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律「澪ー、新曲の歌詞できたんかー?」

澪「ん、ああ見てくれよ」

律「どれどれ」

唯「りっちゃんずるい! 私も見たい~」

梓「これは……」

唯律紬梓『(動物シリーズ……)』

澪「ど、どうかな」

律「……またスランプみたいだな」

澪「うっ」



紬「だ、大丈夫よ澪ちゃん! 誰だって不調の時はあるから!」

梓「そ、そうですよ! 澪先輩なら素敵な歌詞が書けますって!」

唯「私、澪ちゃんの動物シリーズも好きだけどな~」

律「はいはい、お前は黙ってろー」

唯「ぶ~」

律「動物シリーズはさておき、そろそろ澪もいつもと違った感じの詩できないかな?」

澪「……なんだよ。そんなにおかしな詩だったっていうのか?」

律「いや、澪の歌詞は悪くないよ。ただ、この前の唯の歌詞みたいなのも必要じゃないかな、ってさ」

澪「う……確かに」

梓「澪先輩の歌詞はいかにも私達放課後ティータイム! って感じで良いですけど、唯先輩のも凄く良かったです」

唯「でへへへ~。あずにゃんは褒め殺しがうまいねぇ~」

律「ま、来週の月曜までにお願いするよ。もう学園祭も近いからな」

澪「あ、ああ……わかったよ」



澪「はぁ~……」

深い溜め息を吐く。
気分転換にお風呂に入ってみても、近くをぶらついて公園で物思いに耽ってみても、
全く良いイメージの歌詞が浮かばない。
結局、部屋に戻ってきて適当に音楽を垂れ流してる有様だ。

澪「どうしたものかなぁ」

天井を見つめながらひとりごちる。
歌詞作りに悩んでる時は自然と独り言が多くなってしまう。

澪「大体、歌詞は出来てたんだ。それを律が却下するから」

どうも私の歌詞は世間一般とはズレる傾向にあるらしい。
やれ、甘々だの、恥ずかしいだの。
私はそう思わないけど、基本的に賛同者が唯しかいないってのが全てを物語ってる気がする。



澪「でも確かに唯の歌詞、良かったな」

無くなって初めて気付くもの、か。
気付けば私達も高校三年生で、卒業も見えてきた。
放課後ティータイムとしてバンドを続けることはあっても、今みたいなスタンスで続けることは出来ないだろう。
大学でバラバラになる可能性だってあるし、そもそも梓はまだ二年生だ。

澪「そうだな、軽音部で楽しかった事。それを思い起こしてみるか」

振り返らなきゃ見えないものもある。
唯に倣うみたいになるが、こういうのもいいかもしれない。
勝手にお手本にしちゃってるけど、まさか高校まで初心者だった唯に教えられる日がくるなんてな。

澪「皆で楽しかった事……そうだ、合宿!」

1年と2年の時に行った、ムギの別荘を利用しての合宿。
普段の音楽室での練習とは違った環境というのがあってか、あれは楽しかったな。

到着してすぐに練習……しないで全員で海で遊んで、
フジツボの話を聞かされて、
遅れて到着したさわ子先生に驚かされたり、
やっぱり練習時間は思ったほど取れなかったり。



