1 名前:ディーバダッタ ◆Boz/6.SDro [sage] 投稿日:2009/10/30(金) 22:06:42 0
ダークファンタジースレ
落ちたので再建しました

前スレ
■ダークファンタジーTRPGスレ 2■
ttp://changi.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1252208621/

避難所
ttp://jbbs.livedoor.jp/study/10454/

2 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2009/10/30(金) 23:06:00 O
落ちるの早いな

3 名前:ミア ◆JJ6qDFyzCY [sage] 投稿日:2009/10/31(土) 03:56:22 P
ゆったりと近づく【鍵】の少女。
底の無い瞳に引き寄せられるように、ふらりと足が前に


ぽすん。

「………ぁ」

額に走った小さな衝撃の原因は、視界を塞ぐ大きな背中が物語る。
堂々と宣戦布告する獣人の背後で、ミアは叱られた子供のようにびくりと身を震わせた。
彼は“ゲーティア”に関わる者なのだ。“ミア”は別人と割り切り、逃げ出したって構わないというのに――

「……どうして?」

冷えた体を、軽々と水晶の腕が攫っていった。
穏やかとすら聞こえるシモンの言葉は彼女の混乱に拍車をかける。
死んじゃったんでしょ? 私と関わったせいなんでしょ?
なぜそんな晴れやかな顔をしているの?
彼は利害でしか結ばれなかったはずの男。――それだけだったはずなのに。

「……どうして、皆…“人間”を選ぶの?」

流れ弾であろう巨大な炎の塊が飛び来る。盾となった水晶の体に吹き散らされる。
その方向に目を向ければ、剣を止めて口を開こうとするのはあの女性。
魔に堕ちてなお、魔を刈る業から離れない女性。

「月…綺麗じゃ無いの…?」

それが“門”としての魂が惹かれる気持ちでしか無いと、薄々は感じていても。

「どうして………わからない……。私……何も無いから」

やりたいこと好きなもの欲しいもの守りたい者――何も無いのだ。
世界を命がけで守った“ゲーティア”の目には鮮やかに色づいて見えたに違いない景色は、ミアには全て遠く灰色の存在だった。
七年かけて世界を見て、結局何の思いも手に入らなかった。

「どうして残してくれなかったの…アルテミシアぁっ!」

こうして叫んでいる時点で、決して真に空ではありえない証拠ではないか――そんな簡単なことすら今は気づけず。
ミアは背の杖をゆっくりと抜き取った。
震える唇に呟きを乗せる。

「――知りたい」

刹那、普段なら自殺行為にしかならない大量の術式がミアの体を覆う。
ミアは自分の魂を探り、“ゲーティア”の記憶を――抱いた思いを知ろうとしていた。
心が忘れていても、死が間を隔てても、魂に刻まれた情報なら接触できる。

――ズキン。頭頂から鉄針を撃ち込まれるような酷い痛みを感じる。
即興で編み上げた術式は高度かつ非効率。瞬く間に魔力の過剰使用が体を蝕む。
ミアは辺りに満ちる瘴気を人間の使える魔力に“変換”、不足を補った。
それは無意識に行使した、門としての能力だった。

そして少しずつ見えて来たのは――

『私だけでいい。狂気に呑まれるのは私だけで良いの。貴女はどうか真っ白でいて――ミア』

(……え?)

4 名前:ミア ◆JJ6qDFyzCY [sage] 投稿日:2009/10/31(土) 04:00:47 P
それは、アルテミシアが自らの命を失う寸前の心の呟き。
同時にいくつかの情報が流れ込んでくる。

地獄は、古の時代にアルテミシアが己の魂を切り開いて内に構築した疑似世界だということ。
非力な人間たちが繁栄できるよう、そこに魔の大軍勢を封じ込めたこと。
地獄を抱えた魂は隔離空間に封じられたこと。
アルテミシアの精神は“閂”として門に寄り添い、眠りについていたこと。
そうして安寧が訪れ――共通の敵を無くした人の世に内紛の火が生まれ、再び混迷が世界を覆ったこと。
――世界に絶望し、“この世ではないどこか”に救いを求めた人々の集合意識が地獄を求め始めたこと。

集合意識は、アルテミシアの魂を輪廻の道に引き戻した。
そして彼女の魂を受け継いだミアが生まれる。
集合意識は現世に降りて終焉の月を誘惑し、手足とした。
それを利用して貴女を捕縛し、魂の欠片を取り込んで“鍵”として完成した。

『閂だった私はミアの精神を上書きしてその肉体に召喚され、守護していた地獄の扉から隔離された。
可哀想なことをしたと思った――……それが、今は幸いね』

教団は末法の世を説き、アルテミシアに封印の解除を迫った。
首を横に振りつづける彼女に、教団は苦痛を与え続けた。
人を憎み、世界を恐れ、人間の世に執着心など持たぬよう。

『ギルのおかげで……踏みとどまれた……けれど、もう限界。
空に浮かぶ赤い月に誘われて、このままだと私は地獄を降臨させてしまう。
不思議。彼のいるこの世界を守りたい気持ちと、刷り込まれた世界への恐れが矛盾なく両立してしまうの。
好きと嫌いが同時に頭に浮かぶの。……いえ。
本当は世界が好きよ――なのに、歪んだ何かが思考の流れを捉えて離さない。
よくよく考えれば「好き」なのに、反射の叫びが「嫌い」になる。
きっとこれが狂気なのね。教団の思い通りになってしまったわ――
……ミア。貴女には、このような思いはさせない。
奴らに刻まれた恐怖ごと、私の思いは出来る限り空に帰しましょう。私の精神と共に。
貴女は何も持たない。……けど、きっと大丈夫。
貴女は真っ白だから――いくらでも色を塗れるわ。』

ミアは気づいた。
それがいつの間にか情報の再生ではなく、優しい呼びかけへと移り変わっていることに。

『……素敵な世界であるはずなの。頭では、わかっていたわ』

「……どうして」

『世界をお願いね――……』

*  *  *
 
――長い沈黙の後。

「……知りたい」

ミアは、もう一度小さく呟いた。

「まだ……見ていたい」

【鍵】を睨み、手を掲げる。
この場で戦う者たちは、己の体にわき出るように魔力が満ちていくのを感じるだろう。

その意識は既に空に浮かぶ赤い月を捉えていなかった。

5 名前:ディーバダッタ ◆Boz/6.SDro [sage] 投稿日:2009/11/01(日) 22:45:28 0
門との間にギルバートとシモン。
少女の姿をした鍵から見れば途方もない巨体が二つ並んでいる。
にも拘らず。
鍵は二人を見上げながらその目は完全に見下していた。
まるで地を這う虫けらを見るかのように。

>「そこから一歩でも進みたけりゃ、俺を倒してバラバラに引き裂いてからにしろってこった。
> 気をつけな、手負いの狼は喉首に噛み付いて死んでも離さねぇって言うぜ」
「負け犬が虚勢を張っても滑稽だな。
昔のお前なら口に出す前に攻撃を仕掛けていたはずだが?」
嘲笑うかのように応え、更に一歩踏み出したとき、ギルバートよりはやくシモンが動く。
ミアを背に乗せ両腕から緋色の槍を繰り出し、その先から閃光を放ったのだ。
その行動に鍵の形相が歪む。

「あの馬鹿の不手際のお陰で・・・!
合の刻は運命の糸の集約点。何が起こっても不思議ではないが・・・。」
ギリギリと歯軋りをしながら呟く。
思えば全てはシモンが基点となっていた。
魔法陣発動のために必要な尖塔を一つ崩された為に擬似的な地獄をヴィフティアに再現し切れていない。
お陰で魔の降りたものの中にも人間を保つものもいる。
挙句に聖処女の血を吸い完全復活を遂げるはずだったものが、それが出来ないでいる。
そして今、心臓を取り込んだままクリスタルと融合したシモンは己に牙を剥いたのだ。

「我が力のお零れを得て慢心したか!!」
咆哮と共に放たれた閃光を横薙ぎの拳で殴り飛ばす。
閃光はまるで飛沫のように飛び散り、周囲へと飛び散り、コクハやオルフェノーク、そして瓦礫に埋もれたヴェノキサスにも降り注ぐ。
咆哮は大気を震わせシモンとギルバートに衝撃波として襲い掛かる。

怒りの形相となった鍵は石畳を踏み砕きながら一歩一歩近づいていく。
ゆっくりとであるはずなのに、その接近を許したのは鍵の発する瘴気の為だろうか?
「お前の力など!我が力のほんの一部でしかない!
盾になる?黙って跪いておれ!!」
鍵の少女はシモンの前足を掴むと、無造作にねじ切った。
そのままシモンの背に乗るミアに視線を向ける。

「なんだこれは?お前はなぜ私を否定する!
私たちは合一し、世界が求めた地獄を生み出すために生まれたというのに!!
その証拠にお前には何も無いはずだ!
この世界に対する執着も!希望も!」
ここに来て始めて能動的に己を拒否し、その力を振るうミアに鍵の少女が怒声を浴びせる。


6 名前:ハスタ ◇BsVisfL7IQ[sage] 投稿日:2009/11/01(日) 22:45:47 0
>「お待たせしました。そしてご助勢感謝いたします。」
「それ程待っちゃいないけどな。さすがは聖騎士腕がいい。」

で、どうやって退散願おうか・・・と言うより早くその騎士が切りかかってやがる。
その剣先には・・・・・・
「ちっ!」

快音。
ルキフェルが避けたフィオナの剣はその軌道を途中で白い槍に妨げられていた。
それによって少年の首は飛ばずに済んでいる。

「つくづく外道な連中だな・・・!!ムカつく奴を思い出させてくれた礼だ、縊り殺してやる」
フィオナの剣を遮っていた槍の他、更に三本の槍が暴徒との間を遮るように地に突き立っている。
ルキフェルの哄笑をバックに槍を振り回して暴徒の一人が突っ込んでくる、が

「素人が勝てる訳ないだろが。数に物を言わせれば勝てるとでも?」
地に立つ槍の一本を根元から蹴りつける、両端に刃を持った槍はぐるりと旋回すると
突っ込んできた暴徒の無防備な首筋にその刃を突き立てた。
その隙にホルダーから3枚の符を取り出し、気を入れてゆく。

「三元鎮守!」
放った符は眼前で三角形の頂点となり、互いを青光で結び盾となる。
先ほど剣を止める為に槍は一本だけ遠い地点に投げてしまったが、三本もあれば十分。
「そこの聖騎士!アンタじゃ暴徒相手に殺すのは抵抗があるだろうからオレが殺るぞ?」

槍を手に持って突き、あるいは蹴って宙を舞わせ、薙ぐ。
合わせて六の刃を持つ三本の槍を同時に操り、符術の盾を以って
オレは暴徒の群れを押し返し始めた。

7 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/11/02(月) 10:02:56 0
闇の帳をたゆたっていた。レクストはどちらが天でどちらが地かも把握できす、ただ棒を飲んだように直立不動で浮遊する。
間断なく行使されているフィオナの治癒術式によって肉体こそ生を繋いではいるものの、魔剣の呪力は確実にレクストの命まで届いていた。

(こりゃ本格的にヤベぇかもな……意識ははっきりしてんのに目覚める気配が全くねぇ)

まるで、抜け落ちた魂のように。レクストは一寸先すら光なき空間で凝然と立ち尽くしていた。
小さな箱にでも閉じ込められた心持ちである。身体は動かず、外を見ることすら叶わない。

『……よう、《俺》。調子はどうだ?』

不意に呼びかける声が聞こえた。ぎょっとしてそちらに視線を這わす、反響するその声色は――紛れもなく、自分。
目の前に煙の如く出現したのは、やはり自分だった。但し、従士服は着ていないし、背丈も低い。年のころは12歳程だろうか。
――帝都に行く前の、自分。母親を喪う前の、自分。

「見りゃ分かんだろ?――死に掛けだ」
『っは、だろうな。情けねぇ』

自嘲するように、レクストとレクストは互いに互いを笑った。ひとしきり嘲笑して、レクストはレクストに言った。

「昔の俺とご対面か。走馬灯みたいなモンだとするなら……俺もう完璧に死んでね?臨終じゃね?」
『俺にしちゃわりかし的を得た指摘だな。《俺》の生命力はもう殆ど残ってない。文字通りの死に体だな』

魔剣の呪いは生命を直に蝕むものだったらしく、こればかりは如何な治癒術式とて防げるものではない。
死にたくなかったはずなのに、やらねばならないことが山積みなのに、呪いがそうさせるのか、レクストの内心に抗いは生まれない。

「しっかし、今際の際に出てくるしちゃ芸のない選択だぜ。どうせなら死んだ母さんとかが出てくるべきだろ。迎えにな!」
『死んだ人間に会えるわけねぇだろ?あくまで俺は《俺》の深層意識――まぁ、マジ死にするまでの暇潰し兼走馬灯だな!』

えらく調子っぱずれに、幼いレクストは言った。その口調は七年後と何も変わらない。変わらないように七年間、努力してきた。
楽天的な悦楽主義者というレクストの属性は、この暗澹の時代において自分を鼓舞するための唯一解だった。

「七年前か……昔は良かったなぁ、何の憂いも苦しみもなくて、ただ笑うだけで生きていられた」
『七年後の《俺》はそう思うだろ?でもな、七年前の俺も"昔は良かった"って思ってるんだぜ。十歳越えた辺りから家業に引っ張り出されたしな』

「あれ?なにそれ右肩下がりっぱなしじゃん俺の人生!」
『別に歳重ねて悪いことばっかってわけでもないだろ?身体はでかくなったし力も強くなった。何より、やりたいことだって叶えたろ』

庶民を護る、従士。ヴァフティアを飛び出してから七年、それだけを目標に駆け抜けてきた。
レクストが言い、レクストが答える。それは自問自答であり、忘れていたことへの再確認。

『悪かろうが辛かろうが今現在の自分を全否定すんな。今だから選べるカードだってあるはずだぜ?』

勿論このまま死んじまうこともカードのうちだ、と幼きレクストはそう付け加えた。全てを諦め、楽になること。
レクストを覆うように蝕む魔剣の呪いに身を委ねれば、それは簡単に達成されるだろう。精神まで蝕まれていないのは、むしろ暁光だった。
否、抗うように差し込む光は、フィオナの治癒術式の成果だろうか――

「決まってる。俺が道を選ぶときにはな、必ず他の選択肢は潰しておくんだ。後戻りできない、後戻り『しない』ようにな!」

光によって呪いの勢いが若干弱まる。凝り固まるように拘束する呪いの靄をほぼ気合で振りぬき、レクストは背中に手を回す。
そこにあるのは間違いなくバイアネット。レクストが従士である証。残しておいた唯一の選択肢。

「『庶民を護る』――七年前から俺が見てるのは、この道だけだ。そこにぶれも迷いもねぇ――ッ!!」

抜き放ったバイアネットをそのまま砲身展開し、見果てぬ闇の帳へ向けて、確実に一回、引き金を引いた。
鋼の咆哮は極彩色の魔力光を伴なって顕現し、黒の靄を切り裂くように矢の如く飛んでいく。
光が描いたその軌跡を起点にして、レクストを閉じ込めていた昏き空間が崩壊していく。同時に、身体に活力が戻り始めた。

『わかってんじゃねぇか――なら行こうぜ、俺達の在るべき大地へ!!』
崩壊した空間のひび割れから眩い光が噴出し、レクストを包んでいく。光の帳が彼に吸い込まれるようにして、収まったとき。
レクスト=リフレクティアは、自分の身体に帰還した。

8 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/11/02(月) 11:17:11 0
目が覚めたらそこは戦場だった。跳ねるように起き上がったレクストに、周囲の市民達が一斉に声を挙げた。

「おお、目が覚めたか!」
「お?お?なんだこれ、どういう状況?」

目を白黒させながらレクストは辺りを見回す。剣を振るったばかりのフィオナと、なにやら巨大な十字架を掲げた少年。
二人が対峙する先に立つのは、痩身長躯の眼鏡男。その衣服にはやはり『月』の紋章があった。

(新手――!!しかもただの教団員じゃねえな)

市民が掻い摘んで現在の状況を説明する。レクストが魔剣で刺された傷を、供物の少女の血で癒したこと。
十字架の少年が空から降ってきたこと。対峙する眼鏡の男が守備隊を一瞬で屠り、我々の前に立ちはだかったこと。
と、箒に括られているはずの元黒衣が自由になっていることに気付いた。

「おいおいありがたいぜ元黒衣。全部終わったら一杯奢らせろよ――それでチャラにしようぜ」
「ふ、それまで互いに生きていたらな……無論、私は生き残る所存だが」
「言うじゃねぇか。なら俺の生存は俺に任せろ。――必ず奢りに行ってやるよ、っと!」

勢いをつけて跳ね起きると、身体の各所を回し、伸ばして挙動を確認。澱みはない。問題もない。
いざ参戦しようと対峙する連中のほうへ視線を向けると、十字架使いが十字架と符術を用いて暴徒と化した市民を屠っていた。

「待て、殺すなよ!そいつらは『まだ』人間なんだ、混乱さえ解けばやり直せる!!」

もちろん、十字架使いを非難するいわれはなにもない。そうしなければ彼が殺される。正当防衛だ。
それでも、だからこそ、レクストは駆け、彼等の間に割って入るようにして暴徒達を押さえ込んだ。

槍や剣が四肢に突き刺さるが、流血もそこそこに高速で傷が塞がり始める。どうやらフィオナの治癒術は呪いによって停滞していただけで、
その効力自体は今もレクストの身体に内在しているらしい。つまりは、幾回分もの治癒術式を身体中に溜め込んでいる状態なのだった。

「……つっても、流石に痛むぜこりゃあ……でもよ……死ぬよかマシで、死なせるよかずっとマシだ」

魔剣にさえ気をつければそうそう死なない身体である。少なくとも注ぎ込まれた治癒術以上のダメージを受けなければ。
だからこそ、暴徒に対する交渉においては最適な身体だ。無傷で無殺を貫けるのだから。

「俺はレクスト=リフレクティア。庶民を護る従士様だ。十字架、こいつらは俺に任せろ。あの眼鏡野朗に専念してくれ」

刃をシースに納めたままのバイアネットを振りぬいて、壁を作るように打ち下ろす。

「騎士の姉ちゃん、待たせたな。おかげ助かったし、今からもっと助かる」

言って、レクストは踏み出した。傷をものともしない気迫に、暴徒達が総じて一歩退がる。

(出来ればこいつら押さえ込んで、さっさと揺り篭通りに行きてぇけど……そう簡単に通してくれねぇか)
フィオナ達が対峙する眼鏡の幹部を見遣る。その身から溢れるのは魔力というより瘴気。僧侶と同じ、異能の眷属。

(ありゃ幹部クラス、だよな……くそ、こんなとこでこんな奴、最悪な組み合わせだ)
目を背けるようにして暴徒達を見据える。何れにせよ、ここを押さえたらあちらにも加勢が必要だろう。

「さて、俺もそんなに時間があるわけじゃあない。手短にはじめようぜ――話し合いをな!」
うろたえる暴徒達に、レクストはつとめて尊大にそう言い放った。


【レクスト復帰。ハスタと暴徒の間に割り込み暴徒の説得を申し出る】
【フィオナのかけまくった治癒術式が呪いで止められてた分身体に溜まってるので、素の回復力が上昇している状態】

9 名前:ルキフェル ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2009/11/03(火) 03:02:42 0
>>6
フィオナの眼前にルキフェルが音もなく現れる。
倒れた暴徒の剣を奪いその首元を狙うもそれは阻まれた。
「では、さようなら。おや…邪魔が入りましたか。」

>「つくづく外道な連中だな・・・!!ムカつく奴を思い出させてくれた礼だ、縊り殺してやる」

1人の戦士が現れ暴徒達へ向っていく。
必死の形相で喰らい付く暴徒を難なく撃破するその姿に
満足そうに微笑む。
「それでいいのです。生き残る為には他者を斬り捨てる。
それが人間というもの。いや、生きる者全ての理ですからねぇ。
貴方は正しい。そして、用済みのゴミは処分します。」
切り裂かれた暴徒の首が吹き飛ぶ。
ルキフェルの右腕が鞭のようにしなり、そして肉片を空へ巻き上げる。
何が起こったのかは目視する事は出来ないが。

「「た、助けてくれ!お、俺は…死にたくねぇ!!」」
暴徒の中で正気に目覚めた一部の者達が懇願するように尻餅を付き叫ぶ。
レクストの言葉が彼らの正気を取り戻させたのかもしれない。
ルキフェルは落胆したような素振りを見せ、男の背後へ回り込む。

「貴方にはガッカリしました。しかし、最後のチャンスをあげましょう。」
男の胸を手で突き破り禍々しい”闇”を植え込む。
男は首を掻き毟りながら血反吐を吐き、そして目を真っ赤に染めた。
「ウギャァァァァァァァァ」
歓喜の声と共に暴徒の体を突き破り蝿のような姿をした魔物へと変貌した。

「少しばかり、私の力を分け与えました。まぁ、”月の幹部”としての
力の範疇は超えてしまいましたがね。」
魔物をハスタへ差し向けると今度はレクストという名前の戦士を見る。

「なるほど…傷が回復していく。これは面白い。
しかし、どれだけ耐えられるか。」

周囲に砂埃を撒き散らし、レクストの元へ瞬時に迫る。
難なくレクストの真横で回り込むと右手を振り上げ手刀を
繰り出す。
鎧を通り越し肉を捲り上げるようなかつてない威力の連撃が
レクストを襲う。

「あぁ、貴方もどうです?お仲間に入られますか?」

レクストを攻撃しているとはいえ、その目はフィオナをも
捉えて放さないでいる。




10 名前:オルフェーノク ◆O6C0C9pKcx1S [sage] 投稿日:2009/11/03(火) 17:39:21 0
「戯れが過ぎたか…」
コクハの休戦の誘いに返答することなく、オルフェーノクはその歩を進める
その向かう先は、正しく人外たちの戦闘の真っただ中であった
他には目もくれず、真っ直ぐにゆっくりと歩いて行く

「我は、幾星霜もの年月を生き永らえてきた
 本来の肉体は朽ち果て、記憶までも虚無の彼方に失せた
 魂のみの虚ろな存在として、動くことも考えることも出来ず、ただ生き永らえてきた
 古代の民より与えられたこの傀儡を得て、動く体と考える脳を手に入れた
 我は今問う…
 我が何者で、何のために生まれてきた存在なのかを…」
放たれた閃光がオルフェーノクにも直撃するが、それを意に介する様子はない
尚も歩を進め、赤い月を眼前に捉えると両腕を広げて見上げた
白銀のボディには、赤い月とその輝きが鮮やかに美しく映し出されている
すると、赤い蛍のようなマナがオルフェーノクの全身から湧き上がり始めた

「あれが彼の赤い月…
 かつて、我に傀儡の体を与えた魔法文明の民が予言した終焉…
 その力、今こそ我が悲願のために!」
その場に跪くと、鎧の胸部が突如展開を始めた
頭部は後ろに折れ、胸部が完全に開き切ると内部の魔法機械システムが露わになった
その中央には、一際明るく輝く巨大な魔石が秘められていた
魔石は赤い月に共鳴するように、その輝きを青から赤へと変えていった


11 名前:コクハ ◆SmH1iQ.5b2 [sage] 投稿日:2009/11/03(火) 19:03:48 0
>>10
戯れか・・・
肩をすくめ、巨大なロボットが歩いていく先を見つめた。
10代の位の全裸の少女が少女を抱えている黒装束の男に向かって何かをつぶやいている。
何を言っているかはよく分からないが、「我が力のお零れを得て慢心したか」という言葉だけははっきりと聞こえてきた。
それと同時に無数の光の弾がこちらや巨大なロボットに向かってくる。
巨大なロボットは相当ぶ厚い装甲でもあるのかびくともしないが、こちらはそうではない。
羽を起用に動かし、右に左に回避すると、巨大なロボットが突然歩みをとめた。
見ると、胴体の部分が二つに割れ、頭が後方に倒れている。
内部には機械が詰め込まれており、その隙間から青い光が見えた。
あれが動力部らしい。
いったい、何をするつもりなのか?
ロボットの意図することが分からず首を傾げるしかなかった。


12 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/11/03(火) 20:50:50 0
ロボットとか言っちゃダメだろおい……

13 名前:コクハ ◆SmH1iQ.5b2 [sage] 投稿日:2009/11/03(火) 21:54:49 0
>>11
訂正
× ロボット
○ 鎧

14 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/11/03(火) 22:26:53 0
巨大なロボットwww

15 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/11/04(水) 21:46:44 0
保守

16 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/11/05(木) 19:27:10 0
保守

17 名前:フィオナ ◆tPyzcD89bA [sage] 投稿日:2009/11/06(金) 03:39:46 0
駆ける足は軽く踏み込みは重く。
暴徒達を横目にルキフェルとの間合いを一瞬で殺し、今まで幾度と振るってきた剣は会心の一振りをもって迫る。
しかし刃圏へと捉えた男は気負う様子も無く眼鏡を拭いている。

「お姉ちゃん!!」
響く悲鳴。ルキフェルの傍らにはフィオナを姉と慕う孤児の男の子。
「イル君っ!?」
ぞくり、とフィオナの背筋が凍る。描く剣筋では諸共両断するのは間違いない。
体を捻り、腕を突っ張らせ何とか逸らそうとするが勢いのついた剣は無情にもイルへと吸い込まれていく。

――ガキンッ
後僅かという所で投げ放たれた白い槍に剣が弾かれ、その軌道は無人の地面へと叩き込まれ甲高い音を響かせた。
(助かった……)
安堵するのもそこそこに再び間合いを開けルキフェルを睨む。
幻術の類かと疑ったが魔術を使った気配は無かった。
どういう手段を使ったのか不明だが捕らえられているのは間違いなく本物のイルなのだろう。

『どうしましたか?…あぁ、これは私の玩具です。
気になさらず。』
嘲る様なルキフェルの挑発。それに無言で返すとフィオナは盾を捨てる。
左足を前に出しスタンスを大きくとった半身になると、切っ先をルキフェルへと向け、剣を顔の横まで持ち上げる。
相手の行動の後の先を取る"オクス"と呼ばれる騎士剣技の型の一つ。
僅かでも隙を見せれば即座に攻撃に移るという意思表示。

しかし膠着した状況は暴徒達の行動を促した。
一時は希望を見出しかに思えた市民達もこちらが手詰まりと見るや、包囲の輪を狭め武器を手に襲い掛かる。
「それ以上動けば貴方達から――」
『素人が勝てる訳ないだろが。数に物を言わせれば勝てるとでも?』
フィオナの静止を遮る様にハスタの声が被せられると、槍と符術を駆使して暴徒達を薙ぎ倒していく。

『そこの聖騎士!アンタじゃ暴徒相手に殺すのは抵抗があるだろうからオレが殺るぞ?』
正当防衛とはいえ殺す気満々である。
「そ、そこを昏倒くらいでなんとかっ!」
ルキフェルへの狙いは外さずにフィオナも無茶な注文を返す。
その声が届いたのかは判らないが灰色の外套を翻しハスタは暴徒達を押し返し始めた。

18 名前:フィオナ ◆tPyzcD89bA [sage] 投稿日:2009/11/06(金) 03:44:14 0
ハスタが三槍六刃の武器と符術の青い光を閃かせ暴徒を打ち倒す。
何名か死者は出ているようだがそれでも対峙した者全てを屠っているというわけでは無さそうだ。

『待て、殺すなよ!そいつらは『まだ』人間なんだ、混乱さえ解けばやり直せる!!』
力強い声と共にレクストが戦線へと復帰。
幾度となく注いだ"治癒"の効果かその身に刃を突き立てられても即座に傷を復元しているようだ。
これも聖女の血のなせる奇跡なのか思わぬ功名である。

暴徒の説得をレクストへ任せたハスタがこちらに加わり数の上では二対一だが相手は人質を捕っている。
イルをなんとか救出しないことには攻勢へ転じることは出来ない。

「「た、助けてくれ!お、俺は…死にたくねぇ!!」」
レクストの交渉が功を奏したのか一人また一人とルキフェルへと縋る。

『貴方にはガッカリしました。しかし、最後のチャンスをあげましょう。』
心底落胆したかのように呟くと貫き手で懇願する男の胸を突き徹すルキフェル。
直後、男は絶望とも歓喜ともとれる絶叫を上げ巨大な蝿の魔物へと変貌しハスタへと襲い掛かった。

次いで標的をレクストへと定めたルキフェルは瞬時に移動を終えると手刀を打ち下ろす。
攻撃の手は苛烈さを増す一方だ。
右手はレクストを打ち据え、左手はイルを捕らえている。

(チャンスは今しかないっ)
此方へ視線を配っているのは判っているがこのまま隙を伺っていても劣勢になるばかりだ。
「主よっ!不浄を裁く光を我が剣に!」
"聖剣"の光を宿した刃を構え猛然とルキフェルへと突撃するフィオナ。
ルキフェルはイルを此方へと差し出してくる。

「それを――」
寸前で身を縮め続く一歩で体を捻り剣を振り上げる。

「―――待ってましたっ!」
イルごと突き出された腕をかわし、振り上げた剣から片手を離しルキフェルの手首を掴んだ。
そのまま見た目から想像できない豪腕で引き寄せると剣の柄をルキフェルへと叩きつける。
"聖剣"の奇跡はフェイク。あくまで狙いはイルの奪還である。

体勢を崩したルキフェルからイルを手繰り寄せ胸に?き抱くフィオナ。
ルキフェルへと剣を突き付け警戒しつつ、自警団達へとイルを預けるとレクストへと駆け寄る。
レクストを背にルキフェルと対峙しながら小声で話しかける。

「レクストさん此処で戦っても戦況は覆せません。
魔を前に退くのは業腹ですけど一旦退いて体勢を立て直さないと、最悪全員魔物にされます。
私達三人であの男"ルキフェル"を引き付けて、その間に何処か拠点になりそうな所に他の人たちを逃がしましょう。
神殿へ行ければ良いのですけど此処からだと遠すぎます。何処か良い場所ありませんか?」

19 名前:コクハ ◇SmH1iQ.5b2の代理投稿[sage] 投稿日:2009/11/06(金) 23:35:32 0
巨大な鎧が動きを停止してからしばし経った。
鎧の中央にあるクリスタルから青色の成分が抜けていき、
それと言われ変わるように赤色の成分が増えていく。
これを見てるのも悪くない。
周りは戦闘中なのを気にもせず、地面に座り込んだ。
羽が地面に触れる音がする。
R:0,G:0,B:255
R:1,G:0,B:254
R:2,G:0,B:253
R:3,G:0,B:252

   :
R:128,G:0,B:128
赤の成分と青の成分がつりあったところで立ち上がった。
どうも退屈だ。
クリスタルでも壊して、スクラップにでもしてしまおうかと思ったが、
動けない相手を攻撃するのも趣が悪い。
地面をトンと蹴り、鍵と門がいる方向とは正反対の方角へ飛んで行った。


空に相変わらず赤い目玉が浮かんでいる。
前見たときと一緒だ。
外気が気持ちいい。
このまま飛んでいたいと思ったが、声が邪魔をした。
>「レクストさん此処で戦っても戦況は覆せません。
>魔を前に退くのは業腹ですけど一旦退いて体勢を立て直さないと、最悪全員魔物にされます。
>私達三人であの男"ルキフェル"を引き付けて、その間に何処か拠点になりそうな所に他の人たちを逃がしましょう。
>神殿へ行ければ良いのですけど此処からだと遠すぎます。何処か良い場所ありませんか?」
声がした方を見ると、無数の暴徒達と3人の人間が対峙していた。
3人の人間のうち一人は聖騎士で、子供をその手に抱えている。
残りは槍をもった人間と銃剣を持った人間がいた。
対する暴徒達言うと混乱しているものとおびえているものに分かれていた。
おびえているものの戦闘には魔物がいて、その近くには男がいる。
その男は銃剣を持った人間に接近し、手刀を繰り出している。
数の上では3人の人間のほうが圧倒的に不利だ。

戦いは対等なものこそ美しい。
今目の前で繰り広げられている光景は誠に持って趣にかけている。

「助太刀いたす!」
手に持っている剣に光を集め、最前線にいる魔物に向かって空中から斬りかかった。

20 名前:コクハ ◆b9hCaqglWQ [sage] 投稿日:2009/11/07(土) 01:45:46 0
だが、ふと思った。
私は魔物だ。
魔物が魔物を切るというのも裏切っているみたいで気分が悪い。
それに聖騎士たちの人数は3人。
暴徒達は使い物にならないと決まっているから、事実上一人で相手にしてることになる。
暴徒が返信した魔物もしょせんは雑魚だ。
おそらく一発で沈む。
だとすると不利なのはあの男のほうだ。

とはいえ、行動は変えられない。

「狙う対象を間違えた。魔物の君よ。死にたくなければよけろ!」
あらん限りの声を出し、対象がよけることを祈るほかなかった。


21 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/11/07(土) 01:57:44 0
トリップが違う。騙りですな

22 名前:コクハ ◆b9hCaqglWQ [sage] 投稿日:2009/11/07(土) 01:58:50 0
追記:トリップをばらしてしまったので変えます。


23 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/11/07(土) 02:04:12 O
都合よく規制が解除されたんだな

24 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/11/07(土) 02:11:35 0
お前とりあえず避難所来い。なな板のほうでいいから

25 名前:ハスタ ◆fmAKADpWIqWy [sage] 投稿日:2009/11/07(土) 16:55:16 0
>8>9>17>18
>『待て、殺すなよ!そいつらは『まだ』人間なんだ、混乱さえ解けばやり直せる!!』
>「そ、そこを昏倒くらいでなんとかっ!」
群がる群衆の足元を薙ぎ、浮いた胴体を防御の符と蹴り足で押し退ける。
躊躇なく殺意を持って襲い掛かってくる相手には相応に刃を見舞う。
そうして暴徒達を押し返す最中に、咎めるような二人分の声。

つくづく甘すぎる、そう言い返そうとした所に更に復活した男の方が告げる。
>「俺はレクスト=リフレクティア。庶民を護る従士様だ。十字架、こいつらは俺に任せろ。あの眼鏡野朗に専念してくれ」
>「少しばかり、私の力を分け与えました。まぁ、”月の幹部”としての力の範疇は超えてしまいましたがね。」

そして、ソレに答えるより先に眼前の暴徒の一人が凄まじい変貌を遂げる。
眼前に立ち塞がった<従士様>の脇をすり抜けるようにして走り、蝿の魔物が体勢を整えるより早く
暴徒も聖騎士もいない方向へ切り込んで追い立てる。
「さすがにそこの親玉と殺りあう余裕もそんなになさそうだ・・・し、そっちの暴徒も任せるが
 油断するなよ?己の生命の前で他人なんて塵ほども障害にされない。」

背後でルキフェルと呼ばれた男や聖騎士が戦う物音が聞こえるが、こっちも油断はできない。
元が所詮一般人であるとしても、魔物と化した事によるパワーは人間を容易く凌駕する。
防御の符は三枚共がその力の前に打ち砕かれ、宙を飛ぶ翅が鬱陶しい。

三本の槍のうち二つを十字に組み投擲、手裏剣と化した槍がホバリングする蝿に向けて飛翔・・・・・・が、あっさりと回避。
不気味な牙をガシャガシャと鳴らしてこちらを嘲笑うように一直線に飛来。
残る槍を水平に保持して牙を辛うじて防ぐ・・・・・・が、じわじわと石畳にめり込んだ足が押されてゆく。
「やっぱり単純な力じゃ、敵わないよな・・・・・・でもな。」

ふ、と若干力を抜いて右手側に槍を引いて逸らす。当然前進せんとしていた蝿の体は無様に自分の力で転がる羽目に。
そこに持った槍の先端を振りぬくと、それに追従するように4本の白い刃が蝿の体に突き刺さる。
追撃に残った槍を、走りこんで蝿の頭部目掛けて突き刺す。
合わせて5箇所の傷から緑色の体液が吹き出し、街路に悪臭を撒き散らす。
「単純に自分の獲物を投げ放す訳が無い事ぐらい、その少ない頭じゃ分からなかったか。」

魔力によってリンクされた槍の刃が空中で手裏剣の状態から分解し、手元の槍の動きに引かれて突き刺さったという訳だ。
蝿の死骸から槍を引き抜き、結合して三本の槍に戻すと背を向けて歩く。
向かう先では黒い翼の魔物?が急降下していく光景。走り出そうとした瞬間後ろから圧力。
「まだ生きて・・・?!」

咄嗟に二本の槍を斜に地に突き立てて、死に掛けの蝿の突撃を地面で受け止めさせ
足元に潜り込むようにして下から槍で突き刺す・・・そして、全力で前方へ力を込める!
「ふっ・・・き飛べぇぇぇぇぇ!!!」
突撃のベクトルを逸らされた瀕死の魔物は、発条のような勢いで黒翼の魔物へとすっとんで行く。


【蝿の魔物を瀕死にすると、最後の体当たりを受け流してコクハ&ルキフェル目掛けてぶっ飛ばす】

26 名前:アラバス ◆hBr/9.Ve8Q [sage] 投稿日:2009/11/07(土) 20:58:19 0
名前:アラバス・バラバス
年齢:?歳(外見年齢80代後半)
性別:男
種族:人間
体型:ヨボヨボのガリガリ→筋骨隆々
服装:杖を突いて歩き、上半身裸、下半身にズボンのみ
能力:外見に似合わず、動きが俊敏で身体能力に優れ、暗器の扱いも得意
    物理攻撃や魔法すら耐える鋼の肉体を持つ巨漢へと変身する
所持品:杖
簡易説明:一見すると、杖を突いて歩くヨボヨボガリガリの乞食爺さんにしか見えない
       だが、その正体は裏世界では名の知れた殺し屋で、本名や経歴は一切不明
       アラバス・バラバスも適当に名乗っているだけの偽名に過ぎない

27 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/11/08(日) 02:43:51 0
困惑する暴徒達へ説得を開始する。
レクストは両腕を広げた。右手には鞘に納めたままのバイアネットを、左手には何も持たずに指の先まで力を込める。
身振り手振りを大げさに挙動するのは相手に自分の言葉を強く印象付ける、交渉術の基礎にして奥義だ。

「まず聞かせてくれ。アンタ達はなんで俺達を襲う?――それはあの眼鏡の『月』と関係あるのか?」
「……君を殺せば、家族の安全を保証するといわれた。いつ魔物に襲われるかも解らないこの街で家族を護るには、それしかなかったんだ」

レクストの問いに、彼に魔剣を突き立てた市民が重々しく口を開いた。
助かったとはいえ、レクストを殺そうとした男である。罪の意識はあるのか、目を合わせようとしない。

男は訥々と語り始めた。あの眼鏡の男がヴァフティアで発生した魔物を一瞬で屠り去ったこと。
レクスト達が魔の眷属だと教えられ、彼等を殺せば家族に危険が及ばないようにしてくれると、武器を与えられたこと。

「本当にすまないと思ってる!でも……俺達はそれ以外に家族を魔から護る方法を知らない!だから――」

暴徒は頬に涙の川をつくりながら陳謝する。そうして、再び武器をレクストに向けて構えた。
聖人の血によって破壊された魔剣はもうないが、新たに取り出した普通の剣の切っ先はレクストの喉元を捉えている。

「赦してくれ――!」
悲痛な叫びは突進を伴なってレクストへと肉迫した。対するレクストは、躱す素振りさえみせず、あろうことか一歩踏み出した。
肉を貫き骨を穿つ鈍い音。地面には赤の雫が雨のように落ちていく。暴徒の突き出した長剣は、その先端をレクストの肩口へと埋めていた。

「な、何を……!?」

がしり、と自らに突き刺さった刃の根元を握り、さらに一歩。刀身はさらにレクストの体内を進み、ついには彼の肩を貫通して背面へ飛び出した。
血に濡れた剣の先は、もう動かない。傷口から溢れた血液が雫となって刃を伝い暴徒の手元から地面へ血溜まりを作る。

「……アンタ達は、よ。その言葉を信じて、今こうして俺を殺してるんだよな。
 ここで俺や俺の仲間に反撃を受けて死んじまったとしても、家族だけは護るつもりで殺しにきたんだよな。オーケー、それなら話は簡単だ」

レクストは近くなった彼我の距離を埋めるように、両手を前に出し、暴徒の両肩をがっちりと掴んで、そして言った。

「――今から俺を信じろ。アンタの家族は、俺が絶対護るから……あの眼鏡野朗じゃない、俺を信じてくれ!」

面食らったのは暴徒のほうだった。一体この青年は何を言っているのか。自分を傷つけた、それも殺しかけた相手に信じろなどと。
「そ、そんなこと……できるわけがないだろう!やっと掴んだ希望なんだぞ!!そう簡単に諦められるわけが――」
「うるせぇ!!」

遮るようにレクストは怒号を挙げた。呼応するようにこぽ、と血塊が口から吐き出されて吐瀉音を立てるが、彼は目を逸らさない。
血の垂れた口端をぐっと吊り上げ、無理やりに強く笑顔を作って、搾り出すように言う。

「……ま、も、ら、せ、ろ――!!」
「な、な――?」
「アンタ等あいつを信じれたんだろ!?家族を護るためならなんだってやる覚悟で、あの眼鏡野朗を信じれたんだろ!
 なら何故俺を信じない!!奴と俺の違いはなんだ?家族の為なら特攻して死んでもいいってのか?ふざけんじゃねぇ。ふざけんじゃねぇぞ……!」

握り締めた剣がミシミシと不吉な音を立て始める。やがてそれは亀裂という現象として刀身に現れ、

「俺が両方護ってやる!アンタ達も、その家族も!だから、俺がアンタを護るのを、――邪魔するな!!」

鋼鉄で鍛造されているはずの長剣が、名伏しがたき音を立てて砕け散った。
ふらりと倒れそうになるのを気力で踏み止め、レクストは身体に埋まった剣の欠片を引き抜き、それもまた、手の中で握り潰す。
拉げた金属片と成り果てたそれが地面に乾いた音を立てる頃には、彼の肩口にぼっかりと空いた刺創は既に治癒した肉で塞がっていた。

「あ……ああ…………!!」

暴徒は柄だけとなった長剣を取り落とし、さながら前後不覚の様相を呈しながら、その場にへたり込んだ。
涙を止め処なく溢れさせながら、仁王立ちのレクストを見上げ、震える声で、呟いた。

「た、助けてくれ……!お、俺は――死にたくねぇ。家族と一緒に、元の家に、帰りたい……!」

28 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/11/08(日) 03:24:47 0
暴徒が、初めて自分の命を渇望した。それは同時に戦意の喪失であり、レクストへの懇願でもあった。
一番槍を切った男が陥落したことで最早暴徒達は暴徒でなくなり、烏合の衆は次々と剣や槍を手放していく。

「護ってくれ……こんなやり方じゃなく、誰も傷付かない方法があるなら、俺に君を信じさせてくれ……!」
「――任せろよ、この糞ったれた地獄絵図を、俺色に染め替えてやるぜ!」

そうしてレクストはへたり込んだままの男に手を差し伸べた。
男は躊躇しながらもその手を強く掴み、立ち上がるようにひっぱり挙げられる。

「頼ん――だ?」
男が何かを言いかけて、しかし言い切ることが出来なかった。自分の胸から黒い何かが生えていることに気付いたからだ。

「あ……?」
レクストは思考が停止していた。突然男の背後に『眼鏡野朗』が現れ、その手刀で男の胸を突き破ったのを見たからだ。

「貴方にはガッカリしました。しかし、最後のチャンスをあげましょう。」
冒涜的なまでに昏い声色が何かを呟き、"魔力ではない何か"を空いた胸の穴に注入していく。
男は絶望的なまでに赫い声色の悲鳴を挙げ、その姿を人外のものへと変貌させていく。

出来上がったのは、巨大な蠅だった。

「少しばかり、私の力を分け与えました。まぁ、”月の幹部”としての力の範疇は超えてしまいましたがね。」
レクストが何か思うより先に、灰色の風が脇を駆け抜ける。白の刃を握ったそれは蠅の魔物へと踏み込み、切り結び始めた。

「さすがにそこの親玉と殺りあう余裕もそんなになさそうだ・・・し、そっちの暴徒も任せるが
 油断するなよ?己の生命の前で他人なんて塵ほども障害にされない。」

護られたのだ。わかっている。そんなことは、等々承知だ。
だが。

「――てめえええええええええええええええええ!!!」

バイアネットではなかった。ただ純粋に握った拳が、目の前の外道を打ち倒せと吼える。
踏み込み脚も、引き絞る腕も、屈伸を力に変える関節各部も、赫怒と怨嗟を燃料に、付和雷同に頷いた。

だが、当たらない。感情のままに振りぬいた拳は、しかし敵を捉えない。
視界から消えるように動いた眼鏡の男はレクストの真横に回りこみ、その手刀を打ち下ろした。

「――がぁあああッ!!」
無手のはずの一撃は、魔導装甲を難なく切り裂き、レクストの背を穿った。抉り取られた肉体が、しかし間隙をおかず再生する。

「なるほど…傷が回復していく。これは面白い。しかし、どれだけ耐えられるか。」
一撃ごとに空間ごと削り取るような威力は、確実にレクストの余剰回復術式を奪い去っていく。

「あぁ、貴方もどうです?お仲間に入られますか?」
その言葉がレクストの琴線に触れた。護れるはずだった命、目の前で魔物に変えられた元暴徒。
記憶の中でそれが母親の姿と重なり、レクストのトサカが沸騰を始める。

「約束、したんだ……!必ず護るって……!!それなのにっ!てめえは!!」

怒りのあまり獲物を鞘から抜き放つことも忘れたレクストが力任せの攻勢に出ようと踏み込みかけたとき、
その前に飛び出してくる陰があった。レクストと眼鏡の男の間に立つように加勢するのはフィオナ。

「レクストさん此処で戦っても戦況は覆せません。
 魔を前に退くのは業腹ですけど一旦退いて体勢を立て直さないと、最悪全員魔物にされます。
 私達三人であの男"ルキフェル"を引き付けて、その間に何処か拠点になりそうな所に他の人たちを逃がしましょう。
 神殿へ行ければ良いのですけど此処からだと遠すぎます。何処か良い場所ありませんか?」

レクストの知らない間に人質の救出・確保を一人でやってのけた神殿騎士が、彼を背にしながら提言する。

29 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/11/08(日) 04:48:19 0
(――!!……そうだ、熱くなってどうする。突っ込んでってどうにかなる敵じゃねぇ!)

戦闘のプロたる従士が情けない、と教導院の教官ならば叱咤しただろう。
あろうことか、仲間に身を挺して止められるまで彼我の実力差に気付かないとは。

(状況が悪すぎる……相応の準備をもって迎え撃つぐらいのつもりでいかねぇと)

「ああ、それなら……」

フィオナへ返答しかけて、思案する。どこへ匿おうか。
ここは東区の小広場。確かに神殿には遠すぎるし、近くに目立った建物もない。
ならば、魔物に対抗できる戦力のある場所へ避難させるのが最善だろう。この場所の近くでそれを満たしているのは――

「――北区の『揺り篭通り』!居住区のここなら祭に乗じた犯罪対策のために守備隊が増員されてたはずだ!」

レクストは背後を振り向き、まんじりともせず観戦していた元黒衣の姿を認めると、眼鏡の男に聴こえないくらいの声量で指示を出す。
「お前戦えるだろ?守備隊の連中とお前とで、揺り篭通りまでの血路を拓いてくれ!ここの連中を逃がす!」

「私に先陣を切らせるつもりか?」

「報酬は後で言い値をくれてやる。だから、頼むぜ……!」

返事を聞くより先に、巨大な羽音が空から響いた。どうやら上空から新たな魔物が降りてきている。
新手から目を離さないようにレクストは踵を返すとフィオナの隣に歩み出る。

「悪いな、俺としたことが柄にもなくトサカに来ちまってたみたいだ。もう大丈夫。大丈夫だとも――稼ぐぜ時間!」

踏み込みは一瞬。震脚は裂帛。踏み出すと同時にレクストはブーツに刻み込んである術式陣を発動させる。
術式は『噴射』。靴底の魔法陣は注がれた魔力を推進力に変換し、ブーストさせることで跳躍を超えた機動を可能にする。
彼がヴァフティアに来る際遭遇した賊の集団との戦いで使った移動術も、この『噴射』を利用したものだ。

踏み込んだ瞬間、彼の姿がその場の全員の視界から消え失せる。

誰もが彼を見失った刹那、風と石畳を割る音と共に眼鏡の男の傍にレクストが姿を現した。

石の地面に突き立てたバイアネットはブレーキ代わり。つんのめる勢いを利用して体勢を変え敵を捉える。
『噴射』によって得た推進力は容易にレクストを眼鏡の男の背後まで運び、さらに攻撃する隙まで用意してくれる。

「てめえが俺より速く動けるなら!小細工しまくってそれを上回ってやるぜ!!」

右足を鞭のようにしならせ、眼鏡の男の脇腹目がけて渾身の回し蹴りを叩き込む。
そして、それだけでは終わらない。男の腹のめり込んだ蹴り足を包むブーツの噴射術式にさらに火を入れる。

「俺流奥義、"ジェット蹴り"――ブっ飛べクソ野朗……!」

大人一人を軽々跳ばす噴射力が、蹴りの威力に追加され、眼鏡の男をそのまま吹っ飛ばすように圧して行く。
上空からの魔物は何故か眼鏡の男を斬りつけようとしているが、敵であることに違いない以上は考慮しない。

十字架使いが受け流した蠅型魔物の突進と交差するように、レクストは渾身の力で蹴り抜いた。


【行動:市民を『揺り篭通り』へ避難させるための時間稼ぎ。避難が完了次第自分達も撤退します】
【状況:靴に仕込んだ噴射術式でルキフェルの背後まで跳び、噴射の推進力を利用した蹴りで蠅とかち合うように蹴り飛ばす】

30 名前:ルキフェル ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2009/11/08(日) 11:39:33 O
>>18
玩具を片手にレクストを強襲するルキフェル。
その前に再びフィオナが現れ、聖剣を突き出した。
「主よっ!不浄を裁く光を我が剣に!」
フィオナの叫び声を嘲笑うように首を回すルキフェル。
「では、その剣でこの子を殺しますか?」
玩具である子供を前に差し出す。
しかし、フィオナはその子を切り裂く事はなかった。
>「それを――」
寸前で身を縮め続く一歩で体を捻り剣を振り上げる。
>「―――待ってましたっ!」

ルキフェルの行動を読み、フィオナは見事にイルを救出した。
女性とは思えない剛の力でルキフェルの腹へ剣の柄を叩き付ける。
腹を押さえ悶絶するルキフェル。地面を転げ周り呻く様に声を漏らす。
――「ゥ・・・…ウフ…フフフ…フハハハハハハハ!!!!フゥ…」

その声はやがて笑い声に変わり、一瞬で地面から空中へ一回転し立ち上がる
ルキフェルがそこにいた。
「情が深くて、強い女か。嫌いじゃあ…ありませんねぇ。」
口元を歪ませながら自警団に守られたイルを見つめるルキフェル。
彼の興味はこの子供の生死などではなかった。
ただ、これからこの子がどう生きるか楽しみでならないのだ。
(親を目の前で殺され、孤児院に預けられ…そして今度は
孤児院の保母や仲間を殺され…てと。
見えるぞ…あの子の目に深い闇が。まだ芽でしかないが。
楽しみだ…とても。)

「貴方のような女は八つ裂きにしてあげたくなります。その甘美なる肉体を
切り刻んで差し上げましょう。」
口に滲む血の味を楽しみながらルキフェルは喉を鳴らした。


31 名前:アラバス ◆hBr/9.Ve8Q [sage] 投稿日:2009/11/08(日) 11:55:32 0
アラバス「ひぃっ…!
      お、お助けえぇっ!」
市民「爺さん、こっちだ!」

揺り篭通りの方面へと逃げて行く市民たちに、どこからともなく現れた杖の老人が合流した
怯えた表情と必死の形相で、フラフラとしながら走ってきたのだ
もっとも、走ると言ってもその速度は常人の歩く速度よりも遅く感じられる
一人の若い男が、その老人に肩を貸して一緒に走り出した

アラバス「す、すまんのぅ…」
市民「困った時はお互い様だ
    さあ、死にたくないなら早く!」
アラバス「………」

老人は一瞬、冷めたような表情と目でチラリとフィオナたちの方を見た
そして、ニヤリと笑うとそのまま男に連れられて揺り篭通りの方面へと消えて行った

32 名前:ルキフェル ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2009/11/08(日) 12:14:02 O
>>27
「どうです?貴方もお仲間に…」
ルキフェルの言葉に激昂したレクストが叫ぶ。
>「約束、したんだ……!必ず護るって……!!それなのにっ!てめえは!!」

その言葉にルキフェルは思わず笑みを浮かべてしまう。
愉快で堪らない、とでも言いたげにだ。
「守る…か。くだらない。あんな連中を守って何になりますか?
いいか、”文明的な人間”なんざ自分達が平穏でいる時だけの言い訳。
自分達の足元が脅かされればそんなものはすぐに”ポイ”と捨ててしまう。
奴らのいう”良識”や”善意”なんてものは所詮は脆いルールに過ぎない。
…だから、”お前”も。」

声色を変えてレクストの耳元で囁いた後、近付いてきたフィオナを見つめる。
「あぁ、失礼…少し言葉使いが汚かったですね。」

>「――北区の『揺り篭通り』!居住区のここなら祭に乗じた犯罪対策のために守備隊が増員されてたはずだ!」
なるほど、とルキフェルは2人が話していた内容を承知する。
彼らは一旦体勢を立て直すつもりのようだ。
>「悪いな、俺としたことが柄にもなくトサカに来ちまってたみたいだ。もう大丈夫。大丈夫だとも――稼ぐぜ時間!」



33 名前:ルキフェル ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2009/11/08(日) 12:15:34 O
「…!?こんな時に…」
ルキフェルの動きが止まる。
手は奮え、顔に血管が浮き出ている。目が赤く、いや黄金色に混じった不可解な色を
浮かべ息も荒くなっているようだ。
懐から薬を取り出し震える手でそれをガラス管の器具で腕元へ差し込もうとするが―

>「てめえが俺より速く動けるなら!小細工しまくってそれを上回ってやるぜ!!」
凄まじい速さでルキフェルの脇腹にレクストの蹴りがめり込む。
「…なっ…」
薬を地面へ叩き落され、空中へ吹き飛ぶルキフェル。
腹を押さえながら地面へ叩きつけられる。
背後から蝿の魔物がルキフェルに覆いかぶさるように降っている。
>>25ハスタが撃破した瀕死の魔物だ。
皮肉にもルキフェルが放った刺客が彼自身を襲う結果になってしまった。
魔物に押しつぶされたルキフェル。辺りを沈黙が包む。

「グギャァァァ!!」
沈黙から一転、叫び声を上げ、血飛沫を上げる魔物。
瀕死だったそれは絶命の声を上げると黒いミミズのような
塊となって地面へ染み込んでいく。
怪物の屍の中から現れたのはルキフェル。
目を真っ赤に染め、レクストを睨む。

「―いいでしょう。5分だけ相手をします。
その間に逃げれるのならば逃げなさい。
しかしまぁ…そこそこの性能です。
”陛下”にも素晴らしい報告が出来そうだ。」

ルキフェルが指を鳴らすと同時に周囲の石や
落ちた剣がふわりと浮かぶ。
浮かんだと同時に強烈な推進力を持ってそれが
レクスト目掛け飛んでいく。
眼前で幾つもの石がまるでダイナマイトのように爆発しながら破片をレクストへと飛ばしながら迫る。


34 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/11/08(日) 17:40:25 O
揺りかご通りでは魔となったリフィルがパパを犯しながら貪っていた!

35 名前:シモン ◆71GpdeA2Rk [sage] 投稿日:2009/11/08(日) 20:02:31 0
「……どうして、皆…“人間”を選ぶの?」
ミアがどこからともなく問いかける。
シモンは僅かに引き出した意識から、ミアのその言葉を受け止めた。
(俺は…確かにかつては人間である事すら捨てた男だ。だが…ここの連中に出会って気づいた。
人間の姿をしている以上、運命のようなもんだろう。俺は自然に人の温もりを求めていた。
だから…ミア。俺はこうしてお前らのためにオマケの命を使ってるんじゃないか…!)
そんな叫びも結局クリスタルの意識に飲まれ、最後まで口から言葉を紡ぐことはなかった。
ただ、ミアは、座っているクリスタルナイトの背中が、僅かに温かいような気がしたことだろう。

「我が力のお零れを得て慢心したか!!」
シモンの攻撃を鍵の少女が拳で弾く。それは赤い飛沫となってシモンはおろか周囲を巻き込んだ。
ブワッ
それの殆どを受け止めたのは…シモン――クリスタルナイトの背中から生えた水晶の翼だった。
「お前の力など!我が力のほんの一部でしかない! 盾になる?黙って跪いておれ!!」
クリスタルナイトの前足に少女の光輝く拳が直撃した。
「グオォォ…!!」
圧倒的な魔力の塊は、あっさりと彼の前足を粉砕してしまった。
続いてもう一撃。両の前足は破片となって周囲に飛び散り、ちょうど
跪くような格好になった。

「グゥゥ…」
飛び散った破片がシモンの肉体に刺さり、あちこちに傷を作っている。
「なんだこれは?お前はなぜ私を否定する!
私たちは合一し、世界が求めた地獄を生み出すために生まれたというのに!!
その証拠にお前には何も無いはずだ! この世界に対する執着も!希望も!」
再びの激しい攻撃。シモンはギルバートの善戦により辛うじて止めを免れていた。
(俺は…無力なのか? ほんの一部の力…? そうか…
それならば…)
『ほんの一部の力、見せてやろう』
シモンの声なのか、クリスタルの声なのかは定かではないが、そういう声が響いた。
傷ついたクリスタルナイトの翼が淡い光を放ち、その後ろの方向にゆっくりとミアを降ろす。

途端、閃光が起こったと思うと、クリスタルナイトは翼と後ろ足を使って跳躍し、
蹄の先から二本のランスを突き出して少女に一撃を浴びせると、そのまま
垂直上昇し、赤い月を見上げるヴァフティアの空へと向かっていった。

36 名前:シモン ◆71GpdeA2Rk [sage] 投稿日:2009/11/08(日) 20:38:02 0
ヴァフティアの上空を、瀕死のクリスタルナイトが駆けていった。
一羽ばたきする毎に、膨大な魔力が消費されていく。シモンに連動するクリスタルたちから、
まだ僅かに力が分け与えられていた。
薄れゆく意識の中、シモンは街中の阿鼻叫喚を目にした。
そこでは魔物と化した人々と”まだ無事な”人々が、絶望的な争いを繰り広げ、
それを必死に食い止めようとするレクスト、フィオナらの姿があった。

レクストは重傷を負っている。そこに新たに巨大な怪物が出現した。…ピラルであった。
シモンは右の後ろ足を突き出すと、レクストの後ろから猛スピードで迫るそれにめがけて
一撃を放った。何とそれは切り離された後ろ足だった。強力な力を纏い、槍のように尖ったそれは、
瞬く間にピラルの”コア”を貫通させ、大爆発を起こさせた。
かつての宿敵のあっけない最期を一瞥すると、シモンは一気に城門の外へと羽ばたいた。

(これまで…か。”至高の財宝”クリスタルを抱いて死ねるたぁ、
何とも皮肉な人生だったな… さて、と…
確かに俺たちはてめえから見れば”ほんの一部”なのかもしれねえ。
だがよ…俺らだって必死に生きてんだ…それだけは心に刻んどけよ…)
シモンの最後の脚に膨大な魔力が集まる。意識が壊れることを覚悟で、
彼はめいっぱいクリスタルから魔力を吸い込んだ。魔力の塊となった脚が切り離され、
ゆっくりと郊外の平原へと落下していく。
(じゃあな…)

そして、シモンは翼を数回小刻みに羽ばたかせてホバリングし、脚に狙いを付けると、
急降下して魔力の塊めがけてダイブした。
大爆発――

それと同時だった。
クリスタルの一つが壊れ、魔力が大量に消費されたことにより、
ヴァフティアを覆う禍々しい魔力が急激に減少した。
魔物化した市民たちも、軽度な者は人の姿に戻り、重度の者も比較的経度に落ち着いていった…

月は一時的にとはいえ、みるみるうちに元の姿を取り戻し、
街に優しい乳白色の光を照らしはじめたのである。
人々の絶望が、希望へと変わった瞬間であった。

37 名前:ギルバート ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2009/11/08(日) 21:18:13 0
「負け犬が虚勢を張っても滑稽だな。
昔のお前なら口に出す前に攻撃を仕掛けていたはずだが?」
「その負け犬なら首に綱付けて囲っちまったよ。
 生憎と俺は紳士なんでね。馬上名乗りを上げて正面からぶちのめす方が楽しいんだよ」

言いつつその馬鹿馬鹿しさに自分でくつくつ笑い出す。
その背に聞き覚えのある声が落ちてきた。

「…待ってくれ。その前にこいつを乗せるのが先だ」
「おい、シモン。悪いが――――!?」

ちらりと向けた視線が固まり、ついで信じられないといった様子で向き直る。
おいおいおい誰・・・ってか何だよこいつは?いや、でもこの声―――

「…ギルバート。俺はどうやら死んじまったらしい…
 情けねえ。ようやく自分がどういう人間か分かったと思ったらコレだ。」
「おい、ちょっと待て―――」
「…だが、俺は最後にお前らと関われただけでも幸せだったと思う。仲間ってのは良いもんだな…」
「待てよ、お前何訳わかんねぇ事―――」
「さあ行け!俺はしばらくミアの盾になってやる。お前は死ぬなよ」
「おい!ふざけんな!」

怒声を上げ、シモンの胸倉を掴もうとする。が、掴む胸倉が無かった。
手に伝わるのは人間を感じさせない、水晶の冷たさだけ。

「ふざけんじゃねぇ!何が死んだだよ、だってお前・・・生きてるだろーが!喋ってるだろ?生きてるんだろ!?
 一人だけカッコつけて消えるなんざ許さねーぞ!クソッ、ふざけんなよ、おい」

認められない。認められる訳が無い。
そもそも死んだって何だよ。死んでも生きてた奴だっていたじゃねーか。
歯を食いしばり、拳で冷たく硬い水晶を殴りつけた。

「・・・てめーには干し肉一枚分借りがある。
 貸したままで消えるなんざ絶対に許さねぇぞ!分かったな!くそっ」

言いたい事はまだ風呂桶10杯分はあったが、状況はそれを許さない。
悔しそうにシモンを睨むと、首のロケットの鎖を引きちぎり、シモンの背に乗ったミアに投げ渡す。

「そいつは預けたぜ。あと、シモンのふざけたケツを蹴飛ばしてやってくれ。
 ・・・なぁ、ミア―――あいつは頼まれた事でもないのに、身の丈以上の事をやろうとした。
 始末は俺たちで付けようぜ。果てしなく長い物語にも、結末は必要だ。だろ?」

言い切って歯を見せて笑うと、背を向けて少女に向き直る。

38 名前:ギルバート ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2009/11/08(日) 21:19:19 0
「なんだこれは?お前はなぜ私を否定する!
私たちは合一し、世界が求めた地獄を生み出すために生まれたというのに!!」

少女が初めて怒りをあらわにしていた。
その怒りに任せ、人ならざる力を振るってシモンに襲い掛かる。
素早くその腕を蹴飛ばして外し、次いで腕を地面すれすれに伸ばす。

「待てっつーんだよお嬢さんよ。てめぇの相手はこの俺だ。
 言っただろ?俺は紳士だから―――」

下げた腕を振り上げる。そこここで地面が割れ、赤く光る魔力線が大量に出現した。

「―――てめぇみたいな見た目女の子でも手加減しねぇ」

それまでに予め伸ばしていたのだろう、きらきらと赤く光る糸が次々に巻きつき鎖と化し、
一瞬で少女に何重にも絡み付くと、その動きを拘束した。
少女の動きに一瞬間に合わなかったが振るった拳は外れ、シモンの片足を砕いた。

「ちっ」

一つ舌打ちし、一回転して裏拳を叩き込む。あっさりと止められた。
こいつ、なんつー馬鹿力だ・・・!さらに次の一撃がシモンの足をもう一本砕く。

「てめぇの相手は俺だって言ってるだろーがこのクソ化けモンが―――!!!」

咆哮したギルバートの身体がねじれ―――銀色の狼へと変異する。
しかしその瞳は怒りに燃えていても狂気は無く、もう一つ咆哮すると、少女に向かって破城槌のごとく突進した。

――負けられねぇ、負ける気がしねぇ―――!

「おおらああぁぁぁぁああああッ!!!!」

少女の振るった腕が狼を突き飛ばすと、ギルバートが空中でくるくると回転しつつ人へと戻り、
そのまま魔力の鎖を振り回すと少女を地に叩きつける。
まるで大鎚を叩き付けたかのように瓦礫が飛び、砂塵が舞った。
お互いに致命的な一撃を与える隙を伺いつつ、闘いの場は大通りへと動いてゆく。


その時、世界が白く染まった。


一瞬空も街も全てが白い光に包まれ、誰もが視線を街の中心へと向ける。
その閃光が収まった時、空からは赤い目玉が消え失せ、月がその姿を取り戻していた。

「おい、一体どういう―――まさか―――シモンか?」

唖然として呟き、はっと気付く。シモン、それに一緒にいたミアはどうした?

