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私は物思いにふけっていると、たまに周りが見えなくなる事がある。

それは昔からずっとそうで…。あれは幼稚園に通っていた頃。

翌日行われるお遊戯会の発表に緊張して、いつもより長い帰り道を歩いていた。

「あれ…ここ…どこ」グスッ

周りを見渡しても知らない景色。どうしようかわからなくなって泣いた。そしたら

「おー?どうしたのー?」

まるでちょんまげの様に髪の毛を縛っている女の子が声をかけてきた。



「うっ…ママぁ」グス

「よしよしー泣かないでー」

泣いている私をその子は傍で一生懸命慰めてくれた。

「よし、ママが迎えにくるまでいっしょにあそぼ?」

「うう…ぐすっ…うん」

「おなまえなんていうの?」

「ぐす…み…ぐすっ…お…」

「み…?あ、みーちゃんだね!」

「み、みーちゃん?」

「じゃああたしはゆーちゃんだよ!」

「ゆーちゃん…」



その子は公園の近くに住んでいるらしく、お花が摘める場所、キレイな石が拾える場所、ザリガニが捕れる場所、色々教えてくれた。

今思い返せばザリガニは嫌だったかな…

でもその時ゆーちゃんと遊んでいた私の顔は決して泣いてなかったと思う。なぜなら

「みーちゃんわらってるとかわいいねー」

「そ、そう?」

ゆーちゃんに笑顔を誉められたんだっけな。

「うん!みーちゃんこゆびだしてー」

「うん」

「あたしおおきくなったら、みーちゃんのおよめさんになって、みーちゃんまもったげる!」

「えっ」



「だめ?」

ゆーちゃんは少し悲しそうな顔で私の顔を覗き込む。

「ううん、だめじゃないよ」

「やったー!」パァァ

「でもね、まもるのはパパじゃないの?およめさんだとママになっちゃうよ?」

「あ、そうかー」

「だからわたしがゆーちゃんを守ってあげる」

「おおー!」

「「ゆーびきーりげーんまーん」」



その後、日も暮れてきて、ゆーちゃんのお母さんが公園に迎えに来た。

カバンに付けていた名札をゆーちゃんのお母さんに見せたら、家に電話してくれてママが迎えに来てくれた。

「みーちゃんまたね!」

「うん、ありがと、ゆーちゃん」

「ゆびきりしたからね!ぜったいだよ!」

「うん、ぜったい!」



ここで目が覚めた。



今までは一年に一度見るか見ないか。

ずっと忘れた事はない大切な思い出。

小さい頃の約束だったし、ゆーちゃんも覚えてはいないだろう。

けど、卒業間際になって一週間に一度くらいこの夢を見る様になった。

卒業と重なって色んな思い出がよみがえって来てるんだなーと自分を納得させた。

律「みおー?どうかした?」

澪「あ、いや、またあの夢をみてな」

律には話した事がある。小学校の頃、初めて夢で見たときはゆーちゃんに会いたくなって泣いてしまった。

それを律にものすごく心配されたから打ち明けたんだったかな。



律「ほほー、泣きたくなったらいつでも胸を貸してやるぜ?」

澪「うるさいっ!」ボカッ

律「ひでー!」

もう寂しい思いとかは無く、なんかなつかしいなーって感じがする。

今日から始まる文化祭、これが終われば受験。

そして卒業。

振り替えってみると本当に楽しい高校生活だったと思う。

…なんか辛気臭いかな。



律「よし、明日のライブに向けて今日は徹夜で練習だ!」

唯「おー!」

紬「じゃあ今からもう一曲つくっちゃおうかー♪」

梓「いやっ、ムギ先輩それはさすがに…」

澪「ははっ」

深夜の学校で皆テンションが高い。

けれどテンションを上げすぎたせいで力尽きるのも早かった。

澪「結局こうなるんだよなー」

梓「そうですね、私たちも寝ましょうか」

澪「そうだな、おやすみ」

梓「おやすみなさいです!」



その日、またゆーちゃんの夢を見た。

まるで明日のライブを応援してくれるかの様に。



ライブ当日。

不思議と1年、2年の時の様な緊張は全くなかった。

MCで唯にロミオの役をやれって言われた時はさすがに恥ずかしかったけど。

何よりもさわ子先生、和がやってくれたTシャツのサプライズで緊張も全部飛んでいった。

もちろんライブで何やったかも飛んでいった。

残っていたのは、すごく高鳴っていた気持ちだけだった。



部室。

唯「おわったねー」

紬「何やったかも覚えてないわ~」

梓「私もちゃんと弾けていたか全く覚えてないです」

律「さわちゃんのサプライズで全部飛んだなー」

澪「そうだな」

唯「でも、楽しかったよね」

澪「そうだな」



唯「また来年もやりたいねー」

紬「じゃあ次は全部新曲でやろう!」

澪「その前にクリスマスパーティだな!」