澪「……あれ? 楽しかった思い出が少ないぞ」

澪「うーん、でも合宿が楽しかったのは確かなんだよな」

澪「もう一度行ってみたらわかるかな……よし! ムギに了承を得るか」ピッピッ

紬『どうしたの、澪ちゃん。こんな夜中に?』

澪「あ、ごめんな。実はかくかくしかじかって訳で、あの時の別荘を土日に使わせてもらえないかな?」

紬『う、うん。多分大丈夫と思うけど……澪ちゃん、一人で行くの?』

澪「いや、迷惑じゃなければムギも一緒に来てもらえるかな? 流石に人の別荘を勝手に使うわけにはいかないし」



紬『私は構わないけど……りっちゃん達はいいの?』

澪「梓はいいけど、律と唯は絶対ダメ! あいつらが来たら作詞どころじゃなくなるからな!」

紬『お、抑えて澪ちゃん』

澪「あ、ああ、すまん。とにかく、嗅ぎ付かれるかもしれないから梓に引き付けておいてもらうよ」

紬『うん、わかったわ。それじゃあ前と同じとこで待ち合わせね』

澪「ああ、ありがとう」ピッ

澪「さて、次は梓だな……」ピッピッ



澪「……よし、梓にもお願いしたし。用意して今日はもう寝よう」

そういって携帯を机の上に置いた直後、メールの受信音が響いた。
差出人は律か……どうせろくなことじゃないだろ。

澪「何々……『は、早く添付した写真を見てくれ!』? 何だよ……ひっ!」

そこにはいかにもなホラー系で、グチャってドロってしてるDVDパッケージが数枚写っていた。
直視しないように携帯を操作して律に返信する。

律「お、きたな……『何撮ってんだ! 歌詞作りで忙しいんだからほっといてくれよ』か。うーん」

澪「今度は何だ……『いやー悪い悪い、手が滑って。それで、歌詞の方は順調?』」

律「『全然だよ。土日で何とかするから邪魔するなよな』……こりゃ相当やばそうだな。そうだ、皆にも手伝ってもらうとするか」



今日はいい感じに快晴。
天気予報では夜になると荒れるとかいう話だけど、別に夜出歩くわけじゃないから関係ない。
以前、冬の日に一人で海まで作詞をしに行った時は、風は強いわ凍えるほど寒いわで散々だったからな。

集合場所の駅が見えてきた。
恐らくムギがもう待っているだろう。
唯と律は梓が何かしら理由をつけて引き付けているはずだ。
今度梓に何か奢ってやらなきゃな。

澪「お、ムギー! 待たせちゃったな」

紬「あ、澪ちゃん、その――」

律「遅かったな、み~お~?」

唯「待ちくたびれちゃったよ~」

澪「り、律!? それに唯も!? なんでここに……」



梓「澪先輩、すみません……私では力不足だったようです……」

律「この程度の策略が見抜けぬりっちゃんではないわー」

唯「澪ちゃん達だけ楽しそうなことするなんてずるいよー」

紬「と、いうわけなの……ごめんね、澪ちゃん?」

澪「いや、ムギも梓も悪くないよ……私が直接言えばよかったんだ」

律「よーし、それじゃいっくぞー!」

唯「おぉー!」

澪「うぅ……」

紬「澪ちゃん、気を落とさないで……」

梓「い、生きてればきっといいことがあります!」



我ながら悪くない計画だったんだが、どうやら向こうの方が一枚上手だったらしい。
律は昔からこういう時に鋭くなって私を困らせる。
なんであいつは普段だらけてるくせに、私を困らせる事は進んで行うんだ?

そうこうしてる内にムギの別荘に到着した。
もちろん移動の電車内でも律と唯は、はしゃぎっぱなしだった。
1分たりとも気の休まる時がなかった。

それにしても相変わらず立派な別荘だ。
これ以上もあるようだけど、私らにはこれでも大き過ぎて分不相応ってやつだよな。



澪「この浜辺も久しぶりだな」

紬「梓ちゃん、オイル塗ってあげようか?」

梓「あ、すみません。何もしないよりはマシですもんね……どうせ真っ黒になっちゃうんだろうけど」

澪「律と唯は……どこまで行ったんだ? いないならいないで気になる奴らだな」

紬「まぁまぁ、私達もそろそろ遊んでばっかりじゃいけなくなるから。今日くらい好きにしましょう?」

梓「そうです! 澪先輩は好きなだけ作詞していて下さい。律先輩達は私が引き受けます!」

澪「ははは、そうだな。その時は梓に任せるよ」

律「おーい、お前らもこっち来いよー!」

唯「なんかちっさいお魚が一杯いるよー!」

紬「は~い! 梓ちゃん、行きましょう」

梓「はい。それじゃあ澪先輩、行ってきます」



遠くからの呼び掛けにムギと、既に肌に赤みを帯び始めてきた梓が駆け出していった。
私は大きなビーチパラソルの下で、微かにそよぐ心地よい風を受ける。
開放感と爽快感に一瞬身震いする。