39 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/11/10(火) 20:29:55 0
保守

40 名前:ミア ◆JJ6qDFyzCY [sage] 投稿日:2009/11/10(火) 21:28:48 P
>「おい、一体どういう―――まさか―――シモンか?」

再訪した薄闇の中、耳に届くのは林立する建造物に反響する咆喉と絶叫のみ。
二人がいた場所は無音だ。光をなくした貴石が散乱しているだけで、誰もいない。
――不意に発生する、小刻みで軽い振動音。
音源は【鍵】の少女の周囲に散乱する石畳の破片だった。跳ねるように震えている。

「“石謡”」

刹那、石片が浮上。無数の打撃音、風を切る音。互いを弾き合って不規則な軌道を得たそれらが少女を裂く。
呪文はギルバートのすぐ後ろからだった。気流の操作で気配を誤魔化しただけだ。

「ええ、彼よ」
悲鳴なような音に紛れて微かな返答をこぼす。

「……馬鹿な人」
その呟きは吐き捨てるように。

「…本当に馬鹿。欲深くて、色好みで、先走って、無謀で――見ず知らずの小汚い女、利用するつもりだった癖に結局」
その先を口にしようとして、一瞬の抵抗。それでも吐かずにはいられなかった。

「結局それで…死ん……で…
なのに――少しだって後悔してない、馬鹿な人………嫌いよ。大嫌い……あんな……人…」

言葉に反して流れた滴を、人差し指ですくう。何年ぶりだろう。
その手を眺めていると、有り難く、苦く、奇妙な程あっさりと実感できた。
(どうしたって…私、人間ね)

―――"真に哀れなるは、かのモノがどうしようもなく人であった事―――"

「――【鍵】。私は希望も執着も無い。でもそれは私が門だからではないの。
私に希望が無いのは、私の未来を祈ってくれた人のいた証なの」
魔力を切らした石塊が次々と落下する中、止まらない涙を持て余すような静けさを纏って【鍵】を見据える。

「取り替えたキャンバスには、望むように色を塗れ、って。
……私、どんな絵の具を集めればいいのかわからないわ。知らないもの。――でも見てみたい」
彼女はまだ気づかない。それを人は希望と呼ぶと。
指を鳴らす。瞬間、石塊が髪の毛一本ほどの動きも止める。

「だから、戦う」

もう一度指を鳴らす。石が爆ぜる。付与した式は一斉に消滅した。
だが彼女は編み上げる直前で待機させた術式をまだ幾種類も保っている。
今だからこそできる、コストパフォーマンスを無視した力技だった。

そして次いだ言葉はギルバートに宛てたもの。

「――5分」
相も変わらず理解しにくい言葉で精一杯言葉を紡ぐ。
「シモンの背中にいる間、出来る限りの術を編んだ。
今から5分。貴方を全力で援護できる」

(死なせない)

「……大怪我したら、返してあげないから」
預かった胸元のロケットを指した、笑っていないようで笑っているような、冗談に見えないな――そんな表情の冗談を付け加え、

「今なら鍵の力も弱まっているはず。
――終わらせましょう。また新たに始めるために」

41 名前:コクハ ◇b9hCaqglWQの代理投稿[sage] 投稿日:2009/11/10(火) 21:33:05 P
ルキフェルに刃が触れようとした瞬間、ルキフェルが突然吹き飛ばされ、剣が空を切った。
目の前にはレクストが立っている。
どうやらレクストがルキフェルを突き飛ばしたらしい。
>ルキフェルが指を鳴らすと同時に周囲の石や
>落ちた剣がふわりと浮かぶ。
>浮かんだと同時に強烈な推進力を持ってそれが
>レクスト目掛け飛んでいく。
>眼前で幾つもの石がまるでダイナマイトのように爆発しながら破片をレクストへと飛ばしながら迫る。
背後から爆音が聞こえてきた。
おまけに魔力のようなものも感じる。
何を使うのかは分からないが、このままレクストの目の前に立っていれば巻き添えになるのは確実だ。
人間離れした跳躍力で地面をけり、大空に舞い上がった。
【レクストとルキフェルの間に着地。ルキフェルが攻撃を開始した直後に跳躍開始】

42 名前:ルキフェル ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2009/11/10(火) 22:11:47 O
レクストと対峙する中、一陣の風のような存在がルキフェルの眼前に迫る。
>「助太刀いたす!」

声の方向を見ると、魔物か人か。
どちらとでも見受けられるような1人の戦士がいる。
こちらの攻撃に巻き込まれないように地面を蹴り付け空へ飛び去っていく。
「蝿…ですか。目障りになる前に潰しておくのもいいですね…」
ルキフェルの目が赤色に染まり空の一部が黒くなる。
空へ舞い上がろうとする戦士に、上空を切り裂くように黒い空間が出現し何本もの鋭い”何か”が降り注ぐ。
それは人間の屍。無数の屍が垂直に串刺しにされたまま、刃先を向けている。
それは高速の矢のように羽ばたこうとする戦士目掛け突撃する。
その顔、その容姿に暴徒だった民たちは驚愕する。
自分達が殺すはずだった兵士や、騎士。この街を守っていた者達であったからだ。

ルキフェルは首を回しながら小さく鼻で笑った。
暴徒だった彼らの逃げ惑う姿を拝見しながら。
「やはり他人は信用できません。自分である程度はやっておいて
正解だ。」

>>36
魔都と化していたヴァフティアの空に白い光が何かを齎した。
それが希望という名の夜明けに近付くものであることは
ルキフェルにも理解できた。
「チッ…この光。もう少しこの余韻を楽しみたかったものですが――」
言いかけたそれを止めて、ルキフェルはスキップするようにレクストと
コクハの動きを翻弄する。
「確かに、これで魔物への変異は収まっていくでしょう。
しかし…そんなものは一時的なものでしかない。
闇は、人が生まれ持って得た芽です。
魔術や言葉ですら、人の心の闇は消せやしない…そうでしょう?」

逃げ惑う民達の中で、イルだけがルキフェルを睨んだまま動かない。
憎しみに染まった赤い色の目が、ルキフェルだけをただ見つめている。

「絶望が希望に変わっても、人は変わりません。
この先も、ずっと。それを証明してくれたのは何者でもない。
貴方達自身だった。どんな者にも闇はあると。」
民達を指差しニヤりと笑う。
それぞれが後ろめたい心に駆られその場を去っていく。
誰もがその心に黒い闇に気付いたかのように。





43 名前:ディーバダッタ ◆Boz/6.SDro [sage] 投稿日:2009/11/10(火) 23:19:15 0
重厚なカーテンが幾重にも掛けられた広間にて、老占い師が一心不乱に水晶を覗き込む。
大量の脂汗をかきながら翳していた手を止め、重々しく声を発する。
「・・・陛下。赤き月が消失しました・・・」
「ん〜〜。予定より早いな。世界の反発力とやらが勝った、という事か?」
「恐らくは・・・」
水晶球からの光は赤から白に変っている。
その光は弱々しく、部屋の大きさを推し量る事はできない。
ぼんやりとした光の中、老占い師と陛下と呼ばれた者の足元だけを闇の中に浮かび上がらせていた。
「プランBだ。明朝には軍を出す。将軍に伝えておけ。」
「は・・・。」
帝国領の隅にありながら有数の都市でもあるヴィフティア。
その規模と魔法都市と言われるほどの機能は帝国の支配力が強くは及ばない。
だからこそ、ヴィフティアだったのだ。
終焉の月教団を御子を使い動かし、鍵を作り上げ、ヴィフティアを実験場とした。
結界能力の強いヴィフティアならば地獄化を都市内に限定できる。
また実験が失敗してもヴィフティアは無事ではすまない。
異常現象災害の為の救助という大義名分で堂々と兵を送り込めるのだから。
「それまでは・・・ヴィフティアの地獄をもう少し見物しようか。」
闇の中ぼんやりと浮かび上がるその者は愉悦の笑みを浮かべながら水晶球へと視線を送る。

##########################################

ギルバートに叩きつけられ、粉塵の中、鍵はゆっくりと立ち上がる。
「・・・この程度か?」
凄まじい勢いで叩きつけられたにも拘らず鍵には傷一つない。
体に巻きつく鎖を鬱陶しそうに眺めると、鎖を掴み無造作に引いた。
鎖は鍵の体に食い込み、肉を切り裂き、骨を断つ。
だが・・・切り裂かれた肉は、断たれた骨は鎖が通り過ぎた瞬間に再生する。
「儀式を経て蘇った我が肉体は不滅!
貴様如きがどう足掻こうと滅びはせぬわ!!!」
恐るべき方法で鎖の戒めを解くと、握った手に力を込める。
そこから発せられるは黒い雷!
黒い雷は鎖を伝いギルバートを焼き尽くさんと走る。

「そして!赤き月とヴィフティアの八本の尖塔から無限のエネルギーを受ける私は無敵だ!!」
残った手を振るえばそこからいくつもの竜巻が生まれ、周囲の建物を粉砕し瓦礫が降り注ぐ。
そこから発生した真空の刃が周囲に巨大な爪あとをつける。




44 名前:ディーバダッタ ◆Boz/6.SDro [sage] 投稿日:2009/11/10(火) 23:19:26 0

圧倒的な力を見せる鍵はギルバートを見ていなかった。
既に眼中にないのだ。
鍵の視線はクリスタルナイトと化したシモンを探していた。
が、既に時は遅かった。
ヴィフティア全体を揺るがす大爆発が起こったのだ。
「ば・・・ばかな!!!!!」
絶叫と共に鍵の口から大量の血が溢れ出る。
それが何を意味するか、鍵は見えずとも、教えられずとも判っていた。
シモンの死。
それはクリスタルの破壊を意味し、同時に鍵の心臓の破壊を意味しているのだから。

シモンの力は確かに鍵の力の一部でしかない。
しかしそれは致命的な一部。
聖処女の血を浴び復活したほかの部分とは違い、心臓は魔に落ちたシモンの血を吸って復活した。
即ち不滅の力が宿っていなかったのだ。
だからこそ、シモンを一撃で殺さず足をもぎ無力化しようとしていたのだ。
だがそれも最早無駄に終わったといえよう。

更にクリスタルの一つが壊れたことにより魔法陣が崩れ、エネルギーの供給が止まる。
それを顕すかのように鍵の体には細かいヒビが無数に入り始める。
強大な力を維持するエネルギーが足りなくなり、体を保てなくなりつつあるのだ。

>「――【鍵】。私は希望も執着も無い。でもそれは私が門だからではないの。
>私に希望が無いのは、私の未来を祈ってくれた人のいた証なの」
「・・・・!
何を馬鹿なことを・・・!
お前はその存在自体が門だ!お前の人格など・・・門という器に張り付いたラベルでしかない!
絶望しろ!そして世界の絶望と同調し、私を受け入れ地獄を呼べ!!」
一瞬の絶句の後、鍵は血走った目で叫ぶ。
だがミアの決意を、そしてその心を揺るがす事はできなかった。
ミアは力強くギルバートに語りかける。
>「今なら鍵の力も弱まっているはず。
>――終わらせましょう。また新たに始めるために」
「な・め・る・な・よ!!!!!!
例え心臓が潰れようとも!体を維持できなくとも!あの男を殺し貴様を侵す力と時間くらい無いと思うてか!!!」
狂乱しながら腕を振り下ろすと、それは不可視の力となってギルバートに襲い掛かる。
まるで巨大な岩を落とされたかのようにギルバートを中心にオルフェーノクとヴェノサキスも巻き込み地面が陥没する。

45 名前:コクハ ◇b9hCaqglWQの代理投稿[sage] 投稿日:2009/11/11(水) 00:45:03 P
>「蝿…ですか。目障りになる前に潰しておくのもいいですね…」
「助けに来たというのにその仕打ちはないでしょうが…」
なんか知らないがものすごく悲しい。
レクストからは敵と認識され、ルキフェルからも厄介者扱いされている。
>「やはり他人は信用できません。自分である程度はやっておいて正解だ。」
「同じ魔物なんですから。そんなこと言わずね」
半ば泣きそうな顔でルキフェルの方へ視線をやり、指をはじいた。
空から降ってきた無数の躯の軌道がそれ、それた躯たちはレクストたちのほうへ降り出した。

>>36
その直後、白い光があたりを包み込んだ。
でも、すぐに白い光が消えた。
民たちは蜘蛛の子を散らすように逃げまどい。辺りは騒然としている。
そんな中、イルがルキフェルのことをにらんでるのに気付いた。
その瞳は赤く冷たい。
きゅっと握られたこぶしは震え、怒りの深さを現している。
でも、それを実行に移すことはない。
憎しみをぶつけるだけの力がないから。
不憫だ。
ただ一方的に蹂躙され、肉親の愛情にも恵まれず一人っきりで生きていかねばならない。
とてもじゃないが見ていられない。
だから、言葉を発した。
「憎い?憎いのならかかってきなさい。我々を殺したいんでしょ?」
そして、もっている剣をイルの目の前に向かって放り投げた。

46 名前:フィオナ ◇tPyzcD89bAの代理[sage] 投稿日:2009/11/11(水) 07:35:25 0
『――北区の『揺り篭通り』!居住区のここなら祭に乗じた犯罪対策のために守備隊が増員されてたはずだ!』
フィオナの問いに対するレクストからの返答。守備隊員も同様のことを言っていたことを思い出す。
「揺り篭通り……。」
祭でほぼ無人となった居住区に配備された守備隊。つまりは現状で最も被害の少ない戦力といえる。
さらには揺り篭通り特有の住宅が連なることで構成される複雑に絡み合った通路。
これも魔物の巨躯ではそのアドバンテージを生かせず対して此方には地の利となるだろう。

「この上無いですね!」
フィオナは短く肯定を返すと元黒衣の男へ指示を出すレクストを隠すようにルキフェルへ正対した。
嘲笑を伴い立ち上がるルキフェルへと間髪居れず打ち込むこと数合。
しかしその全てが高速の体捌きを捉えられず虚しく空を斬る。

『悪いな、俺としたことが柄にもなくトサカに来ちまってたみたいだ。もう大丈夫。大丈夫だとも――稼ぐぜ時間!』
だが本来の役割は果たせたようだ。指示を終えたレクストが気合に満ちた声で告げる。
長靴へと仕込まれた術式を開放し神速で跳躍、不意に動きを止めたルキフェルを蹴り飛ばす。
狙ったのかその先ではハスタにいなされた蝿の魔物と交差する。

―――激突。
絶叫と共に爆ぜる蝿の魔物。
屍を踏み越え現れるのは真紅の双眸で睨め付けるルキフェル。
さらには交差の直後に上空から現れた漆黒の剣を携えた黒ずくめの堕天使。

『―いいでしょう。5分だけ相手をします。』
地の底から染み出すような声でそう宣言するとルキフェルはパチンッと指を鳴らす。
直後周囲の石や持ち主を失った武器がゆっくりと浮かび上がり爆発的な推進力で此方へと飛来する。
射線上にいる味方であろう魔物にもお構いなしである。
堕天使は翼をはためかせ回避。残るのは強力な一撃の代償か体制を崩しているレクストだけだ。

「させません!」
フィオナはレクストの前へと躍り出ると正眼に構えた剣を振るい弾丸の様に迫るそれらを叩き落し、あるいは弾いて軌道を逸らす。
次弾に備え再び剣を正眼へと戻すと眼前では中空に逃れた魔物を攻撃するルキフェルの姿。
どういうことなのか、味方同士というわけではないのだろうか。
堕天使の方は助けに来たと言っていた気がするのだが。

47 名前:フィオナ ◇tPyzcD89bAの代理[sage] 投稿日:2009/11/11(水) 07:35:53 0
思案すること数瞬。
それを断ち切るように遠方より響く轟音。
次いで膨れ上がる白い光。
また異変かと危惧するも、その光が消えた後に感じるのは魔素の減少。
ヴァフティアを覆う息苦しいまでの瘴気が霞んでいくのが判る。

期せずして訪れた好転。
そして先刻から展開されているルキフェルと堕天使の攻防も同じなのではないだろうか。
二体の強大な魔を相手取るのは不可能だがそれが一対一対三なら話は変わってくる。
ルキフェルの注意が堕天使へと向いている今なら出し抜くことも可能かもしれない。
蝿の魔物の相手をしていたハスタも今はフリーな筈だ。

「レクストさん。敵は完全に仲間同士とは言えないようです。
そして今ならルキフェルの虚をつけるかもしれません。」
フィオナは傍らのレクストへと耳打ちする。

「私が正面から斬り込みますからその隙を突いてください。」
しかし、と心配そうなレクストへと笑みを返し――

「――大丈夫です。こう見えて結構頑丈なんですよ?」
得意げに告げる。

「それでは。お願いします!」
言葉と同時にルキフェルへと駆け出す。
脇に構えた剣先を地面を擦る寸前まで落とし一直線に間合いを詰める。
ルキフェルの攻撃を堕天使が此方へと弾き飛ばしてくるが怯むことなく走り抜ける。
彼我の距離後数歩という所で大地を蹴りそれまでの直線的な動きを弧を描く軌道へと変える。
地を這うかのような低姿勢で数歩を踏破すると体ごと剣を大上段へと振り上げ叩き付けた。




48 名前:アラバス ◆hBr/9.Ve8Q [sage] 投稿日:2009/11/11(水) 13:02:18 0
アラバス「おお…くわばらくわばら…」
市民「爺さん、大丈夫か?」

揺り篭通りには、避難中の市民が続々と集まっていた
空が元に戻ったが、それでも危険極まりない状態であることに変わりはない
老人は体を抱え、恐怖に身を震わせていた
老人に肩を貸した若い男は、その背中をさすって心配そうに見つめていた

アラバス「あんたのお陰で助かったよ
       わしゃ杖が無いと立つこともままならなかったんじゃ…」
市民「困った時はお互い様だと言ったろう
    この揺り篭通りなら安全らしい
    それに、あの人たちが守ってくれるよ」

老人は涙を流しながらお礼を言い、若い男は笑みを浮かべながら応対する
周囲では、家族や友人の無事を確かめ合う者、一時の安堵に胸を撫で下ろす者などが居た
まだ不安と恐怖におののいている者も居り、混沌とした状態であった

アラバス「………」
市民「どうしたんだ、爺さん?」
アラバス「お主、本当にそう思うか?」
市民「へ?」
アラバス「本当にそう思うのかと聞いておるんじゃよ」

いきなり老人の雰囲気が変わり、酷く冷たい目で若い男を見上げる
さっきまでのひ弱な感じは消え去り、圧倒的なまでの威圧感に見下ろす男の方が気圧された
よく見れば、辺りは人気のない裏路地であった
そして、杖が無ければ満足に立つことも出来ないはずの老人が綺麗に2本足で立っている

市民「い、いや…、この揺り篭通りは道が狭くて入り組んでいるから…
    そ、それに、あの人たちが守って…」
アラバス「そういう目先の理屈は聞いておらんよ」
市民「いや、そもそもあんたなにも…
    ヴゲッ!?」

言い終わる前に喉を針で刺し貫かれ、若い男がその場に倒れ込む
白目を剥いて口から涎を垂れ流したまま、事切れて動かなくなってしまった
それを冷たい目で見下ろす老人の冷たい笑み
その手には、透明の毒液に濡れた異様に細長い針が数本握られていた

アラバス「脅威は何も目の前にだけ現れるものではない
       わしのような者も居るのではないか、ということじゃ」

慣れた手付きで男の死体を裏路地の奥に引っ張っていくと、布を被せて隠してしまう
老人は小柄でひ弱な体型だったが、特に苦もなく運んでしまった
この男こそ、裏の世界で名の知れた老齢の殺し屋である
とりあえず「アラバス・バラバス」と名乗っているが、もちろん本名ではない

アラバス「あの男が派手にやってくれたおかげで何の苦もなく潜入できた
       …さあてと、希望の光とやらを消しに行くかの」

先ほどと同様に杖を持ち直すと、腰の折れたヨボヨボ爺さんに戻ってフラフラと歩き出す
誰もそのみすぼらしい老人を希望への刺客とは思いもしなかった
       

49 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/11/11(水) 14:35:25 O
標的以外を殺す殺し屋は三流以下

50 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/11/11(水) 20:23:08 O
>>48
張任「この雑魚がぁぁぁ!!!」

51 名前:ハスタ ◇BsVisfL7IQの代理投稿[sage] 投稿日:2009/11/12(木) 19:27:01 0

【名前】ハスタ ◆BsVisfL7IQ

【本文】
>41>42>45-47
蠅の魔物を受け流すのは思ったよりも腕に負担がかかったらしく、だるい。
だがそうも言っていられない。こっちは揺り篭通りに人々を避難させなきゃならない。
既に女騎士が突貫しに行ったが・・・ふと、一人の少年と魔物の姿が目に入った。

>「助けに来たというのにその仕打ちはないでしょうが…」
「いや、どう見てもさっき追撃しにかかってただろうが。」
なんとなくその魔物の呟きに反射的に返してしまう。だが、こいつは紛れも無く敵だ。
少年諸共に目掛けて降ってくる亡骸どもを、白い槍で弾く。
亡骸を貫くソレは弾かれる事でわずかに角度を変え、また別の亡骸を逸らし連鎖的に僅かな空間を作り出す。
そこをもう一方の腕に持った槍で弾く事で少年やそのそばの市民への攻撃を防ぐ。

>「絶望が希望に変わっても、人は変わりません。この先も、ずっと。それを証明してくれたのは何者でもない。
>貴方達自身だった。どんな者にも闇はあると。」
怒りか、怨念か。驚きはしても尚少年が動かない。
なので、その眼前に立って魔物達との視線を遮る。
>「憎い?憎いのならかかってきなさい。我々を殺したいんでしょ?」
黒翼の魔物の言葉と共に降ってきた剣を、手にとらぬように槍でそのまま打ち返す。
「闇?はっ、闇なんぞあって当たり前だろう。闇があるという事実は絶望になんぞなりはしない。
 闇の存在はそれを照らす光を証明するだけだ。」


俺は、白い4本の槍を周囲に突き立てて、黒翼の魔物を睨み付ける。
「そこのお前・・・外見から察するにベースは人間みたいだが、心まで魔に呑まれかけてるみたいだな。
 多少力を持っていれば例え同じ魔物でも襲い掛かり、敵意があれば無力な者にも争いを挑む事実がそれを示しているよ。
 普段なら狩ってる所だけど、今は相手をしている暇がないんでね・・・踊ってろ!『仁針双克』!」

横目に従士達が眼鏡の男に攻撃を仕掛けるのを見て、こっちはこいつを引き受けるのが役目だと判断。
抜き打ちで放った二枚の符は、青い光の弾丸となって黒翼を追尾して空を翔ける。
一つは空中で打ち返した剣に追いついて炸裂。その爆炎を隠れ蓑に回り込んで頭上からもう一つの光弾が襲い掛かる。
「(符の残りは13枚、これ以上は乱発は難しいな・・・・・・。)」

青の光弾が魔物を襲っている間に、俺は『四瑞』を手に裏をかく方法を思案する。
【イルを庇うようにコクハの前に立ち塞がる。軽く挑発してから符術による攻撃。】




52 名前: ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/11/12(木) 20:32:49 0
「守備隊、それから戦闘経験のあるものから順に俺に続け。北区まで突っ切るぞ」

元黒衣はハンドサインで進軍を促しながら、避難者達の一番槍を担っていく。
続くのは守備隊の生き残り、従軍経験者、退役守備隊員達。各々の得物を掲げ、力なき者達を庇うようにして進む。

ふと見回せば、降魔術の影響は民家にまでは及んでいないらしい。
建築物用の結界は都市防衛結界とは別の魔導回路で動いているため、地獄化を免れているようだ。

降魔されるのは、往来に出ていた市民達。
そのために住人達が皆外に出てくるラウル=ラジーノの前夜祭を決行日に選んだのだ。

「この地獄に私も一枚噛んでいたと思うと、我ながらあまり気分の良いものではない、が」

別に、こうなることを知らされていなかったわけではない。敬虔なる教団員である彼にとって教義は絶対。
人の命も、自分の命すらも、二の次である。それは離反という形となった今では何の意味もなさない形骸だが。

(終末思想……真なる救いを得るには一度全てを無に帰さねばならない。この街はその先駆けだ)

全てを破壊する、そのための下地。都市防衛結界をインターセプトし、降魔の外法を用いて地獄化の為の力場を生成する。
現在街中で起こっている無差別な降魔術は、あくまでその副産物。炊き出しに混入した魔導薬の誘導性により、少しばかり降魔率を上げたに過ぎない。
全てがつつがなく完了すれば、この街そのものが、正確には結界に護られた領域全てが現世から切り離されるはずだった。

「貴様、ジルド――!裏切ったか……!」

元黒衣達が向かう前方に三人の男が躍り出た。全員が黒衣に身を包み、全員が武装している。
元黒衣をジルドと呼ぶ彼等は、その外見が示す通りの出自を持っていた。すなわち、『深淵の月』の教団員。

「その紋章、第5分隊――降魔兵団の連中か。小間使いの私を知っているとは光栄だな」

「降魔を施術せずに武装小隊長まで上り詰めた貴様を我らが知らぬ訳があるか――!」

パチリ。と音がすると同時、三人の男達の体躯が隆起し劇的な変貌を始めた。
黒衣の下に収まっていた肉体は見る間に人外の、異形のそれへと形を変えていく。

「残念だジルド。貴様が何故住民共を率いているかは聞かぬ。裏切りの因子は今ここで喰らい尽くす――!」

左から――虎、熊、獅子。三人の黒衣達はそれぞれが巨大な猛獣へと変身していた。

教団の外法、降魔制御術。予め降魔オーブに施術した術式によって異形化を制御し、積極的な戦闘力へと変える術。
魔物となってもその意識は人のままであり、また人間への立ち戻りも自在。路地裏でピラルが用いていた術だった。


53 名前: ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/11/12(木) 20:59:09 0
「そうか。聞かずとも語ってやろう――未来には、それが必要だ」

元黒衣、もといジルドは三人の降魔化が完了する前から駆けていた。武闘派の運動能力を存分に駆使し、彼我の差を無にする。
同時に懐から取り出したるは黒曜石の短剣。斬撃戦には不向きなそれを、ジルドは胸の前に翳し、術式を発動する。

「『顕刃』――!!」

黒曜剣に注がれた魔力は刀身に刻まれた術式回路によって一つの指向性を得る。
刃の顕現。黒曜石の刃の先から、魔力によって構成された擬似的な刀身が現れ、刃長不足と耐久性を補う。
すなわち、ジルドの手にあるのはもはや短剣ではなく、一振りの長剣。半透明に淡く輝く刀身は、鋭く、強い。

「この街は既に破壊された――!」

まず仕留めるは熊。中央の要を潰せば隊形に乱れを起こし、硬直を誘うことが出来る。
横薙ぎの豪腕を屈むことで回避し、追撃の逆腕を長剣で斬り飛ばす。飛んだ腕を熊の急所――鼻面へと蹴り込み、怯ませる。

「破壊したのが我々ならば――創り直すのも我々だ!ならば私は資産たる市民を殺さない。新たなる世界の再建のために!」

無論その硬直を見逃さない。叩きつけた腕ごと貫通するように長剣を突き刺し、熊の頭部を穿ち、貫き、破壊する。
仕留めた。あとは両端の――どちらを先に潰すか、その逡巡の間隙に、ジルドは脚が何者かによって固定されていることに気付いた。

「詭弁だ……人間が残っていては真なる白紙は完成しない……!全て消えるべきなのだ……!!」

「――――なっ!!?」

熊だった。熊が残った腕で、ジルドの脚をがっちりと掴んでいる。頭を潰され最早瀕死の身体で、最期のあがきだった。
気付いたところで離脱の機は逸された。視界の両端で虎と獅子が同時に爪をジルドへ打ち下ろしているのがスローで見える。

やられた。初めから中央を捨てて確実に命をとる算段か。ジルドの教団での戦法を熟知している、元同僚だからこそできる芸当だ。
もとより自己の命に対する観念が薄い(そういった、使命のためならば簡単に命を投げ出せる人間性も敬虔な教徒そのものだ)
ジルドは目を閉じた。どうせなら、目には見えぬ神に祈って死ぬのも悪くない。割りと本気でジルドはそう思った。

肉を穿つ音。

同時に、後ろから声が挙がった。一人ではない、誰かと誰かが、付和雷同に言い放った。

「「人外共が……人の世界を人間抜きで語るなよ――!!」」

果たして、覚悟していた死は訪れなかった。目を開けると左右の異形たちはその身体にそれぞれ剣と槍を生やして絶命している。
ジルドの後をついてきた守備隊の面々が、その得物で虎と獅子を斃していた。見事に急所を狙って一撃で仕留めているのは流石である。

「――ジルドとやら、アンタは『月』だったんだろう?何故仲間を斃してまで、俺達を助ける」

まだ若い、しかし頬に塩の線を刻んだ守備隊員が、獅子から剣を抜きながら言う。
足元の熊が力尽きたのか、ジルドの脚も自由になっていた。

「別に他意はない。ただ、私は知っているんだ」

――『俺が両方護ってやる!アンタ達も、その家族も!だから、俺がアンタを護るのを、――邪魔するな!!』

「博愛主義者の綺麗事だが、それを誰かが美談に変えてやることもできる」

言って、ジルドは再び道を拓き始めた。いつのまにか空の眼球は消え、降魔騒ぎも沈静へ向かっているようだ。
誰かの思惑があり、それを害した誰かがいる。今はその事実だけで、充分だった。

揺り篭通りが見えてきた。そうして避難者達の行軍は、一先ずの落着を得た。


【避難者サイド:揺り篭通り到着。避難完了】
【レクストサイドのレスも近いうちに書きますので、今しばらくお待ち下さい】

54 名前:コクハ ◆b9hCaqglWQ [sage] 投稿日:2009/11/12(木) 21:38:53 0
>「闇?はっ、闇なんぞあって当たり前だろう。闇があるという事実は絶望になんぞなりはしない。
> 闇の存在はそれを照らす光を証明するだけだ。」
「それは違うわ。光と闇はともに存在する。光がなければ影も生まれないし、影がなければ光りも生まれない。光と闇が生まれた時から一心同体なのよ。あなたのその考え間違ってるわ」
どこかの世界では光すら届かない闇があるようだが、少なくともここでは違う。
槍ではじき返された剣がこちらに向かってくる。
なぜか知らないが異様に動きが遅い。
「だから、必要がなければ、あなたたちと争うつもりはない。でも、闇の同胞達を傷つけるなら容赦はしない」
ハスタが槍越しに睨みつけるのと同じように睨みつけた。
>「そこのお前・・・外見から察するにベースは人間みたいだが、心まで魔に呑まれかけてるみたいだな。
> 多少力を持っていれば例え同じ魔物でも襲い掛かり、敵意があれば無力な者にも争いを挑む事実がそれを示しているよ。 」
「闇に飲まれた?何を言ってるの?私の心は初めから闇よ。同胞たちを殺す意図があるのなら、避けろ!なんて叫びはしない。街を守るために同胞である市民を殺したあなたたちと一緒にしないでほしい」
光の弾が二つ打ち出された。
そのうち一つがスローペースで進んでいる剣に炸裂し、爆発。
視界が爆炎に覆われ見えなくなった。
これじゃあ、剣を取りに行く暇もない。
異様に動きの遅い剣のことを恨みたい気分だ。
でも、まあ、そんなことを言っていても仕方ない。
「酸素によって生み出されたものよ。我が体に集い、炎を防ぐ盾となれ」
呪文によって生じた赤い光が全身のいたるところからわきあがっているのを確認することなく爆炎に突っ込み、剣を手に取った。
そして、そのまま、勢いを利用し、ハスタに向かって下から上に切りかかった。


55 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/11/14(土) 01:11:18 0
「―いいでしょう。5分だけ相手をします。その間に逃げれるのならば逃げなさい。
 しかしまぁ…そこそこの性能です。”陛下”にも素晴らしい報告が出来そうだ。」

(陛下――だと?)

恐らくは黒幕の名前だろう、ルキフェルの呟きにレクストが眉を顰める。この国で陛下と呼称を受ける人間は一人をおいて他にない。
ときの皇帝――レクストが属する帝都王立従士隊が守護する皇帝陛下そのひとである。

(どういうこった……?なんであの眼鏡野朗の口から『陛下』なんて呼び名が出る?なんかの暗示か?)

思索と逡巡は臨戦の脳内を埋めるがしかしルキフェルの猛攻は結論を待たない。
彼がパチリと指を鳴らすと、まるで糸に吊られたように周囲に散乱していた剣や瓦礫が浮かび、レクストへと飛来する。
風を切る速さは弾速。そして何よりも特筆すべきは――

(――術式の気配がまったくなかったぞ!?)

速度に差こそあれ、術そのものはレクストの兄が使用する浮導術とさして変わらない。
しかし今のルキフェルからは術式を組む挙動も、予め陣を敷いていた様子もない。式を破棄してこの威力は常軌を逸している。

「やっべ――!」
通常の術式ならば遅れをとることはなかっただろう。加えてレクストは『噴射』を使った渾身の蹴りを放った直後である。
軸足一本では慣性を殺しきれず、硬直は免れない。致命的な隙に、致命的な威力を持った瓦礫の散弾が叩き込まれる――!

「させません!」

短く叫んで、フィオナがレクストの前に躍り出た。彼の眼前で展開される光景は、さながら鉄火場の鎚合奏。
一つ一つが容易く命を奪えるであろう飛来物を、フィオナは剣で正確に捌いていく。弾き、逸らし、叩き落し、連続する金属音。
それら全てが沈黙する頃には、ルキフェルは既に上空へ現れた黒翼の魔物を迎撃し始めている。仲間じゃなかったのかあいつら。

「あっぶねええええええええええええ――た、助かった!面目ないぜぇ!!」

フィオナに感謝しながら体勢を立て直し安堵するレクストだったが、危難はまだ去っていなかった。
背後から触手の魔物が襲い掛からんとしていることに、レクストはおろかフィオナすら気付いていない。
ピラルである。触手を効果的に用いて挙動の音を消し、しかし充分な速さをもってレクストへと迫る!

果たしてピラルの強襲は、叶わなかった。矢のように上空から落ちてきた棒状の物体が、彼の降魔オーブを貫いたのだ。
魔力の尾を引くそれが馬のような生物の脚だとピラルが理解するころには、耐久限界を超えたオーブが爆発を起こしていた。

「おわっ!?今度は何だ!」
轟音が響き、レクストの後ろ髪が爆風に煽られる。慌てて後ろを振り向くと、そこには最早何者もおらず、
ただ爆発の余韻と塵になって名残のように風に浚われる魔物の残骸のみ。とうとうレクストはピラルの存在に最後まで気付かなかった。

次の瞬間。爆発と同時、否、それを凌駕する大爆発が尖塔のほうで起こり、強風が街を吹きぬけた。
思わず瞑った眼が視力を取り戻すと、街の様相が一変していた。目に見える変化ではないが、街に満ちていた魔の気配が散逸し、
それに伴なって徘徊していた魔物の中には再び人の姿を取り戻すものまでいた。何よりも、月が元に戻っている。

「街を覆う魔法陣の一部が壊されたんだ!この糞忌々しい降魔結界が薄れてくぞ!!」

レクストは知らない。尖塔付近で起こった大爆発の真相を。『誰が大爆発したのか』ということを。
ただ事実を事実として受け止め、前を向くのみである。

シモンという男の死を、

仲間の死を、彼は知らない。

56 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/11/14(土) 02:06:21 0
「レクストさん。敵は完全に仲間同士とは言えないようです。そして今ならルキフェルの虚をつけるかもしれません。」

状況に好機を見出したのか、フィオナが駆け寄って耳打ちしてきた。
確かに、突如現れた黒翼は最初ルキフェルに斬りかかっていた。そしてルキフェルもまた、黒翼ごとレクストを狙っていた。
そして今、連中は地対空の人外決戦をやらかしている最中だ。隙はある。充分創り出せる。

「私が正面から斬り込みますからその隙を突いてください。」
「お、おい――あの超絶人外バトルの中に真正面から突っ込むってのかよ?命足りてねえぞ!」

常人の立ち入れる領域なのだろうか、いう疑問。
それから、そんな危険な役目を彼女にやらせるという躊躇。

「――大丈夫です。こう見えて結構頑丈なんですよ?」

そんなレクストの懸念を感じ取ったのか、フィオナは柔らかく、しかし強かな笑みで告げる。
なんて強い女だ、とレクストは思う。その強固な意志の前に、反論すら憚られるようで二の句を継げない。

「――それでは。お願いします!」
「――ああ。任せてくれ」

同時、フィオナは跳んだ。疾り、駆ける。疾駆。姿勢の低いその構えは、相手のアドバンテージを無にする効果的な方策だ。
迎撃の散弾は彼女の頭上を通過していく。たまに来る低い弾道の瓦礫はレクストが援護砲撃で粉砕する。
フィオナが剣を振り上げ、両者を分断するように斬撃。それを受けた黒翼は十字架使いの方へと飛んで行った。

「絶望が希望に変わっても、人は変わりません。この先も、ずっと。
 それを証明してくれたのは何者でもない。貴方達自身だった。どんな者にも闇はあると。」

フィオナの剣を受けながらルキフェルが訥々と語る。体調が思わしくないのか、どこか顔色に難がある。
それも含めた、好機――!!

「そりゃ誰にだって後ろ暗いとこはあるだろうさ――俺にだってある。後悔だって沢山してきた」

レクストの声。しかしフィオナの後ろに控えていたはずの彼は、そこにいない。
どこにもいない。

「お前の言ってることもよくわかる――わかってやれる。でもな、でもだ……」

連続して魔導弾が飛んできた。ルキフェル目がけて、純粋に『攻撃』の属性を付与した魔力の光が着弾する。
それはルキフェルにとってさしたる障害にはなり得ないだろう。しかし。

「人間の悪いとこばっかあげつらって解ったようなツラしてんじゃねえ――!!人間にあるのは闇だけじゃねえだろ!
 光だってある!そんなショボい闇なんかよりよっぽど尊い光が人にはある――俺が護りたい"ヒト"ってのは、そうあるべきで、実際そうなんだよ!!」

フィオナが命懸けで拓いた道に、その僅かな間隙にレクストは己が命運を力任せにねじ込む。
彼は、下にいた。フィオナが剣を叩き込む、その寸毫が如き時間差の活用を――『噴射』の機動力が実現する。

「お前のその能力、異能、人知を超えた力か――そういうの、嫌いじゃねえ。むしろ心躍るね。大好きだ」
だが。でも。しかし。

レクストは圧縮された時間の中でゆっくりと正確に、バイアネット構える。
自己の中に脈打つ回復術式の残滓、治癒聖句の余剰分――それら余った生命力を魔力へと変換し、還元する。
体感で組み上げる術式は攻性魔術。バイアネットの刀身に描かれた紋章は破壊力特化の豪斬撃。

息を吸い、言う――
「――お前のことは大嫌いだけどなぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!」

横薙ぎの一閃。一閃というにはあまりにも甚大な威力を秘めた一撃が、ルキフェルの胴へとぶち込まれた。

【フィオナが作ったルキフェルの隙へバイアネットをフルスイング】
【このターンでルキフェルが退けば揺り篭通りへ。退かなければ戦闘続行】

57 名前:ルキフェル ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2009/11/14(土) 14:28:38 0
>>45
>「同じ魔物なんですから。そんなこと言わずね」

上で羽を生やした魔物が声をかける。
ルキフェルは首を横に振りながら溜息を吐いた。
「同じ魔物…ですか。人間であった貴方が私と同じだと?
フフ…くだらない。実に、くだらない。」
地上に降り立った魔物はイルに向け剣を放り投げた。
しかし、イルはそれを掴もうとせずにいる。
「「僕は、お前が憎い。憎いけど…でも、僕は嫌なんだ。
これ以上、誰かを傷付けたりするのは。」」
まだ幼い少年の思わぬ言葉に、思わずルキフェルの笑みが消え去る。
イルは憎しみを宿してはいるものの、それでも何か大切なものを
無くしていないとでもいうようにただルキフェルを睨みつけている。

「…ほぅ…素晴らしい子ですねぇ」

苛立ちながらイルに向け歩き出す。しかし、それを1つの声が阻んだ。
>「闇?はっ、闇なんぞあって当たり前だろう。闇があるという事実は絶望になんぞなりはしない。
>闇の存在はそれを照らす光を証明するだけだ。」

「貴方ですか…まぁ、任せましたよ。ね?仲間…なんでしょ?私達は。」

ルキフェルは背後の魔物に目線を向け、ハスタとイルの前より姿を消す。


58 名前:ルキフェル ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2009/11/14(土) 14:44:11 0
>>47>>55
ハスタとコクハから逃れたルキフェルの前に現れたのはフィオナ。
華奢な女性とは思えないスピードで眼前に現れる。


―「させません!」

素早い弾丸をものともせず次々に叩き落していく。
その軌道は標的のレクストから逸れ、地面に爆発し
風穴を空けていく。
>「それでは。お願いします!」

声と共にフィオナが凄まじい勢いでルキフェルへ向け
剣を振り下ろした。
「…くだらない。その程度で…私を倒せるつもりですか…。」
その剣をルキフェルは片腕で白羽取りする。
剣先がびくともしないほどの強力で完全にフィオナの動きを掌握した。
腕の血管は浮き出ていおり、息も荒い。
「あの薬を落とされたのは計算外でした…アレが無ければ
彼を押さえつけれない。私もどうなるか分かりませんしね…!!」

”俺をもっと笑顔にしてくれよ”
その時、フィオナには確かに聞こえた。
ここへ向う前に聞こえたそれと同じ声を。
深い闇からの叫びを。
ルキフェルは明らかに疲労している様子だがそれでも尚、もう一方の
腕を突き出しフィオナに衝撃波を放つ。
凄まじい勢いで放たれたそれはフィオナの鎧すら吹き飛ばして見せた。

「…ハァハァ…終わりです。これで…!!」
更にフィオナへ追撃を放とうとした時、背後より声。

―「そりゃ誰にだって後ろ暗いとこはあるだろうさ――俺にだってある。後悔だって沢山してきた」

59 名前:ルキフェル ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2009/11/14(土) 15:05:27 0
「…な…!?」

ルキフェルは振り返る。
しかし、声の主は何処にもいない。
見えたのは”光”。彼が最も忌み嫌う物がルキフェルの全身を叩いた。
光の弾を全身に受けながら片膝を付く。
「…グ…あと、少し…時間を…」
胸を押さえつけもがき苦しむルキフェル。顔が蒼白に変わり息も
上がり始める。

―「人間の悪いとこばっかあげつらって解ったようなツラしてんじゃねえ――!!人間にあるのは闇だけじゃねえだろ!
 光だってある!そんなショボい闇なんかよりよっぽど尊い光が人にはある――俺が護りたい"ヒト"ってのは、そうあるべきで、実際そうなんだよ!!」 ―

閃光と共にレクストが迫る。身動きの取れないルキフェルにそれを避ける余力は残っていなかった。
しかしルキフェルは笑う。自嘲なのか、嘲笑なのか。
分からないまでも逆に追い詰められた男は笑った。

―「――お前のことは大嫌いだけどなぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!」

一閃。光と共に放たれたそれはルキフェルの体に強烈な一撃を与え
地面へと叩き付ける。
その衝撃で眼鏡は吹き飛び木っ端微塵。
ルキフェルはうつ伏せのまま地面にめり込んでいる。
「…フフ…最高だ。やはりニンゲンは…面白い。」
乾いた笑い声を上げて、ルキフェルは目を閉じた。

―数分後―

目を覚ましたルキフェルは何事もなかったかのように立ち上がる。
その傍にいるのは赤い服を着た美しい女性。
胸に白い紋章を刻んでいる。少なくとも教団のそれではない。
―「究極の闇が齎される日も近いな。」―
女は立ち上がったルキフェルに薬を渡し、無表情のまま言った。
そしてルキフェルの手に金色の破片を渡す。
「見つかったんだね。」
子供のような笑みを浮かべ破片を自らの体へ吸い込んでいく。
空を曇り空が包む。雨が降り始め、晴れたはずの光は
再び闇へ落ちていった。



60 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/11/15(日) 23:04:04 0
保守

61 名前:ハスタ ◇fmAKADpWIqWy[sage] 投稿日:2009/11/16(月) 21:59:21 0
>54>58
>「それは違うわ。光と闇はともに存在する。光がなければ影も生まれないし、影がなければ光りも生まれない。
>光と闇が生まれた時から一心同体なのよ。あなたのその考え間違ってるわ」
「そうか?光と闇しか存在しなかったら間に人間の人格がいなくなるとオレは思ってるんだけどね。」
左手を後ろに回し、槍の一本を引き抜いてコクハに向けて突きつけるように構える。

>「闇に飲まれた?何を言ってるの?私の心は初めから闇よ。同胞たちを殺す意図があるのなら、避けろ!
>なんて叫びはしない。街を守るために同胞である市民を殺したあなたたちと一緒にしないでほしい」
「だったら、お前は最初っから人間じゃないってことだな。それに・・・・・・人間が人間を殺すのはごく自然だろ?『人間は共食いをする生き物だ。』」

その瞬間、抑え切れない悪意が冷徹な声の形を取る。
爆炎の向こうから飛来する黒翼の死神が振り上げる剣を、右手に握った槍で受ける。
炎を突き破った直後にコクハは ぞわり 、と不快感を全身に感じるだろう。
元々戦士であった上に魔物化により強化された力は当然片手で受けきれるものではない。
それでもなぜ受け止めているのか・・・それは剣と槍の間に張り巡らされた白い糸のようなものだ。

「さて、ここで問題。オレの槍の残り三本はどこにいったでしょう?・・・なんて言うまでも無いわな。」
とてつもなく細く、糸と化した『四瑞』。それが、剣の威力を殺しまたコクハの全身に纏わりついてきている。
その『糸』は周囲の構造物などを巻き込む事で巧みに力を殺している。

「・・・・・・で、その仲間がいなくなってアンタはどうするんだろう・・・ねッ!」
視線だけでルキフェルがいなくなった方向を示し、相手の意識が逸れた隙を狙い左手を引く。
コクハの全身に絡みついた糸につながっているのではなく、コクハのその翼に纏わりついた『糸』。
左手の力が滑車代わりの各建造物を巻き込み、普通の人間の腕力を超える力でコクハの翼をずたずたにせんと引き絞られる!

【『糸』の罠にコクハを嵌めて、翼に攻撃。】

62 名前:コクハ ◆b9hCaqglWQ [sage] 投稿日:2009/11/17(火) 03:46:47 0
>「だったら、お前は最初っから人間じゃないってことだな。それに・・・・・・人間が人間を殺すのはごく自然だろ?『人間は共食いをする生き物だ。』」
「そう…なら永遠に食べあって死ねがいいわ」
剣が槍によってたやすく受け止められた。
人間がこの剣を受け止められることはまずない。
だとすると目の前にいる人間は本当人間か?
>「さて、ここで問題。オレの槍の残り三本はどこにいったでしょう?・・・なんて言うまでも無いわな。」
そんなことを疑問に感じていたが、答えは別のところにあった。
翼のあたりを見てみると、糸が左の翼に何本からからみついていた。
剣で切りつけた瞬間に糸で翼をからめとられ、勢いが殺されたのだろう。
糸が建物の周りで輪を描き、その先はハスタの左腕のほうへと延びている。
どうやら、この人物が糸を張り巡らせたのは間違いなさそうだ。
発言から推測するに槍を糸に変化させて、実現させたらしい。
>「・・・・・・で、その仲間がいなくなってアンタはどうするんだろう・・・ねッ!」
フェイクだ。
ハスタの言葉を無視し、剣で糸を切ろうとした。
だが、それよりも早く左手が引かれ左の翼が糸によって切断された。
「ぐっ…ぎゃあぁぁ」
支えを失ったからだが、地面に向かって落下しだした。
反射的に残っている翼をはばたかせる。
揚力が残っている翼に生じ、体の片方が持ち上がり、落下しようとする力が弱まった。
とりあえずこれで直撃という事態は免れた。
片方の翼をはばたかせ、地面に着地。
「槍を糸に変えるなんて面白いことをするじゃない。まさかトラップを仕掛けてあるなんて思いもしなかったわ。でも、一つ重要なことを忘れてない?」
地面に向かっている糸を手でつかみ、呪文を唱えた。
「光と対をなし、命ある時から存在しているものよ。その名は闇。その名において力をお与えください」
黒く染まった魔法陣が手の甲に現れ、指先が黒く染まる。
「体に触れることさえできれば、いくらでも武器を無力化できることをね」
指先を染めた黒は少しずつではあるけど糸を侵食し、糸と化したハスタの槍を真っ黒に染めだした。
【糸により羽が切断された。落下したコクハは着地すると同時に糸をつかみ、糸を闇属性に変え始めた(侵食されれば、使い物にならなくなります)】


63 名前:名無しになりきれ[sag] 投稿日:2009/11/18(水) 01:52:30 O
保守

64 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/11/19(木) 00:52:27 0
保守

65 名前:フィオナ ◆tPyzcD89bA [sage] 投稿日:2009/11/19(木) 03:42:08 0
気合一閃。
地を蹴り大上段へと振り上げた剣を雷光の如く叩き降ろす。

『…くだらない。その程度で…私を倒せるつもりですか…。』
速度、威力ともに最高に達した斬撃をルキフェルは事も無げに片手で掴み止めた。
「くっ……。」
押せども引けども微動だにせず動きを封じられる。
フィオナを睨み付けるルキフェルの双眸は爛々と朱を放ち、剣を繋ぎ止める腕は異様な程血管を浮き立たせている。

『あの薬を落とされたのは計算外でした…アレが無ければ
彼を押さえつけれない。私もどうなるか分かりませんしね…!!』

”俺 を も っ と 笑 顔 に し て く れ よ ”

朗々と響くルキフェルの声。しかしそれ以上にフィオナの意識へと叩きつけられる異質な声。
初めて対峙した時に聞いた底知れぬ深淵よりの呼び声。
硬直したフィオナの腹部にぴたり、とルキフェルの手が添えられる。
ぞくり――と背を走る悪寒。

ドンッ!

フィオナが身を捩るのとほぼ同時、凄まじい勢いで衝撃波が放たれた。

「あ……くっ……。」
わき腹を掠めた衝撃波はサーコートとその下の鎖帷子を引き千切り素肌が外気に晒される。
剣を保持するのも不可能な程揺さぶられ、たたらを踏んで後退。
掠めただけだというのに意識が飛びそうになった。直撃を受けていたら命は無かっただろう。

『…ハァハァ…終わりです。これで…!!』
ルキフェルは追撃の構え。対するフィオナは笑みを浮かべ――

「――そうですね。こちらの……勝ちです!」
炸裂する光。全てを灼く様なそれを浴びルキフェルの動きが止まる。
そして閃光を?き分け迫るレクスト。

『――お前のことは大嫌いだけどなぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!』
裂帛の気合とともに叩き込まれるバイアネット。
不意を討たれたルキフェルは吹き飛び、大地へと叩きつけられる。
うつ伏せに伏したまま笑うかのように暫く体を震わせ、がくりと糸の切れた人形の様にその動きを止めた。

「あ痛た……、助かりました。こちらは何とかなりましたね。」
フィオナはわき腹を抑えつつレクストに話しかけると、剣と盾を拾い上げもう一方の戦いへと目を向けた。

66 名前:ハスタ ◆fmAKADpWIqWy [sage] 投稿日:2009/11/19(木) 18:20:50 0
>62
>「槍を糸に変えるなんて面白いことをするじゃない。まさかトラップを仕掛けてあるなんて思いもしなかったわ。
> でも、一つ重要なことを忘れてない?」
「あん?」

コクハの唱える呪文が完成すると、指先からどんどんと糸が漆黒に染まってゆく。
>「体に触れることさえできれば、いくらでも武器を無力化できることをね」
「いや待て、そんなの一度も聞いてねぇぞ?!畜生!・・・・・・なんて言うとでも思ったか?」

にやり、と笑みを返すオレの黒瞳には今恐らく薄っすらと青が混ざってきているだろう。
浸食されつつある物も含めて、糸と槍の全ての輪郭がぐんにゃりと歪む。
元の形から開放されたそれらは、オレの両手に集い一抱えも二抱えもある球体を形作る。
それは形を失った薄青の魔力の塊。そのところどころが闇の黒に染まっているのだが・・・それもだんだんと青に還元されて球が肥大化する。
「確かにその方法だと『四瑞』じゃあんたにダメージは与えられなくなるが・・・この『四霊』ならどうだ?!」

回転。両手を中心に集った魔力塊は、下方からのゴルフスイングのような軌道を描く途中で姿を変える。
無形の魔力は所有者の意思に応え、その意志を体現する。それは巨大なウォーハンマー。
「無属性の魔力の槌を、受けられるもんならなぁ!!」
ほぼ0距離から放たれた一撃はコクハへ接触する瞬間に無音・無色の爆発をもって更なる追撃を与える!

振り切った後、再び形を失った球体は元の白い板に姿を変えて手元に収まる。
至近距離からの一撃、その結末を見ることなくオレは聖騎士と従士の二人の方を振り返る。
「とっととずらかるぞ!これ以上相手をしている時間が惜しい。し、これで死ぬとも思えない。
 途中で連中が妨害を受けてたらそっちも手伝ってやらなきゃいけないしな。」

そう声をかけて、揺り篭通りへの道を走り出す。

67 名前:コクハ ◆b9hCaqglWQ [sage] 投稿日:2009/11/20(金) 15:23:22 0
>>66
>「確かにその方法だと『四瑞』じゃあんたにダメージは与えられなくなるが・・・この『四霊』ならどうだ?!」
ぞわり。
嫌な空気がした。
糸から手を離し、飛びのこうとするが、その時はすでに遅かった。
貿易センタービルと同じ高さはあろうかと思われる槌が天から落下し、コクハの体がぺしゃんこになった。
さらに爆発が加わり、コクハの脳髄・臓物・コクハを構成するありとあらゆるものはこの世から消えてしまった。
だが、この爆発で持消えないものは一つだけあった。
クレーターの中心部に黒い剣が転がっている。
その剣はあれだけの爆発を受けたにもかかわらず、傷一つなく、怪しげな光を放っていた。
【コクハ死亡。いままでお付き合いくださりありがとうございます。いろいろと迷惑をかけてすみませんでした】

68 名前:銀河鉄道電車男曹長@∃∀∞【*Д*】+∇+[http://blog.goo.ne.jp/anco-suki/] 投稿日:2009/11/20(金) 18:53:06 0
【登場作品】株式会社UPLの宇宙戦艦ゴモラ続編に大ゴモラ大銀河シリーズ。
【機体名称】大ゴモラ零号ウルトラスーパーハイパースペシャルデラックスパーフェクトアンリミテッドアルティメットエターナルエンドレスエイトインフィニティーエボリューションバージョン。
【全能力値】全ステータスが超究極∞以上を遥かに越えている不沈艦&無敵&不死身&最強最大最高最良。
【全習得技】ショックカノン&プラズマビーム副砲&パルスレーザー砲塔&オールディメンションブレイクインパルスリアクションブラスター主砲&煙突ミサイル&波動カートリッジ弾&波動缶詰開放兵器。
【秘密兵器】宇宙魚雷&光子魚雷&量子魚雷&フェイザー砲&大ゴモラ砲&大ゴモラ三連砲&大銀河砲&回帰時空砲&マイナス時空砲&次元反動砲&異次元領域エネルギー砲&超空間亜空間霊界砲。
【特別装備】グランドフィナーレファイナルラストステージエンドオブザワールド全知全能自由自在転送技術瞬間移動移動圧縮凝縮衝撃驚愕一点集中臨界収束パラレルワールドアナザースペースクラッシャーガトリング波動砲。

69 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/11/21(土) 01:30:25 0
バイアネットを振り抜くと、それは意外なほどに軽く、しかし確かな手応えを残して打音を奏でる。
ルキフェルは胴体こそ真っ二つにならなかったものの、それ以外の責め苦を全てその身に受けて吹っ飛んでいく。

「…フフ…最高だ。やはりニンゲンは…――面白い」

残響にように呟きを風に混ぜながら残りの呼気を肺から追い出し、やがて失速して地面へと叩きつけられるようにして沈む。
そうして彼は、それ以上動かなくなった。数十人もの人間をその手にかけた悪魔のような男が、あっけないほどに沈黙した。

「面白いだろ、人間――これからもっと面白くしてやるから草葉の陰から眺めとけ!」

息を大きく吐きながら強化術式と戦闘加護を解き、バイアネットを畳む。
背後の物音に振り向くと打撃された箇所を押さえながらフィオナが吹っ飛んだルキフェルを見送っていた。

「あ痛た……、助かりました。こちらは何とかなりましたね」

「流石に二度も死線くぐるのは御免だったぜ……そっちの傷は大丈夫かよ?結構無茶やっただろ」

外装を抉られたのか、脇腹のあたりから眩しい肌が露出している。鎧に守られていた絹肌は傷一つなく滑らかで、
騎士であるが故か適度な薄い肉が艶かしいくびれと陰影を醸している。まだ寒い季節ではないので風邪を引くことはないだろうが、
どちらかというとレクストの方が眼に毒だ。わざと視線を逸らしてそれを視界に入れないようにしながら、十字架使いの方を見て、

「おいおい……あの武装をどういう風に使ったらこんな芸当ができるんだよ……」

クレーターが出来上がっていた。どれほどの質量と大きさが激突したのか、石畳は大きく抉れ更地になっている。
衝突に際に爆発も起こったのか、所々が焼け焦げ石畳の下の砂層はガラス化していた。

あの黒翼の魔物が居た痕跡はどこにも見つからず、まるでそこには初めから何者も存在していなかったような風である。
唯一の名残を挙げるなら、中央噴水と同じくらいはある巨大なクレーターの中心に一振りの剣が転がっていた。

黒剣。フィオナのものと大きさはさして変わらない、しかし漆黒に染まったバスタードソード。
黒翼の魔物が振るっていた唯一つの刃であり、そこに彼女が存在した証左。傷一つなく、光を放ってすらいる。

(降魔犠牲者の忘れ形見、か――墓代わりにでもしてやるかな)

彼女とて魔物に変わってしまったのは本意でないはずだ。例え敵として立ち塞がった相手の遺留品でも、
このまま埋めてしまうのはあまりにも不憫である。見たところ、それなりに価値のあるものであることだし。

クレーターの中心部まで駆け下りて、柄を握って拾い上げると、それは驚くほど手に馴染んだ。
応急処置用の滅菌布を刃の部分に丁寧に巻き付け、腰の武装ベルトのハードポイントに挟みこむようにして差した。

「とっととずらかるぞ!これ以上相手をしている時間が惜しい。し、これで死ぬとも思えない。
 途中で連中が妨害を受けてたらそっちも手伝ってやらなきゃいけないしな」

クレーターの外から十字架使いが声を張り上げ、北区へと駆け始めた。
今のところルキフェルは昏倒しているが、命までは奪えていない。ツメが甘いのではなく、意図的に防がれたのだ。
ここで止めを刺す選択もあったが、この昏倒自体が罠である可能性と、避難組の安否を考慮するにそんな時間はなさそうだ。

「俺達も行こう。揺り篭通りに行けば街を魔物から奪い返す足がかりが出来るし、物資の補給も必要だ。壊された装甲とかも換えなきゃな」

クレーターから這い上がるとフィオナを促すようにして先行し、しかしレクストは途中でその足を止めた。
後ろを付いてくるフィオナの方を振り返り、やっぱり視線を逸らしたままで、バックパックから布製の薄上着を取り出した。
装甲の下に着込む緩衝用の綿着、その予備である。

「あー、なんつうか、色々見えまくりでヤバいからよ。これ使ってくれ!」

レクスト19歳。
教導院の寮生活、そして従士隊の宿舎と男所帯ばかりで過ごしすぎたせいか、未だに初心であった。



70 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/11/21(土) 01:35:28 0
(揺り篭通りの連中は無事か……?あそこは守備隊増員されてるし祭りの中心からも遠いから大丈夫だとは思うけどよ……)

降魔されたのは炊き出しを口にした者達。そして炊き出しは街の中心で行われていた。
揺り篭通りは露店を出す店も多く、北区にいるうちは炊き出しを食べに行くなんてことはないとは思うが。
全ては希望的観測だった。そしてそのレクストの儚き願望は、あまりにもあんまりな形で裏切られることになる。

「な、な、なんだこれ――!!」

揺り篭通りの入り口に、巨人が居た。
巨人がその豪腕を唸らせ、魔物の群れを薙ぎ払っていた。
腕を一振りするごとに突風が吹き荒れ、それ以上の規模でもって大量の魔物達が宙を舞う。

「ゴーレムか、これ……なんでこんなもんがうちの地元に!」

三階建てほどもある巨躯のほとんどは精霊樹材とミスリルで構成されていて、ところどころ悪趣味な塗装がされていた。
塗装は極彩色の魔導顔料で、淡く光るその色彩は文字を夜空に浮かび上がらせている。

『リフレクティア商店協賛』

「スポンサーついてるぅぅぅぅぅ!?」

「おおレク坊!無事だったか!!尖塔のほうで大爆発があったらしいから心配してたんだぞぉ!」

不意に声を投げかけられ、反射的に視線を遣ると兄がいた。いつものバーエプロンを纏ったティアルドが、
手元にある魔法陣に指を走らせ術式命令文を書き綴りながら器用にも手を振っていた。

「兄貴!よかった生きてたか……ってのは置いといて"これ"は一体なんなんだよ!」

「あー!?」

「こ、れ、は!こ、の、デ、カ、ブ、ツ、は!一体何でどっから出てきたんだよォ!!」

聳え立つゴーレムをびしりと指差しながら、レクストは兄と同様声を張り上げて質問する。
彼我の距離は未だ30メートルほどあり、ほとんど怒号の飛ばし合いに近い会話だった。

「二足歩行型タイタン級陸戦ゴーレム『インファイト1号』ちゃんだ!かっこいいだろ!?欲しいっつってもやんねーぞ!」

「かっこいいし欲しいけど!なんだってこんなもんがこんなとこで揺り篭通りの門番やってんだ!?」

「それはな「ヴォオオオオオオオ!!」

しかし返答を聞くことは適わなかった。駆けるレクスト達へ無数の魔物達が飛び掛ってきたからである。
インファイト一号ちゃんに敵わないと見て少数のこちらを狙ってきたのだろうか、如何せん数が多すぎて対応しきれない。

「おい兄貴、こいつらどうにかし――」

そんなレクストの叫びさえも飲み込まれた。それ以上の悲鳴が、魔物達から挙がったためである。
魔物達の巨躯に阻まれてよく見えないが、包囲網の外側から雄叫びのような声が挙がって、蒸気が立ち昇っている。
やがて叫びと蒸気の連鎖はレクスト達のところまで続いてきて、彼に襲い掛かっていた魔物さえもその餌食となった。

力なく崩れ落ちる魔物達。その身体は何かで濡れており、ゆっくりと、しかし確実に異形の体躯を融かしていく。
蒸気が昇り、やがて視界が晴れた先に見えたものは、意識を失った人間達が折り重なるようにして倒れた光景だった。

「――弱った魔物に高濃度の聖水を浴びせると、降魔された人たちも人間に戻せるみたい」

平坦な声の解説にはっとしてそちらを見ると、紐と革を組み合わせた投石器を両手からぶら下げて、高台から見下ろす少女が一人。

「……リフィル!」

あくまで希望的"観測"だった。無事なんてもんじゃない。揺り篭通りは既に、反撃の狼煙を煌々と燃え上がらせていた。

71 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/11/21(土) 01:38:49 0
「戦争が起こるかもっつったろ?だから北部の『武装都市ロトヴィア』からパーツごとに個人輸入してよ、
 圧縮術式使って極秘裏に組み上げてたんだよ。知ってたのは搬入業者と親父だけだな!」

揺り篭通りに迎え入れられてから、ティアルドに現在の状況と概要をおおまかに聞いた。
どうやらやっと通信が回復したらしく、他の区の守備隊とも連携をとってどうにか防衛体制の立て直しを図っているそうだ。

「一時はとんでもない量の魔物が押し寄せてて、いっぱい殺していっぱい死んで、どうなっちゃうかと思ってたけど」

所帯なさげに早歩きでうろうろしながらリフィルが補足する。腰に巻いたガンベルトには聖水の小瓶が大量に装填されていた。
これを投石器で投擲し魔物にぶつけ、割れた瓶の中身を浴びせることで降魔の解除をしているようだ。
レクスト達を救ったのも同じ手法で、特に非力な子供達は専ら痛めつけて無力化した魔物を人間に戻す作業を請け負っているらしい。

「いきなり尖塔のほうで爆発が起こって、結界の中に立ち込めてた暗雲が消えて魔物の動きが鈍くなったの」

降魔の甘い連中の中には自力で人間に戻った者もいたらしい。そこからヒントを得て、聖水で浄化する発想に至ったそうだ。
的当ての名手であるリフィルは自ら聖水投擲の役を買って出て、そして結果を出した。

「一旦魔物化した奴らで今人間でいられる連中は、みんなリフィルちゃんには頭が上がらんよ」

肉屋の主人がそう賛美して、周りにいた大人達が異口同音に頷いた。いずれも身内を救われた者達である。

「へぇっ、流石は俺の妹!こりゃ俺以上の偉人になるかもなあ!!」

「基準を一緒にしないで愚兄。――生まれながらの出来が違うから」

「おいおい謙遜すんなよなよゴハァッ!!?」

頭骨に蹴りを入れられ、盛大に地面に伸びる。大の字のままレクストは、そして思い至って兄に聞いた。

「そうだ、東区のほうから避難民が来てないか?俺達もさっきまであっちに居たんだけどよ」

「ああ、守備隊に先導されてた連中だろ?大丈夫、ちゃんと来てる。酷かったらしいなそっちは――お前、刺されたんだって?」

ティアルドの声にリフィルがピクリ肩を震わせ、こちらを見た。その瞳には当惑の色がある。
兄が知らないうちに重傷を負っていた事実と、それにまるで気付かなかった自身への困惑だろうか。
無理からぬことである。何故ならその傷は、跡形もなく癒えきっているのだから。

「……まあ、刺されたっちゃあ刺されたけどよ、優秀な術者のお陰でサッパリ治っちまったよ。元気元気。そんなことより親父は?」

「揺り篭通りの北端、町はずれの城壁までご出張だ。結界が弱まったせいか外からも魔物が入り込んできたらしくてな、
 守備隊の連中と一緒に討伐に行ってる。しばらくは帰ってこねえだろうから、会うなら行って来いよ」

そういえば通りの入り口にいる守備隊の数が妙に少ないと思っていた。姿を見かけない元黒衣達も外壁防衛に行ったらしい。
どちらにせよ街を取り戻すには守備隊の協力が不可欠――会いにいくほかないようだ。

「つーわけで」

レクストはおもむろに起き上がり、同行してきたフォオナとハスタへ向き直る。
彼女達も戦闘の疲れと傷を癒す必要があるだろうし、武器や物資の補給を考えると前線にじっとしているわけにはいくまい。
ここでしっかりと準備を整え、万全万端でヴァフティア奪還に乗り出すべきだろう。

「俺はこれから守備隊の連中と話つけに揺り篭通りの外壁部まで行くぜ。
 ここはしばらく安全だろうから、休むなり武装整えるなりしといてくれ。俺と一緒に外壁まで来てくれるならモアベターだ。助かる」



【揺り篭通り到達完了。守備隊の力を借りるためレクストは外壁部へ】

【通りには飲食店から術具店、武具屋など様々な店があり、傷の手当て、兵糧や武器の補充、防具の補修等ができます】


72 名前: ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2009/11/21(土) 02:52:17 0
―ヴァフティアの外れ 洞窟内部

「ニンゲン如きに負けるとは、愚かだな」
洞窟の中、薄暗い闇の中で複数の男女がルキフェルを囲み嘲笑していた。
体のそれぞれに紋章のような物を記している。

「しかし、ニンゲンは油断は出来ない。かつての敗北を忘れた分けではない筈だ。」
その中で1人、無表情のままの美女が呟く。
男女は口々に笑みを浮かべながら頷いた。
「殺し甲斐があるということだな。」

ルキフェルの隣に、青い魂が舞い降りる。
ルキフェルは心底嬉しそうに笑っている。
笑みを浮かべたまま、影に小さく声をかけた。

「もうすぐ、会えますよ。貴方の…大切な――」

影は何の事か?とでも言うように顔を向ける。
女性のような、それでいて恐ろしく低い声で言う。
「……ワタシハ、ワカラナイ。タダ…タタカウダケダ…」
影が姿を現す。その姿は、虎と龍の合成された魔人。
邪悪な魔物のようでありながら
一部分はニンゲンであった頃の姿を残している。

「門の争奪戦以来ですか…随分待ちました。
しかし、人の命を弄ぶのも――中々楽しいものです。」

73 名前: ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2009/11/21(土) 03:24:20 0
―同時刻 教団内部

「これは…!?」
教団の最深部、リュネのいた部屋の隣で1つの死体が見つかった。
数年は経過しているであろうその白骨化した遺体は四股が砕け散り、
そしてその傍らには「幹部」の証である金眼が転がっていた。
そしてその背格好、衣服。それはある男に酷似していた。
「まさか…いや、そんな筈は。」
ボロボロに朽ち果てた黒い衣装。そして、眼鏡。
「ルキフェル様…この死体はルキフェル様の物か?いや、そんな筈はない。
ルキフェル様はまだご存命だ。」

1人の幹部候補が口を開いた。
「何故…幹部の証である金眼がここにある?
おかしいとは思っていたが、何故ルキフェル様は今もなお
金眼を得ていない?」

「そ、それは…あの方は病弱が故に…」

顔を見合わせ狼狽する。
ここにある死体は何なのだ?と自問するが故に。

「もしも、だ。もしこの死体が俺達の知っているルキフェル様だとするならば…
今、生きているルキフェル様は…誰なんだ?」



74 名前:ギルバート ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2009/11/22(日) 03:45:39 0
「…本当に馬鹿。欲深くて、色好みで、先走って、無謀で――見ず知らずの小汚い女、利用するつもりだった癖に結局」

ぽん、とミアの頭に手を載せ、少し乱暴に頭を撫でる。
ちょうど初めての、そして久しぶりの邂逅の時のように。

「あいつが選んだ事だ。野郎・・・笑ってやがったぜ。
 あいつは手元で最強のカードを切って、クソ野郎どもの身包み引っ剥がしたんだ。
 なぁ、だから後は俺達がケリをつける。一緒に、な」
「―――今から5分。貴方を全力で援護できる」
「十分すぎる。居眠りしちまうかもな」
「……大怪我したら、返してあげないから」

ひょっとしたら初めて見たかもしれない、彼女の笑顔。あるいは四度目か。
ああ、畜生。いい女だ。こいつ守って死ぬなら、悪くない―――
呟きは心の中に留め、地を蹴った。

「な・め・る・な・よ!!!!!!
例え心臓が潰れようとも!体を維持できなくとも!あの男を殺し貴様を侵す力と時間くらい無いと思うてか!!!」

少女が狂気の宿った叫びを上げ、圧倒的な衝撃波が地を這い空を裂く。
蹴った足を大きく回転させて振り下ろし、地を踏み抜く。
その衝撃で人の背丈ほどの瓦礫がめくれ上がり、盾となってミアとギルバートを守り、少女の視界を塞いだ。
さらにその瓦礫の背後から無数の魔力線が上下左右に走り、壁に、地に繋がれ道を作る。

「さてお嬢さん。簡単な問題だ。右か?左か?それとも上か?」

声が聞こえたのは一瞬。一呼吸置いた次の瞬間、瓦礫が砕け散り、無数の破片が少女を襲う。

「―――前だ」

その破片と共に狼が紅い焔の線を連れ、銀色の閃光となって真っ直ぐに突進してきた。
破片は重力場に妨げられ地に落ちるが、狼のスピードはその身体能力のみならず、ミアの助けを得て恐ろしく早い。
さらに、狼と少女の間には歴然たる体重差があった。
重力は誰にでも平等だ。ちょうど先程の犀と化したディーバダッタとギルバートと同じ事―――

「ガァァァアアアウッ!!!」

咆哮と同時に狼が少女に激突し、石壁を叩いたような音と共に大きく突き飛ばした。

「ミア!飛ばせ!!」

間髪入れず人に戻ったギルバートが叫ぶ。肉体の力では不可能な運動で、ギルバートの体が大きく飛翔した。

「おおらぁぁぁあああッ!!!」

先に張り巡らせた魔力線を引いて鋭角に軌道を変え、ギルバートの体が弾丸のように少女の上へ落下する。
右拳の銀指輪が紅く光り、少女の頭を撃ち抜いた―――かのように見えた。

75 名前:ギルバート ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2009/11/22(日) 03:53:22 0

(外した――――!)

やはり人間の反応ではない。拳は空を切り、地面に小さなクレーターを作っていた。
だが―――――

「―――捕まえた」

にやりと笑い、左腕を上げる。見れば、左手を経由した魔力線が少女の左手に幾重にも絡みつき、捕らえていた。
ぎりぎりと魔力線を引き寄せ、互いに左手を封じられた状態で、顔を突き合わせるような近距離で向き合う。

「言っただろ?さあ、馬上名乗りを上げて、正面から、槍試合だ」

右拳のストレートを叩き込む。その重さも、早さも、先程とは比べ物にならない。
ああ、それにしてもムカつく化け物だ。何よりもその外見がふざけている。
先程のガチムチマッチョの方がよっぽど親しみを感じる。心置きなく殴れるからな。

「なぁ、聞けよ。俺は面倒な事が大嫌いでね」

もう一発。今度はこめかみを狙ったフックだ。人並みにこめかみが痛いのかは知らないが。

「この"ステッペル"だってホントは面倒くさくて使いたくねぇんだよ。
 こんなチマチマ伸ばして操るなんてのはどう考えても合わないだろ」

ウルフィ・ステッペル―――猟師が使う、縄を使った罠の一種だ。野生の狼を捕らえるのに用いる。
紅く光る魔力線にはその名が付けられていた。

「でもな、昔グレイってダチの師匠がクソ真面目な堅物でよ。
 そいつがこういう小細工も覚えとけってうるさかった」

左頬に痛みが走り、世界が揺れる。平手とは恐れ入った。
傍目にはさぞかし酷い光景に見える事だろう。構うものか。

「何が言いたいかって?
 いいか。死んだ奴が生き返るとか、二人が一つになるとか、この世界を変えてやるとか―――
 そーゆー話は俺は大ッ嫌いだ。ましてや、何だ?あの嬢ちゃんを器にして地獄を呼ぶ?
 ふざけるなよ!人は自然に死ぬから精一杯生きるんだろうが!!
 いつか死ぬからこそ、その一瞬その一瞬を必死で描いてんだよ!!
 それを、んな簡単に誰かの生を終わらせるとか面倒くさい事を許すか!!」

口の中が切れ、血混じりの唾を地に吐き捨てる。お返しにカウンター気味の顎を入れてやる。

「俺は嬢ちゃんの生き方を見届けて、ついでにそれなりに楽しい思いして、しかるのちに死ぬんだよ。
 テメェなんかにあいつはやらん。あいつが俺を助けて死んだのは、そんな面倒くさい事の為じゃねぇ
 勿論この世界もテメェにやらん。あいつが世界を守ったのは、誰かが好き勝手にぶっ壊す為じゃねぇ」

ひたいが切れ、左目に血が流れる。何でもいい、見えれば問題ない。

「―――自分の絵が描きたけりゃ、与えられた色を使ってテメェで描け。このクソ化け物がぁ―――ッ!!!」

赤く紅く燃える瞳と指輪、そして言葉が、幾度も繰り返し少女を襲った。

76 名前:ハスタ ◆fmAKADpWIqWy [sage] 投稿日:2009/11/22(日) 23:37:19 0
>48>65>67>69>70
アッパースイングでハンマーを叩きつけようとした瞬間、脳裏で声がささやく。
コレデハタリナイ、モット、モット!と。
一旦ハンマーを空振りさせ、中空でタメを作る。周りから吸収したソレが四霊に取り込まれさらに巨大化。
それを眼前で見ればもはや絶壁のような圧力を発しているだろう大槌を、振り下ろす!

最早目を開けていられ無いほどの爆発。
再び目を開いた時には周囲は大惨事と化していた。
>「おいおい……あの武装をどういう風に使ったらこんな芸当ができるんだよ……」
「ハハ・・・・・・ちと調子に乗りすぎた、n・・・げふっ。」

白い板となった四瑞を左手に、右手で口元を押さえると自身の血で少し赤黒く手が染まった。
「はっ、随分空気がすっきりしたな。にしても・・・・・・案外初心なんだなぁ、従士サマ?」
右手を握り締めて乱雑に口元を拭って気取られぬようにし、軽口を叩く。
実際クレーターのあたりだけ周囲よりも更に瘴気が薄い。まるで何かに削られたように瘴気が消費されている。

あまり心配をかけまいと我先に揺り篭通りへ向かう道中、壁に体を預けもう一度口中に溜まった血を吐き出す。
そうして片隅の路地を見やると、ある一体の死体に目が行った。不自然なぐらい損傷の少ない死体。
何となく、心の片隅に記憶して再び路地を駆ける。

>「俺はこれから守備隊の連中と話つけに揺り篭通りの外壁部まで行くぜ。
> ここはしばらく安全だろうから、休むなり武装整えるなりしといてくれ。俺と一緒に外壁まで来てくれるならモアベターだ。助かる」
揺り篭通りでは、住民達によるちょっとした拠点が出来上がっていた。
ここまで街が凄惨な状態であるにも関わらず、人々の表情は明るいとまでは言わずとも覇気がある。
やはり、人間っていうのは抗う生き物でなきゃな。そう、呟いてからレクスト達へと向き直る。
「そういや、名乗ってなかったな。俺はハスタ。“四瑞”のハスタ。所謂ハンターって奴だ。
 ・・・・・・で、もし外壁に行くのに余裕があるなら2、3分待ってくれないか?すぐ終わる。」

そう言って、道具屋の方へ向かう。レクストとすれ違う瞬間だけ彼にのみ聞こえるように囁く。
「途中、妙な死体を見つけた。気をつけた方がいい、敵が人外だけとも限らなさそうだ。」

道具屋でインクと筆を買うと、路地の壁に背をつけて座る。
自身の四方に四分割した槍を突き立てて周囲を囲むと、懐から取り出した10枚の紙に何事かを書き付ける。
紙一杯に広がるものは絵の様であり文字の様な図柄。
まるで精密な機械の様に図を描くと、紙をホルダーに収める。
「若干手順は簡略化したが・・・さっき消耗した符の劣化代用品ぐらいにはなるだろ。待たせた。」

【符を十枚簡易作成、補充しレクストについていく。】

77 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/11/24(火) 00:25:03 0
保守

78 名前:ミア ◆JJ6qDFyzCY [sage] 投稿日:2009/11/25(水) 01:45:38 P
>「な・め・る・な・よ!!!!!!
>例え心臓が潰れようとも!体を維持できなくとも!あの男を殺し貴様を侵す力と時
間くらい無いと思うてか!!!」

その髪は国造りの大蛇もかくやと乱れに乱れ、その叫びはそれだけで人の胸を抉り抜くような憤怒が込もっていた。
景色が捻れる。空気が一瞬の疎、次いで凄烈な密でもって周囲を打つ。
――当たれば、死ぬ。
ミアは――動じなかった。
ただ事も無げにひょいと袖を顔前に掲げただけ。
刹那、爆音のような音と共にめくれあがった石畳が二人を守る。

>「―――前だ」
「“祝福”」
石の防壁が砕ける。身体能力を高められた狼が銀の弾と化して踊り出る。
――背後のミアに注いだ小さな石片は掲げた袖に払われ、落ちた。

>「ミア!飛ばせ!!」
「“飛………、ん…」
咄嗟に式を組み換え、ある程度の浮力を前方への推進力に振り替えて発動。
男が飛んだ。速い。ミアが目で追うには速すぎる。
勘で式を終了させ、感覚が現実に追くのはその一瞬後だった。
そして視界に飛び込んだのは、互いを間合いに捉えて組み合う二人。

>「―――捕まえた。
>言っただろ?さあ、馬上名乗りを上げて、正面から、槍試合だ」

不敵な言葉が低く風を震わせる。
それが幾度と無く続く、命の削り合いの合図となった。
風を切る音。叫び。呻き。打突音。何より煩い、自分の心音。
どちらとも分からぬ血しぶきが月下に仄光る石面を彩る度、
ミアの表情が微かに、夜風にそよぐ綿毛ほどの密かさでもって微かに揺れる。
人を超えた者同士の一騎討ちだ。立ち入る隙があるはずもない。それがもどかしい。

(ギルバート……)

>「ふざけるなよ!人は自然に死ぬから精一杯生きるんだろうが!!」

(………え?)


79 名前:ミア ◆JJ6qDFyzCY [sage] 投稿日:2009/11/25(水) 01:48:01 P
(……自然に…死…?)

>「いつか死ぬからこそ、その一瞬その一瞬を必死で描いてんだよ!!」

先ほどと異なる汗・心音の存在を彼女は認めざるを得なかった。戦場にも関わらず、だ。
死は彼女の中で絶対的な恐怖の対象だった。
理解できない。
思考が拒否を始め、ミアは我知らず首を振って額を押さえていた。
考え方よりも、何よりも信じられない。死を受け入れてあのように強く光を放てるものなのか?
できない。できっこない。自分はそう思う。
――なのに。
何だろう。心臓が息をしづらい程に締まって、鼻の奥の骨の辺りが痛い。
何だろう。これは期待?憧れ?彼の考えに対して?

