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 それは大学生活も2年目になり、成人式も終えた1月の事だった。

 休日を利用して桜が丘の実家に里帰りしていた私は、突如律の家に呼ばれた。


律『澪ー、今からウチ来ない?』

澪「今から? 別にいいけど」

律『うん、待ってるからねー』

 ――ピッ

澪「律のやつ、いきなりどうしたんだろ?」


 そして準備をしてから律の家まで歩いて数分、数年ぶりに訪れた律の家の呼び鈴を鳴らしてみる。




 ――ピンポーン…

澪「おーい律ー、来たぞー」

律「はーい、今行く~」

 待つこと数秒、玄関の戸を開けると、律がスリッパを用意してくれていた。



律「いきなり呼びつけて悪いなぁ、ま~上がってよ」

澪「うん、お邪魔します」

 律に招かれるままに部屋に上がり込む。


律「みんなー、主役が来たぞー」

澪「あれ、唯にムギも来てたんだ?」

 以前来た時と大して変わらない律の部屋には、唯とムギの姿が見えた。

 珍しいな、ここでこうして4人が集まるなんて。



唯「澪ちゃんやっほー♪」

紬「澪ちゃんこんばんわ、今日も寒いわねぇ~」

澪「うん……最近よく冷えるよなぁ……」

律「お茶どうぞ~」

澪「ああ、わざわざありがとう」

 律の淹れてくれたお茶を一口いただく。

 少し熱めのお茶だけど、冷え切った身体が暖まる感じがする。 ……律もこうした気遣いが出来るようになったんだなぁ、と思う私だった。


唯「澪ちゃん今日は何してたの?」

澪「久々に帰って来たからずっと家族とのんびりしてたよ」

唯「あはは、たまには実家も良いよねぇ……私もさっきまで家で憂と一緒にいたんだけど、りっちゃんに呼ばれてさ」

澪「そうだったんだ。 あっ、そうだ律」

律「ん?」

 椅子に座って漫画を読んでいる律に向かい、私はみんなを呼んだ理由を尋ねてみる。


澪「律、いきなりみんなを集めて、どうかしたの?」



律「どうかしたのって澪、お前今日が何の日だか忘れたのか?」

澪「今日って……ああ、そっか」


 …今日は、1月の15日。

 そう、私の誕生日の日だった。


 確かにここ最近、大学の講義やらバンド活動やら作詞やらで、自分の誕生日の事なんてすっかり忘れてたな……。

 まぁそれだけ充実してたって事なんだろうけど、自分の誕生日も忘れる程とは……


 ……私も、今日で20歳になるのか。

律「せっかくの澪の誕生日だし、みんなで集まってパーティーでもやろうかなと思って、数日前からこっそり準備してたんだよ」

澪「……なんか悪いなぁ、でもありがとう、嬉しいよ」

唯「憂とあずにゃんは遅れて来るみたい、先に始めててってメール来てたよ」

律「そっか…じゃー、あんま遅らすのもアレだし、私らで一足先に始めちゃおっか?」

唯「うん、そうしよっ♪」



 唯の一声で私達は部屋を抜け、居間に降りる。

 ここでの食事も懐かしいなぁ、確か高校の時に1回みんなで集まって、律の手料理を食べたんだっけ。


紬「りっちゃん、お料理の準備私も手伝うわ」

律「うん、あんがと、じゃあムギはスープの方お願い~」

紬「かしこまりました~♪」


澪「律、私も何か手伝うよ」

律「澪はそこで座ってていいよ、今日の主役なんだしさ」

澪「でも、なんか悪いしさ……」

律「いいから主役は大人しく座って待ってる、ほら、唯の隣空いてるから」

唯「澪ちゃん、おいで~♪」

澪「……わかった、じゃあ、待ってるよ」

 どうあっても律は譲ってくれなさそうだったので、その言葉に従い、私はテーブルに並べられていく料理を見ていた。



澪「……お、おいしそう……」

律「だろ? これでも料理の腕上がったんだぜぃ♪」

