞きたくない。
お前らの言い訳で律が助かるわけでもない。
…いいさ、お前らが律の友達じゃないなら、私が、ひとりで、律を助けてみせるさ。
…私は鞄を掴み、足早に部室を去った。

唯「あ…」

紬「澪ちゃん!」

うるさい。
うるさいうるさい!



…その後どうやって帰ったのか、よく覚えていない。
ただただ、あの交差点を通らないように、それだけを考えて帰った。
本物の律を探しながら。偽物の律の視線から逃げながら。律のことだけ考えて、ひたすら歩いた。
今もあの交差点には、律がいるのだろうか。
本物の律は、どこにいるのだろうか。
もう殺されたのだろうか。
…いや、まだ3日間、経っていない。
そうだ。長く見積もっても、明日にドッペルゲンガーをどうにかすれば、絶対に間に合うんだ。

…不思議と、怖いとは思わない。
あの律が偽物だとわかった今、私は恐怖よりも使命感に支配されていた。

思い出せ。一昨日に聞いた、ドッペルゲンガーの、対処法を。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


今日は思った以上にドッキリが進んだなぁ。
たった1日、しかも呼び方変えただけで、こんなに効果があるものなのか?
やっぱり…ツムギってのが効いたのかな。澪側から仕掛けた罠ですけど。

むぎからの電話によると、澪は相当取り乱しいたようだ。半ば八つ当たりのようなことをわめき散らし、挙げ句練習せずに帰ってしまったらしい。
もちろん、私を心配する故。
私を心配する澪、見たかったなー

…しかし、むぎと梓と唯は、可哀想だからもうやめよう、とかいう意見らしい。
なんで?可哀想?可愛いじゃん!
罪悪感なんか…ちょっとしたエッセンスじゃないか。



いいよいいよいいですよ。
可愛い澪は、私だけのだし。ひとりでできるもん!

…しかし…けいかくより、ずっとはやい!
私たちは、やはり天才であったのだろうかね。
フィニッシュさえ決まれば完璧だ。
ネタバラシの後、泣き笑いで抱きつく澪!私たちの友情は、深まるのであった。


あ…ドッキリ成功の看板作ってない。
すまん!許せ!むぎ!

今日は…慣れない演技して、異様に疲れた。

私と澪の未来に、おやすみー




「おっはよー秋山さぁん!」

バシーンと澪の肩を叩きながら、今日も全力でドッペルゲンガーだ。
昨日とは違って登校路で会わなかったので、教室で、わざわざ。
昨日の練習どうだった?とか聞いてみたい。けどボロが出そうだからやめました。はい。

澪「…おはよう」

…いやーに落ち着き払ってらっしゃる。私のことドッペルゲンガーだと思ってるなら、もっと怖がっても良いだろうに。

澪「ねぇ、律」

なんでらっしゃいますかー澪さん

澪「今から、部室に、ちょっと来てくれないか」



「え」

来た。来た来た来た来た来た来た。来た!
これはおそらく、絶対!

お前ドッペルゲンガーだろーっ!ババーン

ってやつじゃないか!?
ど、どうしよう、今私たちのドッキリが、成就しようとしています!

「え、なんで?…まぁHRまで時間あるから…別にいいけど…何か話があるなら、今言えば」

早めに来て良かったですわ!すわすわ!

澪「…いいから。お願い」

「は、はぁ…」



ああもう、正直に言って、早く終わって欲しかった。ドッキリが成功すれば勿論良いけど、それ以上に、澪と今まで通りに、会話したかった。ティータイムもしたかった。
うんうん。私も、澪に依存していたんだなぁ。たった1日。たった1日ドッペルゲンガーになっただけで、こんなに辛いとは。

…ドッキリ成功の瞬間、むぎ達には見せてやんねー!
あいつら、降りたし!可哀想とか言って降りたし!
あと、泣いて喜ぶ澪を慰めるのは、私の仕事だし!


そんなこんなで、部室に来た。
もちろん二人きりで。

いろんな意味で緊張する。



澪「下手な演技は、やめてくれ」

あ…
あれ?…ばれた系のアレですか?
…おっかしーなー

「…あはは…ばれちゃいまし、た?」

澪「当たり前だろ。何年間律と友達やってると思ってるんだ」

「…そっか、こっちも演技するの、疲れちゃったんだよねー」

しかし、澪さん、いつもの呆れた表情と違いますわね。
なんかこう、…怒ってらっしゃる?

澪「…律は、どこだ」



はい?

澪「本物の律は、どこなんだよぉ!」

…あれ?あれ?
あ!そっち?そういうこと?
…じゃあ…ドッキリ成功じゃないですか?

澪「変な幽霊に、これ以上律の真似させたくないんだよぉ!」

「あ、いや違う。私!私がドッペルゲンガーの演技を」

澪「うるさい!黙れ!黙れ!」

…澪さん?
その、何を

あ。

「う…み、澪…」

…あーあ、言っちゃった。
最期の最期に、言っちゃった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

目の前には、ドッペルゲンガーが転がっている。
ドッペルゲンガーも、血とか流すんだな。
ドッペルゲンガーに果物ナイフが効くかどうか知らなかったけど、…効いたみたいだ。

そうだ。ドッペルゲンガーを殺さないと、律が殺されるんだ。
誰も気づいてやらないから、私が殺さなきゃいけなかったんだ。

…幽霊なんだから、死んだら消えろよ。
いつまでも、人間のフリなんかするなよ。
部室にこんなもの、置いておけないだろ。



…息切れが止まらない。
この私が、幽霊退治なんてな。

本物の律の居場所。これから探そう。
律、待ってて。

早退しよう。今日は。
律を見つけよう。



とりあえず、この気持ち悪い幽霊から、遠ざかろう。


私は、誰にも見つからないように、足早に学校を出た。



あ、鞄、置いてきちゃったな…でもまぁ、律のが先だ。
速歩きで着いたのは…あの交差点。
…一番怪しいの、ここだもんな。

って…あ、あれ?
あそこにいるの、絶対律だよな?
律だよな?律だよな?

「律!律ー!」

律のシルエットが、こっちを向く。ほら、律だ。

「おい、律!無事だったのかよ…律!」

私は今にも泣きそうだ。律の方に向かって、思わず走る。律に抱きつきたい。今すぐに。私、私、頑張ったんだよ。
律のドッペルゲンガー、殺したんだよ。

律「あ…ありがとう」

「ば、ばか!心配させるなよー!」

思わず、抱きついた。久しぶりだ。律だ。…いつの間にか、涙が出ている。

律「本当に、ありがとう」

律「ありがとうな、秋山。」