>「それを、んな簡単に誰かの生を終わらせるとか面倒くさい事を許すか!!」

(……あれ……何か……)

ギルバート。
顔面から血を垂れ流し、バックは路地、武器は拳、相手は女。
馬上試合?何の間違いか。
だが――ミアの目には泥臭い今のその姿が――死を受け入れ生を叫ぶその姿が、人として酷く――魅力的に見えた。

彼の言葉は刹那的に生を送る獣と決定的に異なる言葉、“終わりを知る生物”人間の言葉。
生の価値、死の意義、何一つ理解していなくても、彼の姿は強く彼女を惹きつける。
それが意味するのは、死の恐怖からの解放であったから。

「――ギルバート………」

>「―――自分の絵が描きたけりゃ、与えられた色を使ってテメェで描け。このクソ化
け物がぁ―――ッ!!!」

(じっとして…いられない……私にできることは……!)

ミアは腕を振った。刹那、肌が湧き立つような感覚と共に吹き出る魔力が収束を始める。
夜闇を貫く血色の糸が一斉に震えた。
収束の先は【鍵】を捉えた魔力線だった。
糸は魔力を高め――ゆっくり、暁色へ輝きを転じていく。
華々しく命を燃やす銀の騎士の馬上試合、雄々しく刃を振るうその場を強固に保とうと――
また極度に高まった糸の魔力はギルバートの腕にも流れ込み、力を与えていく。

(お願い……………ギル……!)


80 名前:フィオナ ◆tPyzcD89bA [sage] 投稿日:2009/11/25(水) 04:56:49 0
――轟音。
大気が振るえ、空気がたわむ。

爆発音の後、フィオナが見つめる先には縁が隆起した巨大な窪地が出来上がっていた。
黒翼の堕天使は直撃を受け消滅したのか周囲を見回してもその姿を確認できない。
窪地の底、中心部には一振りの黒剣が墓標の様に突き立っている。
これ程の惨状を引き起こした一撃を受けてもなお、剣は欠ける事無く刀身は怪しげな光を照り返していた。

(生前はさぞ卓越した剣士だったのでしょうね……)
かなりの業物であろう剣と二人掛かりでなんとか出し抜いたルキフェルを翻弄した技量。
降魔の犠牲とならなければ肩を並べ共に戦う道もあったのかもしれない。

「至高なる天空におわす神よ。彼の者の魂に憐れみを……。」
聖印を握り締めたフィオナの口から自然と祈りの言葉が紡がれる。

『とっととずらかるぞ!これ以上相手をしている時間が惜しい。し、これで死ぬとも思えない。
 途中で連中が妨害を受けてたらそっちも手伝ってやらなきゃいけないしな』

フィオナがあまり行うことのない聖職者としての本分を全うしているとそれを嗜めるように声が響いた。
声の方を見るとハスタが身振りで「急げ」と指示を出しながら駆けて来る。
そうだった。これで終わりではない。
先に逃がした市民や守備隊達と『揺り篭通り』で合流しヴァフティアを魔より奪還するという仕事が残っているのだ。

『俺達も行こう。揺り篭通りに行けば街を魔物から奪い返す足がかりが出来るし、物資の補給も必要だ。壊された装甲とかも換えなきゃな』

ザリザリと瓦礫と化した石畳を踏み分けよじ登ってきたレクストもハスタに続く。
その腰には拾ってきたのだろう剣が布を巻かれ差されていた。
フィオナも遅れないよう走り出そうとしたその時、レクストが立ち止まり此方を振り返るとまたついっと視線を逸らす。
なんだろう、とフィオナが首を傾げるとバックパックから薄手の上着を取り出し――

『あー、なんつうか、色々見えまくりでヤバいからよ。これ使ってくれ!』

――差し出した。

「へ?」

思わず間抜けな声が出てしまう。
『・・・・・・案外初心なんだなぁ、従士サマ?』
ハスタも口元に手をあてくつくつと肩を震わせている。
(色々見える……?)
フィオナが視線を下へ、自分の体へと向けるとルキフェルの衝撃波を受けた際だろうか脇腹の辺りの上衣とその下の鎖帷子、更にその下に着けていた鎧下の服までがごっそりと無くなっている。
腰の辺りは言うに及ばず胸の下部分を辛うじて覆う程度だった。

「なっ、なななななな……。」
フィオナは何かを言おうとして、しかし次の句が告げられずに――
「――うわあああああああああん!」
泣き声と共に従士の顔面へとグーパンチを叩き付けた。

81 名前:フィオナ ◆tPyzcD89bA [sage] 投稿日:2009/11/25(水) 04:58:26 0
「あ、あのあのっ。ご、ごめんなさいっ!」
揺り篭通りへの道すがらフィオナは延々とレクストに謝罪していた。
気を使って衣服を差し出してくれたレクストをあろうことかガントレット付きの拳で殴り倒したのだから当然と言えば当然である。
今着ているのはその時渡された綿着である。
さすがにぶかぶかだったので袖の部分は折り返されているが。

レクストの機嫌が直ったのは――というかそれどころではない状態が発生したからだが――揺り篭通りへと到着した時だった。
先に此処へと逃げてきた市民、守備隊は無事だった。
それどころか商店街は独自の戦力で魔を撃退してすらいた。

「ヴァオオオォゥ!」

轟く雄叫び。唸る豪腕。
その身に纏うは『リフレクティア商店協賛』の文字。
手広い商売と店員の個性でヴァフティア市民なら知らない者は居ない商店街の名物、リフレクティア商店が揃えた戦術級ゴーレムの一団である。
どうやらレクストはそのリフレクティア商店の一員、つまるところ家族らしい。
先程から兄と思しき人と楽しげなやり取りをしている。
と、思った矢先。今度は妹だろう小柄な少女の蹴りを側頭に受け悶絶していた。

(神殿の皆は無事でしょうか)
仲睦まじいその様子を見て思わず神殿の同僚の安否が心配になった。
(ま、まあ団長が居れば大丈夫でしょうけど……)
が、二振りの大剣を軽々と振り回す偉丈婦を思い出し、ややげんなりとしつつ不安を振り切る。

『そうだ、東区のほうから避難民が来てないか?俺達もさっきまであっちに居たんだけどよ』
大の字に地面に伸びたままのレクストがティアルドへ問いかける。
対する答えは是。
市民は手当てを受け、守備隊や元教団員のジルドは外壁防衛へ赴いたとの事だった。

『つーわけで』
『俺はこれから守備隊の連中と話つけに揺り篭通りの外壁部まで行くぜ。
 ここはしばらく安全だろうから、休むなり武装整えるなりしといてくれ。俺と一緒に外壁まで来てくれるならモアベターだ。助かる』
やおら起き上がったレクストが此方へと声をかけてくる。

「勿論ご一緒します。此処まで来て仲間はずれは無しですよ?」
フィオナは笑顔で答えると商店街の一角、神殿ご用達の店へと駆け込んだ。

【レクストに同行。店で損耗した武具の補充をします。】

82 名前: ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2009/11/25(水) 13:20:23 0
―7年前 ゲート争奪戦―

呆然とする1人の少年を、金髪の青年が見つめている。

「どうしたの?そんな顔して。」

青年は天使のような笑みを浮かべて少年に聞いた。
少年は己の無力を唯、嘆いているようだ。
青年はそれを見て、つまらなそうに1体の魔物と、それに立ち向かう男を
睨んだ。

「ねぇ、強くなってよ。強くなって、俺をもって笑顔にしてよ。」

少年の目に焼きつくのは絶対的な闇。それまでの天使のような笑みを
浮かべていた青年は消え去り目の前には形容し難い存在が――居た。
少年から離れた青年は凄惨な殺戮を楽しんで眺めていた。
まるで楽しい劇を見ているかのように。
ずっと、笑っていた。その光景を少年は深い記憶の中に封印しているのだろう。


――現在 揺り篭通り前

「さぁ、始めましょうか。…と言っても私ではありませんがね。」

黒衣の紳士、ルキフェルの横には女の姿。
右腕に龍の紋章、そして左腕には虎の紋章を刻んでいる。
「地獄から蘇りし者。
貴方の力を、見せる時が来ました。さぁ、行きなさい。」

女性は無表情のまま揺り篭通りへ歩いていく。
全身に禍々しい闇を纏いながら。
それを見届けたルキフェルの姿が黄金の光に包まれる。
それまでの壮年の紳士からは一変し、若い青年の姿になった彼がそこにいた。

「自分が信じていたモノ、その全てがたとえ敵だとしても貴方は戦えますか?
フフ…面白い暇潰しになりそうだ。ねぇ、お母さん。」

女は一瞬立ち止まる。しかしすぐに踵を返し通りへ向っていく。

「さて、少し楽しんだら帰るとしましょうか…”帝都”に。」

【揺り篭通りへ刺客を送る】

83 名前: ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2009/11/25(水) 13:28:51 0
【訂正】

「ねぇ、強くなってよ。強くなって、俺をもっと笑顔にしてよ。」

(失礼しました)



84 名前:ヴァイガン ◆LcsXp64T2A [sage] 投稿日:2009/11/25(水) 17:41:03 0
名前:ヴァイガン
年齢:?歳
性別:男
種族:竜人と人間のハーフ
体型:優男
服装:聖職者が着るようなローブを着用
能力:ドラゴンの血から「竜魔石」と呼ばれる特殊な魔石を精錬することができる
    竜魔石そのものを媒体とし、元になったドラゴンの力を魔法のように行使できる
所持品:火竜の魔石、雷龍の魔石
簡易説明:かつて超高度な魔法文明を築き上げていた竜人の末裔
       一見すると気弱な優男だが、目的のためには手段を選ばない非情な本性を持つ
       親の遺言に従い、竜人の築いた栄光の歴史を知るための探求の旅を続けている
       だが、最近そんなことには嫌気が差しており、成り上ろうと目論む

85 名前:ヴァイガン ◆LcsXp64T2A [sage] 投稿日:2009/11/25(水) 17:57:42 0
【残念ながら、私はこの町に来てからロクなことがなかった】
【この地域にはドラゴンはほとんど生息しておらず、そもそも足を踏み入れる理由はない】
【だが、それでも私がここに来たのには「理由」があった】
【それは、古今東西の魔法に関する書物が揃うと言われている図書館の存在である】
【そこで私は、竜人の文明に関する情報を調べたかったのだ】
【ところが様々なトラブルに巻き込まれて逃げ延び、今では槍を片手に魔物と喧嘩だ】

「な、なんで僕がこんなことを…」
【冗談ではない】
【親の遺言に従って続けているこの旅にも、いい加減嫌気が差していた】
【私の頭には、竜魔石を使って成り上ろうという野心が首をもたげている】
【竜人の末裔たる私だけが作れるドラゴンの力の源】
【これこそ正しく、選ばれた者だけが持てる英雄の力なのだろう】

「うぐぁっ!」
【だが、魔物の尾の一撃を喰らい、吹っ飛ばされてしまう】
【巨大な丸太で殴られたような凄まじい衝撃が全身を走り、痛みなど感じる余裕はなかった】
【ドラゴンの尾に打たれて死んだという祖父も、こんな最期だったのだろうか】
【とにかく、私のちっぽけな野心などここで消えてしまうのだろう】

守備兵「救護班!救護班!
      一人やられたぞ!早く!」
「………」

86 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/11/25(水) 20:36:58 O
新規は避難所と外部避難所で挨拶をすること
そしてコテが挨拶を返してくれたら必ず返事を返せ
礼儀を忘れるな
またこれは強制ではないが名無しの皆さんへの挨拶も添えると印象がいい

87 名前:ディーバダッタ ◆Boz/6.SDro [sage] 投稿日:2009/11/25(水) 21:54:20 0
>75>79
鍵の発生させた重力場は大通りに巨大な穴を穿つていた。
巨大重力は大通りのみならず地下下水道網まで崩壊させ、更に地下の古代ヴィフティア遺跡空間まで穴を開けていたのだ。
そこに残るは崩れ落ちる瓦礫のみで、ギルバートもミアも鍵の姿も既になかった。

極限まで高められた人狼の身体能力にミアの・・・門の魔力を注ぎ込む。
最早それは人の視界には捕らえられぬ戦いとなっていた。
木々がなぎ倒され、地面が穿たれ、屋根が吹き飛ぶ。
その数瞬後に激突音と破壊音が遅れてやってくるのだ。

お互い魔力線で左手を封じられた状態で至近距離で超スピードの打ち合いが続く。
凄絶な撃ち合いの中、糸はミアの魔力をギルバートに注ぎ込みながら暁色へと変る。
その変色は鍵にとっては苦痛の象徴だった。
徐々に鈍っていく鍵の動きにギルバートは一気に畳み掛けた刹那。
鍵の顔から険が取れた。
「やっ・・・い、いた・・い・・・。だめ・・・。」
最早それは鍵ではなく、幼いミアの顔。
涙を溜めた瞳でギルバートを見上げ、怯えた様に声を上げた。

今は戦いの最中であり、相手は鍵である。
それでもギルバートに与えた影響は大きく、一気に攻守が交代した。
「あはははは!優しいのね!お じ さ ま !!」
一旦そうなってしまえば最早立て直す機会などは与えはしない。
強力な攻撃と共に二人は体制を崩し、落ちていく。


>81
それは突然のことだった。
轟音と共に屋根を突き破り何かが降ってきた。
その衝撃は凄まじく、店内の惨状を形容する言葉が見つからない。
これだけの衝撃にも拘らずフィオナに影響がなかったのは奇蹟といえるだろう。

立ち込める土煙の中、小さな人影が動く。
その小さな人影の視線を感じた瞬間、フィオナの身につけていた全ての聖印が砕け散った。
凄まじいプレッシャーが店内を満たすが、小さな人影は視線を外すとそのまま扉の吹き飛んだ入り口から出て行った。


ズルリ・・・ズルリ・・・
重いものを引きずるような音と共に鍵は揺り篭通りに出た。
大きな音に避難していた市民達が駆けつけるが、遠巻きにしたまま近づく者はいない。
男を片手で引きずる少女が何者かはわからずとも、本能的にどういったモノかは感じていた。
取り囲む全てのものが戦慄し動けずにいる中、鍵はゆっくりとだか確実に歩を進める。
周囲の人間たちなど目に入っていない。
その先に立つ者は・・・ミア・・・。
鍵は大きく息を吸い、言葉を発する。
ただ一人ミアに向けた言葉であるにも拘らず、取り囲む全ての人間の耳に届くであろう声で。

「こ・の・程・度・だ!お前の希望などっ!!!!!」

引きずっていたギルバートを突きつける。

88 名前:ディーバダッタ ◆Boz/6.SDro [sage] 投稿日:2009/11/25(水) 22:02:05 0
僅かに漏れ出た呻き声でまだ死んでいないことが判るが、満身創痍でいつ死んでもおかしくない状態だった。

「・・・だが・・・それでも・・・お前が羨ましかった・・・。」

先ほどの声とは打って変わり疲れ果て絞り出すような声と共に、ギルバートを掴んでいた鍵の右手が崩れ去った。
完全に燃え尽きは灰のように形をなくした。
そしてギルバートは力なくミアの胸に倒れこむことになる。
「羨ましかった・・・
私の心臓と共に死んだ男のために涙を流せたお前が・・・」
崩れた右手から徐々に崩壊は腕を上ってゆく。
ミアには判るだろう。
もはや鍵の状態が手の施しようもないという事を。
「なぜお前は門でありながらミアなのだ?
なぜ私は鍵であるだけなのだ?
お前と私をわかつたモノは・・・なんなのだ?」
ボロボロと崩れ、既に右半身が失われても尚、鍵は倒れる事無かった。

未だ魔力糸が絡みつく左手を掲げると、大通から光の柱が立ち、魔石が飛来する。
それはオルフェーノクの魔法機械システム中央に秘められていた巨大な魔石。
太古の昔より定められた鍵と門の開錠儀式に際してのバックアップ。
いわば9本目の光の尖塔ともいえる。
本来何らかのトラブルで鍵へのエネルギー供給ができなくなった時の為の。

「もはやそれを考える時間はない。
だから・・・門・・・いや、ミアよ・・・。代わりに考えてくれ・・・。
この脆弱な・・・だがどこまでも優しい希望と共に・・・。」
既に体は殆ど残っていない。
急速に崩れる最後の左手で魔石をギルバートの体に沈めると、ギルバートの傷が癒えていく。
それと共にミアの体にも魔力が満ちてゆく。
ギルバートの体内に溢れる魔力がミアにも流れ込んでいるのだ。
「だが忘れるな。世界は絶望に満ち溢れている。
私たちを生み出すほどに・・・!
既にお前の閂はなく、鍵も消失する。お前は一人体内に地獄を孕み・・・」
鍵は途中で言葉を止めた。
そして改めて・・・
「一人じゃなかったわよね・・・。」
自嘲するような笑みと共にそれ以上は何も言わなかった。
いや、もはや言えなかったのだ。

鍵の最後に残った左半分の顔が崩れ、灰のように宙に消えていく。
「・・・さようなら・・・姉さん・・・」
空耳のような最後の言葉を残し、鍵は・・・完全に消え去った。

それと共に光の尖塔と魔法陣は消え、瘴気も霧散した。
街に未だ蠢く魔達もそれと共に崩れ去り、死に絶える。
その魔物たちは元は金眼を賜った終焉の月の幹部達。
金眼とは「鍵」の一部であり、人間の内部の魔への門を開き魔物かするというものだったのだ。
故に本体の鍵が消滅した今、全ての金眼は砕け魔物たちも無に還る。

街全体の状況を把握するには今しばらく時間はかかるだろう。
だがこの揺り篭通りで見ていた人々は感じていた。
魔は・・・去ったのだ、と。
そして街は救われたのだ、と。

89 名前:ギルバート ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2009/11/26(木) 02:16:18 0

ぽすん。


気絶していたかと思われたギルバートの右手が突如動き、ミアの頭を軽く撫でる。
同時に左手が服の内ポケットを探り、パイプを取り出した。
が、愛用のそれは首の辺りでぽっきりと折れ、使い物にならなくなっていた。

「・・・畜生。禁煙だ――――」

眼を閉じたまま呟き、パイプを投げ捨てる。
次いでしっかりした足取りで立つと、既に半ばまで塵と化した少女に視線を向ける。
その眼はひどく透明で―――同時にどこか寂しそうでもあった。

「馬鹿野郎。何のためにあんな無様に殴り合ったと思ってる。
 ・・・誰にも自分が何者かなんてわかんねーんだよ。
 皆、それを探してる。互いに手を貸して、少しづつ色を重ねている。
 それが人だ。それが―――生きるって事だろうが」

ミアと少女で何が異なったのか―――運命などと簡単な言葉で片付けられるとは思わない。
きっと、その根底の想いは変わらず―――そしてそれはごく小さく、単純な違いなのだ。
だが、そこまでは口に出さなかった。恐らく答えは人の数だけあるものだから。
既に風に吹き散らされ、少女の姿はそこになかった。だが、もう一つやり残した事がある。

胸に手を当てる。ゆっくりと手を動かすと、魔石が姿を現した。
その光は薄れ、僅かに中心部で明滅する様は、弱弱しい心臓の鼓動のようだ。

自分は人狼だ。体の傷は満月の近い今、夜を待てばたちどころに癒える。
しかし、魔石はそれ以外に重要な影響を及ぼしていた。記憶の補完。
ギルバートの中で点々と欠片を残していた記憶が、線で結ばれ、今全てが繋がっていた。
その記憶が、この長い物語での自分の最後の仕事を示していた。

ミアの握り締めた手を我が手で包むように取る。
その中には、先程預けた銀のロケットがある。

90 名前:ギルバート ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2009/11/26(木) 02:19:02 0

(アルテミシア―――悪いな。最後にもう一仕事できちまった)

胸のうちで呟くと眼を閉じ、静かに幾つかの言葉を紡ぎ始める。

「其は忌まれし門を制す閂にして鍵。其は月下にたゆたう薄光にして砕く光芒。
 今、己が道を選びし迷い子に険しき路を切り払う力を与えよ。
 願わくば其が自ら選び、自らの足で歩む道に幸多からん事を。
 エル・クリーグ・ルスメイル―――エル・エスト・ルスメイア
 ・・・ルーネル・アルテミシア」

直後、握り締めた手の内から蒼く眩いばかりの光が溢れ出し、
やがてそれは細く長く伸びてある一つの形を成してゆく。
極めて繊細な装飾の施された、長く美しい銀色の物体。
月の力を形にし、7年の間封印の内にあった"器"の為だけの武器―――アルテミスの銀弓だ。

しかしミアの力が万全でない為か、その弓には弦がない。
今まで伸ばしていた"ステッペル"を全て消し、一本に凝縮すると、その銀弓に弦として張る。
矢もない。確か本来自らの魔力を矢として撃ち出すものだが、まだ今のミアにそこまでの力はないだろう。
右手の小指にはめていた指輪を外し、強く握り締めた。

シャルトマイト・ミスリル銀は超希少な魔法金属だ。
この指輪一個でも豪邸が二つ三つ建つ程の価値があるが、気にも留めなかった。
やがて一時的に与えられた膨大な魔力に負け指輪が変形し、細く長く伸びて銀の矢へと形を変えた。

無言のまま銀弓を握り締め、しばらくの間、魔石を眺める。
この世に明確な正邪など存在しないのと同じように、この魔石も地獄を開く鍵にもなれば、
誰かを導く光にもなり得る。それを選ぶのもまた、人でなければならない。

やがて視線を逸らし、ミアを見て軽く歯を見せて笑った。
同時に握っていた手を離し、ミアの手に銀弓と矢が残る。

「ミア。もうお前はあらゆる意味で自由だよ。他ならないお前が、この長い物語の幕を引くんだ。
 今、お前にはその資格がある。いや、義務がある。お前の為に―――お前と、彼女の為に。
 こいつは、俺が持ってく荷物じゃない。それに―――抱える女は、一人で十分だ」

断ち切るか、継ぎ行くか。
全ての始まりに全ての終わりを託し、ギルバートは手の魔石を高く空へと放り投げた。

91 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/11/27(金) 02:18:41 0
轟音。その発生源は先刻フィオナが入ったばかりの武具屋にあり、ハスタと共に彼女を待っていたレクストがそちらを振り向いた頃には、
入り口から全裸の少女が、少女を言うにはあまりに禍々しい気風を纏った名伏しがたき"何か"が、店の入り口から堂々と出てくる所だった。
少女が引き摺るズタ袋のような物体は、否――ズタ袋のように痛めつけられた人間は、レクストにとって既知のものだった。

「駄犬……!!」

ギルバートだった。対峙する方向にはミアもいる。思わず助けに参じようと踏み出すが、しかし足がそれ以上の進軍を拒否していた。
"あれ"は、彼の手に負えるものではない。そしてなによりも――彼が手に負うまでもなく、少女はその半身から滅び始めていた。

「・・・さようなら・・・姉さん・・・」

何事か呟いて、少女の姿が塵と消える。同時にヴァフティア全域に漂っていた瘴気が失せ始めた。
弱らせて無力化した『解除待ち』の魔物達が聖水に頼るまでもなく一斉に人間へ戻っていき、街中各所から挙がっていた阿鼻と叫喚が薄れ行く。

「……行こう。あいつらにあいつらの決着があるように――俺達もこの現状にオチをつけようぜ」

壊滅的に崩壊しておきながら奇跡的に倒壊を免れた武具屋から土埃にまみれたフィオナをハスタと二人がかりで助け出す。
そしてこれから始まるであろう彼等の決着から、一人二人役者の足りない彼等の幕引きから目を背けるように走り出した。


揺り篭通りはヴァフティアを南北に貫くメインストリートの北半分である。
故にその道幅は広く、その道程は長い。普通に歩けば一刻以上かかる距離であるが、移動手段は何も徒歩だけではない。

ヴァフティアの市内交通と言えば観光地ということもあり前時代風な馬車鉄道が主であるが、
商人の多い揺り篭通りにはもっと効率的な移動手段が幾つか存在する。例えば空を進む『箒』がその類である。

「元黒衣に預けといてよかったぜ……兄貴に渡しといてくれたらしい」

レクスト達は機上の人となっていた。尖塔から脱出するときに用いた最新式箒をティアルドから受け取ってきたのだ。
元々数人乗りである箒は疾風の如き加速で彼等を空へと運んだ。疾駆するのは揺り篭通り上空を走る箒専用誘導路『ミルキーウェイ』。
魔力によって編まれた光条は『箒』に内臓された自動航行術式と連動して安全かつ迅速に目的地へと導いてくれる。

「飛ばすぜ舌噛むなよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?」

自動起動の風防術式によって風圧の影響を無視し、レクストはさらに鞭を入れる。典型的なスピード狂のアクセルハッピーだった。
慣性は順調に箒を電光石火の領域まで引き上げ、ヴァフティア北区の縦断はつつがなくゴールへと到達した。

ティアルドが言うには、守備隊の主戦力と父親がここで外部から侵入してきた魔物との防衛ラインを張っているらしいが。
はたしてそれが見えた。ミルキーウェイを抜けると途端にスピードが落ち、慣性制御によって放り出されることさえなかったが、
急激な速度の変化は平衡感覚に支障を与えたようで、レクストの視界はぐるぐると回転していた。焦点がまるで合わない。

「なんだ従士じゃないか。遅かったな、それにこの瘴気の晴れ具合……どうやら地獄化は失敗したようだな」

箒から放り出されるようにして降り立った三人を目敏く見つけたジルドが歩いてくる。
右手に黒曜石のナイフを、左に鉄槍を担いながら、咥え煙草を燻らせて余裕の表情だった。

「お前かっこつけるのはいいけどなんでパンツ一丁なの!?いや剥いだの俺だけど!そのまま放流したのも俺だけど!」
「っふ、私の服は生涯『月』の正装、黒衣と決めている……それ以外を纏うぐらいならば謹んで殉じよう」
「すげえ、羞恥心が忠誠心にガン負けしてるぞ!!お前かっこいいな――俺は死んでも嫌だけど!!」

ひとしきり互いの無事を確かめ合ったのち、満を持してレクストは切り出した。

「街を取り戻す算段をつけにきた。守備隊の部隊長に通してくれ――あと、自治会長のリフレクティアっておっさんも一緒だろ?」
「構わんが、自治会長――あの男、本当に退役守備隊員か?」
「あん?どういうことだよ」

不穏な含みにレクストが問う。ジルドは珍しく苦々しげな表情を作って呟いた。

「武装小隊長をやっていたからには、腕には自信がある。謙遜するまでもなく、『月』の中でもそれなりの戦力として数えられるだろう。
 そんな、指折りの武闘派として鳴らしていたこの私ですら、あの男には敵わなかった――正直、化物だ」

92 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/11/27(金) 03:12:13 0
ジルドに促されるまま外壁部の最前線まで出ると、まず視界に飛び込んできたのは山だった。
小山である。構成する要素は血と肉と脳漿と咆哮。赤黒い肉塊と化したそれらは一様に禍々しい異形の体躯をもっていた。

小鬼、魔獣、蛇竜、醜鬼、邪鬼――
ヴァフティア周辺に跋扈する魔物達である。非常に好戦的で、また高い戦闘能力を有する。
結界によって街への侵攻することは阻まれているが、街から出た商隊を襲ったり、結界の弱い小規模な村を滅ぼしたりするため、
定期的に討伐を繰り返さなければならない。ヴァフティア開闢数世紀において人類と鎬を削りあってきた人類の敵。

それが、結界が弱まった機を狙って大挙してきたという。中と外から同時に攻められることで、ヴァフティアは陥落するはずだった。
『月』の計画は完璧である。唯一誤算があるとすれば――それは人間側のしぶとさ、強かさ、そして戦闘能力を甘く見すぎていたことだろう。

「ふむ、六十匹殺って二発受けたか。――衰えたな、俺も」

骸の山の傍で、一人の初老が立っていた。長剣の血糊を払い、肩と腿に受けた裂傷へ治癒術式をかけている。
そこに好機を見出したのか、一匹の巨大な魔獣が咆哮しながら飛び掛った。石畳が砕けるほどの勢いで初老へ迫る。

そこまでだった。そこからは見えなかった。辛うじて眼で追えたのは初老が剣を振り上げる瞬間のみ。音すら置き去りにして。
次の刹那には、既に四肢をバラバラに切断された魔獣が地面へと転がっていた。つかつかと歩み寄り、頭蓋に剣を立て止めを刺す。

リフレクティア翁――レクスト達の父親にして、当代最強の自治会長は全てを終えてからこちらを向いた。

「誰かと思えば馬鹿な方の息子か――」

「アンタ自分の息子をそういう見分け方してたのかよ!――ちなみに兄貴は?」

「残念な方の息子」

「よかった若干グレード高い気がするぜ!」

ああ、妹の毒舌はこの男からの遺伝だ。と、レクストはしみじみ感じる。父親は剣を納めると血の海から歩み出てきた。
よく見ると父親の立っていた場所だけ血に濡れていない。あそこから一歩も動かずにこの死体山を築き上げたというのだろうか。

(昔っから激強だとは思ってたけどよ……ここまで最強すぎると逆に死亡フラグっぽいよなぁ。死ぬなよ親父?)

「どうやら街中の降魔騒ぎは収まったようだな。あとは外から入り込んだ魔物を虱潰しに探して消すだけだ」

「それなんだけどよ、ここの守備隊が今街で一番人数多いから、他のとこと連携とって一気に畳みかけようぜって話――」

これからの予定をまくし立てようとしたところで、レクストは言葉を噤まずにはいられなかった。
父親の目が、その色が、まるで別人のものへと変わっていた。大きく見開かれている、その視線の先はレクストではなくその背後。
つられるように振り返ったレクストは、親子そろって同じ表情を得ることとなる。

すなわちそれは、絶望的なまでの驚愕。冒涜的なまでの狼狽。
酷く口が渇く。指先が灼熱のように痛み、脚が震えて上手く直立できなくなる。声が出なかった。

「あ……あ、な、んで……どうして」

搾り出すように、呻きあげるように、レクストは言った。それは自分への語りかけだったのかもしれない。

「母さん……!?」

黒く縮れた髪は間違いなく、肉付きのいい脚は間違いなく、小皺に刻まれた目元は間違いなく、
三人もの出産を経験した寸胴腰は間違いなく、かつてよく叩いたなで肩は間違いなく、かつて抱かれたその腕は間違いなく。

七年前に死んだはずの、魔物に変えられレクストを襲い最期は父親によって葬られたはずの、
そして何よりレクストが出奔した原因であるはずの、故人。リフレクティア夫人。

母親が、七年前の姿そのままに――そこにいた。

【外壁部にてルキフェルの送り込んだ母親と邂逅】

93 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/11/27(金) 22:33:06 0
「おい、馬鹿な方の息子」

「なんだよ製作者」

不測の事実に対峙して、リフレクティアの父子は呟く。言葉は怜悧、思考は冷静。感情は未だ現状に追いつかない。
だからこそできることがあった。現実を許容した精神が如何なる反応を吐き出すかわからない以上、麻痺してるうちに動くべきだ。

数奇か数偶か必然か、不意を打たれたレクストとその父親の対応は、その一点において完全なる同意だった。

「ありゃなんだと思う」

「見ての通り、母さんだろ」
                
「ふむ、次の質問だ。――あれの"中身"はなんだと思う?」

「――人の皮被るタイプの魔物か、術師、あるいは傀儡術……どちらにせよ、ヒトじゃねえな」

ふ、と父親は息をついた。それは笑みのようであり、裂帛の発奮でもあった。
すらりと長剣を抜き放つと、体内に内燃している魔力を奮い立たせ、爆発的な身体強化を生み出す。
魔力感知の得意でないレクストですら、隣にいるだけで灼熱のような力の奔流に身を焦がされそうになった。

が、
それを制したのもまたレクストの右腕だった。父親の踏み込みを妨げるように、ずいと一歩前に出る。
言った。

「アンタに二度も殺らせてたまるかよ――半分背負わせろ」

「な、おい――」

何も聞かず、何も答えず、レクストは疾駆する。バイアネットの砲門を開いたまま、照準を母親へと合わせて。

(至近距離から最大出力の魔導砲で塵一つなく消し去る!それでいい。それで終わりだ。それ以上の憂いは――いらない!)

「――『騎士』!――『十字架』!――あの女を止めてくれ!!俺が殺る……!」

母親の姿をしたアレが魔物であれ駆動屍であれ、こんな高度な術を用いるのは『月』かそれに順ずる組織的なものだろう。
従って、はっきり個人を特定できる呼び名はマズい。マークによって動きを読まれる恐れが跳ね上がる。

従士隊で培った集団戦闘術。フィオナとハスタがそういった事情を理解しているかはともかくとしても、意図が通じたのは確かだった。
弾かれるように二人が動き出すのが視界の端に見える。軽く頷きを返すと、レクストはバイアネットの術式を発動した。

術式リソースが許すありったけの魔力をつぎ込んで、砲塔内部へ甚大な破壊の奔流を生み出す。
展開した照準表示枠の経線と緯線が照準の向こうで母親の姿を捉えた瞬間。何も考えずレクストは引き金を引いた。

補足した領域だけを綺麗に消し飛ばす極太の光条がバイアネットの砲門から迸り、大気を焼いて彼我の距離を駆け抜ける。
近隣の建物を巻き込まないよう仰角は高めに設定。星ひとつない揺り篭通りの蒼空を、極彩色の魔導砲が貫いた。


【フィオナ、ハスタに助力を要請。成否を問わず至近距離から最大出力の砲撃】

94 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/11/29(日) 00:47:32 0
保守

95 名前:ハスタ ◆fmAKADpWIqWy [sage] 投稿日:2009/11/29(日) 18:57:45 0
>「飛ばすぜ舌噛むなよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?」
「はっ、まだまだ温いぜもっと飛ばせぇぇぇ!!」
箒上にスピード狂が二人もいればロクな事になるはずもない。
間に挟まれたフィオナの意見は完全に素通りされてしまっているだろう。

外壁へ向かう為の安全(?)な移動手段のはずだったのだが、この速度では
ある意味最も危険な移動手段だったかもしれない。

そのまま外壁の最前線へと向かうと、そこに見えたのは肉と骨の山。
その光景は、先ほど商店を襲ったアレと同一の隔絶した光景であるように思われた。
「・・・・・・あのおっさん、人間の領域をちと踏み出してないか?」
そう一人ごちで、レクストが旧交を暖める間に一人わずかにはずれて化け物達の死体を検分する。
「ただ力任せなんじゃなくて、熟練者故の観察眼が半端じゃないのか。もろい部分を綺麗になぞって斬ってる・・・。」

――――その時、ゆらりと不穏な影が急に現れた。
ソレの纏った闇に自然と体が反応し、その方向を見る。見た目は普通の女性だが、どう見ても普通じゃない!
レクスト親子と違っていたのは全く面識が無いこと。それが一歩だけ早く対応の準備を進める行動に出た。
右手が腰のホルダーに伸び、先ほど作った符を5枚引き抜く。左手は背に負った四瑞を組み立て武器を形作る。
「早速使うハメになるとは。《簡易・五芒醒力 双腕強化》!」
空を舞った5枚の符が背筋と両腕に張り付き赤い光を放つ。武器を右手に持ち帰るのとレクストの声がほぼ同時。

>「――『騎士』!――『十字架』!――あの女を止めてくれ!!俺が殺る……!」
どこか悲壮さを感じられるその声に初めてその態度を訝しんだが、すぐさま音を立てずに跳躍。
右手に握った武器は遠めに見れば、ただの白い大きい『L』に見える。その正体は大鎌。左手は軽く力を込め、徒手。
跳躍からの落下の勢いも含め、女に大鎌を振り下ろしたが・・・・・・

重々しい金属音と共に、鎌は服一枚裂いたのみで完全に停止。
横目にレクストとフィオナの姿を捉え、どう動くかを一瞬で判断。
「硬ぇ?!・・・・・・が、【上げるぞ】!!」
大鎌の一撃に対して全くこちらを注視しない女も、こちらが左腕を思い切り握って振りかぶるとわずかに体を逸らす。
だが、それは単なるフェイント。鎌から手を放した右手の肘が鎌と女を板ばさみにして捻じ込まれる。

零距離からの強化された打撃でやっと痛痒を覚えたのか、女が虎の印の描かれた左手を無造作に振るう。
「ソレを、待ってた!」
ガードを解いたオレの胸元で裏拳が直撃。肋骨を折り砕き、凄まじい衝撃に体が吹き飛ばされる。
一撃を受ける瞬間、オレの左手が極細の四瑞の糸を女に絡める。

魔に属する者達の力は常軌を逸している。だからこそ魔の一撃を受けて糸を引く際、手が引きちぎられぬように手を強化した。
吹き飛ばされた勢いが周囲の糸を猛烈な速度で引っ張り、最終的に女の体に直接戻ってくる。
結果として、女の体はマリオネットのように糸で宙に浮く事になる。オレの体は近くの建物の外壁に叩きつけられめり込んで停止。
「後は・・・・・・任せた。」

【状況:糸で女を宙に拘束。壁に叩きつけられ重傷。】

96 名前:ミア ◆JJ6qDFyzCY [sage] 投稿日:2009/11/30(月) 06:39:09 P
「はぁ……は……っ」
激しく息をつきながら、ミアは揺り籠通りの一角で足を止めた。
周囲には血と汗に汚れた仲間たちがいた。だがその存在は、認識はしていても、目には入らない。
唇を震わせ血の気を失い、視線を向けた橙色の輝きの先に彼女たちがいたから。

>「こ・の・程・度・だ!お前の希望などっ!!!!!」

ずるり、ずるり。【鍵】の叫びと共に擦過音が止まる。
――見たくない。
歪む視界。拒否する思考。胸を占める絶望感。
そうだこれは夢だ現実じゃないただの映像だ遠くの出来事だ私は知らない!!。
叫ばずにいられたのは、崩れ落ちずにいられたのは、彼の微かな呼吸を幸運にも感じ取ることができたからだった。
【鍵】が一歩一歩、足を進める。
ミアは我知らず後退り、掠れた息を吐いた。
「……来ないで……」

近づく距離。
今まで出したこともないようほど大きく甲高い声で叫んだ。

「来ないで! 止まりなさい!!」

その時。カチャン……退いたかかとに何かが触れ、高く音をたてた。
それは拳大の透明な一片。シモンが遺したクリスタルの破片。ナイフのように鋭利だった。
気がつけば、拾い上げていた。
(知っている。私にできるコト。私にできる最後のコト)
暗い場所から言葉が這い上がってくる。
――かつて“彼女”がしたように――このまま、首に――

「これ以上近づいたら……っ」

……しかし。実際、その震える腕は一度も道を逸れることなく、【鍵】の方向に向けられていた。

「これ以上近づいたら……攻撃する」

霧散しかけた式を立て直し、魔力を集め直し、ミアは再び戦う意志を見せた。
それがこの魔術の街で彼女が与えられたモノ。死の恐怖に逃げるのとは違う、明日を追って生きていける力。
何ができるか、勝算があるのか、何一つわからずとも、彼女はまだ――

97 名前:ミア ◆JJ6qDFyzCY [sage] 投稿日:2009/11/30(月) 06:45:46 P
>「・・・だが・・・それでも・・・お前が羨ましかった・・・。」
対峙する【鍵】が力無く口を開いた時、ギルバートの体が解放されて前のめりに倒れた。
欠片を放り出し、抱き留める。
傷口の熱さと染みる血の冷たさにおののいて――その意識の片隅で、静かに【鍵】の置かれた状況を理解した。
(……限界、だったんだ)
崩壊を進めながら、羨ましい、わからない、とうわごとのように呟く【鍵】。
細かな灰色の砂が落ちていく。砂がカラになった時、彼女の命は終わるのだ。

>「なぜお前は門でありながらミアなのだ?
>お前と私をわかつたモノは・・・なんなのだ?」
少女に死の恐怖があるのかはわからなかったが、少なくともそこには“嘆き”が見えた。
だが。それを思いやれる精神性は、ミアには未だ無い。

>「もはやそれを考える時間はない。
>だから・・・門・・・いや、ミアよ・・・。代わりに考えてくれ・・・」
ミアは冷然と言葉を叩きつけた。
「……知らない。わかっても言わない。【鍵】になんて教えない。都合良く頼まないで。
貴方は最期の願いを託す資格もない。落胆して死ねばいい。……当然の報いよ」

正直、いい気味だとすら思っていたのだ。
少女が突然、残り少ない命の時を消費してまで魔石を呼び寄せ――腕に抱くギルバートの胸に押し付けるまでは。
「――っ! 何を」
ぽすん。頭の上に置かれた大きな手に言葉を止められる。そして気がついた。傷が癒えていく。
>「この脆弱な・・・だがどこまでも優しい希望と共に・・・。」
信じられない思いで少女に、また優しいとは言わずとも真摯な言葉を返したギルバートに目をやる。
ミアは少女が……酷く“透明”であることに、やっと気がついた。

(どうして……)
僅かに緩んだ敵意の隙間を通って、ミアの心に初めて迷いが宿る。

>「だが忘れるな。世界は絶望に満ち溢れている。
>既にお前の閂はなく、鍵も消失する。お前は一人体内に地獄を孕み・・・」
(……なんで、警告なんか)
心臓がおかしな打ち方を始める。
何か、自分は取り返しのつかない間違いを犯してしまった……そんな気がした。

>「一人じゃなかったわよね・・・。」
僅かな間を置いたその言葉。寂しげで、儚い。耳にした瞬間――“間違い”の感覚が痛いほど胸を苛み始めた。

(……違う。私は彼女と何も変わらない。
流れに逆らわず、疑問も持たず、ただ押し流されるままでいた――
でも、私は“結果的にミアでいられた”。何で? わからない。
私たちは違うのかもしれない。違わないのかもしれない。もしかしたら私はただ幸運だっただけかもしれない。
そうよ……彼女は“双子”。もう一人の私。
一歩道が違えばきっと私は、世を嫌って地獄をおとして狂ったように笑って……狂ったように泣いてから、きっと今の彼女と同じ顔をする。
それできっと同じ言葉を吐く。“何でこうなったの”って。
報いを受けるべき体で当然のように、私も彼女みたいに嘆いているはず――)

「待って……」
呟く。急激なリズムで循環しだした血の熱を逃がすようにふらふらと歩を進め、未だ残る少女の左半身に手を伸ばす。
滑らかな肌。しかし触れた瞬間、それは風に消えた。言い様のない戸惑いと喪失感が胸を締めつけた。
人の形を急速に失っていくソレを前に、ミアは行き場を無くした手を下ろすことも忘れ――

>「・・・さようなら・・・姉さん・・・」
「私……それでも、門だから……その…それに……妹、欲しいと思ったことも…あったから……
だから貴方も……
貴方も……一人じゃない――」

風に散らされた骸がミアの鼻先を掠め、消えていく。
その拙い言葉が魔の気の完全な消失に間に合ったことを、ただ祈るばかりだった。

98 名前:ミア ◆JJ6qDFyzCY [sage] 投稿日:2009/11/30(月) 07:02:32 P
ミアは【鍵】の消えた後の場所を暫く見つめていたが、暖かなものが右手に触れたのを感じて振り向いた。
知らず固く握りこんでいた手を促されるまま開く。そこにはあの銀のロケット。
いつの間にか魔石を反対の手に持った彼は、困惑する彼女に何の説明も無いままに目を閉じ、どこか憶えのある呪文を紡ぎ始めた。
>「願わくば其が自ら選び、自らの足で歩む道に幸多からん事を。
>エル・クリーグ・ルスメイル―――エル・エスト・ルスメイア
>・・・ルーネル・アルテミシア」
(ん……今の呪文……この、弓……?)
女性用なのかやや小振りな銀弓。
施された精緻な装飾は神話を示し、女神のモチーフの横に古代語の彫り込みがあった。

   『……、……。ええ、終了です。必要な呪文は全て教えたわ。
               教えた理由? ……………秘密、です――』

……二人は弓に視線を落としたまま暫しその場で向かい合った。
沈黙を破ったのはギルバートだった。深く思い返すような表情から一転、歯を見せて笑ってみせた。
手が離れる。銀弓と矢をミアの手に残したまま。

>「ミア。もうお前はあらゆる意味で自由だよ。他ならないお前が、この長い物語の幕を引くんだ。
>今、お前にはその資格がある。いや、義務がある。お前の為に―――お前と、彼女の為に。
>こいつは、俺が持ってく荷物じゃない。それに―――抱える女は、一人で十分だ」
他人の運命に翻弄され、長い重荷を背負わされたはずの彼にもまた、手を下す権利はあったように思う。
だがそれを義務とするのが誰かと問われれば……やはり、ミアなのだろう。
「……ありがとう」
その言葉を合図とするかのように、彼は高々と魔石を放り投げた。優美な放物線を描き、みるみる高度を上げていく。
ミアは弓を構え、ゆっくりとひきしぼった。少し重くは感じはしたが、体が自然と動いた。

(少しでも地獄を開く要素となるものを、残しておくわけにはいかない)

「――捨てるべきものは、ここで捨てていく」
迷い無く決断し、右手を開く。力を解放された銀の矢が弧を描き、正確に魔石の元を目指す。
鏃が石の中心に突き刺さる。一瞬の静止。
石は千々に砕けてヴァフティア中に散り、硝子を割るような澄んだ音が響き渡った。

(……でも。私の行動は、根本的な解決じゃない。
乱れた国に人が絶望したから、積みかさなって【鍵】を生んだ。
今、この魔石を砕いても、根本の絶望には何の意味も成さない)

「……捨てられないあの子の絶望は、私が引き受ける。」
パラパラと降り注ぐ石の欠片を受けながら、ミアはそっと弓を降ろした。
そして息を吐き、共に空を見上げるギルバートの横顔をじっと見つめる。真剣な決意を秘めて。
彼が視線に気づくのを待ち、彼女は厳かに続けた。

「―――私、帝都に行くわ」

突拍子も無い言葉だが、いい加減な気持ちでないことは目を見れば伝わるだろう。
「この国はきっとおかしい。おかしくなって乱れて、人が絶望した。人が絶望して、意識が集まって、彼女が生まれた――
私はその絶望の正体を確かめに行く」
(どうにかしたいとか、できるとか、わからない……でも知らないままでいたくない)
「私、あの子を知りたい。私――あの子の魂の片割れだから。
知れば……答え、見つかるかもしれないし」

――言い切った、その数瞬後のことだった。
強い光を宿していたはずの彼女の目が不意に揺れた。
ふっとギルバートから逃れるように視線をそらし、ついには下を向く。
能動的な意志を持つことはできた。それを表明することもできた。
ただ、意志疎通が苦手な人間にとって難しいのはコレなのだ――「お願い」という奴だ。
「……ギル。だから、その……」
どこか自信なさげに彼女は続けた。

「一緒に、来てくれない……?」

99 名前:フィオナ ◆tPyzcD89bA [sage] 投稿日:2009/12/01(火) 05:07:01 0
「お邪魔しまーす……。」
年季が入り過ぎ軋んだ音を上げる樫の戸を開け敷居を跨ぐ。
『地精の武具店(ドワーヴン・ウェポン)』と銘打たれたその店は商店街の隅に居を構え多くの神殿騎士達に愛用されていた。

「邪魔するのなら帰ってくれ。ってなんじゃ、聖騎士の嬢ちゃんかい。」
店の奥、重厚な造りのカウンターの向こうから皮肉気な声をかけてくるのは店主のゴードン。
厳つい顔に白い髭を蓄え、筋肉質でずんぐりとしたエール樽の様な体。
伝承に登場する大地の妖精そっくりな風貌で"ドワーフの親方"と親しまれているがれっきとした人間だ。
本人も凄腕の鍛冶師としての一面を持つその種族の名を気に入っており、遂には店の名前にまでしてしまったというわけである。

「なんじゃい、随分とボロボロじゃのう。まあ外は大変だったようじゃからな……。その辺の適当に着替えるといい。」

「あはは……助かります。で、実は今手持ちが無いので神殿につけておいて頂けると……。」

「あん?ワシらを助けるために駆けずり回ったんじゃろう?代金はいいから持って行け。」

「い、いえいえ!そういう訳にはいきません!後できちんとお支払いします。」
むむむ、と二人で睨み合うこと数分。ゴードンは「ふん。」と呟くと台帳にサラサラと書き付けると鞘ごと外して置いてあったフィオナの剣を抜く。

「こっちも酷いもんだ。何を斬ればこうなる?」
甲冑を着けた不死者、幾多の魔物、ルキフェルの放った瓦礫の弾丸と酷使された剣は所々刃毀れしていた。
しげしげと眺めた後、先程よりも大声でぼやき店の奥から鞘に収まった一振りの長剣を持ってくるゴードン。

「この間鍛ったやつじゃ。こいつも持って行け。」
鞘から引き抜くと独特の澄んだ音を立てて現れるやや細身の剣。
鈍い光を放つ剣身は滑らかな曲線を描き刃先を形成し切先へと集約される。
一見してわかる程の高純度の鋼で鍛えられたハンド・アンド・ア・ハーフソード。

「綺麗……。」
フィオナも思わず息を呑み眼を奪われる程見事な長剣だった。

「ワシはちょっと外の連中と話をしてくるわい。更衣室なんぞないからの。」
そう言って出て行くゴードンの声で我に返り、いそいそと着替えを済ませ剣帯に鞘を差す。
さて二人を待たせてはいけないとフィオナも出ようとしたその時、凄まじい衝撃を伴い天井を突き破り現れる闖入者。
もうもうと立ち込める煙が治まり、視界が晴れるとそこには満身創痍の男を引きずる裸の少女。

「何者ですか!?」
誰何と同時、剣の柄へと手を伸ばし即座に臨戦態勢を整えるフィオナ。
見た目こそ少女だが纏う気配は街を闊歩していた魔物のそれを遥かに凌駕している。

――バキンッ!
一睨み。それだけで首から下げた聖印が音を立てて粉々に砕け散った。
バジリスクの持つ石化の魔眼もかくやという程の眼光に一歩も動けなくなる。
それでも気力を振り絞り一歩踏み出そうとした瞬間、少女は興味を失ったように視線を外し男を引きずったまま外へと出て行く。

「助かった……?」
フィオナが安堵の溜息をついたとほぼ同時、それまでのプレッシャーに耐えかねたのかぎりぎりで倒壊を免れていた柱が悲鳴を上げた。

100 名前:フィオナ ◆tPyzcD89bA [sage] 投稿日:2009/12/01(火) 05:08:16 0
「いいいいいいいいぃぃいぃぃやぁああああぁぁぁぁぁぁあ!?」
暗雲晴れ渡り蒼穹を取り戻したのヴァフティアの空を疾駆する一影。
最新鋭の飛行箒。その上では前後をスピード狂に挟まれ一人抗議をあげる声が虚しく響く。
たった一日、二度のフライトで箒が嫌いになった聖騎士フィオナの声である。

レクストとハスタの手によって奇跡的に完全倒壊を免れた店内から助け出された直後、二人に促されるまま箒へと機乗。
ヴァフティアの上空を縦横に走る箒専用路『ミルキーウェイ』をひた走り外壁部へと一直線。
着いた頃には叫びつかれたのか、はたまた途中で気を失ったのかぐったりとしたフィオナの姿があった。

気分も回復し、深淵の月の元教団員ジルドに案内され外壁部最前線へと歩を進める。
道中レクストとジルドの楽しげな声が聞こえるがそちらには頑として眼を向けない。少々目のやり場に困る者が居るからである。
目的地に近づくにつれ山となった無数の魔物の死体が見えてくる。
積み重なった死体はそのほとんどが急所への一撃で倒されているようだった。余程の手練が此処に居るのだろうか。

「まったく呆れた化け物っぷりだな。」
ジルドの声に視線を向けてみると長剣を振りぬき魔獣を屠る初老の男。

「あの方は……リフレクティア自治会長!?」
なるほど納得である。ヴァフティアに住む者であればリフレクティア翁の理不尽なまでの強さを知らないものは居ない。
かつて行った神殿騎士団と守備隊の演習試合では彼一人に散々にやられたのは神殿側の黒歴史として今なお残っている。

最前線部隊と合流を終えると状況を確認するためレクストは父親でる自治会長と話し込み、ハスタは難しい顔で魔物の死体を検分し始める。
フィオナはなんとなく手持ち無沙汰になり負傷した守備隊員の手当てへとあたることにした。
リフレクティア翁の鬼神が如き活躍のお陰か重症者は居らず、負傷者のほとんどがかすり傷程度で済んでいる。

奇跡は使用せず、包帯と湿布での治療に当たっていると突如として現れる強烈な死の気配。
神に仕える者であるフィオナがその対象を誤ることは無く視線の先に立つのは一人の女性。
一見すると普通の女性だが間違いなくすでに死亡している。

仲間の方へと目を向けるとレクストは信じられないといった様子で呆然と立ちすくみ、ハスタは既に符を放ち戦闘態勢を整えている。
フィオナも治療の手を止め、立ち上がると同時に抜剣。
レクストとハスタ、二人が同時に走り出しレクストは砲をハスタは大鎌を構え――

『――『騎士』!――『十字架』!――あの女を止めてくれ!!俺が殺る……!』
レクストの叫びが響き渡り、ハスタが大鎌を女性へと叩きつけた。
しかしその一撃は甲高い金属音と共に弾かれ返す拳がハスタを打ち付け弾き飛ばす。

『ソレを、待ってた!』
ハスタが吹き飛ばされた直後、まるで女性が蜘蛛の巣にかかった蝶の様に中空で縫い止められた。
目を凝らすと糸を成す魔力の残滓が見える。
だが女性も激しく身を捩り糸を引き千切ろうと凄い勢いでもがき始める。
ならば、とフィオナは短剣で自身の掌を斬り付けると腕を振るいハスタの編んだ糸へと血を飛ばす。

「此処は主のおわす庭。邪なる者よ、汝立ち入るを許さず!」

血が付着した箇所を中心として発現する"聖域"の奇跡。砕かれた聖印の代わりに血液を介しての神との交信。
本来魔の進入を拒む結界を形成するのだが今はその内に魔を閉じ込める牢獄を作り上げる。
初手にこれを使ったのでは容易に回避されてしまう。ハスタの拘束があって初めて可能となる手だった。

聖光の充ちる聖域内では女性が動きを止め、糸に締め付けられた箇所から焼き焦げたように煙を上げる。
そしてダメ押しとばかりに魔力糸と聖域の二重の牢獄に囚われた魔へとレクストの砲撃が極彩色の閃光を伴い叩きつけられた。

101 名前:ルキフェル ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2009/12/01(火) 18:02:03 0
>>93>>95>>99
>「――『騎士』!――『十字架』!――あの女を止めてくれ!!俺が殺る……!」
>「此処は主のおわす庭。邪なる者よ、汝立ち入るを許さず!」
>「後は・・・・・・任せた。」


【…コレガ…痛み】
フィオナの攻撃が魔を痛めつける。
トドメとばかりに迫る光弾が直撃するその刹那、巨大な閃光弾がそれを阻んだ。
目の前には、赤と金のローブを纏い突如として出現した金色の髪の青年。
「また…お会いしましたねぇ。」
声質こそ違うが、言葉遣い仕草。あの男に間違いはない。
そしてレクストにとっては7年前の忌まわしい出来事の際に出会った
あの青年。
ルキフェルとは似ても似つかない青年は大振りに手を広げながら3人に挨拶をした。
そしてゆっくりと魔物の肩を叩く。
「どうです?実の息子に甚振られる気分は…」

レクストの母親の姿をしたそれは、攻撃を受け止め”泣いて”いた。
涙を流していたわけではない。しかし…彼女の心は、魂は慟哭していた。
「コノテイドノ…痛みでは…足りない」
体中を闇で覆いながら尚も魔物は3人へと迫る。

「アッ〜タタタタタタ。そう早まらなくていいですよ。
楽しみは後に取っておくのが私の主義です。」
子供が駄々を捏ねるように足踏みをしながら3人の方を見る。

「反魂。神が最も忌み嫌う禁断の術…神魔術の1つです。
やはり素晴らしいものだ。あぁ、これですが間違いなく貴方の母です…魂はね。しかし、今は我々の僕。
意思は在ったとしても抗う術はありません…」

ルキフェルは黄金の光を手の平の上に乗せ、その中に魔物を包んでいく。
それは闇ではなく、フィオナ達が扱う光の魔術のそれに酷似していた。
「貴方達がこの街で奮戦してくれたお陰で、素晴らしい力を開発できそうです。
これで陛下の思い描く世界が作れるでしょう。また、お会いしましょう…帝都で。」

青年は意地悪な笑みを浮かべたまま金の光となりその場から消え去った。
空には、嫌なくらいの青空が広がったまま。

【謎の青年、魔物と化したレクスト母を連れ帝都に帰還】



102 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/12/02(水) 02:07:14 0
「硬ぇ?!・・・・・・が、【上げるぞ】!!」
「此処は主のおわす庭。邪なる者よ、汝立ち入るを許さず!」

「――おおおおおおおおおおおああああああああ!!!!」

糸と奇跡の二重結界が母親を拘束し、その強靭な挙動を僅かに遅らせる。
その針の穴を通すような寸毫たる間隙へ、レクストは全身全霊を込めた至近砲撃を叩き込んだ。

稼動限界ギリギリまで溜めに溜めた『破壊』の魔導極光は空間を喰い散らしながら母親の元へと届き、
その命なき体躯を跡形もなく世界から切り取る一撃。照準越しの視界から、敵影が消えうせる――そのはずだった。

「――また…お会いしましたねぇ」

極光を凌駕する閃光の華が咲き、砲撃を阻害する。軌道を無理やり逸らされた魔導砲は揺り篭通りのミルキーウェイを穿って果てた。
瞬いた眩光に視界を奪われ、眼球がその機能を取り戻したときには、母親の前に青年が一人。金の髪を揺らす、細身の美丈夫。
レクストは知っていた。信じがたいことに、その姿は七年前に目に焼き付けた仇敵とまるで変化していない。

「どうです?実の息子に甚振られる気分は…」

だが、それだけわかれば十分だ。

「会いたかったぜ金髪野朗……!」

無心でもなく、焦燥でもなく。ただひたすらに敵意だけが先行する。知っていた。この男は、かつてこの街を、母親を――!
呼吸一つで停止していた身体を前へ押しやり、無呼吸の身体挙動でバイアネットを振りかぶる。
無言で、無想で、無意で、無体で、獰猛に犬歯を見せながらも感情を凍結させた一撃は、袈裟斬りの軌跡でもって金髪へ迫る。
それが。

「コノテイドノ…痛みでは…足りない」

母親の亡骸が、母親の声で呟いた。
阻まれる。金髪によって命を拾った母親が、今度はその細腕をバイアネットのブレートにかち合わせ、それ以上の斬撃を止めていた。
動揺が心を滑るより早く、刃を引いたレクストへ対応するように反対側の細腕から拳が繰り出される。

「がっは……!」

受け止めたはずなのに。バイアネットでの防御は間に合っていたはずなのに。
盾にしていたバイアネットが、恐ろしいほど簡単に、接合部から砕け、拉げ、破壊された。
防御を貫いてなお拳の勢いは止まらず、レクストの鳩尾へと突き刺さる。肺の中の空気を残らず吐き出しながら宙へ投げ出される。

地面へ伏せって、武器を失って、初めてレクストへ感情が追いついてきた。打たれた痛み、呼吸できない苦しみ、
絶望感、焦燥感、冒涜感、喪失感、苦悩感、崩壊感、虚脱感、失意感、そして――敗北感。

「どう……して、だ」

バキリ、と頭の奥で何かが砕ける音がした。食いしばった奥歯が砕ける音だと理解する頃には全てが悪状況へと向かっている。

「てめえは何がしたいんだ……!!」

辛うじて立ち上がろうとして、しかし不可視の圧力に押しつぶされる。それは母親の骸から放たれる甚大な魔力であった。
余波だけで訓練された人間をこうも容易く叩き伏せるほどの魔力を内包している。冗談のような光景だった。

一瞬で心が折られそうになる。足が震え、腰が抜けて力が入らない。
額のどこかを切ったのか、流血が目に入って視界の確保すら間に合わない。ハスタは重傷、フィオナも動けない。
ざり、と石畳を踏む音に見上げてみれば母親の血色のない顔がレクストを捉えていた。
降ってくる死への覚悟も定まらないままに、母親の拳が注がれようとして、

「アッ〜タタタタタタ。そう早まらなくていいですよ。――楽しみは後に取っておくのが私の主義です。」

まるで場にそぐわない、しかしそれが却って不気味さを増大させる駄々のような声が母親を制した。

103 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/12/02(水) 02:56:53 0
「反魂。神が最も忌み嫌う禁断の術…神魔術の1つです。やはり素晴らしいものだ。
 あぁ、これですが間違いなく貴方の母です…魂はね。しかし、今は我々の僕。意思は在ったとしても抗う術はありません…」

謡うように語るそれは禁忌の外法。死者を甦らせ下僕として使役する未知にして危知の術法。
それはつまり、母親そのものであるという証左。レクストが二度目の死を与えようとしていた骸は、紛れもなく母親だった。

ただそれだけの事実が。

ただそれだけ故に何の緩衝も干渉もなく。

レクスト=リフレクティアの精神を完膚なきまでに穿ち尽くした。

「あああああああああああああああああああああッッ!!!!!!!!」

涙は出ずとも心は哭き叫ぶ。今までどうにか保っていた喫水線、人か魔かの分水嶺。
魔物であったなら、術師であったなら、たとえ母親の姿をしていても斬れる自信があった。覚悟があった。
レクストの精神の根付いている"生き様"というべきものか、無辜の民を護るためならば如何なる感傷も排そうと動いていた。

それが。
敵となったのは魔物でも術師でも偽物でも駆動屍でもなく、冥府から甦りし母親その人であるという現実。
そしてそれを二度も手にかけようとしたという己の罪悪。母親が自らの仇を護ったという状況。

それら全てがレクストという人間の人格を形成する軸の部分を根元から叩き折ってしまっていた。

「貴方達がこの街で奮戦してくれたお陰で、素晴らしい力を開発できそうです。
 これで陛下の思い描く世界が作れるでしょう。また、お会いしましょう…帝都で。」

「帝都だと……?――てめえを!このまま!行、か、せ、る、かァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

弾かれたように走り出す。どくり、と何かが鳴動した。気配は腰――ベルトに差しておいた剣。名も知らぬ剣士の忘れ形見、漆黒の両刃剣。
反射的に柄に手をかけると、それは驚くほど手に馴染んだ。一気に引き抜く。布が自然に風化し、刀身が露になった。

彼我の距離は10メートル程度。一歩踏み出すごとに歩調は軽くなり、同調するように澄んだ刀身が歓喜の震えで応える。
呼応は剣だけではなく。力が漲ると共に胸の内からどす黒い精神の澱とも言うべき何かが沈殿していくのが分かる。

まるでそれを糧にするかのように、赫怒と怨嗟を起爆剤として黒剣とレクストは前へ駆け出す。
前方では金髪の青年が既になんらかの術式を起動していた。聖術にも似たその光は、彼等を包み込み――

「――ぶち殺せ」

レクストは黒剣を横薙ぎに振り抜いた。横に薙ぐ。ただそれだけの動作で、しかし生まれた結果は尋常ならざるものであった。
まず最初に石畳が砕け散った。次に大気が片っ端から抉られていき、砕かれた地面が風化するように塵になっていく。
轟音が連続し、風の鳴動が止んだときには、金髪と母親が逃げ去ったあとの空間と、その後方10メートルにわたって抉り散らされた地面だけが残っていた。

「……殺り損なった。仕留め切れなかった。――助けられなかった。なんてザマだ。ふざけんな――ふざけんなよ!!」

全てが終わって、後には傷痕だけが残った。身体にも、街にも、心にも。黒剣を地面に突き立て、膝をつく。
今度こそ、レクストは慟哭した。呻くようだったその喘ぎは数秒と持たずに雄叫びのような嘆きの雨へと変わっていく。
誰も動けなかった。同じ思いを共有したはずの父親や、共に戦った仲間でさえ、そこに手をかけるのは憚れるような気がして。

レクストの慟哭が止むまで、果たして四半刻とかからなかった。

104 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/12/02(水) 03:34:32 0
東の空が白んできた。長かった夜が終わり、魔は去り人の領域が広がり始める。
朝日が照らした街の惨状は、人々の心に忘れ得ない爪跡を刻みつけていった。

重傷のハスタは寝かせておくとして、レクストとフィオナはボロボロになった街を復旧する手伝いに明け暮れた。
瓦礫の中巻き込まれた人も相当数いるようで、父親が寸分違わず巨岩を細切れにする様に舌を巻いたりした。

東西南の町の外から侵入した魔物が街を飛び交い、守備隊の騎竜に焼かれたり箒隊に撃墜される光景がそこかしこに見られ、
竜騎兵が竜のエサに困らないとホクホク顔で言うのを怪訝に眺めたりした。

黒剣はまた元のただ黒い剣に戻ってしまって、今もレクストの腰にある。鞘はなく、刀身を包むはやはり布だ。
どうせだからと名前をつけた。黒い刃の剣で『黒刃(こくは)』――聞いた父親は爆笑し、なんとも言えない目で彼を見た。

バイアネットは砲とブレードの接合部から真っ二つにされてしまったが、あまりに綺麗に真っ二つにされたので
案外早く直るらしい。鍛冶屋とティアルドが顔を突っつき合わせながらそんなことを口走っていた。

リフィルは脇目も振らず復旧作業に没頭しているレクストに何かを投石器で投げつけてきた。
小瓶に入ったそれは直撃によって結構なダメージを被ったレクストへ降り注ぎ、傷と疲労がたちどころに回復した。
なかなかに上等な回復薬だったらしい。何も言わずに人ごみに紛れて行ってしまったが、後で何か奢ってご機嫌取りに奔走しよう。

いずれミアやギルバートとも合流するだろう。シモンがいないことに気付いたレクストはどんな反応をするだろうか。
死んだという事実を受け止めきれず街を駆けずり回って探すだろうか。形見として倉庫部屋に置いてあったナイフを見つけるだろうか。
こんなナリだが悪い奴じゃないと、フィオナやハスタに紹介できなかったことを誰よりも悔やむだろうか。

全ては未来であり、今考えるべきはここにある。

(帝都、か。奴の言ってた『陛下』って呼び名も考えるとどうもキナ臭ぇ……)

金髪の青年は母親を連れて行くときたしかにそう言った。『帝都で会いましょう』
それはつまり、この先知れぬ物語においての伏線なのだろう。手がかりはそこにある。真実を知るために。
レクストを帝都へ呼ぶために、あのような口上を述べたのだ。決着をつけるためにも、行かないわけにはいかないだろう。

(――そうだ、帝都行こう!)

もともとレクストは帝都王立従士隊である。帝国管理局に今回の『ヴァフティア事変』の詳細を報告する必要がある。
馬車で10日の距離だが、ヴァフティアを出て南の街から通っている大陸間横断鉄道を使えば三日で着くことだろう。

思い立って、レクストは早朝の空を見上げた。
ときおり迸る魔導弾の閃光が飛行種の魔物を穿つ以外は静かな空。美しい空。

朝日が眩しく目を焼いた。
叫び疲れて、嘆き疲れて、哭き疲れて。レクストは眠るように目を閉じた。為したこと、為せなかったこと、反芻するように心へ浸透させる。
再び目を開いたとき、その双眸には強い決意と覚悟の光が爛々と輝いていた。

「……俺は帝都へ行くぜ。戻るっつった方がいいのかもわかんねえけど、とにかく売られた喧嘩は買って勝って克つ!」

やおら立ち上がり、先程までの嘆きを感じさせない強い笑いと意志の眼でフィオナとハスタを見据える。
朝日の逆行と相まって、レクストは歳相応の精悍さから少し大人になったような気がした。
彼女達はどうだろう。この一連の事件を通して、世界に対してスタンスを変えるようなことはあるだろうか。

共に行きたいと、そう思った。
だから、率直に頼むことにした。

ぱしりと頭の前で両手を合わせ、若干に苦笑いを含ませて、レクストはこう言った。

「物語はもう走り出してる。途中下車なんざどこでもできるが、ここは一つ――終着駅まで付き合ってくれ」


【奪還編終了  レクストは帝都へ向かう意志を表明】

105 名前:ギルバート ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2009/12/03(木) 03:35:20 0
ヴァフティアの揺り篭通りを一人歩く。
リンゴを齧りながら―――愛用のパイプがお釈迦になり、口寂しいので―――ゆっくりと北へ。
日差しは暖かく、空だけを見れば先日の騒ぎが嘘のようだ。

街は散々に痛めつけられたものの、今は人々が協力し合い、再建に努めている。
そんな中、あれだけ凄惨な目にあったというのに、人々の顔は決して暗くはない。
ギルバートは改めて人間の強さというものに舌を巻く思いだった。


途中、いくつか見知った顔を見かけた。
ミア達が塔の中で出会ったという、フィオナと名乗った生真面目そうな女騎士。
化け蛸と戦っている時乱入して来た、ハスタというやさぐれた男。
それにレクストとその父親、それに兄貴の三馬鹿だ。

最初の顔は軽く手を振ってみせた。二番目には軽く頷いて通り過ぎる。
三番目はめんどくさいのでスルーした。


人気のない静かな一角に辿りつく。
元々は"月"の塔が立っていた場所だが、今は塔も崩れ落ち、
その瓦礫もあらかた片付けられ、草むらと石畳が広がっている。

その片隅に、小さな石碑があった。
上に十字架と、青く透き通ったクリスタルの欠片がはめ込まれている。
十字架には真新しい白い花輪がかけられていた。事前に誰か来ていたようだ。
その前に立ち止まり、じっと眺める。街の喧騒は遠く、ひどく静かだ。

「よお―――そっちはどうだ?結局、俺は逝き損ねちまった」

かなり長い沈黙の後、ギルバートが口を開く。

「お前、故郷は何処だ。女はいるのか?―――悪いな。連れて帰ってやれなくて」

懐から小さな酒瓶を取り出すと、石碑の前に置いた。
石碑には文字が刻まれていた。―――"シモン・ペンドラゴン"

「なあ、聞いたか?ミアの奴、『一緒に帝都に行ってくれるか』だとさ。
 あの流れで『断る。あばよ』とでも言うとでも思ったのかね?はは、笑っちまうよな。
 アレじゃ男も寄りつかねぇぜ、実際。
 ―――まぁ、これから学んでいくんだよな。
 新しい事も―――出会いも、心も。それが、人なんだし」

一瞬、それに相槌を打つかのように風が草を揺らして流れた。

「そう・・・それとお前のコレ、借りるぜ。何、借りるだけだ。いつかまた返しに来てやるよ」

そう言って、腰に巻きつけた"コカトリス"を示す。
あの日、バラバラに壊れたのをレクストの兄貴に直してもらったものだ。

―――何故、お前は俺達を助けた?

心の内で呟く。血が繋がった相手でも、長い時を過ごした相手でもない。金にもならない。
ムカつくクソ野郎に最後っ屁を食らわしたかったのか?それもあるかもしれない。
いや、やはりお前も人間でありたかったんだろう―――それだけの、シンプルな答えなのだろう。

そう、結局の所、思考するという事はどれだけ物事を単純にしてゆくかという作業なのだから。

106 名前:ギルバート ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2009/12/03(木) 03:40:39 0

「お前が墓参りとは、明日は雨か。ギル」

再び黙り込んだギルバートの背に、静かな声が降ってくる。
肩をすくめてため息をつき、振り返る。いつの間に現れたのか、グレイが立っていた。

「・・・お前は二言目にはそれだな。まだこんなトコウロウロしてたのか」
「街を出ようと思ったらあの騒ぎだ。お前、責任取るか?」

グレイが石碑に視線を移し、軽く帽子に手をやる。

「・・・親しかったのか?」
「ああ。・・・いや、そうでもなかったな」
「何だ、そりゃ」
「何でもいい。付き合え」

別の酒瓶と、小さなグラスを一組取り出す。琥珀色の液体が二つのグラスに注がれた。

「友に」
「亡き友に」

同時にグラスを干し、逆さにしてみせる。グレイがギルバートの顔をしげしげと眺めた。

「で、お前は吹っ切れたのか?」
「・・・どうかな、わからん。まだ自分を許した訳じゃない。
 でも、今は自分の中で少し納得してる。俺は決して貧乏札を引いた訳じゃないし、
 与えられたカードを、自分の意思で切った。他の人々と同じ、どれも俺の描く道筋だ・・・ってな」

グレイが頷き、グラスをポケットにしまう。
そして珍しく、何やら戸惑ったような迷うような、妙な眼をした。

「何だよ?」
「・・・・・・これは、独り言なんだが。
 俺はこれから"ホーム"に帰った後・・・帝都に行く。
 7年前―――仲間の居場所を"終焉の月"に売った狼がいた」

じっ、とグレイの眼を睨むように見る。グレイは眼を逸らし、石碑を見つめていた。

「その時そいつを追った"送り狼"が一人殺されたんだが―――新しい情報が入ってね。
 もっともこの話は極秘だから、例えば組織を抜けたような奴には教えられないんだが」

裏切り者―――7年前。頭の中でカチリ、と音がし、記憶が幾つか繋ぎ合わさる。
だが一方で、かつてと違って思考はひどく冷静でクリアだった。
そうだ―――仕残した仕事があるとすれば、これこそが俺が背負う荷物。
確かめねばならない。直接に。決して復讐の為ではない。今は、はっきりとそう言える。

「グレイ。何でかわからんが、礼を言いたい気分になった。・・・ありがとう」
「そりゃ不思議だ。気持ち悪いから俺はもう行くぜ―――気をつけろよ、兄弟」

お互い同時に拳を突き出し、打ち合わせる。確かな手応えを感じた。
遠ざかる背中を見送り、綺麗に晴れた空を見上げる。

行かなければならない。帝都へ。仲間と共に。

この長い物語は、始まりの終わりに過ぎないのだ――――



――――― To Be Continued.