 フライドチキンにスパゲティにサラダにスープ……どれも彩りがとても綺麗で、見てるだけでも思わずよだれが出そうになる。

 いつの間にこれだけの料理を作れるようになったのか、律の手料理はすごく美味しそうに見えた。


紬「りっちゃん食器はこれでいいのかしら?」

律「うん、人数分と……梓や憂ちゃんの分も用意しといてもらっていいかな?」

紬「はいはーい♪」

澪「……もしかして、これ全部律が?」

律「まーねぇー♪」


唯「りっちゃん張り切って作ってたみたいだもんねー、あ、私も一応作ったんだよっ」



 得意気な顔で唯が言う。

澪「へー、唯はどれを作ったの?」

律「唯はケーキにイチゴ乗っけてただけだろー?」

唯「りっちゃぁ~ん、それ言っちゃダメぇ~~~」

紬「うふふっ♪ なんだか懐かしいわねぇ~」

澪「確かに、前にもあったな、こんな事……」

 確か、高1のクリスマスの時だったかな。

紬「急いで作ったから出来栄えはあまりよくないけど、味は美味しいと思うの、澪ちゃんも是非召し上がってね」

澪「ああ、何から何まで本当にありがとう、みんな……」


 そうして、楽しくお喋りをしつつも、次々と料理が並べられて行く。

紬「はい、澪ちゃんの為にみんなで作ったケーキでーす♪」

唯「ムギちゃんの手作り、すっごく美味しそうだよ~~♪」

律「なーんか、これも懐かしいよなぁ」

澪「ああ、大学入ってから、こんなに大きなケーキをみんなで食べる事なんてあまりなかったからなぁ」



 そして、唯とムギの手作りのケーキがテーブルの上に置かれる。

 普通のよりもやや大きめのイチゴのショートケーキ、

 その上のチョコプレートには手書きで「みおちゃん20さいおめでとう~♪」と書かれていた。

紬「唯ちゃんったら、漢字で書こうとしてぐちゃぐちゃにしちゃって」

唯「だって、チョコホイップで字を書くのってすっごく難しいんだよ~」

澪「だから全部ひらがななのか、唯らしいなぁ」

唯「えへへへ……♪」


律「んじゃ、一通り準備も終わったし、そろそろ始めよっか?」

唯「うんっ、そうだね~」


 そして……



律「はっぴーばーすでー澪、20歳の誕生日おめでと♪」

唯「おめでとーーっ♪」

紬「澪ちゃん、おめでとう♪」

 律の言葉を皮切りに、唯もムギも、祝福の言葉を述べてくれた。


澪「みんなありがとう、わざわざ時間作って祝ってくれてすごく嬉しいよ……本当にありがとう!」


 みんなからのおめでとうの言葉に、私は照れる感覚を抑えながら、笑顔で応えたのだった。


―――
――

唯「はいこれ、お誕生日のプレゼントだよっ♪」

 唯が小さな袋を渡してくれた

澪「ありがとう唯、中、開けてもいい?」

唯「うん、きっと気に入ってくれると思うんだけど、どうかな?」



 袋の中には、一昔前に流行ったゆるキャラのキーホルダーが入っていた。

澪「これ、私がこっそり集めてたキャラクターの……わざわざ探してくれたのか?」

唯「えへへ、あずにゃんに頼んでインターネットで届けてもらったんだぁ」

 頭をかきながら照れる唯だった。 きっと自分のプレゼントが私に気に入って貰えた事が、よほど嬉しいのだろう。


澪「ありがと唯、これ、大事にするよ」

唯「うん、可愛がってあげてね♪」


紬「私はこれを…」

 ムギが唯のそれより小さな布袋を渡してくれた。

 小さい布袋は丁寧にリボンで止められていて、すごく可愛らしく見える。

 リボンをほどき、中身を取り出してみると、見慣れない形の……ああ、おそらくこれはピックだろう。


 ベース用のピックが数枚、私の手の中に転がった。



澪「これは、ピック?」


紬「ええ、お父様の会社で開発された新商品らしいの。よく手に馴染む上に指の負担を抑える素材でできててしかも丈夫、お父様曰く、たとえ1000回演奏しても壊れないって言ってたわ」