梓「その次は初詣です!」

唯「次の合宿はどこいく!?」

紬「山!山で焼きそば!」

澪「夏フェスもまた行きたいな!な?律」

律「ははっ、次はもうないない」


部屋の片隅で夕日に照らされ、泣きながら私たちは少し目を閉じていた。

悲しかったから泣いていたんじゃない。みんな笑顔だった。



さわ子先生と和に起こされて、私たちは機材の片付けを始めた。

律のドラムセットを唯と一緒に運んでいると、ふと

唯「あ、澪ちゃん、これ終わったらちょっと時間ある?」

声をかけられた。

澪「うん、どうかしたのか?」

唯「いや~ちょっとお話が」

澪「今じゃダメなの?」

唯「今じゃダメなの!」

澪「わかった、じゃあみんなには先に帰っててもらうか」

唯「ありがとー!」



放課後。

他の皆には先に帰っててと伝えた。何か聞かれるかと思ったがそんな心配は全くなかった。

澪「おまたせ、唯どうかしたか?」

唯「あ、うん」

澪「ありがとな」

唯「えっ?」

澪「1年の時、唯が軽音部に入ってくれなかったらこんなに楽しい高校生活送れてなかったと思う」

唯「それほどでも~///」

澪「いや、本当に感謝してるよ、もちろん律、ムギ、梓にも」

唯「澪ちゃん…」

唯の表情が変わった。



澪「うん?どうした?」

唯「小さい頃の約束…」ボソッ

唯が小さく呟いた。聞こえてはいたが断片的で意味がわからなかったから聞こえないフリをした。

澪「えっ」

唯「みーちゃん、私…覚えてる…かな?」

最近の出来事がフラッシュバックした。頭の中を色んな想いが駆け巡る。

懐かしく、嬉しく、楽しく、切なく。

硬直してしまった私は言葉を発せずにいた。

唯「ご、ごめんね、やっぱりなんでもない!」

唯は部室を飛び出した。



あのゆーちゃんが唯だった。

そう気付いたのは唯が飛び出した直後だった。

会っていた、会えていたんだ。

夢の中だけじゃなく、もっと近くに、ずっと一緒にいた。

ゆーちゃんが唯だった。その答えが繋がった時、私も無意識に部室を飛び出していた。

約束したんだ。

答えないと。



カバンは部室にある。

家に帰る事は無いだろう。

屋上は出入り禁止、さすがに行けるわけない。

となると教室か、講堂か。

もしトイレで泣かれていたら…ムードに欠けるから考えたくない。

思い出の場所、1年生の頃から一緒にいた場所。

講堂。

そこしかない、と夢中で走った。



思いきって扉を開ける。

そしたら…

誰もいない。

けど泣き声が聞こえる。

舞台袖だ。

かける言葉は決まっている。部室を出たときから決めていた。

小さくうずくまる背中にそっと近づき、後ろから抱き締めてその言葉をかける。



澪「ゆーちゃん」



唯「!」

澪「ごめん、気付くのが遅くて…いや、遅すぎたね」

唯「澪ちゃ…」

澪「みーちゃんじゃないのか?」

唯「みーちゃん…!うわああああん」

澪「唯って気付いたのはさっきだったけど、ゆーちゃんの事は忘れた事は無かったよ」

唯「ほんと?」グスッ

澪「あぁ、ほんとだ。昨日も夢に出てきた」

唯「みーちゃん…」

澪「ザリガニの捕れる場所を夢を見る度に教えてもらうのは嫌だったけどね」

唯「ひどいよみーちゃん!」

澪「はははっ」

唯「あははっ」



唯「みーちゃん、私は1年生の頃から気付いてたんだ」

澪「そうだったのか」

唯「うん、学校で初めて見た時のみーちゃんがすごくキレイでかっこよくて」

澪「唯…」

唯「あれから楽器始めたんだーって思って、さらに演奏までしてもらって、感動しちゃって」

澪「うん」

唯「もう…あの約束なんて…今更覚えてなんかいないと思って…」

澪「唯…」



唯「言うに言えなくて、でも傍に居たくて、追い付きたくて…」

澪「もういいよ、唯」

唯「澪ちゃん…」グスッ

澪「あの時はちょんまげみたいな髪型だったよなー」

唯「えっ」

澪「たしかこうやって、ここを縛って」

唯「ちょ…澪ちゃん?」

澪「うん、これだ、こんな感じだった」

唯「おでこがぁ…」



澪「髪型が一緒だったらすぐに思い出せたのにな、ゆーちゃん」

唯「高校でこれはちょっと…」

澪「でもな、約束はずっと忘れてない」

唯「ほんと?」

澪「ほんと」

唯「ほんとにほんと?」

澪「うん」



澪「わたしを守ってくれるんだろ?」



唯「ちょっとちがうよー!」

少し拗ねながらもすごく嬉しそうな顔をする唯を抱き締めた。

ゆびきりしたあの約束の言葉は恥ずかしかったから耳元で囁いた。



澪「ゆーちゃんまもってあげるから」

おわる


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