107 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/05(土) 18:47:19 O
くぱぁ・・・

108 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/05(土) 22:57:41 0
人の思惑は大きな潮流となり、それが交わる時、潮流となって陰謀の大渦となる。
大きな渦は周囲を翻弄し飲み込んでいく。
その真相を知る為に人々は渦の中心を目指す。或いは引き込まれていく。
しかし渦は中心に近づくほど・・・苛烈に渦巻き、深淵へと加速していく!

ヴィフティアの南方。
帝国横断鉄道の南端鉄道都市【メトロサウス】。
朝靄を切り裂き紫電を纏った魔導列車が到着した。
昇格の傷やヘコミは大陸を走破する力の象徴。
そして都市は人々が交錯する出発と到着の広場。
折り返し帝都へ向かう魔導列車は大渦を切り裂く刃か、深淵へと引き摺り込む運命の糸か?
旅人達は未だそれを知らない。

                ダークファンタジー第二部 開始



109 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/05(土) 23:10:38 0
そしてそれぞれの物語が始まる…

110 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/05(土) 23:18:33 O
かぜのなかのす〜ばる〜


   すなのなかのぎ〜んが〜

111 名前:過去設定まとめ的な ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2009/12/06(日) 01:31:47 0
ほぼオマケ。二部までの中継ぎの読み物にでもどうぞ


【ウェアウルフ】
人狼とはその名の通り狼という獣を内包した人間である。
ただ永い時を経て人と交わる事でその血は薄まり、現在の人狼は極めて人に近い。
現在では主に小さな集落を作り、各地に点在してひっそりと暮らしているが、
人の中に紛れて一人で暮らす個体もいる。

【ギルバート】
時に"先祖帰り"とでも呼ぶべき人狼が生まれる事がある。
何らかの原因で獣の血を強く持った人狼であり、特に満月の時その凶暴性は最高潮となる。
そういった人狼は大抵、人としての理性を保てなくなり、本能のままに人間を襲う獣と化す。

ギルバートはその"先祖帰り"に相当し、内包する"獣"の強さは類を見ない。
が、しかし同時に対を成す人間としての側面も異常に強く内面の"獣"を恐れ憎み、
普通の人間以上に"人"に憧れを抱くイレギュラーな存在となっている。
そんな矛盾と危うい二面性を持った為、幼い頃から塞ぎ込みがちで常に人と距離を置いていた。

【親友】
そんなギルバートに、分け隔てなく積極的に接する友人がいた。。
彼は内に篭りがちなギルバートに何くれとなく世話を焼き、外に連れ出してやった。
その交友はギルバートにも強い影響を及ぼし、どれだけ助けになったか分からない。
酒も煙草も女もその悪友から教わった。また彼はあるコミュニティに属していた。

【ファミリー】
人狼のみで構成された組織。一種のマフィアン・コミュニティに近い。
しかしその目的はあくまで各地の人狼の援助や自立にあり、
手は広く人間の社会にも関わってはいるが、表立って姿を現す事は滅多にない。
前述のようなはぐれ狼が人を襲ったりしても関与しないが、
仲間である人狼に累が及んだ場合は執拗に追いかけ制裁を下す。

【邂逅】
ギルバートが青年となったある時、集落に一人の若い女性が現れる。
女性はゲーティア(門)と名乗り、やがて集落に住み着いた。アルテミシアだ。
元々人狼の里とは言え、時に"訳あり"な人間が居つく事もあり、彼女が馴染むのにもそう時間はかからなかった。

時が経つにつれ、誰よりも獣に近い身でありながら人でありたいギルバートと、
宿命として純粋な人でいられないアルテミシアには通じるものがあったのか、二人は徐々に惹かれあっていった。
とは言えお互い素直な感情を表すのは苦手な身。その関係は順調に進んだとは言い難い。

「貴方の中の人間の心がすっかり消えてしまえば、恐らく、その方が、貴方は幸せになれるでしょう。
 しかしやはり、貴方は人間ですね。その事を、この上もなく恐しく感じているのですね」
「俺を全て理解したような口をきくな!人であり、人でしかないアンタに俺の何が分かるんだ?」
「私は・・・私だって」
「何だよ?」
「・・・何でもありません。このひねくれ者」

112 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/06(日) 01:50:09 O
自給自足の恋人キャラというのもむず痒いな
それでアルテミシアがどうゲート争奪戦にかかわってミアと繋がったんだ?
肝心なところがないがな

113 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/06(日) 02:01:12 O
        /´・ヽ      ねことあひるが 力をあわせて
       ノ^'ァ,ハ             みんなのしあわせを〜♪
       `Zア' /
       ,! 〈              ハ,,ハ
       /   ヽ、_          ( ゚ω゚ )
      l        `ヽ、      /    \
     .   ヽ       ヾツ))   ⊂  )   ノ\つ
         \        /      (_⌒ヽ
           ヽ rーヽ ノ       ヽ ヘ }
           __||、 __||、       ノノ `J

              ハ,,ハ
             ( ゚ω゚ )
              ,! 〈
              /   ヽ、_
             l        `ヽ、
            .   ヽ       ヾツ
               \        /
                ヽ rーヽ ノ
                  __||、 __||、
      ‐┼‐ヽ  |ヽレ ノ_ │  |  |   ‐┼‐ ‐┼‐
       __|__    | ┼ | |     |  |   ‐┼‐  d
      (丿 )   |ノ|ヽノ |    ノ  ヽ__ノ (丿\ ノ

114 名前:過去設定まとめ的な ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2009/12/06(日) 02:30:38 0

【転変】
そんな中、ある日集落が"終焉の月"の手による襲撃を受ける。狙いは言うまでもなく"門"だった。
たまたま不在だった二人はその手を逃れたが、集落にいた者は女子供まで皆殺しにされる。
既にアルテミシアは、その人狼達にとって紛れもない仲間であり、
群れにとって仲間を守る事は生きる事と同じ程に当然の事であり、その為に命を賭して戦った結果だった。

アルテミシアは全てを打ち明け謝罪し、再度一人で去ろうとするが、ギルバートはそれを引き留める。
彼にとって彼女は仲間であると同時に、それ以上に大きな存在になっていた。
二人はひとまず近くの街へと移り、隠れ住んだ。

【裏切り】
しばらく時が過ぎ、ギルバートはあの親友が自分達同様"終焉の月"の手を逃れていたことを知り、
彼と接触して"ファミリー"へと庇護を求める。
だが、満月の夜、二人が呼び出されたその場に待ち構えていたのは"終焉の月"だった。

重傷を負ったギルバートは、誰よりも信頼していた友の裏切りという理解に至り、
赤い月の下、獣を引き留めていた最後の鎖が砕け完全な獣と化す。
"終焉の月"の手の者相手に暴れ狂った後、その眼が捕らえたのは"門"だった。
無限の魔力の源である"門"を喰らえば、梯子を二、三段すっ飛ばして
古の破壊神フェンリル狼へと還る事も不可能ではない―――

そう理解した時、獣はアルテミシアに襲い掛かる。彼女は逃げなかった。
獣の腕が彼女の身体を貫いた時、アルテミシアは静かに笑い、囁いた。

「・・・お願い、戻って。あの優しくて、ひねくれ者のギルに」

時が止まった。やがて、ギルバートも少しだけ笑うと、自らの爪で自分の首を引き裂いた。
それでも獣は死なず瀕死に留まったが、結果的にそうして彼女を喰らう事を防いだのだった。
アルテミシアもそれを理解し、最期の力を使ってギルバートの中に僅かに自分の魔力を流し、
再度獣を抑えきれなくなった時の為に自らの意識として残した。
同時に、やがて別の"器"へと移るであろう自分の記憶を断片化し、
ギルバートに殺されたという事実を可能な限り削除した。

【終焉の月】
瀕死で生き残ったギルバートは、"終焉の月"に捕らえられ様々な実験の材料とされる。
"門"は(一時的に)逃したが、貴重な先祖帰りの人狼、しかも生け捕りというのはそれなりの収穫だった。
彼らは記憶を改変し、獣を使役する事を目指したが、ギルバート自身の"人"への執着、アルテミシアへの想い、
裏切りへの復讐心等が阻み、ディーバダッタの施す術でも完全な改変はできなかった。
ギルバートの記憶が時に曖昧になるのはこの時の処置による。

やがて完全な処置が不可能と判断されたギルバートは、ただの実験サンプルとして一人の錬金術師の手に移る。
錬金術師はギルバートの"人"への執着心に目をつけ、ほとんど戯れに、
人としての意識を保ったまま獣へと狂う存在へと変えようと目論んだ。
それは半ば成功し、ギルバートは"獣"の意識を繋ぎ止めたまま、その能力を得るようになった。
が、より"人"の部分による支配を弱める前にギルバートは"終焉の月"の手の元から脱出に成功する。
"終焉の月"が"赤騎士"の力を求め、監視が疎かになった隙を突いたのだった。

逃げ延びたギルバートに残ったのはかつての友への復讐のみだったが、
その情報を求めて身を寄せた"ファミリー"で家族のような愛情に触れ、少しづつ意識は変わっていった。
しかし結局その優しさに甘える事を恐れ、一人去って放浪し、ミア達と出会うに至る。

115 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/06(日) 02:47:31 O
なんかかなり辻褄が合ってないな
まあGJお疲れ

116 名前: ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2009/12/06(日) 02:59:24 0
>>115
疑問点があるなら、聞いてくれれば俺のできる範囲内で補足するが・・・
それは避難所の方がいい気もするが。

117 名前:ルキフェル ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2009/12/06(日) 23:13:41 0
【帝都・王室内 ヴァフティア事変より数日後】

「いつ…”入れ替わった”?」

玉座に座る王が目の前に傅く金髪の青年に問う。
老年ながらその眼光、威厳は見る者を圧倒する。
しかし青年は、その威圧さえ愉しむかのように前髪を掻き上げながら笑う。
「7年前――あの事件以来です。本来の彼は、既に私の一部。
抜け殻は教団の地下に。」

王は首を傾げながら青年を見る。
この男は、何を考え何をしようというのか。
王である自分ですら理解出来ない存在に思えた。
「では、お前は…何なのだ?一体、何者か…何が目的だ。…ルキフェルよ。」
王が言い終えるまでもなく、青年は再び彼の前に跪き忠誠を誓う挨拶をした。

「全ては、陛下の為。私の素性など…小さき事です。
いえ、正直に申し上げますと…忘れてしまいました。私も、私が何であるか。」

金髪の青年、ルキフェルは会釈を終えると王室を去っていく。
その姿を王はただ訝しげに見るだけだった。

王居を去っていくルキフェルに走馬灯のように彼の中の記憶が蘇る。

―何故、我にこのような力を授けた。そして、何故また現れた。

「永久の御子、それは貴方がそれに足りうる人物だからです。
私は貴方が力を得るきっかけを与えたに過ぎない。」

―何故、仲間を裏切った!?同属である我々を!!

「同属?笑わせないで下さい。…私は狼などの味方をしたつもりはない。」

―「どうして、母さんを」

ルキフェルは口を歪ませる。引き攣るように笑い、そして唾を飲む。
あぁ、そうだ。全部覚えてるさ。
忘れるわけないじぁあないかぁ。
散らばり行く記憶の断片。しかしそれは再び、時を超えて集まり始めた。



118 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/06(日) 23:44:07 0
人の思惑は大きな『潮流』となり、それが交わる時……『奔流』となって陰謀の大河となる。
その大きな『渦』は周囲を翻弄し飲み込んでいく!

その真相を知る為に人々は渦の『中心』を目指し、或いは引き込まれていく。
しかし渦は『中心』に近づくほど・・・苛烈に渦巻き、『深淵』へと加速していくのだ――!


ヴィフティアの南方。
帝国横断鉄道の南端鉄道都市【メトロサウス】――

水瓶に垂らした一滴のミルクが如き朝靄を切り裂き!
推進の魔力が散らす紫電を纏った『魔導列車』が到着した!

衝角の傷やヘコミは『大陸』を走破する力の象徴!
そして『都市』は人々が交錯する出発と到着の広場!!

折り返し『帝都』へ向かう魔導列車は大渦を切り裂く刃か、深淵へと引き摺り込む運命の糸か?
物語を紡ぐ旅人達は未だそれを知らない……!
                    

             
                ダークファンタジー:第二部――――開始

119 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/12/07(月) 02:19:31 0
――鉄道都市『メトロサウス』。

帝国の誇る最大交通機関、大陸横断鉄道の終着駅にして始発駅であり、大陸を渡らんとする旅人達の集う都市である。
街の半分を駅舎が占め、残り半分を宿泊施設と旅の要り物屋、そして食事と休憩所――まさに旅人のための街といったところか。
居住という要素を極限にまで薄めたこの街は、街というより巨大な一つの駅と表現した方が妥当かもしれない。

『〇七〇〇時より【鉄道都市メトロサウス】⇒【帝都エストアリア】の登都便が参ります。ご乗車の方は……』

駅舎の各所に据えつけられた音信管から拡声術式を通したアナウンスが飛び出し、旅人達へ列車の出発を予告する。
現在時刻は出発の半刻前。早朝の靄の向こうには、機関部が温まりつつある鋼鉄の巨躯が透けてみえていた。

「おばちゃーん!駅舎弁当、これで買えるだけ売ってくれ!そう、うん、全部温めてくれよな!おおう寒い!」

駅構内に軒を連ねる売店の一つで、よく通る声が大気を震わせた。掲げた紙幣をひらひらと振りながら、青年は注文する。
精悍な顔つきだった。短く刈り込んだ髪を帽子で覆い、外套の下からでもその身体が効率よく鍛えられていることがわかる。
特筆すべきは背中の武装。携行砲に巨大な刃を据えつけたような外見のそれは、接合部で折り畳まれて背負われている。

冬はまだ先とはいえ夜明け直後の今は身を刺すような寒さだ。吐く息は白く、指先はかじかむ。
レクスト=リフレクティアは弁当の買出しを誰が行くかという賭けを皆に持ち出した自分の愚かさを密かに呪った。

「くそっ、くそっ、言いだしっぺが負けるとかカッコつかなさすぎだっぜ!自信あったんだけどな!」

人数分の弁当を抱えながら人影もまばらな駅内を駆ける。列車の客室内では腹を空かせた同行者達が待っているはずだ。
もちろんレクストもその例に漏れず、食料の買出しを賭けたトランプを仲間に持ちかけたところ、悉く敗退。
プライドばかりは人一倍なレクストは大いに渋りつつも持ちかけた手前行かないわけにも行かず、こうしてパシリをやってる次第である。

あの夜、故郷が地獄と化した悪夢の夜、『ヴァフティア事変』から十日余りが経っていた。
破壊された建物の修復、被災者の救援、犠牲者の埋葬……街の復旧作業にようやく目処が立ち、人々の傷も癒え始めている。
そろそろ市民としてではなく、帝都王立従士隊の身としての仕事を再開せねばならなかった。事態の報告である。

(それに、あの『金髪野朗』のこともある――帝都で会いましょう、か)

七年前の悪夢、母親の魔物化、そして今回の反魂。それらには全てあの金髪の美丈夫が関連していた。
過去からすっとレクストの人生に横たわる巨大な存在。叩き壊さねば前へ進めない壁。全ての決着をつけるために。

『行ってこい。手探りででも進まなきゃ答えなんて見つからないんだろう?――馬鹿だからな、お前は』

父親はそう言った。大いに反駁したが、しかしこれも父親なりの後押しなのだろう。

『あ、帝都戻んの?報告に?んじゃすぐ戻ってくるよな、お土産シクヨロ!』

兄はそう言った。多分何も考えてないのだろう。ちなみにゴーレムの違法輸入が発覚して檻の中である。

『ハンカチもった?水筒もった?お弁当は?チケットは失くしてない?――全部忘れたの!?この愚兄!』

妹はそう言った。珍しくテンションが高く、朝食を五回も食わされ武装の点検から整髪まで全てやられた。
申し出られた見送りは丁重にお断りしたが、まさに母親もかくやといった感じである。

懐には帝都直通の乗車券。横断鉄道は国営なので、公務官であるレクストは経費で落ちる。
帝都に家族を呼ぶときなどに使える同行割引によって仲間の旅費も随分と浮いた。
本来ならば帝都までの列車賃は大樽三つ分のウイスキーに等しく、貧乏者は専ら商隊馬車に同乗するのだ。

レクストは器用に足を使ってドアを開け、客車の中へ転がり込む。長距離を行く横断鉄道は完全指定席であり、
客車は窓と昇降口に面した廊下と、そこから繋がる寝台や机などの設置された客室で構成されていた。

「おーい、開けてくれ!弁当買って来たぜ!」

両手が塞がっているので流石にドアノブは捻れない。足で軽くノックしながら、レクストは自らの帰還を告げた。

【鉄道都市メトロサウス 人数分の弁当を買って客室の前に 列車はまだ出発していません】

120 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/12/07(月) 02:29:11 0
名前:レクスト=リフレクティア
年齢:19
性別:男
種族:人間
体型:178cm

服装:帝都王立従士隊正式採用の魔力装甲。軽機動マジカルアーマー

能力:従士なので武闘派。格闘から魔法まで"けっこう"こなせる
   ただし魔法及び技能は戦闘のみそれも攻撃特化なので極めて単一能

所持品:バイオネット(ブレード付き携行型魔導砲。剣部分が砲身と融合した巨大なもの)
     魔剣『黒刃』(とある剣士の遺品。"負"の感情によって力を発揮する)

簡易説明:ヴァフティアに派遣され、地獄化を生き残った従士。
       七年前に起こった『魔の流出』によって母親を降魔される。
       底抜けに明るく、自分に対してやたらポジティブで調子にのりやすい。
       戦闘のプロなので対人戦闘はそこそこ強い。従士隊の中では凡クラス
       リフレクティアの馬鹿な方の息子



【それでは第二期、みなさんよろしくお願いします】

121 名前:必要事項 ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/12/07(月) 02:37:06 0
避難所
http://jbbs.livedoor.jp/study/10454/

過去ログ・キャラテンプレの確認はなな板まとめサイト千夜万夜にて
http://verger.sakura.ne.jp/



122 名前:フィオナ ◆tPyzcD89bA [sage] 投稿日:2009/12/07(月) 08:07:08 0
朝霞に煙る駅舎に鋼鉄の軋む音と魔力路の鳴動音が響き渡る。
鉄道都市『メトロサウス』。
都市全体が巨大な駅を形成しており、広大な面積を持つ帝国において移動の要となっている大陸横断鉄道の発着所だ。

大陸鉄道列車の客室車両にある部屋の一つ。
窓際に置いた椅子に行儀良く腰掛け窓の外を眺める一人の女性。
神殿の意匠の入った真っ白い外套を羽織り、膝の上にはなめし皮の鞘に収められた長剣。
ヴァフティアにあるルグス神殿。その神殿騎士団所属の聖騎士フィオナ・アレリイである。

「帝都に黒き影の兆しが見えます。か……。」
たった一夜で都市一つが地獄と化した『ヴァフティア事変』から十日余。
街の復興を理由に一度は断った帝都行きではあったが、聖女より新たな神託と帝都の神殿への親書を託され改めて同行したというわけだ。

「それにしても……レクストさんには悪いことをしてしまいました……。」
フィオナの視線が部屋の中央に据えつけられているテーブルの上。先程まで皆で興じていたカードへと注がれる。

食料の買出し役を賭けての大勝負。結果はフィオナの大勝であった。
別段この手の賭け事が得意というわけでは無い。むしろ弱いと言っていいだろう。
しかし相手の勝負手が何となくだが分かるのだ。危険か、否かが。
心当たりはあった。
女性の神官のみが得られる"神託"の奇跡。まだまだ聖女のものには比べるべくも無いが直前の漠然とした危機が分かるのだ。
悪夢の夜を生き抜いたことがもたらしたのか、剣士としての腕前はもとより神官としての力も成長したということなのだろう。
強大な魔の力と邂逅したことと、それに抗すべく神へと渇望した祈りもその一因となっているのかもしれない。

『―――また、お会いしましょう…帝都で。』
と、あの黒衣の男ルキフェルは言っていた。
これから行く帝都では当然彼が待ち構えているのだろう。
死した者を自在に操る"反魂"の術、新たに開発できそうだと言っていた"新しい力"、そして"陛下"。
これから赴く帝都もヴァフティアでの一夜と同等、もしくはそれ以上の困難が待ち受けていそうだ。
カードを見つめるフィオナの表情も自然と険しいものへと変わっていく。

『おーい、開けてくれ!弁当買って来たぜ!』
げんなりとした声と共にドアが――かなり下の方が――ノックされる。
買出しに行ったレクストが戻って来たのだ。

「はいはい。今開けますね。」
先刻の勝負の気まずさから他にも立ち上がろうとする者を制し、ぱたぱたとドアへと駆け寄るとレクストを招き入れる。

「ありがとうございます。寒かったでしょう?」
そう労いの声をかけるとフィオナは備え付けのポットから人数分のお茶を注ぎ、先ずレクストに、次いで他の者へと差し出した。

123 名前:フィオナ ◆tPyzcD89bA [sage] 投稿日:2009/12/07(月) 08:09:55 0
名前:フィオナ・アレリイ
年齢:20
性別:女
種族:人間
体型:160cm。出るところは割と出てる。

服装:神殿騎士団正式装備
   ガントレット、グリーブを着けチェインメイルの上から神殿の意匠の入った白い外套を着ている

能力:騎士剣技と神聖魔法。見た目から想像できない程度の頑丈さと筋力を持つ。

所持品:バスタードソード(ヴァフティア在住の凄腕鍛冶職人ゴードン入魂の一品)
    ラウンドシールド、短剣、聖印

簡易説明:神殿所属の聖騎士。年の割りに落ち着きが無く勢いが先行するタイプの剣術バカ。
     生来の頑丈さと男の神殿騎士に勝るとも劣らない筋力がそれに拍車をかけている。
     ヴァフティアで起こった降魔騒動を戦い抜き剣士として神官として一回り成長した。
     聖女より託された帝都神殿への親書を携え仲間と共に帝都エストアリアを目指す。

     神殿での主な仕事は聖女の付き人。
     聖騎士の位置づけは特別というわけではなく神聖魔法(奇跡)も使える神殿騎士の別称。
     
     家族構成は父、母、弟(双子)に飼い犬(二代目、黒毛)が一匹。

【一部から続投の皆さん、ご新規の皆さんよろしくお願いします。一緒に楽しみましょう。】

124 名前:ジース ◆vKA2q6Alzs [sage] 投稿日:2009/12/07(月) 09:57:08 0
メニアーチャ家、と聞いて帝国で知らぬ者はないだろう。
平民の出でありながら僅か二代で市場の全てを統括し、莫大な財産を築き上げ。
最上級の貴族の地位を金で買った、恐るべき商人の名を。
立場上は商人を退いた後も、市場に与える影響力は強かった。

その当主が謎の事故で夫人もろとも逝去したのは、ちょうど一年前。
遺されたのは無尽蔵の財産と、膨大な権力と、まだ若い2人の姉弟。
年齢を心配する声もあったが、皇帝の後押しもあり、弟が全てを受け継ぐことになった。

そのメニアーチャの大邸宅の一室。分厚いカーテンで締め切られ、
光も射さぬ暗い部屋の中、蝋燭の灯だけが揺らめいている。
ベッドで一人の女性が眠っている。……いや、少女と言うべきだろうか。
驚くほど透き通った翡翠色の髪と、整った輪郭。その姿は、まるで人形のようで。
さながらもう死んでいるのかと訝しんでしまいそうなほどに、微動だにしない。

そのすぐ横に、簡素な椅子が1つ。少女が眠るベッドに向かい、鎮座する。
腰掛けるのは、少年。少女と同じ透き通った翡翠の髪――血の繋がりを感じさせる――を、短く刈り揃え。
表情は頼りなく、何かきっかけがあれば今にも泣き出しそうに、脆く危うい。

「姉さん、今日もお城に資金提供してきたよ。……こんな僕でも、世の中の役に立てるんだ」
眠ったままの少女に、少年は語りかける。
「……ねぇ、姉さん、知ってる?姉さんが寝てる間に、父さんも母さんも、死んじゃったんだよ?」
気が付けば少年の蒼い瞳に涙が浮かんでいる。もう何百度、何千度。呼びかけたことだろう。
「だから僕が当主なんだよ?弱虫で、泣き上戸で。いつも姉さんに守られてばっかりだった僕だけど」

少年の独白は続く。
「今は……姉さんを守れるんだ。そうしようと、そうなろうと、そうあろうと、頑張ってきたんだ」
やがて飽和し、頬を伝い落ちる滴。
「だから……姉さん、目を覚ましてよ……」
成長も止め、眠り続ける、愛する姉の姿。
その腕に顔を埋め、少年は号泣する。

ひとしきり泣いてから、少年は部屋を後にする。
「じゃあね、おやすみ……姉さん」


部屋から出た少年は、さっきの頼りなさが嘘のように凛とした表情、態度。その双眸は自信に溢れている。
これが、わずか16歳の大貴族、ジース・フォン・メニアーチャ公。今ここにいる少年だ。
廊下を歩くその姿も、威厳と気品を兼ね備えている。
貴族たる、風格を。

「ぼ、坊ちゃま!」
執事服の初老の男が小走りで駆け寄る。何か気に障ったのか、ジースは露骨に眉間に皺寄せる。
「もう坊ちゃまはよせと、何度言わせるのだ」
「し、失礼しました、当主様!」
「して、何用か?」
「先日、またも城に献金されておりますね?それについてでございますが……」

「何か文句があるのか?」
眉間に刻まれた皺が益々深くなり、その眼光鋭く、執事を睨む。
「い、いえ、何も……」
まるで蛇に睨まれた蛙のように、肩を竦める執事の男。
ここで逆らうのは簡単だが、この当主のことだ。首を切られてはたまったものではない。
「ならば何の問題もあるまい。所詮、端金よ」
実際は端金などではない。平民が一生働いても及ばぬほどの金額が動いている。
それすら大した額ではないほど、全く想像もつかぬほどの財産があるということなのだ。

125 名前:ジース ◆vKA2q6Alzs [sage] 投稿日:2009/12/07(月) 09:58:18 0
歩みを止めることはなく、そのまま邸内から外に出ようとする。
「どちらへ?」
「都内を散策してくる」
「では、護衛の用意を」
「いらん」
何度も繰り返してきた会話だ。この当主が1人でぶらりと出歩くのはそう珍しいことではないし、
その度に護衛を断られることも分かっていながら聞く。それも執事の仕事だと割り切っている。

屋敷から離れて向かう先は、最貧困層の住まう地――スラム街だ。
悪臭漂うその場に顔をしかめるが、構わず進み……開けた場所に出る。
多数の貧民が雑魚寝するその場所で、ジースは懐をまさぐると。
「ほら、施しだ!有り難く受け取るがいい!」
金貨をばら撒いた。

我も我もと金貨に群がる貧民達を見て、満足げな表情でその場を後にするジース。
貧困層への奉仕。それが、ノブレス・オブリージュだと思い込んでいるのだ。
しかし撒いた金貨は数が限られる。奪い合い、殴り合い。果ては殺し合いに発展する。
そこがスラム街であろうと、ある程度はそれなりに保たれていた秩序が瞬く間に崩壊してしまう。

そんなことすら、気付きもしない。
世のために、正しいことをしたと。
本気で思っているのだ。

(今日も、いいことをした)
足取り軽く、意気揚々と帰り道を歩くジース。
だが、はたから見ればそれは不用心にも貴族が護衛もつけずに街を歩いているだけ。
襲ってくれと、言っているようなものだ。

「待ちな!」
邸宅にほど近い人気のない道を通るところで、追い剥ぎ3人に囲まれる。
「命までは取らねェから……とりあえず、有り金全部置いてってもらおうか?あとその高級そうな服とな」
「兄貴、こいつどう見ても貴族でしょ?ふんじばって身代金せしめた方がいいんじゃないっスか?」
「でもちょっと時間がかかりすぎるだろ……金は早急に必要なんだから」
「そ、そっスね。おら!早く出せよ!痛い目に遭いたくないならなァ!」
それぞれがナイフを構え、じりじりとジースの元へ近付いてくる。

溜め息をひとつついた後、腰に差したレイピアを鞘から抜き放ち、マインゴーシュを左手に構える。
「襲った相手が……悪かったな」
「な、何を言いやがる!いいぜ、ちょっくら痛みつけてやるぜ!」

126 名前:ジース ◆vKA2q6Alzs [sage] 投稿日:2009/12/07(月) 09:59:05 0
暫し後。
足を貫かれ、立ち上がることすら出来なくなった追い剥ぎ達を横目に。
レイピアに付いた血を拭き取り、鞘に収める姿があった。
「命までは、取らん」

恨みがましい視線で見上げてくる追い剥ぎ達を見回す。
「……お前らは、ただの追い剥ぎではないだろう」
リーダー格の人物の前に片膝立てて座り、その瞳を見据える。
「何か、あるのではないか?」
「な、何がだよ」
「剣筋に焦燥を感じられるのだ。ただ遊ぶ金ほしさ、のようには見えない」

一点の曇りもないその瞳に見つめられ、思わず男も本音が漏れる。
「……あァ、そうだよ。俺の娘は重病でな。たっけェ治療費が必要なンだよ!
 だから弟分に頼み込ンで追い剥ぎの真似事してるって訳だよ。
 そンで何だ?お前が恵ンでくれるってのか?」
「あぁ、構わん」
ジースは懐を探り、金貨が詰まった小袋を無造作に渡す。
「これで足りるか?」
男は目を皿のようにした後、躊躇することなくその袋を受け取り、大事そうにしまい込む。
「礼は言わねェからな」
「いい。礼を言われるために渡した訳ではないからな」

笑顔のまま立ち上がると、大きく指を鳴らす。
するとどこからともなく現れた複数の男が、立ち上がれない男達を抱きかかえようとする。
男達は動揺し、これはどういうことかと疑問の視線を向けるが。
「心配せんでもいい。足を治療してやろうというだけだ。
 襲われたのはこちらとはいえ、傷を付けたのも間違いなくこちらだからな」
感謝と申し訳なさとが同居したような笑顔を浮かべて連れて行かれる追い剥ぎのリーダーを。
親指を立てて、見送った。

しかし。
これはジースも知らぬことだが、連れていかれた男を待っているのは治療ではない。
大が付く貴族の当主を、襲ったのだ。不問にしては、他の貴族が安心出来ない。
所詮はただの追い剥ぎに堕ちた一般民、数人減ったところで何か困ることがあるわけでもない。

病に伏せる子は、もう戻らぬ父の帰りを待ちながら、死を迎えるのだろうか。
自分の与り知らぬ所でそんなことが起きているなど、ジースは予想だにしていない。
笑顔で暮らす親子の姿を、脳天気に思い描いている。

ジースの素性を知る民は、皆が頭を垂れて視線を合わせない。
それを本人は、自分がしている『いいこと』、それの礼の意思表示と捉えている。
貴族として尊敬される人間になりたい。その夢が叶っていると、誤認している。
本当に尊び敬っている人間は、果たして何人いるのだろうか。

127 名前:ジース ◆vKA2q6Alzs [sage] 投稿日:2009/12/07(月) 10:01:23 0
名前:ジース・フォン・メニアーチャ
年齢:16歳
性別:男
種族:人間
体型:身長170cm、やや華奢
服装:ダブレットにシャウベ。いわゆる貴族服
能力:戦闘式儀礼剣術、簡単な補助魔法、財産
所持品:レイピア(家紋入り)、マインゴーシュ
簡易説明:名の知れた大貴族。父の急逝によりその権威と爵位を受け継いだ。
     それが世の為と信じ、帝国に莫大な資金提供を行っている。
     その金がどのように使われているかも知らぬまま。
     わりと金でなんでも解決出来ると思っている。

【よろしくお願いします】

128 名前:ジェイド=アレリィ ◆EnCAWNbK2Q [sage] 投稿日:2009/12/07(月) 14:04:12 0
「冗談じゃないぜ。」

久しぶりに帰ってきた故郷は、とてつもない惨状に見舞われていた。
人々は魔物へと変わったという。そして所々にその爪痕が残っている。
幸い家族は無事だったようだが、それでも街に溢れる孤児達が腹を空かせて
物乞いをしている。
「おい、坊主。腹が減ったか?」
子供達の前で火を起こし食材を広げ、鍋に油を揺らす。
地元で取れるアレーム海老とピアカという根菜を炒め
オレンジソースで味付け。
いつの間にか、炊き出しのような行列を作っていた。
「どうだ?美味いかい。」
子供達の笑顔が何よりの答えだ。

ジェイドは膝をポンと叩き立ち上がる。
「飯を食って、でかくなって。また、この街を元通りにしてくれ。頼むぜ。」
街には帝都からの支援部隊が大挙している。
援助といえば聞こえがいいが、我が物顔で街を闊歩してるようにしかジェイドには見えない。
その様を見て、嫌な予感を持たずにはいられなかった。
「帝国軍…か。」

そういえば今日は右腕が妙に疼く。
朝の肌寒い風が彼の頬を何度も叩いて止めなかった。

「行ってみるか、帝都に。」
こうしてジェイドは帝都直通の列車の乗車券を買…わず。
貨物車の中へ紛れ込んだ。
居心地は悪いが、安上がりで済む。

「だって高いだろ?乗車券。」


129 名前:ジェイド=アレリィ ◆EnCAWNbK2Q [sage] 投稿日:2009/12/07(月) 14:06:00 0
名前: ジェイド=アレリィ
年齢: 20歳
性別: 男
種族: 人間
体型: 身長180cm、やや筋肉質

服装:派手目の軽鎧、首回りに毛皮、緑色の瞳と黒髪

能力: 元帝都従士隊のエース。16歳から19歳まで所属していた。
若年ながら比類稀なる剣技、体術と魔術を操る。
かつて巨大な龍と戦った際、右腕を失い義手に変えられた。

所持品: 義手「流星牙」(龍の体から精製した義手)、包丁、鉄鍋、短剣

簡易説明:元帝国軍の兵士。今は気ままに料理人をしながら各地を
放浪している。性格は無愛想、冷静沈着だが少々天然気味。
双子の姉がいる。

【少し改定しました。皆さんよろしくお願いしますー】



130 名前:マダム・ヴェロニカ ◆iHSgBAJ.9BYi [sage] 投稿日:2009/12/07(月) 23:59:59 0
最初にその存在に気付いたのは嗅覚だった。
咽返るようなドキツイ香水の匂い。
香りではなく最早匂い、いや、臭い。
どんな香りでもこれ程までに濃く、様々な香水が入り混じればは何つく。
普通の者でも慣れるまでかなり辛い思いをするだろうが、嗅覚の鋭いものは推して知るべし。

次にその存在に気付いたものは聴覚。
ジャラジャラとこすれあう貴金属。
指、耳、胸、腕、足、凡そ考えられる場所には全て光輝く貴金属が捲きついていた。
一瞥するだけで十分高価なものであるが、それ以上にその重量が気になってしまうほどに。

そして最後に、否が応でもその存在に気付いたものは視覚だった。
列車通路を完全に塞ぐようなふっくら・・・ふくよか・・・豊満・・・
どのような形容詞もその体の前には虚しく終わる。
有体て言えばデブな五十路を越えた婦人が車両に入ってきた。

ケバケバしいナイトドレスに毛皮のコート。
これでもかという貴金属に口元に引かれた真っ赤なルージュ。
パタパタと扇子で扇ぎながら歩く姿がギリギリのところで下品と思われないのは、その婦人が醸しだす艶の雰囲気のお陰だろう。

ドスドスと歩いている婦人とフィオナの目が会うと、にっこりとしながらやってきた。
「連れのお兄さんがたちょいとごめんなさいよ。
おやまあ、これはかわいらしいお嬢さん方だねえ。
なんだい?帝都へ行くのかい?帝都はいいところだよう?
あたしゃヴェロニカ。
帝都の高級娼館【ラ・シレーナ】のマダム・ヴェロニカさ。」
軽い口調とにこやかな顔で自己紹介し、名詞を配る。

「いやー、ヴァフティアにいい娘がいるってんで直々にスカウトに来たんだけどねい。
知ってるかい?リフレクティア商店の看板娘!
いい子なんだけどヴァフティアがなんかテロ騒ぎでえらい事になっちまってね。
スカウトどころじゃないってんで手ぶらで帝都に戻るところなんだけど・・・
あんたらならうちの店ですぐに売れっ子になれるよ!
神官服ってのはいいねえ。男ってのはそういうのに幻想を抱くからね。
それだけでも十分な箔だけど、現役って枕詞がつけば無二の武器だよ!
なんだいなんだい?そこら辺のローソク娼婦と一緒にしないでおくれよ?
うちの店は貴族御用達、皇帝陛下の後宮にだって何人か送り出しているんだからねい。
今なら丁度先代が急逝して財産引き継いだ16のボンボンがいてねぇ。
三人送っているんだけどなかなか手をつけないみたいで。ウブなのかしらねー、まったく。。
あんたらがうちに来るならそこを紹介してあげるよ?
普通愛妾がいいところだけど、そこなら上手くすれば正妻になれるかもしれないんだよう?」
とても生き生きと嬉しそうに一気にまくし立てるマダム・ヴェロニカ。
このまま放って置くと給料体系や福利厚生、話術・宮廷作法などの教育、実技指導など契約書を出して話しそうな勢いである。

【フィオナのほか女性が同席しているのならばそのキャラにも同時に話を振ります。】

131 名前:マダム・ヴェロニカ ◆iHSgBAJ.9BYi [sage] 投稿日:2009/12/08(火) 00:00:19 0
帝都の一角に重厚な館がバラを模した柵に囲まれ建っている。
ここは高級娼館【ラ・シレーナ】。
一般人無用の貴族専門娼館。しかし貴族であっても一見お断りの格式ある店なのだ。
ここまで格式が高いと娼婦といっても身を鬻ぐだけではない。
宮廷コンパニオンとして耐えうる知識と教養を持つ。
勿論枕事にも良く通じ、貴族社会そして王宮とも繋がりが深い。
表裏問わず【女】の必要な場所にはラ・シレーナの息がかかっている。
しかしそこで得られた秘密は朝日と共に泡と消え行く。
それこそが店の名前【ラ・シレーナ(人魚姫)】の由縁なのだから。

>126
「ふーん、それで、そのお金は哀れな娘に届いたの?」
「知らないわよ。でもそんな事一々やってたらキリがないし、放置じゃない?」
メニアーチャ家の本館第六厨房で三人のメイドがペチャクチャと話をしていた。
メイドというのは一部男性の願望の産物のような身も心もご主人様に捧げて奉仕します、という存在ではない。
両家の子女が行儀見習いとして紹介されるのが常である。
こと最上級貴族ともなれば一般市民など入る余地はない。
だが、この三人は少々違った立場の存在であった。

本館第六厨房。
ここでは簡単なお茶やつまみなどを用意する場所なのだが、そこに陣取っていたのはシェフではなく三人のメイド。
しかも貴族のメイドにしてはその衣服の露出度はかなり高目といえる。
「ちょっと、チタン。あんたなにしてんの?」
香水を纏いながら問いかけるのは23歳ほどの女性。
そう問いかけられる年の頃17歳ほどのショートカットの少女は自分の左手の指に切り傷をつけては小器用に包帯を捲いている。
「んふ〜。これがジース様の心を掴むポイントになるのよ。それよりエボン、なによその香水。マダム・ヴェロニカでもあるまいに。」
「ちょっと、何と一緒にしているのよ!この香りと母性こそジース様の求めているものよ。」
エボンは豊な胸をチタンに突き出し、勝ち誇ったように笑みを浮かべる。
「どうせそんなの垂れてくるばかりでしょ。チタンはそれで打ち止め。
その点、私には将来があるし〜。
オバサンたちが醜い争いをやっている間に私は若さでジース様を落して見せるわよ。」
二人のやり取りをクスクスと笑いながら見下すのは15歳ほどの少女だった。
「「何ですって!フランソワ!!」」
エボンとチタンが声を揃えて少女の名を叫ぶ。

この三人、先代メニアーチャ家当主の友人がジースの身を心配して送り込んだラ・シレーナの娼婦なのだ。
つまり、家事を始め身の回りの世話もしながら、手をつけてもよいという存在。
そのまま囲うもよし、泡として戻すもよしなのだ。
勿論三人の方もそれは良く弁えており、その上でジースを篭絡し愛妾に、上手くすれば正妻に!という野望を燃やしている。


「失礼します!ジースさまっ!美味しいお茶を入れましたのっ!」
フランソワがポットを持ちながら元気良く部屋に入り、ジースに甘えるような視線を送る。
そんなフランソワとジースの間に無遠慮に突き出される皿にはいい匂いのするクッキーがのっている。
「これ・・・一生懸命作ったから・・・。」
ぶっきらぼうにチタンが突き出す。
皿を持つ手の指には痛々しい包帯が無言のアピールをしていた。
そして最後は、甘い香りと共にジースの肩に柔らかい手が乗せられる。
「御当主様。お疲れのようですね。マッサージはいかが?」
耳元で優しく囁くエボンの瞳と唇は潤んでいた。

【フランソワ:14歳:ツインテール:ツルペタ:元気
 チタン:17歳:ショートカット:微乳:ツンデレ
 エボン:23歳:ロングストレート:砲乳:お姉さんタイプ
ジースの寵愛を狙う高級娼婦たち。あくまで表向きの性格であり、内実はビジネスライクで情には流されません。
NPC扱いでOK。】

132 名前:マダム・ヴェロニカ ◆iHSgBAJ.9BYi [sage] 投稿日:2009/12/08(火) 00:01:08 0
名前: マダム・ヴェロニカ
年齢: 56
性別: 女
種族: 人間
体型: 樽もしくはトド
服装: ケバケバしいナイトドレス・毛皮のコート・貴金属の装飾品多数・仮面の如き厚化粧
能力: 変装術・戦闘舞踊【ノウ】
所持品: 各種扇
簡易説明: 帝都の高級娼館【ラ・シレーナ】のマダムにして現役娼婦。
    重鈍そうに見えて意外と身が軽い。


微妙に改定。
よろしくお願いします。

133 名前:ハスタ ◆fmAKADpWIqWy [sage] 投稿日:2009/12/08(火) 01:49:13 0
>119>122

――夢を、最近よく見るようになった。
かつて、一緒に笑い合っていた仲間の夢。
オレが救えなかったアイツ。オレが殺してしまったあいつ。
アイツはそれでも笑顔で・・・その両手に宿る青い光がナイフへと姿を変え、
そして、アイツの首に描かれる・・・・・・
        ―  紅 い 三 日 月 ―

帝都へ向かう鉄道の客室で、ぼんやりと窓の外を眺める。
物思いに耽る顔は多分誰が見ても顔つきが悪いと表現できるような顔。
背後には純白の木材が4本一まとめに立てかけられ、その上に大雑把に暗灰色の外套がかけられている。

>「それにしても……レクストさんには悪いことをしてしまいました……。」
思考に割り込んできた声に意識を戻すと、どこか物憂げな女騎士が呟いている。
あの一件で知り合った二人のうちの一人。もう一人は絶賛パシリ中なのである。
簡単なカードゲームをやろうという話だった。食料の買出し役を賭けて。
勿論、オレは女性相手でも手は抜かない。イカサマの手を用意して勝負に臨んだのだが・・・

「(・・・・・・初手でほぼ最強の手を引く奴相手に勝つイカサマなんぞ知らねぇ。これが神の加護か?)」
と言うほどの有様だった。もう一人は事前に正々堂々とやろう、といった挑発をかけたらあっさり乗った。
というわけで買い出しは免れた訳だが、ある意味こっちのプライドがずたぼろだ。

そうこうしているとノックの音。
女騎士・・・フィオナが率先して迎え入れる。・・・よし、少し溜飲を下げる事にしよう。
ドアの向こうから来たのがパシr・・・もといレクスト。栄えある従士隊の一員だ。
オレは差し出されるお茶を受け取りながら、向かいに隣り合って座るフィオナとレクストを眺めてタイミングを測る。

「・・・・・・しかしアレだな。こうして見ると、“蜜月”に出かける新婚夫婦を見ている気分になるな。」
一口お茶を飲んで皆がほっと息をついた後、わざとらしくため息をつきながら用意していたセリフを吐き出す。
一瞬、ポカンとした二人の顔があっという間に紅潮していくのを見て余りに予想通りの結果にくつくつと笑いが漏れる。
わずかな付き合いだが、この二人の免疫の少なさは格好の餌食だ。

そんなこんなでの食事後、オレは本題を切り出しておくことにした。
「でだ。帝都に着いた後なんだが・・・ハンターギルドに話を通しておこうと思うんだが。
 実は、帝都のギルドにはオレの養父がいてな。一応それなりの立場だから秘密を守ってくれるのと・・・・・・
 ヴァフティアの出来事みたいなのが起きたときに対応の用意をしてくれるんじゃないかと思う。」
魔法都市ヴァフティア。あの地で多数の犠牲者を出した事件。(公には事故などとも言われるが)
アレはほんの数人が頑張って被害を止められるようなものじゃない。だからこそ先手を打っておくべきだと考えてだ。

「ただ、あのクソジジィはオレと違って大分性格が悪いからな。オモチャにされないように気をつけた方がいいぞ。」
・・・なぜだろう。周囲からの視線が痛い。
咳払い一つで誤魔化して他に視線を向ける。
「でだ、他に何かツテとかはあったりするのか?」

134 名前:ハスタ ◆fmAKADpWIqWy [sage] 投稿日:2009/12/08(火) 01:50:48 0
名前:ハスタ・KG・コードレス
年齢: 19歳(自称)
性別: 男
種族: 人間(?)
体型: 身長164cm 体重47kg やや小柄か
服装: 旅装束の上に暗灰色の外套
能力: 「使用枚数によって効果の変化する符術」「多数の武器を同時に扱う戦術」
所持品: 多目的器具“四瑞”(読:しずい。四霊などの形態もある)、財布、呪符ホルダー(現在はMAX40枚)等々
簡易説明:プロフィールに不明な点の多い【賞金稼ぎ】(ハンター)。
     シニカルな態度が多々見られるが、時折情に流される事もある。
     今回、帝都近辺が出身であるらしく養父が帝都のギルドに勤めているらしいが・・・?
     主な得物である四瑞は普段は純白の木材のような外見をしているが、使用者の用途にあわせて多種多様に変形する。
     また、どうやら四瑞以外にも四霊などの別の形態があるようだ。

【1期より継続参加。皆さんよろしくお願いします。
 プロフィールの曖昧な部分は直に詳細が発覚して改修予定。】

135 名前:名無しになりきれ[age] 投稿日:2009/12/08(火) 16:54:47 O


136 名前:ローズ・ブラド ◆lTYfpAkkFY [sage] 投稿日:2009/12/08(火) 19:34:34 0
>>130
「あの〜お取り込み中すいません…僕、その席。その、、」

おどおどしながらフィオナとマダムの間に入ろうとする細身の青年。
長い睫毛、大きな瞳。そして女性のような美しい顔立ち。
彼の名前はローズ。見た目も女のようだが、名前も同じくそう聞こえてしまう。
挙動不審気味に2人を見つめる彼の周りを小さな龍?が飛び回る。
「なぁ〜に、ビクビクしてんだよ!いいか、こういう時に姉ちゃん達を
優しくエスコートすんのが本当の男って奴だぞ。」
喋る龍は勝手に席に着くなり2人の女性を見つめながらお茶をすすり始めた。
「いや〜美しい貴婦人を眺めながら飲む紅茶はウマ…あ、熱っ!」
ローズも頭を掻きつつフィオナとマダムに一礼し自分も席に座りながら溜息を吐いた。
「ダメだ、やっぱり僕は苦手だ。他人と接するのが…」

思い返せば、ローズは他人に関りを持とうとせず生きてきた。
吸血鬼などと突然言われても、出生の秘密を明かされても
何も納得できない。
だいたい、僕は何の為に生きてるんだ。
鬱々とした感情のまま、ここ20年ほどを生きてきた。
隣にいるのは、彼の生まれてからずっと傍にいる相棒・ドラルである。
「何しょぼくれた顔してんだ?元気出せって。あ、兄ちゃん達も
帝都に行くのかい?」
ローズの感情を余所に、相棒は隣の席に座るレクスト達へと声をかけていた。




137 名前:ローズ・ブラド ◆lTYfpAkkFY [sage] 投稿日:2009/12/08(火) 19:36:52 0
(新規参加です、皆様よろしくお願いします。)

名前:ローズ・ブラド
年齢:20歳
性別:男
種族:人間
体型:身長176cm 体系:細身
服装:白いマフラー、赤い作務衣・黒のズボン
能力:3種の魔獣石を使用しその能力を一時的に装着する。
(ゴーレム、フェンリル、ブラド)
相棒:ドラル(魔龍)
小型の龍のような姿をした装甲獣。戦闘時にはローズの体に装着する”鎧”の
役割を果たす。魔物などに関する知識も豊富な頼もしい相棒。
簡易説明:かつては名門と呼ばれていたブラド家の生き残り。今はほとんど
生き残りのいない半ば伝説化した吸血鬼の血を継いでいるが本人はその事を
忌み嫌っている。性格は引っ込み思案で臆病。



138 名前:アイン ◆mSiyXEjAgk [sage] 投稿日:2009/12/08(火) 19:41:34 0
アイン・セルピエロはヴァフティアの事件を聞きつけるや否や、すぐさま大陸横断鉄道の当日乗車券を買いに走った。
彼の研究には魔物の素材が必要不可欠で、ともなれば降魔の場となったヴァフティアは彼にとって宝の山にも等しい。
火事場荒らしのようで聞こえは悪いが、降魔の件がなくともヴァフティアの周りにしかいない魔物は多い。これを期に収集するのも悪くない。
何よりここで多くの素材を手に入れておけば、それは必ず人の役に立つ。

自分の行動を肯定する理屈を捏ねながら、彼は無骨な金属の塊に揺られヴァフティアへと向かった。

過程を飛ばし結果だけを言えば、アインの今回の遠征は大成功だった。
彼は嬉々としながら、帝都へ帰るべくメトロサウス発の帝都行き列車に乗った。

そして今、列車の個室の一角で。数ある収集品の中の一つ、純白の粉末がクリスタル製の瓶へと注がれていく。
赤い炎の尾を引きながら重力に従うそれは、灯火珊瑚を磨り潰した物だ。
引き潮に合わせて自身の体から炎を放ち海岸を彩る灯火珊瑚は、ヴィフティア付近でしか見られない。
アインもこれまでに何度か輸送を依頼していたのだが、どれも道中で燃え尽きてしまい彼の元までは届かなかったのだ。

「まったく……輸送隊の奴らは一体何をしていたんだ? 大方水にも漬けず空気に晒したまま運ぼうとしたんだろうが。
 灯火珊瑚の生態を見れば子供でも分かるだろうに、外気に触れない限り奴らは発火しないのだと」

愚痴と共に溜息を零しながら、アインは密閉した容器にしまってあった珊瑚を、今度は水を八割ほど張った瓶へと移す作業を続ける。
工程で多少燃えてしまうが、ただ容器に入れておくよりは遥かに安全だ。
どこからか空気が入って、帝都に着いたはいいが全部燃えてましたでは笑い話にもならない。

「メニアーチャ家も代替わりしてしまったからな。あの凡骨息子が以前と同じように資金提供してくれるとも限らん。
 ただでさえ減額されるであろう資金を更に無駄には出来ないからな……」

再び零れる嘆息が澱みなく流れ落ちる白い滝を揺らさないよう気を配りながら、アインは一人ごちる。
メニアーチャ家の先代当主は彼の研究する学問『役学』に理解を示し、潤沢な資金が届くよう心配りをしてくれた。
だが新しい当主であるジース・フォン・メニアーチャは、控えめに称しても『鷹が生んだトンビ』だ。
来年からの資金申請の事を考えると、アインはどうにも顔を顰めずにはいられなかった。

思案の糸が頭の中でもつれながらも、手はてきぱきと作業を進めていく。
白い粉末や、また灯火珊瑚の塊が沈められた瓶がズラリと備え付けのテーブルに並べられる。

しかし最後の一つに封をしたら作業終了と言ったところで、不意の事故が起こった。
発車の前兆か、列車全体が大きく揺れたのだ。
予期せぬ振動にアインは体勢を崩し――結果、彼の手から蓋のされていない瓶が離れ落ちる。

彼が手を伸ばす間もなく瓶は床に落ち、珊瑚が瓶の口から零れ炎上して、


火災防止用の放水オーブが反応を示し、天井から夥しい水が降り注いだ。

139 名前:アイン ◆mSiyXEjAgk [sage] 投稿日:2009/12/08(火) 19:43:13 0
「……僕とした事が、しまったな」

憮然とした表情で、アインは呟いた。
黒いズボンもシャツも白衣も全てが肌に張り付き、整えるのが面倒で伸ばしっぱなしにしてある髪は水分によって随分と重くなっている。
視覚矯正術式が施された眼鏡のお陰で、水滴も髪も関係なく視界だけは鮮明だが。
もっともこの場この状況において最たる問題は、衣服でも髪でもない。

最大の問題は、オーブによる放水の煽りを受けて、原因である彼の部屋へ苦情を吐きに詰め寄った大多数の乗客だ。
先程からやれ弁当がどうだ衣服がこうだ化粧がああだのと、口々にまくし立てている。

「……やれやれ、あまりこう言うのは好きじゃないが、面倒事は嫌いの部類に入るからな」
ぼそりと呟くと、アインは足元に置いてあった鞄を開き、中から一枚のカードを取り出した。

「これは帝国公認の身分証明証だ。つまり僕の行為は帝国の許可の下行われている。文句があるならそっちに言ってくれ。
 損害を被ったなら、そうだな……帝都に着いてから従士隊の屯所でも訪れればいい。
 アイン・セルピエロの名前を出せば多分保証してくれるだろ。詳しい事は知らんけどな」

一言に言い切ると、すぐにカードを鞄にしまい直す。
帝国の名は彼の予想通りに大きかったようで、集まっていた大勢の乗客達は皆すごすごと立ち去っていった。

「さて……って、何だ? アンタ達は。まだ言いたい事でもあるのか?」

未だ入り口前に残っていた数人に、アインは面倒臭そうに細めた双眸を向けた。

140 名前:アイン ◆mSiyXEjAgk [sage] 投稿日:2009/12/08(火) 19:48:06 0
新規参加です。どうぞよろしくお願いします
そういえば避難所の参加表明で酉を忘れていた事に気がつきました
名前:アイン・セルピエロ
年齢: 23
性別: 男
種族: 人間
体型: マッチ棒
服装: 視力矯正術式付き眼鏡・白衣と淡い青のシャツ、黒いズボン
能力: 魔物や自然界から取れる物質が起こす反応を研究している。本人曰く「役学」
所持品: 大きな手提げ鞄・魔物の体部位や鉱物など・研究用の符やオーブ
説明: 帝国から支援を受けて「役学」の研究をしている。研究室は帝都に


苦情を吐きに来ているのは、キャラクターでも単なるモブ以下でも
拾うも放置もお好みで行けるようになっております故

141 名前:ミア ◆JJ6qDFyzCY [sage] 投稿日:2009/12/09(水) 05:45:55 0
名前:ミア
年齢:17
性別:女
種族:人間
体型:150cm、小柄
服装:白のローブ・両手に銀の腕輪・背に細長い杖と弓
能力:
 『魔術』
  主に風と地の術を得意とする。
  潜在魔力は高いが、腕前は中の上程度。
 『魔力供給』
  魂に地獄を抱える【門】として、周囲に無尽蔵の魔力を供給する。範囲や量は意思と星の流れによる。
  過去一度、感情の昂りによりその魔力を逆転させて周囲の魔を滅ぼす力を発動した。
 『アルテミスの銀弓』
  弦も矢も魔力で構成する、古王国から継いだ弦の無い弓。が、それを使いこなす技術は彼女にはまだ、無い。
  所持品:杖、魔術書、旅道具、銀弓
簡易説明:
無表情・無感情な魔術師の少女。
その魂には地獄を抱え、7年前のゲート争奪戦では【門】と呼ばれて奪い合われた。
実は古王国時代に地獄を生んだ魔術師でありギルバートと恋仲にあった女性、アルテミシアの生まれ変わり。
以前は何を楽しむでも望むでもなく空虚な放浪を続けていたが、先日のヴィフティア事変を乗り越えて少しは前を向いて歩けるようになったようだ。


142 名前:ミア ◆JJ6qDFyzCY [sage] 投稿日:2009/12/09(水) 05:48:11 0
ガッシュオークの卓の上には、役目を終えた硬質のカードが一山に積まれていた。
何とはなしに一枚めくり、眺める。全くの無表情で、一見して不機嫌顔。
しかし旅を共にする仲間達は、それがブービーという結果への落胆でもなく、旅の先に待ち受ける脅威への憂慮でもなく、普段の彼女であると理解しているはずだ。

ヴァフティア事変直後、国を覆う乱の正体を見極めるため人狼ギルバートの協力の下に帝都へ旅立つことを決意したミアであったが――有り難い偶然だ、その時の協力者たちも皆また帝都行きを計画していたのだ。
それを知った彼女はすぐさま事情を話し、聞き、改めて同行と協力を申し出た。
ルキフェルという人物の持つあからさまな悪意と謎は、何から手をつければいいかわからないミアの目標に大きな具体性を付与してくれる。

――いや。もっと単純な理由もある。
(……一緒にいたい気分だったから、とか)
あの夜。ヴァフティアでの大混乱は人々の心に大きな傷を残したが、それを乗り越えたミアにとっては、見失った自分の人間性の暖かみをほんの僅かであれ取り戻すきっかけともなっていた。

>「はいはい。今開けますね。」

聖騎士が甲斐甲斐しく差し出した茶を受け取る、本日の最下位賞。
ハスタの悪ふざけに頬を熱くする二人を眺め、僅かに目を細める。
そして手元のカードに目を落とし――僅かに眉を跳ね上げ、やがて静かに山に戻した。
行き渡った弁当の蓋を開いたところで、そのハスタがおもむろに声を上げた。

>「でだ。帝都に着いた後なんだが・・・ハンターギルドに話を通しておこうと思うんだが。」
彼はギルドにツテがあるらしい。帝都到着後の行程を提案した後、各についても尋ねてくる。
「無い。知り合いはいないし、行ったこともないわ」
旅をするとなれば一度は大抵の者が帝都を目指すものだろうが、人混みの苦手な彼女にそれは当てはまらなかったのだ。
帝都の行動に関しては、完全に他のメンバー頼みとなりそうだ。

――と。

「……ねえ」
話題に割り込む形になるが、ミアは唐突に尋ねた。
「出発はいつ?」
誰かから答えをもらうと、部屋の隅の置き時計に目をやる。――あと僅か。
ミアは手つかずの弁当に蓋をし、彼女にしてはせわしない挙動で腰を上げた。

「……行って来る。機関室――操縦に複雑な魔術を扱うと聞いたから、見てくる」
彼女は魔術師だ。列車に乗るなど滅多に無い機会、興味がわくのも当然と、皆は微笑ましく思ってくれるだろうか?
実際のところ、彼女を駆り立てるのは単なる好奇心とは少し違う。
彼女の頭にあるのは、あの今は亡い大恩人――アルテミシアの姿。そして、遺してくれた銀の弓。
ミアは【門】であり、潜在魔力は反則的に高かったが、魔術の腕自体はごく一般的なレベルだ。
そのため、銀の弓――魔力で弦と矢を構成して打ち出すあの弓を、彼女はまだ使うことができない。
だから様々な魔術を見、勉強を重ね、今よりもっと上手く魔術を扱えるようになる――それが、今の彼女の目標となっている。

ミアはその弓と杖の入った布包みを背負い、客室の扉に向かった。
……と、思い出したようにハスタの脇で足をとめる。
テーブルの陰で何かを彼の膝に軽く放り、一言、
「……行って来るわ」
“クラブの3”――彼がイカサマに使ったカードであることは言うまでもない。

* * *



143 名前:ミア ◆JJ6qDFyzCY [sage] 投稿日:2009/12/09(水) 05:58:07 0
――そして、現在。

(……私、馬鹿ね。本当に馬鹿すぎる)
彼女は――貨物車前の連結部に佇んでいた。額を押さえて。

道を間違えたわけではない。
彼女は途中、男たちと相部屋らしき青年とすれ違ったり、トドのような女性に怒濤の勧誘にあって逃げ出す羽目になったりしつつも、きちんと発車前に機関室に辿り着いていたのだ。――が。
まずは、警備員に子供がこんなところで遊んでるんじゃない、とつまみ出された。
彼女が渋ると、
“真面目な話、国が総力を挙げて開発した術式を国の誇る超エリート魔術師が使ってるわけ。
んなもん一般人にホイホイ見せるわけにはいかないの。わかった?”
と、追い出されてしまったのだ。

しかし、その時ミアはあることに気がついた。
大陸横断鉄道は環状線ではなく、直線の線路を往復するのだ。
では、往復の方向転換の際はいちいち先頭だった機関部を最後尾に持って来ているのだろうか?
確か――そうする列車もあるらしいが、しないものもある。しないものは、初めから頭と尻の両方に機関部がついていて、運転手が移動するだけらしい。
この列車が後者だとすれば、今この列車の尻には使っていない機関部があるはずだ。
そこなら、口うるさい警備員はいないのではないか?
そこなら、発車の際に機関士が発動する魔術を目にはすることはできなくとも、覗き窓から計器類にかけられた「恒常的な魔術」を眺めるくらいは許されるのでは?

――彼女は最後尾に足を進めた。しかし。彼女の気づきには致命的な欠陥があった。
当たり前の話だが……最後尾の一つか二つ手前は、客車ではなく貨物車だ。
貨物車は、やはり当たり前ながら、しっかりと施錠されていて自由に通り抜けができるはずもない。

(…………帰る。無駄足だったわ)
ミアがげんなりと引き返そうとしたその時。その肩がポン、と叩かれる。
目を瞬かせて振り向くと、そこにいたのは鉄道局の制服を来た二人組の青年。

『どうかなさいましたか?』
二人組は不審顔。口調こそ丁寧だが、顔に「こんな場所で女の子が一人なんて不自然だ、迷子か泥棒か」と書いてある。
「……道を間違えただけ。すぐ帰る」
『わかりました。念のため、乗車券を拝見させていただいてよろしいですか?』
幸い切符は懐にあった――二人組の顔が一変。疑いから、憐れみへ。
『あー……その……大変申し訳ありませんが、すぐにお戻りになられることをお勧め申し上げます。
その車両では先ほど小火騒ぎが発生致しまして、全ての部屋が…………水浸しに』

(……。踏んだり蹴ったりね)
「……わかったわ。すぐに戻る」
『大変申し訳ありませんでした』
「……別にいい」
ミアは一瞬驚きはしたが、冷静だった。荷物は棚にしまったはずだ。
自分たちのせいでもないのに頭を下げなければならない彼らに同情すらできる。
彼女が会釈すると、二人組はそのまま目の前を通り過ぎていった。

(すぐ戻った方がいい……ね。でも、大騒ぎになってるでしょうね……騒がしいのは嫌い。
あと数分、この辺りをぶらついていようかしら)
考えていると、通り過ぎた二人組の会話が耳に届く。

『……仕事だから仕方ないけどさあ。
客車の小火だろ? まぁ、客車はわかるよ、不審物が無いか全車両もう一度チェックしないといけないってことくらい。でもさぁ、貨物車くらいいーじゃん……』
『言うな言うな。規則なんだよ、キソク』

ガチャ。貨物車の鍵を解除する音が響く。

そういえば……無賃乗車が見つかった場足、正規料金の何倍かの代金を支払えばそのまま乗せてもらうことができる場合もあるという。
が、部屋に空きが無い場合、払えない場合は多くが途中の駅で降ろされ、そのまましかるべき場所に連れて行かれることもあるそうだ。

【よろしくお願いします。密になってきたので一旦離脱しました。
ジェイドさん、いきなりの振りですがお相手お願いします】

144 名前:ジェイド=アレリィ ◆EnCAWNbK2Q [sage] 投稿日:2009/12/09(水) 17:33:08 0
貨物室が騒がしい。どうやら先客がいたようだ。
見たところ3人組の男。姿からして落ちぶれた守備兵風情というところか。
「へへ、兄ちゃん。あんたも俺らの仲間かい?ヴァフティアがあんなになっちまった
せいで俺達も仕事を追われた。もうお仕舞いだよ。」
やけになった風の男をジェイドは皮肉交じりに笑った。
「悪いな、俺はあんたらのお仲間にはなれそうにはない。
まだ、何にも絶望しちゃいないからな。」

3人組と険悪な雰囲気になったところで足音が後ろから聞こえてきた。
(やべ……乗務員か?)
ジェイドが振り向いたその先には1人の少女が立っていた。
少女を見るなり、3人組が彼女を取り巻く。
「へへ、少し若過ぎるか……でも、こういうのも悪くねぇよなぁ」
「久しぶりだなぁ……女なんて」
「ぐふふ、やっちまおうぜ!おい、あんたも手伝えよっ……」
少女に手をかけようとしたその瞬間、男の手はあらぬ方向へと向いていた。
「あ、あだだだだだー!いでぇぇ!!」
黒髪の青年、ジェイドが男の手を折り曲げていたのだ。

「ちょーっと待ったぁ。お前らにはその資格はないな。
……女を何だと思ってやがる?」

後の2人もジェイドに殴りかかろうと迫るが足払いで2人まとめて
倒した後に踵落しで完全に沈黙させる。
「女はこの世界に存在する最高の宝だ。それを傷付けるような奴はぁ〜
……この俺が許さん!分かったな?」

息も絶え絶えに小さく頷く男達。
それを見て満足気にジェイドは少女の肩に親しげに手を回した。
「やぁ、俺はジェイド。1000年に一度の天才だ。
俺と愛の旅路を行こうではないか……ワハハハハ!!
……どうした?そんなに硬い顔をして。
そうか!この俺の美しい顔を見て緊張してるのか?」

ジェイドは自覚していない。自分が女となると見境なくなることを。


145 名前:ジェイド=アレリィ ◆EnCAWNbK2Q [sage] 投稿日:2009/12/09(水) 18:02:29 0
「あ、悪い。今、取り込み中なんだよ。」
ジェイド達を見つけるなり、駅員2人が歩いてくる。
ジェイドは麻袋の中から光るものを2つ、4つ出しながら小さく耳打ちする。

駅員の懐に宝石を入れるジェイド。
「よし、こいつらが不法侵入者か…協力、ご苦労。」
口調は厳しいが2人とも顔は綻んでいる。
グロッキー状態の3人組を連行しながらその場を去っていく。

「まぁ、いつもの事だ。」
ジェイドは再び少女へと顔を向けた。

(追記、駅員はジェイドが買収しました。あとがきでスイマセン)

146 名前:ギルバート ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2009/12/09(水) 18:18:47 0

(・・・まずこのメンツにギャンブル仕掛けようって思考が俺にはわからん)

ぱたぱたと長い尻尾を揺らしつつ、窓の外を駆けてゆくレクストを眺める。
折から、ギルバートは狼の姿になり客席の隅に寝そべっていた。
大陸横断鉄道は本来動物持ち込み不可だったが、
このメンツで一番穏やかそうなフィオナが「この"大きな犬"はとても大人しいから」と説明し、
車掌に金貨を一枚握らせるとあっさり眼をつぶってくれた。

別に好き好んでペット扱いで乗車した訳ではない。単純に金が勿体なかったからだ。
グレイから受け取った金は街の再建資金にほとんど渡してしまったし、
一人分乗車賃が浮くならそれに越した事はない。・・・まぁ多少不本意だが。
その後レクストのカード勝負の申し出にもガン無視で対抗し、
高見の見物と洒落込めた辺りは便利ではある。


(あのままアイツ置いて発車すれば面白かったのに)

弁当が届いてから下らない事を考えていると、ミアが客室を出て行った。
丁度いい。最悪、到着まで大人しく"大きな犬"に徹する覚悟だったが、
まぁ目立つような事をしなければまず問題ないだろう。
それに今は月も少し欠けており、ミアと離れると制御が不安定になるかもしれない。
もう暴走するような事はまずないが、犬耳青年の誕生とかキモイイベントは勘弁してほしい。

大きく伸びをしてから眼を閉じ、ゆっくりと二本足で立つ自分をイメージする。
再度眼を開いた時、ギルバートは人へ戻っていた。

「少し歩いてくるわ。なーに、ガキみたいにはしゃいだりしね―――あぶぇっ!?」

声をかけつつ廊下に出た瞬間、それが襲ってきた。
例えるなら、けばけばしい絹と絨毯で何重にもぐるぐる巻きにした棍棒で
いきなり鼻っ面を殴られたような衝撃。何事だ?誰か毒ガステロでも起こしたか!?
慌てて鼻をつまむと詮索する余裕もなく、その強烈な人工臭の元から離れようと廊下を反対方向へ駆け出した。

147 名前:ギルバート ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2009/12/09(水) 18:19:34 0
その後、別の客室で二人連れの女性客にちょっかいをだしていると、
丁度列車が発車し車体が揺れた時、前の通路をミアが通り過ぎるのが見えた。

「ミ――――」

いや待て。空気読め、俺。自分から興味を持って列車を見て回るなど、
今までから考えればミアにとっては革命的な事なのだ。
ある意味はしゃいでいると言ってもいい。ここはそっとしておく事にしよう―――

そう思った時、動きを止めた自分を訝しげに見る女性客の視線に気付いた。

「――――み、水がほしいな!喉が渇かないか?渇くよな?」

直後、その要求に答えるかのように客室の天井から、消火用の散水が雨のように降り注いだ。



ボヤを出してくれたのはいかにも学者といった風貌の若い男だった。

「さて……って、何だ? アンタ達は。まだ言いたい事でもあるのか?」
「あるに決まってるだろーが!!人に水ぶっかけといて文句があるならボスに言え?
 頭一つ下げずにンな理論が通れば警備兵はいらねーよ!!!」

鼻先に人差し指を突きつけ、眼鏡越しに男の眼を睨みつける。
やや伸びた長髪はたっぷり水を含み、服は重く貼り付いてぽたぽたと水滴をたらしていた。
帝国のネームバリューがどれほどの物か知らないが、やらかした以上は少なくとも頭を下げてもらおう。
確かに「騒ぎは起こさない」と約束したが、これは騒ぎの方が向こうからかかってきたのだ。
俺は悪くない。決して暇つぶしのような不純な動機ではない。よしこの喧嘩買った!

