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澪「その未来は今」1
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moemoequn
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梓「せーんぱいっ」ぎゅっ
澪「ひいっ?!って何だ、梓か…」
梓「そんなに驚かなくても…」
澪「ち、ちがうって!びっくりしただけだよ!」
梓「えへへ。一緒に帰ろっ?」
澪「あぁ」
まだ少し寒さが残る春。
私と梓は桜舞い散る帰り道を歩いていた。
今日は4月14日。
私と梓が付き合って、2ヶ月となる日。
きっかけは、バレンタインデーだった。
――――――
――――
―――
――
…
梓「あのっ、私…。ずっと澪先輩のことが―――」
放課後、一人音楽室に呼ばれた私は梓に告白された。
耳まで真っ赤にしてチョコを差し出す梓の顔は、今も鮮明に覚えている。
私も、梓のことが好きだった。
とはいえ私には告白する度胸なんてあるはずもなく、
その想いを胸の内に秘めたままの日々を過ごしていた。
だからあの時の梓の告白は本当にうれしかったし、その反面ずっとうじうじしていた自分が惨めでもあった。
澪「………私も」
澪「私も、梓のことが…好き」
私も自分の想いを伝えた。
後出しというちょっとずるい形ではあったけど。
そして私たちは付き合うこととなった。
何日かして軽音部のみんなにそのことを報告した。
隠すようなことでもなかったし、言ったところで何か変化が起こるような仲ではないからだ。
唯「えっ」
律「なん…だと…?」
紬「いま、何て?」
澪「だ、だからっ!私と梓は付き合ったんだって」
紬「もう一回いいかしら?」
澪「あの、その…。だから…///」
紬「えっ?!なに?!!もっと大きな声で!!!」
唯「ム、ムギちゃん…?」
紬「さぁ、さぁ!エビバディセイッ!!」
澪「うぅぅ…」
梓(澪先輩かわいい…)
紬「でもすごくいいと思うわ。お似合いよ2人とも」
律(さっきのはいったい…)
澪「そ、そうかな…えへへ」
唯「あずにゃんはみんなのものなんだぞー!澪ちゃんずるーい」ぶーぶー
梓「ちがいますよ、私は澪先輩のものですから♪」
澪「あ、あずさぁあぁぁああぁ////」
律「うわ、出た!いま惚気やしたぜ唯隊員!」
唯「バカップルってやつですねりっちゃん隊員!」
紬「………」
紬「………」つー
唯「ムギちゃん鼻血!」
リアクションはそれぞれだったけど、みんな純粋に祝福してくれた。
それからというもの、交際は順調に進んでいった。
みんな(というより律)は恥ずかしがる私をおちょくるのが好きなようで、
ティータイムの時にはよく茶化されたものだった。
澪「私のケーキにいちごが乗ってない…。明らかに取られた跡があるんだが」
梓「私のには2個乗ってます…」
唯「わぁ!そりゃ大変だ!」
律「はーい!梓のいちごを1個澪にあげればいいと思いまーす!」
澪「お前ら…。謀ったな…!」
梓「まぁ、それもそうですね。はい、澪先輩」ひょい
澪「あ、あぁ…。ありがとう」
紬「梓ちゃん!何やってるの!!」
梓「えっ…?その、1個あげようかと…」
紬「あーんよ、あーん!」
梓「」
澪「」
最初の頃はこんな感じで何度も顔を真っ赤にされていたものの、
ひと月もすると慣れてしまい当たり前のようになってきた。
澪「梓のタルト、おいしそうだな」
梓「一口食べます?はいっ」
澪「あーん」ぱくっ
澪「あ、おいしい…。私のチーズケーキも一口あげるよ」
梓「ありがとうございます」ぱくっ
梓「ん~♪おいしいです」
律「………」
律「つまんなぁぁぁい!!!」
澪「なにがだ!」
随分と律は退屈してしまったようだ。
とまぁ、こんな感じで順調に交際をしていた。
…
――
―――
――――
