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澪(今日も流れてくる瓶に傷がついてないか確認する仕事頑張るぞ)1

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moemoequn

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工場、瓶が流れてくる部屋

ウインウイン

澪「・・・」ジー

ウインウイン

澪「・・・」ジー

ウインウイン

澪「・・・」ジー

澪「傷発見・・・」

ポイ

澪「・・・」ジー



私の名前は秋山澪
瓶に傷がついてないか確認する仕事を始めてもう5年になる

澪「傷発見…」

ポイ

まだ5年目とはいえ瓶の傷を確認する仕事に関して、私の右に出るものはいないと自負している
私はもう4年もミスをしていない
その事実が私に自信を持たせていた

澪「傷発見…」

ポイ



高校を卒業してすぐに就職したこの

澪「傷発見…」

ポイ

卒業してすぐに就職したこの工場はコミュニケーション能力に難ありの私にとってまさに天国だった
まず人と会話をしなくても仕事を進められることがありがたい
私はある理由で人と話すのが著しく苦手になってしまった

このし

澪「傷発見…」

ポイ

この仕事は私にとって天職なのである



主任「秋山さーん、仕事熱心なのはいいけどほどほどにね」

澪「…」ペコリ

ウインウイン

澪「…」ジー

今まで何人もこの仕事に就いていたようだが、みな1年ともたず辞めてしまうそうだ
こんなに楽で楽しい仕事を辞めるなんて一体どんな頭の構造をしているんだろうか?
謎である



昼休憩中、食堂

澪「モグモグ」(今日もひとりぼっちでご飯か。やはり一人は気が楽だな)

「ねー!ここ空いてるぅ?」

澪「!?」

澪「あ…あい、空いて…」

「そ。んじゃ失礼~」

「あんた部署どこ~?」

澪「び、び、びびびび」

「もしかして瓶?うっわ一番キツイとこじゃん」

澪(そうでもないよ)

引っ込み思案な私は心の中で返答した



「あんた、名前は?」

澪「あ、あき…秋山みふぉ!」

澪(自分の名前を噛んだ…)

澪「秋山澪…」

「澪ね。まぁ知ってたけどな。それにしてもお前予想以上に面白い奴だな」

澪(どうせ馬鹿にしているんだ…)

律「私は田井中律っていうんだ~。よろしくな!ちなみにラベル部門だから!」

澪「よろひゅく…」



その日から律と昼飯を食べるのが日課になった
律が一方的に喋り、私は律の話を黙って聞いていた
律と会話(と呼べるかは甚だ疑問であるが)は始めは昼休憩に流れるBGMく

澪「傷発見…」

ポイ

BGMくらいにしか思っていなかった
しかし何週間か過ごしていくうちに律との時間が大切なものになっているのを感じていた

ちなみに律は私と同い年で彼女もまた高校卒業と同時にここに就職したらしい
律は私の存在をしっていたらしいのだけど、私は律のことなど今まで全く知らなかった
それほどまでに私は流れてくる瓶以外に興味がなかったのである



律「み~お」

澪「…」ペコリ

律「相変わらず寡黙な奴だ」

澪「…」

律「お、澪はかきふらい定食か。一個も~らい!」ヒョイパク

澪(あ~!何すんのよ律ぅ!)

案の定、引っ込み思案な私は心の中で叫ぶことしかできなかった



私は世界が滅亡したかのような顔になりながら、ジッと残りのかきふらいを眺めていた

律「ごめんごめん!ほら、私のしょうが焼き一枚やるよ」

澪(むふぅ!)

律「お、喜んでる喜んでる」





澪「パクパク」

律「モグモグ、なあ澪~今週の日曜買い物行かね?」



弱った
私が街に買い物だと?
ふざけるな!
買い物に行く服がない!

とりあえず下着やスウェットで買い物に行くわけには行かないので、中学生の時に買った紫のズボンとよくわからないパーカーとエコバッグを肩にかけ律と会うことにした

言うまでもなく、紫のズボンとよくわからないパーカーのメーカーは不明である

律は、私のために服を買ったり美容院で髪を切る計画らしい
私を可愛く変身させるらしいがどうなることやら…



律「おまたせ~…え…?」

澪「…」ペコリ

律(だっせえええええ!だせえにも程がある!)