どうでもいい思考を重ねつつ、とりあえず見た目は憤然と男に食ってかかっておいた。

148 名前:ギルバート ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2009/12/09(水) 18:47:51 0
名前:ギルバート・ロア
年齢:見た目は20代後半〜30前後
性別:男
種族:ウェアウルフ変種
体型:引き締まった長身痩躯/ぼさっとした銀髪、やや伸びたのを紐で結んでいる
服装:白のシャツに細身の黒衣を着崩している/重そうなブーツ
能力:
特定条件下での獣化:満月に近い程長時間、かつ強力な力を発揮する。
ミアから魔力供給を受ける事でも一部その力を得る事ができる。見た目は普通の大きな狼で四足歩行。

"ステッペル":"フェンリア"から細い魔力線を発し、鋼線のように操る。

鋭敏な五感六感/高い身体能力

所持品:
フェンリア:ナックルや魔力線の基として使う銀の彫刻指輪
ルーネイ・コカトリス:刃をワイヤーで繋いだもの。オリジナルの"コカトリス"に多少改修を施して腰に巻きつけている。
体に巻きつける皮のバッグ
簡易説明:
かつて小さな集落に隠れ住んでいた人狼の一族の生き残り。
スレて常に眠そうなたわけた表情で上辺ではいつも明るく、どこまで本気か分からない冗談を言う。

"終焉の月"との闘いを経て自分の過去と向き合い、今はそれなりに納得している。
亡き恋人の生まれ変わりであるミアの歩みを見守る為と、自分を裏切ったかつての親友を探して帝都に向かう。

149 名前:ジース ◆vKA2q6Alzs [sage] 投稿日:2009/12/09(水) 21:35:00 0
“この街の『女』には気を付けろ。”

まだジースの父が存命だった頃。口を酸っぱくして言っていたことである。
それは父の個人的な経験則によるものなのか、はたまた……何か意味があるのか。
終には、知ることはなかったが。

邸宅に戻り、書斎の扉を開ける。父が存命の頃、使っていた書斎だ。
父がこの部屋で大量の書類に目を通したり何か文をしたためていたのを覚えている。
しかし、ジースは同じ仕事をすることは出来ない。その能力がないことは、自分が一番分かっている。
棚から単調な装丁のかなり分厚い本を取り出し、ページをめくる。

貴族の仕事と言えば、社交界での交流、貴族院での政治への参画、
それに領地の支配、あたりがおおよそなところだろう。
しかし、社交はともかくとしてまだ若いジースには貴族院に参加する権利など与えられていないし、
父が帝国から金で買い上げた貴族の爵位である以上、広大な領地がある筈もない。

そんなメニアーチャ家が帝国で1、2を争う大貴族として君臨出来るのは、やはり大商人であった父の功績の賜物だろう。
貴族になるにあたって商人の座を退いた以上、表向きには関係のないものとはしたが、
今もなお帝都内の物流などを統括する商会には、メニアーチャ家の息がかかっている。

メニアーチャ家を通して帝国から保護されているようなものだから、その商会は強い。
後ろ盾のもと商会が利潤を常に得続けている以上、メニアーチャ家の資産も増え続けてゆく。
いくら使っても底が見えない程の潤沢な財産は、そこから生まれている。

競争相手の居ない商売は、成功しすぎるとやがて利益を求めすぎて暴走が始まる。
そうならないように手を回し、押さえつけ……ていたのが、父だ。
その父は死んでしまったが、ジースには商売の知識も才能も人脈も勘もなかった。

仕方なく、父がしていた仕事は現時点では殆ど後見人である執事の男が行っている。
この執事は父に命を救われた経験があるらしく、裏切ることはないことはわかっているが。
ジースは、自分の無能をしみじみと感じている。

父の遺した書物を内容も理解できないまま読みふける。
偉大なる父に、少しでも追いつきたくて。

150 名前:ジース ◆vKA2q6Alzs [sage] 投稿日:2009/12/09(水) 21:36:20 0
読み初めて……時間はどのぐらい経っただろうか。部屋の扉が叩かれる。
「なんd」
何だ、と言い切る前に扉は開かれ、3人のメイドが一斉に雪崩れ込んで来た。
その姿を見るや否や、疲れきったような表情でジースは本を閉じる。

>「失礼します!ジースさまっ!美味しいお茶を入れましたのっ!」
「あぁ……ありがとう」
>「これ・・・一生懸命作ったから・・・。」
「あぁ……わざわざすまない」
>「御当主様。お疲れのようですね。マッサージはいかが?」
「あぁ……じゃあ頼む」
返答の一つ一つに力がない。
どうも、ジースはこのメイド3人が苦手だった。

フランソワの煎れた茶を片手に、チタンの焼いたクッキーをつまみながらエボンに肩を揉まれている。
この3人が現れたのはいつだったろうか、確かフィゼナート伯の紹介だと執事は言っていた。
その露出の多いメイド服に嫌な予感はしていたのだが、以降やけにジースに甲斐甲斐しく尽くしてくる。
ジースの財産を目当てに近付いてくる有象無象は珍しくないし、この3人もおそらくはそれを狙っているのだろうが、
フィゼナート伯は父が貴族になる際に力添えをしてくれた方であり、その紹介とあっては無碍に扱うわけにもいかない。

背後のエボンから漂うコケティッシュな香りに、思わずジースは気が狂いそうになる。
魅力的と言える女性複数人に迫られては、そりゃ欲望に身を任せたくなることだってある。ジースだって若い男だ。
だがそんな時、父の言葉が頭をよぎるのだ。

“この街の『女』には気を付けろ。”

半ば暗示のように頭をリフレインするそのフレーズが。
箍が外れそうな時に、ギリギリのところで抑えつける役目を果たしている。
貴族としては珍しいほど、ジースは純情で、純粋、純朴で、そして――一途だった。

「もういいぞ、エボン」
これ以上されたら筋肉が固くなってしまう、とマッサージを切り上げさせ、振り向く。
「香水、少し付けすぎではないか?少し、鼻につくのだ。
 ……それと、チタン」
首を戻して向き直り、チタンの指に巻かれた包帯に注目する。
確か前に見た時はそんな包帯はしていなかったから、おそらくはこのクッキーを作る際に出来た傷だと考える。
包帯から滲んだ血を見る限りそれは火傷の類ではなく、切り傷であることが見当付く。

「私自身は料理をする訳ではないから、見当違いなことを言っているのであれば申し訳ないが……。
 ……クッキーを作る際、包丁って使うのか?」
もちろんジースはその傷に込められた意味などまるで気付くこともないから。
この質問は、皮肉でも意地悪でも何でもなく、普通に口をついて出たただの疑問だったりする。

「さて」
椅子から立ち上がり、少し揉まれすぎた肩を軽く撫で回しながら机に寄りかかる。
ジースは若すぎる貴族生活を送ってきたものだから、軽々しく話せる同年代の友人と言えるものが少ない。
一方この3人は、ややジースが苦手だと思ってしまうほどに世話を焼き、尽くしてくる。
完全に主従としての役目を崩さない他の使用人とも比べ、話し易いのも確かなのだ。

「……つい先日の、『ヴァフティア事変』は知っているな?
 私の所には、耳に良いように取り繕われた話しか聞こえてこないのだ。
 お前達は、何か知っていることはないか?」

自分から振っておいてのことだが、ジースはたかがメイドが何かを知っているとは思っていない。
ただの会話の種として。話をしようというだけで、ただヴァフティアを挙げただけだ。
ジース本人は、ここにいる3人がどこから来たのかなど知らず。
『たかがメイド』だと、思い込んでいるから。

151 名前:ハインベルト ◆sbv0QKeoW2 [sage] 投稿日:2009/12/10(木) 01:20:52 0
世界は生と死によって動かされている。生まれるものと死にゆくもの。
二つは螺旋のように折り重なり合い、どこまでも繰り返されていく。
しかし、ならば俺は何なのだろうか…外法によって老化すら拒絶し、
痛みすら感じず死すら遠ざけるこの身体……生きているのかさえ分からない、
そんな螺旋から唐突に外れてしまった俺は一体…どこに存在しているのだろうか。

「ひ…た、助けてくれ………」
帝都のスラム、光すら差し込まない暗い裏路地で、声を震わせながら命乞いをする男。
そんな必死で弱弱しい言葉ごと、容赦なく凶刃は刈り取る。
肉は斬り裂かれ鮮血が飛び散り傾く身体、辺りには咽かえるような鉄臭さがたちこめる
男は悲鳴にならない悲鳴を上げ、虚ろに見開く濁った眼を俺に向けたまま絶命した。

今日もまた人を殺した

しかし感情は湧いては来ない…慣れてしまったのか?
それとも俺はすでに狂っているのだろうか…?
どちらにせよ…はっきりしているのは俺にはこれ≠オか往く道がないということだけだ。
「悪く思うなよ……」
そう呟き、剣についた血を落とす…血がつくと剣の劣化は予想以上に早い。
「……ふふっ」
血を落としている間、自嘲するようにクスッと笑ってしまった。
悪く思うな、などと、一体どの口でほざいているのか…自らの愚かさに嫌気がさす。
逃げるようにその場を後にし、路地を抜け人ごみにまぎれて足早に移動する。

152 名前:ハインベルト ◆sbv0QKeoW2 [sage] 投稿日:2009/12/10(木) 01:22:28 0

薄暗い路地を進む先に、黒い外套を纏った男が立ちふさがり、
わざとらしく拍手と賞賛の言葉を送りつける。
「素晴らしい手並み、流石はハインベルト…いや、不死者よ。」
ハインベルト・エリクション、それが不死者と呼ばれるこの男の名前。
外法と呼ばれる邪に染まりしルーンにより、人の道より外れた暗殺者。

「俺をその名≠ナ呼ぶんじゃない…!」

ハインベルトは怒りと憎悪の籠った眼光を男へと向ける。
しかし、男は動じず、ただハインベルトを見透かすような残酷な笑みを浮かべる。

「誇る事はあっても憤る必要などない、更に言えば、
 感謝される言われはあっても憎悪を向けられる覚えなど…ふ…ふはは!」

堪え切れずハインベルトは怒りに任せて剣の柄へと手を伸ばす。
すでに一歩踏み出せば必殺の間合い、目の前の男を解体することなど息をするより容易い!
「ほう…殺して見せる≠ゥ?死に餓えているのか?ふふふ…流石は【最高傑作】だ。」
最高傑作…放たれたその言葉にハインベルトの手が止まる。
先ほどまで怒りで満たされていた眼は、途端に堰を切ったように様々な感情が溢れ、
そして沈澱していく……結局、ハインベルトは剣を収め、ただただひたすら虚を見つめる。

「こんなくだらない問答を続けるために現れたわけじゃないだろう…」
感情を必死に抑え、虚ろに揺らめくハインベルトを外套の男は満足そうに見つめ、
一枚の紙を差し出す。受け取り徐に開いてみると、そこには街の縮図と赤いマーキングが記されていた。

「今回の任務は少し特別でな、直接組織が関わる殺しではない。実はあるお方が手練を必要とされている。
 そこでお前の出番というわけだ。不死の男、これほど使い勝手のいい道具もあるまい。
 喜ぶべきだぞハインベルト、組織が与えた外法により、お前は組織でも最も優れた物と認められたのだ。
 …兎にも角にも詳しい話は御本人から聞け、我々も聞かされてはおらんのでな。」

ハインベルトが疑問や質問を放つ暇を与えぬように矢継ぎ早に外套の男は内容を語り出す。
実際、語っていることは多いが、内容はかつてなく不透明だ。それを誤魔化すためも兼ねているのだろう。
「危ういな…情報が少なすぎる。こんな依頼を請け負うような組織ではなかったはずだが…?」
だがそんな程度の低いカバーに惑わされるほどハインベルトも愚かではない。
任務の裏にある影を見極めんと外套の男に問いただしてみる。

「確かに、いつもはこんな依頼など、いくら報酬が高くても願い下げ、最悪消して厄介払いだ。
 しかし今回は違うのだよ。言わなかったか?これは依頼ではない、任務≠セ。
 我らが組織でも、もっとも優先的に行われるべき任務≠ネのだ。」

「それほどまでに重要ならば、尚更説明は必須では―――」
その瞬間、男から放たれた短刀がハインベルトの顔を穿つ。
大きくよろめくハインベルト、切り開かれた頬からは血が滴り、
石畳に小さく赤い雫が落ちる。
「……己が領分を越え疑問を抱くのは良くないな…
 塞げば良い事をむざむざ掘り起こす詮索屋にするために、
 お前を不死にしたわけではない。」
すでに血は乾き落ち、頬の傷はそもそも存在しなかったが如きハインベルトを見て、
外套の男は釘を刺す。
「今一度銘記せよ。貴様は剣…人間ではない!
 貴様に与えられたるは不死…奪われたるはその生命!そう、貴様は――」

――只管、命じるがままに死を振るい続ける命令の完遂者――

「さあ、往け不死者よ…!!」
命ずるがままに、ハインベルトは歩きだす。
なぜか?それは知っているからだ。どこまでもどこまでも続く虚。
それ≠ヘやがて深く身体と同化し、決して逃げられないということを…

153 名前:ハインベルト ◆sbv0QKeoW2 [sage] 投稿日:2009/12/10(木) 01:23:38 0
名前:ベルンハルト-エリクション
年齢:若齢
性別:男
種族:人間
体型:身長178cm、72kg 細身
服装:黒いなめし皮の装備に黒いローブ羽織っている。また口元には黒いマスクをつけ、人相を特定されないようにしている。
能力:我流剣術、再生を促すルーンを身体に刻み込んでいる。
所持品:ガトラン(刃の中に刃が仕込んである剣、主刃は副刃の鞘の役目も持っている。)
    他にも色々なものを隠し持っている。
簡易説明:暗殺者、外法と呼ばれるルーン魔法の一種類を所属している組織によって刻み込まれており、
     人間ではありえないほどの再生能力を有している。といっても不死には程遠く、
     死に至しめることはそう難しいことではない。

154 名前:ベルンハルト ◆sbv0QKeoW2 [sage] 投稿日:2009/12/10(木) 01:25:06 0
すいません↑の名前ハインベルトじゃなくてベルンハルトでした…orz
文章中のハインベルトも、すべてベルンハルトです……本当に申し訳ありませんorz

155 名前:フィオナ ◆tPyzcD89bA [sage] 投稿日:2009/12/10(木) 05:32:06 0
ヴァフティアからの同行者は四人。
共に戦ったレクスト、ハスタ。そしてフィオナたちとは別の視線をくぐったミアとギルバート。

ミアはあの夜の真なる供物として用意された悲劇の少女。
深淵の月は彼女の力を解放することでこの世の終焉を呼び覚ますつもりだったらしい。
およそ感情を表すという部分が欠落しているかのような無表情。
フィオナも同性ということもあり何かと話を振ってはいるのだが未だにその成果を挙げることができないでいる。

そしてもう一人の同行者であるギルバートは人狼の一族の末裔。
痩せぎすな外見からは想像できないほどの強靭さ、そしておよそ人の身では到達することの出来ない鋭敏さも兼ね備えている。
生粋の戦闘種……のはずなのだが今の彼は狼に変身しており退屈そうに見事な毛並みの尻尾をパタパタと揺らしていた。
改札を通る際にもとても大人しい"大きな犬"。と説明し客室について早々懺悔する羽目になったフィオナであった。

全員へと食事とお茶が行き渡るのを確認すると祈りを捧げるために姿勢を正す。
「至高なる天空におわす神よ。今日の恵に感謝いたします。」
神殿でならもう少し長く行うところだが略式で済まし、まずお茶を一口。
冷え切った体に熱が行き渡り思わずほう、と溜息が出てしまう。

『・・・・・・しかしアレだな。こうして見ると、“蜜月”に出かける新婚夫婦を見ている気分になるな。』
タイミングを見計らっていたかのようにハスタが告げる。
最初は意味を図りかねたがハスタの目線はこちら、そして向かいに座るレクスト。
耳まで赤くなるのが自分でも解かる。

「な、なななな何をしれっとトンデモナイこと言ってるですか!?」
フィオナしどろもどろになりつつも猛然と抗議の声をあげた。


ドタバタとした食事を終え一息ついた後、本題を切り出したのはハスタだった。
曰く帝都のハンターギルドに養父が居り、しかも結構な地位に着いているらしい。
途中聞き捨てならないことを言った気がするがそこは流すのが年上の余裕というものだろう。

『でだ、他に何かツテとかはあったりするのか?』

「私は帝都に着いたらルミニア神殿に親書を届けなければならないのですけど―――」
帝都で信仰されている知恵と秘術を司る月神ルミニア。
太陽神ルグスとは兄妹神にあたるためヴァフティアとエストアリア、この二神殿は自然と交流があるのだった。

「―――あそこでしたら信頼も置けますし、神官戦士団も擁していますから話を通しておくのに十分ではないでしょうか?」
帝都は初めてだと言うミアに次いで返答するフィオナ。
あと頼りに出来そうなのは帝都の守りの要。レクストが所属する従士隊だろうか。

「あ、そういえばレクストさん。従士隊にジェイドっていう従士はいませんか?」
帝都、そして従士隊。
この二点が結びつきフィオナは四年前に別れた弟、ジェイドのことを思い出すとレクストへ問いかける。
一年半くらい前から連絡がぷっつりと途絶えて久しいその弟が従士を辞め、しかも同じ列車に乗っているとは知らないまま。

156 名前:フィオナ ◆tPyzcD89bA [sage] 投稿日:2009/12/10(木) 05:34:01 0
フィオナが発した問いは突然襲来したそれによって十分な答えを聞くには及ばなかった。

弟の話をレクストへ切り出すのと同時。
機関部への興味から客室を出ようとミアが扉を開けたその時、まず襲ってきたのは意識を根こそぎ奪っていくような強烈な匂い。
フィオナも思わず何事かと立ち上がり扉のほうへと歩み寄る。
先程人間へと戻ったギルバートは人並みはずれた鋭敏な嗅覚が仇となったのか耐え切れず悶絶していた。

次いで金属同士の擦れあう音。
ジャラジャラとまるで鎖帷子をつける時に似た音が断続的に響きわたる。

そして最後に開いた扉の隙間からというか出入り口一杯に見える五十絡みの女性。
フィオナが所持している長剣を鍛った"親方"より幅の広いその体躯はお世辞にもふくよかという言葉では収まらない。
身に着ける品は一見して解かるほどの一級品ばかり。
二つ三つならお互いを引き立てあうかもしれないがこうも過剰供給だと威圧感ばかりが先にたってしまう。
嗅覚、聴覚、視覚とを圧倒されながらも不思議とその女性には艶というか品があった。

五感のうち三つに訴えかけてくる存在感にフィオナが圧倒されていると目があったのか躊躇無く此方へと寄って来る。
すれ違ったミアもいつもの無表情ではなく若干表情が引きつっているようにも感じられた。

『あたしゃヴェロニカ。
帝都の高級娼館【ラ・シレーナ】のマダム・ヴェロニカさ。』
それ以前にも何か言われた気がしたがマダムの矢継ぎ早に繰り出してくる話術に聞き取れたのは名前だけだった。
その後も一方的にまくし立てられる。
どうやらフィオナをマダムの経営する娼館にスカウトしようとしているらしかった。

「あ、あのあの。私は神に仕える身ですので……。」

『神官服ってのはいいねえ。男ってのはそういうのに幻想を抱くからね。
それだけでも十分な箔だけど、現役って枕詞がつけば無二の武器だよ! 』
精一杯の反論も火に油を注ぐ結果で終わってしまった。
涙目になりつつ共に話を持ちかけられたミアへと助けを求めるが既に居らず、どうやらフィオナが抵抗した隙に一足先に逃亡に成功したらしい。
一対一となりもはや自分に逃げ場が無いことを観念したフィオナは口から魂を吐き出し思考を停止させた。


『あの〜お取り込み中すいません…僕、その席。その、、』
神は敬虔な信者を見捨てはしなかった。
救いの声は意外なところから、具体的に言うとマダムの後ろから?き分けるように現れた。
整った顔立ちに長身の美しい女性。
『なぁ〜に、ビクビクしてんだよ!いいか、こういう時に姉ちゃん達を
優しくエスコートすんのが本当の男って奴だぞ。』
女性に付き従うように周囲を飛ぶ小竜が続いて口を開く。
男物の服を着ているので不思議に思ってはいたのだがどうやら男性らしい。

マダムとの会話から助けられ意識を取り戻したフィオナだが同時に違和感を感じる。
神官であれば決して見逃すことの無い気配。不死者の気配を極わずかだが感じるのだ。
列車の中に入り込んでいるというのだろうか。

フィオナは表情を引き締めると椅子に立てかけておいた長剣を掴み取る。
まだここに残っている仲間へ警告しようとしたその時、天井に備えられた消火栓が一斉に開き部屋中を水浸しにした。

157 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/12/10(木) 23:46:09 0
「・・・・・・しかしアレだな。こうして見ると、“蜜月”に出かける新婚夫婦を見ている気分になるな」

向席のハスタが意地悪く笑いながらそう言った途端、レクストは口に含んでいた茶で盛大に咽込んだ。

「!!?……お、おい『十字架』、お前とは一度話し合いの場を持たなきゃだな――法廷とかで!」

赤面もそこそこにしかし次の瞬間過去の衝撃がフラッシュバックして反射的に身を伏せる。
ちらりとフィオナの方を窺うと、彼女はしどろもどろになりながらもハスタへ抗議していた。

(あぶねぇあぶねぇ……十字架の野朗、分かってやってやがるなあいつ!)

思い出すのは真っ赤な顔から飛来する拳。そうもこのフィオナという女は恥らうと口よりも手が先に出る性質らしく、
騎士の膂力で繰り出されるパンチの犠牲になるのは専らレクストだった。いくら突っ込まれ馴れてるとはいえあまり喰らいたくはない一撃だ。

「でだ。帝都に着いた後なんだが・・・ハンターギルドに話を通しておこうと思うんだが。
 実は、帝都のギルドにはオレの養父がいてな。一応それなりの立場だから秘密を守ってくれるのと・・・・・・
 ヴァフティアの出来事みたいなのが起きたときに対応の用意をしてくれるんじゃないかと思う。」

「へぇっ、そりゃ備えとくに越したことないな……っつうか正規のハンターだったのなお前!」

雰囲気や戦闘のやり口、やさぐれた言動を見るにてっきりモグリのアンダーグラウンドな出自の持ち主だと思っていた。
帝都の入都管理局では過去の犯罪歴等々も調べられるので、ハスタのことをどう誤魔化そうか腐心していたほどである。

「でだ、他に何かツテとかはあったりするのか?」

「ツテっつってもまぁ、俺は従士隊の屯所と帝国管理局に今回の件の報告書出して、本格的な調査に加わるつもりだけどよ」

同行者のミアは初登都だと言うし、当然彼女に忠犬の如く付きまとうギルバートもいるしで適当に帝都の案内でもするつもりではいた。
フィオナの勤める神殿は帝都の神殿とも繋がりがあるという話だから、全員で帝都を回ってみるのも悪くない。
帝都にしかない技術や建物も沢山あるから、案内のネタが尽きることはないだろう。平和に楽しく巡れるはずだ。

「あ、そういえばレクストさん。従士隊にジェイドっていう従士はいませんか?」

そんな微笑ましい予定の道程に思いを馳せていると、何かを思い出したかのようにフィオナが訊いてきた。
ジェイド。ジェイド=アレリイ。知ってるも何も、従士隊の間では半ば伝説の如く語り継がれている男の名である。

「ジェイドって言やあ従士で知らねえ奴はいないってぐらいの有名人だぜ?帝都の教導院出身でもないのに
 中途採用試験に嵐の如く現れ主席で合格、その後は従士隊きってのエースとして大活躍だったつう話だよ。
 俺が従士になる頃に入れ違って辞めちまったらしいから直接会ったことはないんだけどよ、俺達ぐらいの年代にゃ身近な伝説の男って奴だな」

辞めた、という単語にフィオナの形のいい柳眉が微妙な変化を起こしていたが饒舌なレクストが気付くはずもなく。
それよりも、話していてもっと驚愕の事実に思いあたったような気がしてならない。具体的には、ファミリーネーム的な意味で。

「あ、あれ……?アレリイって、んん?んんんん!?もしかして、もしかしなくても、親戚的な――」

「連れのお兄さんがたちょいとごめんなさいよ。おやまあ、これはかわいらしいお嬢さん方だねえ。
 なんだい?帝都へ行くのかい?帝都はいいところだよう?あたしゃヴェロニカ。
 帝都の高級娼館【ラ・シレーナ】のマダム・ヴェロニカさ」

核心へ迫るレクストの質疑を遮るように――物理的にも遮りながら、視界を巨大な樽状の何かが埋め尽くした。
それが生きた人間の女性だと理解するには、レクストの人間としての器はあまりにも矮小すぎた。

「な、なん……だと……!?」

流石にキャベツ畑やコウノトリを信じてるわけではないが、これまで男所帯で生活し、ミアやフィオナといった清楚系の女性としか
関わってこなかった真性の無垢であるレクストにとって、目の前の肉塊が生物学上メスに分類されるという驚愕の事実に耐え切れなくて。

耐え切れなくなって。

一足先鼻を押さえてに逃げ出したギルバートと同様にのたうちまわりながら客室から逃げ出した。

158 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/12/10(木) 23:48:35 0
「くそっ、くそっ……トラウマになりそうだ」

ケバケバしいことこの上ない。帝都にいた頃は従士隊の先輩達に連れられて娼館まで行ったことがあるにはあるが、
直前で緊張のあまり敵前逃亡、すっきり顔の先輩達が出てくるまで娼館の周りを所体なさげにうろうろし、近隣住民から
通報をうけた勤務中の同僚に逮捕されるという人に話せば爆笑もののエピソードを樹立したレクストである。

「なんなんだあの臭い……なにとなにを混ぜたらあんな大量殺戮兵器を……テロか?テロなのか!?」

すっかりノされてしまった。同じ空間に数秒いただけでこの体たらく、あの客室に取り残された連中のことを思うと、
レクストは罪悪感に胸を締め付けられずにはいられなかった。戦場にとり残された仲間を思う心持ちである。
マダムの口からはレクストにとっても聞き捨てなら無い名前が飛び出したような気がするが、それに気付く余裕など彼にはなかった。

「成仏しろよ……お前らの犠牲は忘れないっ……!!必ずや奴を斃してこの暗黒に時代に終止符をっ……!」

それはさておき。

体よく脱出生還を果たしたレクストはやおら起き上がり、とりあえずギルバートあたりを探して
対マダム・ヴェロニカ戦の作戦会議でも開催しようかと徘徊を初め、いきなり降ってきた水を頭から被ることになった。

「…………??」

最早矢継ぎ早に訪れるイベントの数々に馬鹿な方のリフレクティア脳はフリーズ寸前だった。言葉も出てこない。
三秒が過ぎ、なんとか思考を取り戻してきたところで頭上の火災用放水オーブが作動したことを理解する。

「あー、どっかの馬鹿が小火起こしやがったか……ん?臭いが消えてる。臭いが消えてるぞ!?」

犬の鼻が常に湿っているのは、そこに臭いを吸着してより感度を高める為らしい。
ことほど左様に、臭気というものは極めて微細な粒子であるからして、液体によく溶ける。
四半刻たっても消えないマダムの強烈かつ猛烈な香水の臭いが、期せずじて訪れた散水によってその大部分を洗い流されていた。

誰だか知らないがありがとう!毒臭テロを未然に防いだ彼ないしは彼女に勲章と称賛を送りたい心持ちでレクストは駆け出した。
眼前のは黒山の人だかり。それも既に用事は済んだのか解散を始めている。解けた密集の跡に残っているのは対峙する二人の男。
一人はずぶ濡れのギルバート。もう一人は同じくずぶ濡れの白衣に身を包んだ眼鏡の男。二人は一触即発の剣呑とした場を形成していた。

「さて……って、何だ? アンタ達は。まだ言いたい事でもあるのか?」

「あるに決まってるだろーが!!人に水ぶっかけといて文句があるならボスに言え?
 頭一つ下げずにンな理論が通れば警備兵はいらねーよ!!!」

「そこの白衣、文句あったら従士隊に言えっつったか?その従士様がここにあらせられるんだがどうよ?どうよ俺?」

連中の仲を取り持つと思ったら大間違いだぜ!元来の喧嘩っ早い性分がここでも如何なく発揮され、二対一という構図に。
見るからに武闘派でもなさそうな学者風情の男相手に二人で囲むのもどうかと思うが、どう見ても非はあちらにある。ビバ正義!

「はいはいはい、もう出発するから着席して下さい。ほら、そこの方々も客室から出ない出ない」

しかし争いの火種は突如降ってきた声によって跡形もなく鎮火した。虚を突かれ挙動不審に振り返るとそこには列車の乗務員。
何十年も客同士の諍いを諌めて来たのだろう、老練な手つきでレクストを客車から追い払う。内側にいたギルバートはそのまま白衣の客室へ。
手にしたモップとバケツを見るに、水浸しの車内を掃除しながら走行するつもりらしい。げに恐ろしきダイヤグラム。

返事をするより早く汽笛が響き、本当に列車が動き始めたので、気勢を削がれたレクストはずぶ濡れのままずこずこと退散するハメになった。
外套を脱いどいてつくづく良かった。幸い濡れているのは肌着と中着、積んでおいた着替えで代用が効く。

窓の外の景色がゆっくりと流れ始め、〇七〇〇時発帝都行きの登都便はこうして前途多難ながらもつつがなくメトロサウスの駅を出た。

向かうは帝国首都エストアリア。全ての因縁が集約する場所。物語の歯車は、いくつもの部品を新たに得て動き始める。


159 名前:マダム・ヴェロニカ ◆iHSgBAJ.9BYi [sage] 投稿日:2009/12/10(木) 23:48:59 0
>136>156
名刺をフィオナとミアに無理矢理握らせたマダム・ヴェロニカの勢いは増すばかり。
ミアがそそくさと躱し部屋から出て行ったのだからフィオナに攻撃は集中する事になる。
真っ白になったフィオナに契約書とペンを握らせようとした時、神の配慮が遠慮がちな声で現われた。

>「あの〜お取り込み中すいません…僕、その席。その、、」
ビクビクと小動物のようなおびえた態度のローズ。
長いまつげと大きな瞳、その顔立ちはなんとマダムの口の滑りを止める事に成功したのだ。
「あらまあ、そりゃゴメンよ。あたし間違えちまったようだねえ。
かわいい顔しているねえ〜。うちに男娼部門があればほっとかないんだけどねえ!」
あはははと大きな口を開いて笑いながら席をローズに譲った。
すれ違う時にローズとは対照的に口の軽いドラルをじっと見つめていた。
その目は正に珍獣発見!という驚きを表していた。

怒濤の勧誘だったが、ローズの入室でぽっかりと明いてしまった間。
その間によって漸くマダムの目が同室のレクストとハスタを映す。
二人の顔をまじまじと見た後、マダム・ヴェロニカの有り余った肉がついた頬がニヤリと歪む。
「あらまあ、あんた誰かと思えば従士隊のレクストさんじゃないか!
あたしとした事が綺麗なお嬢さんに夢中でお客がいること気付かないだなんてねえ。
今月顔見ないと思ったら、こんなところにいたんだねえ。
毎月給料日にはご贔屓にしてもらっていたからどうしたんだろうって思ってたんだよ〜。
そちらの方も従士隊の人かい?」
突然口走るマダム・ヴェロニカの言葉にレクストは驚くだろう。
だが反論する間は与えられない。
火災防止用の放水オーブが天井から大量の水を撒き散らしたのだから。

暫くの放水の後、惨劇は起こる。
「冷たい!な、なんだい!?」
よろけるマダム・ヴェロニカの顔が溶け崩れ、落ちようとしていたのだから。
ボトボトっと落ちる頬に慌てて両手で顔を覆うが、持ち直す事はない。
「ひいい・・・あたしの顔がああ!!」
勿論この部屋だけ散水された液体が濃硫酸だったというわけではない。
突然のシャワーにマダム・ヴェロニカの分厚い化粧が崩れ落ちたのだ。

顔が・・・もとい、化粧が完全に崩れ落ちる前にマダム・ヴェロニカは駆け出した。
その重鈍そうな体からは想像もつかないような速さで。
喩えるならばそう、ゴムマリが廊下を跳ねていく、という形容が最も正確に表現しているだろう。

突然の放水だったが、唯一幸いだというのであれば、部屋に充満した化粧の匂いを落としてくれた事だろう。
足元に溜まる水にはマダム・ヴェロニカが落して言ったであろう乗車券が張り付いていた。
それは一部屋で車両の半分を使い、高級ホテル並みに部屋を提供する一級客車のチケットであった。

【放水により化粧が崩れた為、自室に逃げ帰る。】

160 名前:マダム・ヴェロニカ ◆iHSgBAJ.9BYi [sage] 投稿日:2009/12/10(木) 23:49:26 0
>150
一人の少年にはべる三人の美女。
部屋中ピンクの粒子が蔓延しそうなハーレム状態なのだが、男には見えない水面下の戦いの真っ最中でもあったりする。
マッサージと称しながら肩を揉むついでに豊な胸をジースの後頭部に押し付けるエボン。
それを媚を売るような笑みでジースを見ながら、一瞬の隙を掻い潜りジースに気付かれないように殺気じみた視線を送るチタンとフランソワ。

そんなひと時もジースの一言で終わりを告げる。
>「香水、少し付けすぎではないか?少し、鼻につくのだ。
その一言にエボンは思わず仰け反り、チタンの目が輝く。
「あー、エボンさんはもう年だし、加齢臭隠す為には仕方がないんじゃないですかぁ〜?」
ここぞとばかりに棘のある言葉を送るチタンだが、ジースの言葉は更に続く。
> ……クッキーを作る際、包丁って使うのか?」
策士策に溺れる。
意図のない純粋な疑問だからこそダメージは更に大きい。
チタンも仰け反ってしまい、言葉はでてこない。

そんな二人を更に固まらせる言葉がジースの口から紡がれた。
>「……つい先日の、『ヴァフティア事変』は知っているな?
その言葉にエボンとチタンがお互いに視線を合わせるが、言葉は出てこない。
そこで動いたのがフランソワだった。
ほか二人にマイナス点がついている中、ここで駄目押しのリードを広げようという笑みが瞳の奥に宿っていた。
「あ、フランソワ知ってますー!
なんでも結界都市の中に魔物が一杯出てきて暴れたらしいデスヨー。
しかもそれがヴァフティアの魔法装置の誤作動じゃなくて、謎の組織の陰謀だったんですって。
どうですぅ?ジース様。御側に置くのならこういう情報通な女の子だと役に立つと思いませんかぁ?」
勝ち誇ったようなフランソワにチタンとエボンからの抗議の視線が送られる。

先ほどチタンとエボンが視線を交わしたのは、ジースにどれだけの情報を与えてよいかという相談だったのだ。
三人はマダム・ヴェロニカと定期連絡を取っていてヴァフティア事変についてもそれなりに知っていた。
だがジースには【何も知らないお坊ちゃま】でいてもらったほうが都合がよいから言葉を詰まらせていた。
が、それを抜け駆けしようとしたフランソワによって潰されようとしている。
ここで三人の心理戦は激しさを増す。

「フランソワったら。これだから思慮が足りない子供は困るのよねえ。
そんなタブロイド誌に載っていたような与太話をジース様に聞かせるなんて・・・」
エボンが火消しに走ろうとしたが、チタンはそうではなかった。
「あーら、そんな程度の情報でよいのだったら安心だわ。言うの躊躇っちゃって損しちゃったー!
謎の組織だなんてその程度?
私が聞いた話だと、カルト教団終焉の月の魔法実験で魔物をヴァフティアで量産していたのですって。
当時ヴァフティアでは赤い月が目撃されたという事ですよー。」
チタンはフランソワに負けじと話を広げてしまう。

こんなやり取りをされて、エボンも最早火消しを諦める。
「ふぅ・・二人とも噂話を披露するだけなのねえ。
私の情報網によると、帝国研究室が直々の調査に乗り出したのこと。
魔物のサンプルを回収したという話を聞きましたわ。
そういったモノの管轄は『役学』だそうで。
メニアーチャ家の出資で成り立っているような研究機関ですし、ジース様が望めば実際に見てみる事も可能でしょう。」
半ば自棄気味に話し終わった後、自棄ついでにと付け加える。

「噂話を囀る小鳥よりも、こうやって的確な情報とてアインが出来る女で無いとジース様の御側にいても邪魔なだけでしょうね!」
と。

161 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/12/10(木) 23:50:33 0
「帝都エストアリアってのはまあ読んで字の如く帝国首都だな。帝国の枢軸機関が集まってる」

無事に辿り着いた客車でレクストが述懐し始める。むせ返るような臭いの消えた客車の中、
マダムともう一人何故か居る美少年を加えた相席の者達へ、いつもの薀蓄タイムがはじまった。

レクストは他人に何かを説明するのが好きだ。その時だけ、自分が頭よさげに見えるからである。
もちろんその口から語られる内容はそこに住む者ならば誰でも既知の内容だが、聴衆はマダムやハスタを除いてみな帝都をよく知らない。
そんなとき、レクストはいつもよりずっと饒舌になるのだった。インテリ万歳。似非だけど。

「帝都の構造は、そうだな、いくつも重なった同心円を思い浮かべてくれるといい。二重丸とか三重丸の豪華版だな。
 ヴァフティア十個分はあろうかっていう広大な円状の敷地に、いくつも環状ラインが通ってる。全部揺り篭通り規模の大通りだ」

近隣有数の大都市であるヴァフティアにすら東西南北四本しか通ってない大通りが、帝都には波紋のごとく無数にある。
帝都は皇帝陛下のおわす王宮、『天帝城』を頂点としたゆるやかな円錐型で、等高線のように一定間隔で通りが巡っているのだ。
これが、有事の際には路上に刻まれた膨大な数の呪詛と術式によって結界障壁を励起し、外的の侵攻へと抗うのである。

「そういう側面から、この環状大通りは『ハードル』って呼ばれてる。中心から順に番号がふってあって、天帝城の周りが一番ハードル。
 そっから二番、三番……って感じに名前をつけてくわけだ。ちなみに従士隊屯所本部は三番ハードルの内側だな」

ハードルとは行っても平時は人々の暮らす生活拠点であり、交通の基礎たる大通りだ。
軒を連ねる商店街や、遊興施設も露店もある。各所に設けられた噴水や広場は都民の憩いの場としてつつがなく機能している。

「主な都内交通は路面鉄道……なんだが、あんまり敷地が広すぎて正直これは観光以外の用途を為さねえ。
 急ぎのときや日常生活で使うのは『SPIN(スピン)』だな。これはまあ、平たく言やあ都市型転移術式陣ネットワークなんだが……」

SPINとは都市内転送術式間連絡網(シティポーテーションインターネットワーク)の略称である。
都内各所に設置された『駅』に施術した転移術式同士を繋ぎ合わせることで、高速性と効率性に優れた転移術式を行使できるシステムだ。

「……正直ややこしいから実地で見たほうがいいな。びっくりするぜぇ、転移術式を一般人がポンポン使ってる光景は」

そこで一息つき、レクストは手に持っていたカップを一気に煽った。窓の外では目で追えない速さで景色が移り変わっているので、
風景を楽しむ余裕はない。大陸横断鉄道は大陸の横断を一週間で達成する高速車両であり、魔力によって制御された速度は音速の一歩手前だ。

暇つぶしにトランプでもしようかと思ったが、何か賭ければここぞというときに絶対悪手を引かないフィオナややたら良い手を引くハスタ相手に
ロクな勝負をできるわけもなく、かといって何も賭けないのでは白熱しない。従って、余った時間で帝都についての知識を放流しようという算段だ。

162 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/12/10(木) 23:59:27 0
そうして喋ること一刻、休憩や質問を交えながらの一刻で大体皆に知識が行き渡った。喋り疲れたレクストはぐったりと椅子に沈み込む。
と、不意に列車が減速した。慣性によって皆が傾きながら何事かとざわめき始める。そこへ、客室の音信管から焦った声が降ってきた。

『申し訳御座いません、現在当車は魔物の襲撃を受けています。お客様の安全は出来る限り保証しますが……あっ、入ってきやがった!
 くそ!ぶち殺せ!ああ、術師は最優先で護れよ!武装警備員は?なにィ、乗せてないだとおおおお!!?――――ブツン』

最後になにやら不穏な発言を残して音信は途絶えた。はっとして窓を見れば――

「うっわ、マジかよ……!」

併走していた。翼を持った魔物の群れが、列車と併走するように飛行していた。窓の視界を覆いつくさんばかりの群れの向こうで、
頭領と思しき巨大な固体が滑空している。知能があるらしく、子分の魔物達に指示を出していた。

「そうだ、機関室――!!」

先ほどの放送は機関室からである。そこからの音信が不意に途絶えたとなれば、機関士達が襲撃されたと見ていいだろう。
もしも彼等の命に危険があったら、最悪この列車は止められないかもしれない。そうなれば待っているのは乗客みんなと心中だ。

「ちょっと機関室に行ってくる!戦える奴は他の乗客の安全確保と俺に助太刀を頼む!!」

レクストは立ち上がり、バイアネットと黒刃を担って客室を出ようとし、思い至って踵を返した。

「気をつけろ、そいつら多分耐魔ガラスも普通に蹴破ってくるz――」

忠告は遅かった。ガラスの割れる大音声を響かせながら、有翼の魔物達は一斉に客車へと乗り込んでくる。
突然の事態に恐慌手前のレクスト達の客室へも、異形の翼が飛び込んできた。


【列車が魔物に襲撃を受ける。レクストは機関室へ】

【バトルイベント】
※バトルができない、あるいは戦えない状況下にある場合はスルーして下さって結構です。

<機関室> 迎撃:レクスト
有翼種×3 (空飛べる。頭良い)

<客車>
剛力種×5 (力が強い。頭は悪い)
有翼種×2

<上空>
有翼ボス×1 (有翼種のボス。頭良くて力も強い)


◇NPCバトルです。任意の場所へ迎撃に向かってください
 機関室にはレクストがいます。彼へ助太刀する場合は機関室へ
 ワンターンキルOK。有翼ボスはちょっと粘らせて欲しいかも

163 名前:ローズ・ブラド ◆lTYfpAkkFY [sage] 投稿日:2009/12/11(金) 23:01:02 0
>>159
「あ、あの…えーと」

言い終える間もなくマダムは客室の外へと逃げていく。
勿論、ローズの全身も水塗れになってしまった。
「……なんで、僕まで。。」

《おいおい、こりゃシャワー使う必要もねぇな。良かったじゃねぇの?》

皮肉を言うドラルを無視して車窓からの景色を眺めるローズ。
タオルで体を拭きながら溜息を吐いてしまう。
「え…?何…なn」
車窓の景色が一変する。

『申し訳御座いません、現在当車は魔物の襲撃を受けています。お客様の安全は出来る限り保証しますが……あっ、入ってきやがった!
 くそ!ぶち殺せ!ああ、術師は最優先で護れよ!武装警備員は?なにィ、乗せてないだとおおおお!!?――――ブツン』

《おい、やべぇぞ!早く、何とかしねぇと!》

叫ぶドラルにローズは首を横に振る。
「でも、今ここで僕が姿を見せるわけには…」
荷物を手に、客室を出て行くローズ。
《おい、ちょっと待てって!いつまでも逃げててもダメだ!力を貸そうぜ!》

逃げ惑う乗客にぶつかりそうになる。1
その時、人の少女がガラスを割って現れた有翼種にさらわれそうになった。
ローズの中で、何か熱いモノが弾けた。顔に、幾重にも重なった
血管のような軌跡が浮かぶ。

「ドラル……頼むよ。」

先ほどのまでの弱気な青年からは一変し、さながら獲物を狙う獣の目へと変化
したローズがドラルを掴む。

《へっへ〜そうこなくっちゃなぁ!装着!!》

ドラルの叫び声と同時にローズの体が一瞬で蝙蝠の意匠を称えた
鎧騎士へと変化する。
「…消えろ。」
直後、背後に広げたマントが刃物のように変化し有翼種を一瞬で「寸断」した。
助けた筈の少女が自分を見て恐怖の表情を見せる。
ローズは小さく溜息を吐くと、逃げていく少女から目を離し再び怪物達へと顔を向けた。

【レクスト達から離れて変身。怪物達を迎撃中】


164 名前:アイン ◆mSiyXEjAgk [sage] 投稿日:2009/12/12(土) 19:03:46 0
>「あるに決まってるだろーが!!人に水ぶっかけといて文句があるならボスに言え?
  頭一つ下げずにンな理論が通れば警備兵はいらねーよ!!!」

鬱陶しい奴だ、と言う心証を隠そうともせずアインは剣呑に目を細めた。
それに呼応して、ギルバートもまた更に荒々しく敵意を重ね塗りする。
他にも腹の虫が収まらず文句を言ってやろうと思った輩はいたようだが、
二人の様子に気圧されたのかいつの間にやらいなくなっていた。

欠片とは言え灯火珊瑚を無駄にし、その上濡れ鼠になってしまった鬱憤の矛先を眼前の男に定め、アインは口を開く。

>「そこの白衣、文句あったら従士隊に言えっつったか?その従士様がここにあらせられるんだがどうよ?どうよ俺?」

が、彼が毒の多分に盛られた言葉を紡ぎ出すよりも早く、駆けつけてきたレクストが睨めつけ合いの場に飛び込んだ。

彼を見たアインが第一に抱いた感想は、『脳みそが恵まれていない残念な男』だった。
故にレクストへ向けられる視線に敵意はなく、ただ哀れみだけが支配している。

その後結局、清掃具を持った乗務員の登場によって諍いは燃え上がる事なく消滅してしまった。
強引に部屋に押し込まれたアインはそのままドアを振り返る事もなく、客室備え付けの浴室へ着替えに向かった。

「……で、何でお前が僕の部屋にいるんだ?」

目を瞑り眉をひそめて苛立ちを隠そうともせず、アインは成り行きで部屋に押し込まれたギルバートに疑問を零す。
片目だけを開けてドアに小さく隙間を作ってみるが、すぐに乗務員と視線が交錯して露骨に顔をしかめられた。
また帝国の名を出せばギルバートを追い出す事も出来なくはないだろうが、これ以上面倒事は御免だと、アインはそれを諦めた。

いない者として扱えばいいか。
そう結論に達したアインは、

「掃除が終わるまではここに置いてやる。浴室だろうが何だろうが好きにして構わんが、掃除が終わったらさっさと出て行ってくれ」

とだけ言うと、ギルバートの言動も仕草も全てに無視を決め込んだ。
そして足元の鞄を膝に置きダイヤルを弄った後に開けると、彼には中身が見えないように『役学』の研究を始める。
時たま発せられるギルバートの声と、幾つかの容器や機材が触れ合い奏でる音だけが客室を満たした。

それから暫くの時間が過ぎ――不意に、天井に備えられた音信管が震えを帯びて機関室からの音声が客室に届けられた。

『申し訳御座いません、現在当車は魔物の襲撃を受けています。お客様の安全は出来る限り保証しますが……あっ、入ってきやがった!
 くそ!ぶち殺せ!ああ、術師は最優先で護れよ!武装警備員は?なにィ、乗せてないだとおおおお!!?――――ブツン』

どう考えても穏当でない放送に、アインは鞄を閉じて天井の音信管を見上げる。
同時に隣の客室で窓の割れるけたたましい音が響き、彼の視線が焦燥に突き飛ばされたかのように車窓の外へと走った。

165 名前:アイン ◆mSiyXEjAgk [sage] 投稿日:2009/12/12(土) 19:05:06 0
「……獣共が、人間様の列車に乗ろうって言うのか? 残念ながらお前達が座る席はないぞ」

ギルバートに向けたものよりも尚鋭く細めた双眸で、アインは窓の外に群れをなして飛ぶ魔物達を睨む。
その中の一匹が、窓の内側へと顔を向けた。
両者の視線が交錯し、魔物は鼻で笑うような表情を浮かべると再び視線を前へと戻した。

周囲の客室や一般席、更には他の車両からも、次々と耐魔ガラスの割れる音が鳴り響く。
乗客や乗務員の悲鳴が、それを塗り潰すような魔物の下卑た笑い声が後に続いた。

「……まあ、丁度いい機会か。『人の役に立つ学問』で『役学』だ。
 ここで実績を上げれば、来年の資金申請も多少は楽になるだろう。あの魔物のサンプルも取れれば尚の事いい」

立ち上がり鞄を右手に引っ提げて、アインは客室のドアに手を掛ける。

「ああそうだ。忘れていた」

と、そこで一旦静止すると、背後にいたギルバートを振り返る。

「お前も手伝え。声から察するに機関室に誰かが向かったらしいが、今は一刻を争う。
 そこまでにいた魔物を全て倒している、なんて事は恐らくないだろう。最低限払いのける程度の筈だ」

言葉を切り、一拍の間を置いてから再びアインは口を開く。

「この騒動を収めるには僕が先頭車両に行く必要がある。が、僕一人でそれは面倒だ。
 お前は見たところ脳みそまで筋肉で出来ているようだし、この状況にはうってつけだろう」

【ギルバートに協力要請……もとい命令。目的地は先頭車両】

166 名前:ルキフェル ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2009/12/12(土) 20:12:42 0
同刻――帝都

「すみません!並んで下さい!皆様の分はありますので……」

帝都の中心部。貴族が多く住む地区では大勢の人々が列を成し
並んでいた。
誰もが豪勢な金品を見に付け、その中には若者の姿も見える。
彼らの目当てはただ1つ。
数日前より帝国軍が始めた「赤眼」の配布。
この赤眼は一般の人々でも装着可能な滋養強壮剤、そしてあらゆる病に
効くとされている装具品。
直接眼に装着すると、一定期間で効果が得られるという物だ。

ここ十日ばかりで帝都でも流行した謎の疫病から人々を救う目的で
配布されたという皇帝陛下お墨付きの品。
誰もが我先にと疫病を防ぐべく赤眼を血眼になりながら手にしていく。
貧民街にも同じく配布される予定で、疫病を抑える事に期待されている。

「……順調のようですね。」

赤眼を手に喜び勇み去っていく民達を眺めながらルキフェルは呟いた。
あの街で手に入れた物、あのサンプルが役に立ったというべきか。
夜明けには従士隊、騎士団。彼らへの配布が始まるだろう。
彼らも皇帝の命令とあらば逆らう者はいないだろう。
疫病を防ぐという名目もある。
何より、あの街で起きた「事変」は疫病の流行ということで話を終結させるよう
命令させておいた。
もし、万が一真実を知るものがいたとして。
ハンターギルド、一部の従士隊には現在の帝国軍を危険視する向きもある。
この際、消しておくのも悪くないだろう。

目に付くゴミは捨てればいい。そうすれば、何の問題もない。

―数時間後 夜:王宮付近 庭園

>>152
「邪魔者は、排除すればいいだけです。その為には武器がいりますがね。」

月の明かりに照らされる中、ルキフェルは来客者を待っている。


167 名前:ジース ◆vKA2q6Alzs [sage] 投稿日:2009/12/13(日) 00:00:34 0
机に寄りかかり、腕を組んで、話を聞く体勢。
ここで1点。
ジースは本当に、聞こえのいい報告しか受けていない。
ヴァフティアに、感染原不明原因不明の疫病が広まり、混乱の渦となった。
その病に罹った者達はまるで気が触れたように暴れまわり――やがて事変となった、というあらまし。
現時点では収まったということだし、治療法が確立されたということなのだろう。

「ほう?」
だからフランソワの言葉は、ただの噂話としてジースは耳に入れるだけだ。
確かに、『魔物が暴れ出したんだ』という噂は聞いたことがある。出所は全くもって不明だが。
所詮噂話だ、魔物が現れ暴れたということが事実であると仮定して考えてみると。
あの“結界都市”だ、単に魔物が出現して暴れたんだ、と言われてもそう簡単に納得出来るものではない。
しかも結界を張る役目を任ずる尖塔は、つい最近に位置を変え、新しく立てられた筈だ。
だから、何か陰謀が働いているのではないか――などという噂が出回るのも、当然と言えば当然の流れだろう。

――なるほど、良く出来ている。
最初に『魔物が暴れ出したんだ』という噂を流した人物は、
“陰謀”などと尾鰭が付くこと、想像もしていなかったことだろう。

まだいい。
笑って流せる、噂話の範疇だ。

しかし、チタンの言葉にはジースも少し表情を変える。
まるで――まるで、魔物が現れたというのは皆目承知の上で、とでも言いたいかのような。
あくまでも噂話だ。ヴァフティア事変は疫病が発端というのが通説の筈だ。
だがチタンは、噂話を“前提”として、語っているのだ。

「終焉の月、か……」
チタンの言葉のうち、挙げられた固有名詞を反復するように呟く。
確か父が遺した書物に詳細が乗っていて……7年ほど前に、一度壊滅的な打撃を受けたのだったか。
その後は細々と活動を続け――近頃また勢力を伸ばしてきている、という話を聞いたことがある。
確かその7年前も赤い月の目撃情報があり――一枚噛んでいるのならば、なるほどとも言える。

――よく出来た、作り話だ。
本当に、作り話ならば。

外面は、全く信じて居ないような態度を取り続ける。メニアーチャ家の当主として、このような与太話に心乱される訳にはいかない。
「なるほど、面白い。それが本当だと言うのならば、かなり危険な教団だな」
そして、聞こえないように呟く。
「……全く、名前は似ていても『深淵の月』とは大違いだな」

最近、皇帝の近いところで秘密裏に『深淵の月』を名乗る団体が動いていることを知っている。
皇帝の後押しで何かを研究しているらしく、ジースは詳しいことは知らないが、それへの資金提供は惜しまない。
そこの人物が、過去に言ってくれた言葉を信じているから。

エボンの言葉で、ジースはこの3人への警戒心を強めることになる。噂話を前提にしていることは勿論のことで。
――確かに、『役学』の研究者がヴァフティアに向かったことは知っている。
父が出資していたのなら、ジースが打ち切る理由もない。旅費や準備費など、申請の通り捻出した。
それはいい。
なぜメイドが知っているのだ。
別に隠しているわけではないが――不信は沸々と湧き上がる。

それに――その時は何の疑問もなく出資したが、今となっては、不自然な点がある。
本当に疫病であるなら、研究に向かうのは医者であるべきであって、学者ではない。
役学とは、自然界の物以外にも、魔物から穫れる物質などの反応などを研究する学問と聞いた。
疫病であれば、不自然だ。
噂話の通り、魔物が――という話だとしたら?
背筋が凍るほど、ピースは合致するのだ。

168 名前:ジース ◆vKA2q6Alzs [sage] 投稿日:2009/12/13(日) 00:01:32 0
ここまで来ると、噂話を信じざるを得ない。何故疫病という話にしたのだろうか。不安を煽らぬためか。
それは分からないが……もっと分からないのは、この3人のメイドだ。
ジースは無知で無能で無学だが、無脳ではない。
この会話で、この3人が『たかがメイド』ではないことを納得する程度の頭はある。
――知りすぎているのだ。

「……大変興味深い話を有難う。もう、いいぞ」
何にも動じていないかのような素振りを見せつつ――書斎の本棚を思いっきり蹴り倒す。
右足にじんわりと残る痛みとともに、その場には本が散乱する。
「おっと……すまない。3人で片付けておいてくれないか。よろしく頼む」
逃げるようにその場から飛び出した。

何よりも浮かび上がってきたのは、得体の知れない3人のメイドに対する恐怖。
その恐怖から――目先の逃亡だけを謀るしかできない。
とにかくその場から離れたかった。同じ空気を吸っていたくなかった。
後のことは何も考えていないけれど――とりあえず逃げ出したかったのだ。
所詮まだ16歳の少年には、恐くて、怖くて、仕方なかった。

ジースが訪れたのは、厚いカーテンで仕切られた薄暗い部屋。
この部屋に入ることを許されるのは、ジースの他には執事の男と、メイド長ぐらいのものだ。
ベッドには、未だ目を覚まさない、眠り姫。

気持ちを落ち着かせるかのようにベッドの脇の椅子に座り、深呼吸をすると。
はたと何かを思い出したような表情を見せ、懐から何かを取り出す。

「姉さん、これ、あらゆる病に、効くんだってさ。
 僕の分も欲しかったけど……僕が貰った分だけ、他のもっと必要な人が貰えなくなっちゃうでしょ?
 僕は元気だし、我慢するよ。だからこれ……姉さんの分」
眠ったままの姉の瞼を優しく開き、その眼球に『赤眼』と呼ばれる赤い薄い膜をゆっくりと乗せる。
蒼かった瞳が赤く変わるのを確認すると――そっと瞼を閉じて。
そのまま。

「……気休めだってことは、わかってたけどね」
どれぐらいの時間じっとしていただろうか。姉に何の反応もないことがわかると、ジースは立ち上がる。
「でもこれも、たぶん『深淵の月』さんの研究の成果の1つだと思うんだよ。
 あの人たちは、やっぱり凄い。僕も、財を擲つ価値はあると思ってる」
振り返ることなく部屋を後にする。
「――姉さんを治してくれるって、言ってくれたから」

自室に戻ったジースは、ふと時計を見て。
心底驚いたような顔をした後。
隠し持っていた質素な服――とは言っても充分上流階級の服だが――に着替えると。
使用人に見つからないように、そっと裏口から邸宅を抜け出したのだった。

169 名前:ミア ◆JJ6qDFyzCY [sage] 投稿日:2009/12/13(日) 02:29:36 P
運命を司るのは“女神”であると相場が決まっている――何せ、こうも嫌がらせが陰湿だ。

>「へへ、少し若過ぎるか……でも、こういうのも悪くねぇよなぁ」
場所は貨物室。帰ろうとしたらガラの悪い三人組の男にまとわりつかれ、気づけばここに追い込まれていた。
(……これでも17よ。小柄で悪かったわね)
>「久しぶりだなぁ……女なんて」
無視して客車へ戻ろうと踏み出した彼女の眼前に現れる、垢じみた太い腕。
材質不明の無機質な壁が乱暴な音をたてて揺れた。

「……やめて」
うんざりと呟くと、斜め上三方から嘲笑と唾の飛沫が落ちてきた。顔をしかめる。
どうやら怯えと受け取られたらしい――ハッピーな連中だ。
ミアは冷静に魔力を練り始めた。長い一人旅の間に、適当に驚かせて逃げる術は心得ている。
――だが。思索に耽る時間が長すぎたのだろうか。
術が完成しないうち、その首もとに男の手が伸びようとしていた。
……どうやら、多少の露出は覚悟せねばならないらしい。
(……まあ、別にいいわ)
――それは女性として奇妙な程、冷静に。
(どうせ――どうせ、私は)

>「おい、あんたも手伝えよっ……」
それは突然のことだった。
声が途切れた。伸びた手は二重の意味であらぬ方向に曲げられ、ミアの服に届かない。
動作主を目で辿ると、チンピラの肩越しに照明を照り返す黒髪が見えた。
>「ちょーっと待ったぁ。お前らにはその資格はないな。
>……女を何だと思ってやがる?」
解放。流れるように足払いに移行。二名があっさりと天地逆転。この間セリフから約半秒。
男たちが沈黙したのは痛みか、青年の並ならぬ気配に圧倒されたか。

>「女はこの世界に存在する最高の宝だ。それを傷付けるような奴はぁ〜
>……この俺が許さん!分かったな?」
一択の問いに男達たちが壊れた人形のように頷きまくるのを、ミアはぽかんと見つめるばかりだった。
(強い…もそうだし、手慣れてる。何してきた人かしら)

「……ありがとう」
他人にはそれと知れないだろうが、幾分か柔らさを帯びた声音で礼を述べる。
ニコリと笑った青年の明るい表情が少し眩しい。初対面とは思え無い親しみやすい顔立ちだが……駅で顔を合わせでもしただろうか?
――彼女は油断していた。
満足気に歩み寄った青年が――さも当然のように、肩に手を回すのを許してしまったのだから!


170 名前:ベルンハルト ◆sbv0QKeoW2 [sage] 投稿日:2009/12/13(日) 02:36:12 0
>>166
「王宮付近……?」
ベルンハルトは思わず地図の赤いマークを見て呟く。
見間違いとも思ったが、やはり指定されている場所は王宮付近……
ベルンハルトは眉を顰めながら溜息をつ。

なぜなら帝都では年々富豪層と貧民層の差が広がっており。
更にはスラムの人間は人権すら与えられない屑≠ニいうのが最近の風潮だ。
そのため中心部に行くには手続きが必要であり、少しでも不審であったりすれば容赦なく尋問が待っている。
お陰でスラムの人間は死ぬまでスラムに閉じ込められる。
そして、それはスラムを徘徊し、帝都に自らの存在すら登録されていないベルンハルトにとっても同じことだ。
もっとも、ベルンハルトが気にしたのはそこではない。中心部など忍び込もうと思ったら幾らでも忍びこめる。
無論それを知ってか待ち合わせの時刻は丑三つ時とご丁寧にお膳立てされている。

問題は中心部の中でも警戒が厳重な王宮付近を自由に歩きまわれるような男が、
わざわざベルンハルトを呼び寄せたということである。
むしろ、位が高い人間ほど組織へは隠匿性の高い連絡手段を好むというのに…
「やはり、今回の件は組織でも特別のようだな…」
得体のしれない何かが裏で動いている……言い知れぬ恐怖がベルンハルトの中で蠢く。
しかし、すぐにその恐怖はいつものように深く深く沈澱していく。
すべてを封じるが如く、また何も感じなくなっていく。
「くくく……ふふふふふ……どちらでもいいか。俺には道など残されてはいないんだからな」
灰色の乾いた笑みを浮かべながら、ベルンハルトは中心部へと向かっていく。

―夜、月光が輝く帝都―

人出は昼間の活気ぶりからは想像できないほど減り。
ただ少人数の警備の人間があちこちを哨戒している。
警備の人間にでも見つかり白眼視の眼差しで尋問などされては事は面倒になる。
街灯と警備を避け、暗闇をベルンハルトは進む。夜は否が応にも目立つSPINの使用を避け、
人が遠ざけたがる暗闇へ、ひたすら暗闇へと移動していく。
そして程なく指定された庭園へとたどり着き、目当ての人影も目に入る。
「邪魔者は、排除すればいいだけです。その為には武器がいりますがね。」
独り言をつぶやく男の前へとベルンハルトは歩み寄る。
月明かりに照らされる男…自然と目が合ったその時、
ベルンハルトは四肢を切り落とされたが如く、その場で動けず固まる。
(なんだ…この男の眼は…)
…どこまでも暗く深い、まるで闇の淵を覗かせたような男の眼。
ベルンハルトは今まで、こんな目をする男を見たことがなかった。
気がつくとベルンハルトは膝を折り、深く頭を下げていた。

「遅くなって申し訳ございません。
 ベルンハルト・エリクション、今を持って貴殿の剣となります」

そしておもむろに剣を取り出し、次の瞬間、自らの腹へと刃を突き立て、
それには飽き足らず、更に抉り、押し広げる。夥しい血とともに、内臓が外へと溢れる。
胴体が真二つになろうとした直前で、ベルンハルトは剣を引き抜く。
普通の人間ならば、もはや助かることはあり得ない致命傷。
いや、おそらくは途中で絶命するだろう、しかし、ベルンハルトの顔には苦痛の色も恐怖も、
何も映すことはない。そして淡々と、口を開く。
「説明するよりは見た方が早いかと…これが、我が機能
 ひいては、その存在≠フ全て…」
そして始まるは再生…すさまじい勢いで身体の穴は埋められ、
すべてが新しく作りかえられていく。
瞬きする暇もなく、ベルンハルトは元の正常な身体へと生まれ変わっていた。

「さあ、ご命令を……」

171 名前:ミア ◆JJ6qDFyzCY [sage] 投稿日:2009/12/13(日) 03:14:44 P
>「やぁ、俺はジェイド。1000年に一度の天才だ」

(100年前も知らないでしょうに) 

>「俺と愛の旅路を行こうではないか……ワハハハハ!!」

(客死…)

>「……どうした?そんなに硬い顔をして」

(さっきはもう少し穏やかだったわ)

>「そうか!この俺の美しい顔を見て緊張してるのか?」

「離れて変態」

先ほど感じた好感を一片も残さ無い言葉と共に、回された腕を冷たく払い退けた。
(助けたのは善意? 計算?)
彼女は客車側の扉――先程彼が買収した駅員らがゴロツキらを抱えて消えたをそこを指さし、完全に誤解した様子で、
「同じ目的なら、容赦しないから」
ほんの一瞬魔力を高める。空気の流れのようなものが変化したのを青年も感じたはずだ。
もっとも、魔力に技術が伴わない彼女の場合、こけおどしに過ぎないのだが。

* * *

――と。
突然の減速。水平方向の衝撃を受け、ミアは壁に手をついてその場にしゃがんだ。
>『申し訳御座いません、現在当車は魔物の襲撃を受けています。お客様の安全は出来る限り保証しますが……あっ、入ってきやがった!
> くそ!ぶち殺せ!ああ、術師は最優先で護れよ!武装警備員は?なにィ、乗せてないだとおおおお!!?――――ブツン』
途切れた放送。刺すような余韻。
敵意も忘れ、迷うように青年に目を合わせる。
遠く耳に届くのは、高まる客車の喧騒――悲鳴と歓声――二人の間に不気味な沈黙が落ちた。
……そう、沈黙。エモノの少ない貨物車に、魔物の気配は無い。

「……客車は大丈夫よ」
ミアは背の包みを解いて弓と杖を露にしながら、静かに口を開いた。
歩を進め、窓を覆う遮光布に手をかけて一気に取り去る。
見えたのは、客車に群がる有翼種数匹。そして離れて滑空する、一際大きな――あれが指揮官だろうか?
「仲間がいるから。人狼と神官騎士とハンターと従士。“撃てる”人もいる。けど」

この走行速度なら、ギリギリ“飛翔”で並走できそうだ。
「“飛ばせる”のは私一人」
窓を割ればすぐにでも外に出られる。
彼女の杖程度では、耐魔ガラスはその程度ではびくともしないだろうが。
ミアは息を吐き、青年に向きなおった。
その瞳は遠く吹き抜けて底が見えず、それでいて強い意思を秘めていた。色の無い硝子が色の無い光を放つように。

「私はミア。風と地と……魔力を操れる。
外の魔物を倒したい。列車を止められない理由があるの。
貴方の協力が欲しい。報酬は――」

しばし考え――
「――部屋に泊まっていいわよ」

それは彼が無銭乗車であることを考え、“男たちの”部屋に秘密で泊めてもらえるよう頼んでみる、ということだったが――
残念なことに、女性として非常に問題ある発言と混同されかねない表現をしたことに、彼女は最後まで気かなかった。

172 名前:ハスタ ◆fmAKADpWIqWy [sage] 投稿日:2009/12/13(日) 14:54:21 0
フィオナとレクストの慌てっぷりを楽しもうと決め込んでいたはずが
状況はいつの間にか混沌とした状態に陥っていた
突然のシャワーでずぶ濡れになったが、ただ単に煩わしい程度だ
サイドテーブルの下にあるおかげで呪符は濡れていない
・・・そこで更に撤退していったビヤ樽のような化け物(?)に続いて、機関室からと思しき悲鳴の放送
急いで部屋を出るレクストを横目に、一度窓の外を眺める

「どことなく、作為的なんだよな・・・」
なぜ、警備が手薄な時に?なぜヴァフティアの関係者が乗ったこの時に?
背後に立てかけた純白の木材を一まとめに引きずりながら、どこか気だるげに客室を後にする

――客車
一般の乗客が逃げてくるのを逆に辿ると、体格のいい魔物が暴れている姿が視界に入った
「やれやれ・・・【三元鎮守】」
手早く引き抜いた符が眼前で浮遊、互いを青い光で結んで回転する三角を作る
向こうもこちらに気づいたのか、嫌な笑みを浮かべてこちらへと進んでくる
だが、魔物が腕を振り上げるより早くオレはその懐に入り込む
眼前の盾に弾かれ、後退する魔物を嘲笑うように散歩するような調子でオレは歩く。

人型に比較的近い体躯をした物によくある事だが、拳を振りかぶる隙間すら無い至近距離では
有効な攻撃手段と言えるのはもう関節技や投げに頼るしかないのだ。
と、考える間に魔物の背が客車の壁についてしまった。
「・・・人がせっかく身を休めてるっつーのに何で働かせるのか、ねっ!」

右手が純白の木材を槍へと変え、盾越しに魔物の腹部へと突き立てられる
だが、それは魔物の体を完全に突き通していない。筋肉で阻まれたのだろう。
魔物は再度笑みを浮かべる。これならどうにかして押し返せば只の餌食だと判断したようだ。
「・・・吐く息が生臭いんだよ。そら、《おかわり》だ!」

余裕の笑みを浮かべた筈の魔物は、その考えが誤りだと気づく前に絶命した。
二本目の槍が喉から下顎を貫いて頭蓋に達した為に。
「一発目は体の調子を考えて加減してみたが・・・これなら完調だな。」
磔刑の支えとなった槍を引き抜かれ崩れ落ちる魔物を横目に次の客車への扉を見ると
その向こうでは、さっきの魔物とは毛色の違う何かが小柄な有翼の魔物を切り刻んでいた。

扉を蹴り開けて踊りこむと、その鎧姿に声をかける。純白な槍の切っ先を向けて
「まさか、お前も魔物か?・・・そうは見えないにしても、人間じゃないな?」

【客車エリア 残魔物:剛力×4 有翼×1 
 変身したブラドが分からず槍を向ける】

173 名前:ジェイド=アレリィ ◆EnCAWNbK2Q [sage] 投稿日:2009/12/13(日) 17:33:16 0
>>171
>「離れて変態」

少女、もとい姫の強烈なアッパーアットのような一言にジェイドは一撃で
やられた。
「なぁ〜るほど。そういうプレイも悪くないぞ。さぁ、鞭を……」
四つん這いになる振りをしてみる。
しかし反応は無い。

その代わり、嫌な雰囲気が姫から発せられているのに気付く。
ジェイドのおふざけ顔が瞬時に緊張した顔へと変わる。
「……姫、あんたも術遣いか何かってわけか?面白れぇ、そういう
のもまとめて愛して……はっ!?」

>「申し訳御座いません、現在当車は魔物の襲撃を受けています。お客様の安全は出来る限り保証しますが……」

「保証できてねぇだろ!襲われてるじゃねぇーかよ!!」

ジェイドは尻を振りながらプンプンと怒り始めた。
恋路もとい、口説きを邪魔されるのは彼にとって屈辱以外の何者でもない。
>「……客車は大丈夫よ」
姫は思いの他、冷静に言い放つ。どうやら本当に極上の玉らしい。
耐魔ガラスの先に見えたのは――空を我が物顔で飛び交う魔物達。

>「仲間がいるから。人狼と神官騎士とハンターと従士。“撃てる”人もいる。けど」

神官騎士、そして従士という言葉に眉をひそめるジェイド。
そういえば姉ちゃんはどうしてんだか。また胸でかくなってのかね。
いかんいかん。ジェイドはくだらない妄想を止めて目の前の事態に再び向き合った。
「従士……か。懐かしい名前だ、っても1年前だけどな。」

>「“飛ばせる”のは私一人」

「オーケイ、任せろ。離れてな!」
ジェイドの右腕、義手に何かを差し込む。
札?いやカードか。

――破!!――

耐魔ガラスが一瞬で吹き飛ぶ。
それと同時にミアの補助魔法に乗りジェイドが空を――跳んだ!!
>「――部屋に泊まっていいわよ」
ジェイドは空を飛びながら先ほどの言葉を思い出していた。
ありゃどういう意味だ?わからないが悪い意味では無さそうだ。
しかし、考え事をしているジェイドに巨大な悪魔は音も無く近付いていた。

「ひゃぁ〜ほう!こいつっあいいぜ……っておわ!ま、待てって!」

巨大な翼と体躯を持つ魔物が空を飛ぶジェイドを掴む。
列車と併走するようにジェイドの体を何度も車体へとぶつけていく。

「……いてててて!止めろ!!っておい、聞いてねぇだろお前!!」

【貨物室付近上空 敵のボスに掴まれ攻撃を受けている最中】





174 名前:ギルバート ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2009/12/14(月) 01:21:03 0

「そこの白衣、文句あったら従士隊に言えっつったか?その従士様がここにあらせられるんだがどうよ?どうよ俺?」
「おうよ、そこにおわすガキこそがかの高名なるリフレクティア・・・何やってんだお前」
「はいはいはい、もう出発するから着席して下さい。ほら、そこの方々も客室から出ない出ない」

―――突発するゴタゴタは収まるのもあっという間らしい。
気が付けば、ギルバートはこの騒ぎの元のメガネ野郎と一緒に客室に押し込まれていた。

「……で、何でお前が僕の部屋にいるんだ?」
「俺が知るかよ・・・恨むならあの車掌か自分にしろ」

それにしても豪勢な部屋だ。VIP待遇という程ではないが、限られた空間である列車内、
それも大陸横断鉄道と来れば個室というだけでも相当なステータスである。
これも公費で落ちるのか?帝国ってのは金が有り余ってるんだな。
とりあえずてきぱきと体を動かし備え付けのタオルをくすね、濡れそぼった頭や服を乾かしにかかる。

「掃除が終わるまではここに置いてやる。浴室だろうが何だろうが好きにして構わんが、掃除が終わったらさっさと出て行ってくれ」

・・・ふむ。同乗者がこの無愛想なメガネ野郎というのは気に入らないが、戻っても特にする事はない。
大体先程の騒ぎのケリもついた訳ではない。今の台詞の後半は聞かなかった事にし、
雑誌を一つ奪い取ると図々しく長椅子に寝転がってくつろぎ始めた。人これをヒモと言う。


―――単調な環境音と閉鎖的な空間は時間の感覚を狂わせる。
しばらく時間がたち、ギルバートはすっかりこの状況に馴染んでいた。
ちなみに件のメガネ野郎は隅で何やら器具をいじくり回して実験のような事をやっている。
器具が触れ合う雑音と、ギルバートが時折漏らす独り言だけが空間の単調さを破る。

「・・・メイド服がファッションだぁ?世も末だな」

読んでいたのは帝都で流行りの婦人服についての記事だった。
曰く、"今の流行は意外性?使用人を思わせる地味さに潜むファッションセンス"
特集として、帝都でもきっての資産家らしいメニアーチャ家とやらに勤める三人娘が取り上げられていた。
"様式化しているカテゴリだからこそアレンジの価値がある!支配欲を刺激するコーディネートに彼もメロメロ"

世も末である。

呆れつつも、暇も手伝っていつの間にか同行の人間の服装について考えが移っていた。
フィオナは、謹直な外見も手伝って地味な服も良く合うだろう。というか派手な服装が思い浮かばない。
ミアにメイド服か・・・物静かな雰囲気にマッチはするだろうが、どうしても評価は「可愛い」という方向になりそうだ。
後はレクストやらハスタ・・・ハスタにメイド服?・・・おいちょっと待て。

175 名前:ギルバート ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2009/12/14(月) 01:24:09 0

「やめろ!何の罰ゲームだ、俺が何をしたって言うんだ!」

脳内に悪夢のような光景が形作られる寸前でそれを揉み潰し、慌てて飛び起きる。
メガネ野郎が実に鬱陶しそうな視線を向けて来た。お前にこの恐怖がわかるか、くそっ。
そんなギルバートにしてみれば、直後に単調さを破った騒ぎはありがたいくらいだった。

『申し訳御座いません、現在当車は魔物の襲撃を受けています。お客様の安全は出来る限り保証しますが……あっ、入ってきやがった!』

魔物?メガネ野郎と揃って窓に視線を向けると、魔物の群れが眼に入った。
列車に併走しつつ囲むように動くその様は、群れからはぐれた馬を追い立てる獣のようだ。
こんな組織的な動きを行うという事は、この中に群れを統率するボスがいる。恐らくボスは―――上か。

同時に思い至ったのは現状一人ではぐれているミアの事だった。
ジェイドが一緒にいる事など露知らず、こんな事ならあの時同行していればよかったと後悔し始めている。
ミアも一人で旅をしていた身だ。滅多な事はないと思うが―――

「……まあ、丁度いい機会か。『人の役に立つ学問』で『役学』だ。
 ここで実績を上げれば、来年の資金申請も多少は楽になるだろう。あの魔物のサンプルも取れれば尚の事いい」