――――――
梓「どうしたの?」
澪「いや、なんでもないよ」
ぼーっとしていたようだ。
梓に声をかけられ我に帰る。
梓「手、痛い?」
澪「ん?あぁ、平気だよ。ありがとう」
梓は私の手に貼られている絆創膏を見つめる。
この傷は唯と律が部室に連れ込んだ野良猫によるものだった。
澪「はぁ、新学期早々ついてないなぁ…」
梓「私もびっくりしたよ。最初はあんなにごろごろしてたのに、いきなり先輩に襲いかかるんだもん」
猫の気まぐれの犠牲(といっても引っかかれただけだが)となった私は、自分の手から流れ出る血を見て気を失ってしまったらしい。
自分の血を見て気絶してしまうだなんて、先が危ぶまれるといったものだ。
澪「…3年生、か」
新学期早々、という言葉を口にしてふと思った。
私たちは3年生。今年で卒業。
合宿を行ったり、文化祭でライブしたり、私の高校生活は軽音部とともにあった。
まだ1年ある、とは思えなかった。それくらい、毎日が充実していたから。
もう1年しかないんだ、そう思うと急に寂しくなった。
梓「先輩たちは、今年で卒業しちゃうんだよね…」
梓「………」
梓は遠い目をしていた。
私たちが卒業してしまったら、軽音部は梓だけになってしまう。
ずっと5人でやってきたのに、そんなの寂しすぎる。
私と同じように、梓にも軽音部と共にあった3年間であったと感じてほしい。
だから―――。
澪「私たちが卒業しても寂しくないように、新入部員を集めないとな」
梓「そうだね。もっと軽音部を盛り上げなきゃ!」
澪「そのためにも、まずは新歓ライブだ」
梓「うんっ!絶対成功させるんだから!」
梓「…でも」
澪「ん?」
梓「先輩が一年生に構ってるの見るのは、ちょっと妬けちゃうかも…」
澪「そんなことないって。私が人見知りなの知ってるだろ?」
梓「でもでもっ…先輩かわいいし、しかもかっこいいし…。誰かにとられちゃったらどうしよう…」ぎゅっ
つないでいる手がほんの少し強く握られる。
この期に及んでそんないらぬ心配をしている梓がたまらなく愛しかった。
澪「大丈夫。私は梓一筋だよ」
梓「…本当?」
澪「あぁ、本当だ」
梓「えへへ、そっか♪」
こんなにも私のことを想ってくれる人がいる私は幸せ者だった。
寂しい思いをさせたくない、いつまでも笑っていてほしい。
だから、今年の新歓は絶対に成功させるんだ。
いつも以上に私は意気込んでいた。
澪「それじゃあ、また明日な」
梓「あ、待って先輩」
それから私と梓はぶらぶらと寄り道をしながら他愛のない話をしていた。
そしていつもの交差点で別れを告げようとすると、梓が私を呼びとめた。
澪「ん?」
梓はごそごそとバッグの中を漁り始めた。
バッグから手を取り出した梓は、何かを握っている。
梓「…記念日、おめでとうございます」
梓はそう言って私の首にその握られていた何かをつけてくれた。
見てみると、小さなハートの形をしたかわいらしいネックレスだった。
澪「…えっ?あ、梓?!」
梓「えへへ、びっくりした?」
梓のサプライズにももちろんびっくりしたが、それ以上に申し訳ないという気持ちがあった。
私の方はこれといって特に何かを用意しているわけではなかったからだ。
もちろん2ヶ月の記念を祝わないというわけではない。
けど、一方的にもらうにはあまりにも申し訳ないようなプレゼントだった。
澪「そ、そんな!悪いよこんな高そうなもの…」
梓「いいの。私があげたかっただけだから」
澪「で、でも…」
梓「祝・最上級生って意味もこめてね♪」
澪「今度私もプレゼント用意するから、その時に交換しないか?」
梓「…そんなにやだ?」
澪「……!」
これ以上は梓に失礼だと思った。
こんなの梓の好意をないがしろにしているだけじゃないか。
澪「…ありがとう、本当にうれしい。必ずお返しするから」
梓「いいよ、そんなの。先輩のその顔が見れただけで私は十分だよ♪」
梓「それじゃ、またね!」
