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梓「…は?」

澪「いや、だからその…どうして梓と別れたのかなって」

梓「なんですか…それ…」

梓は震えていた。

梓「ふざけないでください!あれだけのことをして…」

梓「あんなに説得したのに!みんなも大丈夫だって言ってたのに!!」

梓「結局私なんて、先輩からしたらどうでもいいんでしょ?!軽音部も、その程度のものだったんでしょ?!!」

澪「…それって、いつ?夏の前?」

梓「先輩…さっきから何を言ってるんですか…?」

声を荒らげていた。
ずっと溜めていたものが爆発した、そんな感じだった。
こんな梓は初めてだった。
しかし私はあくまで冷静に、話を続けた。

澪「私がさ」

梓「?」

澪「5ヶ月前から来たって言ったら、信じる?」



梓「5ヶ月前…?」

私は事の顛末を話した。
話している間、梓はうんともすんとも言わなかった。ただ黙って私の話を聞いていた。
一通り話し終えると、梓は口を開いた。

梓「…じゃあ」

梓「じゃあ、今私の目の前にいる先輩は、あの時の先輩なんですか」

澪「うん」

梓「私の大好きだった、あの澪先輩ってことなんですか?」

澪「…うん」

梓「………」

しばしの沈黙が流れる。
梓は複雑そうな顔をしていた。
納得がいかないのだろう。けど別にそれでよかった。

澪「…まぁ、そう簡単に信じてもらえるわけ―――」

梓「信じますよ」

澪「えっ?」



しかし、梓の反応は意外なものだった。

梓「私、わかっちゃうんですよね。先輩がウソついてるかどうか」

梓「その目は、ウソをついてる目じゃないから」

たぶん梓が納得いかなかったのは、私が5ヶ月前から来たとかいうことではない。
こんな突拍子も無い話なのに、それがウソじゃないとわかってしまう自分に納得がいかないのだ。

澪「梓。私たちと文化祭に出よう」

澪「唯たちとも仲直りしたんだ。あとは、梓が戻ってきてくれれば全員揃うんだ」

澪「もう一回、放課後ティータイムで演奏しよう」

悔いを残したくない、ただそれだけ。
今さらこんなことしたって無駄だってこともわかってる。
でもこの未来と決別する前に、もう一度みんなで演奏がしたかった。
放課後ティータイムを取り戻したかった。







梓「………」

梓「…嫌です」



澪「えっ…?」

梓は、私の誘いを断った。

梓「…今の先輩には関係のないことでしょうけど」

梓「私は、先輩が憎いです」

梓「もしここで軽音部に戻ったら、私…ただの間抜けじゃないですか」

梓「あんなにひどいことされて、たくさん泣いて…、想いも届かなくて」

梓「なのにそれを全部無かったことにするなんて、そんなの…悔しくて私には出来ません」

梓「だから、嫌です」

澪「梓…」

「秋山さーん。メンテナンス終わりましたよー!」

梓「…失礼します」

澪「………」



【梓の家】

梓「ただいまー」

部屋に入り、そのまま私はベッドに横たわった。
今日、楽器屋で澪先輩に会った。
でもその澪先輩は、5ヶ月前から来た澪先輩で、これまでのことなんか全然知らなくて…。

―――これ、返すよ。今の私には持てない―――

―――もう私は、梓の隣にいる資格なんてないから―――

―――さよなら、梓―――

嫌な記憶が甦る。
どれだけ泣いたかわからない。
どれだけ眠れぬ日が続いたかわからない。

だけど今日会った先輩は、あの時のままの先輩で。
幸せだった日々がどんどん頭の中を駆け巡っていた。

誘いを断ったとき、心からそう思ったのかと聞かれればウソになる。
本当は澪先輩と。いや、5人でまたやりたかったのかも知れない。
でも、心のどこかでそれを許せない自分がいた。

梓「先輩の…ばか」

よくわからないもやもやを抱えながら、私は買ったCDを聞いていた。

梓「…ハズレだな、これ」



【澪の家】

澪「はぁ…」

梓はイヤと言った。
よくよく考えて見れば、そんな都合よく行くわけもない。

もう一回誘ったところで同じだろう。
唯たちが誘ったところできっと結果は同じだ。
じゃあ、今の私には何が出来る…?

澪「…そうだ」

しばらくベッドに寝そべり考えていると、あることをひらめいた。
私はベッドから起き上がり、椅子に座った。
手にしたのはペンと紙ペラ一枚。
その日は、朝まで机に向かっていた。



【音楽室】

澪「ふぁ…」

放課後。劇の練習を終え、眠い目をこすりながら音楽室に向かった。

律「おそいぞロミオー」

澪「うるさいっ」

ムギのお茶を飲み一息ついた後、週末あったことを話した。

唯「…そっか」

律「まぁ、そう都合よくいくわけもないか」

紬「どうするの?澪ちゃん」

澪「たぶん、何度言ったって同じだと思う」

澪「だからせめて、梓に最高の演奏を聞かせてやりたい」

澪「梓を連れ戻すのは、その後でもいいと思うんだ」

文化祭が終わったら私はこの世界とさよならだ。
それなのに、その後でもいいだなんて自分勝手なことを言った。
わかってる。キレイごとだってことも、身勝手だってことも。

それでも、この3人は大きく頷いてくれた。
唯も、律も、ムギも、誰一人不満を漏らさなかった。



澪「…私さ、歌詞を書いてきたんだ」

律がげっ、という顔をした。

澪「そ、そんな顔しなくてもいいだろ!」

律「だ、誰かー!毛布を、鳥肌に備えて毛布の準備をー!」

澪「ぬぬ…」

小馬鹿にされた感じが悔しかった。
せっかく徹夜して書いたというのに。
唯とムギは我関せずといった様子だ。
この世界でもこれに関しては薄情なのか!