メガネ野郎は何やら一人でハッスルし始めている。
どうやら見た目に反して―――いやむしろ見た目通りか、トラブルに首を突っ込まないではいられない性分のようだ。

「お前も手伝え。声から察するに機関室に誰かが向かったらしいが、今は一刻を争う」

おい、何か言い始めたぞコイツ。

「この騒動を収めるには僕が先頭車両に行く必要がある。が、僕一人でそれは面倒だ。
 お前は見たところ脳みそまで筋肉で出来ているようだし、この状況にはうってつけだろう」

176 名前:ギルバート ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2009/12/14(月) 01:26:02 0
ギルバートは雑誌を手に足を伸ばして長椅子に腰掛けたまま、窓にやっていた視線をゆっくりと戻す。
そしてにっこりと笑うと―――

「や ・ だ ・ ね」

―――一片の曇りもない笑顔に白い歯も添えてきっぱりと言い切った

「お前、脳が天気か?ここまでの話の流れで、何で俺がお前の言う事をホイホイ聞くって選択肢が出てくる?
 全くもってお断りだね。俺には俺の都合があって、お前の研究資金がどうなろうが知った事じゃねぇ」

言いつつぼきぼき指を鳴らしつつ立ち上がると、窓から軽く外を眺め―――直後、足を振り上げると耐魔ガラスを蹴破った。
丸めた雑誌で素早く破片を散らすと、にやりと含みのある笑みを浮かべ、アインの方に振り返る。

「・・・という訳で―――お前が俺に付き合え!!!」

素早くアインの襟を引っつかむと、勢いを付けて窓から飛び出す。
と同時に窓枠を掴んで大きく体を捻ると、直後に二人は列車の屋根の上に乗っていた。
それを見て、獅子と馬か何かをごちゃ混ぜにしたかのような醜悪な外見の魔物が咆哮し、屋根の上目掛けて飛びかかって来た。

「お呼びじゃねーんだよ!!」

軽く左肩を引くと、既に三つとも半回転し"爪"を外に向けた"フェンリア"が赤く光り、拳が軌跡を描いて一直線に迎え撃つ。
その一撃は飛びかかって来た魔物の右眼をえぐり飛ばし、破裂した眼球が血を撒き散らしつつ吹き飛ぶ。
殺すには至らなかったが、魔物は耳障りな悲鳴を上げると列車の反対側へ飛び過ぎ逃れた。

「機関室―――!」
「行きたきゃ上走って勝手に行け!大方お前よりは空気読める馬鹿がもう行ってるけどな!!」

びゅうびゅうと音を立てつつ吹き抜ける風を縫ってアインに叫び返すと、
ギルバートは客室を襲う魔物達と列車後部―――ミアが向かっていた方向―――に向かって屋根の上を駆け出した。


【列車の屋根の上、魔物を排除しつつ後部へ向かう】

177 名前:フィオナ ◆tPyzcD89bA [sage] 投稿日:2009/12/14(月) 02:48:21 0
わしわしと大きめのタオルで髪を拭きながらレクストの説明に耳を傾ける。
聖女様や神殿の同僚達から話は聞いており知識としてはあったがフィオナ自身は初の帝都である。
ましてや帝都の機構を日常的に利用している者の話ともなればその臨場感に何時しか髪を拭う手も止めて聞き入ってしまうフィオナであった。

レクストによる帝都案内も終了し、訪れるゆったりとした無言の時間。
ある者は喋り疲れた身を休め、ある者は先刻の騒動で散らかった荷物を整理する。
フィオナはというと窓の外へと視線を向け千切れ飛んで行く景色を眺めていた。
魔力制御により亜音速の領域まで到達する大陸横断鉄道では車窓の風景を楽しむということは出来ないがそれでもどこと無く楽しげだ。
そんな時間もふいに終わりを告げる。

フィオナを突然襲う焦燥感。
カードに興じていた時とは段違いな程強烈なものだ。
遅れて列車が急減速。つんのめりそうになるのを辛うじて踏みとどまる。

『申し訳御座いません、現在当車は魔物の襲撃を受けています。お客様の安全は出来る限り保証しますが……あっ、入ってきやがった!
 くそ!ぶち殺せ!ああ、術師は最優先で護れよ!武装警備員は?なにィ、乗せてないだとおおおお!!?――――ブツン』

音信間から流れた声を皮切りに列車のそこかしこから悲鳴があがる。
窓の外には翼を生やした魔物の群れ。
一際巨大な体躯の魔物が手下と思しき群れに指示を出しているのが見える。それなりの知能は備えているようだ。

『ちょっと機関室に行ってくる!戦える奴は他の乗客の安全確保と俺に助太刀を頼む!!』

「わかりました。客車の魔物を排除したらすぐ向かいます!」
応えながら長剣を剣帯に落とし盾に腕を通す。ガントレットやグリーブを付けている暇は無い。
ハスタは既に部屋を出ており先程まで同室に居たローズもいつの間にか姿を消していた。

『気をつけろ、そいつら多分耐魔ガラスも普通に蹴破ってくるz――』
自分も客車へと駆け出そうとしたその時、踵を返したレクストが忠告の声をあげる。

「えっ?わわっ!?」
そのレクストの声を遮るように魔物がガラスを突き破り客室へ踊り込んで来た。

178 名前:フィオナ ◆tPyzcD89bA [sage] 投稿日:2009/12/14(月) 02:52:55 0
ギャリイィッ!!
振るわれる鉤爪を盾で受け止めると耳障りな音が室内に響き渡る。

「こっちは大丈夫ですから先に行ってください!」

レクストに声をかけると同時、上体を捻り目の前の魔物の鼻先へと盾を叩き付ける。

「ふっ!」
体勢を崩したところへ追撃。
呼気と共に一歩踏み込み、盾を引き付けると上段で剣を両手で握る。
肩口から逆の脇腹へと一閃。その一太刀で魔物を絶命させる。

ヴァフティアの名工が鍛えた長剣を実戦で振るうのはこれが初めてだが実に見事な切れ味だ。
両断したというのに刃毀れ一つ無い。

「さすが"親方"。良い剣です。」
感慨深げに呟くとフィオナはレクストとは逆の方向へと駆け出した。


通路は逃げ惑う人々とそのために引き起こされる人口過密で恐慌状態に陥っていた。
助けを請い泣き叫ぶ者、その場にうずくまる者と状況をより悪化させていく。
通路の乗客をなんとかしないことには行き来もままならない。

「皆さんこちらに!この部屋に入ってください!」
フィオナは比較的広い無傷の客室を見つけると大声で叫ぶ。
その声に一縷の希望を見出したのか我先にと殺到してくる乗客たち。
動きを察したのか小型の魔物がその後を緩慢な動きで追ってくる。
急がずともこの獲物たちは無力なのだと理解しているのだろう。

「急いで!あー……やっぱりそれなりに慌てずお願いします!」
最後の一人を押し込むと聖印へと意識を集中させる。
掌を扉へと当て、イメージするのは柔らかく包み込む、それでいて堅固な"殻"。

「此処は主のおわす庭――」
魔物もようやく自分を恐れて逃げ惑わない者の存在に気づいたのかその歩みを次第に速め遂には走り出す。
彼我の距離はどんどん縮まり

「――邪なる者よ、汝立ち入るを許さず!」
"聖域"の奇跡を発現させると同時、一剣一足の間合いまで近寄ってきた魔物と交差するようにすれ違う。
襲ってくる焦燥感は敵の攻撃の軌跡を事前にフィオナへと伝えている。
それを掻い潜るようにすり抜け、魔物の腹部へと刃を滑らす。

「防衛術を施したのでこの部屋は大丈夫です。窮屈でしょうけど暫く我慢してください。」
二体目の魔物を屠るとフィオナは部屋の中の乗客たちへ声をかけた。

179 名前:ルキフェル ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2009/12/14(月) 18:11:00 0
―王宮付近 庭園:夜

>>170
音も無く――只、風を切るように男は現れた。
如何ばかりかの血の匂いを残したまま、男は膝を付き頭を下げた。

『遅くなって申し訳ございません。
 ベルンハルト・エリクション、今を持って貴殿の剣となります』

男、ベンハルト・エリクションの言葉にルキフェルは小さく頷くと
月を眺めながら呟いた。
「流石です、ベンハルト。組織の中でも最高の力を持つ貴方なら
難なくここまで来れるだろうと思っていましたよ。」

次に、ベンハルトは何を思ったのか自分の腹を引き裂いて見せた。
ルキフェルは興味深そうにそれを見つめ、舌なめずりをした。
「ほぅ……素晴らしい力です。驚きましたよ……正直ね。」
再生能力を高める外法。この異常な再生能力を引き起こしているのは恐らくは
それであろう。

『説明するよりは見た方が早いかと…これが、我が機能
 ひいては、その存在≠フ全て…』

ベンハルトの肩に手を置き小さく微笑むルキフェル。
「貴方がこの任務に成功したならばそれなりの位と、富を差し上げましょう。
無論……永久に繋がれてしまうであろう”鎖”すら断ち切る事も、可能です。」


『そこまでだ!ルキフェル!!』

鎧を身に纏った騎士達がルキフェルとベンハルトを包囲し現れた。
ルキフェルは笑みを崩さぬまま騎士達に応対する。
「どうかされましたか?こんな夜中に……」

騎士が鞘から剣を引き抜きルキフェルへと向ける。
『貴様が皇帝を唆し、この国を……!!反逆者め!』
一斉に斬りかかる騎士達。
その時、ルキフェルの顔が一変する。

「この私に刃向かうならば……分かっているだろうなぁ?」

180 名前:ルキフェル ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2009/12/14(月) 18:22:20 0
「貴方はここで見ていてください。”一瞬”で終わりますから。」

ルキフェルは1枚の銀貨を指で弾く。空に舞う銀貨。
それを見るベルンハルト。
次に、ベルンハルトが見た光景は騎士達が城壁の外へ投げ出され
四股が分断されている光景だった。
庭には血溜りや肉片が散乱していた。

ルキフェルの手を見ると、ようやく銀貨が手へと落ちている最中。
何が起こり、何が終わったのかすら説明しないまま
ルキフェルは指を鳴らし、黒服の兵士達を呼ぶ。

「……後始末を。あぁ、彼らは貴方の手足として使ってくださって
結構ですよ。貴方ほどではないですが、彼らも一流の力を持っている。
で、肝心の任務ですが……」

肉片を踏みつけながら数枚の書類をベルンハルトへ渡す。
そこには従士隊、騎士団、ハンターギルド、市民。
あらゆる名前が羅列されていた。
「ここにある名前は、反逆者のリストです。皇帝陛下を暗殺し、
国家転覆を企む輩……さっきの連中と同じです。
彼らを貴方の”やり方”で始末してください。」

その名前の中には、ヴァフティア事変で生き残った
数名の者もいる。
レクスト、フィオナ、ギルバート、ミア、そしてハスタ。
「彼らは必ず帝都へ来ます。貴方にも力を借りる事になるでしょう…
…期待していますよ。」

【ベルンハルトへ反逆者の始末を依頼。部下は好きに使っていただいていいです】


181 名前:アイン ◆mSiyXEjAgk [sage] 投稿日:2009/12/14(月) 21:38:10 0
>「や ・ だ ・ ね」

無駄に晴れやかな笑顔と共に拒絶を口にするギルバートに、アインは再び不機嫌を露にした。

>「お前、脳が天気か?ここまでの話の流れで、何で俺がお前の言う事をホイホイ聞くって選択肢が出てくる?
 全くもってお断りだね。俺には俺の都合があって、お前の研究資金がどうなろうが知った事じゃねぇ」

けれども彼のその表情も、長くは続かない。何故なら、

>「・・・という訳で―――お前が俺に付き合え!!!」

言葉と同時にギルバートの手がアインの襟を掴み、抗う暇もない身のこなしで彼の体を列車の上へと連れ去ってしまったからだ。
唐突に自身を殴りつける風圧に彼は体勢を崩し、慌てて四つん這いに身を倒して安定を図る。
恨みを込めた視線でギルバートを睨み付けると彼は既に、飛来した一匹の魔物を拳で退けていた。

「機関室―――!」

最早何の意味もないと諦めてはいるが、それでもアインは抗議の声を上げる。

>「行きたきゃ上走って勝手に行け!大方お前よりは空気読める馬鹿がもう行ってるけどな!!」

屋根に伏せる彼を見下すような形で、ギルバートが言葉を返した。
その状況が気に食わなくて、アインは更に表情を苦くする。

大体、そんな事はアインも重々承知なのだ。あれだけ大声で叫んでいれば、客室にいようが聞こえるに決まっている。
だがその空気の読める馬鹿では出来ない事をする為に、彼は先頭車両を目指したと言うのに。
ギルバートの勢いに任せた暴挙がアインの目論見を全て台無しにしてしまった。

「なんて粗暴な奴だ……! こんな効率の悪い……」

苛立ちと己の窮地に顔を顰めながらも、アインは風に飛ばされないよう屋根に伏せたまま、
これだけは手放すまいと掴んでいた鞄を開く。
魔法によって内容量を拡張された鞄の中には、ガラス製のフラスコ瓶がずらりと並んでいた。
アインはそれを両手に取ると親指で詮を飛ばし、列車の左右に放り投げた。

刺激臭を伴って、フラスコに湛えられた液体が列車と併走する魔物の群れの中に散布される。
魔物達は鼻を突く悪臭に顔を顰め――そして次の瞬間には、液体が持つ強い麻酔効果によって羽ばたく事をやめ、段々と失速して落ちていった。

車両の中から窓を見れば、魔物に塗り潰されていた景色が瞬く間に開く様が見られただろう。

182 名前:アイン ◆mSiyXEjAgk [sage] 投稿日:2009/12/14(月) 21:39:18 0
先の液体を先頭車両の窓から外へ放り投げれば、これよりも更に大きな成果が望めた筈なのだ。
その事を考えてアインは再度、既に先へ進んでいたギルバートに視線を向ける。
だが何故だか、ギルバートもまたアインの事を睥睨していた。
まるで「何を投げやがった」と言わんばかりに、鼻を押さえながら。

「……? どうした、そんな顔をして。確かに今投げた『酔いどれガマ』の吐瀉物は強い刺激臭がするが……。
 この風の中なら気にはならない筈だぞ? そんな事より、邪魔だ。お前の乗っている『そこ』に僕は用があるんだ」

何とか中腰で立ち上がると、アインはギルバートの傍にまで歩み寄る。
そして彼の足元にある蓋――本来は整備員が使用する為の出入り口に手を掛けた。
蓋を開けるとすぐに、何匹かの魔物と彼の視線が交錯する。
間髪入れず、アインはガマのゲロが入った瓶を魔物達の中心部に投げ込んだ。

騒ぎ立てる暇もなく魔物達は沈黙し、代わりに客車にいた乗客が天井の穴を見上げる。
その彼らに向かって、アインは言葉を発した。

「おいお前達、この瓶をくれてやる。もしまた魔物が入ってきたら引っ掛けてやるんだな」

言いながら、アインは鞄から取り出した瓶を何本か割れないように下へ落とす。

「お、おい待ってくれ! 俺達は魔術師じゃないんだ! こんな薬を渡されても困るぜ!」

けれども乗客達は焦りを浮かべた表情でアインにそう言い返した。
その言葉に彼は眉間に軽く皺を寄せ、目を細める。

「安心しろ、それは魔法薬とは違う。魔力も気も伴わない。神の奇跡に頼る事もない。
 女子供であろうが、誰だろうがその恩恵を受ける事が出来る、『役学』の結晶だ」

言い終えるとすぐに、アインは顔を引っ込めて再び先に進み始めた。

「……ん?」

しかしふと、後部車両の陰に人の姿が見えたように、アインは感じた。

「気のせい……か?」

もしも人がいたならばその人間は、自分が流した麻酔薬を吸入する事になる。
だが常識的に考えればこの状況下で――いや、この状況下でなくとも、走行中の列車の陰に人がいるなどある筈がない。
そう考えたアインは自分が見たものを錯覚だと結論付け、一旦止めた歩みを再び進め始めた。


【下の車両に救済策を与えつつギルバートに付いていく。後部車両の方向へ麻酔薬を散布】

183 名前:マダム・ヴェロニカ ◆iHSgBAJ.9BYi [sage] 投稿日:2009/12/14(月) 23:15:08 0
>162
機関室に辿り着いたレクストが目にしたものは、有翼の怪物に首を締め上げられる術者だった。
更にその背後に二体の有翼の怪物の姿が見える。
レクストの存在に気付いた有翼の怪物が威嚇の吠え声を上げる。
吠え声にビリビリと震える機関室の空気を縫うように、柔らかな声がレクストに掛けられる。
「坊や、そんなに大きなモノをここで振るつもりなの?」
声と同時にレクストをすり抜けるように吹き抜けていく大量のシャボン玉。
そして、突然天地逆転した女の顔がレクストの視界を塞ぐ。
「若いうちは判らないだろうけど、大きければいいというものじゃないのよ。」
にっこりと微笑み女の顔は遠ざかっていく。

離れていって判るだろう。
30歳くらいの女が機関室の添乗ギリギリの高さで天地逆にして跳躍していたのだ。
跳躍といっても殆どスピードが感じられず、まるで宙を舞っているかのように。
その姿は要所要所のみに布を巻いただけで、翻る布端はまるで羽衣のようだった。
艶やかな肌と熟れた身体は緊迫した場面だというのに濃厚な色香を感じずにはいられない。

大量のシャボン玉が有翼の怪物たちを包むと同時に女も着地する。
着地の勢いを借り、手に持った棍棒で術者を締め上げていた怪物の頭に一撃。
さして強そうな一撃には見えなかったが、グシャリという嫌な音と共に怪物の頭は簡単に潰れてしまった。
が・・・潰れたという表現は間違いだと少し見ればわかるだろう。
正確には崩れた、というべきか。
充満する匂い、焼け爛れた怪物たちの身体。
それは先ほどのシャボン玉が強力な酸で作られており、どう操作したかレクストや術者、周辺器具を溶かさず怪物だけに当たったのだった。
最も酸のシャボン玉が集中した術者を締め上げていた怪物は殆ど溶かされていたのだ。

突然の乱入者の攻撃に怒り狂い一撃を繰り出す怪物。
女の背後には半ば解けた怪物と解放されたばかりで動けない術者。
「本当に馬鹿よね。こんなところに入り込むから、折角の翼も役に立たない。
適材適所というものを解さないケダモノは哀れでしかないわ。」
繰り出される怪物の爪に対し、女は棍棒を一振りするとそれは広がり、鉄扇である事をあらわにする。
広がった面で爪を受け・・・いや、繰り出される爪に併せた。
そのまま流れるような体捌きで怪物の爪は逸れていき、そのまま怪物の身体も振られていく。
怪物の力を利用して引き込むようにボディーコントロールを奪っているのだ。

そのまま体制を崩し機関室中央によろけ、もう一体の有翼の怪物にぶつかってしまう。
突然仲間が吹き飛んできたようなもので、有翼の怪物が起き上がり状況を把握するまでに数秒を要する事になる。
そしてその数秒は女にとって十分すぎる時間だった。

「閉じては棍、開いては盾、そのまま振るえば刃となす。
さあ、残るはあんただけだけど・・・楽しませてくれるの?」
起き上がった有翼の怪物を睥睨する女。
その手に握られた鉄扇には怪物の首が乗っている。
自分の顔の倍以上はあろうかという怪物の首を引き寄せ、その口から流れる血を舐めるように口づけをし怪しく笑う女。
その姿はあまりにも暴虐で冷酷。そしてどこまでも妖艶であった。

微笑みかけられた怪物はビクリと身体を震わすと床をかきむしるように逃げ出した。
行く手にはレクスト。
恐怖に駆られた有翼の怪物は奇声を上げながら爪を振り回す!

184 名前:マダム・ヴェロニカ ◆iHSgBAJ.9BYi [sage] 投稿日:2009/12/14(月) 23:16:14 0
>168
>「……大変興味深い話を有難う。もう、いいぞ」
その言葉に自分への功績の確認や、名残惜しそうな言葉などを並べ立てる三人のメイドたち。
ジースの心情も知らずにアピールは続く。
そんなやり取りの中、ジースが本棚を蹴り倒したのは格好の餌でしかない。
散乱した本など見向きもせずにジースの足を気遣うのだ。
しかし当のジースはそんな勢いに押されたように片づけを指示して逃げるように飛び出した。
流石にそれ以上追う事も出来ず、部屋に取り残された三人。

誰もいなくなった後、部屋に充満していたピンクの粒子に取って代わり険悪な雰囲気が立ち込める。
「エボン、あんた情報出しすぎなんじゃない?」
ギロリと睨むチタン。
それに同調するフランソワ。
「折角噂話のレベルで抑えていたのにネー。」
二人に責められエボンの眉間にしわがよる。
それから暫く口喧嘩をしながら本を片付け終わり、三人はそれぞれ館内各所へと散っていった。


「どう、いた?」
「駄目ね、聖室だと思ったんだけど・・・」
「自室で服が・・・」
「仕方がないわね。フランソワ、あれを起動させて。」
広大な敷地面積を誇るメニアーチャ家では人一人探すのも容易ではない。
三人が館内にジースがいないと気付くのに暫しの時間がかかるほどに。
脱がれたジースの衣服を元に戻し、エボン、チタン、フランソワの姿が部屋から消えた。

185 名前:名無しになりきれ[age] 投稿日:2009/12/15(火) 11:36:40 O
あげ

186 名前:◆XGx4p7gaAY [sage] 投稿日:2009/12/15(火) 20:50:41 O
やあ

187 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/12/16(水) 03:29:43 0
客室へ乗り込んできた魔物をフィオナが迎撃する。加勢に入ろうとしたレクストを彼女は鋭く制した。

「こっちは大丈夫ですから先に行ってください!」

「おお。――任せたぜ!」

逡巡は必要ない。躊躇いも必要ない。そこにあるのは信頼であり、何にも変えがたい信用。
彼女がそう言った以上、ここはもう大丈夫。留まり続ける理由はない。だからレクストは踵を返した。
駆け出す。駆け抜ける。

耐魔ガラスを破られたことにより作動した警鐘が火急を知らせる客車内を行く。ガラスの破片を踏み砕き、連結用の段差を飛び越える。
レクスト達の車両は前方、機関室のすぐ近くだった。関係者以外立ち入り禁止の立て札を蹴り飛ばし、ドアを破る。
機関室は喧騒の真っ只中だった。中央に据えられた紫電奔る巨大なオーブ、その傍に術者席、根のように伸びる給魔管、運行状況表示枠。

「やべぇってやべぇって!何なのこいつらマジなんなの!早く死ねよ畜生!」

術師が締め上げられていた。有翼の魔物がその豪腕で術師を壁に貼り付けにし、締められた術師は苦しそうにえずく。
その周りでは非戦闘系の乗務員達が整備用の金槌や金テコで魔物に抗戦していた。善戦してはいるが、如何せん膠着状態を抜けはしない。

「よっしゃぁアンタらよく持ちこたえたぜ!従士の俺が駆けつけたからにはもう安心、存分にその辺にのびてていいぞ!!」

魔物の注意を惹きつけるために胴間声で宣言する。目論見通り有翼の異形達は一斉にこちらを振り向いた。
対するレクストも応じるように得物を構える為、背中のバイアネットへ手をかけた瞬間。隣から穏やかな声が聴こえてきた。

「坊や、そんなに大きなモノをここで振るつもりなの?」

同時に視界いっぱいに泡――シャボン玉が展開。歪んだ景色の向こう側には何故か天井からぶら下がった半裸の女がいた。
シャボンの屈折によってそう見えただけかもしれない。あるいは本当に天地を逆転してそこにいたのかもしれない。
とにかく現状で理解できることは、その女がふわりと飛ぶように宙を闊歩していたことと、彼女が途轍もない美貌の持ち主だったこと。

「若いうちは判らないだろうけど、大きければいいというものじゃないのよ。」

「な、何の話だぁぁぁぁ!?」

女の妖艶な仕草、露出の高い服と相まって、それはなんだかとんでもない下ネタに聞こえるのだった。
さておき。女は宙を行く。舞うようなそれはまさに羽毛がごとき挙動で有翼種へと肉迫する。
手に握った棒状の何かを一閃。先んじてシャボン玉に包まれていた魔物の頭部はあっけないほどに滅び去った。

(あのシャボン……只物じゃねえな。酸かなんかか……?)

「本当に馬鹿よね。こんなところに入り込むから、折角の翼も役に立たない。適材適所というものを解さないケダモノは哀れでしかないわ」

そのまま二体目の魔物へと接近。凶器となった棒の正体は鉄扇。まるで手をとり共に舞うように魔物の挙動を誘導している。
そして、エスコートされた魔物の首がいつのまにか消失していた。見れば女の鉄扇の上に鎮座している。
まるで赤子の手を捻るかの如き所業。数の不利をまるで意に介していない。むしろ状況を巧みに利用した、老練の戦い方。

「閉じては棍、開いては盾、そのまま振るえば刃となす。さあ、残るはあんただけだけど・・・楽しませてくれるの?」

「か、格好いいいいいいい……!!!」

レクストの心に強く芽生えたのは羨望だった。従士隊の中にあって突出した才能を持たないレクストにとって、強いということは
それだけで憧れの対象になる。それがまして、自己の不利を無理なく利に変換するような技巧の持ち主なれば、なおのこと。

残る魔物は一体。恐ろしいことにこの女は機関室に乗り込んできた三体のうり二体を一瞬で片付けてしまったのだ。
好戦的な性格のレクストでさえ一人で立ち回るのは忌避する状況である。加勢がくるまでの時間を稼ぐつもりだったのだ。

「負けらんねえな」

負けられない。唐突に沸き起こった克己心に突き動かされるがまま、レクストは対峙する。
女から逃げるようにこちらへ襲い掛かってきた最後の有翼種を、全身全霊でもって迎え撃つ。

188 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/12/16(水) 03:31:32 0
最後の魔物が肉迫する。対するレクストは武装を棄てた。
バイアネットを背に戻し、黒刃を床に放り投げる。封印布に包まれた刀身が床で音を上げるころには、
魔物の爪はレクストの頭部を穿たんと打ち下ろされる最中だった。このままでは一瞬のちに彼の頭は砕け散るだろう。

「――なるほど、こんな狭っくるしいとこじゃあ俺の武装は使えねえ。道理だな。だから使えねえなりに工夫するぜ」

果たして攻撃は成立しなかった。レクストは振り下ろされる爪をその懐に踏み出すことで回避し、その豪腕を腕部装甲で受け流す。
鉄扇の女がそうしたように、それを再現するにはあまりに不器用ながら。身体全体を使って降り抜かれた腕を上手く逸らす。
爪は床に突き刺さり、刹那ながらも確実な隙が発生した。無論、レクストはそれを見逃さない。

「行くぜ新必殺――『噴射』ァ!!」

右足のブーツに刻んだ術式から推進力が迸る。爪先から噴射されたそれは左脚を軸にした回転の動きを彼に生み出す。
独楽のような一回転。十分な加速を得た踵を――回転の勢いそのままに魔物の顎部へとぶち込んだ。
『噴射』の威力を上乗せされた神速の後ろ回し蹴り。何か硬いものが砕ける快音が響き、魔物が吹っ飛んだ。

あまりの速さに目が回る。だが手応えは十二分にあった。ふらつく視界をどうにか押さえ込んで前を見れば、
機関室の端まで吹っ飛んだ魔物が倒れている。首の骨を砕かれ、完全に頭部がひしゃげていた。絶命している。

これで目下の敵は消えた。つかの間の静謐が室内を満たし、減速した列車が風を切る音だけが聞こえてくる。
機関室の制圧は無事完了した。


「――誰だか知らねえけど助かったぜ!俺はレクスト、帝都で従士やってる!」

共闘した謎の半裸美女に慇懃に礼を言う。自己紹介もそこそこに、レクストは現況を把握するために外を見た。
首領らしき巨大な魔物に掴まれて、人なにやら喚きながらが列車に叩きつけられていた。
よくわかんないけど、そんな光景だった。

「――ってやっべぇ!民間人が襲われてるじゃねえか!機関士、この列車の搭載武装は!?」

いち早く現実に立ち戻ったレクストが怒号を飛ばす。機関士は慌てて制御術式表示枠に指を走らせた。
羊皮紙型の表示枠に術式光が奔り、車体情報が列挙されていく。<武装>の項にはいくつかの項目があった。


【機関室の制圧完了。レクストは今だ機関室】


【大陸横断鉄道:搭載武装】
列車には外敵迎撃用の武装が搭載されています。リミッターを解除したので武装の傍にいる人ならばだれでも使用できます。

◇主砲 《機関部》
機関室に搭載された可動式魔導砲。バイアネットの10倍ぐらい威力がある。
列車の周囲ならばどこにでも狙いをつけることが可能。敵の群れや敵ボスに大ダメージを与ええられます

◇副砲 《客車》
客車の窓際に設置された小砲。バイアネットの3倍ぐらいの威力。
連射が効くが客車の周りの敵にしか狙いをつけれない。

◇障壁術式 《全車》
起動すると周囲に魔導バリアを展開します。
結構融通が利き、敵の攻撃を防いだり、柔らかくして緩衝にしたり中に敵を閉じ込めたりできます

◇起爆オーブ 《全車》
投げると自動的に索敵し接触した瞬間に爆発します。
威力もあることながら、牽制や目くらましにも使えます


列車内の敵を殲滅してしまって暇な人や、列車外の敵と戦闘中の人に、手慰み程度にお使い下さい


189 名前:ミア ◆JJ6qDFyzCY [sage] 投稿日:2009/12/16(水) 21:17:49 0
ミアは割れた窓硝子に遮光布を当て、走行中の暴風の中に上半身を目一杯乗り出し、固唾を飲んでジェイドと飛竜の戦いを見守っていた。
目が乾く。呼吸が止まる。耳元ではまるで爆撃だ。露出した肌が痛い。
それでも、前方車両の様子からは片時も目をはなさない。

――それは突然に起こった。

鼻から脳天までを猛烈な刺激が刺し貫き、呼吸を忘れた。
臭くは、無い。そんなぬるいモノではないのだ。あえて表現するなら“痛い”。
(何? 毒? 前の方から攻撃が? そんな様子は無かったのに……。
ジェイドは……いいわ、そんなことより一旦引かないと)

――ここまで考えたところで、ふと生命維持上重大な事実に気がついた。

地面が、鼻先にある。

「────!!」
いつの間にか彼女の体は窓枠から離れて宙へ放り出されかけていた。
滅茶苦茶に左手を伸ばす。何もない。落ちる。
──いや、垂れ下がったカーテンの一端が触れた。
鷲掴みにしてがむしゃらに引くと、近づき続ける地面と顔面の距離が急停止。
その勢いで転がり込むように体を引き戻すやいなや、彼女は息を吐き、窓枠にもたれて車内に崩れ落ちた。

今更ながら気がつく。
秒カウントごとに痺れていく体。焦点を失い始めた視界。自覚もなく途切れ始めた意識。
それらは覚えのある感覚だ。七年前に“奴ら”の場所で何度も、泣き叫ぶ声がうるさいからと。
(麻酔……!)
状況は最悪だった。
まず、ジェイドもまた麻酔の効果で眠り込んでいる場合、飛竜の餌食である。
そして免れたとしても、ミアが気絶した瞬間に“飛翔”が切れる。墜落だ。
既にミアの頭は窓枠の上に落ち、残された時間はおそらく数秒程度だろう。
もう何もできない。ジェイドは死ぬ――。



(……まだ、よ)
鉛のような指先を動かす。鈍った感覚でも、その堅く尖った透明な存在は感知できた。
割れた硝子の破片──ミアは、左手のそれを力一杯握り込んだ。
遮光布にじわじわと薔薇のような模様が広がっていく。
痛くはなかった。ただ、少しひりひりとして暖かい気がした。
それでいい。それだけで、もう少しこの場の自分を見失わずにすむ。

「……“音撃”」
窓から飛び出した若葉色の光球は、上空で組み合う青年の元へ向かっていった。


【※ “音撃”
対象の耳元に飛来して炸裂、指向性の大破裂音を発するが、物理的ダメージは皆無。
実は痴漢撃退の際に使いかけたアレ。

◇状況 
・魔法でジェイドを起こそうとする。
・麻酔で意識を朦朧とさせるが、痛みで気絶までの時間を延ばそうとしている。
・このままなら気絶まで約40秒(あくまで目安)

>ジェイド
・術者の異常のため、制御が不安定になった“飛翔”はその飛行軌道を乱れさせ始める。
・墜落まで約40秒(あくまで目安)】

190 名前:ジェイド=アレリィ ◆EnCAWNbK2Q [sage] 投稿日:2009/12/16(水) 22:14:36 0
>>189
(このままじゃ……死ぬなぁ。やべ……カッコ付け過ぎたわ)

何度も列車にぶつけられ既に鎧は傷付き、各所に肌が露出している。
ついでに意識までなにやら遠くなりそうだ。
(ごめんよ、姉ちゃん。父ちゃん、母ちゃん…ワンちゃん。
先に逝ってるわ。)

――ジェイド!!また虐められたの!?

「だってぇ……私は悪くないもん」

――人と違っててもいいじゃない。もっと自分に自信を持ちなさい。
……さぁ、泣かないで。

(ダメだ。まだ……俺はもっと強くなりたい。負けられるかよ!!)
ジェイドの意識が遠のく寸前、何を思ったのか懐から水を取り出し――
自らの体にかけた。

意識を失い、地面へと落ちていく。
その時、破裂音がジェイドの意識を闇から引きずり出しその瞼を開かせた!
”逆噴射!!”
義手から火柱が上がりジェイドの体を宙へ浮かせた。
「さっきは散々やってくれたじゃないの……倍返しだ!!」
その勢いのまま巨大な魔物を殴り倒した。
泡を喰らい落下していく怪物。しかし致命傷にはなっていそうもない。
ジェイドは体を反転させ列車の窓を突き破り間一髪で生還した。

>>178
「ふぅ……危なかったぁ。」
客車の前では何か懐かしい感じのする女性戦士の背中が見える。
「あれは……いや、気のせいだよな。」
何か思うところがあるが、ジェイドは共に戦った少女のことを思い出し
列車の奥へと向う。

「しかしヤバイなぁ。また変わっちまったよ。…どうしよ。」
列車に戻ったジェイドの体には異変が起こっていた。
体型が小さくなり、明らかに鎧のサイズがブカブカだ。
ジェイドは溜息を吐くなり、構わず貨物室を目指した。

【巨大な怪物を一時的に撃退。ミアを助ける為に貨物室へ】

191 名前:ジェイド=アレリィ ◆EnCAWNbK2Q [sage] 投稿日:2009/12/16(水) 22:18:33 0
名前: ジェイド=アレリィ (変化後)
年齢: 20歳
性別:女
種族: 人間
体型: 身長170cm、細身

水などに反応し変化してしまう特殊体質によりジェイドが変化した姿。
半日〜1日ほどで元に戻る。
本来は女性であるか男性であるのか両親にさえ分かっていない。
ベースが男の為、弟という事で家族の間では認知されてきた。
ちなみに戦闘力は意外に女性時の方が高い。

192 名前:マダム・ヴェロニカ ◆iHSgBAJ.9BYi [sage] 投稿日:2009/12/16(水) 22:57:47 0
>188
逃げる有翼の怪物。
行く先に立つレクストが武装を解除した時、女は鉄扇を振りかざしていた。
そのまま投げれば鉄扇は円刃と化して飛来し、有翼の怪物を真っ二つにしたであろう。
だがその手が振り下ろされる事はなかった。
振り上げたまま女の顔は歓喜に歪む。
有翼の怪物の爪をその懐に踏み出す事で回避し、腕部装甲で受け流すレクストの姿を見つめて。

その後は最早見るまでもなかった。
ブーツに仕込んだ術式が発動し、有翼の怪物の頭部が砕けて吹き飛ぶまでも刹那の時間。
女は扇子を閉じて微笑んでいた。

自己紹介もそこそこに列車外の状況を把握し、武装情報を引き出していく。
そんなレクストの懐にいつの間にか女は入り込んでいた。
瞬間移動や超スピードといった類のものではない。
意識の外、虚を突いた移動でレクストに気づかせる事なく懐に入り込んだのだ。

身体を寄せ、胸板に潰され豊満な乳房が変形して密着する。
そのままレクストの首筋に唇を這わせた。
直後、甘美な痛みが与えられる。
その間数秒。
唇がゆっくりと離れた首筋にはジワリと血が浮き出ている。
その血を優しく舐め取ると、その首筋には鮮やかなキスマークが残った。
「うふふ。流石・・・ね。そうではなくでは・・・。
坊や、あなたには期待しているわ。」
熱い吐息とともに囁きを耳元に吹きかけ、女はレクストから離れた。

甘いミルクの香りと妖艶な微笑を残し、いつの間にか機関室からその姿を消していた。
結局名も告げぬままに・・・

193 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/17(木) 08:22:51 O
>>191
は?
そういうのはいらねーから

194 名前:ジース ◆vKA2q6Alzs [sage] 投稿日:2009/12/17(木) 11:19:42 O
約束の時刻には間に合わなかった。
約束の場所には約束の人は既に居らず、
約束は約束のまま果たされずに終わった。

遅刻したのはこちらのミスだ、向こうには何の落ち度もないことは分かっているし。
少しの遅れすら待ってくれないほど、多忙を極めている相手であることも知っている。
(次会ったときに、謝ろう)
果たして許してくれるだろうか、罵詈雑言を浴びせられる光景しか想像出来ない。
少し陰鬱な気分になりながら、その場を後にして。
帰り道を歩く……と思いきや、その足が向かう方角は別だった。

当主の座もお飾りのようなものだ、すぐに邸宅に戻ったからといってすべきことがあるわけでもない。
とはいえ何も言わずに消えたのだ、探してはいるだろう。偶には慌てさせるのも一興だ。
貴族服を着ず、護身用の武器も帯びずに外出するなど今となってはそう出来るものでもない、気分転換になる。
ここは貴族とまではいかずともわりと上流階級、富裕層が住む地域だから治安は特に気にする必要はない。
ジースの姿も見事にその地に溶け込み、誰もそれを見てあのメニアーチャの当主だと思う人はいまい。
特に行く宛もなく。右へ左へ、西へ東へ。

生まれた頃には既に父は貴族の地位を買い上げていたから、今まで貴族として生きてきた。
だから貴族の模範であろうとした。姉が眠ったままになってからは、ますますその気持ちは強くなっていた。
半ば無理をして貴族面してきたところは多々ある。
久々に、素になれる。

たとえば、肩がぶつかって。
「気をつけろや!」
と、怒鳴りつけられて。
「あ、はい、ごめんなさい」
すぐに謝る態度に、貴族然とした見下したような口調はなく。
貴族というペルソナを外した、それは臆病で繊細で矮小なごく普通の少年。

何気なく街の時計を見上げると、そこには当然ながら今の時間が正確に刻まれている。
もうすぐ――とは言ってもまだ時間はあるが――朝一番にメトロサウスを出た鉄道が到着する筈だ。
夜中運べなかった分まで運ぶからか、朝一鉄道の積み荷は面白いものが多い。
それを見に行くだけでも価値はあるし――それに、恐らくヴァフティア方面から来ている輩もいるはずだ。
あの噂話が本当なのか、はたまた大本営発表にて何ら間違いはないのか。聞けば、それですぐわかる。
やはり、当事者から自分の耳で聞くのが何よりも答えになる。
この知的好奇心を満足させようと、足は自然に帝都駅へと向かっていた。

今のように解放されたような気持ちの時は、不思議とSPINを使う気持ちにはなれない。
自分の足で。踏みしめるように。

195 名前:ギルバート ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2009/12/18(金) 01:51:51 0

「てんめぇぇぇぇ何撒きやがったぁぁぁぁ!!!!」

鼻をつまみ、悶えんばかりになりながらアインを睨みつける。
何かこんな状況ついさっきもあった気がする。
凄まじい刺激臭が鼻腔を貫き、涙で視界が滲んだ。

「……? どうした、そんな顔をして。確かに今投げた『酔いどれガマ』の吐瀉物は強い刺激臭がするが……。」
「ゲロか。ゲロなのか。そうですかクソッ!やっぱ俺お前の事嫌いだわ」

忌々しそうに吐き捨ててアインに場所を譲り、心持ち前かがみになって波が引くのを待っていた時、それは来た。
最初に感じたのは、気配。ついで僅かに変わる空気の流れを感じ、
そこへ勘を混ぜて咄嗟に体を捻った次の瞬間、それまで立っていた場所を魔物の巨体が飛び過ぎた。

「てめぇ・・・!!」

さっき片眼を抉られた魔物だ。怒りに燃える隻眼をひたとギルバートに向け、再度飛びかかってくる。
まだ霞みが抜け切らない眼を凝らし、振るわれた爪をギリギリでくぐるとすかさず顎にカウンターの右を叩き込む。
が、またも拳は中心を外れ、僅かに顎を傷つけた程度に終わった。

「こいつの体―――!?」

こいつは他のザコとは何かが違う。先程の一発も、本来ならば脳天ド真ん中に叩き込んでいた筈なのだ。
それが何故か当たった瞬間中心を外れ、代わりに眼を吹き飛ばすに至った。
例えるならば―――何重にも何重にも重ねた、きめ細かい絹で出来た壁。
受けた衝撃を受け流し、拡散し、方向をずらしてしまう。拳では相性が悪い。ならば―――

再び牙を剥いて飛びかかってくる魔物の一撃を両腕でブロックする。
さらに体を半回転させ、素早く右腕を振り上げると、魔物は拳のカウンターを予感したのか素早く飛び下がった。
しかし数m離れた所で、それを赤く輝く魔力線が阻む。"ステッペル"。ガードした時に獣の脚に仕込んでおいたのだ。
ガクンと魔物の体が静止し、"ステッペル"を引き千切ろうとギリギリと力を込める。
一瞬、一人と一匹は距離を開けたまま列車の上で睨み合った。この距離では拳も届かない。

が―――
次の瞬間、獣の頭がぼろりと落ちた。半ば以上まで切断された首から血がどっと流れ出、小さな川を作る。
ゆっくりと立ち上がったギルバートの左手には"コカトリス"が握られていた。
いかに衝撃を散らす皮膚と言えど、一点に圧力を集中し切り裂く刃物を弾く事はできない。
流石にシモンの様に自由に操ることは出来ないが、基本的な扱い方は"ステッペル"と同じだ。

「おい、メガネ。サンプルでも何でも好きにしな」

びくりと痙攣する魔物の死体を軽く蹴ると、アインに向けて言葉を投げる。
二つ三つ続けてくしゃみをすると、後方の車両に眼を向ける。二つ先は貨物車だ。
ミアのやつ、どこまで行ったんだ?


【客車の魔物は大体排除?残るは貨物車のみ】

196 名前:フィオナ ◆tPyzcD89bA [sage] 投稿日:2009/12/18(金) 02:32:59 0
「後は……機関室まで一直線。と行かせて貰いましょうか。」
手に持つ剣をひゅんっと一振り。
付着した魔物の血を飛ばし機関室へと続く道のりを見据える。
周囲へ気を配りつつ一歩。
目的地へと踏み出したその時

ガシャーン!!

後方からガラスの割れる音が鳴り響く。

「ひゃん!?」
踏み込んだそのままに前方へ大きく跳躍。転がるように遮蔽へと身を隠す。
思わずあげてしまった声を誰かに聞かれては居ないかときょろきょろと見回し、次いで背後を伺う。
新手の魔物かと思ったが見えるのは貨物室へと駆けて行く人影のみ。
遠目なのではっきりとした性別までは判らないが長身痩躯にやや丈の合ってない服を絡ませ、揺れる髪はフィオナと同色。
僅か。ほんの僅かではあるが在りし日の思い出が鮮明に蘇る。

「ジェイド!!また虐められたの!?」

『だってぇ……私は悪くないもん』

「人と違っててもいいじゃない。もっと自分に自信を持ちなさい。……さぁ、泣かないで。」
幼い自分と全身余す事無くずぶ濡れにしわんわんと泣き続ける"妹"。

「ふふっ……あの後ジェイドを虐めた犯人を捕まえてこてんぱんにしましたっけ……。」
水を被ると男から女へと変わってしまう特異体質のせいで小さい頃は虐められっ子だった"弟"。
それが今や従士隊の伝説のエースだとレクストは言っていた。いや元だったか。

「今頃何処で何してるんでしょうか……。――おっとと、機関室に急がないと。」
今は昔の思い出に浸っている時ではない。
フィオナは気合を入れなおすと機関室へと駆け出す。
現在位置は客車のほぼ終端。貨物室まで目と鼻の距離まで来ている。
機関室は当然ながら真逆。
結構な距離を移動する必要があった。

通用路に散らばる魔物の死体を踏み越え、まだ生きている魔物は斬り捨てながら機関室へとひた走る。
窓の外には襲撃直後に確認した巨躯の魔物が追走するように羽ばたいている。

「あれを何とか撃墜しないと……。」
とは言え相手は十全な状態の列車に攻撃を仕掛けられる程の飛行能力を有している。
現在は列車が減速しているから悠々と滑空しているようだが本来の速度はかなりの領域に達するのだろう。
先ずはその速度を封じないことにはまともに狙って当てられるものでは無さそうだ。
翼に傷をつけることが出来ればあるいは――

「――っと、終点ですね。」
走りながら思案していると前方に何処と無く立て付けの悪そうな――というか辛うじて引っかかっている程度の――機関室の扉が見えてくる。
開けるのももどかしくフィオナは勢いそのままに扉へと突撃。
本日二度目の攻撃を受けて完全に粉砕されたその先には甘ったるい残り香と、全ての武装を床に落としたレクストが妙に惚けた様子で立っていた。

197 名前:フィオナ ◆tPyzcD89bA [sage] 投稿日:2009/12/18(金) 02:45:05 0
「あのー……レクストさん?」
恐る恐るといった感じでフィオナは声をかける。
もう一度――反応なし。
機関室に散らばる三体の魔物の屍骸から敵にやられたという訳では無さそうだ。
唯々心此処に在らず、といった感じである。

「う、うーん……仕方ない。レクストさんっ!!レクストさ……ん?」
両肩を掴んでがくがくと揺すぶる。
レクストもさすがに気がついたようでフィオナへと眼を向ける。
しかしフィオナはそんなことより気になるものを見つけてしまった。
揺すった折、ちらりとレクストの首筋に見えた赤い痣。
機関室に微かに残る甘い香水の匂いと首筋についた小さな痣。
この二つによってまさしく天啓のように――あるいは女の勘というやつだろうか――導き出される答え。

「ああ、気がついて良かったレクストさん。」
とても、とても穏やかな笑みを浮かべて続けるフィオナ。

「気がついたところでお聞きしたいんですが。
私達が駆けずり回っている間、此処でどんな素敵な人と逢引していたんですか?」
その笑顔は今までレクストが見たどれよりも柔和だった。


何事か説明するレクストを完全に黙殺しながら失神している機関士達を治療していく。
痕跡から察するにどうやら魔物に締め落とされたらしい。
肩に手を、背中に膝を当て一人一人覚醒させていく。
意識が戻るのを確認した後、傷を負っている者へ"治癒"を施す。
この方が自身の持つ自然治癒力と併せてより高い回復が期待できるためである。

「まあ、詳しい言い訳は後で聞くとして。」
フィオナはレクストへと向きなおる。

「今は上に居る敵のリーダーを何とかしましょう。」
そう言うとさっさと機関室の外、連結部から列車の屋根上へと伸びる梯子を昇っていく。
轟々と吹き付ける風に千々に乱される髪もそのままに屋根へと立つ。

「……あれ?」
颯爽と現れたフィオナの視線の先には巨躯の魔物を倒し面倒くさそうに立っているギルバートと、とても嬉しそうにその魔物を採取する見知らぬ白衣の男だった。

198 名前:フィオナ ◆tPyzcD89bA [sage] 投稿日:2009/12/18(金) 22:21:40 0
機関室で拝借してきた遠眼鏡から眼を離し呟く。

「あらら、もう倒されてましたか。」
数輌先に立つ二人の姿は肉眼では服の色位でしか判別出来ない程に小さいが、それ故にその傍らに横たわる魔物の巨大さが際立つ。
(これで取りあえずは一安し……ん?)
ふと感じる違和感。
自分が見たのはあの程度の大きさしかなかっただろうか。
大きく突き出していた頭部の形も違う様な気がする。

フィオナが再確認しようとしたその時、ぞくりと首筋を走る焦燥感。
その正体を探るべく辺りを見回すが直ぐにその答えにたどり着く。

自分の足元が陰っているのだ。
なんの遮蔽も無いこの屋上で。

「上ですかっ!?」
咄嗟に前方へと飛び込む。
入れ違いに振り下ろされる鉤爪。
攻撃の失敗を悟ると飛竜は大きく羽ばたき再度上空へと駆け上がる。
竜種の中では弱い部類に入る飛竜だが戦場が圧倒的に不利だ。
相手は風を掴み自在に空を泳ぐのに対し此方は列車の上。
搭載されている魔導砲を用いれば撃墜も可能かもしれないがそれには敵の速度が問題だろう。

("正面"からの攻撃は回避される……なら"真上"から)
プランは決まった。
飛竜を見据えながらレクストへと声をかける。

「全部は無理でしょうけど敵の翼を奪います!」
飛竜は列車との距離を取り滑空。次の攻撃のタイミングを図っているのだろうか。

「至高なる天空より大地を睨むルグスよ――」
どんな些細な動きも見逃すまいと飛竜を睨みながら聖句を唱える。
狙いは翼の皮膜。

「――偉大なるその力を持ちて邪悪なる者に光の裁きを!」
遥か空より放たれる一条の光。
太陽光を一点へと集め目標を灼く"白光"の奇跡。
使用条件が限定されるもののフィオナが使うことの出来る唯一の長距離攻撃手段だ。

灼熱の光は狙い違わず片翼を穿ち、燃え上がらせる。
飛行能力を削がれた飛竜はその速度を大きく落とし、失った揚力を得ようと必死に羽ばたいていた。

199 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/19(土) 05:00:10 0
>「おい、メガネ。サンプルでも何でも好きにしな」

首から上を無くした魔物を蹴りながら、ギルバートはそう吐き捨てる。

「……ありがたい事だが、こいつらの飛行は魔力に寄るものだろうな。両翼の模様がそれぞれ高速移動と自在飛行の魔法陣の代わりを担っているんだろう。
 だが……こいつの外皮構造は興味深い。あの筋肉馬鹿の拳をいなす程の緩衝機能、役学に取り込まない手はないな」

前半は不満げに、しかし後半は嬉々とした様子でアインは呟いた。
そうして鞄のダイヤルを弄り再び鞄を開く。
魔法によって幾つもの空間を内包している鞄は、アインよりも遥かに大きな魔物の死体を容易に収納してしまった。

思いがけない収穫に口角を吊り上げていると不意に、彼の頭上でガラスに刃を擦りつけたような悲鳴が上がった。
見上げてみれば、一筋の白い光条が天地を繋いでいる。
その間には魔物達のリーダーと思しい巨体の片翼があった。

灼熱を帯びた白光は魔物の翼を刺し貫き、炎上させる。
けれども、

「奴らの飛行能力は魔力と紋様から来ている。片翼を残していれば飛ぶ事は可能だろう。
 今体勢を崩しているのも、大方痛みによる一過性のものに過ぎない筈だ」

そこまで言うとアインは一度言葉を切り、眼鏡の位置を指で直した。
その仕草を切欠にして、眼鏡に掛けられた術式の一つ――望遠機能が発動する。
レンズを介して彼の目に、神官服と鎧を身に纏った女性の姿が映った。

「なるほど、アレはさながら裁きの雷とでも言ったところか。ならばいいだろう」

言葉と共に、アインは再び鞄のダイヤルを弄り、錠を開く。
中から取り出されたのは、ずしりとした重量感を感じさせる皮の袋。

「僕は神に祈りなど捧げなくても、雷を起こしてやろうじゃないか」

200 名前:アイン ◆mSiyXEjAgk [sage] 投稿日:2009/12/19(土) 05:01:07 0
役学ならば、それを可能と出来る。
心中で呟くと、彼は空を見上げ腕を大きく振りかぶった。

高く高く舞い上がった袋は魔物へと迫り、しかし残った片翼の羽ばたきに弾かれ、破れてしまう。
袋を満たしていた灰や白の粉末――水晶や鉱石、灰の破片が宙にばら撒かれた。
それらは翼の起こす風によって舞い、ぶつかり合い、また魔物に付着して。

唐突に、空中に紫電を走らせた。

雷の檻に囚われ、魔物が再度悲鳴を上げる。

「雷を生むのは何も雨雲だけじゃない。火山の噴火には同じく雷が伴なう。
 規模を小さくするなら、冬場に上等な毛布にくるまれば誰でも雷を生む事が出来る。
 お前がもがけばもがく程、強い雷が生まれるぞ」

紫電が残された片翼に炎を灯す光景を見上げながら、アインが呟いた。

201 名前:ローズ・ブラド ◆lTYfpAkkFY [sage] 投稿日:2009/12/19(土) 19:44:16 0
「ハァ!!」

右腕の鎧を変化させ鋭い刃と化す。
「グギャァアア!」
目の前に再び現れた強力の魔獣。
それすらも容易く寸断し、斬り捨てる。

『ヘッ、大したことねぇな。キング様に喧嘩売るなんざ百億年早いぜ!』

その隙に背後へ回り込んでくる強力の魔獣2体。
しかしローズに隙は無かった。瞬時にマントを鋭い牙に変化させ
魔獣を刺し貫く。
「ギィ・・・・・・ギギ」
2体まとめて串刺しにされ声を上げる事すら出来ないまま息絶える。

「こんなものか……」
息を整えながら怪物の残骸の間を縫うように歩いていく。
そこにあるのは血と生臭い獣の匂いのみ。

【「まさか、お前も魔物か?・・・そうは見えないにしても、人間じゃないな?」】

背後から迫る怪物に注意しながらも、その声に答える。
「僕は、敵じゃない。」
大口を開けてローズを喰らおうとするその魔獣。
しかし魔獣の目論みは外れた。
鎧の左腕が魔獣の口を掴み、軽々と引き裂いてみせたのだ。

「ギャァアアアアアアアア」

断末魔を上げながら魔獣は倒れる。
あとは空を飛ぶ魔獣のみ。
ローズはハスタに向け叫んだ。
「ここは任せてください。貴方は……あいつを。」

202 名前:ミア ◆JJ6qDFyzCY [sage] 投稿日:2009/12/19(土) 21:59:35 P
誰かが肩を揺さぶっている。
体が重く、眠くて仕方ない。だが揺さぶる腕は余りにしつこく、ミアは仕方なしに目を開けることにした。
「……ん…………」
視界も思考もぼやけている。とりあえず、目の前の金属は列車の窓枠だった気がする。
僅かに頭を動かすと、肩に手を置き心配そうにこちらを覗き込む女性の姿が見えた。
(……フィオナ)
ところで、脈打つ度に左手が痛むのはなぜ――
ここで急速に状況を思い出し始めたミアは勢いよく体を跳ね起こした。
窓枠に飛び付き、外の風に身を晒してすぐさますぐさま戦闘の結果を確認しようとする。
飛竜と青年の姿は無い。代わりに目に入ったのは一つ前方の車両の上を何か探す様子で歩くギルバートだ。
「――ギル! 何探してるの?」
乱れる髪を押さえて風に負けない大声で呼びかける彼女は、自分が探されているとはつゆとも思っていない様子である。
呆れたような情けなさそうなような人狼の表情に首をかしげつつ、
「飛竜と戦ってる男、見なかった?」
それからこちらの状況にも触れておくべきかと思い、
「私は平気。フィオナも一緒――」

……車内に視線を寄越した彼女の口が、開いた形で固まる。
何やら困り顔で立つ女性は、あの神官騎士とよく似た印象だが――服装も立ち居振る舞いも全く異なっていたのだ。
ミアは何度か目をしばたたかせた後、いきなり女性の体をぺたぺた触り始めた。
(……別人。あとこの人、鎧が合って無い――そういえばジェイドと同じ鎧かしら。
この人、フィオナ、ジェイド……この三人、不思議なくらい似てるけど――)
「……誰?」

とりあえず、もう一度車外に首を出してギルバートに叫んでおいた。
「――、一緒じゃなかったみたい」




その時だった。
客車側の扉がギシ……と軋み、次の瞬間根本から吹き飛んで絨毯の上を滑っていった。
重い体を引きずり、壁際に背がつけまで後ずさる。
扉があった位置に立つのは、筋肉質な巨躯を持つ一体の剛力種。
浅黒い体が呼吸の度に不自然に震えるのは、横腹に大口を開ける指一本分程の深さの裂傷の痛みのためか、怒りのためか。
おそらく、客車で撃退された魔物がこちらへ流れてきたのだろうが――。

【・眠っていたところを女性ジェイドに助け起こされるが、フィオナと勘違い。結局、「誰?」
・ギルバートに気づき、声をかける。
・後部車両戦ラスト一体】

203 名前:フェン ◆hk6CMpEoaI [sage] 投稿日:2009/12/19(土) 22:55:44 0
薄暗い部屋の中、筒が並べられている。
筒の大きさは人が一人はいるぐらい。
その中には肉塊が一つ浮かんでいる。
「またか…」
白髪の老人はため息をつき、ボタンを押した。
うごめいていた肉塊が動きを止め、跡形もなく崩れ始めた。
老人はそれには目もくれず、次の筒へ移動した。
筒の中には先ほどと同じように肉塊が入っている。
また、同じようにボタンを押し、隣へ移動した。
移動した先には同じように筒が存在し、その中にも肉塊が入っていた。
先ほどと同じようにスイッチを押した。
それを老人は何回も何回も繰り返している。
老人の表情をうかがい知ることはできない。
初めのうちは罪悪感こそ浮かべていたものの、何回も繰り返しているうちに消え去ってしまったのだ。
「お…おおっ」
老人が足を止めた。
筒の中には少女が浮かんでいる。
老人の顔が歓喜の色に包まれ、ボタン付きのリモコンが足元に落ちた。
筒の下にはネームプレートが用意され、フェイという文字がプレートには掘り込まれている。

それから数時間後、魔術師たちにもその一報が伝えられ、ルキフェルにもそのことが耳に入ることとなった。

(設定を一部変更します)
名前:フェン
年齢:15
性別:女
種族:ホムンクルス
体型:160p、ふつう
服装:フリルがない黒と白のメイド服。ヘッドドレスのようなものはかぶってません
能力:冷気および闇魔術の行使
設定:
錬金術によって作り出された人工生命体。
ルキフェルの部下として、ありとあらゆることをこなしてきた。
瘴気を吸っても、魔物へと変貌することはないという非常に便利な性質を持つ。
魔法の扱いに長け、格闘術と暗殺術はたしなむ程度。
(それではよろしくお願いします)

204 名前:フェン ◆hk6CMpEoaI [sage] 投稿日:2009/12/20(日) 01:19:50 0
訂正
× リモコン
○ 四角い箱

205 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/20(日) 01:25:41 O
>>203-204はスルーで

コテのみなさんは相手にしないように

206 名前:フェン ◆hk6CMpEoaI [sage] 投稿日:2009/12/20(日) 01:39:46 0
>>203-204
世界観に合わないという指摘がありました。
いったん書き直したいので、この書き込みは取り消させてください。

207 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/20(日) 10:40:47 O
だったら最初から書くなよ
お前の問題はそうやって確認もせずにポンポン投下すること
消えろ

208 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2009/12/20(日) 16:14:16 O
コクハwww

209 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/20(日) 18:11:51 O
>>206
貴方の存在自体が世界観に合っていません。

210 名前:ジェイド=アレリィ ◆EnCAWNbK2Q [sage] 投稿日:2009/12/20(日) 18:26:52 0
>>202
貨物室に辿り着き息を荒くしながらもミアの元へ走る。
肩に手を置き呼吸を確認する。
「気を失ってるだけだ……良かった。」

(「……ん…………」)
ミアが目を覚ます。安堵した表情でミアを見つめるジェイド。
その顔は心なしか柔和に見えたかもしれない。
(「――ギル! 何探してるの?」)
ジェイドが振り向くと、そこには狼男がいた。
げげっと後ずさりしながらも笑みを崩さず声をかける。
「あ、ど〜も!おれぇ…じゃなくて。あたしは…」

(「私は平気。フィオナも一緒――」 )

「え?フィ……フィオナァ!?げげっ……」
甲高い声を上げて動揺するジェイド。
小さな顔が真っ赤になっている。
(なんでこの子が姉ちゃんの事を知ってんの?知り合い?)
小さく息を整えて再び作り笑いを浮かべる。

(「……誰?」 )
しかし、動揺が完全に伝わっていたようで
ミアとギルバートは怪しげな目でジェイドを見つめる。
「え……え〜と。あたしは、ジェイドさんの知り合いで。
シルクっていいます!そう、シルク!」

ついて出た言葉は、以前帝都の娼婦館で知り合った少女の名前だった。
適当にごまかすつもりがどんどん状況が悪くなっている事に
ジェイドは気付いていない。

地響きを上げて現れた剛力種。
それを見た直後、シルクの顔が戦士の顔へと変わる。
「……どいてな。あたしがやる。」
拳を鳴らしながら前方の怪物の股間を、蹴り上げた。
悶絶しながら悲鳴を上げる剛力種。
それを馬乗りになりながら拳を何度も振り落とすシルク。
「へ!どうした?もう終わりかい!?おい、どうなんだよっ!え!?」

【ギルバート、ミアに女性化の件をごまかす。剛力種相手にマウントパンチ】


211 名前:ベルンハルト ◆sbv0QKeoW2 [sage] 投稿日:2009/12/20(日) 22:31:42 0
>>179
「貴方がこの任務に成功したならばそれなりの位と、富を差し上げましょう。
無論……永久に繋がれてしまうであろう”鎖”すら断ち切る事も、可能です。」
その言葉を聞き、ベルンハルトの表情が変わる。
先ほどまで死人のように色を失っていた感情が溢れだす…
いつもと同じならばまたすぐに失うはずの感情だが、この時は違った。
「ま、まさか………本当に…この不死を身体を…?」
喜び、当惑、様々な感情が堰を切ったように溢れる。
「この地獄の底から…抜け出せるのか…俺は……」
遥か昔に消え失せた希望が、いま再びベルンハルトに囁きかける…。
はたして嘘か真か…いや、おそらくは嘘なのだろう。この外法は完全にして普遍。
何度呪縛から逃れようとしたか、何度希望を与えられ、足掻き、這いずり回ったか…
そして、その先に待っているのは…希望が導く更なる絶望のみ、
いつしか希望は完全に消え去り、ベルンハルトに唯一残ったのは果てしない虚、そして燃えがらのような心だけだというのに……
(…そうだ、どうせ今回も今までのように……)
しかし、それでも……ベルンハルトは縋るしかない。背筋が凍りつくようなほほ笑みを見せるこの男に…

『そこまでだ!ルキフェル!!』
その時、騎士たちがルキフェルとベルンハルトを取り囲み現れる。
もっとも、予定調和のようにルキフェルは笑みを絶やさず騎士たちへと応対する。
しかし、騎士たちは剣を抜き、ルキフェルへと憎悪を向ける。
ルキフェルを良く思わない人間は王宮内には山ほどいるのは容易に見て取れる。
おそらく、ベルンハルトが呼ばれた理由もそれだろう。ならば話は早い。
最初の仕事に取り掛かるべく、ベルンハルトは剣を抜こうと柄に手をかける。
「貴方はここで見ていてください。”一瞬”で終わりますから。」
そんなベルンハルトを見て、ルキフェルは少し笑うと一枚の銀貨を指で弾く…

そして、巻き起こる死

有無も言わせず、ただ騎士たちは自らに起こったこともできぬまま、
ただ絶命していく…銀貨がまた手中へと収まる頃には、
さきほどまで圧倒的な存在感を纏っていた重厚の騎士たちは、見るも無残な肉塊へと姿を変えていた。
全てが終わると、ルキフェルは指を鳴らし、黒服の兵士たちを呼び寄せる。

「……後始末を。あぁ、彼らは貴方の手足として使ってくださって
結構ですよ。貴方ほどではないですが、彼らも一流の力を持っている。
で、肝心の任務ですが……」

先ほどまで人であったものを冷酷にも踏みつけながら、
ルキフェルは数枚の書類をベルンハルトへと手渡す。
そこに羅列されたるはあらゆる人種…その数は数十人などでは収まりきらず、
数百人はいるだろう。おそらくは、組織に依頼される一か月分に相当する。

「ここにある名前は、反逆者のリストです。皇帝陛下を暗殺し、
国家転覆を企む輩……さっきの連中と同じです。
彼らを貴方の”やり方”で始末してください。」

反逆者……リストに載っている人間をルキフェルはそう切り捨てる。
しかし、あからさまな裏があることは否めないだろう。
すでに先ほど、騎士達から皇帝を唆したと言われていたのだ。
ましてやリストには市民や忠義に熱いことで知られる騎士団の名前。
どちらの言葉が真実なのか…いや、考えるまでもなく疑うべきはルキフェルの方なのだろう。
もっとも…最初から選択の余地はない。今はただそのためにここに居り、そのために存在≠キるのだから…
「ふふ…ふふふふ……望みとあらば、極めし外道の業にて屍の山を築いて見せましょう!」
そしてベルンハルトは黒服の兵士たちと共に闇へと姿を消していった。

212 名前:フェン ◆hk6CMpEoaI [sage] 投稿日:2009/12/21(月) 01:25:26 0
薄暗い部屋の中、筒が一列に並んでいる。
筒の大きさは人が一人はいるぐらい。
その中には肉塊が一つ浮かび、白髪の老人を見ている。
「またか…」
白髪の老人はため息をついた。
制御盤の上を指が滑り、肉塊が粉末と化す。
目の前にあるのはホムンクルス。
製造は非常に難しく、有史以来、その製造が試みられてきたが、誰一人として成功した者はいない。
それはこの老人とて例外ではない。
筒の前を通り過ぎるたびに視線を筒のほうに向けては破壊することを繰り返している。
もう、そんなことはやめよう。
今していることは生命の冒涜だ。
もうこのような研究はおしまいにすべきだ。
そんな考えが頭の中をよぎった。
さあ、今からでも、遅くはない。
引き返せば、これ以上罪を重ねずに済む。
老人は踵を返し、元来た道を引き返そうとした。
ふと、ここで悪魔の声がささやきをかけてきた。
もしかしたら、次の筒にはホムンクルスがいるかもしれない。
そうすれば、ありとあらゆる名声が手に入る。
仮に手に入らなかったとしても、ホムンクルス研究における第一人者となれるのは確実だ。
老人は足を止め、一回転した。
天使の声がささやきかけてくる。
生命を冒涜するものは地獄生き。
そう定められています。
生前の名声にこだわって、死後の人生を台無しにしたいのですか。
悪魔の声がそれに対して反論する。
地獄があるというのは迷信だ。
死ねば灰になるに過ぎない。
性を楽しむことのほうが大事だ。
老人は足を一歩進めた。
筒のほうに首を向け、筒の中を見た。
筒の中には少女が浮かんでいる。
老人の瞳が大きく見開かれ、しばしの間沈黙した。
ほどなくして、笑みがこぼれ、ケタケタと笑い出した。
「これで…ようやく…儂も…」
興奮さめ切らぬ老人は元来た道を引き返し、研究所へと戻っていた。

それから数日後。

○○研究所 ホムンクルスの製造に成功

という内容の記事が新聞に載り、錬金術師学会で大きく発表されることとなった。



名前:フェン
年齢:外見年齢は15ほど。実年齢は1歳未満。
性別:女
種族:ホムンクルス
体型:160p、ふつう
服装:フリルがない黒と白のメイド服。ヘッドドレスのようなものはかぶってません
能力:冷気および闇魔術の行使
設定:
錬金術によって作り出された人工生命体。
瘴気を吸っても、魔物へと変貌することはないという非常に便利な性質を持つ。
魔法の扱いに長け、格闘術と暗殺術はたしなむ程度。

(ルキフェルさんのネタが面白そうなので、取り入れてみました。
 不束者ですがよろしくお願いします)

213 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/21(月) 01:34:39 0
(すみません。途中で切れてしまいました)

そして、その一報はルキフェルと国王のもとへと入ることになるのだが、それはまた別のお話。

214 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/21(月) 01:58:01 O
日本語の勉強してから来いよ
浮いてるぞマジで

ヘッドドレスはかぶってませんって
何が言いたいんだ?

215 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/12/21(月) 03:00:58 0
「ここからなら主砲が使えるな。あのデカブツの鼻っ面にぶっ放してやるぜぇ……!」

機関手が制御術式盤に指を走らせ、機関室の天蓋が割れるように展開。搭載された大口径の魔導砲が顔を出す。
屋根の上に昇る為のハッチが開き、螺旋梯子へと手をかけようとしたレクストはしかしその動きを止めた。
先ほど共闘した女がいつの間にか懐へとその肢体を滑り込ませてきていた。豊満な肉体が柔らかに密着する。

「な……な……??」

真正面から近づいてきたにも関わらず、レクストにはその挙動を察知することができなかった。
まるで意識の間隙を突くように、認識の外からの接近。完全なる知覚の虚。まるで気体のような現出である。
甘い芳香が鼻腔を刺す。女は、そのままレクストの首筋へ唇を寄せてきた。痺れるような疼痛と、甘美な痒感。

(え、なにこの状況……?ちょっとまて、まてまてまてまてまてまてなんだこの状況!)

あ……ありのまま今起こった事を話すぜ!『主砲撃ちに行こうと思ったら謎の美女が密着して首筋に口づけしてきた』
な……何を言ってるのか わからねーと思うが俺も何をされたのかわからなかった…頭がどうにかなりそうだった……
グッバイ貞操だとか股間の主砲だとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……

先刻カルチャーショックを受けたばかりの真性無垢のレクストである。年上の女に身体を押し付けられて迫られたとなれば
最早一変の欠片もなく思考は吹き飛び、アイデンティティが崩壊しかねない緊急事態に警鐘は鳴り続ける。
そして数秒が経っただろうか。不意に女はレクストの首から唇を離すと滲んだ血を舐めとり、耳元で熱く囁いた。

「うふふ。流石・・・ね。そうではなくでは・・・。坊や、あなたには期待しているわ」

(な、何を!?何を期待サレテラッシャルノデスカ!!?)