梓はそう言って歩いていった。
澪「梓、ありがとう!」
私は大きな声で叫んだ。
梓は振り向いて手を振ってくれた。
その顔は、暗い夜道にも映えるぐらいの笑顔だった。
澪「さてと!」
私も踵を返し家に向かった。
いくら春とは言えまだ少し夜は寒い。
早く帰ろう。帰って梓にもう一回お礼言わなきゃ。
私の足は自然と早くなっていった。
・・・・・・
澪「…ん?」
家まであと5分といったところだろうか。
一際暗い道に差しかかる。
いつもなら早足で駆けていくところを、私は立ち止まった。
何かちがう、そう思ったからだ。
この暗さの原因でもある雑木林の奥から光が漏れていた。
電灯とかそういった人工的な光ではない、もっと優しい光。
なんだろう。
よくわからないけど、不思議な光だった。
無意識のうちに、私はその光に吸い寄せられるように雑木林の奥に入っていった。
近づくにつれ、その光源が見えてくる。
澪「………」
月だ。月の光が差し込んで、そこを照らしているのだ。
澪「わぁ…」
足を踏み入れた私は思わず息を漏らした。
それほどまでに幻想的な場所だったからだ。
周りに比べ雑木の少ないこの場所は特別光が差し込み、まるで切り取られた別の世界のように神秘的だった。
澪「今度、梓も連れてきてあげようかな」
2人だけの秘密の場所、なんてのもいいかもしれない。
そんなこと思いながら空を見上げた。
見上げる先には、大きな月。その儚げな光が夜を照らしていた。
でも、私が普段見ているそれとは少し違う印象をうけた。
なんて言えばいいのかわからないけど、不安になる光だった。
すると突然、地面が大きく揺れた。
澪「じ、地震?!」
揺れの規模はかなり大きい。
立っているのもままならなかった。
澪「……うっ」
バランスを取ろうと足腰に力を入れようとした途端、頭痛が起こった。
ただの痛みじゃない、何かに締めつけられてるような痛みだった。
澪「な、なんだ…これっ…。き、気持ちわる…い…っ」
徐々に気分も悪くなってきた。
意識が遠のいていくのがわかる。
視界もぐるぐると回り、ぼやけていく。
澪「…うぁ―――」
そして、私の意識は深い暗闇に落ちていった。
――――――
――――
―――
――
…
澪「…ん」
目が覚める。
まるで長い眠りから覚めたような感覚だった。
辺りを見渡す。ここは私の部屋だ。
澪「あれ…」
記憶の糸をたどる。
昨日の帰り梓からプレゼントをもらったことまでは覚えてる。
が、そこから先がおぼろげだった。
その帰りに何でかわからないけど雑木林に入って、それから………。
澪「…夢か」
普通に考えて私が寄り道なんかするはずがない。
ましてや雑木林。あんな暗くて怖いところ一目散に通り過ぎるはずだ。
少し落ち着きを取り戻し、時計を見る。
時刻はもう8時を回っていた。
澪「………」
澪「うわああああ!!ち、遅刻だぁぁあぁ!!」
ベッドから飛び起きた私は急いで制服に着替えた。
玄関を飛び出す。陽の光が眩しい。
4月のわりには、少し暑い感じがした。
【学校】
澪「はぁ…はぁ…」
教室に入る。
全速力で来たので息が上がっていた。
さわ子先生が教室から出ようとしているところだった。
どうやらホームルームは終わってしまったようだ。
さわ子「秋山さん、どうしたのその格好?」
澪「……?」
どうしたもこうしたも制服じゃないか。
何を言っているんですか、先生。
そう言おうとした矢先だった。
澪「え…」
教室を見渡す。
先生の言っていることの意味がすぐにわかった。
見渡す限り視界に映る薄手のシャツ、ベージュのニットベスト、少しだけ丈の短いスカート。
みんな、夏服だったのだ。
澪「は?えっ…?」
私だけがブレザーを羽織っていた。
確かに今日は暑いけど、そんな薄着をするような時期じゃ…。
さわ子「まぁいいわ、あとで職員室に来てね。最近遅刻多いわよあなた」
思考の整理が追いつかないまま、先生が教室から出ていく。