律「相変わらずすげーよな、ムギんとこの会社は……」

澪「ああ……もっとさわってもいい?」

紬「ええ、どうぞ」

 ムギのくれたピックを触ってみる。

 確かに、普通のピックに比べて持ちやすさが違う。 それに、しっかりと手に馴染む感じがする。


 裏には放課後ティータイムのロゴマークも彫ってあり、それがムギの手作りなんだと言う事がよく伝わる。

澪「このロゴは……ムギ、ありがとう、 このピック、明日から使わせて貰うよ」

紬「ええ、思いっきり使ってあげて♪」


唯「ねーねーりっちゃん、りっちゃんは何を用意してきたの?」

律「ああ、私はだな~」



律「ちょーっと待ってて、今持って来るからさ」

澪「……?」

 そして律が居間を抜け、キッチンからやや大きめの袋を取り出して戻ってきた。

 袋には「酒の中島」という名前がプリントされているけど……もしかして、中島って……


律「ま、これでめでたくみんな成人した事だし、私はこれを用意しました」

唯「えー、なんだろ?」

律「へへへ……じゃーんっ!!」

 律が袋の中から青い瓶に入った飲み物を取り出す。

澪「これは……酒か??」

 そう、律が取り出したのは酒。

 青い瓶に『松竹梅白壁蔵 澪-MIO-』と書かれたラベルが貼られている、正真正銘のお酒だった。


松竹梅白壁蔵 澪-MIO- ↓




紬「そっか……澪ちゃんも成人した事で、私達全員20歳になったのよねぇ」

唯「そうだね~」

律「これでやーっと堂々と酒を飲めるんだよ私達はさ、ついでにタバコも吸い放題だ」

唯「えー、りっちゃんたばこ吸うの~?」

律「まー、興味ないワケじゃないけどな、ほら、ロックバンドにもヘビースモーカー多いし」

澪「憧れで吸うなんて子供っぽいからやめた方がいいと思うぞ」

律「まーまー、私らもそーゆう事が出来るトシになったってわけだよ、別に明日から吸うとは言ってないさ」

澪「そうだけどさ……」


 正直な所、出来る事なら律には吸ってもらいたくないかな。

 ……タバコの匂い、私あまり得意じゃないし……。



唯「私達も、もう大人なんだよねぇ~、今更だけど」

律「ま、唯はハタチになっても変わってないけどなー」

澪「……それは律もだろ?」

律「なにをー! 私だって大人になったんだぞー!」

澪「……ほう、どこが?」

律「ブラのサイズがいっこ増えた! 私的にはすごく大きな成長ですよこれは」

 言いながら必要以上に胸を張る律だった。  確かに、前に比べて胸の膨らみが大きくなった気はするが……

澪「って、そこだけかっ」

律「おーおー、どーせあたしの貧相なコレじゃあ澪の爆乳には敵いませんよーだ」

 そう言いながら、私の胸をまじまじと睨む律だった。

 ついでに言うと、私らのやり取りをどこか期待するような眼で見続けるムギの顔も視野に入っていた。


 ……ムギもムギで相変わらずだなぁ……

澪「胸の話はもういい……まったく、他に成長したって言えることは無いのかお前は……」



 ま、20歳になっても特別変わらないのは、私も含めたこの場の全員に言えた事なのかも知れない。

 正直な所、誰もがまだ実感が沸かないのだろう。

 ……こう考えてしまうのは、私達がまだ子供だからなのかな?