火照る耳に息を吹きかけられ、レクストは飛んだ。硬直した体を脱ぎ捨て精神は遥か果てへと吹っ飛んでいく。暗転。明滅。泥濘が如き安寧。
意識の虚空へ投げ出された心が三千世界を巡り無明解脱の境地へと至って元の身体へ還って来たころには、
既に女の姿はなく。聴こえてくるのは魔物の咆哮と抗いの剣戟、列車が轍を踏む音のみ。機関士が微妙な顔でこちらを見ていた。

そのとき、機関室のドアが轟音と共に吹っ飛んだ。蹴破るなんて生易しいものではなく、文字通りの粉砕。
ヒイっと機関士が短く叫び、またもや失神して崩れ落ちる。一体どんな魔物がそれを為したかと思えば、現れたのはフィオナだった。
謎の美女と入れ違うように突入してきた彼女は、機関部の前で悟りを開いたように無心に浸るレクストの姿を認め、駆け寄ってきた。

「あのー……レクストさん?」

「色即是空。世に遍く全ての事物は他者との繋がりによって存在し得るのです。故に共存に貴賎なし」

「う、うーん……仕方ない。レクストさんっ!!レクストさ……ん?」

「涅槃寂静。本能とは煩悩。よって説き伏せるに楽は無し……――お、お?なんだ、俺は一体何を?」

「ああ、気がついて良かったレクストさん」

解脱したレクストの眼にようやく生の光が灯る。しかしその目に映ったものは、恐ろしく凄絶な笑みを浮かべたフィオナだった。

「気がついたところでお聞きしたいんですが。私達が駆けずり回っている間、此処でどんな素敵な人と逢引していたんですか?」

「はははお嬢さん誤解をされては困り申す機関室は逢引をするところに御座らぬゆえ某左様なことはあるまじき候」

獅子に睨まれた兎のように全身に嫌な汗をかきながらキャラの定まらないレクストは手を替え品を替え弁解するが
フィオナが柔和な笑みを向けるだけで押し黙り、硬直しながら罰を受ける落第生の如く気をつけの姿勢で屹立する。
そんなレクストを横目に彼女は失神した者へ気付けを施しながら治癒の聖術を発動していく。

「まあ、詳しい言い訳は後で聞くとして」

ほぼ全ての怪我人へ治療を施して、フィオナは立ち上がった。相変わらず舌を巻くほどのバイタリティである。
張り付いたままの笑みにレクストが軽く恐怖に震えだしたのを感情の読めない目で見ながら言った。

「今は上に居る敵のリーダーを何とかしましょう」

216 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/12/21(月) 03:04:51 0
機関室の屋根へ昇ると既にそこでは戦闘が終結していた。
フィオナが遠眼鏡越しに覗く隣でレクストは防刃帽からバイザーを引き出し、望遠術式を起動する。
何両か後ろの客車の屋根の上で巨大な魔物を仕留めていたのはギルバート。その隣には――

「あの白衣野朗、いつのまに駄犬と仲良くなってんだ……?」

客車でギルバートと共に相対した散水の犯人。帝都から来たという研究者風情の男だ。
なにやら嬉々として魔物の死骸を鞄の中へ詰め込もうとしている。物理的に無理だろうその大きさは。

「上ですかっ!?」

バイザー越しの光景を見届けることなく今度は隣でフィオナが鋭く叫んだ。言われて見上げれば巨大な影。
レクスト達のすぐ上空を更に巨大な飛竜が滑空していた。認識と同時に豪腕から爪が振り降ろされる。
既に回避に入っていたフィオナとは違い直前まで呆けていたレクストはその煽りをモロに食らった。

「いっ――てえ!!」

直撃すれば原型を留めないであろう一撃に、しかしレクストは少しばかりの擦過傷で済んだ。
ハッチから半分身を乗り出していた彼を、フィオナの叫びに反応した機関士の一人が車内へ引き摺り込んだのだ。
窮地を救った機関士達に手礼を送り、再び車上へ顔を出すと、フィオナが何か閃いたらしく声をかけてきた。

「全部は無理でしょうけど敵の翼を奪います!」

その口から零れ落ちるのは聖句。詠唱された術式は風に混じりレクストの耳まで届き、彼女が起こそうとしている奇跡を教えてくれた。

「――偉大なるその力を持ちて邪悪なる者に光の裁きを!」

白昼の落雷。それは束ねられた太陽の光条だった。上空から降ってくるそれは狙いあやまたず飛竜の片翼へ命中すると、
その翼膜を炎上させる。飛行能力の要を半分奪われた飛竜はよろよろとその高度を下げていく。
そこへ後部車両の方から何か布包みのような物が飛来した。それは残った片翼にぶつかると、破れて内容物を撒き散らす。

粉末のように見えたその中身は、片翼へと纏わり付き、空中で擦れ合い、鋭い音を立てて突如紫電の塊へと姿を変えた。
信じられないことに術式も魔力も用いず、小規模ながらも雷をそこに再現したのである。
両翼をもがれた飛竜は悲鳴にも似た咆哮を挙げながら必死の羽ばたきでもってようやく姿勢を保てる程度の機動力。

「つまりは――的だな!?」

レクストは既に砲座についていた。大口径の巨大な砲身は超威力故に狙いがすこぶるつけづらい。本来ならば空中に利のある
飛竜相手に用いる代物ではない。本来ならば。既に全ての布石が合致しトドメの一撃への仕掛けは揃っている。
空中であがきもがく飛竜の姿を照準の十字に捉え、レクストは主砲の重い引き金を渾身の力で引ききった。

轟音。バイアネットの砲撃を遥かに凌駕する極太の光条が打ち出され、反動で列車が大きく揺れる。列車の内在魔力を運用して
放たれる超絶威力の一撃は、飛流の巨躯の胴体部分を穿ち、打ち抜き、蒸発させる。魔導弾は飛竜の背中を突き破ると
そのまま勢いを止めず大気を焼きながら蒼穹を駆け昇り、雲まで到達して白海を穿って消えた。

過熱した砲身が放つ蒸気の向こうで、力を失った飛竜の残骸が列車の屋根に墜落するのが見えた。
虫の息ではあるが微妙に生きているらしく、四肢のうち一本しか残らなかった右腕で這って行く。
一這いするごとに魔力と体液と肉片を撒き散らしながら、飛竜の残骸は恐ろしい生命力で後部車両へと逃げていく。


【有翼ボス・飛竜を撃墜。死に掛けの身体で客車方面へと這って行く】
【止めを刺したら戦闘終了、列車修理と補給の為に一端中継都市へと停車します】

217 名前:フェン ◆hk6CMpEoaI [sage] 投稿日:2009/12/21(月) 18:14:56 0
>>212
アイン様より、文句を言われたので、取り消します。

218 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/21(月) 19:33:28 O
だったら最初から脊髄反射でレスすんじゃねえよタコ助
あと一々そうやって人のせいにするな

219 名前:フェン ◇hk6CMpEoaI[] 投稿日:2009/12/21(月) 20:24:53 P
>>217
すみません。誤爆してしまいました。

220 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/21(月) 20:33:23 O
名前欄忘れ、誤爆…
何回やったら気が済むんだ?

221 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2009/12/21(月) 23:59:52 0
アルマゲドンが起きた!!

222 名前:ハスタ ◆fmAKADpWIqWy [sage] 投稿日:2009/12/22(火) 11:35:08 0
>201>216
声をかけてみたものの、そいつは淡々と魔物を虐殺してゆくばかり
いい加減もう一度声をかけようとしたところでやっと応答が返ってきた
>「僕は、敵じゃない。」
>「ここは任せてください。貴方は……あいつを。」

その様子に、オレは少し考える素振りを見せる。
けれどもう答えは出ていた。恐らく信用しても問題はないだろう、と考えたところで轟音!
派手な音から考えてレクストあたりが何かやらかしたか?いずれにしろそう手は掛からないと判断できるな
「じゃ、そっちは任せた。」


列車の中程、乗客の大半は最前部か最後部側へ避難したのかほぼ無人の車内
腹部に盛大な大穴の開いた飛竜が、その決死の力で列車の装甲を破って入り込んだ車両に行き当たった
今この車両内にいるのがオレと最早被捕食者の立場となった飛竜のみ。
ここまで疲弊してしまった魔物なら下手すれば素人でもどうにかなりそうだ。
「あー・・・・・・悪いがそこの。キセル乗車は車掌に代わって叩き出すぞ」

そう一人ごちてから獲物を狩ろうと、純白の鎌をかかげた途端
――ごろり、と飛竜の首が落ちた。
「・・・・・・あ?」
先程まで他に誰も居なかったはずの車内に、少女がいる。
背格好から見て、年は13,4か。黒髪をボブカットに纏め、黒いドレスを着ている。
振り向いたその顔を見て、オレは衝撃を受けた。
本人の強気な気性を表すような眉に、暗青色の瞳。忘れもしない、でもこいつは生きている筈が――
思考がそこまで到って反射的にオレはソイツ目掛けて鎌を振りぬいた。


「――遅すぎますわ。」
そう、オレの対応はあまりにも遅かった。
振りぬこうとした時にはもう少女はまるで抱きつくように左手をオレの背に回し、
もう一方の右手がオレの腹部を肘まで貫いていた。
「がッ・・・・?!」
「所詮は『旧式』、念には念を入れてと思って『あの方々』に歯向かう連中の実力を見に来ましたけれど
 まるで取るに足らない。計画の障害にはなりそうもないですわね。お兄様ですらこの有様ですし。」
そう、口調を聞けば一目・・・否一聞瞭然。この目の前にいる奴は姿こそそのまま真似ているが中身は別物だ。
「テメェ・・・・・・何でお前がアイツの!『ソアラ』のナリをしてやがる!!」
「腹部を貫かれてまだ喋れるあたり、やはり『旧式』でも耐久力はそれなりにあるようですね。
 理由は簡単、昔の『お仲間』に会えて嬉しかったでしょう?この姿は慈悲ですわ。」

次の瞬間には、乱暴に腕を引き抜かれてオレは客車の床に倒れ伏していた。
憤怒と屈辱で睨みつけるオレの視線をその女は余裕と悪意に満ちた笑みで受け止める。
「『あの方々』には、所詮ヴァフティアを生き延びたとは言え計画の障害にはならないと伝えておきますか。
 それではお兄様、帝都でまたお会いしましょう?アナタは私の手で始末をつけてあげますから。」

ころころと鈴の鳴るような声に悪意を乗せて笑うその女は、オレの口元に何かを押し込むと姿を消した。
数分後、飛竜に止めを刺す為にやってきた連中が発見したのは
薄っすらと床一面に広がる瘴気の霧の中で
綺麗な切断面を見せた首無し飛竜とその首。そして――
着衣に穴が開いているものの、無傷で気絶し横たわるオレの姿のみだった。
・・・・・・黒いドレスの少女は誰一人としてすれ違わなかったらしい。

【有翼ボス・飛竜→死亡、再起不能
 ハスタ→無傷の姿で気絶、再起可能
 謎の少女→・・・・・・・・・・・・?
 To be continued―― 列車は中継都市へ 】

223 名前:アイン ◆mSiyXEjAgk [sage] 投稿日:2009/12/22(火) 14:12:41 0

再び望遠術式を展開した眼鏡の向こう側で、主砲の閃きが迸った。
放たれた魔道弾は宛ら地から天へ遡る雷の如く、空中でもがく魔物の胴体に喰らいつく。
光に飲み込まれた体は跡形もなく喰い千切られ、極大の熱と破壊力を以ってそのまま天へと持ち去られる。

最早飛ぶ事が叶う筈も無く魔物は空から突き放され、重力の手によって列車の屋根の上へと落とされた。
魔物は始めこそ一本しか残っていない右腕で這いずり足掻いていたが、次第にそれすらも出来なくなっていく。
もがく力も無くし、ただ呼吸による上下だけが繰り返される死に体の魔物に、アインは歩み寄った。

まだ帯電している可能性を考えて、彼はまず鞄から一対の手袋を取り出す。
薬物を取り扱う際には必ず着用する、ラバーマイマイの外殻から作られた防護手袋だ。
それを両手にはめると、アインは魔物の傍でしゃがみ込む。

「酷い有様だな。翼は……殆ど無くなってしまっているじゃないか。もっともさっきの固体と原理は変わらんだろうが」

言いながら彼は次に鞄を両手で持ち、角で魔物の頭を殴りつける。
反撃の兆しは見られないまでも、微かに魔物の目が動きアインを捉えた。

「緩衝機能はこいつの方が高そうだな。構造に違いがあるのか、
 それとも単に質の問題か……。ともかく採取しておく必要がありそうだな」

今度は鞄から短刀を取り出し、魔物の僅かばかりに残された胴体から皮膚を深めに剥いでいく。

「他には何がある? ……爪が随分と頑丈そうだな。こいつも剥いどくか」

爪の根元に刃を突き刺し、一本一本回収する。
魔物は微動だにせず、ただ爪が剥げる瞬間に合わせて小さな呻きを上げるばかりだ。
しかし、

「……ん?」

採取行為に勤しんでいたアインだが、ふと彼の視線が魔物の額へと滑る。
視界の端に捉えたそこに、他の魔物達には無かった紋様を見つけたからだ。
いや――それは紋様と言うよりも、人工的に刻まれた魔法陣を彷彿とさせられる形をしていた。

「……妙だな」

たった一言そう呟くとアインは念の為と、魔物に刻まれた魔法陣もまた、皮膚ごと剥ぎとって鞄へとしまい込む。

――瞬間、魔物の様子が変わった。
その変化はとても形容しがたい物だったが、言うなれば。
『途切れていた意識が戻った途端に、激痛が身を蝕んでいた』
そう思えるくらい唐突に魔物は悲鳴を上げ、
どこにそんな余力があったのかと問いたくなるほどの勢いで屋根の上をのた打ち回る。

「っ!? な、何だ? いきなり……」

余波から逃れるべく、慌ててアインは大きく後ずさる。
尚も魔物は暴れ続け――ついには屋根を突き破り客車の中にまで落ちていった。

【謎の魔法陣を発見。魔物はいよいよもって瀕死。屋根を突き破り客車の中へ。
 (時系列的にはハスタさんのレスの直前と言う事でお願いします)        】

224 名前:アイン ◆mSiyXEjAgk [sage] 投稿日:2009/12/22(火) 14:15:10 0
――帝都――

「だあああああもうド畜生め! あの野郎ぜってえイカサマだ、サマ師に決まってらあ……!」

往来である事を気にする余裕もなく、マルコ・ロンリネスは空目掛けて悲痛な叫びを上げた。
よれた貴族服を正そうともせず、掻き上げて髪を後ろに纏めた頭を抱えてる。
それから彼はたっぷり十数秒言葉にならない呻きを漏らす。
一頻りうな垂れると、マルコは街路に並ぶ店のガラスへと自分の顔を近付けた。

そうして少し顎を上げて、左手で撫でる。
ざらざらした感触とガラスに映りこむ虚像が、だらしなく生えた無精髭の存在を示している。
ここ数日彼は賭場に泊り込みで、身だしなみを整える機会も――更に言うならばつもりも更々無かったのだ。
しかしそうまでしたにも関わらず、結果は散々たるものだった。
最後の最後、得意のカードで酷い失敗をやらかし、今や懐具合は凄惨な事となっている。
とは言えそれも、あくまで手持ちは、の話なのだが。

けれども負けて金を奪われた事には違いない。
それが悔しくて、彼は苛々とした様子で顎鬚を弄りながら憂さ晴らしを探し街を歩き回る。

「……おんやあ? あそこにいるのはひょっとすると」

ふと、マルコは視界に見覚えのある後姿を捉えた。
何の事情があるのか随分と質素な服装をしているが、曲りなりとも面識のあり
――更には似通った共通点を持つ彼には見間違えようがない。

もっともどこへ向かっているのかも分からない、かの『大貴族様』にとっては、
マルコは面識のない相手に分類されるのかもしれないが。

ほんの一回、『役学』の援助を契約する時に顔を合わせただけの存在など、覚えている筈もないだろう。
浮かび上がった思考を、自分を嘲笑うに口角を歪めて揉み潰す。

そしてマルコは、そんな事は一切に気かけず。
気にかけている素振りなど一切見せずに、その大貴族様に駆け寄り、後ろから首へ腕を回した。

「よーう兄弟! こんなとこでなーに油売ってんだい!?」

街で偶然知り合いを見かけ、声を掛けた。
そんな調子を装いながらも、マルコは確認の為ちらりと隣の顔を覗き見る。

「……やっぱりアンタか。メニアーチャ家の当主様がこんなとこで、
 そんな格好して何やってんだい? ひょっとして……これか!?」

前半は訝しむような表情で、けれども最後にはにやにやと下卑た感じの笑みを浮かべて、
マルコは一本だけ立てた小指をメニアーチャ家党首――ジースの前に差し出した。

ジースの表情が、不愉快を露にする。
一時前まで纏っていた純粋な空気は微塵も感じられない、大貴族の風格をそこに孕ませて。

「まあまあ、そんな顔しなさんなって。裏で言われるか表で言われるかの違いはあるけどよ、お互いあだ名は同じなんだしさ」

言葉と共に、マルコの浮かべる笑みが僅かばかり変質する。
ジースを揶揄すような笑いに、揶揄の対象に自分も含めたような、自嘲の笑みに。

「『鷹が生んだトンビの子』同士、仲良くしようじゃないの」

225 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2009/12/22(火) 14:36:29 O


226 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2009/12/22(火) 21:31:05 0
雑談所に書き込むのの何が悪いんだよハゲ
いい加減アンチうざいんだよ

227 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/22(火) 22:33:55 0
おまえ、書き込むスレ間違えてんぞ・・・

228 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/22(火) 23:15:15 0
やっぱりダークのコテが書き込んでたんかw

229 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/22(火) 23:37:32 0
つーか、それ以外に誰が書き込むってんだ

230 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/22(火) 23:58:20 0
「(純名無しが書き込んじゃ)いかんのか?」

231 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/22(火) 23:59:51 O
避難所でやれ

232 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/23(水) 00:04:20 O
>>230
野球ネタ持ち込むなよ
カス以下

233 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2009/12/23(水) 00:07:19 0
野球ネタについてkwsk

234 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/23(水) 00:10:48 0
>>232
元ネタって野球だったのか。
よく知らんで使った。
不快な思いをさせてすまなかった。

235 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/23(水) 00:11:39 O
大人しくしてろ
レス削除依頼してアク禁にしてもらうぞ

236 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2009/12/23(水) 00:31:15 0
ん、ここって名無しが書き込んじゃいけなかったのか?
まー、よく考えればそうだよな


避難所があるんだから、本スレとか雑談所に書き込むのはマナーとしておかしいもんな

237 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/23(水) 00:44:55 O
お前知的障害者なの?

238 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2009/12/23(水) 01:01:10 0
クズの携帯厨が
本スレに書き込んでんじゃねーよ

239 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/12/23(水) 06:29:44 0
一四〇〇時:『中継都市ミドルゲイジ』――

全道程の約三分の一地点に位置する補給・宿泊用都市であるこの街は、先んじて横断鉄道の登都便から受けた架線通信により
魔物の襲撃を受けた列車の補修及び補給、そして怪我人の搬出を行うべく特殊行動体制に入っていた。

国土交通管理局横断鉄道課ミドルゲイジ支部の主任と部下は地平線の向こうから来るであろう不意の客をホームで待っていた。
時刻は昼を大きく回った頃、太陽がそろそろ西側に傾き始める時間帯である。
つい先刻食べたばかりの昼食が腹の中で消化され始め、頭に血の回らなくなった部下は大きく生欠伸をしながら呟いた。

「しかしまぁ、災難っスね鉄道の連中も。あれだけ速いと襲われても降りられないんじゃないスか?」

「んにゃ、横断鉄道が途中で魔物とか列車強盗の類いに襲われんのはそう珍しいことじゃねえぞ」

主任は懐から取り出した缶を開け、一つまみの縮れた煙草葉を取り出して薄紙で巻きながら答える。
唾液で湿らせて筒状に接着した紙には発火術式が刷られており、指先で擦るだけで火花が散り簡単に火が点く便利な代物だ。

「魔物は巨大蓄魔オーブに充填された魔力に惹かれるし、賊は地方から帝都に運ばれる積荷が専らの的だな。
 だからこそ武装警備員とか搭載武装で列車単体でもある程度の防衛力を持てるようにはしてるんだ」

「でも、今回はその肝心要の武装警備員が乗ってなかった……『乗せ忘れてた』って話っスよね」

「メトロサウスの連中の言じゃな。これがどうにもキナ臭いっつうか、あっちの駅長の受け答えが妙に的を得ないんだとよ」

「警備員なしでよく守り切れたっスよね。実際怪我人も幾らかは出てるって話しっスけど」

「たまたま乗り合わせた戦闘職の連中が撃退してくれたらしいな。しかし解せんのはその魔物が妙に統率されてたって話だ。
 架線通信で聞いたところによると奴さんがた、耐魔ガラスを突き破って入ってきたらしい。あのガラスにゃ魔物避けの忌避術式が
 張ってあったはずなんだがな。それも触れるだけで肉焼き骨焦がすキッツいのが……どういうわけだか、連中はなんの躊躇もなく突き破ったんだと」

「『張り忘れてた』……またメトロサウス。んん?こりゃ陰謀じゃないっスか?やべーっスよ主任この会話聞かれでもしたら消されるっス!」

バーカ、と苦笑する主任の口端から昇る煙が唐突に横に靡いた。風が来る。ミドルゲイジの周辺は山も森もない見渡す限りの平野で、
気温も気候も安定していて凪の如く風が吹かない。そんな街において空気が揺れ動くとしたら理由は一つ。

「お、患者サマの凱旋だ。出迎えるぞ」

つまりは音速一歩手前の巨大質量が押し出す空気である。地平線の向こうから鋼の黒点が見えてきて、それはあっという間に原寸大まで肉迫する。
停車の為に目一杯まで減速しているにも関わらず、『噴射』の如き速力は巨躯でホームを一気に貫き、制動魔力の紫電を散らしながら止まっていく。
主任が制御盤の術式を起動し、線路の緩衝力と摩擦係数を上昇させ、驚くほどぴったりと正確に列車はミドルゲイジに停車した。


【戦闘終了につき中継都市到着。1ターン後に帝都へ向かいます】

240 名前:グレイス ◆2SXxVlNpLU [sage] 投稿日:2009/12/23(水) 07:23:51 0
終焉の月は帝国の隅から隅までいきわたっている。
皇帝も終焉の月の傀儡に過ぎないし、警備隊も軍隊も手足に過ぎない。
その気になれば、国を滅ぼすことだって可能だ。
でも、帝国は一枚岩ではない。
不満を持つものいれば、やり方に異を唱える者がいる。
中には反乱を企てる者もいるし、終焉の月をつぶそうと暗躍しているものだっている。
それを未然に防ぎ、反乱分子を始末するのが私の仕事だ。

「ここか…」

私は今、アパートのドアのまえにいる。
部屋番号は103。住人の名前はアーノルド・フランソワ。
今回始末しろと命じられた反乱分子の名前だ。

「我導く生きとし生きる者気配」

ドアを持っている道具で開錠し、呪文を唱えた。
体から無数の見えない糸が伸び、室内の隅々にまで意図がいきわたる。
特に生き物の気配はない。
どうやら、部屋の中にはいないようだ。
胸ポケットに入っている懐中時計を見ると19時を指していた。
普段ならいる時間だ。
だとすると考えられるのはただ一つ。
浴室の天井の中しかない。
浴室の天井にはメンテナンス用の通気口があいており、人一人が入ることの出来る位の大きさがある。
隠れるには絶好の場所だ。

「我導く白き光の刃」

白い光が膨れ上がり、浴槽や洗面器をのみこんだ。
同時にぎゃあとかぐえという音が聞こえてくる。
どうやら当たりのようだ。

浴室の中に足を踏み入れると、黒焦げの人間はぜーぜーと喘息の発作を起こしているのが見えた。
間違いなく気道熱傷を起こしている。
口元は黒く炭化し、体全体も同じような状態になっているからだ。

やけどの面積はおそらく100%。
このまま放置すれば、1時間もすれば、間違いなく死ぬ。
だが、帝都の医学技術はかなり進んでいる。
この状態の人間ですら助けることができ、見事に社会復帰を果たすまで回復させることができる。
ここで去れば、また妨害してくるのは確実だ。

一思いに喉をナイフで切り裂き、とどめを刺すことにした。





241 名前:グレイス ◆2SXxVlNpLU [sage] 投稿日:2009/12/23(水) 07:25:41 0
酒場ウレノスアイレス。
薄暗い、隠微な店内に入った私はカクテルを注文した。
グラスの中にバーテンがオレンジジュースを注ぎ、さらに細長い瓶から透明な液体そそいでいる
中身は何か知らないが、カクテルというぐらいだから酒の類だろう。
そう検討を付けながらバーテンがマドラーで混ぜている様子を眺めていると、突然声がかかった。
「誰か待ち合わせ?」
顔を向けると、ブラウスに黒のテーラードジャケットを羽織った男性が隣にいた。
髪型はウルフヘア。
見た目は結構好みだ。
適当に話をして、宿屋にでも行こう。
かと思ったが、懐中時計を見ると、待ち合わせの時間、10分前だった。
待ち合わせの主はルキフェル。
恋人ではないが、別の意味でないがしろにすることはできない。
「彼氏」
泣く泣く誘いの文句を断り、待ち合わせの主が来るのを待つことにした。

(所持品の部分を変更します)

名前:グレイス
年齢:20代
性別:不明
種族:魔族
体型:165cm。ボブショート
服装:黒のジャケッドに黒のパンツ。インナーは白いシャツ
能力:魔術および格闘術
所持品:ナイフ
説明:魔法も格闘術も使えるが、どちらかというと魔法のほうが得意。
女にも男にも化けることができる。
今現在は、ルキフェルから依頼を受け、反乱分子の始末にあたることで生計を立てている。


242 名前:グレイス ◆2SXxVlNpLU [sage] 投稿日:2009/12/23(水) 07:37:28 0
(用語が間違ってたので、訂正します)
終焉の月→深淵の月


243 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/23(水) 09:44:32 O
だからちゃんと確認してから書き込めっての
何度言われてんだ

お前にこのスレ参加する資格はないよ

消えろ

244 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/23(水) 10:52:17 0
なんでカリカリしてんの?もっと寛大な心で接してやれよ

245 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/23(水) 12:57:22 O
寛大も何もそいつ何も学習してないだろ
103号室とか、どこのレオパレスだよっての
現代を匂わせる用語を使うなと何度言われてる?

246 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/23(水) 12:59:31 O
103号って、変だろうか

247 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/23(水) 13:38:03 O
アパート
懐中時計、19時
浴室の天井にメンテナンス用の通気口

どこがファンタジーなんだ?
別のスレ作ってそっち行けよ
相手してやるから

248 名前:ルキフェル ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2009/12/23(水) 15:24:20 0
>>211
ベルンハルトと黒衣の兵士達は闇に溶け込むように去っていった。
ルキフェルは庭園の中央に佇み余韻に浸っている。
「破壊」「支配」「混沌」。それこそがこの世界の統べて。
屈強な兵士だっ者達の無惨な死に様がそれを証明している。

『ルキフェルよ……こんな夜更けに、騒ぎは困るぞ。』
ルキフェルが振り返ったその先に立つのは――この国の王。
皇帝陛下の姿がそこにあった。
金色の髪を靡かせルキフェルはすぐさま王の下へ跪き、一礼する。
「ハエが紛れ込んでおりましたので始末しました。なぁに……心配は――」
言い終える前に、皇帝はルキフェルの肩を踏み付け威嚇した。
『余計な血を……流すな。この私の目的は、無意味な殺戮などではない。』

地面に顔をこすり付けられても笑顔を絶やさない。
不気味な様子に、皇帝も咳払いをして足を払いのけた。
「陛下……ご安心を。不必要な事など何もありません。
終焉の月を退けたのは、我々”深淵の月”。
帝都の市民はそう信じております。それ故に、我々の行う事は
統べて”正義”の元に成す事が出来ます。」

帝都で急速に勢力を拡大しつつある組織”深淵の月”。
ヴァフティアで暗躍した終焉の月による行い。
大打撃を受けた街を復興する為に援助を真っ先に開始したのも彼らである。
人々を救援・保護している活動も大々的に帝都へ知らされていた。
深淵の月はあくまで”陛下直属の支援組織”という存在。
赤眼の配布も、疫病から街を救うという大義名分から広まった装具だ。
誰しもが、彼らを信じて疑ってはいない。
もし、たとえ疑うような者が現れたとしても……

『深淵の月は最早、誰もが知る組織となった。
表向きの顔は……な。私の目的まではまだ遠い。
それまで――気を抜くでないぞ。』

ローブを翻し、皇帝が居城へと去っていく。
それを見ながらルキフェルはもう1度、深く頭を下げた。

【ルキフェル……サマ。ノコリ、2ツデスネ】

ルキフェルの背後から女性が現れる。
「マザー。ご苦労です。これで……また”時”を延ばすことが出来る」
それは、ヴァフティアでルキフェルがレクストの前に
放った刺客。レクストの母そのものであった。
体中に魔術による改造を施され、既に原型を留めてはいない。
マザーから金色の破片を渡され、それを体に取り込んでいくルキフェル。
その顔、血色が再び若々しく満ち溢れていく。

「さて、そろそろ約束の時間ですか。バルバ、頼みますよ。」

バルバと呼ばれた美しい顔の女性が闇より現れる。
マザーとは異なり、ルキフェルと対等の関係を示すかのように
凛然とした表情で彼を睨み付けた。



249 名前:ルキフェル ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2009/12/23(水) 15:36:01 0
>>241
「これはこれは。お待たせして申し訳ない……」

グレイスの隣に、禿げ上がった頭の男が現れる。
周囲の人々は汚い物を見るかのように嫌々しく睨みつける。
「いやぁ、素晴らしいですね。みんな楽しそうだ。あ、私はミルクで。
お酒飲めないんですよ。えへへへ」
今夜はこの町で祝いの祭りがあるらしく、人々は誰もが楽しげな顔を浮かべている。
「たとえば、ですけどね。優秀でどうしても仲間にしたい人たちがいるとします。
でも、我々には靡かない。そういった場合、どうしたらいいんでしょうかね。
お、お耳を拝借。」
頭を掻きながら、金色の毛を抜き取り気味の悪い笑顔を浮かべグレイスの耳に口を添えた。

「貴方は反乱分子の家族、恋人を拉致してください。余程抵抗しない限りは
始末はしない方向でね。あとは我々の組織が”教育”しますので。
お任せを。」

ミルクを一気飲みすると男は勘定分以上の代金をグレイスの席の上に
置き店を出て行った。


250 名前:ジース ◆vKA2q6Alzs [sage] 投稿日:2009/12/24(木) 02:15:55 P
>「よーう兄弟! こんなとこでなーに油売ってんだい!?」
声とともに、突然視界の左方向に腕が見え、首周りに圧力を感じる。右に目をやると男の姿。
反射的に武器に手をやろうとして、利き腕は空を切る。そこに何もないことを思い出す。
護身用の装も何も身に付けずに飛び出してきたのは、少し拙かったかもしれない。今となっては、詮無いことだが。

>「……やっぱりアンタか。メニアーチャ家の当主様がこんなとこで、そんな格好して何やってんだい?
「……」
声をかけてきた男は貴族服、だが整っているとは思いがたい。皺が寄り、汚れも見える。
剃っていないだけにしか見えない髭、整髪されているとはとても言えない髪。どれもが清潔感からはかけ離れている。
貴族とは一般市民の模範であるべきで、身だしなみにも気を使うべきだ。そう思うジースは不快感を隠さない。
男に見覚えはある。『孤高の一族』ロンリネス家の男だ。名前はマルコと云っただろうか、顔を合わせたこともある。
偉大なる父を持つ凡小な息子。そうして同じ様に言われているのも、知っている。
……だけれど。

――冗談じゃない。一緒にされて、たまるものか。

>ひょっとして……これか!?」
「……! か、関係ないだろう」
世間知らずのジースでもそのジェスチャーが表す意味は知っている。
そのカンの良さに一瞬の動揺を覚えた後、湧いてくるのは先刻よりももっと強い不快感。
眉は上がり、その間の皺はより深く刻まれる。目は細く睨む様になり、マルコを見据える。
――貴族らしからぬ、その下賤な笑みを。

>「まあまあ、そんな顔しなさんなって。裏で言われるか表で言われるかの違いはあるけどよ、お互いあだ名は同じなんだしさ」
>「『鷹が生んだトンビの子』同士、仲良くしようじゃないの」

――だから、一緒にするな。
首に回された腕を邪魔そうに取払い、歩きながら口を開く。

「私は、貴様とは違うのだ」
貴族服を着ていないにも関わらず独特の尊大な声のトーンで口を開くが、こんな服だとそれは些か滑稽に映る。
それが自分でも分かるからこそ、軽く咳払いをして二言目からは貴族然とした口調を取払い、素の喋りで発言を形成る。

「……確かに僕は到底父には及ばない。暗愚と言われても何の申し開きもないさ。
 でも、僕は努力している。あの背中に追いつくことを必死に目指している。
 すでに自ら歩みを止めてしまった貴方とは、……違う」
語るというよりはまるで己に言い聞かすかの様に、再確認する様に。言葉を重ねる。
若輩にありがちな甘い考えだ。結果に差が出ていないのなら、過程など何の意味もないのに。
『なれていない』と『なれなかった』で、何がそんなに違うのか。
20年後も、まだ『違う』と言っていられるのかどうか。

数秒の沈黙。
「とりあえず、今僕は気晴らしに散歩がてら駅にでも行こうかなと思っているところです。
 特に用がある訳でもありませんが」
今頃になり、『何をしているのか』という質問に答えを出す。
ヴァフティア事変についてマルコにも聞いてみようかなとも思ったが、聞いたら負けな気がする。

「それにしても、貴族服を着ているというのは貴族であることを誇示しているも同義なのですから、
 民に失望される前に身の回りはきちんとすべき、だと僕は思います」
うってかわって、和かな態度で。
そう告げてから、歩き出す。

251 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/24(木) 11:56:54 0
リア充気取りのダークコテは今日は書き込まないと予想

252 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/24(木) 11:57:40 0
あ、すまん
スレ間違えた

253 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2009/12/24(木) 12:38:50 O
>>251
いや、絶対書き込む

254 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/24(木) 20:38:46 0
やっぱり書き込まねえじゃねーかw

255 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/24(木) 20:50:05 O
これから来るんだよ
14あたりが

256 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2009/12/25(金) 01:31:07 O
お前らハピクリ

257 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2009/12/25(金) 18:13:37 0
ababawwwwwwwwww^^^^^^

258 名前:ギルバート ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2009/12/26(土) 02:19:08 0

「あーーー・・・だりぃ」

中継都市、ミドルゲイジ。
目前では、駅員により停車した列車の補修と怪我人の搬送が行われていた。
それを、ホームの端に屈み込んで見るともなく眺める。
さほどの働きもしていないのに、妙に体がだるかった。旅ボケか?
わずかに漂う紫煙に、使い慣れたパイプが懐かしくなった。
まだ青いリンゴを皮ごとかじる。こういう時、何か噛んでいないと落ち着かない。

列車を襲った魔物の群れは駆逐され、多少の怪我人は出たものの、乗客に死者は無し。
結果を見れば上々と言えるだろう。仲間も全員無事だった。
ハスタは服に風穴を空け、レクストは何故か首に布を巻いていたが、大事は無いらしい。
怪我らしい怪我といえば、ミアが割れたガラスで手を切った程度だ。何でもガスの様なものを吸い込んだらしい。
とりあえず、原因と思われるムッツリメガネをジト目で睨んでおいた。

「しかしどうしてこうトラブルが続くかねェ。たまには気楽に旅させろっての」

一人ごちても現実は変わらない。仕方ないのでリンゴの芯を投げ捨てて立ち上がる。
まぁ、どさくさに紛れてギルバートの無賃乗車がバレたものの、
魔物の駆除に協力した事で車掌が目をつぶってくれる事になったのは収穫ではある。
狼の姿を維持するのはそれなりに面倒なのだ。自身もミアも。
と―――

「きゃ!?」
「おっと。悪い、大丈夫か?」

列車に戻ろうとした所で、ちょうど出てきたフィオナと衝突した。
よろけたフィオナの肩を支える。何かデジャヴを感じた。
フィオナはと言えば、あれ以来何やらボーっとしている上に表情が妙に硬い。

「・・・アンタ、顔が怖いって。かわいい顔が台無しになるぞ」

そう、トラブルに無賃乗車と言えば、あの―――
・・・いや、まぁいい。人様の家庭事情に口を突っ込むのもヤボだし、面倒でもある。
しかしどうも頭が固いタイプみたいだし、こういう手合いは何かと抱え込みがちだ。

「何か知らんが、溜め込まない方がいいぜ。愚痴は吐き出した方がいい。
 ・・・ああ、あと色気もちっとは増やした方がいいな。男を逃がすぞ」

にやりと笑って付け加え、ついでに目の前の頭をポンポンと無遠慮に撫でておく。癖なのだ。
視線より下に頭があると、つい撫でずにはいられない。
まぁ、下手すると色々とトラブルを呼ぶので流石に相手は選ぶが・・・
赤くなったフィオナに片目をつぶって軽く敬礼めいた仕草を送り、車内に戻る。
そんなちょっとしたやりとりで、少し気分が軽くなっていた。

もうすぐ帝都に着く。
そろそろ、目的地を見据えて思案を纏めておかなくてはならない。

259 名前:ジェイド=アレリィ ◆EnCAWNbK2Q [sage] 投稿日:2009/12/26(土) 23:02:17 0
中継都市のミドルゲイジに停車した。
着替えが必要なので客車に入り込みミアという少女の服を拝借して
いる。
「いや、ごめんね。あたし、服全部忘れてきちゃってさ。
あ、パンツも借りていい。え?いいの〜?ね?聞いてる?」
先ほどのフィオナという名前が非常に気になるが、まぁいいだろう。
ジェイドは寒気を感じながらも気のせい、気のせいと自分に言い聞かせた。

バナナを頬張りながら車窓から見える景色を何気なく眺める。
こちらに向ってくる2人の姿。
あれはさっきの狼男と――!?
それにぶつかった女性の姿に言葉を思わず発してしまう。
「え?えぇええええええええ!!!!」

やはり気のせいではなかったのか。
ジェイドは一際強くなった寒気に歯をガタつかせながら
客車の隅で縮こまった。



260 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2009/12/26(土) 23:53:18 0
帝国軍の大軍が現れた

261 名前:アイン ◆mSiyXEjAgk [sage] 投稿日:2009/12/27(日) 01:32:03 0
「ああ、やっと見つけたぞ。おい、お前だお前。そこのアホ面だ」

列車を降りて駅構内を歩き回り、アインはようやく目的の人物を見つける事が出来た。
彼の視線の先には、先の戦闘で大立ち回りを果たした男、レクストの姿がある。
何やら首に布を巻き、更にその上からやたらと首筋を撫で意識しているようだった。
が、アインはそのような事は気にもかけない。
せいぜい『田舎者は随分と変わった服飾の感性をしているのだな』と思ったくらいだ。

言葉を受けて、レクストはアインの方へと顔を向ける。
とても自然に、反射的とも言える程素早く。

「……アホ面と呼ばれる事に抵抗はないのか? まあいい、お前とあの筋肉馬鹿しか顔を覚えてなくてな。
 筋肉馬鹿の方は馬が合わん上に面倒だからお前に言っておくぞ」

返事を待つ事もなくアインは鞄を開き、中から一枚の皮を取り出した。
先程列車を襲撃した魔物の頭領、その額から剥いだものだ。

「これはさっきの魔物から取れた物だ。……ここに明らかに人為的だと分かる魔法陣があるだろう?」

その魔物の皮が、レクストの目と鼻の先にまで突きつけられる。

「そして話は変わるがお前は、お前の仲間達は先日のヴァフティア事変で随分と活躍したそうじゃないか。
 列車の乗客達が随分と騒いでいたぞ。……おい、鼻を高くしてる場合じゃないぞ」

双眸を細めて、アインは少しだけ誇らしげにしているレクストを制した。

「それはつまり、こう言う事なんだからな」

自分の言葉がレクストに深く刻まれるよう一度口を閉ざし、一呼吸の間を置いてから続きを紡ぎ出す。

「ヴァフティアを救ったお前達が乗り合わせて列車を、謎の魔法陣を刻まれた魔物が襲撃した」

アインの言葉に、呆けていたレクストの表情が僅かに曇った。

「これは偶然か? まあ偶然の可能性も無いとは言えないだろう」

けれどもレクストの表情は既に、その可能性を否定するかのように険しさを浮かべている。
ようやく理解したかと、アインは呆れを孕んだ嘆息を小さく吐き出す。

「その分だと、何か心当たりもあるようじゃないか。それなら話は早い、せいぜい気を付ける事だな。
 あの魔物に魔法陣を――それも恐らくは隷従の呪いを刻める程の奴が相手だと言うのなら、用心は幾ら重ねても足りないだろう」

一息に忠告を終えると、アインはぶっきらぼうな調子でレクストから顔を背けた。

「あの筋肉馬鹿とお前には貴重なサンプルを頂戴したからな、とりあえず忠告はしておいたぞ。
 とは言えお前達ならもっといい試験体が得られそうだが……流石に放蕩集団に付いて歩く程僕は暇じゃないからな」

最後にそれだけ言うと、手に持った皮をレクストに押し付けてアインは身を翻して去っていく。
押し付けたそれに、自分の研究所の位置を記した紙切れと、言外の意思を包んで。

262 名前:アイン ◆mSiyXEjAgk [sage] 投稿日:2009/12/27(日) 01:32:48 0
――帝都――

>「私は、貴様とは違うのだ」

猛牛の群れの中をさ迷う小鹿のようだった少年は、瞬く間に獅子の如く勢いを取り戻し、マルコを睨みつける。
惜しむらくは平々凡々としたその格好では、ジースの言は酷くちぐはぐでしかない、と言う事だ。
本人もそれは自覚があるようで、咳払い一つで仮面を取り外し、彼は再び口を開く。

>「……確かに僕は到底父には及ばない。暗愚と言われても何の申し開きもないさ。
> でも、僕は努力している。あの背中に追いつくことを必死に目指している。
> すでに自ら歩みを止めてしまった貴方とは、……違う」

自分に言い聞かせるように言葉を紡ぐジースに、マルコは双眸を細める。
その視線に込められた感情は、憐憫だ。
その努力は少しでも報われているのか。結果は出ているのか。
意地の悪い疑問が彼の脳裏に浮かび上がるが、言葉には出さない。
それを言えば今の自分も過去の自分も、致命的なまでに貶める事になる気がしたからだ。

そうして数秒の沈黙が訪れる。

>「とりあえず、今僕は気晴らしに散歩がてら駅にでも行こうかなと思っているところです。
> 特に用がある訳でもありませんが」

不意に、一番初めに発した問いに答えが返される。
出し抜けな返答にマルコは一瞬硬直するが、

>「それにしても、貴族服を着ているというのは貴族であることを誇示しているも同義なのですから、
> 民に失望される前に身の回りはきちんとすべき、だと僕は思います」

ジースが身を翻し自分から彼の背中が離れていくと、
すぐに思考力を取り戻して再び彼の隣にまで駆け寄った。
そうして再度肩を組もうとするが、ぎろりと睨まれ制される。

「んだよー、そう固くなんなって。別に俺が付いてっちゃ困るような事でもないだろ? ただの散歩ならよ」

言いながらマルコは軽く、ぽんとジースの尻を叩いた。
だが今度こそ嫌悪を露見させた視線がマルコを突き刺し、仕方なく彼は肩を竦めてその場を誤魔化した。

「とは言えだなあ、俺にだってちゃんと用事があるんだぜ? お前さんと一対一で話す事なんざ滅多に出来ねえからな。
 前々から聞いてみたかった事があるのさ」

一旦言葉を切り、マルコはジースの反応を待つ。
けれども答えはない。
ひとまず否定や拒絶ではないと楽観的な判断を下すと、マルコは口を開き抱えていた疑問を紡ぎ出す。

「お前さん確か、アインとこの役学に投資してたよな。ありゃ何でだ?」

263 名前:アイン ◆mSiyXEjAgk [sage] 投稿日:2009/12/27(日) 01:35:44 0
はっきりと言ってしまえば、役学は奇特な学問だ。
斬新と言えば聞こえはいいが、魔法と奇跡が溢れているこの世の中で、
そのどちらにも頼らずに何かをすると言うのは、普通の人間からすれば無駄としか思えない。

だから役学に投資しているのはメニアーチャ家とロンリネス家。
あとは考えなしに両家の真似をしておけば、何かしらにあやかれるだろうと目論む少数の貴族達しかいない。

ともすれば。
役学に投資し携わるには、それ相応の理由がある筈なのだ。

勿論、マルコにはそれがある。
研究をしている張本人のアインにも、当然あるのだろう。
ならばこの青年はどうなのか。

マルコが期待を秘めて発した問いに対して、しかし返ってきたのは拍子抜けな答えだった。
なにせジースが出資をしている理由は『父が出資していたのなら、自分が打ち切る理由もない』でしかなかったのだから。

内心、マルコは失望した。
彼自身に対してではなく、彼の未来に。
文字通り、希望を失ったのだ。

父の背中を追い努力しているとは言っていたが、今の答えを聞く限りでは、到底そうとは思えないだろう。
寧ろ『父がそうしていたからそうする』などと言うのは、思考停止に他ならない。

偉大過ぎる父親のしてきた事を否定しろとは言わないが、
せめて自分の考えくらいは持つべきではないのかと、マルコは心の内で彼を案じた。

けれども、それを口に出してしまえる程自分が立派ではないと、彼は自覚している。
何よりこうも落ちぶれた自分の言に、ジースが耳を貸す筈もない。

「……そうか、そうだな。親父さんみたく、なれるといいな」

そう諦観したマルコは語調だけは明るく、彼に励ましの言葉を送る。
けれども瞳の奥で揺れる憐憫だけは、隠し切れなかった。
それにジースが気付いたのかは、果たして分からないが。

264 名前:フィオナ ◆tPyzcD89bA [sage] 投稿日:2009/12/27(日) 02:54:57 0
中継都市『ミドルゲイジ』
先の列車襲撃の報を受けた鉄道の職員達が慌しく走り回り、その爪痕の修復に追われている。

その光景を横目に車掌室を後にするフィオナ。
魔物の襲来の最中大立ち回りを演じた際にギルバートの無賃乗車がバレたのだがそれを車掌が揉み消し
さらには道中の護衛を条件に追加料金も不問にしてくれたことへのお礼の帰りというわけだ。

(それにしても……)
あの襲撃は色々と妙だった。
乗り合わせて居なかった警備員。統率の取れた魔物の群れ。
耐魔ガラスをものともしない敵。これについては意図的にすり返られていた可能性すら考えられる。
魔物のリーダーの傍で無傷で昏倒していたハスタ。その近くに幽かに漂っていたのは瘴気ではなかっただろうか。
漂っていたといえば機関室の甘い香り、そしてレクストの首筋に付いていた口唇の――

――ブンブンと頭を振り思考が脱線しつつあったのを振り解く。
しかし途中から前方をほとんど見ていなかったツケは払わされることとなった。

「きゃっ!?」
『おっと。悪い、大丈夫か?』

列車の外から戻ってきたギルバートとぶつかった。
全く予期していなかった衝撃に体が傾ぐがギルバートのしなやかに伸びてきた腕に助けられる。
抱きとめられる格好になった恥ずかしさと、先程までの愚にもつかない様な思考のせいと。

「あっ、わわ、ありが……。」

やや表情を硬くしつつ早口で謝礼を述べようとして――

『――・・・アンタ、顔が怖いって。かわいい顔が台無しになるぞ』

貶された。いや褒められたのか。

『何か知らんが、溜め込まない方がいいぜ。愚痴は吐き出した方がいい。
 ・・・ああ、あと色気もちっとは増やした方がいいな。男を逃がすぞ』

今度は子供扱いされた。しかも頭まで撫でられて。
恥ずかしいやら悲しいやら、色々と複雑な感情が沸きあがり赤くなりつつ上目遣いでジト目で睨みつけ。

「なっ、なな……。ギルバートさんもその一因でしょうがっ。」

若干照れ隠し気味に掌を叩きつける。その手には一枚の金貨。
メトロサウスで無賃乗車の片棒を担ぐ際にギルバートより渡された賄賂である。

「つい先程お礼に行った際に返されました。護衛業頑張ってくださいね。
まあ私は正規料金を払っていますので。せいぜい労働に勤しんで下さい。」

ふふんと、胸を張りつつ挑発を返す。
対するギルバートはそれすらも楽しんでる様子だった。
気を使ってくれたのも事実なのだろう。実際気分も軽くなった気がする。

「そういえば、ミアちゃんは一緒じゃないのですか?」

姿の確認できない仲間の行方を、とりわけギルバートと一緒に居ることの多いミアのことをなんとはなしに聞いてみる。
返ってくるのは短い否定。

「あらら、残念です。一緒に見て回りたいと思ったんですけど……。
それじゃあ私はハスタさんの様子を見てきますね。外傷は無かったので大丈夫だとは思うのですけど……。では、また後で。」

本当は魔法の扱いに優れたミアと一緒に念のためにと運ばれたハスタの容態を見に行きたかったのだが。
ギルバートと別れるとフィオナは救護室へと足早に歩き出した。

265 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/27(日) 11:12:49 0
見栄張ってた者共が続々と書き込んでいるなwwwww

と喋りながら、謎の男が切りかかってきた!!

266 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/27(日) 18:13:37 0
まとめサイトだと気軽に編集できないので、wikiにまとめなおしてみた。
http://www29.atwiki.jp/darkf/pages/15.html


267 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/27(日) 19:29:59 O
>>266
使うと思ってんのか?
タコ助

268 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/27(日) 19:50:07 0
まとめサイトに載ってる情報まで書かんでもいいのではないか。
キャラテンプレとか。

269 名前:ミカエラ ◆FrpheMG1d2 [sage] 投稿日:2009/12/27(日) 22:14:24 0
鳥の音が響く、帝都の閑静な居住地区にその建物はあった。
周囲の家々からまるで隔離でもされるかのような緑に囲まれた場所。それが彼女の住処である。
薄暗い室内は一切の明かりがなく、今が昼間であることをまるで感じさせない。
書物が散らばるベッドにうつ伏せになった女がゆっくりと体を起こす。
薄地の布切れに包まれた重そうな乳房を揺らしながら手を掲げ、魔法灯の明かりを点けた。
女の眠たそうな顔、艶かしい曲線が浮かびあがる。
ミカエラ・マルブランケ。かつては教導師として帝都の教育文化を担っていた錬金術師である。

「いよいよ今日かしらねえ。上手く行けばいいのだけど…」
窓の外を見ると、日の位置は既に正午を指す頃である。
慌てて寝巻きを脱ぐと、下着をつけ、教導院時代の魔道着に着替える。
「くっ…」
それは予想以上にきつく、この場所に篭ってから余分な肉がついたことを示した。
24歳のまま老化を止めた顔が一瞬歪んだが、すぐに元の柔和な表情に戻る。眠気はすっかり覚めてしまった。
その時、ミカエラの視界にある物が映った。
「ルカイン… 貴方はこんな私をどう思うの…?」
大きな硝子の箱に入った青い皮膚をした人間のようなものは、眼を閉じたまま何も答えようとしない。
一ヶ月前、「これ」は突如として全く動かなくなった。
その事がどれだけ彼女の心を傷つけたかは分からない。大切な恋人のような存在だった。

「レック…キミは私をまだ覚えてるの…?」
レック…レクストをかつての愛称で呼び呟く。
少し前に黒服の男から聞いたのだ。レクストが帝都に向かっているということを。
間違いなく、あの子はあの場所に立ち寄る。
行き先は従士隊本部屯所。以前から魔法訓練依頼などで訪ねたこともあり、ある程度の内部事情は得ている。
ナイフで魔道着のスリットを深くし、腰に魔法道具のポーチを装着すると、
強力な守護方陣で家を覆い、一週間ぶりに彼女はこの場所を離れた。

270 名前:ミカエラ ◆FrpheMG1d2 [sage] 投稿日:2009/12/27(日) 22:15:46 0
予想以上に事は上手く進んだ。
従士隊本部の屯所長は、あっさりとミカエラの篭絡にかかり、
いくつかの魔法装飾品と一晩の体と引き換えに、ミカエラに「臨時魔導顧問」の座を与えた。
彼女は従士たちに魔法の知識・実技を教える代わりに、屯所に寝泊りする権利を得たのである。
専用の部屋まで与えられ、その待遇は隊長級である。
その膨大な魔力は瞬く間に従士たちの間で噂になり、入り口には彼女の所在を示す
看板まで立つほどとなった。

「レック…早く会いたい、会いたいわぁ…」
窓の外を眺めながらかつて教えを忠実に守りついて来た教え子の名前を呟く。
弟のような存在でもあったが、修了の日のレクストのたくましい顔は今でも覚えている。
あの時ルカインという存在がいなければ、あるいは恋人としてあの子の後を追ったかもしれない。

ドクン…
そのとき、ミカエラの体に異変が起こった。
「うぅ… あぁァっ…!」
強烈な頭痛、全身に走る気だるさ、こみあげる不快感…
(そんな!? もう…なの?)
ミカエラの体がびくり、びくりと痙攣する。椅子の上で体を仰け反らせ、時折
うめき声を上げた。
(「アレ」は…! あ…あったわ…)
ポーチから黒塗りの小瓶を取り出し、中の液体を一口含み、嚥下する。
次第に痛みが鎮まり、表情は次第に緩んでいった。やがて浅い眠りに落ちていく。

全てはあの依頼が始まりだった。金髪黒服の男が、かつての「製作物」を
作ってくれと直接訪ねてきた。…その時に「気持ち」と称して貰った小さな黒い瓶。
それは甘美な誘惑だった。恋人を失い失意にくれるミカエラの自暴自棄を、あの男は見逃さなかったのだ。
一を得れば十を欲しくなる。十を得れば百を欲しくなる。
そんな性格の彼女は、恋人と過ごす甘い夢に酔いしれ、気が付くとそれの虜になっていた。
「製作物」を男に収める代わりに、ミカエラは毎回のようにそれを欲したのである。

ところが、従士となったレクストの名を聞いて彼女は我に帰った。
このままでは「アレ」に飲まれてしまう。彼なら、自分を孤独から救ってくれるかもしれない。

柔和で温厚な仮面を被った彼女は今、椅子の上で静かに眠りにつき、かつての教え子と再会できる日を待っていた。

271 名前:ミカエラ ◆FrpheMG1d2 [sage] 投稿日:2009/12/27(日) 22:19:38 0
名前: ミカエラ・マルブランケ
年齢: 27歳(肉体は24歳で止まっている)
性別: 女
種族: 人間
(職業:錬金術師)
体型: 身長175cm、巨乳で巨尻
服装: 様々な衣装を持っているが、胸元と臍が見える魔道着、派手な多数のアクセサリー
能力: 膨大な魔力が自慢だが、格闘能力もかなり高い
所持品: 魔術師の杖、その他様々な錬金アイテム、ナイフ等
簡易説明: かつては王立教導院の若手教導師であり、レクストにとっては恩師であった。
     だが、ある日恋人を殺されたことにより、教導師の地位を捨てて錬金術への道を志す。
     復讐の心に燃えながら研究に没頭していくある日、レクストが帝都に戻るという知らせを受ける。

【よろしくお願いします。】

272 名前:ルキフェル ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2009/12/28(月) 00:21:06 0
――明朝 帝都・国立研究院地下

古代帝国などの遺品が保管されている国立研究院の地下倉庫。
そこにルキフェルはいた。
数々の貴重な装具品や古代魔法王国の残した書物などが厳重に
保管されている。
古代魔法王国に残された書物を閲覧しながらルキフェルはバルバと呼んだ
女と共に”最後の1枚”を見つけるべくこの場所へ来ていた。
最後の1枚。それはルキフェルが完全に目覚める為の最後の欠片だ。

「ゴルバはあのグレイス……でしたっけ。彼の、いや彼女ですか?
まぁ、どちらでもいいですが……ちゃんと伝えたのですかねぇ。」

ゴルバ。グレイスのところへ使いにやった魔族の1人だ。
禿げ上がった頭頂部、みすぼらしい格好だが
その実力は侮れない。
バルバは地下室に漏れる朝日を睨みながら呟く。

『問題は無い。それよりも……あのニンゲンを甘く見ないほうがいいぞ。
あの女の心には、まだ”光”がある。』

バルバの言葉を耳を掻きつつ聞くルキフェル。
本を閉じると書庫へ歩み寄りながら微笑んだ。

「ミカエラ・マルブランケですか。心配はいりませんよ。
彼女はいずれ闇に染まる。しかし、それは私が染めるものではない。
種は既に蒔かれそして根を張っているのです。あとは、彼女が咲かせる
だけ――そう。闇という花をね。」

赤眼が帝都全域に配布されるのも最早時間の問題であろう。
疫病を治し、難病を克服させるのも事実だ。
だが、その先に待つものを誰もまだ知らない。

NPC
名前:バルバ
年齢:不明
性別:女
種族:魔族
体型:長身、
服装:赤のドレス、バラの首飾り
能力: 神魔術
設定:ルキフェルと同等の位置に属する女。
古代魔法王国に関する知識を持っている。

273 名前:ハスタ ◆fmAKADpWIqWy [sage] 投稿日:2009/12/28(月) 12:51:12 0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
無明の暗闇の中、わずかに赤い光が指す。
あぁ、これか。また、いつもの、夢か・・・・・・

目覚める直前、右手が何かを握っている事に気づいたオレは無意識にそれを握ってから起きた。
握っていたのは赤い槍のような物。ルビーを荒っぽく削ったような歪な外見の細い槍だった。
それはオレの見てる目の前で手の中に溶け込むように消えちまった。
驚いたオレが咄嗟に周囲を見渡すと、一面の赤、紅、アカ・・・
赤い床、紅い壁、アカい天井。薄暗いその部屋の周囲一面に横たわっているのは白い襤褸を纏ったまま寝ている人が大勢。
記憶はあやふやだが、ざっと数百人はいるだろうか。何人かはオレと同じように起きていた。
オレ達が起きたのに気づいたのか、ちょっと服装の違う奴が近づいてきた。
ぱっと見た瞬間に、オレは学んだ覚えの無い知識が囁く。『コイツハ、人間ジャナイ』

体は人間だろう、要するに死体を魔術か何かで動かした代物ってことだ。
あるいはかなり精巧なフレッシュ・ゴーレムもいたかもしれない。
ともかくオレはその内の一体に手を引かれて連れて行かれた。
そこは何かの扉の前、連れて行かれた先には二人の姿があった。
一人は気の強そうな黒髪の女。アイツはそっぽ向いて不機嫌そうだったな。
もう一人は何故か困ったような笑顔を浮かべた白髪の男。あいつは押しの弱そうな奴だった。
この二人が、オレにとって最初の仲間だ。そして             

      オレはその一人を見殺しにし、もう一人をこの手で殺した

――そして、連れて行かれた後。
恐らく同様に一通り目覚めた他の連中が3人ずつそれぞれの扉に集められた頃。
壁面の一箇所に巨大な人影が映った。シルエットでしか分からない。
『神魔術により生まれし栄光の子らよ、今この時より諸君は傍に居る者と共に歩んでもらう。
 己の性能を存分に見せよ!そして、この塔を制覇した者には・・・・・・』
そのセリフと同時に天井が開いた。薄暗い部屋に遠くから光が差し込んできた。
恐らくその場にいた連中が皆見上げ、そして同じ感想を抱いたんだろう。
その光は、美しいと。あの光の下にたどり着きたいと。それが・・・連中によって植え付けられた意識だったとしても。

『――塔を制覇した者達にはあの光の下に自由が保障される。さぁ、行くのだ!』
そういい終わると壁面の映像は消えた。その声に押されるようにオレ達は扉の向こうへと歩を進めた。
扉の向こうに出た途端背後で扉は閉じ、前方にはただ赤い通路が続いている。
オレ達三人は誰からともなくその場で座って、とりあえず話す事にした。

「・・・・・・で?とりあえず自己紹介あたりから始めない?アタシは0537」
そう口火を切ったのは黒髪のアイツ。オレ達の頭の中には自己を認識できる物は自分の番号しかなかった。
「ボクは0801。なん、だけ、ど・・・・・・番号じゃ呼びづらいし、名前を考えないかい?」
白髪のあいつがそれに続く。
他の二人も同様だったんだろうな。ちなみにオレは0013。0番ロットの13番目だ。
「じゃあ・・・私はソアラ!あの光から取った名前よ。」
「いい名前だね。ボクは、そうだな・・・・・・アルヴァン。白って意味で。」
「何よ。髪の色そのまんまじゃない・・・・・・で、あんたは?」
何故か最初っから打ち解けた風の二人の会話に惚けていたが、どうやらオレの番らしい。
頭の中にある知識から単語を引っ張る・・・・・・

「ハスタ。“長槍”のハスタだ。」
それからオレはこの名前を名乗ることになった。
何でこんな名前にしたかっつーとオレが最初に見たのがあの赤い槍だったからという単純な理由。
今更だけどあまりにも安直だ。まぁ二人がポンポン決めてしまったから焦ってたんだろうな。

そして・・・・・・忘れもしない瞬間がやってくる
――あの二人の死に様が。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

274 名前:ハスタ ◆fmAKADpWIqWy [sage] 投稿日:2009/12/28(月) 12:51:58 0
十字架にかけられたオレの体は動かない。隣であいつも抵抗しているが外せないようだ
アイツが微笑んでいる。――何で笑ってられるんだ
「だってホラ、アンタ達が私を思い出す時に暗い顔ばっかり思い出されてもイヤじゃない?」
「ふざけろ!オレを殺せばいいだろうが!オレみたいな出来損ないよりお前ら二人の方が脱出の可能性が高いだろ?!」
喉が枯れる程叫んでもこの身は微塵も動かせない。
オレ達三人は、この部屋に入った途端アイツを除いて罠にかけられた。
一つの部屋につき一つの課題《タスク》、そしてそれをクリアするまでは部屋を出る事は許されない。
この部屋の《タスク》は『生存者が二名以下であること』
アイツの前には二つの光る水晶球がある。それぞれどちらかを砕けば拘束された二人のどちらかが死ぬのだろう。
だが、結局そのどちらも選ばず・・・アイツはその両手を己の眼前に掲げる。
両手に宿った青い光が、首元でナイフへと姿を変えてゆく。
「じゃね、あんた達ちゃんと脱出できなかったら承知しないよ?じゃあ・・・バイバイ」

――そうしてオレはアイツを見殺しにした。見殺しにする事しか出来なかった。
そうしてまたオレとあいつ二人だけで逆塔を登った。
だが、どちらも確信していた。またこの選択がくる、と

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

訪れたその時はもっと最悪だ、最早選択肢と呼べる選択肢すらありはしない。
お互いが拘束された状況。選択者は両方。《タスク》は『生存者が一名以下となること』
許可された行動は二つ。『目の前の相手を突き刺す』か『何もしない』のみ。
どういう理屈か完全に意識が絡め取られて体が他に動かせない。
「はは、は・・・やっぱり来たね。前回の彼女の行動が余程『彼ら』には気に食わなかったんだね。まさか、ここまで徹底的にするなんて」
「冗談じゃねぇぞオレは絶対お前を殺さねぇぞ!」
「それは困るなぁ。僕もキミを殺す真似はしたくないんだ。それに、実を言えばさ・・・」
言いたい事は分かってた。あの二人が互いに好意を持っていた事は傍から見ればすぐ分かった。
アイツが死んだ時にも何も触れなかったが、きっと一番精神的にダメージを受けたのはオレじゃなかった。
それからというものあいつはどこか戦い方が荒く、命を粗末にしたような動作が多くなった。

「僕は、もう生きていようという心算もない。だから、キミが行ってくれ」
「畜生!何で・・・何でこんなッ!」
「キミは生きてくれ。生きて、僕と彼女が存在したという証を立ててくれないかな。
 キミは強い。戦いにおいてではなく、心が。だからきっと先へ行けるはずだ。」
あぁ、あいつの浮かべる笑顔、見覚えがある。アイツと一緒なんだ。
全部――覚悟して
全て――決意して
何もかも――投げ捨てて

だからオレは、その望みを叶えた

吐き気がする。気持ちが悪い。
確かに選択を強要されたような状況だったが
まず間違いなくオレはその中でも決断した、してしまった。
タスクは終わり、拘束を解かれたオレはあいつに駆け寄った。
いや、走れなかったから這いずるようにして行った。
既に手遅れの致命傷、あいつは死んだ。声を掛けても答えない。
泣こうと喚こうと決して戻らないんだ。

あいつの亡骸を抱え、泣き叫んだ
どれだけの時間が経ったのかも覚えては居ない
涙も喉もが枯れたのに、瞳と口からは更に血が流れ出す
でもこれだけは、これだけは言わなければならない。枯れた喉で最後の力を振り絞る

「オレは、この場で誓う。お前達の生きた証を建てると!そして、オレ達をこのふざけた運命に陥れた奴を!」
絶対にこの手で殺してやる、と――――

275 名前:ハスタ ◆fmAKADpWIqWy [sage] 投稿日:2009/12/28(月) 13:01:54 0
>264
――――――――――――――――――――――――――――――――――
「そう、殺し――ッ?!」
身を起こしたオレは、列車の寝台についさっきまで横たわっていたらしい。
口の中に違和感を感じて吐き出すと、そこには薄っすらと曇った小さな水晶球。
手に取るとわずかながら瘴気の残滓を感じる。

「ふざけやがって・・・塩を送ったつもりか!」
力を込めると、あっさりと水晶球は手の中で砕け散った。
どうやらあの車両で腹をぶち抜かれてから、この寝台に運ばれたらしい。
いやそんな事より重要なことがある。さっきの夢に聞き覚えのある言葉が・・・・・・そう『神魔術』、『神魔術』だ!

ふと、物音がしたのでそちらを見るとフィオナがびっくりした顔でこっちを見ている。
寝台から起き上がってフィオナの方に詰め寄る。何故かとても動揺しているが構っている場合じゃない
「黒髪だ、黒髪の女を見なかったか?!歳は13,4ぐらいで黒いドレスにブルーの瞳の・・・」

言っているうちに気づいた。そうだ、恐らく相手は姿を変えていた。ってことはもうとっくに脱出した頃だろう
「・・・・・・悪い。何でもない。・・・心配掛けたな、体はもう大丈夫だ。」
重要な記憶の欠片が見えてきた。やはり、オレがレクスト達についてきたのは当たりだった。
なぜかしどろもどろしていたフィオナに背を向けて寝台に座り込む。
「・・・・・・やっとだ。やっと、掴んだ。そう、殺してやる・・・・・・」
両手を組んで呟くオレの心には、黒い炎が燻り始めていた。

276 名前:ハスタ ◆fmAKADpWIqWy [sage] 投稿日:2009/12/28(月) 13:03:00 0
【補足:ハスタ目覚める。フィオナに詰問するも自己完結した状態で呟いている】

277 名前:ローズ・ブラド ◆lTYfpAkkFY [sage] 投稿日:2009/12/28(月) 17:25:10 0
変身を解き救護室へ向う。
そこには同部屋だったフィオナという女性騎士とハスタがいた。
ドラルがフィオナの美しさに見とれてる間に、ハスタの腕を握り安堵の溜息を吐いた。
「良かったです。無事でしたか。」

ついさっきまで禍々しい邪の力を宿していたとは思えないその笑顔で
2人を見る。ローズは懐から筒を取り出しハスタに差し出した。
「飲んでください。僕の家に伝わる薬草を混ぜたものです。
体には良いはずですから。」
≪しかしいいのかぁ?本当の目的を隠しておいて≫
ドラルがローズの傍で囁いた。ローズがここにいる本当の目的。
それは…

ヴァフティアから来る客人を監視する。
そして頃合を見て、抹殺すること。

自身の一族の繁栄と引き換えに、彼らを殺す。
そうすればもう1度、吸血鬼が一流の存在として
返り咲けると。
ローズは口の中で感じる渇きを必死で抑えながらフィオナの首筋を見つめた。

「僕、初めてかもしれない。こんなに人を綺麗だと思ったの…」
赤くなりながらローズは眼を伏せた。
(ハスタに薬草水を渡す)

278 名前:ジース ◆vKA2q6Alzs [sage] 投稿日:2009/12/28(月) 18:56:00 P
突然和やかな返答になったのは、婉曲的に仄めかした拒絶の意思がそこにあったからだ。
ジースが己の心構えを語っている内に投げかけられた……あの視線。
そこにどんな感情が込められていたのか推して知ることも出来ないが――嫌悪感が湧いて仕方がなかった。

そんな意思を知ってか知らずかジースに絡み続けるマルコの姿。
再び肩を組もうとしてきた、一度目は怒りの視線。
軽口を叩きながら尻を叩いてきた、二度目は嫌悪の視線。
肩をすくめるその姿を見て、やっとマルコに拒絶の意思が伝わったかと安堵したのも束の間のことで。
後に投げかけられたのは、疑問だった。

>「とは言えだなあ、俺にだってちゃんと用事があるんだぜ? お前さんと一対一で話す事なんざ滅多に出来ねえからな。
> 前々から聞いてみたかった事があるのさ」
こっちには聞いてみたいことなどないけれど――などと内心で毒づきつつ。
その先を促すかのような沈黙を続ける。

>「お前さん確か、アインとこの役学に投資してたよな。ありゃ何でだ?」
何で、と言われても。暫し言葉に詰まるが、すぐに自分の言葉で語り出す。
「僕が、というより父がですね、進んで投資していたのは。
 投資するに至った理由などは定かではありませんが、
 あの父が投資して居たというのなら、それはつまり投資すべき事柄ということでしょう。
 父の遺志を無視してまで僕が一方的に打ち切る理由などありませんよ。
 資産に余裕がない訳でもありませんから」

語り口は自身に溢れている。
父の背中を追い続けることが、自分の誇りだとでも言い出しそうだ。

偉大なる父がいた。その父に追いつくため、まずは父をそのまま受け継ぐことから始めた。
そして――父と同じことをしていれば父と同じになれると信じて已まない。
仮になれたとしても、そこにあるのはよく出来た紛い物。模倣、贋作、劣化。
追い越せはしない。追いつくこともない。

>「……そうか、そうだな。親父さんみたく、なれるといいな」
「――言われなくとも、そのつもりです」
自信を持って、はっきりと答える。前を見据えて。
だから。
マルコの視線にも。
それに込められた感情にも。
一切気づくことはないままだ。

再び沈黙が支配する。
二つの足音が並んでいるだけ。

「……そういえば、その役学の学者がヴァフティアに向かっていましたね。
 そろそろ、帝都に戻ってくる頃合でしょうかね」

279 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2009/12/28(月) 21:56:12 0
ダークネス

280 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/29(火) 03:33:59 0
ダークネスってどこかのスレに昔いたな

281 名前:ジェイド=アレリィ ◆EnCAWNbK2Q [sage] 投稿日:2009/12/29(火) 17:29:16 0
ミアは外を眺めたまま、返事が無い。
もう1度聞いてみよう。
「あの、さ。パンツをその……借りてもいい?」
ダメだ。まるで反応が無い。
私はバナナを差し出してはにかんで見せた。
「バナナ、食べる?ね!」
ミアは面倒くさそうにこちらに振り向き一言だけ。
−絶対、嫌

こちらを不審気に見回した後、1度だけ首を振り溜息をついて
ミアは再びそっぽを向いた。
私は困ったなぁと思いつつ部屋を出て行く。
修理作業を行う乗務員達の間を掻き分けて歩いていく。
ふと、目の前に視線を向けるとそこには見覚えのある
鎧を着た青年がいた。
「あ!マジカルアーマー!?もしかして、あんた従士?」
馴れ馴れしく青年の肩を叩き、白い歯を見せる。
「懐かしいなぁ、っていっても1年前くらいだけどね。
もしかして帝都に行くの?ね?」

クルクル回りながら色んな角度で青年を見る。
あまり女馴れしてない感じもするけどそれが返って面白そうだ。
「帝都かぁ。私も久しぶりだから楽しみなんだけどね。」
ニッコリ笑って青年の股間をポンと叩いた。

「も〜いくつ寝ると帝都だよぉ〜帝都に行けば飯食って〜♪」




282 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2009/12/29(火) 20:03:21 0
帝都で地震が発生し、町の半分が壊滅状況におちいった

地震の原因は表向きには自然現象とは違っていた

その原因とは・・・

283 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/29(火) 20:25:36 0
>>282はスルーで

284 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/29(火) 21:15:45 0
名無しの判断じゃねーだろ
意思を統一させたいならコテで書き込めや

285 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/30(水) 00:30:43 0
名無しでストーリー書き込みたいなら質雑スレ池よ屑

286 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/30(水) 01:01:16 0
名無しのネタがあしらえないなら、素直に名無しお断りと告知しとけばいいんじゃね?


287 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2009/12/30(水) 03:04:08 0
>>285
なんで?

288 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/30(水) 03:35:17 0
ここそういうスレじゃねーから!

289 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/12/30(水) 04:58:57 0
「――ああ、やっと見つけたぞ。おい、お前だお前。そこのアホ面だ」

言われてレクストは反射的に振り向いた。言われたというより『呼ばれた』といった反応。
振り向いてからレクストは、そうしてしまったことと、その行為の愚かさに気付き、頭を抱えたくなって、二秒後には綺麗に忘れた。
中継都市ミドルゲイジ――補給と補修と補充の為に列車はこの都市へと停車していた。その間の一幕である。

「んん?白衣か、なんか用かよ?俺は今俺自身の沽券に関わる命題について煩悶する系の作業に忙しいぜ?」
「……アホ面と呼ばれる事に抵抗はないのか?」

実際、思考に没頭していたことは確かである。機関室で謎の美女に吸われた首筋には痕が残った。痛みは無いが、その割りにくっきりと。
元来鏡を見ない性質のレクストとしては特段気になるようなものではなかったが、見せていると何故かフィオナの機嫌が悪くなるので
暫定的に黒刃に巻いていた封印布を少々拝借して首に巻き、しかしそのファッションが意外にも彼の男心を刺激したため何度も位置を正していたのだ。

(トレードマークにしてえな……帝都行ったらいっちょスカーフ風のを仕立ててもらうか!)