私は先生の影で隠れていた黒板の文字を見て愕然とした。
9月9日
真っ白なチョークで、9月9日と書いてあった。
澪「ひいっ?!って何だ、梓か…」
梓「そんなに驚かなくても…」
澪「ち、ちがうって!びっくりしただけだよ!」
梓「えへへ。一緒に帰ろっ?」
澪「あぁ」
まだ少し寒さが残る春。
私と梓は桜舞い散る帰り道を歩いていた。
今日は4月14日。
私と梓が付き合って、2ヶ月となる日。
きっかけは、バレンタインデーだった。
――――――
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―――
――
…
梓「あのっ、私…。ずっと澪先輩のことが―――」
放課後、一人音楽室に呼ばれた私は梓に告白された。
耳まで真っ赤にしてチョコを差し出す梓の顔は、今も鮮明に覚えている。
私も、梓のことが好きだった。
とはいえ私には告白する度胸なんてあるはずもなく、
その想いを胸の内に秘めたままの日々を過ごしていた。
だからあの時の梓の告白は本当にうれしかったし、その反面ずっとうじうじしていた自分が惨めでもあった。
澪「………私も」
澪「私も、梓のことが…好き」
私も自分の想いを伝えた。
後出しというちょっとずるい形ではあったけど。
そして私たちは付き合うこととなった。
何日かして軽音部のみんなにそのことを報告した。
隠すようなことでもなかったし、言ったところで何か変化が起こるような仲ではないからだ。
唯「えっ」
律「なん…だと…?」
紬「いま、何て?」
澪「だ、だからっ!私と梓は付き合ったんだって」
紬「もう一回いいかしら?」
澪「あの、その…。だから…///」
紬「えっ?!なに?!!もっと大きな声で!!!」
唯「ム、ムギちゃん…?」
紬「さぁ、さぁ!エビバディセイッ!!」
澪「うぅぅ…」
梓(澪先輩かわいい…)
紬「でもすごくいいと思うわ。お似合いよ2人とも」
律(さっきのはいったい…)
澪「そ、そうかな…えへへ」
唯「あずにゃんはみんなのものなんだぞー!澪ちゃんずるーい」ぶーぶー
梓「ちがいますよ、私は澪先輩のものですから♪」
澪「あ、あずさぁあぁぁああぁ////」
律「うわ、出た!いま惚気やしたぜ唯隊員!」
唯「バカップルってやつですねりっちゃん隊員!」
紬「………」
紬「………」つー
唯「ムギちゃん鼻血!」
リアクションはそれぞれだったけど、みんな純粋に祝福してくれた。
それからというもの、交際は順調に進んでいった。
みんな(というより律)は恥ずかしがる私をおちょくるのが好きなようで、
ティータイムの時にはよく茶化されたものだった。
澪「私のケーキにいちごが乗ってない…。明らかに取られた跡があるんだが」
梓「私のには2個乗ってます…」
唯「わぁ!そりゃ大変だ!」
律「はーい!梓のいちごを1個澪にあげればいいと思いまーす!」
澪「お前ら…。謀ったな…!」
梓「まぁ、それもそうですね。はい、澪先輩」ひょい
澪「あ、あぁ…。ありがとう」
紬「梓ちゃん!何やってるの!!」
梓「えっ…?その、1個あげようかと…」
紬「あーんよ、あーん!」
梓「」
澪「」
最初の頃はこんな感じで何度も顔を真っ赤にされていたものの、
ひと月もすると慣れてしまい当たり前のようになってきた。
澪「梓のタルト、おいしそうだな」
梓「一口食べます?はいっ」
澪「あーん」ぱくっ
澪「あ、おいしい…。私のチーズケーキも一口あげるよ」
梓「ありがとうございます」ぱくっ
梓「ん~♪おいしいです」
律「………」
律「つまんなぁぁぁい!!!」
澪「なにがだ!」
随分と律は退屈してしまったようだ。
とまぁ、こんな感じで順調に交際をしていた。
…
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梓「どうしたの?」
澪「いや、なんでもないよ」
ぼーっとしていたようだ。
梓に声をかけられ我に帰る。