澪「そう言えば、その袋にある『酒の中島』ってやっぱり……」

律「うん、信代んとこの酒屋さんで買ってきた」

澪「やっぱりな」


 中島信代、私達と同じ3年2組の仲間で、ライブの時はよく場を盛り上げてくれていたっけ。

 教室で開かれた最後のライブでは堅物だった堀込先生を参加させてくれたりと、活発で元気な子だったなぁ。


唯「信代ちゃん元気だった?」

律「ああ、相変わらずパワフル全快だったよ」

紬「うふふ……高校生かぁ、懐かしいわねぇ~」

澪「ああ……もう、私達があそこを卒業してから2年になるんだよな……」



 修学旅行にライブに体育祭に卒業旅行……高校の頃は毎日がお祭り騒ぎだった。

 大学に入り、新たな仲間に囲まれて音楽をやってる今も楽しいけど、それでも私は、高校の頃が一番楽しかったと思う。

 唯に律にムギに梓、それに和や憂ちゃん、純ちゃんやさわ子先生……多くの仲間に囲まれて、幸せな高校生活を送っていた。

澪「ほんと、懐かしいな」


律「それで、前に桜が丘に帰った時に信代ん家寄ってさ、んであいつに今日の事話して用意して貰ったんだ、私達が澪の誕生日を祝うのに相応しい、最高の酒をさ…!」

唯「義兄弟の杯ってやつだねぇ~、私、みんなでお酒飲むの楽しみだったんだぁ~♪」

律「あはは、まー唯のそれとはちょっと違うけど、信代曰く、『澪の誕生日にはこれしかない!』って絶賛してたよ」

紬「なんたって、澪ちゃんの名前が付いたお酒なんですものね」

澪「私の名前の……酒……」

唯「オシャレで可愛いデザインだよねぇ♪」

紬「青い瓶がすごく澪ちゃんらしいと思うわ、これ……」

澪「私の名前のお酒……律と信代でわざわざ探し出してくれたのか……」


 あまりの感激に言葉が出なかった。

 こんな綺麗なお酒を、私の為にわざわざ用意してくれるなんてな……。



澪「ん、これは……手紙?」

律「ああ、そいや信代のやつ、何か入れてたっけ」

澪「どれどれ……?」

 袋の中にに入ってた手紙を開き、声に出して読んでみる。


澪「ええと……澪、お誕生日おめでとう、20歳の誕生日を迎えた澪にぴったりのお酒を用意しましたので、軽音部の皆さんで是非召し上がってください……」

澪「追伸、またみんなの歌が聴きたいよー、いつかまた、みんなの演奏を聴ける日を楽しみに待ってます、中島信代……だってさ」


 それは短い文章だったけど、信代の素直な気持ちがつづられた、暖かい内容の手紙だった。


律「……へへへ、すっかり人気者だよな、私ら」

唯「そうだねー……またいつか、みんなにも聞かせられると良いね、私達の演奏」

紬「ええ、いつかきっと……みんなでやりましょうね♪」

澪「ああ……絶対に……な」


澪(信代……ありがとう!)



―――――――――

律「んじゃー、グラスでも持って来るよ、あ、電気少し暗くしたら雰囲気出るかもな」

唯「んじゃー、ちょっと電気暗くするね?」


 律が棚から持って来てくれたカクテルグラスに酒を注ぎ、唯が電気の明かりを少し下げる。

 トクトクとカクテルグラスに注がれる酒が薄暗い部屋の照明とマッチして、ものすごく上品な感じに映って見える。

 酒には炭酸が入っているのだろう、瓶の中の透明な液体はグラスの中でかすかに泡立ち、それが尚の事大人な雰囲気を演出しているようにも見え、何処か落ち着いた気にさせてくれる。


 いつか見た洋画でもこんなシチュエーションがあったけど、まさかそれを自分で演じるなんてな……。


紬「なんだか、私達、大人~って感じがするわぁ♪」

唯「うんうん、映画みたいで、私達、かっこいいかもね……♪」

律「あははっ、あんま言い過ぎるとかえってガキっぽいけど……確かに、なんかかっこよく見えるよなぁ」

澪「酒に酔う前に、場の空気に酔ってるな、みんな……」


 それは、きっと私も同じ事だ。

 本当の大人がいたらきっと笑われるかもしれないけど……それでも、今はそれも良いと、そんな事を思う私達だった。




澪「…………」

 グラスに注がれたその香りを嗅いでみると、アルコールの独特の香りに少し顔が赤くなる気がする。

 酒の味なんて分からない私達だけど、それがどこか心地よく……場の雰囲気と相まって、きっとこれは良いお酒なんだろうと、勝手ながらにそんな気になっていた。

 ……ああ、完全に場の空気に酔いしれてるな、私達。


澪「もう私、こういうお酒も飲める歳になったんだよなぁ……」

紬「ええ、澪ちゃんも私も、ううん、私達も、もう大人になったのよ?」

澪「うん………当たり前だけど、そうなんだよな……」

 そう、ムギの言葉に頷く私。

 ……この時、今更ながらに私は、自分が大人になったんだと言う事を認識していた……。


 こういう雰囲気が似合ってもきっとおかしくない、そんな歳になったんだ……私達も。



律「みんな、グラス持ったかー?」

 律がグラスを手に立ち上がり、乾杯の音頭を取り始める。


唯「うんっ♪」

紬「いつでも行けるわよー♪」

澪「ああ、こっちも大丈夫だ」

律「じゃあ……えー、みなさん待ちに待ったこの日を迎える事が出来ました」

律「私も唯もムギも澪もみんな20歳……立派な大人になったので、こうやって堂々とお酒を飲める歳になりました」

律「今日はその記念と、放課後ティータイムの一員であり、みんなの大好きな澪の誕生日をお祝いして……この酒で、澪と同じ名前のお酒で乾杯したいと思います!!」

律「みんな……かんぱーーいっっ!!」


一同「かんぱーーいっっ!!」

 ――キンッ

 甲高い乾いた音を立て、それぞれがグラスを合わせる。


 そして……みんなでそれを一気に飲み干す。



律「っっっくううぅぅぅ………!! これが酒の味か……! なんかイイ! すっごくいい!!///」

唯「んっく……んんん……なんか…にがいぃぃ……」

紬「あら、私は美味しいと思うけど?」

澪「……………………」


 ―――人生で初めて口にしたそれは……不思議な味がした。

 若干ほろ苦く、でも、どこか暖かくなるような……不思議な感じ……。


 今まで味わった事のない感覚……だけど、とても楽しい……そんな……不思議な……………

 …ふしぎ……な…………。

 ………


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