澪「よし、そろそろ始めるか」

バッグから作詞用のノートとペンを取り出す。
いつもは適当な音楽も流す所だが、折角ここまで来たのだから波の音に思いを馳せるのも悪くは無いだろう。

澪「もう少し……もう少しで浮かんできそうだな」

作詞中は人によるのだろうけど、私は特に変わったことはしない。
ただ頭の中で思いを巡らせるだけ。
さながら釣り人の心境だろうか……釣りなんてしたことないけど。

澪「いかんいかん、変なこと考えてちゃだめだな。気を取り直して――」

律「澪ー! 危ないぞ!」

澪「!?」



突然目の前に丸い物体が、軽い接触音に軟い衝撃を伴って襲い掛かってきた。
痛みは無かったが、驚きで心臓がバクバクと軽快なビートを刻んでいる。

澪「あたた……ビ、ビーチボール?」

唯「澪ちゃん大丈夫~!?」

律「わりー、わりー! 梓の奴がしっかり返さないから」

梓「なっ! 律先輩がノーコンのせいですよ!」

澪「……」

律「なっ、なんだよ。ちゃんと謝っただろ? 何か文句あるのか?」

梓「あれで謝ってたんですか?」

紬「澪ちゃん……」

澪「……いや、何でもないさ。私がこんなとこでぼーっとしてたのが悪いんだからな」

律「へっ」

澪「はい、ボール。じゃあ私は邪魔にならないように近くをぶらついてくるよ」

梓「あっ、はいっ」

律「……」



梓「澪先輩、怒ってなかったですね」

唯「うん。いつもならりっちゃんにガツーンってやってるとこなのに」

律「ま、そんだけ集中して作詞したいってことだろ? いいから、こっちはこっちで遊ぼうぜ」

唯「よ~し、じゃあまた突撃だ~!」

梓「……ムギ先輩」

紬「うーん。まぁ、そういうことなんじゃないかな? 変に気を使っても、澪ちゃんがやり辛いだろうし」

梓「そうなんですかね」



紬「大丈夫、澪ちゃんはいつも素敵な歌詞を作ってきてくれるから。りっちゃんの言う通り、折角なんだから楽しみましょう?」

梓「はい……でも、やっぱり澪先輩とも一緒に遊びたいです。なんか、悪いですよ」

紬「梓ちゃんがそう思ってくれてるだけで澪ちゃんは嬉しいはずよ」

梓「で、でも……」

紬「……それじゃあ私達だけ先に引き上げて、サプライズイベントでも用意しちゃう?」

梓「え、何をするんですか?」

紬「そうね……例えば、お夕飯のデザート用にケーキでも作らない? 澪ちゃんが歌詞できてたらお祝いに、まだでも甘い物は気分転換にいいと思うし」

梓「わぁ、それ素敵ですね! 澪先輩、甘い物好きだから喜びますよ。私、憂に電話してレシピ聞いてきます!」

紬「それじゃあ私はりっちゃんと唯ちゃんに話してくるから。その後、必要な物を買いに行きましょう」

梓「はい!」



さっきまでいた砂浜とは打って変わって、ゴツゴツした岩肌が多い波打ち際にまで歩いてきた。
今日は波が結構高いようで、白波が時折噴水のように立ち上っていた。

澪「ここまでくれば波の音しかしないな」

波を被らないように少し高めの岩の上に腰掛ける。
直接だとお尻が痛かったので、羽織っていた上着をシート代わりにした。

澪「少し寂しい場所だな……どうも一人だとこういうとこに来ちゃうな」

長考。
無心で歌詞を頭の中に浮かべては消していく。
どうもピンとこない。

澪「ん~……む~……あー、もう! 楽しい思い出の歌詞にしたいのに、こんな寂しいとこで浮かぶわけないだろ!」

澪「……って、何一人で怒鳴ってるんだろうな、はは……はぁ」