「まあいい、お前とあの筋肉馬鹿しか顔を覚えてなくてな。筋肉馬鹿の方は馬が合わん上に面倒だからお前に言っておくぞ」
「おいおい甘いな!俺の面倒臭さは駄犬を遥かに凌駕するかもだぜぇ……?」

無視された。ガン無視である。白衣の男は鞄へ腕ごと突っ込むと、神経質そうに掻き回しながら一枚の襤褸切れにも似た何かを取り出した。
「これはさっきの魔物から取れた物だ。……ここに明らかに人為的だと分かる魔法陣があるだろう?」

無遠慮に鼻先まで突き出されたそれは、魔物の皮――それも極めて新鮮なそれである。
実際に対峙したレクストには理解できた。先刻撃墜したばかりの有翼種、その親玉のものだった。

「そして話は変わるがお前は、お前の仲間達は先日のヴァフティア事変で随分と活躍したそうじゃないか。列車の乗客達が随分と騒いでいたぞ」
「ホントに随分変わったな!けどすげえだろ俺、なあ、もっと褒め称えられて然るべきだと思うんだぜ俺は!」
「……おい、鼻を高くしてる場合じゃないぞ。――それはつまり、こう言う事なんだからな」

今まさに勝ち誇らんとしていたレクストの出鼻を挫き、白衣は一端焦らすように押し黙る。
「ヴァフティアを救ったお前達が乗り合わせて列車を、謎の魔法陣を刻まれた魔物が襲撃した」

十分な余韻を持って、再度飛び出した言葉は、
「これは偶然か? まあ偶然の可能性も無いとは言えないだろう」

レクストの片眉を吊り上げるのに余りある響きを持っていた。喚起される記憶は戦禍の故郷、母親の死体を駆る金髪の美丈夫。
それに、客車でハスタが昏倒していた。目立った外傷はないにも関わらず、衣服だけがぶち抜かれていたという。
どう考えても周辺に住む魔物の仕業ではない。もっと強大で、かつ不明瞭な力の存在を彼の後ろに感じた。

「その分だと、何か心当たりもあるようじゃないか。それなら話は早い、せいぜい気を付ける事だな。
 あの魔物に魔法陣を――それも恐らくは隷従の呪いを刻める程の奴が相手だと言うのなら、用心は幾ら重ねても足りないだろう」

「なるほどなるほど……上等、だな。どうやらあの金髪、俺の熱烈なファンみてえだ。――こんな洒落た贈り物までくれやがって」

「あの筋肉馬鹿とお前には貴重なサンプルを頂戴したからな、とりあえず忠告はしておいたぞ。
 とは言えお前達ならもっといい試験体が得られそうだが……流石に放蕩集団に付いて歩く程僕は暇じゃないからな」

そこまで言って、白衣はレクストから顔を背け踵を返した。魔物の皮と――彼の所属する研究所の所在を記した紙を押し付けて。
紙切れには終ぞ聞くことの無かった彼の名前が記されていた。

アイン=セルピエロ。

言葉にはしない意思をレクストに託し、彼は補修作業に追われる都市の人混みの中へと消えていった。

「――あ!マジカルアーマー!?もしかして、あんた従士?」
「ああ?いかにも俺は従士だけどよ、アンタよくこれがマジカルアーマーだって分かったな」

続けざまに呼ばれ、振り向くと知らない女が立っていた。否、立ち振る舞いはとおかく、顔のつくりは知ってる誰かに似ている気がする。
にっ、と男好きのする笑みを浮かべながらレクストを値踏みするように観察する。おもむろにポンと彼の股間を叩き、

「帝都かぁ。私も久しぶりだから楽しみなんだけどね。も〜いくつ寝ると帝都だよぉ〜帝都に行けば飯食って〜♪」

290 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/12/30(水) 05:08:17 0
結論から言えば、もう二つ寝ると帝都だった。


【一一〇〇時:『帝都エストアリア』・鉄道用ゲート――】

昼に差し掛かろうと影を縮める陽光の中、ゲート内のホームでは警笛を合図に鉄道員達が蜘蛛の子を散らすように作業を開始した。
線路上の障害物を確認し、残っていた作業員を引き揚げ、魔導灯を操作して列車へとサインを送り、受け入れ態勢を整える。
列車がホームへと滑り込む際に突風が発生するため、駅舎の鎧戸は全て閉まり、駅員達は手近な物に掴まって停車に備える。

『鉄道都市メトロサウス発の登都便が停車致します。入門時の突風にご注意下さい――』

音響管を通してのアナウンスが響き終える前に、それは唐突を伴なってやってきた。閑散としたホームは鉄塊と突風で一瞬のうちに埋められ、
制動の擦過音と紫電を散らしながら減速していく。慣性を魔力で強引に押し留めるブレーキングは、しかしなめらかに鋼の巨躯を停止させる。
蓄えられた過熱を蒸気に変えて放出し、ホーム内の空気を根こそぎ白く塗りつぶす。染まった視界が開く頃には、列車がそこに鎮座していた。

「お待ちしておりました、道中非常の事態に見舞われたもののお客様の無事がなによりです。ようこそ帝都エストアリアへ」

駅長が歩み出て歓迎の文言を述べると、まず機関室の鉄扉が開き、気圧の混じる快音と共に機関士達が吐き出される。
彼等はいち早くホームに降り立つと、安全のため中から開けられないよう外装に取り付けた閂を外して客車の扉を開放した。

「――っつああああ、腰いってええええええ。着いた着いた!」

既に扉の傍で待機していたレクストが最初に飛び出した。何度経験しても長旅は馴れないらしく、しきりに腰を叩きながらの登場だ。
その後ろを客車に居た子供達が待ってましたと言わんばかりに駆け出していく。子供と列車を出る順番を争っていたレクストであった。
後からゆっくりとそぞろ出て来る乗客たちに混じって、彼の同行者達も晴れて帝都の地を踏む。


【帝都エストアリア・入門審査局:SPIN『駅』】

入門審査が完了し、登都便の乗客たちは審査局のロビー端にあるSPINの『駅』へと誘われた。
無論審査局から直に街へ出ることも可能だが、ここは広大な帝都の端、近くにあるのは農園と住宅地ばかりである。
ろくな交通手段も通っていないので、観光や登城目的の人々(今回は全員がそれだった)はここからSPINを利用するのだ。

「とりあえず3番ハードルの『駅』まで跳ぶか。あそこにゃ従士隊の本拠があるし、SPINのターミナルがあるから観光にもってこいだ」

レクストが述懐する。SPINの『駅』は直径3メートルほどの術式陣であり、行きたい場所を指定して陣に乗ることで発動する。
ターミナルとは『駅』の統括案内所――どこにどんな建物があり、どの『駅』を指定すれば良いかを教えてくれる案内所だ。

「初心者はちょっと『転移酔い』するかも知れねえな。まあすぐ馴れるぜぇ。そんじゃ行くか、指定はこうだな――『3番ハードル第23号駅』」

後ろ向きに喋りながら、ひらひらと手を振ってレクストは陣に乗り、そして消えた。まるで灯りを吹き消すように余韻も残さず消え去った。
暗転、明滅、眩光。体幹を掴まれて引っ張り上げられるような感覚。そのまま振り回されて、そこかしこにぶつけられる様な、
それでいて何の痛みも衝撃もない、慣性だけの身体になったような偽感。そのまま光の中に放り投げられて、着地したと思ったら。

「転移完了――ってわけだな!」

そこは大都会だった。ヴァフティアには数少ない巨大かつ高層な建築物がいくつも立ち並び、定間隔に並んだ鉄柱の先では魔導灯の光が踊る。
上空のミルキーロードをひっきりなしに箒が飛び交い、石造りの稜線は空から街を切り取ったまま視界の端まで続いていく。
足元の路面石材はなめらかに均され、ときおり魔力の光を網目の如く巡らせている。道行く人の流れは途切れることを知らず、同じ顔を二度と見ない。

「俺はよ、やっぱ帝都に来たって実感できるような場所でこのセリフを言いたいと思ってるんだ」

振り返れば『駅』の陣の上で次々と光が炸裂し、レクストに続いた同行者達がその身体を現出させていく。
帝都に縁のある者は懐かしそうな表情をし、初めてここへ来る者達は物珍しさと稀有な体験に目を白黒させていた。
レクストは軽く咳払い。両腕を広げ、彼等の眼に映る帝都の全てをその手の上に乗せて、愉快に口端を吊り上げながら、言った。

「――帝都にようこそ!」


【帝都到着  SPINを経て3番ハードルに  レクストはこのまま従士隊本拠へ向かいます  観光・別行動→ターミナルへ】

291 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/30(水) 12:03:25 0
肥満は名無しスルーか

292 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/12/30(水) 18:05:37 0
>>242
お前、何考えて参加しようと思ってんだカス

293 名前:ジェイド=アレリィ ◆EnCAWNbK2Q [sage] 投稿日:2009/12/31(木) 02:09:42 0
「ふぅ、戻ったぜ。やれやれだ。」

頭を掻きながら部屋を出て行く。
日の光がまぶしい中、俺はバナナを頬張りながら帝都の地を踏んだ。
「おいおい、そんなに急がなくてもいーだろぉ?まったく子供ってやつは
元気だよなぁ…」
我先にと列車から出て行く子供達の中に、この前の青年もいる。
俺は声をかけようと思ったが、どうやら彼も子供と一緒に列車を出る
順番を争っているらしい。
「姉ちゃんは…いないよな?はは、まさかね〜」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ――

「なんだ、この寒気はよぉ〜」
後ろでなんだか嫌な気を感じる。冗談かと思うほどの、嫌な気配ってやつだ。
あぁ、気のせいだ。そう思って少しだけ振り返る。
やばい、いた。こっちには気付いてないがすぐ後ろにいる。
俺は青年の後を追いながら何とか寒気の根源を撒けないか思案する。

後ろを振り返る。まだ来ている。
姉ちゃん、俺と気が合うんだな。あ、姉弟だからな。
そりゃそうだ。俺は嫌な汗をかきながらSPINまで来た。
(あっれ〜おかしいな。何でこの青年と同じ道来てんだ?
え、知り合い?いや、まさかなぁ。あははは。っていうか、何か話してたぞさっき。)

【帝都到着 SPINで移動】


294 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2009/12/31(木) 16:17:30 0
おっと、SPINのようすが・・・?

295 名前:アイン ◆mSiyXEjAgk [sage] 投稿日:2009/12/31(木) 19:20:03 0
>「……そういえば、その役学の学者がヴァフティアに向かっていましたね。
> そろそろ、帝都に戻ってくる頃合でしょうかね」

沈黙の中で発せられた言葉に、マルコは露骨に顔を顰めた。

「学者って、まさかアインの事か? ……おおっと! 何か急に大事な用事を思い出しちまったぞ!」

あからさまにも程がある虚言に、ジースは表情に不審を露わにする。

「だってよお、アインの奴やたら細かい所が『アイツ』そっくりなんだよなあ……。
 せーっかく口うるさいのを預けてんだから、自分から渦中に飛び込んでくこたあねーだろ?」

両手を肩の高さにまで挙げて、手の平を空に向けマルコはおどけてみせる。

「どーせ会っても飲みすぎに注意しろだとか賭け事は控えろとか、待ってるのはそんな言伝ぐらいだろうしな。
 俺は謹んで遠慮するから、お前さんからよろしく伝えといてくれよ」

面倒臭さを前面に押し出しての拒否だったが、彼の本心はそうではなかった。
怖いからだ。
研究の成果が上がっていないと伝えられる事が。

物心ついた頃には既に傍にいた『アイツ』が、このままでは助からないと伝えられる事が怖くて、彼は逃げるのだ。

「っと、そう言えば。列車から降りた人や物は全部ターミナルに運ばれるんだぜ? 
 列車を直接見たくてはるばる帝都の端まで歩きたいってなら止めやしねえが、骨が折れるぜ?」

走り去る最中振り返って、マルコはこのままでは迷子一直線であろうジースにそう告げる。
それは単純な親切心からでもあり、また自分の心中を万が一にも悟られない為の誤魔化しでもあった。
そして驚愕の素振りを見せるジースに、マルコは図星だなと唇端を上げる。

「さてはその分じゃ、直接列車を見た事ねえな? 大方貨物やらを屋敷に運ばせたとか、そんなとこだろう。
 駄目だぜえ、働くオッサン達の仕事を増やしちゃあ。
 ……しかし、そうまでして向かうって事はやっぱこれかあ!? んじゃまあ頑張れよ、お坊ちゃん!」

おちょくり、最後に立てた小指をちらつかせると、今度こそマルコはその場から去っていった。

296 名前:アイン ◆mSiyXEjAgk [sage] 投稿日:2009/12/31(木) 19:22:40 0
――入門審査局前――

「じゃ、ま、だ、貴様ら! ほら、帝都公認の身分証だ! 分かったら大人しくどけ! ええいクソ!」

停車の寸前まで個室で実験をしていたアインは、他の乗客に比べて大幅な遅れを取っていた。
流石に発車前のような失態は犯さなかったが、彼が個室のドアを開けた時には既に、
乗客達は各々の目的地へと大群を成して邁進する奔流となっていたのだ。

帝都公認の身分証を使う事で入門審査はフリーでパス出来る。
けれども肝心の審査局に辿り着くまでの道のりで、彼は酷く揉まれ無駄な疲弊を強いられる羽目となった。

「クソ、この後『アレ』が控えていると言うのにこんな……」

顔を険しく顰め悪態を吐く事十数分、ようやく彼は入門審査局へと辿り着く事が出来た。

「ほらどけ、僕は帝都の研究者だ」

それだけ言って身分証を軽く翳して示すと、アインはさっさと門を抜ける。
再び有象無象の奔流を掻き分けてロビー端――SPINの『駅』まで辿り着くと、
彼は一度足を止めて顰めた顔で床を見下ろした。

「ああ、クソ……。これだけは何度やっても慣れん……」

小さくぼやくと彼は目を瞑り、大きく深呼吸をした後に一歩前へと踏み出す。
そして早口に、どうせ悪夢なら早く終わってしまえと言わんばかりに、

「――3番ハードル、第23号駅! 」

そう宣言した。
同時に、彼の足元が虚空に挿げ変わる。
視界が白く染まって天地の感覚を失い、肺が空気を拒絶して心臓はさながら警鐘のように揺れ動く。
例えるなら重力の手から突き放されての自由落下と、闇夜を映す海に抱き締められそのまま沈んでいく感覚。
その両方を混ぜ合わせたような最低の心地をたっぷりと味わった後に、

「っ……はぁ……、酷い目にあった……」

ようやくアインは、指定の『駅』へと到着する事が出来た。
時間にすれば数秒にも満たない筈のSIPNによる転移は、しかし彼の体感では一分にも十分にも感じられる程だった。
出張によって数日振りの使用である事も相まって、彼の顔色は最早青ざめるを通り越して土気色にまでなっている。

297 名前:アイン ◆mSiyXEjAgk [sage] 投稿日:2009/12/31(木) 19:24:19 0
重い頭痛を訴える頭を辛うじて上げてみると、そこにはレクストを初めとした数人が集団で帝都の街を見上げていた。
他のメンバーよりも一歩前に出たレクストは両腕を大きく広げて笑みを浮かべていたが、今のアインにはそれをアホ面と謗るだけの余裕すらない。
そんな彼の様子に、ミアとハスタは訝しむように目を細めた。
ギルバートに関しては少々、笑いを堪えようとしているようにも見えたが。

その中で、フィオナはアインを案じるように心配した様子を見せた。
彼女の白く小さな手が、彼へゆっくりと伸ばされる。

彼女が彼に向けたのは混じり気なしの善意であり、それは彼も理解している。
けれども、

「……おいそこの神官服、余計な事をしてくれるなよ? 心配も無用だ。この程度、自分でどうにか出来る」

心奥に潜んだ琴線が奏でた怒りを、アインは抑える事が出来なかった。
差し出された手を弾き、膨大な敵意の全てを視線に乗せ、射殺さんばかりに彼はフィオナを睨みつける。

予期しなかったであろう言葉に彼女が怯んだ隙に、アインは白衣のポケットから小さな薬瓶を取り出した。
とは言え内容物はそう大それた物でもなく、ただ幾つかのハーブを混合して抽出しただけのエキスに過ぎない。
過剰な清涼感をもたらすそれを一息に飲み干すと、彼は再び口を開いた。

紡ぎ出される言葉に、毒と敵意を孕ませて。

「救える者だけを救って善人気取りか? まったく良いご身分じゃないか。
 救えなくとも魂の安寧を嘯けば、それでお前達に非はないんだからな」

侮蔑を込めた嘲笑を挟んで、彼の言葉は更に続く。

「助かればお前達と神のお陰、助からなければ悪魔のせいか。随分と都合のいい話だな。
 神に愛された人間は頭の中までお花畑になるのか? ふん、大方神だけじゃなく誰からも愛を受けて生きてきたんだろうな。
 不便も不足も味わった事のない人間が、一方的に上から施しを寄越してくれるな。反吐が出るんだよ」

吐き捨てて、アインはフィオナに背を向けた。

怒りに置いてけぼりを食わされていた理性がようやく彼に追いついて、『彼女』の事を思い出させたからだ。
出張の間も信用出来る者に世話を任せてはいたが、やはり一刻も早く顔を見て安心したいと言う念はある。

何より、『彼女』に残された時間はそう多くない。
このような所で激情に任せて、無駄な時間を過ごす暇などないのだ。

298 名前:ジェイド=アレリィ ◆EnCAWNbK2Q [sage] 投稿日:2009/12/31(木) 21:48:54 0
「――帝都にようこそ!」

従士の青年の言葉が俺は鬱々とした表情に変えた。
1年ぶりの帝都だ。「あんな事」があってから避けて通ってきた場所。
口じゃ楽しみなんて言ってるが本当は違う。
俺は、大事な者をここで失くしそして二度と取り返せない物を
置いてきてしまった。
右腕の痛みが一際増してくる。SPINには馴れている。
そのせいじゃない。この痛みと苦しみは、ここにある記憶が原因だ。

そして、ずっと逃げてきた。俺は、何からも目を背けてきた。
でかい力に負けて逃げ出した俺がもう1度、少なからず自分の意思で
来たのには理由がある。
故郷で起きた異変。ヴァヴティアでの災厄に奴らが関ってるのは間違いない。
―――帝国軍
ただ1つ、今分かる事。それは、俺にやらなければならない事がある。

―「……おいそこの神官服、余計な事をしてくれるなよ? 心配も無用だ。この程度、自分でどうにか出来る」

振り向けば、姉が研究者風の男と何やら揉めている。
凄まじい眼で睨む男と、戸惑う姉。
自然に足がそこへ向いた。あれほど会うのを恐れてたはずなのに。
しかし、一度こうなると俺は止まらない。

299 名前:ジェイド=アレリィ ◆EnCAWNbK2Q [sage] 投稿日:2009/12/31(木) 21:55:11 0
―「救える者だけを救って善人気取りか? まったく良いご身分じゃないか。
 救えなくとも魂の安寧を嘯けば、それでお前達に非はないんだからな」

姉の後ろに立つ。姉ちゃんなりの反論はあるだろう。
俺はそれを黙って聞いている。
しかし、次の言葉が俺の琴線に触れてしまう。

―「神に愛された人間は頭の中までお花畑になるのか? ふん、大方神だけじゃなく誰からも愛を受けて生きてきたんだろうな。
 不便も不足も味わった事のない人間が、一方的に上から施しを寄越してくれるな。反吐が出るんだよ」

「そいつは違うぜ。」
大きく、そして強い信念の篭った言葉で返す。
気が付けば俺は姉と男の間に立っていた。
「俺はあんたがどんな奴でどんな人生を送ってきたかは知らねぇ。
だが、自分だけが辛い人生を送ってきたなんてしみったれた言葉は言うもんじゃないぜ。少なくとも、俺は…この人がどれだけ頑張ってきたか。
知ってるんだからよ。」

そう言うと姉の顔を見る。
もう逃げるのは止めだ。その意思表明をするかのように。

300 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2009/12/31(木) 23:45:08 0
>「――帝都にようこそ!」

その言葉を聞いた瞬間、おれは糸が緩んだようにその場にへたり込んだ
ようやく

301 名前:ジェイド=アレリィ ◆EnCAWNbK2Q [sage] 投稿日:2010/01/01(金) 16:55:11 0
(補足します。ごめんなさい)
>>297
背を向けた学者の肩を掴む。
言葉も無くただそいつの横っ面を左の拳で吹っ飛ばした。
既にプッツンした俺に、止める術などない。

「テメェはこれくらいが”気付け”にちょーどいい。そうだろ?」

姉の方を見つめバツが悪そうに笑う。
「わりぃ、俺が姉ちゃんの代わりに殴った。」


302 名前:ジース ◆vKA2q6Alzs [sage] 投稿日:2010/01/03(日) 03:48:49 P
マルコと別れ、しばし歩いてみたものの全く何も見えてこなかった。
わりと半引きこもりなジースの想像よりもかなり帝都は広かったとそういうことだろう。
16年も帝都に住んでいて今更何を言っているんだと自分でも思ってしまう。
漸く、マルコの言っていたことにも合点がゆく。成る程、そういうことか。
それで、ここはどこなのだろう。それすらも確りと憶えてはいない。

果たしてこれからどうしようかもわからずもう屋敷に帰ってしまおうかと人波に流されるように歩いていたところ。
体の前面部に衝撃。人にぶつかったのだ。いや、これは体当たりと置き換えても語弊はないかもしれない。
ぶつかった人物は謝罪もそこそこにジースの脇を通り過ぎていった。
いくら人混みと言えど、ちゃんと前を見て歩いていればそうぶつかることなどあまりない。
少なくとも、ジースの不注意ではない。では他に体がぶつかる理由は?それは単純明快。
どちらかが、わざとぶつかろうとした場合だ。

懐が軽い。それにはすぐ気付く。何故軽いのか。それにもすぐ見当付く。
護身用の武器などは持ち出してこなかったが、幾らかの金は持ち出してきた。
金貨が詰まった小袋――重みを感じるのはそれぐらいだ。軽くなったのは、それがなくなったと言うことで。
つまり、それは。

すぐに振り向く。人の群れの中でもわかる、走り去って行く黒い姿。
盗られたからといってもメニアーチャ家の潤沢な資産に傷が付くことはない。
だが、それとは別問題だ。奪われたものをそのまま見過ごしてしまう訳にはいかない。
追いかけようとする。だがそれを邪魔する人々という天然の障害物。慣れていなければこんなところ走れるものか。
小さくなっていく背中。気持ちだけが逸り、足が縺れ片膝を付いてしまう。

「――」
声が出ない。前に突き出した手がそれ以上伸びることはない。
どこに向かっているかは予想出来る。そこまで逃げられたらほぼ諦めるしかないだろうか。
この街に張り巡らされた転移術式は都民の生活に快適と利便性を与えてくれたが、とても素晴らしい逃走手段でもあるのだ。

「すっ、すっ、すっ」
やっと声を絞り出すことが出来ても、今度は二の句が継げない。喉の奥で引っかかっているような、そんな気持ち悪さを感じる。
「スリだぁーーーー!!」
無駄に良く透き通った声で、その場に響き渡る。
しかし走り去るその姿が立ち止まることはない。

303 名前:マダム・ヴェロニカ ◆iHSgBAJ.9BYi [sage] 投稿日:2010/01/03(日) 22:05:40 0
鉄道都市メトロサウス発の登都便の最後に出てきた乗客はマダム・ヴェロニカだった。
それもそのはず、その荷物の領が尋常ではない。
往復六日ほどの行程を過ごした荷物は鞄幾つ分というレベルでは納まらない。
衣装ケースから鏡台など、ちょっとした引越しの様相を呈していたからだ。
迎えに来ていた娼婦達がテキパキと荷造りをしていたが、それでも最後尾は免れる事は出来なかったのだ。

五人の娼婦達を引き連れ入門審査局を出たマダム・ヴェロニカは悠々とSPIN術式陣に乗る。
だがその口からは指定駅が紡がれる事はない。
これから行く先は・・・ターミナルの統括案内には載らぬ場所なのだから。

上級貴族専用の会員制高級娼館。
ラ・シレーナが上級貴族達の住居の立ち並ぶ2番ハードルに鎮座している事は会員にすらあまり知られていない。
性質と秘匿性故に建物の門は使われた事はなく、認識阻害の呪法陣によりそれが疑問にもたれる事もなかった。
ごく一部の会員のみに渡される割符たる魔石の組み合わせにより、SPINの直通経路で秘密裏に入館もしくは派遣されるのだ。
これは即ち会員となる貴族は館に専用のSPINを持つレベルである事も示している。

・・・こうしてマダム・ヴェロニカと迎えの娼婦達はラ・シレーナへと帰還した。

マダム・ヴェロニカがラ・シレーナへと戻り最初にした事は入浴。
不在の間の出来事や報告を聞きながら娼婦達に指示を出していく。
旅の疲れと香水を落とし、バスローブのまま執務室の更に奥、秘密の部屋へと入る。
そこは魔法灯により隅々まで照らされた真っ白な部屋。
室内にあるのは同じく真っ白な椅子とテーブルのみ。
テーブルの上に置かれた山盛りになった布だけが色彩を鮮やかに主張している。
これがマダム・ヴェロニカがヴァフティアへ赴いた理由であり戦利品であった。

大きくそして長く息を吐き、意を決したように布を取り払う。
布に隠されていたのは鋼鉄製の鳥かご。
そして鳥かごの中には・・・15歳ほどの少年の生首が入れられていた。
「さあ、永久の御子、深淵よりの使い、リュネ・シレア!
約束通り、色々喋ってもらうかねぇ?」
マダム・ヴェロニカの声に応えるように鳥かごの中の生首の目が見開かれる。

このような状態にも拘らずリュネと呼ばれた生首は生きているのだ。
終焉の月に終末思想を示唆し、世に混乱をもたらそうとした永遠の御子。
少年のようであっても500年以上の時を生きた魔人なのだ。
眼光には未だ光が宿り、口元が狂気を孕んだ笑みを浮かべて言葉を紡いだ。
「くくく・・・ああ、いいだろう。約束だからな。」と。

304 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2010/01/07(木) 04:33:56 0
ククク……

305 名前:フィオナ ◆tPyzcD89bA [sage] 投稿日:2010/01/08(金) 10:04:03 0
先を競って列車から飛び出していく子供達。
それに混じって大人気ない速度で駆け出すレクストをよそに列車を降りる。

『帝都エストアリア』駅舎。
広さだけなら街のほとんどが駅であるメトロサウスに軍配が上がるのかもしれないが構内の活気が段違いであった。
溢れんばかりの人。
職員や乗客だけではなく様々な出で立ちの人々が忙しなく行き来している。

「すご……い。」

ヴァフティアとは余りにかけ離れた光景に思わずぽかんと口を開け呟く。
おのぼりさん丸出しである。

しきりに感動しながら周りを見回しているのを仲間に窘められつつ入門審査を終え、先に待っていたレクストに案内されるまま付いて行く。
行き先は入門審査局ロビーの端。道中説明された帝都移動の要、『SPIN』ターミナルである。

『とりあえず3番ハードルの『駅』まで跳ぶか。あそこにゃ従士隊の本拠があるし、SPINのターミナルがあるから観光にもってこいだ』
『初心者はちょっと『転移酔い』するかも知れねえな。まあすぐ馴れるぜぇ。そんじゃ行くか、指定はこうだな――『3番ハードル第23号駅』』

気軽に言いつつ陣を踏み、次の瞬間には掻き消えるレクストの姿。
帝都に来たことのある者も同様に何気なく一歩を踏み出し、そして消えていく。

「え、あ……『3番ハードル第23号駅』をお願いします。」

フィオナも意を決したかのように陣へと立ち入ると、丁寧にお辞儀までして行き先を告げた。
実におのぼりさん丸出しである。

深い水底に落とされ引き摺りあげられる。そしてまた突き落とされる。
明滅と暗転。
神殿での水練の時と同じような感覚を何度も味わいやっと地に足が着いたと思ったときには目の前の光景は一変していた。
ヴァフティアでは市庁舎くらいでしか見られない巨大な建造物が群れを成し。
大通りにしか設置されていない魔導灯は街中ありとあらゆる箇所でその光を誇らしげに放っている。
守備隊や一部の趣味人しか使用しない『箒』は所狭しと上空を駆け巡り、丁寧に舗装された道路は人の波がとどまる所を知らない。

今度は声も出なかった。
唯ひたすらに目に飛び込んでくる情報量に圧倒される。

『俺はよ、やっぱ帝都に来たって実感できるような場所でこのセリフを言いたいと思ってるんだ』

心ここにあらず、といった感じだったフィオナの耳に聞きなれた声が響く。
転移酔いに因るものなのか、それとも別の感情から来るのかは判らないが膝が震えているのに気づく。

『――帝都にようこそ!』

おどけた仕草に満面の笑み。
この時初めて、フィオナは帝都に来たことを実感した。

306 名前:フィオナ ◆tPyzcD89bA [sage] 投稿日:2010/01/08(金) 10:10:23 0
実感が沸けば見える風景もまた変わったものとなる。
改めて周囲を見回すとSPINターミナルに一人の男性がぐったりとした様子で立っていた。
痩せぎすな体型に白衣、眼鏡。足元には重そうな鞄。
顔は蒼白を通り越し土気色、立っているのがやっとといった感じだ。
列車での騒動の折に見かけた人物、たしかギルバードと一緒に屋根の上に居た男性ではなかったろうか。

「あの、大丈夫ですか?」
先程体験した転移の感覚を思い出し駆け寄る。
背中を擦るくらいしか出来そうもないが、それでもと手を差し伸べる。

『……おいそこの神官服、余計な事をしてくれるなよ? 心配も無用だ。この程度、自分でどうにか出来る』
しかし返ってきたのは拒絶の意思。
「え?」

今まで当たり前のように行ってきた行為だったがここまでの返答は初めてだ。
遠慮されたことはある。しかし何もするなと否定されたことは無かった。
当惑するフィオナへは一瞥もせずに男は白衣から薬瓶を取り出すと、数錠口へと放り込み嚥下する。
いくらか顔色を良くした男は今度はしっかりとこちらへ顔を向け言葉を紡ぐ。

『救える者だけを救って善人気取りか? まったく良いご身分じゃないか。
 救えなくとも魂の安寧を嘯けば、それでお前達に非はないんだからな』
浴びせられるのは敵意と嘲笑。そしてそれはなおも続く。

『助かればお前達と神のお陰、助からなければ悪魔のせいか。随分と都合のいい話だな。
 神に愛された人間は頭の中までお花畑になるのか? ふん、大方神だけじゃなく誰からも愛を受けて生きてきたんだろうな。
 不便も不足も味わった事のない人間が、一方的に上から施しを寄越してくれるな。反吐が出るんだよ』

「た、確かに関わった全ての人を救えるわけではありません……。
それに救いを求められながら見過ごしてしまった人も居るでしょう……。
ですが神の目はあまねく万物へと注がれています。
それでも救えないのはひとえに私達の力が足りないだけで他の何者にもその責を押し付けは……。」

神官である自分達の力不足をなじられるのはまだ我慢できる。
しかし神への冒涜だけは聞き逃すことはできない。
自然と反論が口を出るが男の鬼気迫る表情にそれも次第に小さくなってしまう。
話にならないとばかりに背を向ける男とフィオナの間に別の者が割り込む。
自分より頭一つ以上は高いであろう身長。長い黒髪。その背にはどことなく懐かしさを感じる。
学者然とした白衣の男の肩を掴み、振り向かせると左拳一閃。
問答無用で殴り倒した。

「あ――」
フィオナへと向き直った男は居心地悪そうに口を歪めると

『わりぃ、俺が姉ちゃんの代わりに殴った。』
「――ジェイドっ。」

飛びつくように首へと手を回し、ジェイドを抱きしめ胸に顔を埋めるフィオナ。

「心配したんだからっ!途中から手紙は寄越さなくなるし、知らない間に従士を辞めてたっていうし、でも無事で良かった……。」

一しきり言い終え、ここが往来のど真ん中だと思い出し赤くなりつつジェイドから離れる。
仲間からのなんとも言えない視線を身に浴びつつ、ふと思い出したかのようにジェイドへ目を向けなおす。

「それはそれとして。」
コホンと咳払い一つ。

「人様をいきなり殴ってはいけません。」
抱き合った姿勢のままの――膝を折って丁度いい位置にある――ジェイドの頭へ手刀を振り下ろした。

307 名前:ハスタ ◆fmAKADpWIqWy [sage] 投稿日:2010/01/08(金) 11:29:40 0
>277>290>297>306
目を覚まして暫くすると、少年が入ってきた。さっき乗り合わせていた乗客か
>「飲んでください。僕の家に伝わる薬草を混ぜたものです。体には良いはずですから。」
そう言って薬を渡されたが、困ったな正直体は全快している。
「あぁ、気遣ってもらって悪いな。今はむしろ体の調子はいいんだ。必要になった時使わせてもらう」

何となくフィオナを熱視線で見つめる少年を訝しげに眺めながら
列車は更に帝都へ向かう。

――で、その二日後。帝都へと列車は辿り着く。
『SPIN』の説明をしながらやたらテンションの高いレクストを横目に、続いて『SPIN』に入る。
「転送実行――『3番ハードル第23号駅』へ」
一瞬の暗転の後、目を開く。
その向こうでは、レクストが両手を広げて満面の笑み。

「・・・・・・。」
どことなく往来のど真ん中でこんなことをしている知人がいるというのは気恥ずかしい。
と、考えてさりげなく若干の距離を開けようとしていたら・・・
どうやらフィオナが絡まれている。しかも転送酔いの八つ当たりか。
主張を聞けば聞くほどげんなりしてくる発言に、路傍の石を眺めるような視線だけ送っておく

「――で、レクストはこのまま従士隊の所へ行くんだったよな。俺はちょっと野暮用があるんで
 ハンターズギルドへは用事が終わったらでいい。場所は『5番ハードル11号駅』の正面だ
 何だったらその隣の『銀の杯亭』で飯食っててもいいぞ。俺の名前を出せばツケも利くからな・・・午後の内にギルドに戻る」
簡単に言い残すと、俺は真っ直ぐ商店の並ぶ通りへ歩いていく。まずは花屋だ。

308 名前:マンモン ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2010/01/08(金) 17:36:00 0
従士隊本部 駐屯地

「ミカエラ・マルブランケという錬金術師がいるであろう?
場所を教えてはくれないかね。」
丸刈りの白髪に牧師のような服を着た男が従士に黒塗りの袋を渡す。
従士達が中身を見る。中身はなんていうことは無い錬金術に使う液体のようだ。
彼らは男の言葉を疑う素振りなど無い。
それも当然だろう。何故なら彼は、「深淵の月」の幹部でもある男だからだ。
男の名前はマンモン。数々の奇跡を起こし、そして人々を救うといわれるカリスマ的な
男である。
「ミカエラ様、いつもの物を。」
黒塗りのビンをミカエラに渡す。そして同時にレクスト達の到着を待つ彼女の
至福の表情も見逃さなかった。
「やはり、貴女もかね?私も、だ。」
私も”という言葉にミカエラが顔を向ける。マンモンは笑みを浮かべ語りだした。
自分にもかつての弟子がレクストなる者と同じくこの帝都へと来た事を。
その弟子の名前はフィオナ・アレリィ。
「ルキフェル様から大事なお使いがあるので今日はこれにて。
久しぶりの対面だぁ……愉しんでくれぃ。」

――その後 帝都エストアリア「駅舎内」

マンモンは目指す。ただ1つの目標を。
少女の背中が目の前に映る。
舌なめずりをしながら、ゆっくりと彼は自分自身の
異能を引き出した。



309 名前:マンモン ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2010/01/08(金) 17:42:34 0
名前:マンモン
年齢:35
性別:男
種族:人間
体型:186cm、70kg
服装:白髪の坊主頭、牧師のような服装
能力: ”引き出し”(相手の魂を吸い取る)
設定:元神殿の聖騎士。神を信じる敬虔な男。

310 名前:アイン ◆mSiyXEjAgk [sage] 投稿日:2010/01/10(日) 17:42:19 0
「おい、役学研究室のアインだ。僕宛ての封魔オーブが届いている筈だが、どこにある?」

アインにとって今肝要なのは、出張前に申請しておいた魔物のサンプルが正しく入手されているか、だった。
輸送中に駄目になった、生け捕りは無理なので現場の判断で殺したなどと、眉間に深い皺を刻んでくれる報告を過去何度も言い渡されてきた彼としては。
SPINと神官のお陰でただでさえ腹の内で蟠っている苛立ちを、これ以上増長させて欲しくはないと言う願いがあった。

彼の問いかけに対して、恰幅のいい、恐らくはこの場を管理する立場にいるであろう男が駆け寄ってくる。
その表情は何故だか不安げで、その上顔一面に万遍なく浮かべられた脂汗が尚更に悲壮感を醸し出している。

「遅いですよ来るのがぁ……! もお、こんなのいつまでも置かれてちゃ仕事になりませんって! 早く持って行ってくださいよ……!」

年甲斐なく脅えを露にして、男は不恰好に膨らんだ皮袋を差し出した。
アインは双眸を細め呆れた様子を見せた後に、その袋を受け取った。

「ご苦労。ついでだ、奥のSPINを借りるぞ」

用事を済ませた彼は白衣の裾を翻し、さっさとSPINに向けて歩みを進める。
ぼそりと男の零した悪態が耳朶を撫でたが気にも掛けず、彼はSPINの陣を前にして自らの身分証を翳す。

「ああ、クソ……『役学研究室』だ」

翳されたそれが鍵となって、通常では開き得ない門が開かれた。
淡い光がアインを足元から飲み込み、彼は本日二度目の苦悶を味わう事になる。

「……うげぇ。ああ、やっと帰ってきたか……」

視界の明滅が収まると、彼は膝が笑い直立のままならない足で白を貴重とした部屋に立っていた。
脳髄まで蕩けたように思考の覚束ない頭を何とか立て直そうと左右に振るっていると、
不意に彼の視界に、部屋の白さに溶け込むように華奢な足が映り込む。

「お帰りなさいませ、アイン様。お疲れでしょう? ハーブティーのご用意が出来ていますわ」

顔を上げるとそこには濃紺と純白の給士服に身を包んだ、アインよりも尚若い女性が銀のトレイを手に佇んでいた。
少女と称しても差し支えのない彼女の名は、マリル・バイザサイド。
マルコ・ロンリネスから資金の代わりと貸し出された、お手伝いだ。
帝都有数の富豪に代々仕える家系である彼女は、その名と血に恥じぬだけの仕事を果たしている。
研究の助手は勿論、殆どここに住み込みとなっているアインの身辺は、彼女によってのみ維持されていると言っていい。

さてそんな彼女はと言うと、用意しておいたティーセットをアインの事務机へ運ぼうと一歩前に踏み出して。


――何もない、色調と同じくまっさらな床の上で何の因果があったのか、足を縺れさせ大仰にすっ転んだ。

311 名前:アイン ◆mSiyXEjAgk [sage] 投稿日:2010/01/10(日) 17:43:36 0
手から離れたトレイ諸ともティーセットが宙に舞う。
けれども彼女の表情に変色は起こらない。平時から貼り付けられた沈着な仮面は、剥がれない。
それはアインもまた同じだった。
目の前で撒かれた惨事の種に彼は焦りの色を見せず、ただ呆れたように、僅かに目を細めるばかりだった。

「……っ!」

僅かに息を吐く音と共に、彼女は両足が地から離れた状態で縦に一回転。
転倒を伴わず着地すると、そのまま空中でくるくると踊っているトレイを右手に掴み取る。
更に間髪入れず、上下逆転して今にも中身を零そうとしているティーポットを勢いよくトレイで掬い上げた。
空いた右手はとうに湛えていたお茶をぶち撒けたティーカップを捕らえる。

そして最後に、不可視の摂理に囚われ床へと落ちていくお茶を目にも留まらぬカップ捌きで回収して。
彼女は何事も無かったかのように立ち上がり、今度こそアインの事務机へとティーカップを運んだ。

「……やはりもう一人くらい手伝いを雇った方がいいんじゃないか? もう慣れたとは言え、少し不安にさせられる」

呆然としながらもアインはもう何度目かになる提案をした。
今でこそそう驚きはしなくなったが、初めて見せられた時は驚愕の余り実験に使っていたガラス瓶を取り落としさえした。
もっともそれも、彼女が難無く拾い上げたのだが。

「必要ありませんわ。養豚……失礼しました。養殖所のメイドが一人や二人増えた所で私の仕事は変わりませんもの。
 いえ、むしろ増やされてしまうのが心配で、仕事に手が付かなくなってしまいます」

彼女の言う養豚所、もとい養殖所とは即ち、マダム・ヴェロニカの経営する高級娼館【ラ・シーラ】の事に他ならない。
代々ロンリネスに使えてきた、言わば生粋の従者の家系に生まれたマリルは、やはり生まれ持ったその使命に誇りを持っている。
故に喰らうも自由、水泡とするも自由。
更には雇い主に媚を売り取り入ろうとさえする【ラ・シーラ】のメイドを、彼女は甚く嫌悪していた。

本当ならばアインの元へ貸し出されるのも断固拒否するつもりだったそうだが、
そこは主であるマルコの熱心な懇願と、彼女自身が抱えるやむを得ない事情によって納得したのだった。

「……それに前にも申し上げましたが、私がああして失敗してみせるのは『メイドの嗜み』なのですよ」

312 名前:アイン ◆mSiyXEjAgk [sage] 投稿日:2010/01/10(日) 17:45:14 0
マリル曰く。

「勿論私は転ばず落とさず完璧な仕事をこなす事だって出来ます。メイドですからね。
 しかし従者が一切の失敗を犯さない完璧な人間であったとしたら。
 主は確かにそれを頼もしいと思って下さるかも知れませんが……同時に威圧感や畏怖までもを感じさせてしまうのですよ。
 常に完璧な仕事をこなし続けるなど、そこには人間味を感じられませんもの」

だから、と繋ぎの言葉を挟み、

「私は敢えて、わざとあのように失敗をしてみせているのです。決してドジやその手の類ではありませんわ」

彼女は自らの話を締め括った。

「嗜み……ねえ」

「ええ、嗜みですわ」

アインの呟きに、マリルは旧態依然の能面顔で答える。
その面容のせいで彼は未だに彼女の言が真実なのか、それとも誤魔化しなのかを判断出来ずにいた。

「……まあいい。それより『先生』はどうだ? 僕が留守の間に容態が悪化したりは……」

答えの出そうにない思考を断ち切ると、彼はそれよりも遥かに重大な懸念事が思い出す。
どうでもいい事に埋もれてしまっていたそれを掘り起こすと、彼は留守中『彼女』の世話を任せていたマリルを注視した。

「別段、症状が進行した様子はありませんでしたわ。アイン様の顔が早く見たいと寂しがっておりましたし」

彼女の答えに、アインはほっと安堵した様子を見せる。
顔に残されていた険しさも、僅かに影を潜めたようだった。
そして続けて付け加えられた言葉に、ほんの微かだが嬉しそうな表情さえ浮かべた。

「そうか……。そうだな、なら帰ってきた報告でもしに行くとするか」

事務机に置かれたお茶を一口に飲み切ると、持っていた皮袋をマリルに預けアインは部屋を出た。

313 名前:アイン ◆mSiyXEjAgk [sage] 投稿日:2010/01/10(日) 17:46:17 0
名前:マリル・バイザサイド
年齢: 21
性別: 女
種族: 人間
体型: 断崖絶壁
服装: 濃紺と純白のメイド服。
能力: 家事全般。従者として主に不便を来さないだけの技能。
所持品: バイザサイド家のメイド服。箒、シーツ、ティーセットなどなど。
説明: マルコからアインへ貸し出されたお手伝い。代々続く従者の家系に生まれ、その血と仕事を誇りとしている。
   だから【ラ・シーラ】の貸し出しメイドは嫌い。そんな彼女がアインの元へ行くのを承諾したのは色々と事情があったり。

314 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2010/01/11(月) 00:05:27 0
<報告書:都市規模無差別降魔術式乱発・同規模殺傷事件、通称『ヴァフティア事変』について>

報告者:認識番号108242 レクスト=リフレクティア(元・同都市民)

判明死傷者数  死者27名   重軽傷者332名  行方不明95名 (現時点)

都市被害  全壊56棟 半壊122棟 一部損壊254棟 公共遊戯広場、噴水、道路損壊多数

出現魔獣  小鬼、幻獣、蛇竜、醜鬼、邪鬼、触手獣、魔蛸  ――降魔被害者。

概要
同都市定例祭『ラウル・ラジーノ(以下、祭と表記)』の前夜祭の最中において、都市防衛結界の媒体となる尖塔付近にて魔獣が出現。
不自然な認識阻害により市民への被害及び露呈並びに恐慌の発生はなく、居合わせた民間戦闘職者の協力を得てこれを討伐。
この際民家一棟が出現時に全壊したが、これによる死傷者は無し。降魔オーブを破壊したところ降魔媒体と思しき男性の遺骸を発見。

尖塔に不審な出入りを認めた報告者が民間戦闘職者を伴ない飛翔術を用いて現場へ急行したところ、武装教団『終焉の月(以下、月)』の儀式を目撃。
供物として拉致後昏睡させられていた市民を確認。『月』の信徒が同市民を人質にとりつつ迎撃の構えをとったのでこれと交戦、殲滅する。
この際信徒は死体へ降魔し傀儡とする外法術を行使したが駆けつけた神殿騎士の聖術により撃退。信徒は首領格を残して全員死亡、人質の市民を確保。

尖塔での戦闘を終え信徒の一人を捕虜として拿捕したところ、突如地震が発生し尖塔が崩落、信徒が脱出用に用意していた『箒』を用いて脱出。
報告者は脱出の際に尖塔から伸びる巨大な光柱と都市全域に広がる大規模な術式陣、天上に浮かぶ巨大な赤い眼球を視認している。

同時に都市規模の降魔術式が発動。ヴァフティア市民のうち往来に出ていた者が無差別に魔物化。前夜祭によって住民の大半が往来にいた為被害は拡大。
魔物化した市民は別の市民を襲撃しこれを殺傷。この魔物化には同市扶助会の炊き出しを口にした者に多く見られたとして、当局には因果関係の調査をされたし。

報告者が『箒』を用い市内各所の状況検分を行っていたところ、同市東区の小広場にて明確に報告者とその同行者を標的とした暴徒と遭遇。
うち一名の所持していた呪詛殺傷式魔剣によって報告者を刺突、報告者は漸時昏倒状態に。居合わせた聖人の末裔の血液の抗呪力によって回復。
復帰した報告者と同行者によって暴徒の鎮圧に成功。その際魔剣を用いた暴徒は介入してきた『月』幹部によって降魔している。

→『月』幹部は一名。暴徒との対立に突如介入し、暴徒一名を降魔したのち報告者及び同行者と交戦。魔物化した市民と共に撃退される。

→尖塔付近で生じた爆発により術式回路に瑕疵が発生。大規模降魔術式は不完全かつ不安定な出力により自壊した。

→都市防衛結界に欠落が生じ、そこから近隣に生息する魔獣が襲来、市民を襲撃し始め恐慌に。

幹部との戦闘後、同市北部『揺り篭通り』にて極めて高い戦闘能力を有した反魂者(報告者の実母・故人)を伴なった術師が出現、これと交戦。
同行者及び守備隊の協力を得て抗戦するも敗退。戦闘終了と同時に術師と反魂者は逃走。都市の結界が回復し都市内の魔物を殲滅。
明朝未明に市内全ての戦闘行為が終了し、結界の再発動と崩壊した街の復旧へと着手した。


以上を以って『ヴァフティア事変』についての報告とす。

備考1:死亡・行方不明者の住所氏名所属は別途添付したリストの記載を参照されたし。
備考2:本件において検証により高濃度の聖水は降魔術にも抵抗力を有する為、衰弱させた降魔被害者に散布すると高確率で人間に戻せることが発覚。
     詳細については別途記述した資料を参考のこと。(記述者:リフィル=リフレクティア、メリア=トロイア)



315 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2010/01/11(月) 00:08:33 0
【3番ハードル――帝都王立従士隊本拠屯所】

庶民の味方、従士隊の総本山であるところの本拠はその敷地だけで言うならば一軒家を四つほどくっつけた程度の小規模な建物である。
門をくぐってすぐのロビーがその内容量の殆どを占め、各部署ごとの窓口が軒を連ねている。
左から三番目にレクストが所属する常務戦課、戦うしか能のない言わばヒラ従士の寄せ集めがあり、鎧開きの衝立から奥への通路が口を開けている。

「認識ナンバー108242、レクスト=リフレクティア。防衛派遣の完了と報告書の提出をしたいから隊長室への取次ぎ頼むぜ」

従士隊の面々が業務を行うには一定の符牒が必要であり、受付にそれを口述することで初めて通用口の使用が許可される。
従士は人種の坩堝と言って過言ではないほどに多種多様な人間の玉石混合であり、ともすれば身分を偽って施設を使用されかねない為の措置だ。
申請が通れば衝立が開かれ、その奥にある小部屋へと通される。『接続室』と掘り込まれた札を掲げるそこは、中央にSPINの『駅』が据えられているだけ。

「『隊長室』!」

気前良く叫びながら魔法陣に乗り、レクストは再びその身を転移に委ねた。
従士隊の屯所は市内の各支部との連携強化と敷地削減の為、直通の専用SPINを利用した庁舎接続システムを採用している。
SPINはそのまま『通路』となり、市内にまばらに点在する建物同士を空間跳躍で連結することによって施設の統合を行っているのだ。

例えば『食堂』は15番ハードルで、『宿舎』は8番ハードル。『本拠』は3番ハードルで、『教練所』は22番ハードル。
それらを全てSPINで繋げば、一箇所に施設を集中させることなくしかし遜色なしに利用できるのだ。距離を無視できるSPINならではのシステムと言える。
建物が隣り合わないことで火災の延焼防止や備品搬入の手間削減にのみならず、市井の街並みに紛れさせることでテロの対象になりにくいという利点まで備えている。

『隊長室』は、17番ハードルの下町の一角に存在した。表向きは民家に偽装されているものの、玄関の向こうは打ちっぱなしの漆喰で埋められその用を成していない。
一階部分は有事の際の避難壕として、平時は武器庫として利用される。隊長がそのデスクを構えるのは二階部分だった。
既に本拠の窓口から通伝オーブを通して連絡が行っていたのか、術式から放り出されたレクストを隊長は諸手を挙げて歓待した。

「おお、リフレクティアの馬鹿な方の息子ではないか。先の事変ではご苦労だったな!」

「……その呼び方酷いし長いしめんどくさくないすか?」

「ふむ、略すか。馬鹿で愚かな息子だから……愚息!」

「言うと思ったよ!!」

思わず飛び交う愉快な会話。老紳士という表現がドンピシャリでハマりそうな好々爺然とした男は、都市防衛力の頂点に立つとは思えない奔放口調である。
エイミール=ジェネレイト。帝都王立従士隊の隊長職であり、リフレクティア翁の古い友人でもあった。レクストも幼い頃から面識がある。
旧知のよしみかはたまた『七年前』の憐憫か、後手に回った負い目かは定かではないが落ちこぼれのレクストを何かと気にかけてくれている。

「……うむ、では確かに報告書は受理したぞ。命懸けの任務、改めてご苦労だったな。しばらく休暇でもとるか、有給マケておくぞ?」

「いいや、このまま『事変』の捜査に加わりますよ。有給はつけといてください、そのうち一年ぐらいポンととりますんで」

「なんだなんだ、実家の青果でも継ぐのか?相変わらず妹には甘いな。あれだ、いくら可愛いからって……犯罪だぞ?」

「どんな論理の飛躍!?思いつきで喋ってるだろアンタ!」

「まあ落ち着け愚息オブ友人――こんなこともあろうかと逮捕礼状と手枷を用意しておいた」

「思いつきじゃなかった!?」

さておき、と隊長は革張りの椅子から背中を剥がし、顎の前で指を組んだ。貫禄の窺える仕草は、彼が真面目な話をする前触れである。
無意識のうちにレクストは背筋を伸ばして謹聴の姿勢をとった。鋭く整えられた口髭がその稜線を歪ませ、発声を形作る。

「――確かにお前の妹は可愛いな」

「まだ続いてたんだその話!さておきいらねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

愉快な会話だった。隊長は盛大に破顔し、あまりに紳士じゃない豪胆な笑い方で爆笑し、レクストもつられて笑う。引き笑いだった。

「そういえば、お前に客が来ているぞ。元教導院教員の錬金術師で、名前は確か――マルブランケとか言ったか」

316 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2010/01/11(月) 00:15:17 0
教練所は22番ハードルの郊外にぽつりと建っている。その用途の関係上どうしてもある程度の敷地が必要であり、
住宅地を遠く離れ都市開発の犠牲となった荒地が広がり地価も安いこの場所は広大な土地を確保するのに最適だった。
背の低い草が生い茂るのみの平野で眼に優しくない原色の建造物がある以外は商店の一つもなく、殺風景以外の表現を思いつけない。

「ミカエラ先生が俺に用、ねえ……ウエッ」

レクストは教練所の『駅』に放り出されると、度重なる転移に酩酊感を覚えながら千鳥足で木張りの廊下を前進し始めた。
ミカエラ=マルブランケ。レクストの教導院時代の恩師である。若年にも関わらず教員きっての才媛で、学問だけでなく戦闘用の術式さえも極めていた。
その柔らかな物腰と垣間見える智慧、何よりもその妖艶碎美な体躯と仕草は男子生徒だけでなく一部の女子すら魅了していた。

「なんつーか、ヤバかったよな。あの先生」

レクストもそんな彼女に尻尾を振る凡百の一員に過ぎなかったが、同時に彼女の背後にちらつく儚さというか、根幹の不安定さを嗅ぎ取っていた。
崩壊寸前の堤というか、限界ギリギリまで水を入れた皮風船というか、突けば簡単に爆ぜ割れ中身をぶちまけてしまいそうな、そんな情感。胸のことじゃなくて。
そういえば、同じような雰囲気を纏った同級生が居た気がする。彼女はミカエラ先生に同属の臭いを感じたのか、いつも取り巻きの中心に――

「……や。待ってたよ、リフレクティア君」

不意に声をかけられ思索にのめり込んだまま面を上げたレクストは、脳裏に浮かんだ同級生と目の前の光景が見事に合致して少々面食らった。
面食らったというか、情けなくも短く声を挙げてしまった。心臓は早鐘となり、こめかみのあたりがぴくぴくと疼いた。深呼吸。深呼吸。

「誰かと思えば女史じゃねえか。待ってるのはお前じゃなくてお前の師匠だろ。なに、未だに腰巾着やってんのかよ?」

壁に背中を張り付かせて片手を挙げているのは教導院時代の同級生だった。
セシリア=エクステリア。ミカエラ先生が教員きっての才媛なら、彼女は院生きっての才媛。教導院を文字通りトップクラスで卒業した大秀才である。
落ちこぼれだったレクスト達はそんな彼女をやっかみと妬み嫉み、それに少しばかりの尊敬を込めて『女史』と呼称していた。

「はは、冗談キツいね。私がミカエラ先生に師事してたのなんか何年前って感じ?とうの昔に独立だよ。勿論今でも良好な師弟関係は維持してるよ?
 なに、剣鬼リフレクティア翁の馬鹿な方の息子君は未だに万年ヒラ従士?」

「おかげ様でぼちぼちだぜ。才鬼エクステリア博帥の良く出来た娘さんと違って俺は才能に恵まれなかったからな」

「"才能"!うん、良いね。才能って言葉は好きだよ。――努力をしない言い訳になるから」

突如として目の前が真っ赤に染まった。体中の血液が沸騰し、血管という血管が膨張し濁流を全身に押し流す。
弾かれるように一歩踏み出していた。しかし明確な怒りを形にする前に、狭窄した視界の中央でセシリアが動いた。否、『何事かを呟いた』――

「――『天地天動』」

刹那、世界が回転した。世界が暗転した。世界が輪転した。踏み出した片足が地面と再会する頃には、目の前からセシリアが消失していた。
代わりに悪寒。首筋に虫唾。ちりちりと空気が威圧され背中を押す。咄嗟に振り返ると、眼前に魔導杖を突きつけられていた。

「君は何の為に従士をやってるの?」

凍てつくような試問。杖の先には紫電が奔り、今にも攻性術式を放たんとしている。乾いた舌が、辛うじて答えを紡いだ。

「……庶民を護りたいからさ」
「何故?」
「何故って」
「理由もなく?そんなわけないじゃない。気付いてないなら教えてあげるよ。君は他人を救うことで自分の器の矮小さを誤魔化したいんだ。
 他者に手を差し伸べる感覚はどう?一方的な救済、命を掌に乗せてる自覚、局所的全能感。覚えがないわけないでしょ?美しいね。――反吐が出るくらい」

言うだけ言って、杖の先でレクストの額をこつりと突いた。そのまま得物を引くと、何事もなかったかのように魅力的な微笑みをたたえながら踵を返す。
彼女の姿が廊下の奥に消えるまでレクストは何も言えなかった。ようやく口の中に湿り気が戻り、双眸をすがめ、舌打ちした。

「分かったようなこと言いやがって」

腰の魔剣が、ぶるりと震えた。

【従士隊教練所にてかつての同級生と再会。そのままミカエラ先生の部屋へ】

317 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2010/01/11(月) 00:33:56 0
【NPCデータ】

名前:セシリア=エクステリア
年齢:19
性別:女
種族:インテリ
体型:凹凸乏しい
服装:三角帽子と純白ブラウスにフレアスカート、上から濃紺のマント着用
能力:魔術が凄い。
所持品:魔導杖(ほぼ鈍器)、魔導書(完全に鈍器)

簡易説明:SPIN開発者エクステリア博師の一人娘。生まれ持った才能に加え努力も怠らないので魔術は超凄い。
      教導院を卒業したのちミカエラ先生に師事し、魔導師(魔導具技術師)の職につく。ヤリ手のキャリア組。
      同じく才能ある家系の血を引きながらうだつの上がらないレクストを心底蔑視している



318 名前:ミカエラ ◆FrpheMG1d2 [sage] 投稿日:2010/01/11(月) 01:54:03 0
扉がノックされ、従士の一人が来客について伝えた。
「入ってらっしゃい、と伝えなさい」
ミカエラが上機嫌で出迎えると、そこには三人の牧師のような格好の男がいた。
今の表情を見られたかしら、と慌てて来客向けに表情を戻す。
「ミカエラ様、いつもの物を。」
「いつも…の?」
その中の一人、丸刈りの男がミカエラに黒塗りの袋を手渡した。
中身を確認したミカエラは、一瞬目を見開くものの、すぐに男の方に向き直る。
「ご苦労様」
そう言って軽く微笑んだものの、歓喜のあまりに体が微かに震えるのが分かった。
「やはり、貴女もかね?私も、だ。」
「な、何のことかしら?」
軽くとぼけるが、マンモンと名乗る男からレクスト・フィオナについての説明があると、
そうなのよ、と笑顔で答えごまかした。
「ルキフェル様から大事なお使いがあるので今日はこれにて。
久しぶりの対面だぁ……愉しんでくれぃ。」
そう言うとマンモンは踵を返し去っていった。他の二人がそれに倣うように
体を返し、ミカエラと一瞬だけ目を合わせる。
(アレについてはこの男は触れない…みたいね)
それを彼女はただ無表情で見送っていた。

(あの男にこれ以上弱みを握られる訳にはいかない…)
ミカエラは、屯所の自室でこれからの事を考えていた。
自分が過去に行ってしまった過ちの節々に、ルキフェルの姿があったような気が、
今になって思い起こされてきたのだ。
(確実に、ルキフェルは私を利用するだろう…せめて、あの子だけは…)
その時、右手の指輪が輝き、かつての教え子である「協力者」の声が聞こえてきた。
『――先生、来ましたよ。リフレクティアの坊ちゃんが…――』
「そう…ご苦労。明日にでも新しい魔法を教えてあげる。…体力も使うだろうし、今日はキミは
下がってゆっくりお休みなさい」
そう言うと静かに腰を上げ、服装のずれをただして立ち上がった。

319 名前:ミカエラ ◆FrpheMG1d2 [sage] 投稿日:2010/01/11(月) 02:37:26 0
レクストとの久々の対面。ミカエラは手を組み、左手を口元に当てる「いつものポーズ」
で迎えた。その姿は知性・余裕・そして色気を感じさせ、多くの人間を虜にしている。
「お久しぶりです、ミカエラ先生」
「レック」
まず第一声にどきりとする。そしてその姿を見て、ミカエラはすっかり釘付けになってしまった。
お互いにゆっくりと近寄っていくが、あと五歩というところで我慢できずに
ミカエラはレクストに走り寄り、抱きついてしまった。
「お久しぶりね、レック…」
最後に会ったときに比べ、はるかに引き締まった顔つき、そして自分と同じぐらいある身長。
お互い靴を脱げば、おそらくレクストの方が高いであろう。
そして肩に手を回せば、たくましい肉体が触覚を通じて伝わってくる。
大きな乳房がレクストの胸に押し当てられて形を変え、独特の香水の匂いが広がる。
焦るレクストの顔を見つめながらうなじを撫で上げたところで、もう一人の存在を思い出した。

それはフィオナだった。怪訝そうな顔でこちらを見ているのに気づく。
ミカエラはすぐにレクストから体を離した。
「帝都によく来てくれたわね。従士のお仕事で?悩みがあるなら遠慮なくこの私に相談なさい。
ぜ〜んぶ吐き出しちゃって。何でもチカラになれるから…私にできないことはないのよ」
腕を組んでこぼれそうな乳房を持ち上げるようにして、腰を曲げてポーズを取る。

「あら、そちらの子は…キミのガール・フレンドかしら?」
唐突にフィオナの方を見て近寄りながら話しかけ、そのまま手を取り握手をする。
「まあ…誠実そうな子ね。私はミカエラ・マルブランケ。彼の元教導師…いや、
それ以上の関係と言った方がいいかしら?…そうね、一言話しておきたいんだけど、
彼はあなたには勿体無いわ。折角育ちが良さそうなのに、彼のワルガキが移っちゃう」
クスリ、と少し意地悪な表情を浮かべると、一言付け加えた。
「それは冗談として、彼がお馬鹿な事をしたら、ちゃんと叱ってあげるのよ」
そして、二人を椅子に座らせ、片手で瞬時に温めた器からカップに三人分の茶を注ぐと、
それを勧めてゆっくりと談笑をし始めた。

話が終わると、レクストに改まって話を切り出す。
「ちょっといい?レック…ひとつお願いがあるのだけれど…」
不思議そうな顔をするレクストに、真剣な眼差しで語りかける。
「今日の用事があったら、今晩、ここに一人で来てくれないかしら?
どうしても話しておきたい相談事があるの。お願い」
一瞬だが、ミカエラの目を見たレクストは、何か強力な力によって引き込まれていった。

320 名前:ハスタ ◆fmAKADpWIqWy [sage] 投稿日:2010/01/11(月) 15:07:02 0
>302
―7番ハードル、幌馬車通り―
レクスト達と一旦別れた後、俺は馴染みの花屋に顔を出すために7番ハードルへ移動してきた。
「さて、今年は何の花がいいのかね・・・・・・」

相も変わらず多種多様、雑多な店の立ち並ぶこの通りの人、人、人・・・・・・
流れてくる人を避けながらの思考は、一時中断する羽目になった。
>「スリだぁーーーー!!」
正面、多少遠くから聞こえてくる声にあわせて人ごみの中から何人かが振り返る。
俺も声のした方向に視線をやると、人をすり抜けるようにして誰かが駆けてくる。
普通、こういった状況では人々の中から有志がとっ捕まえるものだが嫌そうな顔をして視線をずらす者が多い

――などと、様子を見ていたら不意に男が自分の殺傷圏内に全力疾走で駆け込んできた。
――故に、条件反射で体は動いてしまっていた。
通りすがりざまに右足で相手の足を払い、宙に浮いた男の顎に右手をそえて
そのまま軽い力で男を仰向けにひっくり返して押さえ込む。

鈍い音と共に石畳の床に叩きつけられた男はうめき声を上げているものの、失神には至らなかったらしい
これが敵なら、脚で頚骨に蹴りを入れてやるところ・・・・・・と、なぜかどす黒い思考を振り払って前を見れば
「・・・・・・あぁ、成る程ね」
周りが手助けを好まない理由はソレだったのか。

おっとり刀で駆けつけてきた少年、本人はバレてないつもりなのかどうなのか
見る者が見ればすぐ上質な物であると分かる衣服を平然と纏って現れたのは
そう、名前までは知らないが確かメニアーチャ家、そこの現当主だ。
――これはまた、厄介な者と関わってしまったか?
そんな内心を殺して、スリを足蹴にして押さえつけながらその少年に伺いを立てる
「さて、このスリが右手に持つ袋の所有者は貴方でよろしいのかな?
 だとすればこれはスリ、つまり窃盗だ。どうなさいます?
 個人的にはこの場で命を絶ってやるのがせめてもの慈悲だと思いますが。」

何を馬鹿な、とでも言いた気な少年・・・・・・やはり世間知らずなのか
「ご存知の通り、貴族の身体・生命・財産に危害を加えた者は従士隊ではなく司法局が預かり
 『厳正な捜査』と『公平な審理』によって重罪を科すのが帝都の法・・・・・・大概の者はその『厳正な捜査』の時点で
 大概が尋問に耐え切れず命を落とすが故に不問に付される。つまり、私が捕まえてしまった時点でこの男に未来はほぼない
 ・・・・・・で、どうなさいます?大貴族の当主殿。」

帝都に住んでいる者ならば誰もが知っている、無自覚に何も知らぬまま不幸を撒くこの少年に
誰かが現実を突きつける必要があるとは思っていた。・・・・・・というのは建前にすぎない
正直ミドルゲイジの辺りからつもりつもっていた心の澱を吐き出したかっただけだ。
突きつけられたこの状況に彼はどう応じるのだろう

321 名前:ジェイド=アレリィ ◆EnCAWNbK2Q [sage] 投稿日:2010/01/11(月) 15:29:19 0
>>306
抱きつく姉に顔を赤らめる俺。
「ごめんよ…姉ちゃん。俺、いつか街に帰ろうと思ってたんだけどさ。
ようやくこの前帰ったら、あんな風だろ?おったまげたぜ。」

「それはそれとして。」
咳払いをして俺の頭を叩いた。
これが恐れていたことだ。俺は前から姉ちゃんには頭が上がらない。
「いって…ごめん。ごめん!悪かったって!」

知り合いらしい従士の方に顔を向けて姉に再び向き直る。
「姉ちゃんはこれからどうすんの?え?詰め所?
奇遇だねぇ」



322 名前:ジェイド=アレリィ ◆EnCAWNbK2Q [sage] 投稿日:2010/01/11(月) 15:33:16 0
「よっ、おひさっしぶり!」

「お、遊び人ジェイド!!」
「変人!!」
「帰って来たのかよ!このヤロー!!」

従士達が俺の顔を見るなり懐かしげな表情で集まってくる。
レクストという従士と姉ちゃんの後を歩きながら
馴染みだった連中と小突き合いながら22番ハードルへ向った。



323 名前:ギルバート ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2010/01/11(月) 16:46:00 0
SPINの転移酔いは大した事はなかった。転移の術式にはもっとヒドイのに出くわした事もある。
確かどこぞの妙な魔法研究者の集まった・・・何やら発音しにくい名前の街だった。
その時の感想と言えば・・・まぁグロい、の一言だろう。
人の体を順に分解していって再度組み上げるような・・・やられる方もだが見る方もたまったものではない。

まぁそんな事はいい。あまり酔わなかった理由はもう一つある。既に気分は最悪だったからだ。
中継駅で感じた気だるさは日を重ねるにつれて程度を増し、今では単純な思考すらもおぼつかなくなっている。
他の連中に悟られない様に振る舞うだけで一苦労だった。
目の前では誰か―――誰か?レクストに決まってる―――が大仰に両腕を広げ―――

「――帝都にようこそ!」
「ミディアムレアで頼む」
「え?」
「・・・・・・何でもない。気にしないでくれ」

隣にいたミアに不審な目を向けられ我に返る。くそっ。何だって言うんだ?
頭がボーっとしてひどく熱い。にも拘らず体は冷えて寒気すら感じる。
風邪?俺が?馬鹿な。だったら何なんだ?

「救える者だけを救って善人気取りか? まったく良いご身分じゃないか。
 救えなくとも魂の安寧を嘯けば、それでお前達に非はないんだからな」

視線を転じると、列車で会ったあのむっつりのメガネがフィオナに何やら食って掛かっている。
そしてそこへ割り込む別の女性。アレもアレリィだったか。

しかし、それら全てを眼に収めながら、ギルバートは動かなかった。
誰しも信念はある。重ねた歳の高さだけ積み上げている。
それに手を出そうと言うのなら、その者にも必要な資格というモノがある。
それは、第三者が手軽に手を出していいモノではない―――かつての自分はそんな事も理解していなかった。

「それに、人サマの家庭事情に口出しても面倒なだけだろ?」

呟いて隣を見る。再度不審な視線。軽く肩をすくめ、ぐしゃぐしゃとミアの頭を撫でる。

「何でもない。俺はちょいと行く所がある。皆とはぐれて迷子になるなよ」

笑ってそう言い残すと、何か言われる前に背を向け、泥のような体を引きずって歩き出した。

324 名前:ギルバート ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2010/01/11(月) 16:48:44 0
皆と別れ、地形を確認しつつ7番ハードルへと向かう。
一人になりたかったのは・・・第一に自分の不調を晒したくなかった。
他人から心配や気遣いを受ける事には慣れていない。まぁ自分で言うのも何だが。
もう一つは、ミアを一人にしてやりたかった。列車では不覚を取ったが、
しかしガキでもないのに隣にべったりというのはどう考えても居心地が悪い。
誰かを守るってのは考える以上に難しいものだ―――

「かわいい子には旅させよ―――ちょいと違うか」

子供か。流石にこの歳であの歳の子供は困る。
くだらない事を考えている内に、無数の人が行きかう大通りへと出ていた。
そう、これだけ人がいるのだ。逆に危険は少ないくらいだ。
心配があるとすれば・・・痴漢にナンパ、それと―――

「スリだぁーーーー!!」
「そう、それ。スリだ。・・・・・・うん?」

顔を上げる。人の流れの中にできた小さな渦。
どちらの顔もこちらに向き、どちらの顔も必死で流れに逆らい向かってくる。
一つはまだ幼さを残した端正な―――上流階級特有の―――顔、
もう一つはそれと対照的な・・・世を呪いながら、かと言って大した努力もせず
半ば惰性で愚行に走る者のスレた顔―――まぁ、自分に言わせればどちらも薄っぺらい顔だ。

面倒だな―――そう思った時、前を歩いていた影が動き、スリを地面に這いつくばらせていた。
知っている顔だった。何とまぁ、今の今まで気づかないとは人の顔を馬鹿にできる所じゃない。

「さて、このスリが右手に持つ袋の所有者は貴方でよろしいのかな?
 だとすればこれはスリ、つまり窃盗だ。どうなさいます?」

ハスタがスリに地面を舐めさせながら、どこか小馬鹿にした調子で問うている。
ああ、こいつは面倒だ。見なかったフリで通り過ぎる事ができれば一番なのに。

「おい、待てよ。たかが窃盗未遂だろ。なんだか知らんがそうカリカリすんなって」

面倒だが仕方ない。言いつつ出て行き、ハスタの足を外して男の襟首を掴んで引き起こす。
かがみこんだ瞬間、一瞬世界が揺れ、体がふらつきかける。くそっ。勘弁しろ。

「んな面倒な事しなくても、腕の一本もへし折って放り出せばいい事だろ。ん?」

次の瞬間、素早く回した腕が男の左腕に巻き付き、ぎりり、と嫌な音が聞こえ、男が悲鳴を上げた。
ちらりと貴族の少年に眼をやり、反応をうかがう。お高くても子供だろ?子供の反応をしろ―――
そうすれば面倒事にならず収まるのだ―――それくらいは利口であってくれ。
胸の内で呟きつつ、さらにもう1cm腕を捻る。男が歯を食いしばり、呻き声を漏らした。

325 名前:マンモン ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2010/01/11(月) 23:59:43 0
「すいません、お嬢さん。少し宜しいかな?」

屈託の無い笑顔を浮かべミアの前に立つ坊主頭の男。
白髪と彫りの深い顔立ちが見る者に強い印象を与える。
マンモンはこの少女があのアルテミシアの生まれ変わりだと
聞いて来た。
無表情でこちらを見る少女を駅舎の裏まで誘う。
訝しげに見ていたが、田舎から来た神殿の衛視だと
伝えると何とか応じてくれた。
「それで、私に何の用?」
マンモンはゆっくりと笑うとミアの肩に手を置いた。
ミアは手を払いのけようとする。
しかし離れない。肩口から白い煙が上がり、それを目の前の
坊主頭の男が蒸気を吸い込むようにしていく。
ミアの体から力が抜け白目を剥く。気を失ったかのようにその場で
倒れ込む寸前。
近くにいた駅員達がミアを抱きかかえる。
「完了だ……後は伝達の通りに彼女を運べ。」

マンモンが口に含んだそれを吐き出す。
小さく光る霧のようなものを瓶にしまい込むと
何事もなかったかのように駅を後にした。

326 名前:マンモン ◆7zZan2bB7s [sage] 本日のレス 投稿日:2010/01/12(火) 00:12:02 0
>>320>>324
「おぉ、これは酷い……」

群集の中を掻き分けるように現れた坊主頭の男。
「窃盗罪は神を裏切る行為です…厳正なる処罰を与えるべき。
―といいたいところだが、ここは私の顔に免じて。」
深遠の月の紋章を見せると辺りの群集から拍手が起こる。
マンモン様と叫び、はしゃぐ子供さえいる。
群集の拍手に応えながら男に手を差し伸べる。
ギルバート、ハスタ、ジースの顔を見てにこやかな笑みを浮かべ
銀の腕輪を見せた。
「ところで……この腕輪だが。つい先ほど駅舎に落ちていたのだ。
持ち主はおられぬかと。」
群集がこぞってそれを取ろうと喧嘩を始める。
誰もが私のだと叫びながら取っ組み合いになってしまう。
「落ち着いてくれ。私は君達に欲を捨てよと説いた筈だ。
嘘は良くない……私には真実が見える。
そうだろ、ギルバート君にハスタ君。
君達は”分かっている”ね。これが何なのか。
あぁ、そうだ……これも落ちていた。近くにね。」

銀の腕輪ともう1つ、白いローブを見せ付ける。
「ギルバート君……君の古い友人からの伝言だ。
また会えるのを楽しみにしている……と。
あとジース様だね。いつも援助を頂き感謝しているよ。」

群集の懺悔の声に後押しされながら男は立ち去っていく。


327 名前:名無しになりきれ[sage] 本日のレス 投稿日:2010/01/12(火) 01:08:16 0
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■ダークファンタジーTRPGスレ 4 【第二期】■
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328 名前:名無しになりきれ[sage うめ] 本日のレス 投稿日:2010/01/12(火) 02:39:57 0

都は魔術と裸の獣で溢れている

たなびく国旗に涙を流す民、足首を同胞の腐肉に埋めたまま

空を仰げば、気づかない



人を信じると人が叫び、人でありたいと人が零した

人を生かすと人が囁き、人を殺めると人が誓った



定めは霧の奥   それでも

祈りが裏切られ、砕けた意志を繋ぐ言葉が失われたとしても   それでも

誰かが望みあるいは否定した何かを  きっと

誰かが失いあるいは、手に入れる


――迫る足音は、渇望と絶望だろうか?








     ――――――To Be Continued.

■ダークファンタジーTRPGスレ 3■

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