梓「手、痛い?」
澪「ん?あぁ、平気だよ。ありがとう」
梓は私の手に貼られている絆創膏を見つめる。
この傷は唯と律が部室に連れ込んだ野良猫によるものだった。
澪「はぁ、新学期早々ついてないなぁ…」
梓「私もびっくりしたよ。最初はあんなにごろごろしてたのに、いきなり先輩に襲いかかるんだもん」
猫の気まぐれの犠牲(といっても引っかかれただけだが)となった私は、自分の手から流れ出る血を見て気を失ってしまったらしい。
自分の血を見て気絶してしまうだなんて、先が危ぶまれるといったものだ。
澪「…3年生、か」
新学期早々、という言葉を口にしてふと思った。
私たちは3年生。今年で卒業。
合宿を行ったり、文化祭でライブしたり、私の高校生活は軽音部とともにあった。
まだ1年ある、とは思えなかった。それくらい、毎日が充実していたから。
もう1年しかないんだ、そう思うと急に寂しくなった。
梓「先輩たちは、今年で卒業しちゃうんだよね…」
梓「………」
梓は遠い目をしていた。
私たちが卒業してしまったら、軽音部は梓だけになってしまう。
ずっと5人でやってきたのに、そんなの寂しすぎる。
私と同じように、梓にも軽音部と共にあった3年間であったと感じてほしい。
だから―――。
澪「私たちが卒業しても寂しくないように、新入部員を集めないとな」
梓「そうだね。もっと軽音部を盛り上げなきゃ!」
澪「そのためにも、まずは新歓ライブだ」
梓「うんっ!絶対成功させるんだから!」
梓「…でも」
澪「ん?」
梓「先輩が一年生に構ってるの見るのは、ちょっと妬けちゃうかも…」
澪「そんなことないって。私が人見知りなの知ってるだろ?」
梓「でもでもっ…先輩かわいいし、しかもかっこいいし…。誰かにとられちゃったらどうしよう…」ぎゅっ
つないでいる手がほんの少し強く握られる。
この期に及んでそんないらぬ心配をしている梓がたまらなく愛しかった。
澪「大丈夫。私は梓一筋だよ」
梓「…本当?」
澪「あぁ、本当だ」
梓「えへへ、そっか♪」
こんなにも私のことを想ってくれる人がいる私は幸せ者だった。
寂しい思いをさせたくない、いつまでも笑っていてほしい。
だから、今年の新歓は絶対に成功させるんだ。
いつも以上に私は意気込んでいた。
澪「それじゃあ、また明日な」
梓「あ、待って先輩」
それから私と梓はぶらぶらと寄り道をしながら他愛のない話をしていた。
そしていつもの交差点で別れを告げようとすると、梓が私を呼びとめた。
澪「ん?」
梓はごそごそとバッグの中を漁り始めた。
バッグから手を取り出した梓は、何かを握っている。
梓「…記念日、おめでとうございます」
梓はそう言って私の首にその握られていた何かをつけてくれた。
見てみると、小さなハートの形をしたかわいらしいネックレスだった。
澪「…えっ?あ、梓?!」
梓「えへへ、びっくりした?」
梓のサプライズにももちろんびっくりしたが、それ以上に申し訳ないという気持ちがあった。
私の方はこれといって特に何かを用意しているわけではなかったからだ。
もちろん2ヶ月の記念を祝わないというわけではない。
けど、一方的にもらうにはあまりにも申し訳ないようなプレゼントだった。
澪「そ、そんな!悪いよこんな高そうなもの…」
梓「いいの。私があげたかっただけだから」
澪「で、でも…」
梓「祝・最上級生って意味もこめてね♪」
澪「今度私もプレゼント用意するから、その時に交換しないか?」
梓「…そんなにやだ?」
澪「……!」
これ以上は梓に失礼だと思った。
こんなの梓の好意をないがしろにしているだけじゃないか。
澪「…ありがとう、本当にうれしい。必ずお返しするから」
梓「いいよ、そんなの。先輩のその顔が見れただけで私は十分だよ♪」
梓「それじゃ、またね!」
梓はそう言って歩いていった。
澪「梓、ありがとう!」
私は大きな声で叫んだ。
梓は振り向いて手を振ってくれた。
