――もし、そこの貴方。そのご立派な佇まい、さぞや高貴なお方とお見受けします。
差し出がましいのは重々承知の上で御座います。
が、私の頼み事を聞いては頂けませんか?
おぉ、聞いて下さると言うのですか!
これはありがたい・・・では遠慮なく。
実は――この世界を、冒険して頂きたいのです。
時は大正。
学問が膾炙し、科学が招かれ、外国と交わり、新たな時代の風が吹き抜け、
されど士族の血は未だ絶えず、妖魔の類も日陰に潜み尚も健在。
終わりと始まり、古きと新しき、不変と変化に満ち溢れた時代で御座います。
この時代、この国には『夢』が溢れております。
一攫千金、一世風靡、一念発起に立身出世。恋愛成就なんて方も、いるかもしれませんね。
とにかく皆が、その心に夢を宿す時代で御座います。
さあ、貴方の『夢』は何で御座いましょうか?
果てなき冒険の果てに――その『夢』を掴んでみたくはありませんか?
え?冒険と言っても何処へ行けばいいのか分からない?
ご心配なく。果てなき冒険とは言いましたが、指標なき冒険はただの放蕩で御座いますからね。
こちらを御覧下さい。
この巨大な板――これは『嘆願板』と申しまして。
全国各地から寄せられた『願い事』で御座います。
軍や警察では捌き切れない些細な……あるいは複雑怪奇で巨大な問題を民間に委託する。
負担や責任の軽減を図ると同時に、万人に報酬と言う名の『夢』を与える試みで御座います。
……どれ、幾つか見てみましょうか。
ふむ……どうやらこのお嬢さんは、とある寒村で新興宗教の生贄にされてしまうらしいですな。
隙を見て何とか嘆願書を出したようですが、はてさて、救いの手は間に合うのでしょうか。
おや、こちらは帝国大学からの嘆願書で御座いますよ。
新設した実験棟に行った研究員達が返って来ない?呻き声や戸を叩く音が聞こえる?
調査を求む……ですか。何やら不穏な気配が致しますね。
ですが、帝国大学からの依頼をこなしたとあれば、報酬は大きいでしょう。
金銭は勿論、人脈もまた貴重な財産の一つで御座いますから。
勿論、可哀想なお嬢さんの為に命を懸けると言うのも乙なものです。
さて、何はともあれ――大正冒険奇譚TRPG、ここに開幕で御座います。
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