澪「いいから見なさい!」

律「はいはい…」

しぶしぶ律は紙ペラを受け取る。
唯とムギも、覗き込むように目を通した。



律「………」

しばらくして律が口を開く

律「…これ本当にお前が書いたの?」

澪「そ、そうだけど…」

律「ふわふわ時間の歌詞を書いた人とは思えないんだけど」

唯「澪ちゃんっぽくな~い」

澪「ど、どういう意味だよっ!」

紬「いいじゃない、素敵よこの歌詞」

律「最初からこんな感じの歌詞を書けていたら…」

そんなに今までの私の歌詞はひどかったのか…。
少し落胆しながらも、その歌詞で曲を作り、練習を始めた。
みんなでこうして演奏するのは久しぶりだったし、何より楽しかった。



【文化祭】

律「似合ってるぞー」

澪「う、うるさい//」

さわ子先生が衣装を見にまとい、寸劇の発表に向かった。
劇は大成功に終わった。死に物狂いで練習した結果だ。

いちご「おつかれ、澪。よかったよ」

澪「ありがとう。いちごもすごくよかった」

律「お、なんだなんだ?本当にロミオとジュリエットみたいな関係になっちゃったのかー?」

紬「あらあら」

いちご「ば、バカ言わないで…!」

本当に感謝しているよ、ありがとう。



そしてやってきた軽音部のステージ。

律「いよいよだな」

唯「ひ、人がいっぱいだよ…!」

紬「大丈夫よ、笑顔笑顔♪」

澪「よしっ、いこう!」

梓、見てくれているかな?

「次は軽音部による演奏です」

ステージにライトが照らされる。
私たち4人は顔を合わせ、うんと頷いた。

律「ワン、ツー、ワンツー」

そして律のカウントと共に演奏が始まった。



【教室】

憂「梓ちゃん、見に行かないの?」

梓「………」

憂「梓ちゃん?」

梓「ごめん、私いいや。憂一人で行ってきなよ。唯先輩出るんでしょ?」

もう演奏が始まる時間だった。
私は憂の誘いに素直に乗れなかった。

憂「…ダメだよ。行こう?」

梓「でも…」


憂「見ないと、きっと後悔するよ」


梓「……!」

憂「ほら、いこっ?」ぐいっ

梓「ちょ、ちょっと引っ張らないでよっ」

私の腕をつかみ憂は走り出した。
気のせいかな?さっきの憂の言葉に、何か大きなものを感じた。



体育館に近づくにつれて、音が聞こえてくる。
私も、軽音部にいたら今頃あのステージで演奏していたのかな…。

梓「………!」ぶんぶん

私は首を横に振った。
ちがう!ちがう!未練なんかないはずだ。
澪先輩のことなんて大嫌いだ。
軽音部だって、もう私には関係のないことだ。

ガラララ

梓「………」

憂「わぁ…!」

体育館に入るとものすごい熱気が身体を包んだ。
ステージは大いに盛り上がっているようだった。
先輩たちのクラスメイトはもちろん、他の学年やお客さんも、ノっていた。

憂「梓ちゃん!早く早く!」

梓「あっ、憂…」

憂はそのまステージに向かっていった。
おいで。と手招きしてくれたが、私は行かなかった。
私は体育館の隅で一人、演奏を聞いていた。



梓「………」

ひどい演奏。
ドラムは相変わらず走ってるし、唯先輩は歌詞間違えてるし…。
澪先輩もムギ先輩も、どことなく動きが固い。
ていうか、演奏なんて久しぶりじゃないの?ちゃんと練習した?
先輩たちのことだから、またお茶ばっかり飲んでたんじゃないの?

澪「―――♪」

でも…。
あの顔は、紛れもなくあの時の澪先輩。
かっこよくて、やさしくて、大好きなだった先輩の顔だ。
唯先輩も、律先輩も、ムギ先輩も、みんな楽しそうに演奏していた。
私も、一緒にあんな顔していたのかな…?

梓「…ていうか」

梓「何、思いだしてるんだ。私…」

後悔なんてしてないはずなのに。
澪先輩も、軽音部も、だいっきらいなはずなのに。
でも、なんでだろう…。涙が止まらなかった。



唯「次が最後の曲でーす」

「えぇーっ!!!」

唯「おぉっ、みんなありがとーっ!」

唯「それじゃあ最後の曲を前に作詞者の澪ちゃんから一言どうぞ!」

澪「え、えぇっ?!…私?!」

澪「………」

唯からの突然のパスに戸惑った。
律やムギだけじゃない、体育館の全員の視線が私に向けられている。
恥ずかしさで顔から火が出そうだ。

澪「えっと、その…」

澪「た、大切な人のために、書きました」

澪「き…きき、聞いてくださいっ!」

自分でも何を言ってるのかわからなかった。
早くこの視線を回避したくて私は律に合図を出した。

かなり私は焦っていたのだろうか。
律はやれやれと言った顔をしながら、カウントを出した。



――――――
――――
―――
――


澪「………」

放課後、私たち4人は音楽室で放心状態だった。

律「…楽しかったな」

唯「うん…」

紬「…あっという間だったね」

ステージは大成功だった。
終わったあとの拍手とみんなの歓声が、今でも耳に残っている。

唯「あずにゃん、戻ってきてくれるかなぁ」

律「大丈夫っしょ、私らかなり頑張ったぜ?」

紬「またケーキの数増やさないとね」

澪「…みんな」

澪「みんな…。ごめんなさい…」

涙が出た。理由はわからない。止まらなかった。


6/6