律はハーフパンツに有名メーカーの上着、リュックという出で立ちだった
とてもボーイッシュな、律に似合った格好だった

律「せっかく澪はいい顔してんのに、オシャレに無頓着なのがマイナスだよな~」

余計なお世話である



ブランドの店

澪(上着一枚で5000円だと…?一か月ぶんの食費じゃないか)

律「みーおー、何か適当に試着してみろよ」

澪「?」

シチャクってなに

律「なにキョトンとしてんだ。そこら辺の服適当に持って着替えろ」

私は驚いた
金を払う前に服を着てもいい法律ができていたことに
私はその法律に習い、ありがたくシチャクさせてもらうことにした



律「さっきの紫のズボンよりだいぶましだな」

澪「あ、ありが…と」

律「いいってことよ。じゃあ次はその野暮ったい髪を切れ。お前自分で髪切ってるだろ?」

澪「…」コクッ

律「だからそんな重く見えるんだよ。私の行ってるとこ紹介するよ。」

澪「…」コクッ



律が紹介してくれた美容院はオシャレで明るい雰囲気の、およそ私に似つかわしくない空間だった

律「てんちょ!こいつをとびきり可愛くしてやってね!」

店長の腕は確かだった
店長は私の重たい髪を次々鋤いていく
店長のハサミ裁きはまるで白鳥の湖を思わせるような、なんかそんな動きだった
よくわからないけど


オマケに化粧までしてもらい、最後に鏡を見た私は驚きで腰を抜かしてしまった

律も店長も店員も他の客も腰を抜かしていた
なぜかって?
私があまりも可愛かったからだ



律「ほえ~変わるもんだな~」

律は俯く私の顔を覗き込んでくる

私は見られる恥ずかしさから逃れようと顔を背ける

イジワルな律はさらに覗きこもうとする

そんなやりとりを数回続けているうちに、どちらからともなく笑いだした

律は男性のように「アハハハハ」と豪快に笑い、私はクスクスと笑った

私が笑ったのは10数年ぶりだった
そのことを知ってか知らずか律はお腹を抱えてヒィヒィ笑っている



それはリップグロスがキラリと光る、ある晴れた日曜日の出来事だった



その日を境に律との付き合いはどんどん深まっていった
昼飯はもちろんのこと、休日は二人で買い物に行ったり公園でボーッとしたりした
そのおかげか、私は律と会話が続くようになった

律「かきふらいおいしいか?」

澪「おいしい」

律「そっか。良かったな」

澪「良かった」

律は私が話やすいような話題を選んでくれているようだった
それは私が生まれて初めて他人から受けた優しさだった




私は律に自分の過去を打ち明けようと決心した



律「改まって話ってなんだ?もう閉経したとか?」

澪「あ、わた私のか…あぅ…」

律「…?」

私のただならぬ雰囲気を感じたのだろう
律はそれ以上冗談を言うことなく、黙って座っていた
私は律の優しさを感じながらゆっくりと自分の過去を話始めた
私の話はとても拙く、途中何度も言葉に詰まった
それでも全部話しきれたのは言葉が詰まるたび、律が私の頭を撫でて「がんばれ」と言ってくれたからであろう


私が全て話終えると律は「がんばったな」と言った
私は「がんばった」と答えた
今回の返答は心の中のものではなかった



私の過去をかいつまんで話すとこうだ

私は小学生時代に「在日」「ワキガ」などいわれのない誹謗中傷を浴び続けた
所謂イジメである
家に帰れば帰ったで、両親の虐待が待っていた
幼少時代の私に心休まる場所はなかった

それらの体験は私から言葉とコミュニケーション能力を奪うのに充分すぎた

中学生高校生時代は極端なイジメや虐待はなかったものの、学校では毎日ひとりぼっちで過ごし、家に帰ったらすぐに部屋に引きこもった
この6年間、私はほとんど人と喋らなかった

「がんばった」と答えた直後私は嗚咽を漏らしながら泣いた
何故泣いたのか自分でもわからなかったが、たぶん誰かに自分の過去を話せたことが嬉しかったんだと思う

律は泣きじゃくる私を抱きしめ「話してくれてありがとう」と言った

私に初めて親友ができた瞬間だった



それは流れる涙がキラリと光る、ある土曜日の出来事だった










翌日、律は仕事を休んだ











澪(久しぶりに一人で昼飯だな。まあ、たまにはいいか)

さらに翌日、またしても律は仕事を休んだ

さすがに気になった私はラベル部署の主任に律のことを尋ねた






律は亡くなっていた


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