その顔は、暗い夜道にも映えるぐらいの笑顔だった。
澪「さてと!」
私も踵を返し家に向かった。
いくら春とは言えまだ少し夜は寒い。
早く帰ろう。帰って梓にもう一回お礼言わなきゃ。
私の足は自然と早くなっていった。
・・・・・・
澪「…ん?」
家まであと5分といったところだろうか。
一際暗い道に差しかかる。
いつもなら早足で駆けていくところを、私は立ち止まった。
何かちがう、そう思ったからだ。
この暗さの原因でもある雑木林の奥から光が漏れていた。
電灯とかそういった人工的な光ではない、もっと優しい光。
なんだろう。
よくわからないけど、不思議な光だった。
無意識のうちに、私はその光に吸い寄せられるように雑木林の奥に入っていった。
近づくにつれ、その光源が見えてくる。
澪「………」
月だ。月の光が差し込んで、そこを照らしているのだ。
澪「わぁ…」
足を踏み入れた私は思わず息を漏らした。
それほどまでに幻想的な場所だったからだ。
周りに比べ雑木の少ないこの場所は特別光が差し込み、まるで切り取られた別の世界のように神秘的だった。
澪「今度、梓も連れてきてあげようかな」
2人だけの秘密の場所、なんてのもいいかもしれない。
そんなこと思いながら空を見上げた。
見上げる先には、大きな月。その儚げな光が夜を照らしていた。
でも、私が普段見ているそれとは少し違う印象をうけた。
なんて言えばいいのかわからないけど、不安になる光だった。
すると突然、地面が大きく揺れた。
澪「じ、地震?!」
揺れの規模はかなり大きい。
立っているのもままならなかった。
澪「……うっ」
バランスを取ろうと足腰に力を入れようとした途端、頭痛が起こった。
ただの痛みじゃない、何かに締めつけられてるような痛みだった。
澪「な、なんだ…これっ…。き、気持ちわる…い…っ」
徐々に気分も悪くなってきた。
意識が遠のいていくのがわかる。
視界もぐるぐると回り、ぼやけていく。
澪「…うぁ―――」
そして、私の意識は深い暗闇に落ちていった。
――――――
――――
―――
――
…
澪「…ん」
目が覚める。
まるで長い眠りから覚めたような感覚だった。
辺りを見渡す。ここは私の部屋だ。
澪「あれ…」
記憶の糸をたどる。
昨日の帰り梓からプレゼントをもらったことまでは覚えてる。
が、そこから先がおぼろげだった。
その帰りに何でかわからないけど雑木林に入って、それから………。
澪「…夢か」
普通に考えて私が寄り道なんかするはずがない。
ましてや雑木林。あんな暗くて怖いところ一目散に通り過ぎるはずだ。
少し落ち着きを取り戻し、時計を見る。
時刻はもう8時を回っていた。
澪「………」
澪「うわああああ!!ち、遅刻だぁぁあぁ!!」
ベッドから飛び起きた私は急いで制服に着替えた。
玄関を飛び出す。陽の光が眩しい。
4月のわりには、少し暑い感じがした。
【学校】
澪「はぁ…はぁ…」
教室に入る。
全速力で来たので息が上がっていた。
さわ子先生が教室から出ようとしているところだった。
どうやらホームルームは終わってしまったようだ。
さわ子「秋山さん、どうしたのその格好?」
澪「……?」
どうしたもこうしたも制服じゃないか。
何を言っているんですか、先生。
そう言おうとした矢先だった。
澪「え…」
教室を見渡す。
先生の言っていることの意味がすぐにわかった。
見渡す限り視界に映る薄手のシャツ、ベージュのニットベスト、少しだけ丈の短いスカート。
みんな、夏服だったのだ。
澪「は?えっ…?」
私だけがブレザーを羽織っていた。
確かに今日は暑いけど、そんな薄着をするような時期じゃ…。
さわ子「まぁいいわ、あとで職員室に来てね。最近遅刻多いわよあなた」
思考の整理が追いつかないまま、先生が教室から出ていく。
私は先生の影で隠れていた黒板の文字を見て愕然とした。
9月9日
真っ白なチョークで、9月9日と書いてあった。