澪「平常心、平常心」



再度集中しようと目を閉じて外界からの情報を閉ざす。
大分落ち着いてきた。

澪「よし、後は楽しかったことを……」

ここで前日のように律の自由奔放、傍若無人、豪放磊落っぷりが浮かんでくる。
対比するような自分の小心翼翼っぷりも相まって、一層苛立つ。

澪「大体何だよ、あの律の態度は。ボールぶつけておいてあれはないだろ」

澪「そもそも呼んでもないのに勝手に付いて来るし。まったく……ん? 何だ」

愚痴をこぼしていると、波打ち際に何か光る物を発見した。
近寄ってみると、どうやら小瓶のようで、中に手紙が入っている。

誰かが流したのだろうか。
こういう素敵要素たっぷりなサムシングに私は滅法弱い。
早速、拾って手紙を取り出して読んでみる。



澪「何々……『この手紙を読んだあなたは、三日以内に10人に同じ内容の手紙を出さないと不幸に――』 あわわわわわ!!」

澪「ううぅ、何だコレ! 不幸の手紙じゃないかぁ!」

気持ち悪くなって瓶ごと手紙を放り捨てる。
なんて性質の悪い悪戯だ。

息を荒げて肩を上下させていると、岩陰から笑い声が聞こえてきた。

律「くっ……くっくっくっ……あっははははっ!!」

唯「り、りっちゃん悪いよー……ぶふっ! あはははっ!!」

澪「律……唯。これはお前らがやったのか?」

唯「私じゃないよー。りっちゃんが澪ちゃん驚かそうとしてさ」

律「あ、私だけ悪者にするなよ。お前もノリノリだったじゃんか」

澪「……」



律「いやぁ、ムギと梓が買い物に出掛けちゃってさ。私らも暇だったからつい、さ」

澪「……」

律「(くるか……!)」

澪「そ、そうか。暇だったんならしょうがないな。でも私は作詞中なんだから、お前らだけで何とかしてくれよな」

唯「ふぇ!? み、澪ちゃん怒ってないの?」

律「……いいよ、唯。行こうぜ」

唯「ちょっとりっちゃん、待ってよ~」

澪「……フン」



唯「りっちゃーん! はぁ、やっと追いついたよ。ね、やっぱりまだ駄目そうなのかな」

律「多分な」

唯「でもこれ以上やったら流石に悪いよ。澪ちゃん火山大噴火しちゃうよ」

律「あのなぁ、唯。昨日も説明したろ?」

唯「え、何だっけ?」

律「ったく……澪は悩んだらどっぷりハマっちゃうタイプなんだよ。一人でどんどん追い込むタイプだからさぁ」

唯「おお、思い出しました! だから相談相手にムギちゃんとあずにゃんがいて、ストレス発散相手に私達がいるんだよね!」

律「そうそう。でも相談はしてねーし、私らが散々ちょっかい出してんのに怒りもしないだろ?」

唯「そうだね……ああ、だからまずい状況なのか!」

律「唯に説明してると疲れるよ……」



唯「でもさぁ、こんな回りくどい事しないで澪ちゃんを手伝えばいいんじゃないの?」

律「今まではそれでよかったけどさ、私らももう高校生じゃなくなるんだぞ。いつまでも澪もあのままじゃよくないだろ」

唯「ほぇ~……りっちゃん凄いね~」

律「うん? なーにがだよ」

唯「普段のりっちゃんのキャラからは想像もできない気遣いだよ~。澪ちゃんは果報者だね!」

律「よせやい。照れるぜっ」

唯「不肖、唯隊員。律隊員に感服致しましたっ!」

律「御見それいったか! よーし、そろそろムギ達も帰ってくるだろうし、私らも用意してこようぜ!」

唯「おお~!」


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